マクロスF〜とある昼行灯の日常〜
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【帰ってきた日常】

 

 

 

「シェリル、今度のフロンティア公演の詳しいスケジュールが決まったわよ」

 

「ありがとう、今回もスタッフはいつものメンバー?」

 

「えぇ、でも会場がこの間より規模が小さいし屋内ってこともあるから少なくなるけど。その代わり、向こうの現地スタッフで飛行スタントをしてくれるよう調整したわ」

 

「えっ、それってもしかして…」

 

「ふふっ、残念ながら鉄中尉じゃあ無いわよ。フロンティアが誇る、パイロット養成学校『美星学園』。そこの生徒達がスタントをしてくれるわ」

 

「…そう」

 

 

ふふっ、目に見えてがっかりしてるわね。こうも歳相応の反応されると嬉しくなってくるじゃない。シェリルはこうやって、弱みを他人の前で見せることはしなかったはずなのに。

精神的に弱くなった?とんでもないわ、この少女は良い出会いを経て、尚も成長している段階。

 

私の野望の為とはいえ、利用するのも気が引けてくるけど…止めるつもりは無い。

 

もう事態は動き始めている。ギャラクシー、フロンティアの『協力者』達との段取りも中盤に差し掛かっている。ここで一気に修正しようものなら、目的達成まで大きなロスをしてしまうのは目に見えている。

 

ごめんなさいね、シェリル。

謝れる立場では無いのだけど、謝っておくわ。

束の間の幸せ、充実を感じていなさい。

 

 

「ところでグレイス?」

 

「何かしら?」

 

「今のところの飛行アクション、どういうものかチェックしたいんだけど。今のうちにウチのスタッフと詰めれるところは詰めておきたいし」

 

「えぇ、分かったわ。フロンティア大統領府へ打診してくるから待っててちょうだい」

 

「お願いね」

 

 

良いタイミングでフロンティアとの連絡が取れるわね。

大統領府につなげれば、その合間を使って『彼ら』とも連絡が取れやすいから。

 

さて、こちらも『彼』を使って、『奴ら』の指向を操っておきましょうか。

第1波到達日は…シェリルのコンサート当日。

 

ふふ…私の掌の上で踊ってみせなさい、『役者さん達』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ…」

 

 

オレはTVに齧りつくかのようにモニターを凝視する。

そこには、ルカから借りてきた『シェリル=ノーム・アンドロメダ公演』のDVDの映像が映っている。

 

シェリル=ノームのド迫力のライブ、舞台構成、そして…

 

 

「VFシリーズ…25タイプ、新型なのか。これは」

 

 

シェリルの登場と共に飛行してくるバルキリー。

脚部からの推進は見る限り必要最低限、ギリギリのところで操っている。

あのパイロット…どこの所属なんだろう?

パイロットスーツが絶妙のタイミングで切り離され、僅かだがシェリルの豊満な肉体が映し出され、あっという間にコスチュームチェンジ。

そこから颯爽と退場していくわけだが…ここでもパイロットの腕の高さを思い知らされる。

 

全く、ブレてないんだ。

アンドロメダという宇宙船団と言えど、人工重力装置が働いているのは当然だ。

だとすれば、あんな僅かな推進と速度では重力に引かれて高さが落ちたり、左右にブレたり、最悪エネルギー不足を直そうとして推進を増やしすぎてお粗末な結果が待つこととなる。

 

でも、そんな挙動微塵も感じさせない腕前。

 

 

「…S.M.S.…?」

 

 

バルキリーの機体には、しっかりとロゴが書いてある。

確か、民間軍事プロバイダー会社だったよな。

金で雇われて、腕利きを差し出したってことか。

 

バルキリーが退場して、そこから早送り。

少しでも出てきたら止めてじっくり見ようと思う。

 

……

 

おっ、出てきた…ん?様子がおかしい。

少し前まで巻き戻す。

 

…よく見えなかったが落ちた?後ろの跳躍して配置を変えたのは良かったがステージがせり上がって行った時から体勢を崩し、そして相当な高さから足を滑らせた…これは演出なのか?

だとしたら、このシェリルってヤツ、相当な演技派だな。

表情が強張って、正に絶望感を醸し出しているのが分かる。

 

オレも演技から離れたとはいえ、これくらいは分かるくらいの経験は積んできている。

これは十中八九、アクシデントだ。

だとしたら、このバルキリーの登場は早すぎないか?

あらかじめ、こういう演出だったのかもしれないな。

セットがせり上がっていき、頂上に行き着きついてから落ちるって段取りだったのかもな。

良く分からないが。

 

 

「あれは…」

 

 

ネット?多重に展開されたネットが、シェリルの下に上手く広がっている。

しかも、万が一取りこぼさないように時間差でその斜め下にも展開しているとは…

 

バルキリーの方は?

 

 

「何?」

 

 

パイロットがバルキリーから自分自身をパージ、受け止めた…?

しかも、これ以上無いドンピシャなタイミング。

一度、シェリルがネットの上に乗り、跳ね返る。それによって落下スピードがゼロにまで下がり、再び緩やかに落ちようとした時。

 

こうまで簡単にタイミングを計れるのか?

S.M.S.って所はこんな連中が沢山屯っているってわけか?

 

演出は続く。

パイロットがバルキリーに向けて手を翳す。

EXギアでもやったことがあるが、あれは搭乗機に対して何かしらの指令を送っている。恐らくだが。

そして…シェリルもそれに習い、手を翳す。

 

ほんの数秒。

たったそれだけの演出。これが神々しいシーンを作り出しているのか。

その後に続く、歌のタイトル、そして歌詞。

まさに逆境を乗り越えてからの華々しい活躍を歌っていて、この前演出がこの上ない味を出している。

 

…演目、か。

 

オレも、早乙女家の嫡男として幼いころから歌舞伎の稽古を積んできた。

そんなオレが、敗北感を味わっている。

 

美星学園パイロット科では、ミハエルに常に負け続け万年の2番手。

そして、止めたはずの歌舞伎…いや、演目演出では同じ意味を持つが、これでも止めてしまった事への敗北感。逃げてしまったと、心のどこかで考えているのかもしれない。

 

ぎゅっと、拳を握り締める。

 

どこに行っても、オレは中途半端だ。

どうすればいい?

どうすれば、オレのこの葛藤は解決できる?

だが、全てを解決したとして、オレにとっての自由な空は?

 

 

「ちっ…」

 

 

これ以上考えたところで、オレに何ができるって訳でも無い。

とにかく、このシェリルとやらのコンサートでのアクションに専念しよう。

ミハエルが提案してきた構成を、オレ流にアレンジして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ…!」

 

 

だ、ダイチの野郎…!最後の最後に、バルキリーの性能の一端を晒しやがった!

VF−25はまだ新統合軍でも未配備なんだぞ?

仮作成された機体の下請け・テストをオレ達がやり、そのテストによって分かった調整事項を具申してそこを修正、改めて商品として出すのが基本的な流れ。

だが、こうやって民間に広がったDVDで秘匿しようとしていた技術が出回っちまった…

パイロットパージ、そして再接続は25からだしな…やれやれ、これは企業から何て文句を言われることやら。

 

 

「ん?」

 

 

噂をすれば、とやらだ。ダイチの野郎からメールが届いてやがる…ん?

容量が多いな、何かを添付してやがんのか?

 

 

「お」

 

 

…ったく。ダイチも律儀なこった。

ランカがシェリルの大ファンだってのを知ってて、こうやって粋な贈り物をしやがる。

 

 

『シェリル=ノーム』コンサートチケット電子ver。

確かに、オレはランカから確保を頼まれていたが…これをオレからと贈っていいものやら。

…後に何か書いてやがるな。

 

 

『オズマのことだからオレの名前出すか出さないか考えているだろ?ここは兄貴のお前から贈ってやってくんな。兄妹での話題は多いほうが良いだろうしな。じゃ、明日またラウンジで』

 

 

お膳立ては完了ってか?

悪いな、ダイチ。この借りは必ず返す。

ランカに代わって礼を言う。

 

 

だが、機能公開の件については自分で艦長に釈明するこったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スネーク2からフロンティアへ。出張任務終了につき帰隊した。メインバリア開放頼む」

 

『認証確認。お疲れ様でした、鉄中尉。貴方の活躍はアンドロメダ大統領府より伺っています。D−3コースを通り、発着場へ行ってください』

 

「了解」

 

 

やれやれ、4度のフォールドを終えてようやく帰り着いたか。アンドロメダに行く時のアクシデントのせいか、のんびり自動操縦で帰るってのが出来なかったのは痛ぇ。マジ眠ぃし。

ま、クォーターに再接続してからこれからの予定を考えるとするか。

ん?

 

こっちに手を振ってるのがいるな…誰だ?

 

あれは…ランカちゃんじゃねぇの。あれ、オレ帰る日付教えてたっけ?

まぁオズマあたりから聞いたんだろう、制服姿じゃなくて私服でのお出迎えたぁ嬉しいじゃねぇの。後でイイコイイコしてやろうかね。…ん?学校は?

 

 

『ピッ』

 

『ダイチ、ようやく帰ってきたか』

 

おろ、オズマがモニター通信してきやがった。ジャケット着てるってことは今クォーターにいるんか?

 

「よっす、久しぶり。何とか無事に帰ってこれたわ」

 

『当たり前だ、そのくらい簡単にできるくらいの訓練はしてきたつもりだからな』

 

「うへぇ…」

 

 

やれやれ、これからまたあの訓練漬けの日々が始まるわけだな。ちったぁ手加減てもんをだな。

 

『話は変わるがダイチ、シェリルとやらのコンサートの件で艦長からの呼び出しがあったぞ。着陸し次第向かえ』

 

「ん?何かあったっけ」

 

オレ何か問題起こしたっけ?あぁ、向こうのお偉いさん飲ませ潰してキャバクラに放置してきたんがバレたか?

 

『オレが知るか。とにかく、すぐにだぞ』

 

「あいよ、了解」

 

 

ったく、帰って早々説教とか勘弁してほしいんだがよ。

あ。

 

「ジェシカのことすっかり忘れてた…どうしよ」

 

 

ある意味、艦長よりも怖ぇしな。触らぬ神に…てやつだ。

何とか拝み倒して許してもらうっきゃ無ぇ。

 

何とかなんねぇかな〜…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイチさん!」

 

私は急いで駆け寄る。S.M.Sの隊舎から出てくる人影。それは見間違うことの無い人だったから。

 

「おっ、久しぶりランカちゃん。元気してたか?」

 

「うん!もちろんだよ」

 

 

あぅ、頭撫でながら微笑まれたら私…顔、赤くなってないかな?

 

「ほら、アンドロメダでのお土産だ。ぬいぐるみばっかで悪ぃけど勘弁な」

 

そう言って、ダイチさんが私に差し出してきたのはネコのぬいぐるみ。

前右足で顔を掻いてるような、そんなしぐさのぬいぐるみ。可愛い…

 

「ううん、すっごく嬉しい!アリガトね、ダイチさん」

 

「そっか、喜んでくれて良かった」

 

 

私はお土産だけが嬉しいんじゃないってこと、ダイチさんちゃんと分かってるのかな?

こうやって、いつもと変わらない笑顔で私を見ててくれる。

優しく、頭を撫でてくれる。

 

…子ども扱いって言うか、まるで妹に対しているかのような態度を取られる時、少しムッてなっちゃうけど、そこは数年後の私に期待ってとこだよね?だってゼントランのクランさんだってゼントラン化すればあんな魅力たっぷりの体型になるんだし、クォーターの私にも可能性はあるはず!うん、きっとそうだよ。

 

 

「どしたん?何か考えちゃって。悩みでもあるんか?」

 

「え、う、ううん、何でもないよ。それよりダイチさん、今日これから予定でもあるの?」

 

そう、これを聞いておかないと。

 

「あぁ、今から同じ小隊の奴とか同僚とかと飲み行くんだ」

 

「そっかぁ…」

 

むぅ、ちょっと残念。

せっかく色々お話したかったのに…

 

「お詫びと言っちゃあなんだがよ、ランカちゃんオレと一緒に帰らねぇ?同じ方向にアパートあるんだし良かったら送ってくぜ?」

 

 

…うん、やっぱりダイチさんてば優しいんだから。私がして欲しいこと、すぐに分かってくれる。

お兄ちゃんからしたら『甘やかしてる』っていつも言われてるんだけど、これは女性に対する気遣いって言うんだよ?

 

私の返事はもちろん、

 

「うん!じゃあ一緒に帰ろ?いろいろお話し聞かせてね」

 

満面の笑顔でYES一択だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でよ、最後はブワァ〜ッと退場していったわけだ」

 

「うんうん!やっぱりダイチさんて凄いね!」

 

 

ランカちゃんと一緒に帰る時間。コレはオレの癒しの時間でもある。

キツイこと言われ、激しい訓練を終えて心身共にクタクタになったオレを癒してくれる。

 

「ダイチさん」

 

「ん?」

 

「えへへ、何でもない」

 

 

笑顔を絶やさないランカちゃん。オレの前では特にそうだ。

あの10年前から少しずつ…変わってきた。

あの頃はオレも人間関係で疲れていた時。はっきり言って6歳の女の子にかまけているヒマと余裕なんざ無かったわけだ。いっぱいいっぱいだったしな。

だけどよ、オズマの野郎がオレ達を無理矢理引き合わせて…

会ってあの子の表情を見て、あの時オレ思ったんだよな。

 

オレって何て小っちぇえ事で悩んでんだよって。

 

6歳にして天涯孤独になったランカちゃんに比べりゃあ、オレなんざ恵まれてるほうだろ。

それに気づいてからは色々と話して、食事作ったり話しかけたりして、たまにオズマと馬鹿やったりしてランカちゃんに少しずつ笑顔が戻ってきて…

 

あの時、他人からはオレがランカちゃんを世話してたように見えてたはずだが、実際違う。あの頃から今に至るまで、オレがお世話になってる状態だ。こうやって癒しを貰って、な。

 

だからこそ。

 

オレはオレの全てを以って恩返しをする。

ランカちゃんはもちろん、引き合わせてくれたオズマ、そして新しい居場所を作ってくれたジェフリーの旦那を始めとしたS.M.Sの連中…

 

今、こうして平和な時を楽しめているのはみんなのお陰だ。

 

こいつらの為ならオレは…

 

 

「ダイチさん?」

 

「…ん?おぉ、悪ぃ、ランカちゃん。ちっとばっかボーッとしてたわ」

 

「う〜ん、やっぱり出張任務から帰ってきたばかりで疲れてるんだよね。あんまりお酒飲みすぎちゃダメだよ?」

 

「あぁ、分かってるさ。アリガトな、ランカちゃん」

 

「うにゅう…」

 

 

ははっ、ランカちゃんの頭を撫で回すと良い反応が返ってくるな。

この笑顔、絶対に守る。

 

改めて認識した。

オレはこの為にS.M.Sに入ったのだと。

 

説明
フロンティアへと帰ってきたダイチ。ほのぼの日常が再び始まった。


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マクロスF ときどきシリアス ほのぼの コメディ 主人公←複数? 友情 戦争 歳の差? 

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