双子物語-42話-夏休み4「母の過去編1」
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【彩菜】

 

 夜中、静まった空気の中。私はトイレに向かう途中すれ違った部屋に灯りが

ついていたから、気になってちょっと顔を出してみるとそこには杯を

交わしている大人たちが静かに話しをして楽しそうにしていた。

 

「あれ、彩菜。寝てないの?」

「あ、うん。母さんたちは何してるの」

 

 母さんはもちろん、父さんやサブちゃん。おじいちゃんに県先生がいて・・・。

そういえば、いつの間に先生はここにいたのだろうとちょっと不思議な感じがした。

 

「あぁ、昔話していたのよ。お父さんと出会う前のやんちゃだった時の話〜」

 

 自分の親とはいえ、お酒に酔って無邪気な表情を向けられると一瞬ドキッとする

ような可愛さがある。日本酒を注ぎながら、ちびちびといっている。

 

 すっかり出来上がっているせいなのだろうけど。

 

「へぇ、気になるなぁ。昔の母さん」

「じゃあ、一緒に聞いてく? いやぁ、静雄に出会わなかったらあんたら生まれて

こなかったかもねえ」

 

 という怖いことを笑いながら言うのだから、肝が強いというか何というか。

 

「お嬢、いつも死と隣り合わせでしたもんね」

「ね〜♪」

 

「何か日常会話に聞こえないんだけど」

 

 苦笑いしながら父さんとサブちゃんの間に座って酔っ払いの話を聞くことにした。

ずっと先輩と春花に引っ張られてる状況だったから、息抜きにはちょうどよかった。

 

 かるーい口調で話し始めるから、どんな和む内容かと思ったら。

とんでもないほど凄惨なことをこの母は行っていることがわかった。

それこそ犯罪ぐらいの・・・いや、犯罪だろうけど。

 

 そんな話をみんなで楽しくやりながら酒を酌み交わしていた。

 

「あんたもいる?」

「私、高校生なんですけど」

 

 まさか未成年に酒を勧めてくる親がいるとは。まぁ、私もそんな礼儀正しい人生も

性格もしてないから、初めてのお酒を嗜んでみましょうか。

 

「今日くらいはいいじゃない」

「ん、まあね」

 

 そうして、強めの日本酒を口にして早くも酔いが回ってふわふわした気分の中で

母が語っていた話の一部が映像となり映っていた。

それは想像だったのか、夢だったのかは定かではなかった。

 

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【菜々子】

 

 血の匂いがこびりついた地下の部屋。

 

 暗闇の中で躍動した黒髪がサラッと降りた。

 

 不揃いで分け目無し、肩にかからないくらいの長さの髪にセーラー服姿。

白いソックスとローファーという、それはやや古そうな出で立ちの女子高生だった。

 

 床には血まみれの男女が蹲り、呻きながら苦しんでいるのを彼女は

今から踏み潰す虫を見るような目つきで人間たちを見つめていた。

 

 ここは警察の手から隠れた、違法の取引や博打を行うのに適した場所である。

最低限の環境だけを揃えているだけの簡素な部屋だった。

 

 むせ返るような血の匂い。

 

「フンッ」

 

 大金とあるモノを賭けた大勝負で挑戦者は悉く返り討ちに会っていた。

 

「グッバイ〜」

 

 パンッ!

 

 手にした拳銃からは一欠けらの躊躇もなく弾を放たれ、苦しんでいた人間はその一瞬で

動かなくなる。まるで人形のように。

 

「こんなもののために、よくもまぁ。次々と勝負したがるものね」

「お嬢・・・」

 

「三郎・・・? どうしたの?」

 

 私の部下である、三郎が表情に出さずも狼狽える様子で私を見ていた。

雰囲気からして警察に嗅ぎつかれたわけでもなさそうだけれど。

 

「こんなことやめませんか・・・?」

「あら、どうして?」

 

「どうしてお嬢の命をかけてまでこんなことするんです」

 

 そう、勝ち続けていたからすっかり忘れていたけれど。互いの命をかけた勝負で

私を殺せたら大金を挑戦者に渡すという内容のものだった。

 

「生きていたくないからよ」

 

 言葉通り生きていても何も感じない世界だから私は死に急いでいる。

それを誰にも理解されないから私の独断でこんな血生臭いイベントを催しているのだが。

 

「誰も私を殺してはくれなかったわね」

 

 正直、私はもう疲れた。何をしても満たされない、達成されない。

こんな無謀なゲームをしても、誰も私を救ってはくれないのだ。

 

「お嬢・・・!頼むから、正気に戻ってくだせえ!」

「十分正気よ。ただ、絶望しか見えないからそう言ってるだけ」

 

 嫌ならついてこなくてもいいのよって私は続けて言うと、彼は頑なにそれを

拒んだ。鬱陶しいヤツだ。頼んでもいないのに、私にまとわりついてくる。

 

 純粋なほどに生死に対して拘っている男だ。カタギの世界じゃまともだろうが

こっちの世界では通用しないよ。だから、私はこいつに圧力をかけた。

 

 そうすれば逃げ帰って親父の下につけばいい。その方が三郎のためでもあるんだ。

 

「お嬢・・・!」

 

 胸倉を掴んで野獣のような目つきで三郎をにらみつけて叫んだ。

 

「だったら、お前が私を殺してくれるんだろうな!」

 

 生きるのに疲れてぴりぴりしている。周りに八つ当たりするのもいいが、

それだと親父がこれまでに頑張ってきた地域との交流が完全に無いものにされてしまう。

私は知り合いに迷惑がかかるのだけは避けたかった。

 

 だけど、それももう限界だ。私にそれだけちょっかいをかけるということは。

この男にはそれだけの覚悟があると信じていたから。ずっと私の傍にいるのだから

私の言っていることはわかってくれてるだろう。

 

 だが、その場所は帰り途中のビル間の裏路地だったせいなのか。

外の連中にこの声が聞こえてしまっていたのか、一人の知らない男が私達の前に

現れた。

 

「何だか物騒な話してるじゃないの」

「何だ、てめえは」

 

 私は三郎に掴んでいた手を放してその男の方をにらみつけた。

一瞬怯んだように見えた表情もすぐ好奇心へと目の色が変わっていた。

 

「へぇ、そのおっかないお兄さんに脅されてたんじゃなくて、逆なんだ」

 

 ・・・。何か・・・関心されてしまった。私にはバカにされてるようにしか

見えない反応だから今度はその男の胸倉を掴み上げると慌てる様子で叫んだ。

 

「バカにしてんのか、お前」

「わぁぁ、暴力反対! ね、そこのお兄さんも!」

「お嬢・・・」

 

「チッ・・・!」

「そうそう、平穏にいきましょう」

 

 表情こそやや隠れ気味だったが、軽い口調の男は手を放すと調子のいいことを

言ってきた。

 

「帰るぞ、三郎」

「へ、へい!」

 

 すっかりケチがついた。今日こそ死ねる気分だったというのに。

だけど、今思えばこれが私の人生の分岐だったのかもしれなかった。

 

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 その日以来、私は若い衆に常に見張られることになっていた。

私がする、これ以上の勝手はさすがに親父も怖かったのだろう。

三郎もやや私につくペースが減ったのも、私情を挟んで甘やかさないためだろう。

 

 親父たちと違って私の群れには人は怖がるように避けている。

それはそうだ、明らかに殺気を放っているからね。学校も肩身が狭くて

ロクに行けたもんじゃなかった。

 

「あれぇ、この間のお嬢さん!?」

 

 その時、一人だけ情けなく緩んだ表情で私に近づいてくる男がいた。

前は暗くてよくわからなかったが、銀髪で胸元が見え隠れしている、

やや派手な服装をしていた。

 

「なんだ、お前チンピラだったのか」

「いや、チンピラじゃないよ!なに、俺そんな格好してる!?」

 

 自分の服とかチラチラ見やりながら慌てる素振りをする謎の男。

その後、思い出したかのようにもう一度私に向き直って改めて声をかけてきた。

 

「そうだ、ちょっと今日付き合って欲しいんだけど」

「はぁ?」

 

 突拍子もないことを言い出す男に私の周りにいた若い衆たちも警戒心むき出しになる。

 

「おい、貴様。お嬢に手を出そうってんじゃないだろうな」

「あ、あれ・・・。この怖い人たちって君の連れ?」

 

「てめえ!」

「やめろ」

 

 悪気はないのだろうが、相手への挑発行為ともとれるその言動で衝動的に動こうとした

取り巻きを私の一言でピタリと止める。私の怖さはこいつらもよく知っているはずだ。

 

「お嬢・・・はっ・・・」

 

 言って私の後ろに戻る部下達。だけど、一瞬怖がった割には男はまだしつこく

私に食いついてくる。

 

「はは、助かったよ」

「別にお前を守るためじゃないよ。親父の苦労が水の泡になるのが嫌なだけさ」

 

「? よくわからないけど。俺の話聞いてくれてるってことでいいのかな?」

「はぁ・・・。何でそんなことになるんだ」

 

 正直強引なヤツだと思った。乱暴されなければ、了承されたものと思うのだろうか。

私としてはただ無駄な面倒事は起こしたくなかっただけなのだが。

 

 この男は人懐っこい表情で私のことを見つめていた。

 

「ちょっとでいいよ。君と遊んでみたいんだ」

「それでどうして、私がついていくと思ってるんだ」

 

「いやぁ、気になっちゃって。何か前みたいに怖いことするんじゃないかってね。

後人生も楽しんでないって気がしてね。それって寂しいじゃん」

「全部推測の域を出ていないし、かなり勝手な解釈だが」

 

 だが、他人にここまでしつこくまとわりつかれるのは久しぶりで私としても

若干興味は湧いてきた。ここまでして逃げない辺り、中身はけっこう図太そうに見える。

 

「しょうがないな、少しだけだぞ」

「お嬢・・・!勝手をされては困ります」

 

「大丈夫よ、別に私を狙ってるわけでもなさそうだし。

それにいざとなってもこの程度のやつだったら返り討ちにできるわ」

「で、ですが・・・」

 

「一度きりだろうし、これから付きまとわれるよりマシでしょう」

 

 そこまで言われると部下達は言う言葉を失って、黙って私を見つめていた。

ただ突っ立って居られても迷惑だから私は一言喝を唱えた。

 

「散れ!」

「は、はい!」

 

「けっこうノリいいじゃん。俺そういうのけっこう好き」

「別に好きにならなくてもけっこう」

 

「手厳しいなぁ」

 

 そういうと男はこっちだ。と、手招きをするとそこそこ立派な赤色の乗用車が

視界に入る。

 

「俺の車、ちょっとドライブしない?」

「わかったわ」

 

 まさか車に乗せられるとは思わなかったから、一瞬躊躇ったが。

相手があまりに無邪気そうに微笑んでいるから私は素直に車の助手席に座ったのだ。

 

 どこへ行くのかとボーっとしながら周りを見ていたら、隣町のある駐車場に止められて

誘われた場所は。

 

「ゲームセンター?」

「おう、来たことない?」

 

「ないわね」

 

 子供じみた場所だってことは親父から聞いていたけど、けっこう賑やかしいとこなのね。

ちょうど帰りの時間帯なのか、子供も大人もゲームを夢中でやっていた。

 

 何とも思わなかったけど、男が手招きをして私はその場所に歩いていくとゾンビが

画面に向かってくるものであった。

 

「ほれ」

 

 何の説明もなく渡されたのは銃。拳銃くらいの大きさだろうか、これくらいなら

使ったことはあるが・・・もちろん本物で。

 

「へぇ、おもちゃの割にはいい感じね」

「あとは、その銃で向かってくる敵に向かって引き金を引くだけさ」

 

「簡単じゃない」

「そうかな、そう思い通りにはいかないと思うぞ」

 

「言ってくれるじゃない」

 

 こちとら本物を使いこなしているから、素人相手には余裕だと思っていたし。

実際、順調に敵を銃殺していってはいたのだが。

 

 本来は協力していっていくゲームだけど、個人個人にスコアが表示されてるため

どっちが多く点を取れるか争うこともできるようだ。

 

 私は最初から協力する気はなく、彼も同じ気持ちだったのか。私の姿やスコアを

見て少しずつ本気になっていった。

 

 だんだんとお互いのことなんて見てられないほどの激戦を繰り広げ、後ろに見物してる

奴らなのか、気配が濃厚になってきていた。

 

 その結果。

 

「俺の勝ちだね」

「・・・」

 

 負けた。今までどんなものでも負けたことのない私が、こんなゲームで負けてしまった。

今まで忘れていた感情が沸々と湧き出てきた。

 

「こんなゲームごときで・・・」

「悔しい?」

 

 私も相当な負けず嫌いだ。負けたことをゲームのせいにしようとして。

でも、男の一言で素直に頷くことができた。

 

「うん・・・」

「ははっ、一つ生きてる実感が持てたな」

 

「え?」

「最初会った時に、生きるってことを見出せなかったようなことを言ってたからな」

 

 それが頭に残って離れなかった。と、ゲームの台から降りた男は私に手を

差し伸ばしてきた。

 

「悔しいって思えることも、生きている実感の一つだな」

 

 そう、私に笑いかけていた。

それと同時に何かに対しての歓声が沸いていた。

 

 ゲームから離れていた私は振り返ると二人のスコアが揃って1位2位と並んでいたのだ。

その時、何か不思議なものを私は感じ取っていたような気がした。

 

「家はここでいい?」

「ああ・・・」

 

 男は車で家の門まで送ってくれた。私は途中で降ろしてくれてもいいと

しつこく言ったのだが、この男にとっては誘ったのは自分なんだから

これくらいするのは当然だと言っていた。

 

「じゃあな」

「うん、また今度」

 

「え、また今度って・・・!?」

 

 私の質問が聞こえたのか聞こえなかったのか、返事を出さずにそのまま車を出して

走り去ってしまった。

 

 何だか慌しい一日だった。

 

 だけど、ここ数年の間で味わったことのない感覚が胸の内にあった。

 

 この感情は何て言うのだろうか。

 

 まぁ、あの男とは次会うことはあるまい。

 

 そう言い聞かせて私は夜中、冷たい空気に晒されながら。

玄関のドアを叩いて中へと入っていった。

 

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「ん・・・?」

 

 語り終わったらいつの間にか、みんな畳の上でうとうとしていたり、眠ったりしていた。

私もどこまでちゃんと口に出して喋っていたか覚えていない。

 

「まぁいいか。それにしても・・・」

 

 そんなとこで寝てると風邪引いちゃうじゃないって呟きながら私は押入れから毛布を

取り出して一人一人にかけてあげた。最後の一人に私の父にかけると、寝ぼけてるのか。

 

「菜々子・・・ワシの後を継いでくれぇ」

 

 それは私が一番やさぐれていた高校生の頃から私に言ってきた言葉だった。

昔は自分のことでいっぱいだったけど、今ではわかる気がする。

 

 人数もそれなりに多くてまとめるのが大変そうで、なおかつ周囲に溶け込む

努力をし続けている。年を重ねてきた父にはどんどんと辛くなっていくことだろう。

 

 でも、今の私にはそれに応えることができない。

 

「子供が卒業したら考えてみようかな」

 

 あんなに大きく見えた父の姿がやや小さく感じたこともあってか。

私は本気で組のことを少しずつでも考えていくことにした。

 

説明
実はこれまでは双子の周囲(親中心)はほとんど設定がうろ覚えで苗字すら曖昧でした。ここで一応決めておきたいので、菜々子の旧姓は「山口」としておきます。なので組の名前も「山口」です。百合からは離れてしまいますが仕方ないですね←   本来は別のシリーズとして描きたかった過去編でしたが、グロくなる上に書いていて病みそうなので淡々と語る思い出風にしてみました。新しいのやる余裕もないですしね。
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