Masked Rider in Nanoha 五十一話 憎悪
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 ライダー達と邪眼の戦いは激しいものだった。シャドームーンと同等の力を得た邪眼は能力だけで言えばRXと互角。更に元々の能力がそこへ加わっているため、その場の誰よりも強かった。苦戦するクウガ達を見たなのは達はその援護をしようとしたのだが、とある事情で軒並み無力化されていたため、それが出来ずにいた。

 そう、邪眼が何かの操作を行ったためかゆりかご内に強力なAMFが発生したのだ。ユニゾンさえ解除される程のその中では、さしものなのは達であっても魔法の行使は出来なかった。だが、スバルとギンガのナカジマ姉妹やヴァルキリーズは戦闘機人としての特性を生かして援護を試みていた。

 

 しかし、ヴァルキリーズもクウガ達の戦いに参加する事は厳しいというしかなかった。シャドームーンの能力を得た邪眼は、両手から電撃以外に緑色の破壊光線を放つ事も出来るようになっていて、その気になれば空間転移までやってのける。その力の前に対抗出来たのは仮面ライダー四人のみだったため、邪眼との戦いを彼らに託し、彼女達は身を守る事も難しいなのは達を護衛するしかなかったのだ。

 

「くっ……本当にシャドームーンと同じ能力を得ているのか」

 

 RXは邪眼と直接対峙し、嫌悪感と焦燥感を合わせた声で呟く。BLACKだった頃もRXとなった時も苦しめられた相手の強さをまざまざと思い出して。だが、今はその時と違い仲間のライダーが三人もいる。それにも関らず苦戦しているのだ。

 その要因はRXにも分かっている。なのは達の存在だ。魔法を使えない状態では自分の身を守る事さえ出来ないため、邪眼の攻撃に晒される度に自分達の誰かが守りに入る。時には全員でそれをしなければならない時もあり、徐々にだがダメージを負わされていたのだ。

 

 しかもRXが回復が出来るようにと天井を崩そうとすると、必ずといっていい程邪眼の妨害が入る。先程の戦いでのデータが邪眼へ送られているという何よりの証拠だ。ダメージが蓄積していくのを感じながらもRXは懸命に邪眼へ立ち向かう。その視線の先には龍騎とアギトが邪眼の攻撃からなのは達を守っている。

 

(ちくしょう! みんなが集まるのを待ってたのはこのためかっ!)

(最初からはやてちゃん達を無力化して、俺達の枷にするつもりだったんだ!)

 

 邪眼の破壊光線を手にしたドラグブレードで防ぐ龍騎とシャイニングカリバーで弾くアギト。その心境は怒りと悔しさに満ちている。その後方には、悔しさを表情に押し出しながら身動きの取れないなのは達がいた。出来る事ならここから脱出して欲しい。しかし、そうすると邪眼が空間転移を使ってなのは達へ何をするか分からないし、最悪ゆりかごを墜落させて地上へ大きな被害を与える事にもなりかねない。そう考え、二人は手にした武器へ力を込める。

 

 既に護衛のナカジマ姉妹とヴァルキリーズに疲れが出始めており、偽物達との戦いもあって少なからずライダー四人も疲弊している。このままでは邪眼に押し切られると誰もが思いながらも、誰も、特にライダー達は諦めてはいなかった。それは、今も主体となって戦うクウガの言葉がそのまま理由だった。

 

「クウガよ、我に勝てる方法を教えてやる。それは、後ろの足手まとい共を見捨てる事だ」

「そんな事はない! なのはちゃん達がいるから俺達は今日まで戦えた! 今だって、魔法が使えなくても俺達と一緒に戦ってくれてる!」

「馬鹿な事を……。魔法の使えない者達が戦える訳はない。存在価値のないものに生きる意味はないのだ」

「違うっ! それは誰かが決める事じゃないし、決めていいものじゃない!」

 

 邪眼のエルボーを受け止め、クウガはお返しとばかりに拳を放つ。それを残った片手で叩き落し、邪眼は即座に蹴りを放った。それを喰らいクウガが軽く下がるが、それと入れ替わるようにRXが邪眼へと挑む。その蹴りを捌く邪眼だが狙っていたクウガへの追撃は出来ずに終わる。RXが攻撃している間に体勢を整えたからだ。それでも邪眼は焦りを感じる事さえなく、つまらなそうに鼻を鳴らすとRXへ攻撃を再開した。

 

 邪眼とクウガ達の戦う様を見つめ、なのは達は揃って言葉がなかった。クウガが告げた内容。それが嬉しく思う反面、それに応える力がない事が悔しくもあったために。

 

「五代さん……っ!」

「何とかAMFを無効化出来れば……」

 

 なのはが流れそうになる涙を堪え、小さく五代の名を呼ぶ。心だけは共にあろう。その気持ちをクウガ達が感じ取ってくれている事を悟ったのだ。そんな噛み締めるようななのはの声を聞き、フェイトは現状を打破出来る一番の方法を考える。魔法が使えなくても共に戦う事。それはそういう事だと考えて。

 するとフェイトの言葉を聞いたウーノがすぐにある事を思い出す。それは、現在も外の空戦魔導師達を援護しているガジェットの存在。それを集結させれば、このAMFを無効化ないし弱体化出来るはずと思いついて。それをクアットロとオットーも思いついたのか、三人はすぐに互いへ視線を向けるとガジェットを制御しゆりかご内部へ来るように操作する。

 

「今、ガジェットを誘導しているわ。でも、おそらくAMFへ干渉出来るのは長くないはずよ」

「干渉出来るのなら十分や。少しでも時間を作ってくれるだけでな」

 

 ウーノの言葉にはやてはそう真剣な眼差しで返し、周囲へ視線を動かす。それだけで、全員がはやての言わんとしている事に気付き無言で頷いた。クウガが言った魔法が使えないでも戦う。それは気持ちを決して折らない事。最後の最後まで諦めず、希望を持ち続ける事。

 それを噛み締め、誰もがこのままで終わりたくはないと思っていたのだ。今も目の前で邪眼の攻撃から身を挺して守ってくれているライダー達。その背中を守るためにも。そしてその隣へ並び立つためにも。

 

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「ギン姉、ティア、エリオ、キャロ……私達でクウガを助けよう。私とギン姉で邪眼の周囲を走り回ってクウガの援護ね」

「分かったわ。その隙にティアナはクウガへ接触して」

「クロスミラージュを片方渡して武器にしてもらうため、ですね。なら、アタシが残った魔力で幻影を出して支援役へ回ります」

「僕は邪眼の電撃を魔法で相殺しつつ高速移動でそのお手伝いをします」

「じゃ、私は状況に応じてブースト魔法を使っていきます」

 

 各自のするべき事を頷き合うスバル達。そんな風に五人が反撃の打ち合わせをする中、その隣ではシグナム達がアギト援護の打ち合わせをしていた。

 

「我々はアギトの援護だ。まずシャマルの魔法でライダー達を回復させるぞ」

「任せて。それが終わり次第後方支援へ回るわ」

「うし、あたしとシグナムでその時間を作るとすっか」

「ならばその間のシャマル達の守りは任せてもらおう。邪眼の攻撃を全て防ぎ切ってみせる」

「リインもシャマルのお手伝いするですよ」

 

 守護騎士として、そして家族としてアギトを助けようとシグナムが締め括る。その言葉にヴィータ達も頷いた。同じように当然ヴァルキリーズも龍騎を助けるための段取りを話し出している。

 

「私達は龍騎ね。でもガジェット制御中の私達を護衛してもらいたいから人数を割り振りましょう」

「全員では些か数が多いからな。龍騎の援護は私が先陣を切ろう」

 

 ウーノの言葉にトーレが同意し己の決意を示す。その目には邪眼への逆襲を待つように闘志が燃え盛っていた。

 

「私やオットーちゃんも碌に動けませんからねぇ。攻撃力に難のあるドゥーエお姉様は護衛確定かしら?」

「そうね。ま、ウーノよりは私の方が打たれ強いでしょうし」

「私とウェンディもだ。シェルコートやライディングボードで盾代わりになってもいいからな」

「賛成ッス。望むところッスよ」

 

 チンクの言葉にウェンディが凛々しい表情で応じる。

 

「あたしは邪眼の隙を突いて地面に沈めてみるよ」

「私はトーレ姉上と共に攻撃ですね」

 

 セインとセッテは軽く拳を握り、そう凛々しく告げた。

 

「ガジェットが安定するまでは僕やクアットロ姉様はISを使えない。出来るだけ早く戦線復帰するつもりだけど気を付けて」

「おう、それまでアタシらがしっかり守ってやるさ。ヴァルキリーズが息を合わせりゃ負けはねえ」

 

 オットーを安心させるようにノーヴェが力強い口調で言い切った。それに全員が頷きを返す。

 

「あたしは護衛と援護両方に回るよ。そういう役割も必要だろうし」

「そうですね。ライダーの頑張りに何としても応えましょう」

 

 ディードの締め括りにもう一度全員が頷いた。ただ一人アギトだけが悔しそうにしている。今の彼女はもう戦う力のほとんどを残していないために。ユニゾンした際に魔力を使いすぎた事もあり、もう出来る事は残されていないに近い。それでも自分は何か出来るはずだ。そう思ってアギトはその悔しさを口に出す事はない。その代わりに告げたのは己がロードの気持ち。

 

「絶対に諦めないかんな!」

 

 そんなアギトの言葉に真司を感じて、ヴァルキリーズは笑みを浮かべながら決意を新たにする。なのは達三人も、そんな周囲と気持ちを同じくするように自分達が援護すべき相手を見つめていた。

 

「RXは太陽さえ差し込んでいれば無敵……」

「でも、もう邪眼もそれを知っているから絶対に天井を破壊させないようにしてる」

「せや。だからわたし達が代わりに動いて太陽が見れるようにしよか」

 

 三人はそう言い合って決意を固める。魔法が使えない今、自分達が出来る戦いは使えるようになった時の事を考える事。数少ない時間。それを絶対に逃さないようにするために。なのは達がそうして反撃の機会を窺う中、ライダー達と邪眼の戦いは苛烈を極めていた。

 

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「ぐっ!」

「そこだ」

「五代さんっ!」

 

 邪眼の拳とクウガの拳が衝突する。その重さに思わず呻くクウガ。その僅かな隙を突いて邪眼が回し蹴りを放ち、クウガを大きく蹴り飛ばした。床に叩き付けられ、クウガは立ち上がる事も出来ず呻くのみ。それを見た龍騎が邪眼によるクウガへの更なる追撃を阻止せんとドラグブレードで斬りかかる。だが、それを邪眼はあっさり受け止めるとお返しとばかりに膝蹴りを放った。

 

「邪魔をするな」

「がはっ!」

「真司さんっ!」

 

 その一撃が龍騎の腹部を襲い、龍騎が思わずしゃがみこむ。邪眼はそんな龍騎を蹴り飛ばし、とどめとばかりに電撃を撃とうとした。そこへアギトが割り込み、シャイニングカリバーで電撃を切り払ってそのまま邪眼へ斬りかかる。すると、邪眼はその一撃をあっさりと受け止めた。思わず息を呑むアギトへ邪眼は拳をその顔へ叩き込んだ。

 

「どけ」

「ぐあっ!」

 

 龍騎の横に重なるように倒れるアギト。邪眼はそれへ追撃を加える事無く瞬時に後ろを振り向いて破壊光線を放つ。それが後方から迫っていたRXを足止めした。

 

「くっ!」

「そうはいかんぞ、世紀王」

 

 邪眼の言葉を聞きながらRXはすぐに体勢を整えて構えた。しかし、他の三人はそうもいかない。そう、あの偽者達との戦いで受けたダメージ。それを太陽の光で回復出来たRXと違い、三人は自然回復した分しか疲れを癒していないためだ。つまり、その体調は万全とは程遠い。

 そんな体でシャドームーンと同等以上の邪眼と戦っていたため、その疲労は既に限界近くまで迫っていた。それでも三人は何とか立ち上がると邪眼に対して構えた。そんな姿を見た邪眼は三人を嘲笑う。息も絶え絶えのその様子を馬鹿にするように。

 

「ハハハハハ、無様だな仮面ライダー。世紀王を除けば瀕死の状態か」

 

 その言葉にクウガは、アギトは、龍騎は構えを崩す事無く告げる。

 

「それでも……俺達は戦うっ!」

「そうだっ! お前みたいな奴がいる限り、何度だって立ち上がる!」

「俺達は仮面ライダー! みんなの希望なんだっ!」

 

 肩で息をしながら、三人はそう言い切った。それぞれ本当ならば仮面ライダーとの名に込められた意味を知らない者達。そんな者達が邪眼へ宣言する言葉と姿にRXは感銘を受けていた。改造手術ではない方法でライダーとなった三人。それがもう既に自分達と同じ気持ちで仮面ライダーを名乗っている。そう強く感じる事が出来たからだ。

 それは、人は誰でも仮面ライダーになれるとRXへ告げていた。例え変身出来なくても、その心が自然を愛し、平和を愛するのならその者は仮面ライダーと同じなのだと、そうRXへ信じさせるだけの輝きがあったのだから。

 

「邪眼っ! 貴様がどれだけ追い詰めても無駄だ! 人は絶対に絶望には……闇には屈しないぞっ!」

 

 邪眼の背後からRXが告げた言葉。それにクウガ達だけでなくなのは達も力強く頷いた。その光景が邪眼へあの無人世界での光景を思い出させる。転生したにも関らず、なのは達が一切絶望しなかった光景を。それが邪眼の怒りを燃え上がらせる。この場にいる全ての者達の心を闇で包んでやる。そう言わんばかりにこう言い放ったのだ。

 

「ふんっ! 精々ほざくがいい。そこまで言うのならば絶望を見せてやる!」

 

 そう言い放つと邪眼は空間転移でその場から消えた。それに誰もが警戒する中、クウガは即座に超変身しライジングペガサスへと変わる。その超感覚を使い、邪眼がどこに現れるのかを察知するためだ。そしてクウガはその出現位置を予測したのか慌ててそこへと走り出す。

 その体が緑から青へと変わり、クウガは床に横たわっていた少女へと飛びついた。それと同時にそこへ邪眼が出現するとその手から破壊光線が放たれる。その攻撃は少女を庇うようにしていたクウガへ直撃した。

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!」

「やはり貴様が気付いたか、クウガ!」

 

 狙いを潰されたように見えた邪眼だが、その反応はむしろ上機嫌だった。そう、邪眼は最初から少女を餌にクウガを倒す事を狙っていたのだ。その理由は、クウガがなのは達の精神的支柱になっているため。なのは達の心を闇に包むには、まずクウガを始末する必要があると判断したのだ。

 

―――クウガっ!?

 

 全員の叫びが響く中、その攻撃に耐え切れなくなったクウガが五代へと戻る。その光景になのは達が息を呑む中、弾かれるようにライダー達が動いた。邪眼へ更なる攻撃をさせないために、アギトが注意を引くために飛び掛り、それに応じて龍騎はドラグブレードを手になのは達へ駆け寄った。彼女達を守るように動きつつ、後ろへ下がるように告げると龍騎はアギトの援護へと向かう。そしてRXは五代と少女を守るべくバイオライダーへ変化して即座に近寄っていた。

 

「五代さんっ!」

 

 五代の体を軽く抱き抱えるバイオライダー。瞬時にその視覚機能を使い、状態を把握する。その命に別状はない事を確かめ小さく安堵するバイオライダーだったが、すぐに意識を邪眼へと向けた。邪眼はアギトと龍騎の二人を相手に余裕さえ感じさせていた。疲れから動きの鈍る二人へ、拳を、蹴りを叩き込み、とどめとばかりに電撃と破壊光線を薙ぎ払うように放つ。

 それが二人を吹き飛ばして床へと転がすと同時に、爆音と煙が周囲を覆って二人がどうなったのかをなのは達から隠す。だがそれもほんの僅かな時間だった。煙の中から二人の体が転がり出たのだ。

 

―――アギトっ!?

 

 はやて達八神家とティアナの叫びが響く。彼らの視線の先では気を失ったのかアギトが光に包まれていた。そのまま変身が解けると、額から血を流して倒れる翔一の姿へ変わる。そして、そんな叫びと同時にヴァルキリーズの叫びも響き渡っていた。

 

―――龍騎っ!?

 

 龍騎も変身が解け、真司の姿へ戻っていた。真司は翔一と違い、額だけでなく口からも出血しているのか血が流れている。そんな光景になのは達が絶句した。初めて見るライダー達の敗北。五代が、翔一が、真司が力及ばず倒れている様子に。

 それでも、まだなのは達は絶望しない。何故ならば、まだ邪眼と戦うライダーがいるからだ。たった一人となっても、三人の復活を信じて戦う戦士が。その最後の希望であるRXは邪眼と戦いながら強く願っていた。そう、三人が再び立ち上がる事をだ。

 

「残るは貴様だけだ、世紀王」

「まだだ! まだクウガ達は負けていない! そうだ! 仮面ライダーは負けないっ!」

「世迷い事を……奴らはもう死んだも同然よ」

「死ぬものか! 戦いが終わるまで、いや、戦いが終わろうとも仮面ライダーは死なないっ! 死なないんだっ!」

 

 邪眼の言葉を力強く否定していくRX。しかし、やはり邪眼の力は強大。一人で善戦するRXも空間転移を多様してのヒット&アウェイに劣勢を余儀なくされていく。何とかバイオライダーへ変化してそれに対処するも、やはり反撃に繋げられない状態が続いていた。

 

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 それを黙って見ている事しか出来ないなのは達は、その光景に誰もが悔しさに拳を握り締めていた。そんな中でなのは達が出来たのは五代達三人を護衛する事。

 気を失っていたため、セインがISを使ってその体を少しでも安全な場所へ運んでいたのだ。そして残った少女を運ぼうとした時、その動きに邪眼が気付いた。

 

「何をこそこそとっ!」

「っ?! トゥアっ!」

 

 邪眼の動きを阻止しようとバイオブレードを動かすバイオライダーだったが、僅かにそれは遅かった。放たれた破壊光線は一直線にセインを目指している。ゲル化すれば何とか間に合うが、邪眼がなのは達へ攻撃する危険性を考え、バイオライダーはその場を動く事が出来ない。よって、バイオライダーは苦渋の決断を下すようにその場に残り、邪眼から放たれた電撃をバイオブレードで受け止めた。

 

「セインっ! かわせ!」

「まだ避けられるぞ!」

 

 シグナムやチンクの声を聞きながら、セインは迫り来る攻撃を前に迷っていた。このままでは死ぬと分かっているにも関わらずだ。急いで決断を下す必要があるこの状況でセインを迷わせていた理由。それは彼女の背後にあった。そこにはセインが避難させようとしていた少女がいたのだ。即ち、守るか逃げるかをセインは迷っていたのだ。

 

 もし少女を守ろうとすれば自分が死ぬ。しかし逃げれば少女が確実に死ぬ。だがセインは戦闘機人。並の人間よりも頑丈に出来ている上ボディースーツもある。死ぬ可能性は少女よりも低い。そこまで考えてセインは視線を背後へと動かした。

 

「危ないからそこを動いちゃ駄目だよ」

 

 その言葉に少女は戸惑いを返すだけだった。そう、既に少女は意識を取り戻して不安そうな表情を浮かべている。その顔を見たセインは攻撃から少女を守る事を決意した。戦闘機人である自分の耐久力にボディースーツの防御力を考えて、まだ生き残れる可能性があると信じて。何より、幼い命を見捨てないために。

 少女を背にし、ISで体を半分床に潜らせるとセインは両腕を交差させて防御の姿勢を取る。光線の威力に体を飛ばされないようにだ。そこへ放たれた破壊光線が迫っていく中、誰もがセインの行動に息を呑んだ瞬間、飛び出すように動く者がいた。

 

―――パパ、もう止めてっ!

 

 その小さな体がセインの代わりに破壊光線の直撃を浴びる。その口からは耳を覆いたくなるような絶叫が漏れていた。その声に気を失っていた五代達が目を覚ます。すると、その視線が当然のようにその声の主へと動いた。そこには思わず目を覆いたくなるような光景があった。

 

―――っ?!

 

 だから三人は言葉が出せなかった。なのは達やセインも眼前の光景に何も言えないまま目を見開いている。誰もが驚愕の表情のまま声を失ったように沈黙していた。やがて光線は途絶え、その直撃を受けていた者がゆっくりと崩れるように倒れる。その体を咄嗟にセインは受け止めた。

 

「う、嘘でしょ……何で出てきたりしたのっ!?」

「パパ……どうして……? この人達、私の事を……助けて、ようと……したんだ……よ?」

 

 涙ながらのセインの言葉が聞こえていないのか、少女は邪眼へ疑問を投げかけた。その内容に誰もが言葉にならない。涙を流し、少女の体を抱きしめるセイン。その生命活動が弱くなっていくのを戦闘機人としての能力が教えてくるのだ。それにセインは余計に涙が止まらない。いや、セインだけではない。ヴァルキリーズは全員それを悟っていたし、ナカジマ姉妹も同じように少女の鼓動が弱くなっていくのを感じて涙を流していた。

 

 なのは達でさえ、直感として理解していた。もう少女が助からない事を。それでもなのはは流れる涙を拭う事もせず少女の元へ駆け寄った。セインはそれに気付いて少女の体をそっとなのはへ差し出す。少女の体を優しく受け取り、なのはは強くその手を握った。

 

「駄目だよっ! 諦めちゃ駄目だからっ! 絶対、絶対助けるからっ!!」

「……お姉、さん。私……お姉、さんに……あや、まらな、いと……」

「いいよ! もういいからっ! だから喋っちゃ駄目っ!!」

「悪い、人なんて……言っ、て……ごめ、ん、なさい……それと……あり、が……とう」

 

 なのはの言葉に少女は最後には笑顔で礼を述べて静かに目を閉じた。言い終えた事で張り詰めていたものが切れたように。なのはは、その握っていた手から力が抜けたのを感じた瞬間、思わず叫んだ。玉座の間に少女の死を拒絶する絶叫が響き渡り、誰もが涙を流す。一部はその拳を床へ叩きつけながら悲しみの涙を、悔しさの涙を流した。

 そんな中でもバイオライダーは邪眼を牽制していた。それでもその心中は穏やかではない。少女の言葉やなのはとのやり取りを聞き、きつく拳を握り締めていたのだ。今、その脳裏に甦るは佐原夫妻の事。最後の最後で守れず死なせてしまった存在の事だ。

 

(守れなかった……俺はまた守れなかったっ!)

 

 後悔が激しい悲しみと怒りの気持ちをバイオライダーに抱かせる。その仮面で流れる涙を隠しつつ、それでも邪眼に対して睨みを利かせるのを忘れないように彼は戦う。その背後では、真司と翔一が我に返ってその手を握り締めていた。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉっ!」

「どうして……どうしてこんな事にっ!」

 

 真司の怒りと翔一の悲しみがなのは達の心に響く。これだけの者がいながら、幼い少女一人守れなかった。その気持ちが全員の心に怒りと悲しみと悔しさを抱かせる。すると、その声に邪眼が動きを止めた。そして、少女の亡骸を抱きしめ涙するなのはを眺め、吐き捨てるように言い放った。

 

―――役立たずが。失敗するだけでは飽き足らず、最後には邪魔までしよって。

 

 その言葉で全員が睨むように邪眼へ視線を向けたその時、玉座の間の空気が重くなった。それを感じ取って誰もが息苦しさを覚える中、その原因に気付いたバイオライダーだけがまさかと思い、邪眼に隙を見せる事になる危険を冒して後ろを振り向いた。

 

「っ!? 五代さん、駄目だっ!」

 

 その声に全員の視線が五代へと注がれる。五代の体は普段の変身ではない現象を起こし出していた。黒いオーラが全身を覆うその光景を見て、誰もが嫌なものを感じる。そう、まるで闇を纏うようだったのだ。

 

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 五代は激しい憎悪を邪眼へ抱いていた。幼い少女を自分のために利用した事。それが負けるとあっさり利用価値がないと告げた事。更にそれを殺した事にまったく後悔も反省もしていない事。それらが否応無く邪眼への怒りを起こさせる。

 そこへ追い打ちのようにその視界へ入ってきた光景も不味かった。一つは少女を失って涙を流す親しい人達。それが五代にあの緑川学園以上の悔しさと無力感を叩き付ける。邪眼と互角に戦えるだろう力を秘めたクウガ。その力を使う事を忌避した事で流れる涙が生まれてしまった。それは五代が戦士となると誓った状況と似ている。

 

 もう一つは死した少女の外見。五代にはヴィヴィオと同じにしか見えなかったのだ。故にその姿がどうしてもヴィヴィオに重なってしまう。明るく未来と希望に満ちた世界を生きる事が出来たはずの命。それが夢さえ見る事が出来ずに死んだ。ヴィヴィオと共に笑い合えたはずの少女に対して、五代は強い無念と悲しみを抱いたために、それ以上の憎しみを邪眼へ抱いてしまっていた。

 

 殺す事を楽しむ未確認と殺す事を何とも思わない邪眼。その共通点はただ一つ。自分のために他者を平気で踏み躙る事。そんな奴らのためにこれ以上涙を見たくない。だが、今のままの五代では倒す事が出来ない。その事実が五代へ黒い体の四本角のクウガへなる事を思い浮かばせる。もうあの力を使うしかないと。

 それは、普段の五代であれば疑問や戸惑い、躊躇いと苦悩がある答え。しかし、今の五代にはそれはない。一度制御した事がどこかでその事を後押ししてしまっていると知らずに、五代は邪眼を許せないとの強い思いを胸に口を開いた。

 

―――あの子を殺してしまったのに、掛けてあげる言葉がそれ……? あの子はお前の事をパパって慕っていたのに……最後にかけてあげるのがそんな言葉なのかっ! あの子はっ! まだ青空だって見た事が無かったのにっ!!

 

 五代がそう叫んだ瞬間、その体が変わる。全身を漆黒で染め上げた姿へと。禍々しい印象しかないそれに誰もが言葉を失う。中でも五代から詳しい話を聞いていたバイオライダーだけは、その顔を見て最悪の展開になったと悟った。

 

(目が黒い……やはり制御出来ていないのか!)

 

 眼前の存在は漆黒の目をしていた。それに邪眼が少しだけたじろくも、すぐに立ち直って走り出す。今の自分を追い詰められる者などいないと思っているのだ。

 

「また姿を変えたところでっ!」

 

 邪眼が床を蹴り、凄まじき戦士へ攻撃した。シャドーキックと同じ姿勢のそれを見た凄まじき戦士は、あろう事か立ち尽くしたままでそれを受ける。その一撃を喰らっても、悠然とその場にしっかりと経ったまま動く事なく耐え切ったのだ。それに誰もが驚きを見せる中、凄まじき戦士はお返しとばかりに無言で邪眼へ手をかざしたその瞬間、邪眼の体が炎に包まれる。

 凄まじき戦士は炎で苦しむ邪眼へ無言で近付くと、その胸部へ拳を叩き込んだ。その一撃で邪眼の体が大きく飛ばされる。その体は床ではなく壁に激突し落下した。そのダメージをものともせずすぐに立ち上がる邪眼だが、凄まじき戦士が既にその体目掛け飛び蹴りを放っていた。

 

「ぬおっ!」

 

 再び壁へ激しく叩き付けられる邪眼。そこへ追い撃ちをかけるように駆け寄り、凄まじき戦士は連撃を叩き込んでいく。すると邪眼はこのままでは不味いと悟ったのだろう。両手から破壊光線を放って一旦凄まじき戦士を下がらせた。そして、瞬時に空間転移を使って玉座の間から撤退した。

 それになのは達が僅かな安堵の息を吐く。ただ一人だけバイオライダーはRXへ戻ると、素早くなのは達の前に立ち凄まじき戦士へ戦闘態勢を取った。それに誰もが違和感を感じるものの、そんな周囲へRXが切羽詰まった声を出した。

 

―――今のクウガは我を失っている! 止めないと全員やられるぞっ!

 

 その意味をなのは達三人は瞬時に理解した。凄まじき戦士に五代がなってしまったのだろうと。真司もいつかの話を思い出し、よろよろと立ち上がろうとした。翔一もそれに続いて立ち上がろうとするが、二人は未だにダメージが抜けていないためかその体がふらついている。

 それに気付いた周囲が二人を支えるように動く。止めようとしないのは、その性格を知っているからだ。止めても止まらないと。そんな周囲の見ている目の前でRXが炎に包まれるも、ロボライダーへ変身し、その炎をエネルギーとして吸収する事で対処した。

 

 その様子を見た凄まじき戦士は、ロボライダーにその力が通用しないと理解してか直接攻撃へと切り替える。それを迎え撃つロボライダーが自慢の力を活かしたロボパンチを放った。だが、炎のエネルギーを加えたそれを凄まじき戦士は平然と受け止めたのだ。

 

「くっ! これでも駄目か!?」

 

 予想以上の強さを持つ凄まじき戦士に驚愕しつつ、ロボライダーは何とかその力を使って凄まじき戦士を止めようとする。しかし、それを容易に振り払う凄まじき戦士にロボライダーは力では太刀打ち出来ないと理解した。追い詰められたロボライダーはそこからバイオライダーへ変化し、速度を以って凄まじき戦士へ対抗しようとする。すると、その高速機動を見た凄まじき戦士は無言で手を動かした。それが実体化しようとしたバイオライダーを炎で包む。

 

「ぐあっ!」

「「バイオライダーっ?!」」

 

 予想だにしない結果にエリオとキャロが思わず叫んだ。バイオライダーの弱点は高熱。しかも、それが通用するのも実体化する僅かな間でしかない。それを瞬時に悟り攻撃した凄まじき戦士の恐ろしさをバイオライダーは思い知っていた。

 実は高熱が弱点とはいえ、バイオライダーは五千度まで耐え切れるだけの耐久力がある。つまり凄まじき戦士の使う炎の温度はそれを超えていた。凄まじき戦士にはバイオライダーでも対抗出来ないと分かり、彼だけでなくなのは達にも焦りが生まれる。

 

 四人のライダーの中で一番強いと思われていたRX。それが全ての能力を駆使しても凄まじき戦士に勝てないと思わされたからだ。特にバイオライダーは、その特殊能力から無敵だと思われていたから余計だろう。

 炎に苦しむバイオライダーがRXへ戻り、やがて光太郎へ戻ったのを見て誰もが息を呑んだ。翔一も真司も未だ戦える状態ではなく、光太郎さえ変身を解かれてしまった。残された手段はもう何もない。そう思った時、そこへガジェットがやってきた。それを受けてウーノ達が行動開始。ガジェットのAMFCを最大にし、何とか魔法を使えるようにAMFを弱体化させていく。

 

 すると、それを感じ取ったのか凄まじき戦士がガジェットを破壊しようと動き出した。破壊衝動に突き動かされるようにガジェットへその足を進める凄まじき戦士。その行動を止めようと動く者がいた。

 

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「五代さん、止めてくださいっ!」

 

 スバルは凄まじき戦士へ抱きつくように止めに入った。自分の憧れのヒーロー。それが周囲へ破壊と混乱をもたらす事をしようとしている。それがスバルには耐え切れなかった。あの空港火災の日、自分を危機から助けてくれたクウガ。今度はそれを自分が助けるんだ。そんな思いがスバルを動かしていた。自分が灼熱の炎に焼かれる事になったとしても構わないと、そう覚悟を決めて。

 

 そんなスバルの行動に、微かにだが凄まじき戦士の動きが鈍る。その事に気付いた真司はふと思い出した事があった。それを試そうと思い、真司は小さく頷くと翔一へある事を告げた。それに翔一も理解を示し光太郎の元へと向かうのを余所に、スバルが命懸けで凄まじき戦士を止めるのを見てなのはも行動を起こしていた。腕に抱きしめていた少女の亡骸を静かに床に下ろし、その表情は凛々しいままに凄まじき戦士へと駆け寄ったのだ。

 

「もういい! 五代さん、もういいんですっ! いつもの優しい五代さんに戻ってください!」

 

 スバルと同じように凄まじき戦士の体を全力で止めようとするなのは。少女の死を悼み、それを何とも思わなかった邪眼。それに対して五代が怒り、そして憎しみさえ抱いてしまったのはなのはにも分かった。優しい彼女も同じ気持ちになったからだ。

 それだからこそ、なのはは五代にいつもの彼へ戻って欲しかった。誰かを憎む五代など見たくないとばかりになのはは心から叫ぶ。それにも凄まじき戦士は小さな反応を見せるものの、その手をゆっくりと動かそうとした。

 

 だが、その手を大勢の者達が止める。五代を好きだからこそ、その暴走を止めたいと願う者達が命を賭けて阻止する。強力な力で相手を捻じ伏せる。それはクウガの在り方ではない。そう誰もが感じたからこそ、心から五代へ呼びかける。我を忘れて仲間を苦しめるような行動を取る現状。それを何とか止めたい。その思いはその場にいる者達全員の総意だった。

 

 そうして誰もが五代へ元に戻ってくれるように呼びかけていく。そんな中、ウーノ達三人によって制御されたガジェットがAMFに干渉し魔法の使用と可能にしようとしていた頃、邪眼はゆりかご最深部にてその様子を見つめていた。そしてある事に気付く。それは、凄まじき戦士と自分の共通点。それに思い当たって邪眼は嗤う。自分にもまだ勝機はあると、そう思いながら。

 

「このまま奴らが自滅し合ってくれればよし。もしそうでなくても……」

 

 邪眼は嗤う。もう自分に負けはないと確信して。故に余裕を持って玉座の間の様子を見つめる。そこでは、凄まじき戦士が自分の動きを止める者達を振り払おうとしていた。

 

 同時刻、玉座の間付近で待機していたゴウラムトルネイダーに異変が起き始めていた。まるで何かに怯えるように震え、その全体が少しではあるが色褪せようとしていくように……

 

 ヴィヴィオとそっくりな少女の死。それが引き金となり、遂に五代は凄まじき戦士へとなってしまう。

 その力を以って邪眼を撤退させるも、相手を失った事で攻撃の矛先はなのは達へと向いた。

 そんな絶望に真司が見出した微かな希望。

 それが凄まじき戦士を止めるキッカケとなるのだろうか……?

 

―――そして古の王甦り、影と闇を争わす。しかし闇深く、甦る王を包まんとす。戦士、闇に立ち向かいそれを救わん。だが、それこそ闇の始まりなり。

 

 

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遂に黒目のアルティメット出現。予想されていたとは思いましたが、少女がその鍵です。

 

何の関りも無かった緑川学園の生徒達の死でさえ怒り狂った五代。なら、親しくしている少女そっくりならば余計に憎悪の感情に襲われるのでは、とそう思いました。

説明
玉座の間で行われる最終決戦。だが、邪眼の策によりなのは達魔導師組は揃って無力化されてしまう。
戦闘機人の能力を持つスバル達も防戦一方となり、ライダー達も攻勢を強める事が出来ない中悲劇は刻一刻と近付きつつあった。
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