Masked Rider in Nanoha 五十二話 目覚めろ! その魂!
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「やめてください五代さん! こんな事をしてもあの子は喜ばないし、生き返る訳じゃないんですっ!」

「そうです! あの子が悲しむだけですっ!」

 

 エリオとキャロが涙ながらに凄まじき戦士の両足を押さえる。二人にとっては優しく楽しいお兄さん。それが五代だった。だからこそ、今の姿は見ていられない。そう、今の状態は怪人と同じだったのだ。力を感情のままに振るい、周囲へ危害を加える。それは二人にとって許せる事ではない。局員としても、人としても、そして五代を好きな者としても。

 だから止める。命を賭けて。幼いからこそ、二人にも少女の死は辛く苦しく悲しいものだった。それを優しい五代がどう感じたかなど、言うまでもなく理解していたからだ。凄まじき戦士の恐ろしさを知っても尚止めに入る勇気。それはこの二人以外にもあった。

 

「五代、止めろよ! お前、こんな事をしたい訳じゃねえだろ!」

「五代さん、駄目っ! 貴方は誰よりも人を傷つける事が嫌いなはずでしょ!」

 

 ヴィータとシャマルは凄まじき戦士の右腕を必死に止めていた。初めて五代と会った日、共にその在り方に触れた二人。ヴィータは、したくもない蒐集行為をする自分の苦しみを悟られた。その目がしたくない事をせざるを得ない悲しみを宿していたとして。

 シャマルは、なのはから蒐集した後にその悲しみを和らげてもらった。何にも気付いて始めるのに遅い事はないと、そんな優しい言葉と共に五代の気持ちに触れて。つまり二人は五代に救われた面があったのだ。本人は決してそんなつもりはなかったが、結果的に二人はそう感じたからこそ、その時のお返しとばかりに動いていた。

 

「もう止めてよ! いつもの五代さんに戻ってよぉ!」

「五代っ! もういいんだ! あの子もお前のそんな姿は望んでいない!」

 

 セインとチンクも凄まじき戦士の左腕を懸命に押さえていた。食堂で共に働いた仲間であり、真っ先に自分達と六課の溝を無くそうとしてくれた人物である五代。その人柄をヴァルキリーズで誰よりも知っているのがこの二人だった。

 いつも笑顔でひょうきんなところがある五代の事は、二人も好ましく思っていた。誰かが悲しんでいれば、それを笑顔にしたくて頑張る性格。それが想いを寄せる真司にも似て、二人にとっては心安らぐ相手だったのだから。

 

 こうしてスバルとなのはが体を、残りの部分を彼らが押さえる。だが、それも限界があった。凄まじき戦士自体の力はこの場の誰よりも強力。いくらその動きが鈍り弱まっているとはいえ、人の身で押さえ続けるには限度がある。それでも、誰かが振り払われる度に別の誰かが凄まじき戦士へと駆け寄り、その体を押さえ付ける。五代を元に戻すために。そして、元に戻った時に悲しむ事が少ないようにと。懸命に、必死に、誰もが五代を五代であり続けさせるために足掻いていた。

 

 その奮闘に触発されたように玉座の間付近で滞空していたゴウラムトルネイダーにも変化が起きる。合体しているゴウラムが色褪せ崩れそうになった瞬間、その全身を光が包んだのだ。マシントルネイダー部分に秘められたアギトの光。それがゴウラムの崩壊を阻止していた。

 そう、アギトの光は進化の光にして、白服の青年が人類に与えた力。それが凄まじき戦士が出現した事によるゴウラム消滅の危機を辛うじて防ぐ。闇に抗う力を失わせまいとするように。実はもう一つゴウラムの即時消滅を阻む要素があった。それこそが真司の見つけた微かな希望。そして、聖なる泉を呼び戻すという予言の意味に繋がっていた。

 

 

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 凄まじき戦士が一気になのは達を振り払う。それとAMFがガジェットのAMFCに干渉されて弱体化したのは同時だった。ウーノの告げた言葉を合図にその場の全員の瞳が輝く。そんな中、なのは達も真司が気付いたある事を見る。凄まじき戦士が制止を振り払った後、床に倒れたなのは達が苦しんだのを見て、僅かではあるが動きを鈍らせる事に。

 

 それに真司の抱いた希望が間違っていなかったと感じる光太郎。だからなのは達が振り払われると同時に動く。凄まじき戦士を後ろから取り押さえ、周囲へ叫んだ。自分達の頭上を狙ってくれと。それが何を意味するかなど最早説明されるまでもなくなのは達は理解している。

 

「なのはちゃんっ! フェイトちゃんっ!」

「うんっ!」

「やるよ!」

 

 はやてがシュベルトクロイツを構える。なのはとフェイトがそれに倣うようにレイジングハートとバルディッシュを構えた。三人はありったけの想いを込めて魔法を放つ。三色の光は絡み合うと天井を貫き、玉座の間へ大きな穴を作る。そこには当然太陽と雲が存在し、目の覚めるような青空が広がっていた。

 光太郎はそれを見上げて頷くと、凄まじき戦士の顔を空へ向けさせた。それに微かに、だが確かに凄まじき戦士は反応した。その視線を逸らす事なく頭上へと向け続けたのだ。その漆黒の目が青空を見つめる。光太郎はその瞬間、凄まじき戦士から離れてある構えを取った。それはRXの構え。右腕を握り締め、左腕を腰に当てたその構えを光太郎が取ると、同時に翔一も立ち上がってある構えを取る。右腕を前にし、左腕を腰に添えるアギトの構えを。

 

 二人がそれぞれの構えを取った瞬間、その体から光が出現する。それはかつて邪眼と戦う際、彼らがした事に近い事。自分達のエネルギー(この場合はアギトの光と思われる)を合わせて凄まじき戦士へと送ったのだ。

 

「五代さんっ!」

「俺達の光、受け取ってくださいっ!」

 

 二人は真司が考えた思いつきに従い、これを計画した。全てはあのカリムから聞いた予言を意識した行動だ。闇に汚れし仮面で悲しみを隠す戦士。それが凄まじき戦士の事を意味するとして、三人が考えた五代救出作戦。それは、きっとその後の部分がそれに当たるとしての仮定の下に考えられた。

 太陽と進化の輝き合わさりし時、龍騎士の咆哮が聖なる泉を呼び戻す。なので、まず光太郎と翔一がかつての事を思い出して、自分達のエネルギーを合わせることにした。その目論見通り、凄まじき戦士へと二人のエネルギーが合わさったものが吸い込まれる。そして、それが起こった瞬間、凄まじき戦士のアークルが光り出した。それが翔一の変身する時とそっくりだと気付いた二人は確信する。クウガのベルトはやはりアギトの光を内包していると。そう、故にクウガは超変身を制御出来るのだ。不安定のはずのアマダム。それをアギトの光が支え、導いていたのだから。

 

 二人の光を受け取った後、凄まじき戦士から感じていた圧迫感が心なしか弱まったと感じて真司が叫ぶ。ここからは自分の仕事だと、そう強く己へ言い聞かせるように。

 

「五代さんっ! あんたはよくこう言ってたよな! 青空を見てると、心が洗われる気がするって!」

 

 真司は叫んだ。予言の最後の部分は、自分が叫ぶ事で五代が聖なる泉、即ち優しい心を取り戻すとあったからだ。だとすれば、それはこの言葉だろうと踏んだ真司は心から叫んだ。青空が好きな五代。その心に届けとばかりに。

 その言葉を聞いて凄まじき戦士は何か苦しみ出す。それで誰もが淡い期待を抱いた。五代に戻ってくれるのではないかと、そう思って誰もが息を呑んで見守っていた。しかし次の瞬間、凄まじき戦士がした行動は苦しみながらもその手を空へ伸ばす事だった。まるで助けを求めるかのようなそれを見て誰もが悟った。誰よりも凄まじき戦士を止めようとしているのは五代自身だと。

 

 そう考えた時、全員の脳裏にこれまでの光景が思い起こされる。なのは達へ攻撃する事や苦しませる度に躊躇いがあった凄まじき戦士。それは、五代の聖なる泉が枯れ果てたのではなく闇で汚れてしまっているためだ。優しさよりも憎しみが多くなってしまったから泉が濁っていたのだ。

 

 真司の言葉に反応を示す凄まじき戦士。しかし、まだ何かが足りない。凄まじき戦士をクウガへと戻す要素が。それが何かと周囲が考える中、真司だけはその凄まじき戦士の手を見つめ、ふと閃いた。

 

「……もしかしてっ!」

 

 その視線の先にある凄まじき戦士の手は、まるで空を掴もうとしているようにも、拳を握り締めようとしているようにも見えた。だが、真司はそれが何をしようとしているかを察した。そして、そこからある言葉を思い出す。五代を元に戻せるとすれば、その言葉が一番ではないかと。故に真司は力の限り叫ぶ。この声よ届けとばかりに、凄まじき戦士ではなく五代雄介へと向けて。

 

―――五代さんっ! これを思い出してくれっ!

 

 真司が叫びと共に見せたのはサムズアップ。真司の声に視線を動かした凄まじき戦士は、それにまるで息を呑んだかのように反応する。同様に周囲も真司へと視線を向け、その手が作る形を見て小さく声を漏らした。それは、形こそ違え、その場にいる者達全員にとって思い出深い光景と酷似していた。なのは達が自分達の記憶を鮮烈に甦らせている中、真司は思いの丈を込めて叫ぶ。

 

「古代ローマで、満足出来る、納得出来る行動をした者にだけ与えられる仕草だ! あんたは、これに相応しい男だったよな!」

 

 あの日、六課と合流した真司達となのは達を隔てる壁のようなものを少しでも払拭させようとした五代。真司は五代が自分達へ教えてくれた言葉を懸命に思い出しながら叫んでいた。そして、その言葉を聞いた周囲も真司のやろうとしている事を理解していた。

 

 五代が”五代雄介”たる根底である教え。その言葉で抱いた気持ち。それを思い出させようとしているのだろうと。だから、誰もが静かに見つめる。真司の言葉が五代へ届くようにと願いながら。

 

「あの子が死んで、確かに悲しいと思う! でもそんな時こそ、誰かの……みんなの涙を止めて、笑顔にするために頑張れるのが五代雄介じゃないのかっ!」

 

 その言葉に凄まじき戦士が動いた。その手が真司へと向けられる。それが意味する事に気付いて誰もが一瞬息を呑むものの、真司だけはそれにも怯まず最後とばかりに吼えた。

 

―――思い出してくれよ五代さん! いつでもみんなの笑顔のために頑張れる! それが、仮面ライダーだってっ!!

 

 その声が玉座の間に響き渡る。水を打ったように静まり返る空間。真司は凄まじき戦士を見つめ続けた。そしてその手が動いた瞬間、誰もが炎に包まれる真司の姿を想像して目を閉じる。だが、一向に真司の叫ぶ声も炎が燃え盛る音も聞こえてこない。それに気付いてゆっくりと一同が目を開けていく。そこには、凄まじき戦士はいなかった。いや、確かに凄まじき戦士はいた。たが、その存在から感じる雰囲気が違う。何よりも、その手はある形を作っていたのだ。誰もがそれが意味する事にまさかと思う中、スバルがその目を見てすぐにその原因に気付いた。

 

―――目が……赤くなっている。

 

 その呟きと同時に”クウガ”から声が返ってきた。そう、その手はサムズアップをしているのだから。

 

―――……そうだね、真司君。今の言葉、すごく心に響いた。それと、光太郎さんと翔一君の光、とても効きました。あれで少し怒りが和らいだんで。

 

 その声に真っ先に反応し、クウガへ走る者がいる。その者が見つめる中、クウガは疲れからか五代へと戻っていく。それを見届け、その者の体が床を蹴って宙へ舞う。そのままの勢いで満面の笑顔を浮かべながらスバルは五代へと抱きついた。

 

「五代さんっ!」

「おっとっ!」

 

 慌てて受け止める五代だが、疲れた体では当然受け止めきる事は出来ずに床へ倒れこんだ。その五代の表情はすっかり普段のそれに戻っている。それを確認し、五代の胸に顔を埋めて涙を流すスバル。その温かさを感じて五代は優しい笑みを浮かべてその頭を撫でた。

 

「ありがとう、スバルちゃん。なのはちゃん達も本当にありがとう。みんなの声が俺を最後の最後で止めてくれてた」

 

 その言葉にスバルが顔を上げると笑顔でサムズアップ。そして、それに続くようになのは達も一斉にサムズアップをした。五代はそれに嬉しく思いながらサムズアップを返した。しかし、その表情が何かを見てすぐに曇る。その五代の視線の先には、静かに横たわる少女がいた。五代はスバルを体から優しく離すと、ゆっくりと少女へ近寄る。その安らかな死に顔を微かに痛ましく思いつつ、五代は静かにその髪を撫でた。慈しむように、別れを告げるように。

 

「助けてあげられなくて……ごめんね。でも、約束するよ。絶対、君の事は忘れないから」

 

 五代の言葉に誰もが頷き、表情を凛々しくする。その時、光太郎が何かを悟って表情を険しくした。

 

「っ?! 邪眼が来るぞっ!」

「五代さん達は私の傍にっ!」

 

 その言葉に誰もが表情を険しくすると同時にシャマルがそう叫ぶとその手を高々と掲げた。五代達三人が何とかシャマルの近くへ辿り着くと、彼女は澄んだ声で詠唱を始める。それは、静かなる癒しの名を持つ回復魔法。

 

「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」

 

 それが傷付き、疲れていた三人の体を瞬時に癒していく。その効果に驚く三人だったが、その表情がすぐに険しいものへと変わる。再び玉座に座る形で邪眼が出現したのだ。それを天井の穴から降り注ぐ太陽の日差し越しで見つめる光太郎。そこへ体を本調子に戻した五代達も並び立ち、眼差しも鋭く邪眼を睨む。それを受けても邪眼は平然としていた。そして、五代達へつまらなさそうな声でこう切り出した。

 

「自滅はしなかったか。面白味のない奴らだ」

 

 それに誰も言葉を返す事はしない。特に五代はもう憎しみには飲まれないとばかりにその表情を凛々しくするのみだ。いつもならば、そんな反応を返す事に苛立ちを見せる邪眼だが、今回はそうではなかった。そんな五代達の反応にもさして苛立つでもなく、ゆっくりと玉座から立ち上がると彼らを一度だけ見回し徐々に嗤い出した。

 それが癇に障る高笑いになるまではそこまで時間はかからない。それでも誰も邪眼へ口を開く事はしない。嗤いたければ嗤え。それぐらい今の五代達は心を乱すような隙はなかったのだ。そんな五代達の態度も今の邪眼には嘲笑う要素でしかなかった。

 

「くっくっく……先程の力、中々凄かったぞクウガよ。だが、それが自分達の最後を彩る事になるとは思わなかったようだな」

「どういう意味だ!」

 

 さすがにその言葉には無反応とはいかなかったのか、翔一が代表するように声を出した。すると、邪眼は自分の腹部を指差して告げる。これはアマダムなのだと。それだけで五代と光太郎は理解した。邪眼が何を考え、何をしようとしているのかを。

 

「不味いっ!? 奴は凄まじき戦士へ超変身するつもりだ!」

「邪眼っ! それはお前をも滅ぼす力だぞ! 分かっているのかっ!」

「はっ! どの道貴様らを殺さねば気がすまん。それに、我は創世王となるのだ。あの力如き、御してみせるわっ!」

 

 そう吠えるように告げると、邪眼は低い声で唸り始める。やがてその体が黒い闇のような影のようなものに包まれていき、その姿を変えていく。銀色の身体は白い身体へ変わり、所々に金色のラインが入る。それを見ていた五代だけが、その光景の意味する事を悟り息を呑んでいた。

 

(第0号と同じだ……)

 

 それは、忘れられない姿。五代にとっては悪夢のような相手。あの吹雪の中、殺し合った存在。それと変化した邪眼は酷似していた。ダグバのような体に変わった邪眼は、体に溢れる力を感じて内心歓喜に震えつつも努めて冷静に告げた。

 

「見たか。貴様らが声高に叫ぶ変身など、我にかかれば造作もない。それに、この力ならば……貴様らに勝てるっ!」

 

 自分の手を握り締め、そう言い切った邪眼に対し、五代達四人が取った手段は一つだった。それぞれが変身ポーズを取る。それだけでなのは達に期待と希望が強くなった。そう、そうなのだ。その目の前に広がるのは、初めて見る光景なのだから。

 四人の仮面ライダー。それが同時に変身する最初で最後の瞬間。そう考え、誰もが邪眼の変貌で抱いた恐怖と不安を抑え付ける。今から見つめる光景こそ、奇跡の瞬間なのだと言い聞かせるように。

 

―――変身っ!!

 

 青空に太陽が眩しく輝き、玉座の間へ光を注ぐ。それを見ながら四人は姿を変える。光太郎は黒の鎧を、真司は銀の鎧を、翔一は金の鎧を、五代は赤の鎧を纏う。しかし、そこでなのは達は見た。光太郎の姿がRXではないものへ変わっていたのを。それはBLACK。光太郎が五代へ自身の太陽エネルギーを全て与えていたために起きた珍事だ。

 すると、ゆりかごが上昇しているためか四人へ日差しが当たる。更に周囲を烈火が覆ったのをキッカケにそれぞれの鎧が変化した。そうして炎が消えたそこには、四人のヒーローがいた。クウガアルティメットフォーム、アギトシャイニングフォーム、龍騎サバイブ、BLACKRXという、四人の仮面ライダーが雄々しく並び立っていたのだ。

 

「俺は、太陽の子! 仮面ライダー、BLACKっ! RXっ!!」

「仮面ライダー! 龍騎っ!!」

「仮面ライダーアギトっ!!」

「仮面ライダー……クウガっ!!」

 

 名乗りと共に構える四人。その力強さと頼もしさがなのは達に笑顔を、邪眼に苛立たしさを与える。闇より生まれし光の力。それこそが”仮面ライダー”。故に彼らは闇と戦う。いつの世も人の影となって、その魔の手に敢然と立ち向かうために。

 今、なのは達の前に並び立つ者達はまさしく勇者。人には言えぬ痛みと悲しみを抱き、一人でも戦おうと決めた優しくも強い者。その背を見つめ、なのは達も思いを新たにした。この背に守られるだけにはならない。それが強さなのだと。

 

「ふん、貴様らがどれだけ足掻こうとも無駄だ。既に我は究極の力を手に入れたのだ。最早勝ち目はないぞ」

 

 そんな勝ち誇るような邪眼の言葉を聞いて、まずはなのはが口を開いた。

 

「そんな事ない。貴方が手に入れたのは滅びの力だよ」

「そう、過ぎた力は身を滅ぼす。それはいつの時代も同じ」

「それに気付かず、ただ力を求めるだけのあんたにわたし達は負けへん」

 

 なのはに続けとフェイトとはやてが告げる。五代はそれを知っていた。だからこそ、凄まじき戦士となってもどこかで自分を止めようとしていた。そう三人は考えていた。故に邪眼には決して負ける訳にはいかないとも。あの幼い日に仮面ライダーと出会った三人。人ならざる力を使う事に理由を必要とし、常に他者のために振るい続けた存在。それを知っているからこそ、誰よりもその思いは強い。

 

 そんな三人の言葉を受けて邪眼が忌々しく思う中、スバルが問いかけた。

 

「お前は、何で仮面ライダーが怪人に勝てるかって考えた事がある?」

「どうして性能で勝る怪人がライダーに勝てないのか。どうして卑怯な真似まで使う怪人が正攻法のライダーに負けるのか……ってね」

「僕達はその答えを知った。お前達が必要ないと切り捨てた人間の心。それこそがその答えだったんだ」

「守りたい人が、守りたい場所がある。それがデータなんかじゃ計れない強さをくれるんだって」

「気高い人としての魂。それがない怪人にライダーを倒せる訳がなかったのよ」

 

 スバルの問いかけの意図するもの。それを理解し、ティアナが、エリオが、キャロが、ギンガが告げていく。六課での日々。それだけではない。彼ら五人はそれぞれに深くライダーと関った。戦いで、日常で、その優しさと強さに触れた。そして知った。本当の強さとは何かを。決して力などではない。誰かを倒すのではなく、誰かを守れる事。みんなを泣かせる真似をするのではなく、みんなを笑顔にする事。それが強さなのだと、五人は教えてもらったのだ。

 

 その五人にも邪眼は苛立つ。圧倒的に不利な状況にも関らず、毅然としている事。それが邪眼の神経を逆撫でしていた。そこへシグナム達が告げた。

 

「貴様は我々に絶望を与えると、そう言った。だが、それは無理な話だったのだ」

「お前があたしらに絶望を与えられるとすれば、それはライダーが死ぬ時だかんな」

「でも、残念ね。仮面ライダーは死なない。そう、死なないのよ」

「例え貴様が四人を消し去ったとしても、我らは絶望しない。何故ならば……」

「リイン達の心の中に、ライダーはいつでもいるのですっ!」

 

 シグナムの言葉に、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、ツヴァイも応じていく。守護騎士として幾多の戦場を経験したシグナム達。だからこそ、翔一や光太郎が告げた仮面ライダーの戦いは胸に響いた。たった一人で巨悪に挑み、誰かに賞賛される事無く戦い抜いたその在り方。誰かに誇るでも、伝えるのでもなく、ただ人々が平和に暮らせるだけでいい。そんな生き方を選んだ者達。シグナム達にとっても、ツヴァイにとってもどんな物語の英雄よりも英雄らしいと思ったのだから。

 

 はっきりと何があろうと絶望しないと告げた八神家の者達。そこへ更に言葉をぶつける者がいた。ウーノだった。

 

「それに、貴方はこの期に及んで気付かないのね」

「一人で私達を倒せるって、そう思ってるのでしょうけど」

「貴様には無理だ。仮面ライダーでもない貴様ではな」

「力が正義……そぉんな馬鹿な事を信じる限り、勝ち目は絶対にないの」

「本当の正義の意味を知らぬお前が、我々を、ライダーを倒せるはずがない」

「戦いを止める。そのために戦うのがライダーなんだから!」

「貴様のような力を誇示するだけの愚か者に明日はない」

「誰かと支え合う事でしか生きられない。それは弱さかもしれない。でも、それを強さに変える事も出来るのが僕達人間だ」

「恐れも痛みもない。守りたいって思う気持ちがあれば……アタシ達はそれだけで戦えるっ!」

「優しさも甘さも弱さって切り捨てる事しか出来ないお前に、あたし達は屈しない!」

「ホントの強さは、そんな事まで全てひっくるめて生きる事が出来る事ッス!」

「どんな危険に傷付く事があっても、未来を信じて歩く事が出来る。それが……」

「諦めないって事なんだ!」

 

 ウーノの言葉。それがドゥーエの、トーレの、クアットロの、チンクの、セインの言葉を引き出して、セッテの、オットーの、ノーヴェの、ディエチの、ウェンディの、ディードの、アギトの言葉を紡がせる。

 真司と触れ合い、仮面ライダーの別の姿を知った彼女達。それだからこそ、五代達との出会いが大きな意味を持った。仮面ライダーの本当の姿。それが真司の在り方と同じだったのだから。故に邪眼へ告げる。いくら変身しようとも無駄だ、と。仮面ライダーの強さの秘密。それを理解しようともしない限り、勝ち目など絶対に有り得ない。

 

 邪眼がなのは達の言葉に激しい怒りを感じてその拳を握る。それでも、自分の優位は揺るがないとばかりに悠然と佇み、はっきりと告げた。

 

「よかろう。そこまで言うのならば向かってくるがいい。創世王たるこの我に勝てると言うのならな!」

 

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 その邪眼の言葉を受けて戦いが開始された。走り出すライダー達。それを見た邪眼の手が真っ先にクウガへ向けられると同時にその全身を炎が包む。しかし、それをクウガは受けても僅かによろめく程度で走り続けた。そのまま炎を体に纏わせながらクウガは邪眼へ拳を叩き込む。それがしっかりとその場所へ封印を意味する文字を刻んだ。それはすぐに消え去るも、それに構わず続けてクウガは邪眼の体を蹴り飛ばした。

 

「おりゃ!」

「ぐぬっ!」

 

 少し下がりながら呻く邪眼。それでもあまり効いていないように立ち直った。一度は手も足も出せずにやられた相手。それと戦ってもほとんどダメージがない。その事実が邪眼へ余裕を与える。

 だが、そこへすかさず追撃を加えようとする者達がいた。アギトと龍騎だ。二人は同時に跳び上がると、その体勢を蹴りへと移行させた。ダブルライダーキックと呼ばれる状態へと。

 

「「はあっ!」」

「舐めるなっ!」

 

 しかし、それは邪眼の手から発射された破壊光線で迎撃される。更に追い撃ちでその手を向けようとする邪眼。それを見たRXは両手を腰に当て、力強く叫ぶ。

 

「キングストーンフラッシュっ!」

「ぬっ! ……小癪な真似をっ!」

 

 サンライザーから放たれた光は邪眼の体を揺らし、その行動を妨害する。それに怒りを抱いて邪眼はその手をRXへと向けた。眩しい光の中、邪眼の力がRXへ炎を発生させるはずだった。しかし、RXのそれが狙ったのは邪眼の注意を自分へ引き付ける事だったのだ。

 邪眼がRXへ手を向けた瞬間、その腹部に何かが直撃するように飛来した。それは電撃を纏った空気弾。それに気付いた邪眼は咄嗟に手をそこへ動かした。そしてすぐに視線を動かすと、そこには漆黒のライジングペガサスボウガンを手にしたクウガの姿があった。ただ、そのボウガンに刻まれた文字部分は黒ではなく元来の緑。

 

 そう、五代は凄まじき戦士の力を完全に制御していた。あの吹雪の中で変身した際と同じ結果になるように、みんなの笑顔を仮面ライダーとして守れるようにと強く願って変身する事で。

 クウガの手にしたボウガンが瞬時にロッドへ変わる。ティアナから渡されたクロスミラージュ。それは、今のクウガにとって頼もしい存在だった。一番の利点は射撃と斬撃が可能な事だ。今のクウガは、一度武器に出来ればそこから全てに変化させる事が出来るのだから。

 

「貴様ぁ!」

「みんな、あいつのアマダムを狙って! あれが傷付けば邪眼の変身も出来なくなるから!」

 

 その声と共にクウガがその場を蹴ってライジングドラゴンロッドで邪眼を襲う。それに続くように三人のライダーも動き出した。この場にいる者達にとって、邪眼の力で一番厄介なのは自然発火。だがそれは、発動させるために手を向ける必要がある事に誰もが気付いていた。事実は違う。本当はその視線だけでも出来るのだが、任意で標的を決めるために無意識で手を使っているだけなのだ。

 しかし、それをクウガも邪眼も知らない。特に邪眼は凄まじき戦士がやった行動を模しているのだから余計に。そうとは知らず、邪眼に対してライダー達は連携を以って対抗した。邪眼と同等の力を持つクウガと太陽光で治癒出来るRXが前線を担当し、アギトと龍騎は二人の援護として立ち回る。

 

 四人がそうやって戦う中、なのは達もただ見ているだけではなかった。邪眼の動きを封じるためにとはやてが密かにユニゾンを完了させ、氷結魔法の詠唱を開始。ティアナはクアットロとキャロの三人である事を実行に移すべく相談していて、残った者達も自分達の出来る範囲でライダー達を援護しようと動き出していたのだ。

 

「ウーノ、AMFCはどれだけ持続出来そうだ?」

「現状……おそらく五分よ。それ以上はガジェットが耐え切れないと思うわ」

 

 シグナムがレヴァンテインを構えながら尋ねた言葉にウーノはそう返した。クアットロとオットーを制御役から解放し、たった一人でガジェットを運用している彼女。その声には若干の苦しさが滲んでいる。それでもその表情は凛々しいまま。そんなウーノの言葉を聞いて誰もが頷いた。魔導師達は揃ってその時間を有効活用するために動き出す。

 

「それだけあれば十分だっ! その五分、必ず守り切るっ!」

 

 ザフィーラはそう言うと、邪眼の周囲へ無数の棘を出現させた。それで邪眼の動きが一瞬止まる。そこを見逃さず、棘を砕きながら放たれる砲撃があった。それはなのはとディエチのもの。ディバインバスターとイノーメスカノンの攻撃だった。腹部を狙って放たれたものだったのだが、それに気付いていた邪眼が当然防御する。それでも二人は構わなかった。何故なら、それは単なる攻撃だけではなく足止めも兼ねていたのだから。

 

「はやてちゃん、今だよっ!」

「ライダー、離れてっ!」

「アーテムデスエイセスっ!」

 

 なのはの声とディエチの声が響き、それを合図に邪眼の周囲を吹雪が襲う。はやての発動させた氷結魔法だ。玉座の間の一部を凍て付かせるそれが邪眼の体を包む。かなりの効果範囲を持つこの魔法。それをツヴァイが制御し、玉座の間の半分程で範囲を止めていた。

 だが、誰もそれで邪眼の動きを止められるなどとは思っていない。これは所謂準備段階。邪眼を倒すためのなのは達なりの戦い。それの開幕を告げる合図だ。今の邪眼へは生半可な攻撃では通用しないと誰もが感じていた。だからこそ加減は出来ない。文字通り全力の攻撃を叩き込む。そのために全員が残った魔力と体力を総動員する覚悟を決めていた。

 

「ライダー! レリックの事は私達に任せてっ!」

「絶対に変身を解除させてみせるから!」

 

 全員を代表して、スバルとティアナがそう告げる。それに四人のライダーは頷きながらも邪眼への警戒を怠らない。今は魔法の効果で動きを止めている邪眼だったが、それが本当に凍結しているからではないと感じ取っていたからだ。何かを狙っている。そう察したが故に四人は密かに話し合う。邪眼撃破までの方法と万が一に備えての対処法を。なのは達を信じていない訳ではない。しかし、今の邪眼は凄まじき戦士と同じ。その力を警戒するに越した事はないのだ。

 

「行くよっ!」

「おうっ!」

「ええっ!」

 

 スバルの声にノーヴェとギンガが応じる。邪眼の腹部にあるアマダム。それに傷もしくはひびを入れる事が出来れば状況は好転する。そのため、なのは達は賭けに出る事にした。邪眼を倒すための第一陣に選ばれたのはこの加速力と突破力に秀でた三人。

 同じようにトーレやエリオも候補に挙がったのだが、結局スバル達に決まったのは邪眼へ奪われると利用されかねない武装がないため。そして、凍結している床を踏む事無く接近出来、自由に動き回る事が出来るのも選ばれた理由の一つ。ウイングロードとエアライナーを展開し、スバル達が走り出して邪眼へ接近した瞬間、氷が吹き飛ばされた。

 

「掛かったなっ!」

 

 視界に捉えたスバル達へ邪眼がその手を向ける。邪眼の能力である自然発火がスバル達を襲った。だが、その炎が三人を包む前になのはが有り得ない行動に出た。

 

「ディバイン! バスタァァァッ!」

「何だとっ?!」

 

 なのはの放った閃光はスバル達ごと邪眼を襲う。咄嗟に防御する邪眼。そして、それこそがスバル達三人が選ばれた最後の理由。魔法の輝きが消えた先には、邪眼の両腕を取り押さえるギンガとノーヴェに腹部へ拳を突き立てているスバルの姿があった。その体を襲っていたはずの炎は綺麗に消えている。

 そう、なのは達は炎を防ぐ手立ては少ないが消す方法ならあると思いついたのだ。それは魔法の威力を以ってその炎を消し払う事。もしくは全身をその輝きで包む事で、炎を生み出しているだろう要因を吹き飛ばせるのではないかと考えたのだ。

 

 だからこそ、スバル達三人が選ばれた。耐久力など前衛組の中でトップクラスである三人ならば、加減してあるとはいえなのはの砲撃にも耐え切れると信じて。

 

「ば、馬鹿なっ! 味方ごと攻撃するなどとっ!」

「「スバルっ!」」

「振! 動! 拳っ!」

 

 邪眼の驚きも聞き流し、二人は全力で腕を押さえながら叫ぶ。それに呼応し、スバルはISではなく自身の技として振動破砕を応用した。指向性を与える事で反動と負担を軽減したそれは、邪眼のアマダムへ少なからずダメージを与える事に成功する。しかし、すぐさま邪眼が三人を振り払った。それをトーレとセッテが受け止め、即座に撤退。追撃として邪眼が強力になった破壊光線を放つも、それをフェイトとオットーが迎撃した。

 

「プラズマザンバーっ!」

「レイストーム!」

 

 雷光と閃光が合わさり、破壊光線を食い止めようとする。だが、その威力は大きく二人の攻撃が押され始めた。それを見てウェンディがライディングボードを構えて、限界以上に集束させたエネルギーを発射した。

 

「エリアルキャノンもあるッスよ!」

「チッ!」

 

 ウェンディの放った攻撃を加え、その輝きは見事に邪眼の光線を相殺する事が出来た。その代償に、ウェンディの持っていたライディングボードは、二度に及ぶ限界以上のエネルギーに耐え切れず、発射口が完全に歪んでしまった。もう攻撃には使えないとウェンディは判断し後方へと下がる。まだ防御用には使えるからだ。

 そこから始まる邪眼の猛撃。まるでこのままではアマダムからの力を失うと気付いているかのように、形振り構わず攻撃を開始したのだ。だが、それを迎撃或いは相殺する者がいた。クウガだ。彼は自分も良くは知らない凄まじき戦士の力を使う邪眼を見て、心からそれを防ぎたいと思いながら力を振るった。それにアマダムが応えたのだ。

 

 眠っていた自我。それが再び目覚めてクウガへ教えたのだ。邪眼の振るう力への対処や正体を。故にクウガは自分の能力を総動員し、アマダムの言葉を聞きながら邪眼へと立ち向かった。

 

”空間転移は位置を特定する事で反撃する。我が共鳴を感じる場所を指示するから、そこへ攻撃せよ”

(分かった!)

 

 アマダムからの指示に即応し場所を移動するクウガ。そしてその場で腰を落とすと力強く拳を突き出した。

 

「おおりゃ!」

「ぐおっ!」

 

 瞬間移動した邪眼だが、出現すると同時にクウガの全力の拳が叩き込まれた。それは不意を突こうとしていた邪眼への最高のカウンターとなる。しかもクウガは、ダグバとの戦いと同じくその拳を腹部へと命中させたのだ。

 

「「今だっ!」」

 

 その破壊力に怯む邪眼を見て、アギトと龍騎が再度跳び上がる。そのまま蹴りの姿勢へ移行する二人。それは、あの”ダブルライダー”必殺の攻撃。強敵を悉く粉砕してきた最強技の一つ。

 

「「ライダーダブルキック!!」」

 

 以前光太郎から聞いた先輩ライダーの合体技。それを思い出しての攻撃は邪眼の背中を大きく蹴り飛ばした。その威力に床へ倒れこむ邪眼へ更なる攻撃が放たれる。それははやての魔法。動きを止める牽制を兼ねた射撃魔法だ。

 

「制御は任せたで、リイン! フリジットダガー!」

”そこですっ!”

「させんわっ!」

 

 その攻撃を電撃で撃ち落す邪眼へブーメランブレードが飛来、その周囲を飛び交って牽制する。そこへ複数のスティンガーと魔力でコーティングされた鉄球が押し寄せた。邪眼はブーメランブレードを迎撃しようとしていたが、先にスティンガーと鉄球を落とすべきかと考えた。なので、そちらへ破壊光線を放つもそれを読んでいたようにブーメランブレードがそれを受け止める。

 

「やはりそうくるか」

「自らの武器を犠牲にするだとっ?!」

 

 破壊力に負けて砕け散るブーメランブレード。それが起こした爆発を煙幕のようにしつつスティンガーと鉄球が姿を隠す。やがてその中を抜けて二つの攻撃は邪眼へ殺到する。

 

「「爆ぜろっ!」」

「チィ!」

 

 チンクとヴィータの声と共に爆発するスティンガーと鉄球。それに邪眼が微かに視界を塞がれ、その視覚へ意識を向ける。そしてその視覚が二人を捉えるものの、攻撃を放つ前にそこへ何かが突撃した。それはバイオライダーとトーレにディードだった。高速機動をする事が出来るバイオライダーを先頭に、トーレとディードがISを使って続いたのだ。邪眼の攻撃を受けても回復が可能なRX。そのため、思いきった行動に出られたのだ。

 

「スパークカッター!」

「ぬおぉぉぉぉ!」

「ツイン!」

「インパルスっ!」

 

 バイオライダーの必殺技が邪眼へ炸裂し、体勢を崩した瞬間を狙ってディードとトーレの体が交差した。その二人の連携技が邪眼へ追い撃ちをかける。だが、まだ邪眼は立ち直るとその目から怪光線を発射した。それを辛うじて回避するなのは達だったが、その着弾地点を見て誰もが息を呑んだ。

 それは、あの少女の亡骸が横たわる場所だったのだ。最悪の光景に周囲が悔しさを感じ、邪眼だけがほくそ笑んだ。しかし煙が晴れた先に見えたのは、両腕を交差させて立ち尽くすセインとドゥーエの姿だった。

 

「こ、今度は守れた……ね」

「これで……少しは償えたかしら……?」

 

 セインはあの時庇われた事を指し、ドゥーエはヴィヴィオ達の基となった聖王遺物を持ち出した事を指していた。共に罪悪感から動いたのだが、一度だけ視線を後ろへやって微かに笑う。そこには安らかに眠る少女が無事なまま存在していたのだから。それに安堵し二人はその体に受けたダメージのためにそのまま床に倒れる。

 その二人を邪眼から守るためにチンクとウェンディが素早く動く。一方邪眼はその結果を見て舌打ちした。それで先程の攻撃が狙ったものだと気付いたクウガ達。しかし、怒りを感じるも憎しみには変えない。

 

「死者へ平気で攻撃を加えるとは……アギト、行くぞっ!」

「おうっ!」

”シュランゲフォルム”

「お前だけは……絶対に許さないっ!」

”スピーアアングリフ”

「調子に乗るなぁ!」

 

 シグナムとアギトがユニゾンする。魔力を失った状態でも、シグナムとならば龍騎と違い体力面なども問題ないとアギトは思い、微かに回復した魔力を炎熱加速に注ぐ事にしたのだ。

 エリオも怒りを力に変え、邪眼へ向かって攻撃を開始する。連結刃が唸りを上げ、エリオはジェット噴射で接近する。邪眼はその二人の攻撃を見て、破壊光線で迎撃しようと腕を動かそうとして―――緑色のバインドに雁字搦めとされた。

 

「これはっ?!」

「今よっ!」

 

 シャマルの作り出した僅かな隙。それを二人は待っていたかのように攻撃を放つ。それは、変換資質を持つベルカの騎士ならば基本とも言える攻撃。変換した魔力を高密度に武器に付与し、打撃として撃ち込むというもの。

 

”ぶちかませ!”

「飛竜!」

「紫電!」

 

 炎と雷が手にしたデバイスへ宿る。示し合わせた訳ではないが、奇しくもそれはシグナムの技の複合となった。

 

「「一閃っ!!」」

「がはっ!」

 

 烈火の将の合わせ技を喰らい、膝をつく邪眼。そこで気付いたのだ。最初感じていた溢れんばかりの力が消え失せ始めている事を。慌てて視線を腹部へ向ける邪眼。そこには大きなひびを生じさせたレリックがあった。スバルの振動拳とクウガのパンチ。それが直接的に破壊を演出し、他の者達の攻撃も少しずつではあるがその亀裂を大きくさせていたのだ。故に邪眼の体を駆け巡っていた凄まじい力も徐々に弱まっていたのだから。

 

「お、おのれぇぇぇぇ!」

「それじゃ打ち合わせ通り頼みます、なのはさん!」

「任せて。行くよ、クアットロ!」

「ええっ! お願いね、キャロちゃん」

「はいっ!」

 

 怒り狂う邪眼を見てその余裕が無くなった事を悟り、遂にティアナ達が動いた。フェイクシルエットとシルバーカーテンを重ね合わせ、それをキャロのブーストを受けて動かす三人の合体技とでもいうべきものがそこに出現した。

 

 それは、銀色の仮面ライダー。そう、シャドームーンだ。光太郎から聞いた特徴を基に再現したその姿は、まさしく本物と同じ。ティアナ達は考えたのだ。眠りについたシャドームーンを踏み躙った邪眼へ光太郎が抱いた怒り。それを少しでも晴らしたいと。

 予想だにしない光景に動揺する邪眼。すると、シャドームーンは邪眼向かって動き出した。邪眼も幻影と分かっているのだろうが、それはただの幻影ではなかった。その全身はなのはが制御する魔力弾を隠している。つまり、動く爆弾なのだ。

 

「くっ……猪口才な!」

 

 攻撃してもされても小さなダメージを受ける。それに苛立つ邪眼。一方、それを見たRXはティアナ達の考えに深い感謝と感動を覚えていた。幻影であろうとシャドームーンと共闘している状況を感じさせた事にだ。

 

(シャドームーン……いや、信彦。お前がここにいればこうしてくれただろうな)

 

 そう思い、拳を握り締めるRX。この瞬間こそ自分が待ち望んでいた状況だと、そう言わんばかりに邪眼へと向かって走り出す。そして、邪眼と戦うシャドームーンの隣へ立つと同時に横へ視線を向けて告げる。

 

「行くぞ、シャドームーン!」

 

 幻影へ語りかけると同時に構えるRX。その瞬間、何故だかRXは声が聞こえた気がした。

 

―――いいだろう。今回だけは手を貸してやる。

 

 それに内心驚きを感じるものの、RXはその場から跳び上がる。それに続くようにシャドームーンも跳び上がり、二人は同じ姿勢を取った。それは両脚で相手を蹴るRXキックとシャドーキックの体勢だ。

 

―――ダブルキックっ!!

 

 見た目だけは二人の世紀王が力を合わせたように見える光景。それに誰もが何とも言えない感慨を受ける。邪眼はその攻撃を受けて大きく後ずさった。それと同時に邪眼のレリックが光を失う。それを見つめながら立ち上がるRXとシャドームーン。そして両者は少しだけお互いを見つめ合う。まるで本人同士が向かい合っているかのように。するとシャドームーンは無言で片手を差し出した。それにRXは驚きを感じる事もなく自然とその手を握り返していた。

 本人も何故そうしたのかは分からない。だが目の前の相手が本物の秋月信彦が変身したシャドームーンに思えたのだ。握手を交わす二人の世紀王。そこでティアナ達の限界が来たため、シャドームーンが消えていく。それを一時も目を逸らさずに見送るRX。その瞬間、ウーノが倒れるように態勢を崩しながら叫んだ。

 

「ごめんなさい! AMFCも限界よっ!」

 

 一人でガジェットの制御を任されたウーノは五分のところを何とか六分まで継続させていた。その負担に崩れたウーノの声を受け、なのは達が視線をクウガ達へ向けた。それに頷きを返し四人は構える。視線の先にいる邪眼はその姿を究極体へと退化させていた。

 

-4ページ-

「俺から行くぞっ!」

 

”FINAL VENT”

 

 龍騎の前に出現するドラグランザー。バイクへ変形し、それへ乗り込む龍騎。すると、その上にRXが飛び乗った。

 

「頼むぞ、龍騎!」

「任せてくれ、先輩っ!」

 

 その声で走り出すドラグランザー。ウィリー状態から火球を邪眼目掛けて放つドラグランザーだったが、普段ならばそこから踏み潰すような動きを見せる。しかし、この時は違った。そのままの状態で邪眼へ突撃したのだ。邪眼はそれを受け止めようとするが、それは出来ずに終わる。ドラグランザーから跳び立ち、RXがその体へ蹴りを叩き込んだためだ。その反動でRXが宙に舞う下をドラグランザーが駆け抜ける。そして体勢を崩した邪眼へ龍騎はその勢いのまま体当たりをぶちかました。

 

 大きく飛ばされる邪眼。それを待っていたかのように走り出すのはクウガだ。そのクウガの隣には二つのアギトの紋章が出現していく。アギトはそれを前に構え、長く息を吐いていた。

 その先でふらふらと邪眼が立ち上がった。その瞬間、クウガが、アギトが床を蹴った。回転するクウガと紋章を抜けながら加速するアギト。それが完全なタイミングで邪眼へ蹴りを極める。

 

「「ダブルライダーキックっ!!」」

 

 合計二百トンを超える破壊力が見事に炸裂した。その威力に邪眼が大きく吹き飛ばされていく。激しく床に叩き付けられながらも再びゆっくりと立ち上がる邪眼に誰もが息を呑んだ。すると、その体から紫色のオーラが漂い始め、空間が歪み出したのだ。

 

 それを見たRXはその意味に気付いた。そう、発電所の戦いでも同じ事が起きたのだ。その際、一号はこう言った。邪眼は精神エネルギーとなって逃げるつもりだと。なので、そうはさせないとばかりにRXは両手を腰に当てて叫ぶ。

 

―――キングストーンフラッシュ!!

 

 その時、不思議な事が起こった。邪眼の体から漂っていたオーラが消え失せ、歪み出していた空間が元に戻ったのだ。それを受け、四人は邪眼を囲むように散る。

 

「な、何故だ!? 何故肉体を捨てる事が出来んっ!?」

「これで貴様はもう逃げられないぞ!」

「観念しろ、邪眼!」

「今度こそ……今度こそ終わりにしてやる!」

「ここで決着を着けましょう!」

 

 RXが、龍騎が、アギトが、そしてクウガがそう告げていく。そして、なのは達の見守る中、四人のライダーが床を蹴った。その体を回転させながら、四人は同じ言葉を紡いでいく。

 

―――ライダァァァァァキィィィックっ!!

 

 四方向から炸裂するライダーキック。それが邪眼の体へとどめの一撃としての役割を果たす。体中に生じた亀裂からエネルギーを放出するようにたじろぐ邪眼。それを見つめながらも構えを解かない四人。

 

「これで勝ったと思うなよ……光あるところに闇は必ず生まれる。我を倒そうと、いつか再び同じような存在が現れるだろう」

 

 邪眼の言葉に悔しげに表情を歪めるなのは達。それがある意味での事実だと知っているからだ。悪は無くならない。それは人がいる限り何時までも続く戦いなのだ。なのは達はそう思って拳を握る。しかし、そんな言葉に真っ向から反論する者がいた。

 

「闇あるところに……光もまた生まれる!」

「人が希望を……優しさを失わない限り!」

「俺達は……仮面ライダーは必ず現れる!」

「例え、それが終わらない戦いだったとしても……今を救えば明日が変わると信じて!」

「「「「俺達は戦うっ!」」」」

 

 その言葉に誰もが力強く頷いた。邪眼はそれを聞きながら嗤いながら散った。その直後ゆりかごが大きく震動を始めた。邪眼を失った事で敢然に制御を失ったのだ。すぐにゴウラムトルネイダーを呼び寄せるRX。クウガは一人急いでビートチェイサーを取りに走る。

 体力が底を尽き始めていたなのは達を逃がすため、ライダー達は総力を挙げて動き出した。ウェンディはライディングボードをISで浮かし、何とか自分を含め三人は連れて行けると告げた。それに続いてキャロがフリードを元に戻して脱出する事を提案する。

 

 ただ強力なAMFが戻ってしまった以上フリードを戻す事さえ難しい。こうして、一先ずクウガが少女の亡骸を抱き抱えたなのはをビートチェイサーで入口まで運ぶ事になり、アギトはゴウラムを分離させマシントルネイダーではやてとティアナにヴィータにシャマルを運ぶ。

 RXはゴウラムへ指示を出し、その背にディエチとギンガを乗せてくれるように頼むと、自分はキャロを抱き抱えて走り出す。ウェンディは傷付いたセインとドゥーエを乗せて動き出し、龍騎はドラグランザーにウーノとクアットロを乗せ、自分は残りの者達を励ましながら走る。

 

 そして入口に辿り着いたクウガ達を待っていたのは、ヴァイスの操縦するヘリと独断で行動していたティーダだった。落下を始めた事でギリギリヘリが接近出来る高度になったため、なのはは少女を抱いたままハッチ目掛けて飛び降りた。

 途中AMFの効果範囲外となった事を察したなのはが飛行魔法を使い無事にヘリへ到着したのを見届け、クウガは再びビートチェイサーを走らせゆりかごの中へ戻る。アギト達はそれと入れ替わりにそのままヘリへと到着し、はやて達を降ろした。

 

「じゃ、俺は残ったみんなを運ぶから」

 

 アギトはマシントルネイダーの特性を活かし、そのままゆりかごからの脱出に活躍する。ティーダもゆりかごへ接近し、飛行魔法の使えない者達を受け止めての救助活動へ参加した。

 

「すみません、ティーダさん」

「助かる」

「いえ、気にしないでください。対AMF訓練をしてない俺にはこれぐらいしか出来ないんで」

 

 チンクをヘリへ運び終えたティーダへシャマルが礼を述べる。それにティーダは軽い笑みを浮かべ、最後には悔しそうに呟いて再び空へと舞い上がった。そんな彼にティアナが思わず声を上げて叫ぶ。

 

「お兄ちゃんっ!」

 

 それにティーダが視線を動かす。それを受け止め、ティアナは笑顔で告げた。あのメールでは文字でしかなかったある言葉を、自分の心からの気持ちで言うために。

 

「ありがとうっ!」

「……おう」

 

 返って来たのは、柔らかい笑みとサムズアップ。それにティアナもサムズアップを返す。こうして何とか全員脱出出来たクウガ達だったが、ヘリの許容量にも限界があるため、キャロがフリードを元に戻してその代わりをする事になり、フリードの背にはフォワードメンバー四人にギンガが乗った。

 RXはクウガと共にゴウラムへ乗り、アギトははやてと共にスライダーモードのマシントルネイダーで降下する。龍騎はドラグランザーに乗り、それにチンクとセインも伴った。そうして六課が離れた事を確認した管理局は衛星軌道上に展開した艦隊を以ってゆりかごを破壊して全ては終わりを告げる。

 

 これがレリック事件???後に関係者達から第二次邪眼大戦と呼ばれる戦いの終焉。次元世界を恐怖と混乱に陥れようとした邪眼の野望は潰え、再び管理世界に平和が戻った瞬間だった。その頃、その現場からそう離れていないベルカ自治区は聖王教会ではある異変が起こっていた。

 

「こ、これは一体……」

 

 カリムは自分の目の前で勝手に発動した自身のレアスキルに困惑していた。今、彼女の見ているモニターには無事な姿を見せた仮面ライダー達と六課の姿があった。これでもう怪人による恐怖は終わったと、そう確信した矢先の出来事。そして、そこに表示されたのは今回の予言に一文加えられたものだった。

 

 かくして闇は滅び去り、戦士、帰還の途に着かん。

 

 

 長きに渡る戦いは幕を下ろした。仮面の戦士達と魔法少女達の出会いは多くの笑顔と未来を守り、失われるはずの命を助けた。だが、始まりがあれば終わりがある。まだその足音を彼らは知らない。繋がり結ばれた絆が紡いだ物語。その最後の一ページは近い……

 

 

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次回最終回。長かった拙作もいよいよ終わります。

 

最終回は、ある曲をイメージして頂けると思います。これを読んでくれた誰もが知っているだろう”あの歌”を。

説明
邪眼への憎しみと少女への悲しみ。それが五代を凄まじき戦士へと変えた。だがそれをクウガへ戻すべく真司達が動き出す。
長きに渡る戦いの幕、それが今、静かに落ちようとしている。いかなる闇をも打ち砕く正義の光。その系譜に終わりはなく、その戦いに敗北はないと示すように……
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コメント
終盤は正義の系譜の音楽が脳内で流れていました。(慈恩堂)
タグ
RX 龍騎 アギト クウガ リリカルなのは 仮面ライダー 正義の系譜 

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