魔法少女と魔術使い
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プロローグ

 

 

 

ある地方に小さな人影があった。

いや倒れていたという方が妥当だろう。

 

「う……あ……」

 

 

身動きを全くとろうとしないそれはかすかではあるが、しかし確かに生きていた。

 

少年は一人だった。

今までの人生においても変わらない。

彼は記憶喪失だった。

どこで生まれどこで育ったのかも知らなかった。

唯一知っている名前も自分以外は知らなかった。

皆がコイツ、アイツと呼んでいた。

しかし誰も彼自身のことを認識したわけではなかった。

 

故に少年は死というものも生というものも知らなかった。

いや知ってはいたが何が違うのかはわからなかった。

少年にとってはどちらも同じだった。

 

どちらにしても自分のことなど誰も知らないと思っていた。

 

それは事実だった。

 

今日この時までは

 

 

「なにやっているの?」

 

それは偶然だった。

百回あれば九十九回、千回あれば九百九十九回は見逃されていた。

しかしそれは起きた。

 

少年に声をかけたのは少女だった。

誰が見ても可憐だと思うような少女だった。

 

少年にはまるで天国に連れて行ってくれる天使に見えたが、こんな自分が本当に天国に行けるのかという的外れな心配をしていた。

 

「大丈夫?」

 

「あ……あ……」

 

少年は答えられなかった。

というより何を言えばいいのか、何と言っていいのか、そもそも自分は答えればいいのか。

それも理解していなかった。

 

そこに少女の父親らしき男が現れた。

 

「イリヤ、何をしているんだい」

 

「キリツグー、この子なに聞いても何も言ってくれないの、どうしてー?」

 

「これは…!いい子だから少し静かにしていようね」

 

「うん、わかった!」

 

「よし、いい子だ。さて…どうするか」

 

その言葉を最後に少年の意識は落ちていた。

結局何も答えること出来なかったという思いを残しながら。

 

 

***

 

 

「う……」

 

少年が気が付いたのは暖炉がある暖かな部屋のベッドの上だった。

いつの間に運ばれていたのか壮年の荷物もその場にあった。

荷物と言ってもいつから、なぜ持っていたのかもわからない物だったが。

この様子からしてすぐに殺されることはなさそうだと静かに判断した。

 

「あら、起きたのね」

 

少年が状況判断を済ましたと同時に部屋に入ってきたのは少年が気絶する前に声をかけた少女を大人にしたような姿をしていた。

しかし先ほどの少女が天真爛漫な妖精だとしたら、こちらの女性は貴族の姫君のような雰囲気だった。

 

「大丈夫かしら?」

 

「…なにが……?」

 

「なにがって…」

 

少年にとって大丈夫という言葉は存在しなかった。

 

なにが大丈夫なのか。

 

それは命なのだろうか。

それならば体に特に異常はない。

あれほど寒い外に大した暖房具を着ていたわけではないたのにもかかわらず凍傷にもかかっておらず今まで通り動ける。

それは傍から見ても判断できるだろう。

 

「心よ」

 

彼女が何を言っているのかを少年は理解していなかった。

しかし女性の言った言葉が彼の頭にずっと残っていた。

 

(こころ……?)

 

それは少年にとって初めての疑問だった。

しかしその疑問は心地よかった。

これを考えている間は何かが大丈夫な気がした。

 

「アイリ、ここにいたのか」

 

「あら切嗣、ちょうど良かったわ。彼が起きたのよ」

 

「そうか、それは良かった」

 

そういいながら男はベッドに近づいてきた。

そうしてベッドの近くにあった椅子に座りまっすぐと少年を見抜いてきた。

 

「君は誰だ。どこから来た」

 

それは明らかに敵意のある言葉だった。

それに対し

 

「切嗣!そんな言い方はないわ!」

 

「しかしアイリ、彼の右肩にあるのは間違いなく魔術刻印だ。彼がどこかの刺客かもしれないという可能性がある限り…」

 

「だとしてもよ!それにこの子まだイリヤと同じくらいの年よ、刺客を送り込んでくるならもっとちゃんとしたのを送り込んでくるはずだわ」

 

「それはそうかもしれないが……」

 

「そうなのよ!とにかくここは私に任せて」

 

どうやら話しかけるのは女性なったようだった。

しかし彼にとってはどちらにしても同じだった。

 

「あなたは誰?どうしてあんなところにいたの?」

 

「……わからない…」

 

「分からない?」

 

「……気づいたらあそこにいた…」

 

「親は?」

 

「……おや…?」

 

「お父さんとお母さんよ」

 

「……しらない…」

 

「もしかして名前もないの?」

 

「……なまえは…」

 

「名前は?」

 

「……アルカナ…、アルカナ・バーン…」

 

「いいお名前ね」

 

「……そう…なのかな…?」

 

「そうよ」

 

「…そうなのか…」

 

そうして本人は意識していなかったが少し、でも確かに笑ったのだった。

 

 

***

 

 

それからアルカナはそこで暮らし始めた。

切嗣は渋っていたが銀髪親子に説得される形で納得していた。

アインツベルンへの説明を考えてかなり憂鬱になっていたが、少年にある魔術刻印を話したら快諾された。

 

それからの生活はアルカナにとって未知に満ちていた世界だった。

名前以外の記憶がないアルカナにとってイリヤスフィールと名乗った少女はかなりの興味を引いた。

それに本人は意識していなかったが助けられたという思いもどこかにあったのだろう。

イリヤにしてもそうで初めて見た同年代の子供ということですぐに仲良くなった。

 

アイリと名乗った女性からはたびたび紅茶を入れてもらったり、紅茶を入れていたりしていた。

微妙な味だったときには二人で笑ったりもした。

 

切嗣には苦手意識があったのかあまり関わろうとしていなかったが、ある日彼が戦いの特訓(実際は違ったが)を見て体の鍛え方を聞き、時々魔術について聞くようになるほどには慣れた。

 

 

こうした日々は、どれもがアルカナにとっては未知であって、そしてとても楽しい日常になっていた。

 

しかしその日々は終わりを告げた。

 

 

切嗣とアイリが聖杯戦争というものに参加するとして、日本の冬木市という所に行った。

その時アイリと一つの約束をし、二人と別れた。

 

そして二度と会うことはなかった。

 

アイリは死に、切嗣は戻ってこなかった。

それからイリヤとアルカナはユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンのもとで修業を行った。

 

その中でアルカナとイリヤはユーブスタクハイトからは衛宮切嗣は裏切り者だと教育されていった。

イリヤは信じてしまったが、アルカナは信じなかった。

しかしここでの判断を誤らないように信じたふりをしていた。

 

アインツベルンでの修業は困難を極めた。

しかしそのおかげでアルカナは魔術刻印を含む三つの魔術と、一つの宝具を完璧にマスターしていった。

 

そんな生活の中ひょんなことからイリヤの体について聞いてしまった。

 

イリヤの体は母の胎内にいる時からアインツベルンより様々な魔術的調整を施されており、その命は短く体もほとんど成長しないということを。

 

アルカナはユーブスタクハイトに頼みイリヤを聖杯なんかにしないでくれと頼みこんだ、がその願いは絶対に聞き遂げられないとわかっていた。

 

故にユーブスタクハイトに対し、せめて自分の体もイリヤと同じようにしてくれと言った。

 

ユーブスタクハイトはイリヤが聖杯としてうまく作動しないことを考え、その提案を呑んだ。

こうしてアルカナはイリヤと同じとまでは言わないが、聖杯としての機能をもつことになった。

アルカナはそのことをイリヤには黙ったまま生活していった。

 

そうして生活していき切嗣達が参加した第四次聖杯戦争から十年近くたったある日イリヤの手に令呪が浮かんだ。

次の聖杯戦争が始まるということだった。

 

アルカナはイリヤと共に日本に渡った。

 

 

第五次聖杯戦争は熾烈を極めた。

 

 

イリヤの傍にずっといたアルカナが知ることではないがアーチャーがマスターを裏切りキャスターに寝返っていたりしていたりもした。

 

しかしそのすぐ後にイリヤの心臓、いや聖杯を求め攻めてきた奴らがいた。

 

すぐにイリヤのサーヴァントであるバーサーカーは戦いだした。

しかし相手は最強のサーヴァントと呼ばれたバーサーカーを笑いながら殺し続けた。

 

バーサーカーが消え守ってくれる者が消えたイリヤを救おうとしたのはアルカナだった。

バーサーカーすら簡単に殺す男を相手にそれは自殺行為だった。

 

結果、十分と持たずに負けた。

 

しかしその戦いぶりに感心したサーヴァントと思われる男はアルカナを気に入った。

そうして願いを聞いてやると言われた。

 

アルカナはすぐにイリヤを助けてくれと頼みこんだがそれは却下された。

聖杯を求めるものとしてその願いは聞けないということだった。

 

ならばと代わりに言った願いは男を興じさせた。

 

自分の心臓もイリヤの心臓と同じように聖杯になる。だから代わりに自分の心臓を持って行って欲しい。と彼は頼んだ。

その願いはかなえられた。

 

イリヤは最後のその時まで拒絶していたが、アルカナの魔術により動きを止められ見ているだけだった。

 

 

そうして男の手がアルカナを貫いた。

 

自分の体の中に人の手があるのは何か変な感じだと他人事のように思っていた。

 

次にアルカナが目にしたのは自分の心臓だった。

 

 

少しずつ消えていく意識を必死につなぎながらアルカナはイリヤを見た。

 

イリヤは目から涙を流しながらアルカナの名前を呼び続けた。

 

アルカナは消えゆく意識の中でイリヤは笑っていてほしいと思った。

 

 

彼が死ぬ前に思い出したのは恩人の一人であるアイリとの約束だった。

 

 

「…や、くそく…まも…った、よ。ちゃんと…イ、リヤ……ま、もった…よ、アイリ……さん………」

 

 

そうして少年、アルカナは死んだ。

 

 

しかし物語はこれで終わらない。

 

 

彼が主役の物語は彼が次に目覚めた次から始まるのだった。

 

 

***

 

 

「う……ここは…?」

 

死んだはずのボクが起きたのはとあるホテルのベッドだった。

しかしあのケガから生き残れるはずもないということで僕の思考は麻痺していた。

だからその人が声をかけてくれるまで気づかなかったんだ。

 

 

「あら、起きて大丈夫なの?」

 

 

その声は今まで一瞬たりとも忘れたことのない声だった。

イリヤと同じくらいにボクを救ってくれた人。

得体のしれない自分をかくまってくれた優しい人。

 

「ア、イリさん……?」

 

「あら、私名前言ったかしら?」

 

その仕草一つ一つが記憶に残っているものでボクは我慢することが出来なかった。

 

 

「うう…う、ううあ…あ…うわあぁぁぁぁ――――――――――――――――――!!」

 

「え、え!?」

 

涙を止めようとしても止められず、それどころか勢いを増して泣いてしまった。

 

 

会いたかった、

 

ずっと会いたかった、

 

いろいろ話したいことが出来て、

 

見せたいこともいっぱい出来て、

 

おいしい紅茶を入れてあげたくて、

 

それでも二度と会うことはできないと思っていた、

 

でも会えた。

 

 

だから今だけは泣くのを許してください、アイリさん。

 

 

***

 

 

「もう大丈夫?」

 

「はい」

 

「じゃあ何があったのか話してくれるかしら」

 

 

泣き終えた後、体に疲労がたまっていたのかすぐに眠ってしまった。

 

そして起きた後に待っていたのが質問タイムだった。

まるで昔に戻ったようでうれしかった。

切嗣さんは仕事で戻ってこれなかったらしい。

 

 

そうして話をしているうちにここはボクがもともといた世界ではないことがわかってきた。

 

この世界では第四次聖杯戦争が起きなかったようだ。

アインツベルンから抜け出したアイリさんと切嗣さんはアインツベルン城にいたイリヤを助け出した後世界中を回っているらしかった。

それは本当にアイリさんらしいなと笑ってしまった。

 

 

次にアイリさんがボクの話を聞いてきた。

 

ボクは話した。

第四次聖杯戦争に参加したアイリさんと切嗣さんは二人とも戻ってこなかったことを。

イリヤが次の聖杯になるの防ぐために自身の体にも代わりになる術式を刻んだことを。

十年後に聖杯戦争が起こり、それに参加したことを。

そしてイリヤを守るために自分の心臓を譲ったことを。

 

話を聞いた後アイリさんは本気で怒ってくれた。

もっと自分のことを大切にしなさいと、なんて無茶なことをしたのかと。

でもイリヤを守ってくれてありがとうと複雑そう顔で言われた。

それがとてもうれしかった。

 

その後ボクの体を二人で調べてみて驚いた。

どうやら僕の心臓に刻んであった術式が跡形もなく消滅したらしい。

しかしそれ以外は元の世界にいた時と同じらしかった。

 

そうしてこの後どうするかを二人で考え、アイリさんが何かを思いついたようだった。

 

 

 

 

そうして数ヶ月後

 

「この国に留学することになったアルカナ・バーンです。よろしくお願いします」

 

 

日本にある衛宮宅に居候して学校に通うことになっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった!?

 

相変わらずアイリさんの考えは読めなかった………。

 

 

 

説明
少年アルカナは死んだ。大切な少女を守り、約束を守り死んでいった。しかし気が付くと死んだ場所ではない全く違う場所にいた!しかも近くには死んだはずの恩人たちの姿が!どうやらここは似ているが全く違う世界らしい。そしてなんやかんやでホームステイした家では守りり抜いたはずの少女がいた!そんな平和な時間を過ごしていたが戦いの時は迫っていた!これはとある魔法(奴隷?)少女と魔術使いの少年の物語。 アニメ化が近いということで思わず書いてしまった小説です。主人公は映画版Fate/stay nightから来ています。
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