火星をさがそう
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「僕と一緒に火星を探しに行こうよ」

 君がそう言ったのはいつも通りに唐突なことなわけで、本当にそれに付き合わされる僕の身にもなってくれと言いたいところだ。それでも付き合う僕も僕なわけなのだが。

「それにしても唐突だな。なんでいきなり火星? 特に今日火星に特別なことが起こるわけじゃないだろ?」

 これはちょっとした反抗のつもり。特に火星に興味がないということを暗にしめしたつもりだったが、どうも君にそんな意図は伝わるはずもなく、目を輝かせて言った。

「だって、火星ってあれでしょ? 一時的に空をほかの星とは逆走するんでしょ? だから惑星っていうんでしょ?」

 ああ、確かにそんな現象があったな。地球の公転が火星の公転を追い越すことによって起こる現象だ。ただ……

「お前、それは何か月も記録してやっとわかる現象なんだぞ? お前、いつまで火星を観測し続けるつもりだ?」

「いいの!! 僕が興味を持ったんだから、今すぐなの!!」

 やれやれ、本当に君は迷惑だな。まぁ、特にこれからやることもないわけで、溜息をつきながら僕は付き合うことにした。

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 今夜の夜空は本当に見事と言うしかないくらいに満天の星空だった。こう考えると田舎暮らしというものはなかなか悪い話でもないのかもしれないな。

「んで、火星はどこなんだ?」

「わかんない」

「わかんないって……」

 僕はあきれながらそう言った。分からないってどういうことだ。多少は調べておくくらいしてほしいものだが、まあそれが君らしさなのだから、許してしまおう。

 しかし困ったものだな。君の性格からすれば、火星を探し出すまでこの天体観測は終わらないだろう。早く見つけ出さなければいつまで経っても天体観測は終わらない。それだけは避けたいところだ。

 そんな風に思って僕は必死に火星を探した。そんな僕の横で、君はどうでもいいとばかりに僕の方を向いていたずらな笑顔を浮かべていた。

 この野郎……。なんて僕は思いつつも火星を探す。火星の特徴と言えば確か……赤い星だ。つまり赤い星を探そう。そうすればきっと火星は見つかる。お、あれなんかどうだ? 赤い光を放っている。

「あれじゃないか? 火星」

「ん? どれ?」

「ほら、あそこに見える赤い星」

「ああ……あれね……あれは火星じゃないよ」

 え? どういうことだ? 火星は火星っていうくらいなんだから赤いんだろ? あの星はすっげえ赤いじゃないか。

 そう言うと、君はクスクス笑った。

「君は何を言っているんだい? 惑星が瞬くわけないじゃん。あの星は確かに赤いけど瞬いている。つまり恒星だよ。死にかけの恒星。あの星は近い将来、超新星爆発を起こして消えてしまうらしいよ。超新星爆発はとっても明るいらしいから一度でいいから見てみたいものだよね」

 くそ……骨折り損か。

 気を取り直して火星探しを続ける。しかしまったく見当たらない。くそ、どこにいるんだ火星よ。

 僕は火星を探すために意識を夜空に向けていた。向けすぎていた。その瞬間――

 

「ちゅっ」

 

 唇に柔らかくて暖かい感触がふれた。

「え?」

 キスされていた。

「お……お前!?」

「ふふ、油断しすぎだよ。それに今の時期夜に火星は見えないよ」

 ちょっと頬が朱に染まった君は笑顔でそう言う。

 やれやれ、やられた。まったく不本意な形で唇を奪われてしまったわけだ。ちょっとボーイッシュな僕のかわいいかわいい彼女にいつも僕は振り回されている。

説明
即興小説にて作成

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お題:不本意な唇 必須要素:火星
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甘ーーーい(紅羽根)
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