鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 最終話
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スノウは再生不能

 

エドガーは再生不能

 

ここまでダメージを負った世界樹では

 

最早、ゼロを自己回復させることが精一杯だった。

 

『・・・・・・・・・・・・っ!』

 

私は

 

どうして

 

殴られている

 

こんな奴に

 

素手で

 

『っらぁぁああああああああああ!!!!』

 

一発一発が重く、巨大なダメージをゼロに与えている。

 

一発一発ごとに、ゼロの身体は崩壊していく。

 

『・・・・・・っ!』

 

確実にダメージはゼロに蓄積される。

 

徐々に、身体が壊れていく。

 

強大な賢者の石の力は、明らかに世界樹を殺す凶器へと値している。

 

壊れていく

 

身体が、壊れていく。

 

殴られていく度に、削られていく身体

 

確実に、世界樹の”負け”が確定されていた。

 

ように思われるが、

 

『それでも、お前は私には勝てない』

 

そう、ゼロが呟いた。

 

『・・・・・・・・・っ』

 

エドは、その言葉の意味も問わずに、ただ殴り続けた。

 

『私は、再生し続ける・・・。この世に人間の魂がある限り、このまま殴り続けても千年は生きられるぞ』

 

その言葉を聞いたとき、エドの腕の動きが止まった。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

殴るのを止めて、腕をだらりと下げた。

 

『エド・・・・・・』

 

殴り続けても、千年

 

そんな奴を、倒す事なんてできるのか

 

桁外れの再生力を図るゼロの身体は、凄まじい速さで徐々に再生されていく。

 

『・・・ああ。そうかよ』

 

『そういうことだ。』

 

ゼロは、手を徐々に変形させてエドを睨みつける。

 

その動きは、どこか以前よりも弱々しく見えた。

 

だが、ゼロの再生に注がれた世界樹の力で

 

もう、ダメージを与え続けても無駄だろう。

 

『どのみち、私を殺すことなんて無駄な事だったのだ。』

 

『そうか』

 

『殺しても殺しても、埓が明かない無間地獄が一生を蝕む』

 

『そうか』

 

『一生、我を殴り続ける人生を歩むのか』

 

『嫌だ』

 

『ならば、ここで命朽ち果てるが良い。どのみち、人間は何度も滅びては生まれる。来世に期待せよ』

 

『ああ。期待しようかね』

 

エドは、賢者の石を噛み

 

両手を合わせ

 

錬金術を発動し、地面を削った。

 

『・・・・・・・・・?』

 

削られていく地面は、弧を描き円となった。

 

そして、円は陣となり、エドとゼロを囲った

 

『人間が滅びる代わりに・・・俺たちが滅びようぜ!!』

 

『!!』

 

エドが錬金術を再び発動させようと両手を合わせる。

 

『させるか!!』

 

ゼロは飛び上がり、手に持った武器でエドを殺しに飛びかかった。

 

だが、

 

『・・・!?』

 

木の幹が、主人の意に背き

 

陣の上に叩きつけられる。

 

『ぐぅっ!!』

 

錬金術が発動される時に発生する光が、木の幹におびている。

 

『・・・・・・!』

 

錬金術を、発動していたのは

 

ゲーデ

 

『残念だったな・・・もうお前の思い通りにはならねぇ』

 

ゲーデの黒い、不敵の笑みが

 

今、ゼロに向けられた。

 

エドは、両手を地面に置き

 

そして、陣は発光した。

 

『がっ!!ああああああ!!』

 

陣から黒い手が身体を蝕む

 

ゼロとエドの身体を蝕む

 

陣の向こうには、黒い闇と

 

巨大な目が覗いている。

 

《よぉ、久しぶりだなチビ》

 

真理が、エドに語りかける

 

『ああ。久しぶりだ』

 

《分かってるな、じゃぁ行こうか》

 

『・・・・・・・・・っ!?』

 

ゼロが、何がなんだか分からず

 

得体の知れない、謎の恐怖を今初めて味わっていた。

 

その恐怖が分からず、頭が混乱寸前となりかけている。

 

黒い手は、エドとゼロを完全に包み

 

白い闇の世界へと、連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

気がつけば、ゼロは全裸で白い空間へと放り出されていた。

 

目の前には、大きな扉

 

魂を木の幹で採取する巨樹が描かれた扉の前に居た

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

どこだ

 

どこなんだ。ここは

 

《よぉ》

 

後ろを振り向く。

 

振り向くと、そこには透明人間のような

 

人の輪郭のみの姿の”それ”が居た。

 

『ここは・・・どこなの?』

 

そう言うと、”それ”は答える

 

《その前に、お前は誰なんだ?》

 

そう言われて、ゼロは答える。

 

『私はカノンノ。カノンノ・ゼロと自分で名付けたわ』

 

《それは違うね》

 

”それ”は、あっさりと答える

 

《お前は”カノンノ”でも”ゼロ”でもない。名前の無い生き物だ。》

 

『・・・・・・・・・』

 

”それ”が、何を言っているのか分からない。

 

だが、なぜだろうか。

 

徐々に、頭の中で”理解”という言葉が現れる。

 

《仲間が欲しくて”人間”を作り、人間が憎くて”世界”を作って、同類が欲しくて”魔法”を作った。ただの凡人だ》

 

『お前に何がわかる』

 

《逆に問おう。お前は自分の何が分かる?》

 

そう答えられたとき、ゼロは答える

 

『世界を続き、永遠に生きるためにここまで来た』

 

《何の為に永遠に生きおうとしたのか、覚えているのか》

 

そう言われ、ゼロの言葉は詰まる。

 

《お前は、愛が欲しかっただけだ。》

 

『・・・そうだ。私は』

 

《愛は永遠だと、そう信じたお前は、”愛”になる事に決めた》

 

『愛というものを、探していた』

 

《その為に人間と魔物を作り出したのではないのか。愛を作れる生物を作ってきたのでは無いのか。》

 

”それ”は、全てを分かっている口で語る

 

《お前が作った”人間”が分かり、人間が分かる物を”お前”が分からない》

 

《愛など多種多様な存在を、お前は見つけ出すことも出来なかった》

 

《つまりお前は、人間以下になり、人間以下のまま神になろうとした馬鹿者なんだよ》

 

《太陽に近づきすぎた天使は、翼を燃やされ地に落とされる》

 

《今時猿でも分かる、宗教論だ》

 

『・・・私は神になりたかったのでは無い。永遠に生きる”価値”と同等になりたかっただけだ!!』

 

《それが愛か》

 

”それ”は、ほくそ笑みながらゼロを見つめる

 

《ならば、望み通りにしてやろう。》

 

扉が、大きな音を立てて開かれる

 

ゼロが振り向いて見た、扉の向こうは

 

永遠に続く闇、永遠に続く世界

 

そして、永遠に続く地獄だった。

 

《その世界で、永遠と共に生き続けるが良い。”愛”と共にな》

 

扉の向こう

 

その向こう側には、知らない世界があった。

 

ゼロは、その世界を

 

とてつもなく、恐ろしく感じていた。

 

『あ・・・・・・あああああああ!!ああああああああああああああ!!!』

 

ゼロは逃げる。

 

世界の創造主とは思えない感情を抱き、その扉から逃げ続けた。

 

だが、この世界は

 

逃げても、逃げ続けても

 

端は無い。逃げ場はない

 

『ああ!!』

 

ゼロは、腕を掴まれた。

 

服を着ていないからか、千切って逃げる事が出来ない。

 

そのまま、掴まれ引っ張られるまま、引っ張られてゆく

 

『いやぁ!!ああ!!ああああああ・・・・・・』

 

扉の向こうへと引っ張られ

 

 

いや、死よりも恐ろしい世界へと

 

永遠に、生き続けることとなる。

 

それは、愛では無く

 

巨大な憎悪に近いかもしれない。

 

《だが、これも愛に近い世界だ。》

 

扉が、大きな音を立てて閉められる。

 

《永遠に、満喫するが良い》

 

”それ”は、そうつぶやいて

 

扉は、大きな音を立てて閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜真理〜

 

辛い

 

痛い

 

耐えられない

 

痛みが、痛い程の情報と感覚が私を蝕む

 

私の身体を蝕む。

 

目が焼けるほど熱い

 

視界には、地獄しか映らない

 

『やだ・・・』

 

助けて

 

誰か

 

『やだ・・・・・・こんなの・・・』

 

こんなの、求めていない。

 

永遠に生きるってどういう事か分からなくなる。

 

私は、逃げる為に

 

逃げる為に、前へと進んだ。

 

永遠に続く世界をもがくように、前へ進んだ。

 

地獄の苦しみが、身体を蝕む

 

世界で一人きりの場所で、永遠に苦しむ

 

地獄

 

地獄

 

私は、地獄に落ちた

 

『いや・・・・・・』

 

私は

 

何を求めていたのだろう

 

何が、欲しかったのだろう。

 

愛って、何だったのだろうか。

 

何か

 

何か

 

とても幸せな記憶があった気がする。

 

とても、とても大切な記憶があった気がする。

 

楽しかった思い出があった気がする

 

『・・・・・・・・・』

 

誰と共に過ごしたか

 

二人だった

 

二人だったはずなのに

 

思い出せない

 

私が好きだった人

 

ずっと、一緒に居たかった人

 

誰だったのか、思い出せない。

 

永く、永く生きた

 

何が何だかわからなくなるぐらい、生きてきた。

 

私は、何がしたかったの?

 

私は、こんな苦しみを受けるためにずっと生きてきたの?

 

『・・・・・・・・・・・・ぁ』

 

生きる意味を失った。

 

もう、どうでも良い。

 

考えるのを止めよう。

 

受け流されるまま、受け流されよう。

 

 

 

私は、死んだ

 

考えるのを止めて、死んだ

 

この苦しく冷たい世界へと

 

身に任せて、漂うことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手が、何か暖かい物に触れた。

 

その手は、どこか懐かしい感触だった。

 

私は、考えることを再開して

 

目を、ゆっくりと開けた。

 

『・・・・・・・・・』

 

私は、思い出した

 

そして、混乱した。

 

どうして?貴方が居るはずが無いのに

 

貴方がここに居る筈が無いのに。

 

『      』

 

永遠に生きようとしても届かなかった。

 

どれほど愛を知ろうとしても、分からなかった。

 

意味さえもたどり着かなかった。

 

この苦しみの中、絶望を受け入れて

 

永遠に届かないと死を確信した筈なのに

 

『やっと会えた』

 

こんな

 

こんな近くに

 

こんな近くに居る

 

私の手を握っている。

 

愛は永遠の中には無かった。

 

愛はずっと近くにあった。

 

手の温かみ

 

それが、愛の証明になる。

 

『また、一緒に遊ぼう。』

 

私は彼を抱きしめた。

 

ずっとずっと抱きしめた

 

愛を確かめた。ずっと忘れてた愛を噛み締めた。

 

抱きしめ合いながら、私たちは黒い手に包まれた。

 

この世界は、世界で二人きり

 

永遠に続く世界で、永遠に二人きり。

 

今度は、ずっと一緒にいよう。

 

ずっとずっと一緒に居よう。

 

 

――――うん。

 

 

 

 

二度と開けられることのない扉の向こうで

 

ゼロとエドガーは永遠に愛し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

エドは、扉の前に立っている。

 

何度目になるだろうか。真理の世界の前の扉

 

いつもどおりの白い空間

 

いつも通りの巨大な扉。

 

いつも通りじゃない所と言えば、真理が居ない事と

 

代わりに自分そっくりの少年が立っている事だ。

 

『・・・・・・え?誰お前』

 

『僕は、この世界・・・ルミナシアのもう一人の”ゼロ”だよ。』

 

ゼロ

 

『・・・つー事は、お前もあいつの仲間か?』

 

『そうだけど、人間を滅ぼそうだなんて永遠に考えないよ。』

 

『・・・・・・あっそ』

 

エドは拍子抜けして、殴ろうと上げた右手を下げた

 

『・・・でだ』

 

『ん?』

 

エドは、あぐらを掻いて地に座り込んだ。

 

『・・・俺は、ゼロとか言う奴と共にこの世界に来たんだが、目の前のお前が居るってことは・・・』

 

エドは、鋭い目つきでエドガーを睨みつける

 

『お前も、この世界の事変には噛んでるんだろ?』

 

『まぁ、関係はあるだろうね。』

 

やはりか。とエドは悪態をついた。

 

『・・・まず、一つ謝らなければいけない事がある。』

 

謝らなければならないこと

 

『何だよ』

 

『君たちを、この世界に連れてきたのは・・・僕だ』

 

その事実を聞いて、

 

エドは『ふぅん』と息を漏らすように答えただけだった。

 

『まぁ、それは良いとして・・・なんで人造人間まで招き入れた?』

 

『賢者の石、それは人の命を奪うと言ったね?』

 

エドガーは、間を開けずに語り続ける

 

『逆に言えば、魂をそこに”保管”できるものとなる。ゼロを欺くために、それが必要だったんだ。』

 

『ふぅん。そんな良い物じゃねぇのに』

 

『でも、それは役に立った・・・。躊躇なく賢者の石を生成してくれたし、君たちが星晶の原材料を見つけてくれたし』

 

エドガーは、はにかむように答えた。

 

『人造人間も、途中でこの世界の賢者の石は”向こうの世界”では意味の無い事を知ったしね。』

 

『ああ・・・全部ゼロが作り出したものなんだっけな。この世界の人間』

 

そして、エドは頭を掻き

 

質問を変えた

 

『…俺達を、どうやってここまで連れて来たんだ?』

 

『聞きたいかい?』

 

『俺達が帰る為に必要な事だからな。』

 

エドがそう言うと、エドガーは微笑んだ。

 

『世界軸の超え方は簡単さ。人の命を一人犠牲にすれば良い。』

 

『………』

 

『例えば…僕の命とか』

 

『して、どうなる』

 

エドガーは、また微笑む

 

『今、ここで僕を世界から隔離すれば、世界樹が滅びた翌日にキバに激突すれば元の世界に帰れるだろう。』

 

『キバに突撃が必要か?』

 

『鍵穴に鍵を押しこむようなものさ。それにあれは、あっちの世界の世界樹みたいなものだからね』

 

エドは、その言葉に溜息を吐く。

 

『まぁ、世界軸を超える時は時間軸の扱いが難しいから何時に飛ぶかは分からないんだけどね』

 

そう、エドガーは余裕を見せるようにエドを見つめる。

 

エドは、次にまたエドガーを睨みつける

 

『・・・じゃぁなんで、あの野郎を連れてこれたんだ』

 

その時、エドガーは微笑むのを辞めた

 

『・・・・・・スノウの事かい?』

 

『ああ。そいつのおかげで俺の世界の野郎も二人程死んだ。これは許されねぇ事だよな』

 

そう言って、エドは右手の拳を左手の手のひらに当てる

 

『・・・ああ。一時繋がった時に、確かに行ってしまったね。』

 

『何のためにだ。』

 

エドの表情は、段々と敵意に満ちている。

 

『俺たちの世界なら殺しても意味は無い筈だ。何故送り込まれた』

 

エドガーは、その質問に笑顔で答えた。

 

『・・・さぁね良くわからないよ。』

 

そして、拍手しながら答える。

 

『僕にとっては、そちらの世界はどうでも良かった。』

 

エドは立ち上がり、しかりとエドガーを睨みつけた

 

『俺も、元はこの世界なんてどうでも良かった。元はな。』

 

『今は違うだろう?この世界には仲間が居る。大切な人が居る。守るべき人が居る。思い出がある。』

 

『ああ。その通りだ。だけどな』

 

エドは、機械鎧の腕で左腕の関節を鳴らした。

 

『お前は何をした?ここに連れてくるだけか?ゼロを止めようと出来なかったのか?』

 

『僕は鑑賞しか出来ない。』

 

『そうか。神様みたいな野郎だな。』

 

エドは戦闘態勢に入り、目の前のエドガーを威嚇した。

 

『悪いけど神様なら殴られてくれや。この世界の皆、神様もう嫌ってるみたいだしよ』

 

エドは、そう笑顔になりながら言う。

 

その言葉に、エドガーは微笑む。

 

『・・・そうだね。僕は調子に乗りすぎた。』

 

『この世界の奴らからの罰、俺たちからの罰』

 

エドは、エドガーとの間合いを縮めていく。

 

『一発一発、噛み締めやがれ』

 

エドは、エドガーの顔を

 

殴る

 

殴る

 

殴る

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

殴るたびに、扉が開かれる。

 

扉の向こうの世界が、開かれる。

 

『・・・・・・エド』

 

エドガーはつぶやく

 

『僕は・・・君がこの世界に来てくれて、良かった。』

 

エドガーは、殴られながら微笑む

 

『ようやく、終わることができる。ようやく、彼女に出会うことができる。』

 

最後に、大きな蹴りが

 

エドガーの腹に受けられる。

 

『ありがとう』

 

エドガーは、大きく吹っ飛び

 

扉の向こうへと、引っ張られていった。

 

扉は、大きな音を立てて閉まっていき

 

最後まで笑顔で閉められるエドガーを包み込み

 

大きな音を立てて、扉は閉められた。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

エドは、足を突き上げたままだ。

 

エドガーをぶっ飛ばした後から、動いていない。

 

そして、体制を整え

 

『・・・・・・へっ』

 

扉の前まで歩き、扉を殴りつけた。

 

『地獄で永遠に愛しやがれ』

 

エドはそう言って、振り返り

 

もう一つの、開きかけている扉を見つめた。

 

扉からは光が漏れ

 

光は段々と増し

 

それは、終わりを祝福するように

 

エドを包み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜世界樹の核〜

 

光の先にあった

 

その世界

 

その先の世界には

 

『・・・・・・・・・』

 

全てが終わった、あの世界へと戻ってきていた。

 

『お帰り、エド』

 

『ああ』

 

ゲーデの言葉に返事した後に、辺りを見渡した。

 

そこに居たのは、樹の上に立っている者達

 

気絶から戻り、意識がはっきりした全員であった。

 

『・・・・・・』

 

手に持っていた黒い賢者の石は

 

黒い光となって

 

空に消えていった。

 

《じゃぁな、エドワード、エミル。》

 

ラタトスクの声が聞こえた。

 

《へっ・・・偉大なるラタトスク様がこんな死に様なんざ・・・笑われちまうな・・・。》

 

『・・・・・・』

 

エドは、消えていくラタトスクに向かって、はっきりと言った。

 

『誰が笑うか。誰が・・・・・・』

 

《かかか》

 

そして、ラタトスクとは消滅し

 

最後に、言葉を残した。

 

《じゃぁな。魂どうしの・・・ダチよ・・・》

 

完全に消滅した時に、

 

また、この場に沈黙が流れた。

 

『うっ…』

 

瞬間、エミルは息を吹き返し

 

起き上がった。

 

『…………』

 

起き上がった時、エミルは涙を流した。

 

ありがとう、ありがとうと呟いた。

 

さようなら、ラタトスクと。

 

『・・・・・・これで、良かったんだよね・・・』

 

終わった。

 

これで終わった・・・その筈だ。

 

『・・・・・・おい』

 

エドは、端を見て違和感に気づいた。

 

有り得るはずの無い、視界

 

『なんで・・・樹が再生してるんだ・・・?』

 

『!?』

 

全員が、千切れた樹を目に向けた。

 

樹が、徐々に少しずつであるが再生を始めている。

 

『エド!ゼロはもう居なんだよな!?』

 

『居ねぇよ!扉の奥に連れて行かれちまった!』

 

今、この瞬間何が起こっているのか分からず混乱

 

その混乱の中で、必死に樹を攻撃している仲間は

 

早くも諦めかけていた。

 

『ダメだ!回復が止まらない!』

 

何度焼いても

 

何度切りつけても

 

樹は、再生されてゆく

 

再生

 

再生

 

『っ・・・!』

 

まだ、この悪夢は

 

悪夢は、終わらないと言うのか

 

ディセンダーも、消えていない

 

世界樹が消えない限り、奴らも消えない。

 

どうすれば良い

 

どうすれば・・・

 

その時に、空から

 

大きな翼の影が現れる。

 

『・・・世界樹は、核がある限り終わらない』

 

レムが、そうつぶやくと

 

樹の上に降り立ち、ゼロが座っていた椅子を引き抜き

 

その下に有る”核”を持ち出した。

 

『・・・!?』

 

そこには、赤い色と”何か”を合わせたような物体があった。

 

脈を打ち、所々”顔”が現れている。

 

『これを壊せば、世界樹は崩れ・・・本当に”死ぬ”事になるだろう。』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

”核”を持ったレムの顔は

 

達観しているようにも見え

 

絶望と切実な悲しみを背負った

 

吹っ切れたような表情をしていた。

 

核は、レムの手と融合しようとしている。

 

命を、吸い取ろうとしているのだ。

 

『レム・・・!?』

 

レムは、こちらを見ようとしない。

 

ただ、核を持ちながら涙を落とす

 

『・・・シャドウ、お前は・・・望んでいたのだろう?』

 

そう言って、レムは手を通して光を核に送り込む。

 

核は、悶え苦しむように激しく脈を打った。

 

『世界が・・・また・・・あの平和になる日を・・・』

 

核はひび割れ、レムの身体も崩壊が始まった。

 

『また・・・ゼロの世界に戻ろうと・・・望んだのだろう・・・』

 

核は、核の形を亡くし

 

レムは、もう崩壊が止まらない段階まで来ていた。

 

『その望みを・・・今度は私が叶えるから・・・』

 

核は崩壊し、ただの液体となった。

 

『私とお前は・・・二人で一人の・・・太陽だから・・・』

 

レムは崩壊し、ただの液体となった。

 

 

 

 

ディセンダーの動きは止まった。

 

『・・・・・・・・・?』

 

同時に、ディセンダーの身体は砂となり

 

消滅して、そして消え

 

不気味なくらいに静かに、身体が崩れ落ちた。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

その様子から、全員は感づいた。

 

戦争が終わった。のだと

 

人類が勝ったのだと。

 

『・・・・・・終わった・・・』

 

今、全員が思った事は

 

ようやく訪れた、最愛の平和への祝福だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レムの最期を見て、それを止めようとした者は居なかった。

 

『・・・・・・・・・』

 

だが、最後の姿を見て、全員は理解した。

 

これで、本当の終わりが来たのだと。

 

『・・・これで、終わりなんだな』

 

レムの最期で、全員が黙り込み

 

ただ、その最期の姿を目に焼き付けたあと

 

まっすぐと、向こうで輝く太陽を見た。

 

その太陽は、いつの日か見た太陽よりも美しく

 

いつも見ている太陽よりも、輝いて見えた。

 

太陽の精霊が居なくなった今でも、人間は生きている。

 

これからもずっと、生きていくのだ。

 

『・・・・・・ん?』

 

メキメキと、軋む音が辺りに響き渡る。

 

『おい・・・これヤバイんじゃねぇの?』

 

『足場が・・・崩れ・・・』

 

瞬時に全員は理解した。

 

世界樹が、壊れ始めていることに。

 

木の幹や葉が凄いスピードで崩れてきていることに

 

『逃げろ!逃げろぉおおおお!!』

 

エドの叫びと共に、全員は世界樹から逃げ出そうとした。

 

中に潜り、逃げてきた者達は、全力で走ってこの場から駆け抜けた。

 

ゲーデとラザリスは飛び降りて無事着地した。

 

『ぬぅおおおおおおおおおお!!』

 

後ろの天井が崩れ、枯れた樹が襲いかかってくる

 

逃げにくい脆くなった足場を踏み、光の差す方へと逃げ抜ける。

 

『おい!出口だ!』

 

『ゴォォル!!』

 

ほとんどの者は逃げ切る事が出来た。

 

一人・・・いや二人を除いては

 

『ぜぇ・・・はぁ・・・』

 

エドとアル。

 

アルに関しては、両手と足がほとんど使い物にならなくなり

 

満足に動くことができなくなっているからだ。

 

『エド!早くしろ!間に合わねえぞ!』

 

『うるせぇ!こちらとら弟の身体の欠片担いどんじゃぁコラァ!!』

 

アルは、申し訳なくなり、エドに言葉を伝える。

 

『兄さん・・・自分の身体は自分で持つよ・・・。だから兄さんは早く』

 

『黙れアル!とっとと身体を動かせ!!』

 

だが、激昂されてしまった。

 

あまりにも焦れったいその動きで、リタがシビレを切らしてしまっていた。

 

『早くしなさいよ!このチビ!!』

 

『んだとコラァ!このクソアマッ』

 

一瞬、走る速さが高まったと思った。その瞬間

 

完全に、世界樹は崩れ、エドとアルは下敷きとなった。

 

『エドォォォオオオオオオオオ!!?』

 

真っ黒になった世界樹は、山盛りとなり

 

まるで灰のように、風に吹かれていった。

 

その風と共に、世界樹は崩れ去り

 

最後に真っ黒となったエドとアルの姿が映し出された。

 

『・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・ぷ』

 

長い沈黙のあと、ティトレイが笑い出し

 

そこから、連鎖するように笑いが連続した。

 

『はははははははははははははははは!!!』

 

『はははははははははははは!!!』

 

『笑うなコラァ!!』

 

『はははははははははははははははは!!!』

 

『はははははははははははははははははははっははは!!!』

 

『終わった!!』

 

そして、叫んだ。

 

『終わったなぁ!!やっと!』

 

『・・・・・・うん。』

 

『ああ、終わりだ!!』

 

真っ黒になったエドは、そのまま

 

釣られるように、笑顔になった。

 

『やっと、終わったんだ』

 

空を見上げる。

 

そこには、いつも通りの青い空があった。

 

『長い長い地獄が、やっとな』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ルパープ峠〜

 

バンエルティア号の爆破

 

その時の操縦室は、ルパープ峠

 

丁度、エドが最初に落ちてきた所にめり込んでいた。

 

『・・・・・・・・・』

 

そこには、上機嫌となったアンジュと

 

号泣しているチャットの姿があった。

 

『・・・あ―――』

 

エドはチャットの肩に手を置いた。

 

『お前の船、結構な凶器だったぜ。自身を持てよ』

 

『シャー!!』

 

睨まれ、威嚇された。

 

『兄さん、フォロー下手糞』

 

アルにツッこまれた。

 

『あら、スパーダ君。元気にしてたかしら?』

 

アンジュは、ボロボロの姿のスパーダを見て笑顔で言った。

 

『この姿見て良く元気って言えるな。すごいよお前ぇ』

 

『ふふ。だって終わったこの世界でそれだけ生きてるなら、元気になるでしょう?』

 

スパーダは呆れ返ってため息を吐いた。

 

そして、後ろを振り返った。

 

後ろに有るのは、所々に脱ぎ捨てられた衣類

 

いや、正しくは衣類では無い。

 

ディセンダーが来ていた布だ。

 

ディセンダーが消えてから、身体だけが消え

 

衣類がそこらじゅうに散らばっているのだ。

 

『・・・こいつらは、何だったんだろうな』

 

『エドワード君が言った人造人間に近かったんじゃないかしら?そんな事よりも、これからどうします?』

 

『そんな事よりもって・・・』

 

チャットが、涙を流しながらアンジュを睨みつける。

 

アンジュは全然気にしていないどころか、気づいていない様子をチャットに見せていた。

 

『世界樹が無くなった今、世界樹から産まれたものを気にしてもしょうがないじゃないですか。それよりも今、どんなお祝いをするかが一番重要じゃありませんか?』

 

『能天気。キングオブ能天気女』

 

『なんとでも言いなさい』

 

『乳母車アンド食いしん坊万歳』

 

エドの言葉にグサグサ来たらしく、少しだけうずくまってしまった。

 

『・・・これでも私、5キロ痩せたんですからねっ!!』

 

アンジュは、涙目になりながらそう叫んだ。

 

乳母車に関しては何も追言してこなかった。

 

『・・・これからどうするかは、一応決めてある』

 

スパーダは、アンジュにそう伝えて前を見た。

 

『それにはエド、お前の協力が居る。』

 

次に、エドの方へと目を向けた。

 

 

 

 

 

 

〜墓地〜

 

ルカの墓の前

 

過ちを見たくない筈なのに、スパーダはじっとルカの墓を見続けていた。

 

終わった復讐、終わった戦い

 

その戦いの後で、スパーダは何を考えているのだろうか。

 

『エド』

 

スパーダは、エドに要求した。

 

『俺の身体を使って、ルカの魂を呼び戻してくれ』

 

『・・・・・・っ!?』

 

その言葉に、エドは目を見開くほど驚きを隠せなかった。

 

『おいスパーダ!お前何を・・・』

 

『この身体は、瀕死になった俺を助けるためにルカが”魂”を犠牲にして作られたものだ。』

 

ティトレイの言葉を無視して、スパーダは語り続ける

 

『・・・・・・魂を使って身体を再生できるなら、その逆も可能の筈だ。』

 

『・・・何が言いたい』

 

『俺は、俺の中のルカの魂を、ルカの身体に返したい』

 

その言葉を聞いて、動揺を隠せなかった者は居なかった。

 

『そんな事したら、お前は死んじゃうんじゃねぇのか!?』

 

ロイドが追言する

 

『俺は、お前らと離れているときに何もしなかったと思うのか?』

 

ロイドを睨みつけたあと、全員の目を見て

 

スパーダは微笑み返す

 

『こんなおぼっちゃまルカくんの魂なんか無くても、俺は死なねえよ。絶対にな』

 

自信満々に、スパーダはそう伝える。

 

その言葉の自信に、全員は何も言えなかった。

 

『・・・本当に良いんだな?』

 

『ああ。早くしてくれ。寧ろ待ち遠しい』

 

スパーダのその選択に、エドは俯き

 

『分かった』

 

と、顔を上げて

 

手を合わせ、錬金術を発動した。

 

 

 

 

 

 

 

〜真理〜

 

真っ黒な空間の中

 

ルカは、漂い

 

何も、出来ない空間の中で、ただ流れ続けた。

 

これで良かった、

 

これで良かったと、自分に言い聞かせて

 

言い聞かせて

 

ついには、考えるのを止めて

 

ただ、流されるまま流されていた。

 

『・・・・・・』

 

暖かい手の感触を味わった。

 

誰かが僕の手を握っている

 

『おいルカちゃま』

 

声が聞こえる。

 

僕を虐める彼の声

 

とても懐かしい声。

 

居心地が良い声

 

『こんな所で引きこもってねえで、とっとと外に出ようぜ』

 

友達の顔が見える。

 

笑顔で、僕を思ってくれている顔を

 

『・・・・・・うん』

 

僕は、思わずその声を聞いて

 

頷いて

 

そのまま、光に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜墓地〜

 

『・・・・・・・・・』

 

ルカが目を覚ますと、そこは太陽の下だった。

 

ルカは、棺桶の中に入っている。

 

扉が開けられた棺桶から起き上がると、皆がこちらを見ている。

 

『・・・・・・ルカ・・・』

 

仲間が居た。

 

友達が居た。

 

大切な人が居た。

 

『・・・ルカ・・・』

 

イリアが居た。

 

スパーダが居た。

 

アンジュが居た。

 

リカルドが居た。

 

『ルカァ!!』

 

イリアが、こちらに駆け寄る

 

そこで、僕は理解した。

 

そうだ。僕は帰って来れたんだ。

 

この世界に、皆が待ってるこの世界ni

 

『このお騒がせがぁあああああああ!!!』

 

イリアは地面を蹴り、ドロップキックをボクに食らわせた。

 

『もういっちょだぁあああああ!!』

 

次にスパーダの飛び蹴りが首に直撃した。

 

もう一度別の世界に飛びそうになった。

 

『え・・・えっ?』

 

『ぃよぉ?ルカちゃまぁ!?てめぇ俺達が最終戦争してる時にぐっっっすり眠ってたみたいだなぁ!?』

 

『えっ!?』

 

『さぼってた分、きっっっちツケを払ってもらおうかしらぁあ!?』

 

『いっ嫌ぁ!!』

 

その時見えた二人の顔が恐ろしくて、ルカは両手で顔を隠した。

 

『ちょっ…ちょっと貴方達!!』

 

アンジュが叫ぶのも間に合わず

 

二人はルカに詰め寄る。

 

『………』

 

全ての覚悟を決め、ルカは歯を食いしばった。

 

『………』

 

だが、一向に攻撃は来なかった。

 

『……………?』

 

ゆっくりと目を開けると、自分は抱きしめられていた。

 

イリアに抱きしめられ、身体から伝わる鼓動から

 

彼女が泣いている事が分かった。

 

『お帰り…ルカ…』

 

彼女の物とは思えないほど弱弱しい声で、それは聞こえた。

 

『…うん。ただいま』

 

ルカは、その言葉に答えた。

 

『………』

 

スパーダは、ルカの目を見て微笑む事しかしなかった。

 

そしてルカに背を向け、アニーの肩に手を置いた。

 

『スパーダさん?』

 

スパーダは、血を吐いていた。

 

その血を見たアニーは、動揺を隠せなくも、冷静を装っていた。

 

『…悪い、治療頼むわ』

 

『は…はい!』

 

スパーダは、アニーに担がれて

 

近くの医療施設へと連れて行かれた。

 

 

 

 

 

〜世界樹の周辺〜

 

パスカは、イアハートの遺体を担ぎながら歩いた。

 

どうか、人目につかない所へと、担いだ。

 

『………』

 

死んでいる

 

死んでいる…のだろうか。

 

『…ううん。』

 

パスカは、首を横に振った。

 

『貴方は、生きるべきだよ。』

 

そう、死人に語りかけている。

 

『私の世界はね、もう消えて無くなっている。』

 

『この世界では、消えて居なくなっている。』

 

『その時に生まれたのが…貴方』

 

『だから』

 

パスカは、左手を乗せて

 

左手に、光を集めた。

 

そう、それは

 

カノンノが、エドを助けた時に行った時のように

 

『貴方は生きなきゃいけない。私の分まで、ずっと…ずっと…』

 

術が発動すると、パスカ・カノンノとカノンノ・イアハートは光に包まれ

 

そして、パスカは消えていった。

 

『…………』

 

その場で、暫く沈黙が流れ

 

『……』

 

ピクリと、イアハートの手が動く。

 

『…』

 

目が動く。

 

手が動く。

 

手の動きを、目が追って行く。

 

『……』

 

生きてる。

 

私は、今生きている。

 

『……馬鹿…』

 

イアハートは、腕で目を被せ

 

目を誰にも見られないように泣いた。

 

パスカに対しての感謝と

 

これから生きる私に向かってのエールとして

 

ただ、ただ…泣き続けた。

 

『…………』

 

その近くには、もう一人の人格

 

ラタトスクを失った、エミルが居た。

 

『エミル』

 

隣にはマルタが居る。

 

マルタが、エミルの手を握って

 

じっと、イアハートが泣いている姿を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

終わりから始まったこの世界は

 

 

美しくて、温かくて

 

 

一人では絶対に生きられない世界

 

 

大勢の人達で支え合って

 

 

初めて意味が生まれる世界。

 

 

そんな世界を作り上げたアドリビドム

 

 

ライマ国軍、ガルバンゾ国軍

 

 

そしてエドとアル。

 

 

きっと、この世界は長く続き

 

 

終わりの無い、壮大な物語を作って行くことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

〜コンフェイト大森林〜

 

時間が来た。

 

エドとアル、

 

マスタングとホークアイとイズミとアームストロング

 

異世界から来た者達が、元の世界へと帰るへと

 

『っしょ!これで終わりだろ!!』

 

エドが、最後の錬金術を発動させると

 

コンフェイト大森林に有った列車は元の姿へと戻った。

 

元はセントラルへと向かう筈の列車

 

初めは、この中からだった。

 

『あーあ、これでエドともお別れか。』

 

ルークが、名残惜しそうにそう呟く。

 

『折角、武器代や貨物代の心配が無くなって良い思いしてたのですが、残念ですね。』

 

ジェイドが微笑みながらそう答える。

 

『何か嫌な笑顔だな』

 

『はははははははははは。』

 

『何かムカツクな』

 

このやりとりも、久しぶりだ。

 

『おいエド』

 

ゲーデとラザリスが、エドの近くに立っていた。

 

『おう、お前らか』

 

『………』

 

しばらく、沈黙が続いた後

 

ゲーデは、笑顔になった。

 

『俺は、生きていて良いんだな?』

 

『ああ、この世界で生きていろ。一生な』

 

そして微笑み返し

 

エドは車両の中に入って行った。

 

『さようならぁ――!マスタング先生ぇ―――!』

 

『ミニスカートの事、忘れないでぇ―――!!』

 

ゼロスとレイヴンがハンカチを振りながら列車に乗るマスタングを迎えている。

 

『安心しろ。お前らの事を忘れても、私の野望の事は忘れやしないさ。』

 

『あはは最低』

 

アンジュが適当かつ的確なツッコミを行い、笑顔になっていた。

 

『………マスタング』

 

『おやおや、一番弟子さん。師匠と離れるのが寂しいのですかね?』

 

『たわけ』

 

氷の精霊らしい、冷たいツッコミを受けながらもマスタングは笑顔になっていた。

 

『どこにでも行くがよい。だが、再び会った時は』

 

セルシウスは、木に向かって指パッチンをした。

 

複数の木が爆発し、燃えた

 

『貴様を焼き尽くす程の力は得ているだろうよ』

 

『そうか、じゃぁ頑張れよー』

 

『貴様もだチビ』

 

『んっなぁ!!』

 

チビと呼ばれ、『もう一度ブッ飛ばしてやろうか』と言いながらエドが窓から身を乗り出そうとした時にアルに肩を掴まれた。

 

『………』

 

その時に見えたセルシウスの表情は

 

どこか寂しそうであり、切なそうでもあった。

 

『だから…もう一度私に会いに来い。会いに来て、もう一度私と戦え』

 

『ああ、その時はもう私は大総統になっているだろう。』

 

マスタングのその言葉に、セルシウスの表情は明るくなって

 

精いっぱいの微笑みを、マスタングに見せていた。

 

『イズミさん!』

 

リメインズのメンバーが、列車の周りに集まっている。

 

『向こうの世界でも頑張って下さいね!』

 

『これまでの出来ごとは…ギルドの伝説として残していきます!』

 

『あーはいはい。分かった分かった。』

 

イズミは、ギルドには顔も向けずに背を見せていた。

 

もう区切りをつけようとしているのだろう。決して振り向こうとしていなかった。

 

ただ、エドだけがイズミの表情が正しく確認出来た。

 

寂しくもあり、これからの彼らを期待している顔だった。

 

『…まだ師匠も青いんだなぁ』

 

『何か言ったか おい』

 

『何でもこざいません』

 

その複雑な表情をする事で、一瞬親近感を覚えたが

 

今起こった殺気で、そんな気持ちは吹っ飛んだ。

 

その殺気を感じたリメインズは、すぐさま大人しくなった。

 

『アレックス!!また出会う時は…己の肉体!更に磨きあげているぜ!』

 

『うぬっ!!そなたも次に出会う時は…我の肉体も更なる美を築き上げていようぞ!!』

 

あちらの方は、もう既に熱気がすごかった。

 

誰ひとり、近づこうとすらしていなかった。

 

また再び、この世界にこの二人が出会ったら

 

間違い無く温暖化現象が発生されるだろう。

 

『リザ』

 

イリアは、リザを呼び

 

銃口を見せた。

 

『バーン!!』

 

そして、擬音を口で言って

 

撃つ振りを行った。

 

『しゃしゃしゃ。やっぱりアンタはトカゲみたいに反応なしね』

 

『殺気がまるで感じられませんでしたからね。』

 

そう言って、銃の手入れを行い始める。

 

『また会った時、一緒にまた狩りでも行いましょうよ』

 

その一言は、リザに向けて一直線に伝えた言葉であり

 

リザがその言葉を聞いた瞬間、立ち止まり

 

『…そうね。楽しみにしているわ』

 

と、再び歩きだした。

 

 

 

時間だ。

 

もう、列車は動き出す。

 

蒸気が列車から吹き出る。

 

『もう…この世界ともお別れか』

 

車輪が動き出す。

 

だが、まだ前には進まない。

 

『エド、アドリビドムの目的はもう達成された。』

 

アンジュは、列車の窓から顔を出しているエドにそう伝えた。

 

『これで、ようやく私もゆっくり出来る時間が来たわ』

 

『もうアドリビドムは終るのか?』

 

『ええ、終わり。』

 

そんなアッサリと伝えた言葉に、エドは落胆した。

 

『…最後にそんな言葉、聞きたく無かったぜ…』

 

『アンジュさん…本当に終わりなんですか?』

 

アルも、少し後ろめたい気持ちでアンジュに質問した。

 

アンジュは微笑み、走り去ろうとしている列車を見送った。

 

『これから、新しい世界が待ってるんだもの。もっと、やるべき事があるわ』

 

段々と、この列車は皆から離れていく

 

『これから始まるのは”守る”事と”創る”事。』

 

段々と、アンジュの声が遠くなっていく。

 

『そして、”愛する”事。神様が居なくなった限り、私達が神様になるのよ。だから』

 

皆からの叫びが、エド達の耳を通る。

 

さようならと、叫び

 

『エド―――!!』

 

ありがとうと叫んだ

 

『俺達!ずっと頑張るから!!だから!!』

 

『お前らも頑張れよぉ―――!!』

 

『前よりもずっと、この世界を良いように創って行くから!!』

 

『さようなら!ありがとう!!さようならぁ――――!!』

 

そして、その叫びは

 

時間と共に、小さくなって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

『あいつら、結局来なかったな』

 

エミルとエステルとリタ

 

弟子と友達とライバル

 

その他にもスパーダやルカ等も

 

来なかった者達は大勢いる。

 

『まぁ、この世界を堪能してもらえる方が、こっちとしても楽で良いな』

 

『ふん、素直でないな鋼の』

 

『うるせーな。湿っぽいのは嫌いなんだよ』

 

そう、エドが悪態をついていると

 

『エド、窓の外見てみな』

 

と、イズミがエドに言葉を送った。

 

エドは、イズミの言うとおりに窓の外を見た。

 

そこには

 

『…………っ』

 

巨大なオブジェクトと

 

彼らが居た。

 

先ほど見送りに来なかった者全員だ。

 

ダオス率いる盗賊団も居る。

 

『エド!離れていても!僕たち友達だよ!』

 

エミルが、精いっぱい大きな声で叫ぶ。

 

『またいつか!顔を出してこいよ!』

 

カイウスが、精いっぱい大きな声で叫ぶ

 

『さようなら師匠!またいつか!!私の成果を見て下さい!』

 

エステルが、精いっぱい大きな声で叫ぶ

 

『身長の方、もうちょっと頑張ってきなさいよ』

 

リタが、控え目な声で呟くように言う。

 

『んだとてめぇチビ女コラァアアアアアア!!!!!』

 

エドが叫ぶ

 

『うおっ!やっぱすっげぇ地獄耳…』

 

ユーリがエドの聴力に感心する。

 

『……バイバイ』

 

イアハートは、エドに微笑みを送って見送った。

 

『…………』

 

エドは、イアハートを見て

 

彼女が生きている事の驚きと

 

彼女が生きている事の安堵を感じた。

 

『……じゃぁな。また会おうぜ!!』

 

エドは、全員に向かってそう叫んだ。

 

そして、見送りの姿は完全に居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

『…ところで鋼の』

 

列車に乗ってから時間に乗っていたマスタングは、エドに問いかける

 

『この列車は、どこに向かっているのだ?』

 

『あそこ』

 

エドが指差した向こうには、ラザリスが作ったキバがそびえたっていた。

 

『……あそこにぶつかろうと言うのか?』

 

『それしか脱出する方法は無いね』

 

それを聞いたマスタングは、大きく息を吐いて再び座った。

 

『しっかし皮肉だな。仲間にはなったとしても、一度は世界を滅ぼそうとした奴が作った物に突っ込むなんてよ』

 

『そもそもアレはいつ消えるんだろう?』

 

別れ際に見たゲーデの様子を見れば、世界が崩壊する事は二度と無さそうだが

 

『さぁな、見た限りではもう、二度とこの世界の害悪には成らないだろうしよ』

 

そう言って、エドは悪態をついた座り方をした。

 

その姿勢を見て、アルは呆れるように溜息を吐いた。

 

『…それにしても、向こうの世界に着いたら…僕たちはどこに着くんだろうね。』

 

どこに着く

 

そう言えばそうだ。

 

場所はともかく、時間軸は不安定であり

 

元の世界に戻れても、元の時間軸に戻れる保証は無い。

 

遥か未来かもしれないし

 

遥か過去かもしれない。

 

それは覚悟しなければならないだろう。

 

『…ま、なんとか成るだろ』

 

エドは、考えてもしょうがない事は考えない事にした。

 

そして最後に見えるこの世界を目に焼き付けようと、じっと窓の外を見た。

 

そこには、一つの苗木があった。

 

その傍には、カノンノが居た。

 

『………!』

 

だが、直感でそのカノンノは生きていない事を知った。

 

カノンノの傍の芽

 

それが、新しいカノンノなのだと知った。

 

お前は、これから

 

一つの樹となり、この世界を見守るのだな。

 

エドは、その芽に向かって手を振った。

 

すると、カノンノも手を振った。

 

そして、列車はキバに直進し

 

接触し

 

発光し

 

エド達は、大きな光に包まれた。

 

 

 

 

 

原作 荒川弘/バンダイナムコゲームズ

 

作  ND

 

原案 ND

 

監修 ドクトカゲ

 

 

 

 

-2ページ-

 

〜エピローグ〜

 

 

 

『ふぅん。今度の大国はライマ国ねぇ…』

 

ハロルドは、露天に売っていた新聞を街の真ん中で広げて呼んでいた。

 

今、ハロルドが立っている街はウリズン帝国である。

 

いや、民主主義になってからは帝国では無くなったのだが

 

『世界一の経済大国が、今や三位…世知辛い現実よねぇ』

 

クックックと、不敵に笑みを浮かべながらハロルドは前に歩いた。

 

星晶が無くなってからは、電気産業が盛んになり

 

電気産業に疎いウリズン帝国は、段々と経済力を失くし、落ちてっている。

 

その中、新しい制度を作り続け、古い法を捨てて産業方法も変えてからは持ち直し

 

何とか三位にもぐり込めているという所だが

 

サレがまだ生きていると知った時は、少し度肝を抜いたが、結構改心されているようで良かった。

 

ヴェイグと共にディセンダーと戦ったと言うのだから、前よりはずっとマシになっている筈。

 

『ま、私には関係無い事だけどね』

 

そう言って、読み終わった新聞をゴミ箱に押し込んだ。

 

街は今、賑わっている。

 

世界が新しくなってから、毎日がお祭り騒ぎだ。

 

本当にお祭りだ。紙吹雪が舞っている。

 

そんな事は気にして居られない。

 

今から、行く所がある。

 

終わりから随分時間が経った。

 

今、アレがどうなっているのか楽しみで仕方が無い。

 

 

 

 

 

 

 

『どうもー皆さん。ご無沙汰してる〜?』

 

『遅いハロルド』

 

『ごみんごみ〜ん』

 

今、ウリズン帝国の近くの海

 

その中の広場で集まっているのは、アドリビドムの全員だった。

 

中にはライマ国の者や

 

ウリズン帝国の者も居る。

 

『ん?エステルは居ないの?』

 

『居ないんですよ…全く。あの方はアドリビドムを再結する気があるのでしょうか!』

 

チャットが、いじけながら復元しかけているバンエルティア号を撫でていた。

 

アドリビドムが崩壊したあの日、隊員らは密かに再結しようと集って

 

船の復元をしていたのだ。

 

錬金術が使えるエステル、ルカは必要な即戦力であり

 

チャットの指示通りに復元している為、急ピッチに正確に復元出来ては居るが

 

エドと比べると技術力は乏しく、少しばかり時間が掛ってしまっている。

 

『しかしまぁ、エドワードさんが伝えてくれた錬金術のおかげで、ここまで来ては居るんですけど…』

 

『今日…僕が一人で復元しなくちゃいけないの?』

 

まだ5分の4も残っているバンエルティア号の復元に、ルカは少し溜息を吐いた。

 

『頑張れよールカちゃん!終わったら遊んでやるからよぉー!』

 

スパーダはピンピンしていた。

 

あの時の治療錬成の犠牲から回復し、今や油を飲む事でさえ可能だそうだ。

 

危険だからしては居ないが。

 

その隣に、蘭欄と嫌な笑顔をしたイリアも佇んでいた。

 

『さ…さ!復元しようかな。ゆっくりと確実に…』

 

ルカは逃げるように船の復元へと戻った。

 

『…ところでお前は、山に帰らなくても良いのか』

 

『人類の発展の為に、力を貸すと言ったのだ。今貸さなくてどうする』

 

セルシウスは、ただそこに居るだけだった。

 

そこに居て、暑いこの空間のクーラーの役目を果たしていた。

 

『…そういえば貴方、火の精霊もかけ持ったのですってね。』

 

リタが、腕を組みながらセルシウスに言葉を持ちかける。

 

『ああ、すごいよな。氷の精霊なのに火の精霊ももちかけるなんて』

 

『…イフリートが死去したから代理が必要だっただけだ。私は止むなく無理やりやらされているだけだ。こんな不名誉な事』

 

セルシウスは、悪態をついてそっぽを向いた。

 

『つー事は、いつかイフリートみたいになるって事?セルシウスちゃんが?』

 

ゼロスがそう失言した瞬間、セルシウスの手から焔が発射された

 

『うぉお!?』

 

『ぎゃぁああああ!!』

 

ゼロスは華麗に避け、代わりにしいなが火ダルマとなり、海に落ちた

 

『………』

 

その有り様を見て、全員が黙り込んだ。

 

『怖っ…』

 

一人が、そう呟いた。

 

その光景の中に一人、少女が居る。

 

本当は別の世界…いや

 

別の時間軸かもしれない。彼女が

 

『で、貴方はどうするの?』

 

『へ?』

 

『貴方は、元の世界に戻る事に思索しなくて良いの?』

 

ハロルドがそう質問すると、イアハートは微笑んだ。

 

『私は…勿論私の住んでいた世界も好きです。でも、この世界も好きですし、エドの住んでいた世界にも興味があります。』

 

そして、海の向こうの太陽を見た。

 

『だから私は、エドの世界とこの世界、どちらの世界も自由に行き来出来る方法を探します。パスカが望んだ、この世界の発展を目指して』

 

次に、照れるように頭を掻いて答えた。

 

『それに、またエドに会いたいし…』

 

『……ふぅん』

 

それを聞いたハロルドは、上機嫌になり

 

思い切り、イアハートの背を叩いた。

 

『だったら、頑張らないといけないわね。頑張りなさい』

 

『はい!』

 

『じゃ、私はこれで』

 

そう言って、ハロルドはどこか去っていった。

 

『…え?ハロルドさんは?』

 

『あー、もうあの人は良いですよ。諦めてますから』

 

チャットはそう言って、作業に入った。

 

『・・・・・・・・・』

 

そして、イアハートはそのままクスリと笑った。

 

これで、良かった。

 

この世界は、平和で良かった。

 

これから、この世界は

 

私達人間だけで生きなければならない。

 

私も、一度私の胎児を守れなかった。

 

だから、これからは

 

この世界を、守っていこう。

 

『あら?こんな所で何してるのかしら?』

 

アンジュが、港に通りかかり僕たちを見つけた。

 

『・・・また、アドリビドム結成でもしようとしてるのかしら?』

 

『え?駄目ですか?ダメでも、僕たちはやりますよ』

 

『まぁ、そうでしょうけど』

 

アンジュはそう言って、微笑んだ。

 

『そうだロックス。もし、再結成が成されたら再びお祝いを行いません?』

 

いきなり話を振られたロックスは、一瞬動揺しながらも

 

微笑んで、『ええ、いいですよ』と答えた。

 

そうだ、ここは同じだ。

 

いつも通りの平和な世界と、同じ。

 

星晶が無くても、きっと私達は

 

この世界で、生きていけるはずだから

 

 

 

 

 

 

〜ガルバンゾ城 医務室〜

 

 

 

下半身の感覚が無くなったフレンの傍には、ユーリとエステルが居た。

 

『…最終戦争は終わったぜ』

 

ただ、それをフレンに伝える為に

 

『そうか。』

 

『フレンは、これからどうするのです?』

 

エステルがそう質問をすると、フレンは微笑んだ。

 

『…私は、この通り動き回る事は出来ません。後は、ゆっくりと日の流れを見る事でしょうか。』

 

『新しくなったこの世界を作って行くとは思わないのか』

 

『……出来れば、そう願いたいのですけどね。』

 

フレンがそう言うと、エステルがフレンの手を握った。

 

『それでは、フレンも一緒に作って行けば良いのです。』

 

その言葉に、フレンは戸惑いを隠せなかった。

 

『しかしエステリーゼ様、私は…』

 

『私は、国の王女であり象徴であるにも関わらず、顔を失いました。ですけれどもこんなにピンピンしています。』

 

エステルはフレンに微笑みかける。

 

『ですから、足が失っても出来る事はありますよ。フレンはとても有能な騎士なのですから。』

 

エステルのその言葉一つ一つを、フレンを大きく飲み込み

 

『………』

 

震えながら、大きくうなずいた。

 

『私なんかの為に…勿体ないお言葉、ありがとうございます…。』

 

『そんな、そんな卑屈になさらずに…』

 

そんなやりとり

 

何時からだろうか。懐かしい。

 

ユーリは、そう思いながら窓の外を見た。

 

外の空は涼しい。そして綺麗だ。

 

その空の下、俺達はどうなるのだろう。

 

そんな事を胸躍らせながら、扉が大きな音を立てて開かれた

 

『邪魔するぜ』

 

扉の向こうに居たのは、ゲーデとラザリスだった。

 

『よぉ、元気にしてるか?』

 

『そっちは辛気臭い顔してるな』

 

ゲーデは、フレンに向かってそう言い放った。

 

『……』

 

エステルは、少しだけ怪訝な表情になった。

 

『まぁ、どうでも良いか。今回は取引をしに来たんだよ』

 

『取引?』

 

そう言って、ゲーデは口の中に手を入れ

 

口の中から、一欠片の赤い石を取り出した

 

『これ、何だと思う?賢者の石だよ。』

 

賢者の石

 

そう聞いた時、一瞬にしてここの空気が変わった。

 

『もう身体に戻れなかった魂の分だ。せいぜい三人分のエネルギーだが、お前のだらしなくなった下半身と醜い右半分の顔を治すには丁度良いかもな。』

 

『………お前』

 

ユーリがゲーデを睨みつけると

 

エステルが、飛びかかるように答えた。

 

『交換条件は、何ですか?』

 

『…エステル?』

 

真剣な目をしたエステルに、ユーリは黙り込んでしまった。

 

『まぁ、当然タダでやろうとは思わねえな。』

 

『それ程、僕たちは人間出来ていないからね。』

 

『………良いだろう。言ってみろ』

 

フレンは、真剣な目つきと化し、異形の二人を睨みつける

 

『……世界が滅びた今、俺達には帰る場所も目的も無い。』

 

ゲーデは、そのフレンの目を見て語った。

 

『だから、俺達を人間としての権利を認めてくれ』

 

『………何?』

 

『人間は世界を壊すほどの力を持つと知った今、もう滅ぼそうとも何も思わない。』

 

『もう、僕たちも世界を壊すなんて事も、人間を殺すなんて事も言う権利が無いよ。』

 

異形の二人は、遠い所を見ているような目をしている。

 

『…俺達を、人間として認めてくれないか?受け入れてくれないか?』

 

『…………』

 

エステルは飛びあがり、返事を送った。

 

『私は認めます。賢者の石関係無しに…。だって、貴方達も世界を救ったのですから。』

 

『俺も、異論は無いね。』

 

エステルとユーリがそう答えると、フレンは微笑み答えた。

 

『…ああ、僕も異論は無いよ。』

 

そして、その微笑みをゲーデとラザリスに送った。

 

『君たちは、立派な僕たちの…仲間だ。』

 

僕たち、人間の仲間

 

 

 

 

 

 

 

『ゲーデ。本当に僕たちは人間で良かったのかい?』

 

『ああ。人間で良かった。』

 

そう言って、ゲーデはラザリスの手を繋ぐ。

 

ラザリスは、顔を赤くしながらも笑顔で握り返す。

 

『人間は、俺達の思う以上に巨大な存在だった。』

 

『俺達は、今その土俵に立とうとしているのだからな。これ以上満足な事は無い。』

 

ゲーデの言葉で、ラザリスは頷く

 

『うん。僕は…君が僕の隣に居てくれるなら、それで良いよ。』

 

『ああ』

 

『君が…僕の者になってくれるなら。それで良い。』

 

そして、二人が見た先には

 

今や、この世界のシンボルの一つとなった、

 

巨大な穴を開けたキバがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜世界樹の跡〜

 

世界樹の灰の中に、少女は居た。

 

太陽の精霊の一人、光の精霊とされた少女

 

以前、大精霊レムとして崇められていた少女

 

その少女は、真っ黒な灰を払いながら

 

もう一人を探す。

 

走って、走って、自分のもう一人を探した。

 

 

 

 

真っ暗な洞窟

 

前に彼をこの洞窟に押し込めた。

 

この中に、もう一人が居る筈だ。

 

真っ暗な闇の中に、そこに居た。

 

太陽の光と共に存在する闇

 

闇の精霊の少年が、そこに居た。

 

『待っていてくれたんだ。』

 

『………』

 

『でもやっぱり、君は無口だね』

 

そう言って、光の精霊の少女は闇の精霊の少年の手を繋ぐ

 

一緒に立ちあがって、洞窟から抜け出そうとする。

 

外は、月の光が綺麗に光っていた。

 

闇の中に、光

 

夜空はこの二つで、綺麗に映るのだと知った。

 

街はお祭り騒ぎ。

 

街から離れたこの場所でも分かるくらい。街は賑わっている。

 

そして、一つの火種が飛びあがり、空を飛ぶ

 

火は消え、そして爆発するように花を咲かせる。

 

花火が打ち上げられ、その光を二人が見る。

 

『シャドウ』

 

レムは、シャドウの手を握りながら

 

子供のままの姿で子供のままの声で伝えた。

 

『やっと、もう一度二人で花火が見れたね。』

 

前に見た、綺麗な花火を見て

 

10万年越しの約束を、ようやく果たす事が出来た。

 

『……レ…ム……』

 

『……やっぱり、シャドウの声は優しい声だね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ウリズン国〜

 

『………』

 

打ち上げられた花火を見つめながら、リフィルは考える。

 

『先生。どうしたんだ?』

 

『ん?ええ…ちょっと、違和感を感じたのよ。』

 

『違和感?』

 

リフィルは、怪訝の表情をしながら答える。

 

『…ええ。世界樹のディセンダーの遺体…それがちょっとおかしいの』

 

『遺体?服しか無かった筈だろ?』

 

『ええそう。そうだけど…衣類はエドガーの物しか落ちていなかったの。』

 

『?』

 

『ゼロはともかく、スノウの衣類がどこにも見つからないらしいのよ。』

 

そう、リフィルが答えると

 

ロイドは、ちんぷんかんぷんのように頭を抱えた

 

『つまり…どう言う事なんだ?』

 

『だからね、違和感なのよ。』

 

『んー。そんな事はともかく、今は始まったばかりの世界を楽しもうぜ。ジーニアスだってそうしてる。』

 

ジーニアスは、記憶を失くしているから考える必要が無いだけだ。

 

知識は徐々に元通りになりつつはあるが…

 

『どうしたの?姉さん』

 

ジーニアスは、プレセアと手を繋いで立っている。

 

最初は、どこかよそよそしい関係だったが、

 

今は、ちゃんと手をつなげるほどに関係は回復していた。

 

『・・・いえ、何でもない。ちょっと考え事していただけよ』

 

『じゃぁ、僕また屋台に行ってくるね!プレセアと一緒に』

 

そう言って、ジーニアスはプレセアの手を引いて走り出す。

 

『ようし!俺も!』

 

ロイドも、釣られて走り出す

 

『わわっ皆待ってよ〜・・・』

 

コレットも、遅れてロイドを追いかけた。

 

いつもの仲良しな三人組

 

今見える光景は、そんないつも通りの幸せな光景だった。

 

プレセアは、ちょっとだけ笑顔になってきた。

 

以前と比べると、少しだけだが笑う子になってきた。

 

ジーニアスも、記憶は戻りそうにはないけれども

 

徐々に私の知っているジーニアスに戻りつつある。

 

記憶はこの様子で行くと永遠に戻らないだろう。

 

だが、それでいい。

 

それでも、今この瞬間は幸せだった。

 

今、この幸せと比べたら、今考えている事は

 

『…そうね。深く考えてもしょうがないわ』

 

そう言って、リフィルは祭り騒ぎの方へと歩み向かった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

〜セントラルシティ行き列車内〜

 

『………』

 

気付いたら、エドは列車に乗っていた

 

乗っていたのは良いが、座っている場所が違っていた。

 

『どこなんだ…ここは…』

 

近くには、アルも居ない。大佐も居ない。師匠も居ない。リザも居ない。少佐も居ない

 

目の前に居るのは……

 

『………!』

 

カノンノ・スノウだった。

 

『お前…何でここに居て……』

 

スノウは、エドを見るなり

 

ニヤリと、不気味に微笑んだ。

 

『この列車は、我々ジャング革命軍がジャックした!怪我をしたくねえもんは大人しくしてな!』

 

『!』

 

この台詞は、聞いた事がある。

 

あの世界に巻き込まれる前に、トレインジャックが有った時に聞いた言葉だ。

 

『バイバイ』

 

スノウはそう言って、エドから離れるように駆けて言った

 

『おい!待て……』

 

『だぁぁぁれぇぇぇがぁああああああああああ!!!ミジコンドリアドチビかぁあああああああああ!!!!』

 

後ろでまた声がした。

 

『俺の…声……』

 

間違い無い、ここは

 

俺は、今

 

過去の世界へと、飛んでしまっている。

 

『…!』

 

その前に、あれだ。

 

今すぐにスノウを追いかけなければ。

 

『おいアル!!このトレインジャックの首謀者をとっ捕まえてぶっ飛ばしてやる!!』

 

また、俺の声がした。

 

とにかく、俺には出会わないようにしなければならない。

 

俺が俺と出会ったら、過去改変されて

 

この後どうなるのか、考えたくも無い。

 

未来が、変わる。

 

今、これから起こる事が変わる。

 

それだけは、阻止しなくては。

 

『くっ…!』

 

エドは、すぐさま駆けだし、過去の自分から逃げるようにスノウを追いかけた。

 

『…っ』

 

エドは、歯がみしながら足一歩一歩に力を入れて駆けだす。

 

この世界にカノンノ・スノウを連れて来たのは

 

まぎれも無い、俺達だったのだ。

 

あいつが、この列車のどこかに紛れ込んでいたのだ。

 

『・・・・・・野郎』

 

 

 

 

 

〜運転車両〜

 

『だっ・・・誰だお前は!!』

 

運転士を殺し、トレインジャックの男はそこに立っていた。

 

スノウは、トレインジャックの首謀者を睨みつけ

 

『み・・・見るな!見るんじゃねえ!』

 

そう叫びながら、拳銃を突きつけた。

 

スノウは、それでも睨みつけるのを止めず

 

男は、思わず発砲をした。

 

『!』

 

銃は剣に当たり跳弾し、弾は男の額に当たった。

 

男は絶命した。死体二人が有る。

 

スノウは、ただその死体を見つめているだけだった。

 

そして、扉が開かれる。

 

『・・・・・・・・・』

 

エドは、その光景を一部始終見ていた。

 

そして、真実を知った。

 

『お前・・・何もしていなかったんだな』

 

スノウは、エドの言葉に振り向かない。

 

そして、後ろからまた足音が聞こえる。

 

『・・・・・・っと』

 

エドは、運転席の死角に立ち

 

今から入ってくるであろう者からの視線を避けた。

 

扉が、再び開けられる

 

過去のエドとアルの二人

 

『お前が、このトレインジャックの首謀者…みたいだな』

 

『どうして……こんな事をしたのですか…?』

 

過去のアルがそう質問をすると、女は愉快そうに笑いだした

 

『おい!とっとと答えやがれ!』

 

『え?何?私?どうしてこんな事してるか分かんないよ〜』

 

おちょくるように、答えるように見えたそれは

 

ただ、真実に忠実に伝えている言葉のように思えた。

 

『てめぇらの仲間はもう全員やっつけたぜ。後はてめぇだけだ。ちゃんとお縄につきやがれ』

 

『私の名前知りたい?』

 

『んなもんは後で良い!!』

 

そう言った後、過去のエドは機械鎧を錬金術で刃物に変えた

 

『てめぇを捕まえた後、たっぷりとお話を聞いてやるよ』

 

瞬間、笑っていた女の顔は急に静止した

 

そして、無表情になった

 

『ううん。今から起こる事、それに大切な事が起こるから、教えてあげるよ』

 

その言葉は、エドが以前聞いた言葉の意味が違っているように聞こえた。

 

スノウは、この後何があるのか知っているのだ。

 

これから起こること、さっきまでエドが体験していた事

 

『は?意味が分かんねえぞ!』

 

女は、手を大きく広げ、再び笑いだした

 

『なんだってんだよ……!!』

 

『兄さん!!』

 

アルが叫んだ先に、線路の上に生えている大きが樹が生えていた

 

『なんだ!?ありゃぁ!!』

 

列車は線路の上の樹に激突した

 

『うわぁああああああああああああああああ!!!』

 

大きな衝撃と共に、謎の大きな光がエド達を包んだ

 

その光は、アルを飲み込もうとし、エドの脚も、飲み込まれかけていた

 

『兄さん!!!』

 

『アル!!!!!』

 

だが、声をかけた時はもう遅かった

 

アルはもう、光に包まれて見えなくなってしまっていたからだ。

 

その光の中に、さっきの女が居た

 

『……なんなんだお前は……!』

 

女は笑っている

 

ケタケタと笑っている

 

その間にも、光は過去のエドを包んでいた

 

『おい!!誰なんだよお前はぁ!!!!』

 

瞬間に、女は名前を名乗った

 

『私は、カノンノ。面白い事が大好きなの』

 

光に包まれているときに、エドは見えた。

 

前に見えなかった、彼女の顔

 

名前を名乗った時の表情

 

その表情は、涙を浮かべていて

 

満足げに笑っていた。

 

『これから起こる、面白い事が・・・』

 

そして、光と共にスノウの身体は消滅していった。

 

『私にも・・・味わえますように・・・』

 

スノウの顔は、消える前にエドの顔を見た。

 

『ありがとう』

 

ただ、言葉を聞くことしか出来なかった。

 

だけど、それで十分だろう。

 

だって、彼女はこんなにも幸せそうで

 

これから起こる、終わりからの始まりを望んだ

 

もう一人の”カノンノ”その者に見えたからだ。

 

身体が完全に消えたとき、まだ光の中に過去の自分は居るだろうか。

 

『頑張れよ。』

 

これから始まる出来事は、俺にとっては短くて長い。

 

そして大切な、大切な世界をお前は救うだろう。

 

多くの仲間と共に、何度も死にそうになったり、何度も笑ったり、何度も怒ったり

 

そして何度も絶望したりするだろう。

 

だけど絶対に、希望を勝ち取る事ができる。

 

だから――――頑張れ

 

そう、エドが過去の自分に思いを送ったとともに、光は消えていった。

 

 

 

 

 

 

『兄さん!』

 

気づいたら、運転車両にエドは立っていた。

 

『・・・・・・アル』

 

『良かった。ここに居たんだね。兄さんだけ別の時空に飛ばされたらどうしようかと・・・』

 

アルにそう言われて、エドは

 

不敵に微笑んだ。

 

『いや、飛ばされたのはお前の方じゃねえの?』

 

『え?』

 

『いや、何でもない』

 

そう言って、エドは運転席を見る。ちゃんと運転手が居た。

 

『お客さん。もうそろそろセントラルに着きますが、ここに居て良いんですか?』

 

運転手は、ピンピンしていた。

 

包帯をしている限り、応急処置を施されているには間違いない。

 

『いや、出るよ。アンタも病院行きな』

 

『気遣いどうも。』

 

そう言って、運転手に手を振って別れた。

 

 

 

 

 

 

 

〜セントラル駅〜

 

駅にたどり着いた時、エドとアルはしばらく沈黙していた。

 

『・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・』

 

時間は、間違いなく進んでいない。

 

あの世界に長いこと過ごしてきたにも関わらず、この世界では一分も時間が経っていないのだ。

 

『・・・・・・なんか、夢みたいだったな。』

 

『うん・・・夢みたいだったね。』

 

そして、エドは機械鎧を見つめる。

 

『・・・ピッカピカの新品だな』

 

『僕も・・・どこも傷ついてないね。』

 

『夢かもな。ははは』

 

そう言って、笑っている時

 

目の前には、ブロッシュ軍曹が居た。

 

『おはようございます!』

 

敬礼と共に発せられた言葉で、『お、おう』とエドは少したじろいた。

 

『マスタング大佐から、伝言をお受けいたしております。』

 

『大佐から?』

 

エドが露骨に嫌そうな顔をした。

 

それとは関係なしに、ブロッシュ軍曹は口元に手を置きながら唸り出す。

 

『・・・・・・ですが、何だか良くわからない伝言なんですよね・・・』

 

『は?じゃぁ無視だ無ー視ー』

 

エドが適当に払っている時に、アルは『ちょっと兄さん』と叱った。

 

『何でも・・・・・・『私達は今戻った。』という伝言なんですが・・・』

 

ブロッシュ軍曹が唸りながら答えると同時に、エドの動きは止まった。

 

『何か、分かりますか?』

 

暫くエドとアルは顔を見合わせ

 

しばらくの沈黙の後、徐々に笑い出していった。

 

『ははははははははは!!』

 

その様子に、ブロッシュ軍曹は益々混乱して動揺してしまった。

 

『え?え?一体何の意味なんですか?』

 

『何でもねえよ。ただ”夢じゃ無かった”ってだけだ』

 

そう言いながら、エドとアルは再び歩き出し

 

これから向かう先へと歩いた。

 

『行くぞ!アル!』

 

そして、次第に足を早めていき

 

最後には駆け出していった。

 

 

 

 

 

エルリック兄弟の物語は、まだ終わらない。

 

彼らの身体が、取り戻すまでは

 

終わりの始まりはやって来ない。

 

 

 

だから、私は願うよ。

 

きっと、エドとアルが身体を取り戻す事を。

 

だから、もしその時が来たら

 

また、出会ってくださいね。

 

私、ずっとそこで待っているから。

 

ずっと、この世界で根を張って待っているから。

 

 

 

 

だから、それまでバイバイ

 

 

 

 

 

 

 

 

鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド

 

 

 

 

説明
最終話です。ここまで見てくれた皆さん。ありがとうございました。またいつか、どこかで逢いましょう。さようなら
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コメント
ありがとうございます。楽しんでいただけたなら幸いです。テイルズとハガレンのコラボ、大変でしたが充実した日々でした。さようなら。(ND)
完結お疲れ様でした!!マジでおもしろく、最後はちょい泣きそうでした。テイルズの中に鋼らしい等価交換の悲しみと喜びと感動があって良かったです。最後にもう一度お疲れさまでした。(テイルズ)
タグ
鋼の錬金術師 テイルズ クロスオーバー 最終話 

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