真・恋姫?無双外伝 〜〜受け継ぐ者たち〜〜 第二十話『関平、奮闘!』
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 森の小川で晴と別れた俺は、返す刀ですぐに成都の街へと戻った。

 

 街の外れにある、小さな空き地。

 

 晴から聞いた場所だが、実際に来てみて俺も少し驚いた。

 

 こんな誰も来ない様な場所に空き地があったなんて、普通じゃ気づかないだろう。

 

章刀 :「そろそろか・・・・」

 

 言いながら、空を見る。

 

さっきまで茜色に染まっていた空は、徐々に東の方から暗く染まり始めていた。

 

 晴が海燕と約束した時間は、今日の日暮れ。

 

 海燕が時間を守る男だとするなら、そろそろ表れる頃だろう。

 

章刀 :「フゥ・・・・・・」

 

 小さく息を吐いて、手に握った刀に視線を落とす。

 

 ・・・・正直に言えば、不安はある。

 

 海燕は、幼い頃晴に戦い方を教えた程の男だ。

 

 その上、人殺しを生業とする殺し屋・・・・・そんな男が、弱いわけが無い。

 

 勝てるのか? 俺に・・・・・

 

 そんな考えが、さっきから頭から離れない。

 

 けど、そんな事よりももっと大きくて大切なものが、俺の頭を巡っている。

 

 ・・・・・・・晴を助けたい。

 

 今も小川で俺の帰りを待っているアイツを、城に連れ戻したい。

 

 それだけは、どんな事があっても譲れない気持ち。

 

 その為には、俺が負けるわけにはいかないんだ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、拳を強く握り締めた。

 

???:「おいおい・・・・こりゃ、どういうことだ?」

 

章刀 :「!?」

 

 その時、突然後ろから声がした。

 

 振り返れば、そこにいたのは大柄な一人の男。

 

 右目には、痛々しい切り傷。

 

 名前を聞くまでも無い。

 

 ・・・・・こいつが、海燕か。

 

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海燕 :「おい、兄ちゃん。 俺ぁここで女と待ち合わせしてるんだが・・・・見てねぇか?」

 

 俺の顔を見ても海燕は特に驚く様子も無く、辺りを見渡す。

 

 さすがに、おれが晴の知り合いだとは思わないらしい。

 

章刀 :「お前が海燕だな?」

 

海燕 :「あん?」

 

 だが俺が名前を呼ぶと、海燕は訝しげに眉を寄せて俺を見つめた。

 

海燕 :「ははぁ・・・。 俺の名を知ってるってこたぁ、まんざら人違いって事も無い訳か。

    お前、銀公の知り合いか?」

 

章刀 :「俺は晴の・・・・周倉の兄貴だ」

 

海燕 :「兄貴? ほぅ・・・・・てことは、お前が関平か」

 

 俺の正体を知って、さすがに海燕も少し驚いた様子だった。

 

 しかしすぐに余裕を取り戻し、表情に笑みが現れていく。

 

海燕 :「で? その兄貴様が、どうして銀公の代わりにここに居るんだ?」

 

章刀 :「晴は来ない。 俺は、あいつの代わりにあんたの誘いを断りに来た。

    頼む、大人しく手を引いてくれ」

 

海燕 :「あぁ? カカッ! 何を言い出すかと思えば・・・・・・・。

    つまり妹に変わってお兄さんが俺と話しあいに来たって訳か・・・・・」

 

 海燕は嘲笑したまま、俺を見下すように睨みつける。

 

海燕 :「冗談にしても、あまり褒められたもんじゃねぇな。

    こっちもガキの使いじゃねぇんだ・・・・・それで大人しく帰ると思ってんのか?」

 

章刀 :「もちろん思ってないさ。 だから・・・・・・」

 

 最初から、こうなるだろうと覚悟してきたんだ。

 

 俺は握った刀の柄に手をかけた。

 

章刀 :「力づくでも、帰ってもらうぞ・・・・・!!」

 

 刀を抜きはなち、前へと付きつける。

 

 それを見て、海燕は心底うれしそうに笑みを浮かべた。

 

海燕 :「カカッ! 覚悟はできてるってわけか・・・・・そうこなくっちゃな!!」

 

 言いながら、海燕も背中に背負った大きな包みを手に取る。

 

 そして巻かれていたサラシがほどかれると、中から現れたのは・・・・・・

 

章刀 :「それは・・・・・・・っ」

 

海燕 :「“暫馬刀(ざんばとう)”ってんだ。 聞いたことくらいはあんだろ?」

 

 巨大な獲物を手にし、海燕は言う。

 

 暫馬刀・・・・・・・長い柄と、巨大な刃を持つ大太刀だ。

 

 見た目は薙刀に似ているが、その大きさは一目瞭然だった。

 

 海燕の持つ暫馬刀は、刃の部分だけでも子供の身長くらいはある。

 

海燕 :「暫馬・・・・なんざ名ばかりに思うかも知れんがな、俺は実際に、こいつで馬に乗ってる人間ごと真っ二つにもできるんだぜ?」

 

 サラっとぶっそうなこと言いやがって・・・・・。

 

 けど、それは多分はったりじゃない。

 

 実際、今海燕のやつはあの巨大な暫馬刀を片手で軽々と持ってるんだ。

 

 少なくとも、腕力じゃ勝ち目はない。

 

 ・・・・・・こりゃ、キツイ戦いになりそうだ

 

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海燕 :「かかって来いよ。 それともこいつを見ただけでビビっちまったか?」

 

章刀 :「はっ。 誰が!」

 

 言うと同時に、海燕に向かって駆けだす。

 

 見たところ隙は見当たらない。

 

 ならまずは、真っ正面から突撃する・・・・・!

 

章刀 :「はあ゛ぁぁーーっ!!」

 

 刀を振り上げ、バカ正直と思えるほど真っ直ぐに振り下ろす。

 

海燕 :「おいおい、バカか?」

 

 “ガギィン!!”

 

章刀 :「ぐ・・・・っ!!」

 

 俺の一撃は、海燕の片手による暫馬刀の一振りで簡単にはじき返されてしまう。

 

 けど、この結果はまぁ予想通り。

 

 なら、次は・・・・・・。

 

章刀 :「こっちだっ!!」

 

 パワーがだめならスピードだ。

 

 一瞬で海燕の背後に回り込み、背中めがけて刀を振る。

 

海燕 :「ほぅ・・・・速さはなかなかのもんだ。 が・・・・・・」

 

章刀 :「っ!?」

 

 “ギギン!!”

 

 その一撃も、海燕には届かない。 

 

すぐに反応され、暫馬刀に受け止められる。

 

海燕 :「そら、ボサッとしてんなよ!!」

 

 “ブォン!!”

 

章刀 :「うぉ゛っ!!?」

 

 つばぜり合いの状態から放たれたのは、海燕の強烈な右拳。

 

 俺はなんとか状態を反らしてかわすが・・・・

 

 ヤバい・・・・・完全に体勢を崩された。

 

海燕 :「ウオォラーーっ!!」

 

 そこへ間髪いれずに、暫馬刀を打ちこんでくる。

 

 くそ、これはかわせな・・・・・・・

 

“ガギイィィィィン!!!”

 

章刀 :「ぐぅ゛・・・・・・・・・・・っ!!」

 

 なんとか刀で受け止める事は出来た。

 

 それでもその圧倒的な力で、俺の身体は軽々と吹き飛ばされる。

 

 数メートル後ろに飛ばされ、なんとか着地した。

 

章刀 :「くそ・・・・・・っ!」

 

 分かってはいたけど、やっぱり腕力に差がありすぎる。

 

 海燕は片手での一撃だったのにも関わらず、それを受け止めた俺の両腕はミシミシと悲鳴を上げている。

 

 なんとか後ろに飛んで衝撃を流したからいいようなものの、もしまともに受け止めれば恐らく腕の骨がもたない。

 

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海燕 :「どうした、もう終わりか?」

 

章刀 :「うるせぇ。 ちょっと休憩だ」

 

 たった二合打ち合っただけでも十分分かる。

 

 ・・・・・・こいつは強い。 少なくとも、俺より各上だ。

 

 くそ、こんなことなら平成の時代でももうちょっと剣の修練しとくんだった。

 

 ・・・・・って、今更そんな事言ってもしょうがないか。

 

 今はとにかく、なんとかこいつに勝つ方法を見つけないと・・・・・

 

 そう考えながら、海燕を頭からつま先まで見渡す。

 

 ・・・・・・そうだ、右目!

 

 海燕の右目は、昔晴が付けた刀傷のせいで完全に閉じている。

 

 つまり、奴の視界の右半分は死角になっているはずだ。

 

 そこを付けばもしかしたら・・・・・

 

海燕 :「ああ・・・・念の為に言っておくがな、右目の死角をつこうって考えならやめときな」

 

章刀 :「っ・・・・!?」

 

 まるで俺の考えを見透かしているかのようなタイミングでの、海燕のひとこと。

 

それが図星であることは、俺の表情が物語ってしまっているだろう。

 

海燕 :「確かに俺の右側は死角になっちゃあいるが、それが分かってて弱点をそのままにしとくと思うか? 

    見えなくたって、気配だけで十分反応できるんだよ。

    そうとも知らずにノコノコ間合いに入ってきて気が付いたら真っ二つ・・・・・なんてのは

    さすがにつまらねぇからな。 一応忠告しといてやるぜ」

 

章刀 :「・・・・・・そりゃどうも」

 

 まったく嫌になる。

 

 海燕の言うとおり、今俺が思った通りに斬りこんでいたら、間違いなく俺は死んでいた。

 

 見つからない・・・・・こいつに勝つ方法が。

 

海燕 :「それともう一つ・・・・・お前の欠点を教えてやる」

 

章刀 :「?・・・・・・・」

 

 ついでとばかりに、海燕は人差し指を立てて続けた。

 

海燕 :「お前の攻撃には、一切殺気がこもっちゃいねぇ」

 

章刀 :「殺気だと・・・・?」

 

海燕 :「そうさ。 殺気のこもってねぇ攻撃なんざ、俺にとっちゃ真剣でも木刀でも同じだ。 

    お前、人を本気で殺してぇと思ったことがねぇだろ?

    人を斬った事はあるが、それはあくまで戦場での仕方のない出来事・・・・・。

    本当は人なんか殺したくないと、そう思ってるクチだ。 違うか?」

 

章刀 :「当たり前だろっ!! 誰だって人を殺さずに済むならそれがいいに決まってる!

    お前とは違うんだっ!」

 

海燕 :「カカッ! なってねぇ、なってねぇ・・・・・・そういう考えがダメだッてんだよ」

 

 まるで俺の答えに呆れるかのように、海燕は頭をガリガリとかいた。

 

海燕 :「殺気の強さってのはな、言い換えれば命をどれだけ軽んじることができるかだ。

    相手の命に無頓着であればあるほど、殺気は強くできる。

    そして俺にとって、自分以外の生き物は人だろうが家畜だろうが同じ。

    俺以外は全ての命が平等に無価値だ。 

    だからどんな相手にも殺気をこめる事が出来る。 こんな風に・・・・・な!!」

 

 “ゾクッ・・・!!”

 

章刀 :「っ!!?」

 

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 瞬間、海燕を中心に放たれた目に見えない何かが、俺を飲み込んだ。

 

 寒い・・・・身体の中に直接氷を入れられたみたいに、一気に血の気が引いて行く。

 

 同時に、足が小さく震えだす。 

 

 けどそれは寒さから来るものでは無いことは、すぐに分かる。

 

 空気が重い・・・・何かに押しつぶされているみたいに、息が苦しい。

 

海燕 :「これが本当の殺気ってやつだ。 慣れねぇとキツイだろ?

    戦場で仕方なしに命のやりとりをやってる連中にはできねぇ芸当だ」

 

 気押されている俺を見下すような海燕の視線。

 

 悔しいが、奴の言うとおりだ。 こんな殺気は、今まで戦場でも感じた事が無い。

 

 でも、俺だって武人のはしくれなんだ。 殺気を放つくらい・・・・・・・・・・!!

 

“ドン!!”

 

 海燕の殺気を振り払うように、俺も渾身の殺気を海燕に向けて放つ。

 

 だが・・・・・・

 

海燕 :「カカカッ!! なんだそりゃ!? ガキが小便でも漏らしたのか?」

 

 まるで背伸びしている子供を見るように、海燕は俺を見て笑う。

 

 くそ・・・・・俺の殺気じゃ、全然ダメだってのか。

 

海燕 :「そんなんじゃつまんねぇんだよ。

 ・・・・・そうだ、お前が心底俺を恨めるように、ひとつ昔話をしてやろう。」

 

 そう言うと、海燕は一度構えをといて何かを話し始めた。

 

海燕 :「むか〜し、むかし、ある国に銀色の髪をした盗賊狩りの少女が居ました」

 

章刀 :「・・・・・・・?」

 

海燕 :「少女はある殺し屋の男に拾われ、人の殺し方を教わりました。

    二人は毎日次から次へと、人を殺す日々を送ります」

 

 ・・・・・こいつ、何を言ってるんだ?

 

 これは、晴から直接聞いた二人の過去。 晴が海燕に拾われ、人殺しを手伝わされた話だ。

 

 まさか海燕も、俺が二人の事情を知らずにここに来たなんて思っていないはず。

 

 こんな話で、いまさら俺が逆上するとでも思ってるのか?

 

海燕 :「しかし少女は、ある日男の右目を剣で切りつけて逃げてしまいました。

    ・・・・・・さて、それはどうしてでしょう?」

 

章刀 :「・・・・そんなの、お前と一緒に人殺しの手伝いをするのが嫌になったからだろ!」

 

海燕 :「ククク・・・・・・なんだ、やっぱり聞いてねぇのか。 まぁ、あいつが言えるわけねぇよな」

 

 俺の答えの何が可笑しかったのか、海燕は俺を見ながら小さく笑う。

 

 まるで、そこに俺の知らない理由がある様な口ぶりだ。

 

章刀 :「お前、いったい何が言いたい!」

 

 もったいぶったその様子が気にいらなくて、俺の声にも熱がこもる。

 

 けど次に海燕の口からでた言葉は、あまりにも衝撃的なものだった。

 

 

 

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海燕 :「答えはな・・・・・・少女は、毎日毎日その男に犯されていたからです」

 

章刀 :「なっ・・・・・・・!!?」

 

 

 なんだって・・・・・・・?

 

 こいつ、今何て言った・・・・・・・・?

 

 

海燕 :「聞こえなかったか? 

     お前の妹は、昔俺が何度も何度も犯してやったって言ってんだよ!」

 

 

 犯されたって・・・・・・?

 

 晴が、こいつに・・・・・・・?

 

 それが、晴が逃げ出した本当の理由なのか?

 

 一度にいくつもの疑問が、頭の中を駆け巡った。

 

 

海燕 :「今思い出しても愉快だぜ? 最初は泣き叫んでたがな。

     そのウチ、ガキのくせに自分からだらしなく腰ふりだしてよぉ・・・・・」

 

 

 俺の中にフツフツと、今まで感じた事の無い感情が湧いてくる。

 

 やめろ・・・・・・・それ以上言うな。

 

 

海燕 :「毎日毎日俺のを咥えこんで、嬉しそうによがりまくってたぜ?」 

 

 

 やめろ・・・・・・・

 

 

海燕 :「そうだ。 お兄様には改めて挨拶しとかねぇとな。

    大切な妹の処女を奪ったのは俺でした、ってよぉ!!」

 

章刀 :「やめろお゛ぉぉーーーーーっ!!!!」    

    

 “ガギイィィィン・・・・・!!!”

 

瞬間、俺は自分でも驚くほどのスピードで、海燕に斬りかかっていた。

 

身体が熱い。 まるで、全身の血が怒りで沸騰してるみたいだ。

 

海燕 :「ほぉ・・・・やればできるじゃねぇか。 なかなか良い殺気だぜ?」

 

章刀 :「海燕・・・・・・・・・っ!!!」

 

 この期に及んで、どうしてそんな涼しい顔ができる!

 

 許さない・・・・・・!

 

 こいつだけは、絶対に許さない!!

 

章刀 :「おおお゛ぉアァーーーーッ!!!!」

 

 “ギン! ギギギンッ!!”

 

海燕 :「カカカッ! いいぞいいぞ!」

 

 怒りにまかせて、ただがむしゃらに剣を振るう。

 

 それが全て叩き落とされようが関係ない。

 

 今はただ全力で、打ちこめるだけ打ちこめ・・・・・!

 

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 “ギギン! ギイィン!!”

 

海燕 :「カカッ。 手数を出すのはいいが、そんな単調な攻撃じゃ・・・・」

 

章刀 :「だまれっ!!」

 

 “バキィッ!!”

 

海燕 :「グブっ!?」

 

 乱暴な暫撃の中に紛れ込ませた右拳が、初めて海燕の顔を捉えた。

 

 すかさず、もう一度一閃を叩きこむ!

 

海燕 :「っ・・・・・!」

 

 “ガギイィン!”

 

 しかしその一撃は、またしても暫馬刀に阻まれた。

 

章刀 :「まだまだ・・・・・!」

 

海燕 :「ぬぅ・・・・!?」

 

 今なら、速さは俺の方が上だ。

 

 取った、後ろ・・・・!!

 

海燕 :「ち・・・・・っ! 調子に乗るなよ小僧ぉーーーっ!!」

 

 それでも海燕は反応し、振り返りながら俺にカウンターを合わせる様に暫馬刀を振る。

 

 お互いガードは間に合わない。

 

 ・・・・・・知るかっ!!

 

章刀 :「うおぉぉ゛ーーーーっ!!!」

 

 

 “ズバァッ!!”

 

 

海燕 :「ぐぅ・・・・っ!?」

 

章刀 :「ぐあぁ゛・・・・っ!!」

 

 お互いの血が、ほぼ同時に散った。

 

 俺の刀は海燕の右肩を。 海燕の暫馬刀は俺の左腕をそれぞれかするように斬りつけた。

 

 この戦いで初めて、お互いに血を流す。

 

章刀 :「ち・・・・・・っ」

 

海燕 :「くっ・・・・・・っ」

 

 俺も海燕も後ろへ飛びずさり、一度間合いを取った。

 

章刀 :「はぁ、はぁ・・・・・・」

 

 一度止ってしまうと、一気に疲労が押し寄せてくる。

 

 興奮のせいか斬りつけられた左腕の痛みはそれほどでもないが、決して軽傷とはいえない。

 

 感じる痛みの少なさとは不釣り合いなほど、血が滴って来る。

 

 けど、それは海燕も同じはずだ。

 

海燕 :「フゥー、フゥー・・・・・・」

 

 俺が斬りつけた右肩を抑えながら、海燕も肩で息をしている。

 

 俺に傷を付けられた事が予想外だったのか、その表情は明らかに険しくなっている。

 

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海燕 :「ちっ・・・・・・、正直予想外だったぜ。 まさかお前がここまでやるとはな。

     まともに血を流したのなんざ何年振りだ・・・・・・」

 

章刀 :「はぁ、はぁ・・・・・・。 当たり前だ! お前は、絶対にここで俺が倒す!」

 

 負けられないんだ。

 

 さっきの海燕の話を聞いてしまったらなおさら。

 

海燕 :「カカッ。 そうかよ・・・・・・・」

 

章刀 :「・・・・・・?」

 

 なんだ・・・・・・?

 

 海燕の雰囲気が、少し変わった。

 

海燕 :「・・・・・・だがな、そりゃ無理だ」

 

 “ヒュッ!”

 

章刀 :「なっ・・・・・・!?」

 

 瞬間、海燕の姿が視界から消える。

 

 速――――――――っ

 

 “ドスッ!!”

 

章刀 :「ガハッ・・・・・・・!!?」

 

 それとほぼ同時に感じたのは、腹を貫かれるような衝撃。

 

 いつの間にか喰らっていた、海燕の右拳。

 

海燕 :「ふぅ〜・・・・・。 もうちょい遊んでやってもいいと思ったんだがな。

     どうやらお前は、手加減して勝てるほど楽じゃなさそうだ」

 

章刀 :「なん・・・・・だと・・・・・っ?」

 

 今までは、まだ本気じゃ無かったって言うのか・・・・・?

 

 こいつ、本当はどれだけ・・・・・・

 

海燕 :「ほら・・・・よっと!!」

 

 “ズドォッ!!”

 

章刀 :「グフゥ・・・・ッ!!!」

 

 もう一度、海燕の右拳が腹を貫く。

 

 打撃の音に混じって、身体の中から骨が砕ける音が聞こえた。

 

海燕 :「そろそろ終わりにしようや」

 

 次の一撃は拳じゃない。

 

 この戦いで初めて、海燕は両手で暫馬刀を振りかぶった。

 

海燕 :「お前の首を持って、もう一度銀公に直接交渉するとしよう。

    そうすりゃ、あいつももう逆らう気もなくなるだろ」

 

章刀 :「く・・・・・・っ!」

 

海燕 :「・・・・・あばよ」

 

 大きく円を描き、暫馬刀が俺に迫って来る。

 

 ヤバい・・・・。 これをくらったら、死ぬ・・・・・・!

 

 “バギイィィィンンッ!!!”

 

章刀 :「ぐう゛ぅ・・・・・う・・・・・・っ!!!!」

 

 なんとか両腕を上げ、その一撃を受け止める。

 

 しかし当然まともに受け切れる訳も無く、俺の身体は軽々と吹き飛ばされた。

 

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“ドシャッ!”

 

章刀 :「ぐぅっ!!」

 

 体勢を立て直す余裕も無く、その勢いのまま地面に転げ落ちる

 

海燕 :「ほぉ・・・・よく防いだな」

 

章刀 :「ぐぅ・・・・・ゲホッ!!」

 

 なんとか両手をついて立ち上がろうとするが、口から血を吐きむせかえる。

 

 同時に、わき腹に強烈な痛みが走った。

 

 こりゃ、あばらが何本かイッたか・・・・・・

 

章刀 :「グフッ・・・・! くっそ・・・・っ!」

 

 それでもなんとか踏ん張って、剣を杖代わりにしてヨロヨロと立ち上がる。

 

 ・・・・・負けられないんだ。

 

 その思いだけが、今俺の身体を支えていた。

 

海燕 :「おいおい、無理しねぇ方がいいぜ? さっきの感触じゃ、あばらが2、3本は砕けてるはずだ。 

     大人しくしてりゃ、楽に殺してやるからよ」

 

章刀 :「だまれ・・・・ゲホッ! 俺は、お前に勝たなきゃ・・・・いけないんだっ!!」

 

海燕 :「カカッ! そんなに銀公の事が大事か?妹っつっても、血のつながりもねぇのによ!」

 

章刀 :「血なんか関係ない! 晴は俺の・・・・俺たちの大切な家族だ!」

 

 砕けた骨に痛みが響くのも構わずに、声を張り上げた。

 

海燕 :「わからねぇな。 他人の為にそこまでボロボロになって、そんな自己満足になんの意味がある?」

 

章刀 :「分からないだろうさ・・・・・ゲホッ! お前には、一生な」

 

 そうさ、確かにあいつは俺たちと血のつながりは無い。

 

 いつもやる気なさそうだし、ろくに仕事をしてるとこなんて見たことも無い。

 

 そのくせ、暇さえあれば昼寝するか何か食べてるし。

 

 ほんと、ぐーたら選手権蜀漢代表みたいな奴だよ。

 

 ・・・・・・けど、そんな晴がみんな大好きなんだ。

 

 あいつがいると、自然と皆安らげる。 知らない内に、笑顔になるんだ。

 

 あいつは間違いなく、俺たちの心にいつも晴れた青空をくれる。

 

 けど、そんなあいつ自身の心は今、暗く冷たく曇っている。

 

 目の前に居る、一人の男のせいだ。

 

 なら、はあいつの心は俺が晴らしてやらなきゃならない。

 

 あいつの空は、いつも抜けるような青天じゃなきゃいけないんだ・・・・・!

 

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章刀 :「お前なんかに、あいつの・・・・晴の空を汚させたりしない!!!」

 

海燕 :「・・・・・何を言ってるのかはよくわからんが、自分の状況をよく考えろよ?

    そんな立ってるのがやっとの状態で、俺に勝てると思ってるのか?」

 

 うるさい、わかってるさ。

 

 今こうして声を張り上げるのもやっと。 剣で身体を支えてなきゃ、立てるかどうかも怪しい

 

 全身打ち身だらけだし、あばらも粉々。 両腕だって、さっきから震えてる。

 

 簡単に言えば、満身創痍。

 

 ボロ雑巾かってくらい、あちこちボロボロだよ。

 

 ・・・・ホント、情けないよな。

 

 絶対助けてやるから・・・・なんて晴に大見栄きっておいて、ひとり威勢よく出しゃばってみればこの様だ。

 

 晴のやつが見たら、『むぅ・・・・だから言ったんだ』・・・なんて言って呆れるだろうな。

 

 愛梨なんかは、『どうしてこんな無茶をしたのですかっ!!』・・・なんて怒るかも。

 

 ・・・・けど、仕方無いだろ。

 

 俺はあいつの兄貴なんだ。 少しくらい、カッコいいところ見せたいじゃないか。

 

 だから頼むよ、俺の身体・・・・・

 

 なんとか、こいつに勝てる力を・・・・・・・

 

章刀 :「ぁ・・・・・・・・」

 

海燕 :「?・・・・・・・・・」

 

 俺の頭の中にうっすらと、ひとつの記憶がよみがえる。

 

 そうだ、あれなら・・・・・・

 

海燕 :「おいおい、まだやる気か?」

 

章刀 :「やるさ・・・・・。 やり残したことがあるんだ」

 

 なんとか両足で踏ん張って、剣を握った両手を挙げる。

 

 俺が思い出したのは、昔の記憶。

 

 ずっと昔、俺がまだこの世界に居た頃の・・・・・数少ない、母さんとの記憶。

 

 あれなら、こいつに勝てるかもしれない。

 

章刀 :「・・・・力をくれ、母さん」

 

海燕 :「あ? おい、その構えはなんのつもりだ?」

 

章刀 :「なんのつもり・・・・? そんなの、決まってんだろ」

 

 武神と謳われた俺の母親、関雲長。

 

 その母さんから唯一教わった、あの技なら・・・・・

 

章刀 :「・・・・お前に、勝つつもりさ!!」―――――――――――――――――――

 

説明
皆さん、あけましておめでとうございます。

やっとこさ二十話まで来ました。

晴を助けるために代わりに海燕に会うことになった章刀。
果たして、海燕の実力は・・・・

ちなみに今回は表紙絵と挿絵を入れてみましたが、まぁお気になさらず(汗
わからない方のために言っておくと、表紙の彼が主人公の関平(章刀)です。
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