SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:25
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 耕介もほづみも部屋の模様替えなどするわけがないから、簡易キッチンのそばにはいまも600リットルクラスの5ドア大型冷蔵庫が鎮座ましましているはずだ。

 あのとき耕介はたしか「冷蔵庫も研究棟のが満杯やったから」と言っていた。ということは、あの妙な薬がこっちの冷蔵庫にも何本かでも残っている可能性がある、ということだ。

 もっとも、原料とか材料とか、いわゆる加工前のものしかなかったら万事休すといったところだが、たとえそうでも今はゼイタク言っていられない。現状を打破するには自分たちで解決する以外にどうしようもなさそうだからだ。

 

 

 闇の中にいろいろな色のパイロットランプがボウッと灯る異様な部屋を見渡してみる。赤、青、緑、オレンジ。よく見ると丸いのや四角いの、明るいの暗いの、デジタル数字のものもある。なんだかイルミネーションの出来損ないのようで、あんがい綺麗だな、と夕美は思った。意外に明るくて、じっくり眼が慣れてくればものの形くらいは判別できそうである。

 その中で一カ所、たったひとつしかランプの灯っていない暗い区画があることに気づいた。

 あれだ、と直感した。他の機械類はひとつひとつがそれほど大きなモノではないし、たいていの機械にはひとつ以上のパイロットランプが付いているので、真っ暗な部屋の中でその光はけっこう密に存在する。

 しかし冷蔵庫にパイロットランプはひとつかふたつ申し訳程度に付いていればいい方だし、見た目上は洋服ダンスみたいに巨大なドアがその全体を占めている。

 プラネタリウムのようになっている研究室の中で、そこだけが暗黒星雲のようにぽっかりと四角い闇だ。おもわず一歩踏み出した。

 

 がっ。どっしゃーん。ぱりん、がらがっしゃーん。ぐしゃっ!

「い、痛あ?っっっっっっっっっ!!」

 

 

 つい、目標を見つけたうれしさに油断した。何かはわからないが、器具だか機械だかをけとばし、ひっかけ、つまづき、落とし、壊したようだ。

 転びこそしなかったが、足先やら向こうずねやら打ちまくった。だが怪我したのかどうなったのか、冷えた足はしびれきって具体的な痛みはもちろん、どこがどうなったのかサッパリ判らない。

 しかしこんな物音をさせた以上、奴らがこちらへ殺到するのは間違いない。もう慎重に探している余裕はない。

 

 がしゃっ、どしゃどしゃっっっ、がしゃーん、ぱりん、ぱりん、どすっ!

 

 夕美の前で横で後ろでいろんな音がしたが、闇の中をすり足でおかまいなく冷蔵庫へと突進する。感覚がマヒしたままの脚のことを考えるとどんな怪我をするかが恐ろしかったが、こうなったからにはヤケクソだ…が。

 があん!と、夕美の目の前に火花が散った。闇の中のLEDランプは距離感を狂わせる。壁、いや、冷蔵庫そのものに激突してしまったようだ。

「ふがあ、ひ痛ぁい痛い痛い痛い痛い!うっきゅううううううううううう」

 心臓の鼓動に合わせるように痛みが鼻っ柱へ波打って襲ってくるが、低いハナがよけい低くなる……んな、あほな?!…などと心の中で無意識にひとりボケツッコミをしつつ、冷蔵庫を開けた。

 ぱあああああああああっ!

 まるで天国の扉を開けたのかと思うほどまばゆい光が部屋中にこぼれた。

 ───と、同時に地獄のような悪臭が夕美を襲った。

「ふっ…ぐぎょおおおおおおおおおおおおお!」

 あまりのニオイのすざまじい圧力に、遠ざかりそうになる意識の中で夕美は思った。まだ未体験だったが、ドリアンとは、シュールストレミング とはこんな調子のものか。ホンオやフナ鮨でも、果たしてここまでクサイのだろうか、と。

 だが次の瞬間にうすれ行く意識の気付け薬になったのも、同じ冷蔵庫からツーンと刺すように発せられる悪臭の刺激だった。

 

(お…お父ちゃん、コロス…助かったら、ぜったいコロス)

 いくら鼻からの呼吸をせずとも、口から吸った空気が身体の内側から鼻孔を攻撃してくるからたまらない。

 鼻を打った外からの激痛と、同じく鼻を襲う内側からの悪臭に耐えながら巨大な冷蔵庫に詰まった“得体の知れないなにか”を次々と放り出し、必死に“アレ”を探した。

 それは間もなく敵が襲ってくるからというよりも、自分の中にわずかに残った酸素が尽きるまでとの戦いだった。

 だが、ない。ない。いくら得体の知れないゴミを放り出してもアレはこの中に入っていない。やはり母屋のキッチンにあるのが全部なのか。涙が出てきた。絶望してではない。ニオイの刺激が強すぎて目に滲みてきたのである。

 こみあげる吐き気に七転八倒する胃袋に、もう絶体絶命かとうなだれたとき、下の段の野菜専用室になぜかウイスキーの角瓶の黄色いフタが見えた。マジックインキで下手な字が書いてあり、持ち上げると底の方に1/5ほど黄色いがウイスキーとは思えない液体が入っている。その時。

 

 ばあーんとドアを破る音がして、どどどっ、と廊下を走る音がしたかと思うと敵がふたり入ってきた。が、研究室へ入るなり、

「Oh! のおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「あいご???????!」

 と叫んで踊っているが如くユラユラとのけぞるのが冷蔵庫の灯りに浮かんで見えた。

 とっさに夕美はそばにあった大きな実験机の影に身を潜める。パジャマの袖口を口元に当ててなんとか呼吸するが、じっさい気休めにすらならなかった。

 だが、それは彼らも同じである。

「ふ、ふり…う、動くナ!! うぷぷっ!」

「おえ???????っっ!」

 

〈ACT:26へ続く〉

 

 

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説明
毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ?つ!!”なヒロインになる…お話、連載その25。
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