インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#94
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IS学園 職員室。

 

宛がわれた事務机の椅子にもたれかかるようにして千冬は溜め息をついた。

 

「―――ふぅ。」

 

「お疲れですか、織斑先生。」

 

そこに真耶がマグカップと角砂糖の壺を手に近づいてくる。

 

「まあ、な。私だって人間だ。疲れもする。」

 

「砂糖は幾つに?」

 

「そうだな…二つで頼む。」

 

「はい。」

 

カチャカチャ、と音を立ててコーヒーメーカーから注いだコーヒーに砂糖をいれる真耶。

その手元では淡い翠の珠がワンポイントになったブレスレットが時計にあたって軽い音をたてていた。

 

「((それ|・・))の調子は?」

 

千冬は真耶の手元を指しながら訊く。

 

「ああ、((これ|・・))ですか?イイ感じですよ。」

 

「そうか。」

 

「用意してくれた人には感謝しなくちゃなりませんね。」

 

真耶が砂糖を二つ入れたコーヒーを千冬の机に置くと辺りを見回す。

 

職員室では似たようなブレスレットをつけている教職員がちらほらと見受けられた。

 

「なら、甘いミルクティーでも淹れて、隣に持って行ってやるといい。」

 

「…隣?」

 

真耶が首を傾げると千冬はちょいちょい、と真耶の机の隣を指さす。

 

そこでは空が机に突っ伏していた。

微かに上下している背中を見れば寝ている事が一目で判る。

 

「ああ、成る程。」

 

「我々が動けなかった分を肩代わりしてくれていたような状態だったからな。直前になるまでは寝かせてやってくれ。」

 

「はい。」

 

カップを手に、一口。

 

温度と甘さが丁度いい事を確認してから千冬はコーヒーを一気に飲み干す。

 

「さて、私は先発組だからそろそろ出る。――後は頼むぞ。」

 

「はい。」

 

 

 

 * * *

[side:一夏]

 

キャノンボール・ファストの当日。

 

天気は見事なまでの快晴で怖いくらいに青々とした空が広がっている。

 

ホント、良く晴れてるなぁ……

 

「っと、いけね。定時報告を忘れるとこだった。」

 

オープンチャンネルで大会本部に併設された学園側の指揮所に連絡を入れる。

こっちはISだけどむこうは普通の通信機だから混線とか回線接続待ちとかのラグが多少ある。

 

時間にして二、三秒待つとウィンドウが開く。

 

映ったのは妙にインカムが似合う山田先生だ。

 

『はい、織斑くん。どうしましたか?』

 

「えっと、定時報告です。現在は異常なし。レーダーにも不審な影はありません。データログを送ります。」

 

並行して各種センサーが集めたデータも送る。

 

『――はい、データ受信確認しました。…ゴメンなさいね。警備・哨戒は教員の仕事なんだけど…』

 

唐突に事務的な口調と表情を崩して申し訳なさそうにする山田先生。

…確かに、こういうのはあくまで生徒である生徒会役員ではなく教職員がやる事だろう。

 

けど、

 

「仕方ないですよ。それに俺と箒はちふ…織斑先生と千凪先生の連名で『参加禁止』を言い渡されてますからヒマしてますし。」

 

俺と箒――束さん曰く『第四世代機』である白式と紅椿は性能差が大きすぎるからと出場そのものが禁止にされてしまったらしい。

 

俺としては白式も紅椿も機体性能自体は他の第三世代機と大差ないと思うんだが、大会実行本部がそう判断したのなら従うしかない。

 

その代わりに俺と箒、あと空と千冬姉の四人で『学生の第四世代機対教員のマ改造第二世代機』という何処かで見た覚えのある組み合わせのレースが企画されているとか。

 

うぅ、勝てる気が全くしないぜ。

 

『ゴメンなさいね。――間もなく開会式、その後に二年生のレースが始まります。その頃には自衛隊のIS隊が警備を引き継いでくれるそうなのでしばらく休憩になります。白式のエネルギー残量も考慮の上でタイミングは設定されているので心配しなくても大丈夫ですからね。』

 

「了解です。」

 

『それじゃあ、お願いしますね。』

 

軽く手を振る山田先生の姿が消え、同時に通信用に展開されていたウィンドウも消える。

 

「――確か、二年生のレースの後に一年の専用機持ちレースだったか?」

 

その後に一年の訓練機、三年と一般参加者のレースといった感じだったハズだ。

 

最後がエキシビジョンで『ベテランの第二世代機 VS ルーキーの第四世代機』。

 

空がベテランと言う処が何とも納得できるけどしっくりこない限りだ。

 

 

「―――ん?」

 

ふと、視界の端を何かが横切った。

 

雲を引きながら飛ぶそれは――

 

「戦闘機?」

 

そういえば、自衛隊も警備に参加してるとか言ってたな。

 

絶対数の少ないISが出るんだから航空機を出すのも判らない話じゃない。

 

「ラウラに訊けば機種とか判るんだろうけどなぁ…」

 

既に点になった機影を追うのを諦め再びセンサー系に意識を向ける。

 

足元――大会が開かれる市のIS専用アリーナでは参加者が集まり市や学園の職員が演台付近でてんやわんやと動きまわる姿。

 

千冬姉は一学年の学年主任とかいろいろやる事が有るらしく並んでいるが、山田先生や空は有事に備えて管制室に詰めているらしい。

 

「ほんと、何も起こらないといいけどな………」

 

 

『―――それでは、開会式を始めます。開会の辞を興蒲市長、お願いします!』

 

キィィン、というハウリング音を伴った声が響き、市長が壇上に上がる。

 

その比較的近く…学園生徒の列の最前列に居る更識先輩を見つけた。

「お、会長だ。選手宣誓でもやるのかな?――――ん?」

 

接近してくるISの反応有り。

 

俺は咄嗟に学園から貸与してもらったアサルトライフルを腰に無理矢理付けたマウントユニットから抜く。

 

同時に安全装置も解除しておく。

 

 

「反応は………真下か!」

 

振りむくと会場となっているアリーナの側からのろのろと上がってくる機体の姿。

 

あれは…

 

「打鉄か?」

 

ただ、学園に配備されている訓練機の打鉄とは色も形状も違う。

 

学園機は黒、けれども今上がってきている機体は鉛色で、特徴的な武者甲冑の大袖みたいな左右の装甲には赤い丸――日の丸がペイントされている。

それに装甲も鎧武者を彷彿とさせる訓練機と違い、まるでミサイル入りの追加装甲を装備した薙風みたいになっている。

 

どうやら武器は展開してないし火器管制も寝ているらしくアラートは出てこない。

アレが山田先生の言ってた交代か?

 

とりあえず安全装置は外したまま銃はおろして置く。

 

……自分でも過剰に警戒し過ぎだとは思うが今まで何度も『この手の状況』を体験した身としては警戒はいくらしても足りないくらいだ。

 

特に、あの装甲がミサイルポットだったら――その凶悪さは空とシャルで嫌と言うほどに味わっている。

 

その機体は俺と同じ高度まで上がってくると念の為なのかオープンチャンネルの回線を繋いできた。

 

『君が学園の?』

 

「はい。IS学園生徒会の織斑です。警備の交代の方ですか?」

 

『ああ、そうだ。今までご苦労だった。降りて休んでくれ。』

 

「了解しました。連絡を入れてからそうします。―――山田先生、聞こえますか?」

 

俺は通信ウィンドをもう一つ開いて管制室を呼び出す。

 

と、さっきよりも早く管制室が映し出された。

 

『織斑くん、どうしました?』

 

「たった今、警備の交代に打鉄が上がってきたんですけど…」

 

『――レーダーで確認しました。大丈夫ですから降りて来てください。お疲れ様です。』

 

「了解です。」

 

管制室とのウィンドウを閉じると同時にライフルの安全装置をオンにする。

 

「今、確認が取れました。それじゃあ失礼します、お疲れ様でした。」

 

アサルトライフルを腰のアタッチメントに納めてから地面に向かって加速しながら降りてゆく。

 

とはいえ加速をさせすぎると地面に巨大なクレーターを作る事になるから注意が必要だ。

いくら空の特訓で急停止が出来るようになっているとはいえ、無駄な危険は背負いたくない。

 

 

ふとセンサーに反応。

見れば箒の紅椿も交代を終えて降りている様子。

 

―――この調子なら、みんなのレースには間に合いそうだな。

 

 

説明
#94:StartLine

本当だったらこんな感じの#93を書く予定だったり…
まあ、うまくまとめきれずにあんな感じのグダグダするだけの話に…


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一人、原作関係者をネタにした人物が居るけど判るかな?

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2013.2.23
 ネタを仕込む為にちょろっと修正。
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コメント
感想ありがとうございます。こちらのキャノンボール・ファストはどうなるのか…答えの一端は#93にありますから予想してみてください。――ツイニヤッチマッタゼ(高郷 葱)
更新お疲れ様です。IS技術の転用による兵器・医療その他分野の開発はちょっと考えれば誰もが発想しそうなことですよね。そのうち「あっちの」バリキリーが真面目に研究されだすのもあながち不思議ではないかも。本作のキャノンボール・ファストで「何が」起こるのか全く予想が出来ませんので、次回の更新も楽しみにしています。(組合長)
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