嫉妬からのデート
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そろそろ時間かと、時計を見ながら学園内の図書館の

仕事が終わった私は、紅茶の用意をしながら待っていた。

理事長が仕事の合間にここへ来ることがわかっているから。

 

ここは図書館の地下にある隠し部屋。

私の住居と化しています。

日は当たらないですが、とても落ち着くことができます。

それに、本たちの環境にもいいんですよね。

湿気にやられないように気をつけるだけです。

 

そんな説明じみたことを考えていると

コツコツという足音が聞こえてきた。

 

いつものように急に出てきたり、揉まれたり

しないよう警戒していたのですが、あまりに普通の登場に

ついびっくりしてしまいます。

 

「・・・」

「ヘレナ、何か機嫌悪いですか?」

 

「そりゃそうよ」

 

 聞けば、咲良くんからの誘いにホイホイ乗る私を見て

複雑な気持ちだったとか。

 

「だってヘレナ。貴女は私にもっと外に出た方がいいって」

「そうだけど! 私が誘おうとするといつも断るじゃない!」

 

「あ、あれは・・・。リ・クリエのこともあったし。都合が悪くて」

「嘘だ・・・!私に飽きてシン君に気移りしたんだー!」

 

 子供が駄々をこねるように騒ぐヘレナ。

でも言われると確かに咲良くんから誘われると

嫌な感じがしないんですよね。

 

 苦手な外出とかも自分でもびっくりするくらい

自然にできていて・・・。

 でも、ヘレナにはみっともない自分を見せたくなくて

いつも断っていたけれど。

 

「ヘレナがそう考えているとは思わず、鈍感でごめんなさい」

 

 何かお詫びでもしようかと思うと、それを察したのか

すかさずヘレナから品のない言葉が口から飛び出す。

 

「おっぱい!」

「・・・」

 

 なぜか胸を揉まれながら言うハメになってしまった。

しかも、ちょくちょく気持ちよくなるから変な声が出そうで

嫌だった。

 

 またの機会にするか?と一瞬思ったがそれだといつまで

たっても行けそうにない。

 

 思い立ったがなんとやらである。

 

「ヘレナ・・・、ん・・・。聞いてくれる?」

「メリロット・・・そんなエッチな声を出して」

 

「誰のせいですか・・・!」

 

 熱くなる顔を俯かせながら私は思い切って発言をした。

 

「ヘレナ、今度デートしませんか!?」

「へっ!?」

 

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 よもや私からの誘いがあるとは思わなかったのだろう。

間抜けな声を出して揉みしだいていた手の動きを止めた。

 

 しばらく沈黙が流れた後、ヘレナはやや顔を赤くしている。

 

「ほんとうに!? うれしい! メリロットがそんなこと言うなんて

まさか天変地異が起こるんじゃないの!?」

「それ、この間解決したばかりじゃないですか」

 

 主に生徒会の子たちが・・・ですが。と心の中で補足する。

嬉しそうにするヘレナだが、どこか腑に落ちないと顔で主張する。

 

「咲良くんで外に少し慣れてきたから、ヘレナとちゃんとしたくって・・・」

「かわいいやつめ〜」

 

 すっかり機嫌を直した理事長だったが、ふと思いついた表情になり、

私にそれを言い放ってきた。

 

「まさか学園デートとかじゃないわよね!?」

「違うにきまってるじゃないですか!」

 

「あ、いや・・・。メリロットが制服を着てくれれば私はそれでもおk」

 

 言い切る前に私の拳がヘレナの顔面を捉えた。

指をぴくっと動かしてから微動だにしないヘレナ。

いつもの演技だとわかっているが心臓に悪い。

 

「こんな年で制服なんて・・・。じゃなくて、ちゃんと外でしたいんです」

「いや、似合うと思うけどなぁ。まぁ、メリロットがやりたい方向で

私はいいんだよね。一緒に外にいられるだけでうれしいし」

 

「もう、ヘレナったら・・・」

 

 子供の頃から変わらない笑顔を浮かべていた。

ただ、少し気になることもあった。

 

「日程、作れる?」

「・・・善処します」

 

 ヘレナの反応に不安をぬぐいきれない私なのだった。

 

 そして、最悪なことに予定していた当日。雨が降っていた。

天気予報は今回に限って大ハズレであった。

 

「どうしましょう・・・」

「よし、こういうときは。あそこに限るわね」

 

「ヘレナがチョイスする場所はロクなことがないから心配」

「失礼な!今回は初デートなんだし、ちゃんとするわよ!」

 

 そこまで力強く言うのだから、大丈夫だろうと思って

ヘレナの車に乗って移動を始めた。

 

 行先も言わないでいるから、ドキドキしている。

車の走る音と、窓に打つ雨の音だけが響いている。

いや、音楽とかも流しているのだけど、耳に入らないのだ。

 

 そんな緊張しながらもたどり着いた場所は。

 

「水族館?」

「えぇ、けっこうこういうの好きそうかなって」

 

「どうしてです?」

「え、だって水の魔法の詠唱でドルフィンダンスとかあるし」

 

「咲良くんと同じこと言わないでください・・・!」

 

 両手で顔を覆う私。嫌いじゃないけど、そこまで同じこと

言われると恥ずかしくなってくる。

 

 そんな私の腕を掴んでヘレナは微笑みながら私を

引っ張っていく。

 

「ここから基本屋内だし、大丈夫でしょう」

「え、ええ・・・」

 

「それに九浄家のグループにはない場所だし」

「そこに入ってたら危ないんですかね・・・」

 

 自ら経営しているというのに、なんというポジティブな

後ろ向きなんだ。時々めちゃくちゃだけど、こういう性格は

嫌いじゃなかった。

 

 中に入ると大きい水槽の中で自由に泳いでいる魚たちを見てると

どっちが見られてる側かわからなくなるような錯覚がする。

だって、天井にまでガラス張りで包み込まれてる感があるから。

 

「前ってもっと水槽小さくありませんでした?」

「今ではみんなこんなもんよ」

 

 こういう自然の生き物を見ていると、どこか安らぐところがある。

変に神経をつかわなくてもいいし、普段本ばかり管理している

私からしたらこういうのは新鮮でいいものだ。

 

「ほら、これ人魚のイメージになった生き物ですって」

「ジュゴン・・・」

 

 ユニークな顔をして私たちに愛嬌をふりまく姿はとても可愛らしかった。

しかし、楽しかったのは予定の前半で。途中から大勢の観光客が

押し寄せるように来てしまい、ヘレナも予想外という顔をしていた。

 

「いやぁ、混んできたわね。メリロット大丈夫?」

「大丈夫・・・じゃないです・・・」

 

 人酔いをしそうになる私の顔を見てヘレナは私の腕を再びつかんで

急いで外へと連れ出してくれた。

 

 せっかく忙しい中、時間をつくってくれたのに。

私のせいで時間を無駄にしてしまった。意識がぼんやりとした中で

そんなことを思っていた。

 

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 気が付くと、私は車の中にいて。ヘレナが運転しているのを

横目で見た。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「ごめんなさい、ヘレナ。せっかくの日なのに」

 

 こういうことがあるから、私はヘレナとデートするのを躊躇ってしまうのだ。

いつも私のことを気にかけてくれるから。彼女の前では完璧な自分で

いたかった。

 

 だけど、無理だった。がんばったけど、またみっともない姿を。

そんなことを考えていると、横からヘレナが楽しそうな声で私に告げた。

 

「私はうれしかったし、楽しかったよ。メリロットとデートできたからね」

「ヘレナ・・・」

 

「こういうのは内容じゃないんだよ。要はどう感じられるか。

メリロットはつまらなかった?」

「そんなことない・・・!」

 

「でしょう、だったらそれを素直に感じればいいのよ。

さすがに途中のは予想外だったけど、ああいうのも

後で思えばいい思い出になるものよ」

「・・・」

 

「それでも気にしちゃうのなら、この後も私につきあってくれる?」

「いいですけど」

 

「よし、じゃあ。飛ばしながら走るわよ!」

「普通に走ってください」

 

 これで事故にでもなったら目も当てられない。

そんな冷や冷や運転をしつつ、訪れた目的地は。

 

「ホテル・・・エロマチック天国・・・?」

 

 これって所謂、ラブホテルってやつじゃないのかしら。

という心の声をくみ取ったのか、ヘレナは舌を出して

テヘペロッ!って言っていたのがちょっとうざかった。

 

「まぁ、そういうとこだけど。普通に泊まる客もいるのよ」

「そ、そうなんです?」

 

「そうそう。まったく、メリロットの頭は古くて固いんだから」

「ムッ・・・」

 

 なんだかヘレナに挑発されたようで、私は自分からホテルに

入ろうとした。ここでヘレナの後ろで隠れていたら

彼女の思うつぼだろうと思ったから。

 

 ちゃんとした自分を今度こそは見せたい、という強い気持ちで

中へと足を踏み入れた。

 

「あ、あ、あの・・・!」

「はい」

 

「え、その・・・に・・・にぃぃ」

「はい」

 

 店員は笑顔を崩さずに私の言葉を待っていて、私は硬直しながら

なんとか言葉を絞り出そうとするが、場所が場所のせいなのか。

思ったように言葉が出てこなかった。

 

 少ししてから、私の背後から腕が伸びてピースの形をしていた。

 

「2名でよろしく〜」

「かしこまりました。お部屋の希望は?」

 

「特にないわ」

 

 私は流れるような応酬に対応できず、ヘレナに手を握られながら

案内された部屋の中に入る。

 

 中は私が思っていたのと違い、シンプルで清潔そうな内容であった。

お風呂も部屋の中にあるのでちょっとしたアパートやマンションの雰囲気

である。

 

「むふふ」

「変な笑いを浮かべないでください」

 

 変なことを意識してしまうではないですか、という言葉は口には

出さずにいた。こういう弱みを出してしまうと、容赦なくつけこみにくる。

 

「まぁまぁ、落ち着いて。普段行かないような場所に行ったから休憩がてらよ」

「ここでも同じかそれ以上だということを知ってのことですよね」

 

「まぁね♪」

 

 厭らしい笑みを浮かべるヘレナ。

だけど、その表情から本気には見えない辺りはホッとしていた。

 

 言われてから体がドッと疲れてきたような感じがする。

ヘレナと私は着替えることもなく、手を握ったまま二人でベッドの上に

横たわった。

 

 彼女はふざけた表情を緩めて私を愛おしそうに見つめている。

たぶん私も同じ顔をしているに違いなかった。

 

 見つめてどれくらい経っただろうか、ヘレナが寂しそうに私に言葉を投げかけてきた。

 

「もっと、私に頼ってよ。メリロット」

「・・・」

 

「ずいぶん長い付き合いなのにシン君に負けたみたいだし」

「そ、そんなことはないです・・・」

 

 ただ、人見知り激しすぎる私にしては咲良君の人間性からなのか、

妙に落ち着いたのは今でも不思議だ。

 

 だけど、それはヘレナに対しても同じだった。

それでもやや踏み出せないでいるのは意識をしているから。

 

 良いとこを見せたかったから。

 

 私は珍しく自分からヘレナに近づいていって顔をこれでもかというくらい

近づけた。私は、ヘレナのことを真剣に一人の女として見ている。

 

 だけど、ヘレナはどうだろうか。普段の性癖があんなんだから

冗談と言われて終わるかもしれない。

 

 私のこの気持ちは無為に終わるかもしれない。

 

 だから少しでも自分を立派に見せようと努力したつもりだったが、

本日を見ての通り、まだまだヘレナを引っ張れるほどには程遠かった。

 

「メリロット?」

「ヘレナ、白状しますね」

 

 彼女に弱みを見せたくなかった。

 

「私は・・・」

 

 ヘレナの顔を見ていると愛おしくて気持ちが爆発しそうになる。

胸から何とも言えないもやもやが噴出してきそうな、変な感覚。

 

「私は貴女のことが好きです」

「うん・・・私も」

 

「私の好きはこういうことですよ!」

「・・・!」

 

 手を握りながら、私はヘレナの口を塞ぐように口づけをする。

それは何度も彼女が悪ふざけをするようにしていたものとは違う。

たっぷりの感情を込めて彼女の口の中に舌を潜りこませた。

 

 しかし、ヘレナは一瞬驚きを見せたが、すぐに私の舌と合わせてくる。

私の気持ちに応えてくれた。

 

「ぷはぁっ」

「ふふ、メリロット。慣れないことするから」

 

 気持ちが溢れかえりそうで呼吸がままならない。

私はすぐに唇を離して呼吸を整ええると、苦笑しながらも

嬉しそうに私を愛おしげに見つめるヘレナの顔が嬉しかった。

 

「てっきり私はシン君にメリロットがとられたかと思ってモヤモヤしてたわよ」

「あれは・・・。ヘレナともこうやって過ごせたらと思っての練習ですよ」

 

「でも、楽しかったわよね?」

「はい・・・すみません」

 

「あはは、素直でよろし。だからメリロット可愛くて好きよ」

「私は別に可愛くなんか・・・」

 

 引きこもりの司書に何をおっしゃるのか、輝いている理事長が

言うとちょっとした嫌味にすら聞こえるではないか。

 

 でも、言われて嫌な人はいないだろう。私は胸のドキドキをそのままに

続きをしたいという意思を込めた視線を送ると、それに応えて

ヘレナはもう一度私に唇を重ねてきた。

 

 暖かくてとろけそうな、そんな感覚。その合間にヘレナが言葉を

入れてくる。

 

「メリロットは可愛いわ。もっと自信を持ちなさい」

「んぁ・・・ヘレナぁ・・・」

 

 ちゅぱちゅぱっと厭らしい音が辺りに響く。互いに抱き合いながら

温もりを感じながらベッドの上で充分にイチャついていると

すっかり私の緊張の糸はほぐれていた。

 

「久しぶりに今日はここで、一緒に寝ようか」

「はい・・・」

 

 疲れが急に押し寄せてきた私はヘレナに抱かれて匂いに包まれながら

意識が薄くなってきて、私はそのまま眠りに就いたのだった。

 

 とても、幸せな時間を過ごせた。

 

 けど、まだヘレナをリードすることはできないという、ちょっと残念な

気持ちも残っていた。

 

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 帰りの途中、運転中のヘレナは助手席に座っていた私に向かって

こう呟いていた。

 

「次はもっと気持ちよくさせてあげるわね」

「もう、ヘレナったら」

 

 私はずっと勉強、研究の日々だったからこういうことには疎くてすぐ

顔に出てしまう。そういうのも彼女は楽しんでいそうでちょっと悔しい。

リ・クリエの危機が去った今、彼女を驚かされるほど勉強して

見返してやりたかった。

 

「次は私がヘレナを落とす番ですから」

 

 強いいつもの眼差しでいうと、珍しくヘレナは照れながら。

 

「楽しみにしてるわ」

 

 と残したところで学園についた。これからいつもと同じ日常に

戻る。それはヘレナとも顔を合わせる時間が少しは減ってしまうけれど

それはそれで生徒たちとの時間がとれて楽しい。

 

 咲良君たちが私の元へ通ってからは、生徒たちが私を見る目が

少し変わっていて、少しずつコミュニケーションが図れているから。

 

 今の私は毎日が充実していて幸せなのだ。

時々、ヘレナも顔を出しにきてくれるし。

 

 今の環境にしてくれた、関わった人たち。ヘレナ。運命に感謝をした。

車から出てまぶしい日差しで目が眩みそうになり、手をかざして

空を見た。

 

 スカッとするような晴天に私は本日の仕事への意気込みに切り替えて

がんばることにしたのだった。

 

お終い

説明
安定のヘレメリ。PSSをやってから何となく思いついた話をブログに上げてました。それをそのまま投稿する形となります。もし少しでも楽しんでもらえれば幸いです
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