銀の槍、奮闘する
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 夜明け前、神社の本殿から顔を出す人影があった。

 銀髪で胴着姿の青年は外に出てくると、ちらりと本殿の中を覗き込んだ。

 そこには、まだ夢の中にいる小さな少女がいた。

 

「……よし」

 

 将志はそれを確認すると小さく頷き、けら首に黒曜石をあしらった銀の槍を取り出した。

 それは稜線から顔を出した朝日によってキラキラと黄金色の輝きを放っていた。

 将志は槍を構えて眼を瞑り、心を静める。

 

「……ふっ」

 

 眼を開くと同時に、将志はいつものように手にした槍を振り始めた。

 その銀の穂先が翻るたびに、静かな境内に風を切る音が響く。

 

「……ふわぁ〜……」

 

 そこに、寝ぼけ眼をこすりながら諏訪子がやってきた。頭の帽子も眠そうで、目はほとんど閉じていた。

 諏訪子はぼんやりした頭で将志の槍捌きを見る。

 

「……ふっ……」

 

 しばらくして、将志は元の構えに戻って残心をとり、槍を納める。

 諏訪子はトコトコと歩いて将志のところに向かう。そして、将志の腕を抱え込んだ。

 

「……む、起きたのか、諏訪ごふぅっ」

 

 殺気と予備動作の無いボディーブローを受けて、将志はその場に沈む。

 諏訪子はその将志を見て、ため息をついた。

 

「見つかるから外で槍を振るなって言ったのに……さっさと戻るよ、将志」

「…………」

 

 諏訪子は将志にそう声をかけるが、防御力に関しては濡れた和紙ほどに弱い将志は当然失神している。

 ピクリとも動かない将志に、諏訪子は首をかしげた。

 

「あれ? おーい、将志〜 中に戻るよ〜」

 

 諏訪子はそう言いながら将志の頬をペチペチと軽く叩く。しかし将志は反応を示さない。

 色々試しても全く応答が無いので、諏訪子はポリポリと頬をかいた。

 

「うっわ〜……気絶しちゃってるよ……将志って身体能力めちゃくちゃな癖して、意外と虚弱体質なんだね……あーうー、運ぶしかないか……」

 

 諏訪子はため息混じりにそう言うと将志の両足を持ち、ずるずると本殿に引きずって行った。

 本殿に入ると諏訪子は杯に水を汲み、将志の顔にかける。

 

「……う……む?」

 

 すると将志は目を覚まし、何事も無かったかのように起き上がった。

 将志は辺りを見回し、その黒曜石のような瞳が諏訪子の姿を捉える。

 

「……おはよう、諏訪子」

「おはよう、将志。って、あんた腹に一発食らったくらいで気絶はないでしょ」

「……朝食でも作るか」

「あ、逃げた」

 

 諏訪子の話を聞いてそそくさと台所に消えていく将志。

 諏訪子はそれを冷ややかな眼で見送るが、腹も減っているので追撃を控えた。

 しばらくすると、台所からは軽快な包丁の音と何かの焼ける音が聞こえてきた。

 

「……出来たぞ」

 

 将志は朝食の載った膳を持って諏訪子の前に置く。

 今日の朝食は魚の塩焼きに山菜の吸物、ほうれん草のおひたしに卵焼きといったラインナップだった。

 食欲をそそるにおいがあたりに充満する。

 

「お、きたきた。そんじゃ、いただきます」

「……うむ」

 

 将志が自分の分を持ってくるのを待ってから、二人同時に食事を始める。

 

「ん、この魚うまいね。普段食べてるのと比べてもこっちが上だよ」

「……そうか、それは今朝方湖に潜って捕ってきた甲斐があるというものだ」

「え」

 

 突然の将志の言葉に、諏訪子は絶句する。

 実は、将志は朝の鍛錬の前に近くの湖に潜って魚を獲っていたのであった。

 水中をそこらの魚と同等以上の素早さで泳ぎながら魚を捕まえていく人型の生物の姿は、かなり異様な光景であった。

 唖然としている諏訪子に、将志は小さく息を吐いた。

 

「……これもまた、鍛錬だ」

「あんた、どこに向かってるのさ……」

 

 そんな将志に、諏訪子は頭を抱えてため息をつくのであった。

 そんな感じで話をしながら朝食を進めた。食べ終えると将志は膳を下げ、諏訪子は仕事に向かう。

 巫女を使って神託を下したり、民の話を聞いて害をなす妖怪にミシャグジを向かわせるなど、諏訪子は次々に仕事をこなす。

 将志はその間やることも無い上に外に出ることを禁止されているので、厨房にこもって料理の研究をすることにした。

 

「……む、材料が足りんな」

 

 が、材料が足りなくなるとこっそり抜け出して調達に行くので、諏訪子の言いつけは大して守られていなかった。

 料理が出来ると、将志は諏訪子の休憩時間を見計らって料理を持っていく。

 

「……諏訪子。菓子を作ってみたのだが、どうだ?」

「何だか涼しそうなお菓子だね。これ、なに?」

 

 諏訪子は目の前の菓子に眼を輝かせながら将志に尋ねる。

 それに対して、将志は淡々とした口調で説明を始めた。

 

「……葛という植物に手を加えて作った餅に、甘草の汁で煮込んだ豆をすりつぶしたものを包んだ菓子だ。ようするに、葛餅だ」

「待って、そんな材料どこにあった?」

「…………」

 

 諏訪子の問いに、将志は無言で眼をそらした。

 その仕草が、無断外出したことを雄弁に物語っていた。

 

「あーうー……少しは私の言うこと聞いてよ……あんた居候でしょ……」

「……善処しよう」

「善処する気無いね、あんた……」

 

 眼をそらしたままそう言う将志に、諏訪子はがっくりと肩を落とした。

 そんな日々をすごしながら、将志は神奈子と愛梨達の到着を待っていた。

 

 

 

 将志がはぐれてから七日後、諏訪子の神社に来客があった。

 

「洩矢 諏訪子! 貴殿の社を貰い受けに来た!」

 

 そこには注連縄を背負い、巨大なオンバシラを携えた神がいた。

 将志の待ち人の一人である、神奈子である。

 その声を聞いて、本殿で将志と共に食事をとっていた諏訪子は顔を上げた。

 

「来たね。将志、一緒について来て」

「……了解した」

 

 将志は箸を置き、諏訪子について外に出て行く。

 外に出ると、将志の姿を見た神奈子は驚きの声を上げた。

 

「将志!? 貴方、こんなところに居たの!?」

「……ああ。愛梨達はどうした?」

「みんな立会人としてここから少し離れたところにいるわよ。もっとも、貴方のことが心配で気が気ではなかったようだけどね」

「あー、お話は後にしてもらっていい?」

 

 将志と神奈子が話しているところに、諏訪子が割り込んでくる。

 神奈子は将志から視線を切り、諏訪子に目を向ける。

 

「洩矢 諏訪子は私だよ。いきなり出てきて信仰を奪おうだなんてずいぶんと乱暴だね、八坂 神奈子」

「より強い神が民を守る、その方が民にとってもためになるであろう。信仰を守りたくば、我に力を見せてみよ!」

 

 そう言って神奈子は戦闘を開始しようとするが、諏訪子は手を突き出すことでそれを制止した。

 

「待った。私は神社と信仰を賭けて、そっちは何も賭けないなんて不公平だよ。そっちもそれ相応のものを賭けてもらうよ」

「大和の神の信仰はやれぬぞ」

「そんなことはわかってるよ。だから、別のものを賭けてもらうよ。私が勝ったら、槍ヶ岳 将志をもらっていく。妖怪一人引き渡すだけなんだ、出来ないとは言わせないよ?」

 

 それを聞いた瞬間、神奈子は顔を引きつらせた。何故なら、自身の敗北のせいで人気者の槍妖怪を取られたとなってしまっては、神々が自分に対して暴動を起こす可能性があったからである。

 その横で、首を傾げた将志が諏訪子に話しかけた。

 

「……諏訪子、俺が表に出ると面倒なことになるのでは?」

「ああ、それはあんたがよそ者だからだよ。あんたが正式にここに来ることになれば、あんたを神様にして信仰の対象にすればいいし。今の時点でうわさになるくらいだし、神様になれば結構信仰もらえると思うよ」

「……そういうものなのか?」

「そーいうもんだよ」

 

 将志と諏訪子の話を聞いて、神奈子は額に手を当ててため息をついた。

 

「……これはもう絶対に負けられないわね。準備は良いか?」

 

 神奈子は内包した神力を強め、諏訪子に圧力をかける。どうやら最初から本気を出す気らしい。

 それに対して諏訪子も両手に鉄の輪を持って、周囲にミシャグジ達を呼び出した。

 

「こっちは別にいつでもいーよ。将志、結界とか張れる?」

「……いや、出来ない」

「あーうー、それじゃあどうしよう……」

 

 将志の言葉を聞いて、諏訪子は困った表情を浮かべた。

 しかし、それに対して将志は小さくため息をついた。

 

「……人の話は最後まで聞け。結界など張れずとも、お前達の流れ弾から神社を守るくらいのことは出来る」

「え……どうやるの?」

「……簡単なことだ。この槍で全て叩き落してやればいい」

 

 キョトンとした表情を浮かべる諏訪子に、将志はそう言って静かに槍を手に取った。

 その眼は静かにまっすぐ諏訪子の眼を見つめている。

 そんな将志に、諏訪子が怪訝な表情を浮かべた。

 

「本気? そんなことが出来るの?」

「……出来なければ、こんなことは言わんよ」

 

 将志は薄く笑みを浮かべてそう言うと、音も無く本殿の屋根の上に飛び乗った。

 

「……出来なかったら後が酷いからね、将志」

 

 諏訪子はその後姿を見送ると、再び強い威圧感を放つ神奈子に向き直った。

 にらみ合う二柱の神はそのまま空へと上がっていく。

 

  

 そして、戦いが始まった。

 突如として空一面を色とりどりの弾幕が覆い尽くし、オンバシラが飛び、ミシャグジ達が空を舞う。

 神奈子はあまり動かずに全方面に弾幕を張り、あらゆる方向から襲い掛かってくるミシャグジを打ち落とす。

 隙あれば巨大なオンバシラを投げ、諏訪子を狙う。

 あまり動かず大威力の攻撃を繰り返す神奈子の姿は、大砲を携えた要塞のようだった。

 

 一方の諏訪子はミシャグジ達と共に隊列を組み、神奈子の周りを高速で急旋回や急降下を繰り返し、複雑な軌道を描いて飛び回りながら多角的に弾幕を放った。

 時には神奈子のすぐ横を掠めるように飛び、鉄の輪で直接攻撃を仕掛けることもする。

 神奈子が要塞ならば、諏訪子はそれに攻め込もうとする戦闘機のようであった。

 

 その激しい戦いは、周囲に多数の流れ弾を生み出す。

 湖は飛沫を上げ、森の木は薙ぎ倒され、地面には穴が開く。

 神奈子も諏訪子も周囲への被害を気にする余裕は無く、次々と流れ弾は地上に降り注いでいた。

 

「……ふっ、はっ」

 

 そんな中神社の上では将志が休むことなく動き回り、神社に飛んでくる弾幕を弾き飛ばしていた。 

 これまで結界を張ることなど無かった将志は結界を張れないため、将志はその全てを手にした槍で叩き返していた。

 空中には銀の玉が大量に浮かんでおり、将志はそれを足場に使って宙を跳びまわる。

 その姿は眼で追うことが出来ないほど速く、またそうでなければ神社を守ることは出来なかった。

 

 そんな将志のところにオンバシラが飛んできた。

 将志はそれを確認すると周囲の弾幕を叩き落しながらオンバシラに向かっていく。

 真正面から叩き落すのは不可能ではないが、それを行えば周囲に被害が出るのは明白である。

 そこで将志は、一度オンバシラの後ろに回った。

 

「……はあっ!」

 

 次の瞬間、オンバシラに銀の螺旋が巻きついた。その直後、螺旋が消えると共にオンバシラの射線上に将志が現れる。

 するとオンバシラはバラバラに分断され、細かい破片となって将志に向かっていく。

 その破片を将志は被害の出ない場所に弾き飛ばし、将志は他の弾幕を落としに掛かった。

 

「…………」

 

 将志は無言で弾幕を弾きながら、周囲に眼を配った。弾幕は激しさを増しており、時間が経つにしたがってどんどん数が増えていく。

 それを見て、将志は眼を閉じて薄く笑みを浮かべた。

 

「……くくっ、いい鍛錬になりそうだ」

 

 将志がそう言った瞬間、その体から鋭い刃のような銀色の光が吹き出し始めた。

 溜め込んでいた妖力を開放し、全身に巡らせる。

 そして将志が眼を開くと、その視界に映る世界は全てが超スロー再生になったようなものへと変わった。

 飛び交う弾丸は空中で止まっているように見え、音も置き去りにされて聞こえない。

 その静止画のような世界の中で、将志はただ一人普段と変わらぬ速度で槍を構えた。

 

「……行くか」

 

 そう言うと、将志は弾幕を叩き落すべく飛び出した。

 その速度は先程よりもはるかに速く、銀の残光を残しながら空を駆け巡っていく。

 それは例えるのならば近づく弾幕を絡め取る、銀の糸で紡がれた蜘蛛の巣のようであった。

 将志はただ、有言を実行すべく動き回るのだった。

 

 

 

 三者三様の激しい戦いは長く続き、やがて二度目の夜明けを迎えた。

 神奈子の弾幕は狙いがだんだん甘くなり、消費を抑えるために密度を下げ始めた。

 諏訪子は味方のミシャグジをほとんど撃墜され、弾幕中心の戦いから鉄の輪による直接攻撃に重点を置くようになった。

 両者共に顔には疲労の色が濃く現われており、限界が近いことが良くわかる。

 

 一方、下で孤軍奮闘していた将志にも疲労の色が見え始めた。

 いつまで続くのか分からないというこの状況は、肉体よりも先に精神の方を蝕んでいく。それでも将志は歯を食いしばって守り続けた。

 今までに、将志の銀の蜘蛛の巣を潜り抜けたものは一つもない。そんな中、再び大威力のオンバシラが飛んでくる。

 

「……くっ……」

 

 将志はそれに対して数本の妖力で作った槍を投げてオンバシラを砕き、破片を払った。

 そして次を迎え撃とうとして空を見ると、ちょうど弾幕の切れ目で、神奈子と諏訪子の闘いを垣間見ることが出来た。

 神奈子は弾幕の狙いを諏訪子に絞り、斬りつけてくる諏訪子をオンバシラで叩き落そうとする。

 一方、一人残った諏訪子は弾幕を神奈子の行動を制限するために使い、迎撃をギリギリで躱して攻撃を仕掛けようとする。

 諏訪子のすぐ近くをオンバシラが大気を震わせながら通り過ぎ、投げられた鉄の輪が神奈子の髪を鋭く掠める。

 両者の力は拮抗しており、一進一退の攻防が続いていた。

 

「……良い戦いだ」

 

 二人の戦いを見て、弾幕をはじき返しながらそう呟いた。

 そして日も高く昇ったころ、とうとう決着がついた。

 オンバシラを躱した諏訪子の一瞬の隙を突いて神奈子が至近距離で弾幕を放ち、諏訪子に直撃する。

 そうして動きを止めた諏訪子に、神奈子はオンバシラによる渾身の追撃を加えて地面にたたきつけた。

 

「……くっ」

 

 本殿に向かって勢いよく落ちてくる諏訪子の腕を取り、将志はその勢いを使ってあえて諏訪子を上に放り投げる。

 そして再び落ちてくる諏訪子を将志はしっかりとキャッチした。

 諏訪子はボロボロになって気絶しており、疲れもあいまって眠ったような表情を浮かべていた。

 

「……良く頑張ったな」

 

 将志はそう言うと、自分に纏わせていた銀の光を霧散させた。その瞬間、将志の額から一気に汗が吹き出し始める。

 勝負が着いて、気が緩んだために起きたものであった。

 将志はその汗を袖で拭いながら、大きく深呼吸をする。

 

「はあっ、はあっ……お、終わったわ……」

 

 その将志の隣に、疲れ果てた表情を浮かべた神奈子が降りてきた。

 神奈子は肩で息をしており、膝に手をついてかがみこんでいた。

 

「……お疲れ、神奈子。長かったな」

「ええ……これで他の神に怒られずに済むわ……それにしても、貴方も本当に守りきるなんて思わなかったわ」

 

 神奈子はそう言いながら辺りを見回す。

 周囲の森の木は薙ぎ倒され、地面には流れ弾が直撃したと思われる跡が多々見受けられる。

 しかし、将志が守っていた神社の敷地内には傷一つ無かった。

 そう、将志は自分が宣言したことを見事に実行したのだ。

 それに驚く神奈子の言葉に、将志は一つ息をついて答えた。

 

「……己が発言には責任を持たねばならん。俺はそれを果たしただけだ」

「それができる者が何人居ることやら……」

 

 そこまで言うと、神奈子はあることに気付いて首をかしげた。

 

「あら? 将志、貴方いつの間に神になったのかしら? 神力を感じるわよ?」

「……む?」

 

 将志はそういわれて自分の中の力を確認した。

 すると、どうにも今まで慣れ親しんだものとは違う力があることに気がついた。

 将志がその力を解放してみると、それは妖力の冷たく鋭い銀とはちがい、どこか暖かみのある柔らかい銀色をしていた。

 

「……何だ、この力は?」

「それは信仰の力よ。貴方が何をしたかはわからないけど、これで貴方は何かの神になったと言うことよ」

「……そう言われても、俺には何故神になったのかがわからないのだが……」

 

 将志が首をかしげていると、腕の中の諏訪子が眼を覚ました。

 

「う……ん……あいたたたた……あーうー、負けちゃったよー」

「……残念だったな。だが、いい戦いだったぞ」

 

 諏訪子は将志の腕の中でシクシクと泣き始めた。

 将志はそんな諏訪子の頭を撫でる。ちなみに帽子は飛ばされていて、眼を覚ましたミシャグジが捜しに行っている。

 しばらく泣いて気が済むと、諏訪子もやはり首をかしげた。

 

「あれ、将志が神になってる」

「……そのようなのだが……理由がわからん」

「単純に考えてこの戦いでなったんでしょうけどね……」

 

 三人はしばらく考えていたが、考えても埒が明かないのでやめた。

 

「それはともかく、私が勝ったのだからここの信仰は頂いていくわよ」

「……まあ、負けちゃったわけだし、そういう約束だから仕方ないか……」

 

 そんなやり取りの後、神奈子は民を集めて事情を説明した。

 しかし、民の間からは「そんなことをしてミシャグジ様に祟られたくない」と言って神奈子を拒絶した。

 挙句の果てには、こんな言葉が飛び出す始末であった。

 

「諏訪子様が負けたとしても、まだ守り神様が残っている以上、そんなことは出来ない」

 

 これには神奈子も同席した諏訪子も揃って首をかしげることになったが、しばらくして将志のことだと思い至った。

 どうやら将志が社を守り続けていたのが見えたらしく、新しくやってきた神社の守護神だと思っていたようだ。

 二人は思わず顔を見合わせ、その場で頭を抱えることになった。

 何とか将志が通りすがりの神であることを伝え、表向きには神奈子がこの地を統治し、実際には諏訪子が治めるという構図になり、信仰は二人に分配される形になった。

 なお、守り神様こと将志に関しては感謝の意味をこめて近くに分社(とは言うものの本社がないので実質的な本社)を建てることになった。

 

 

 

 一方、一仕事終えた将志が辺りをぶらぶらしていると、見慣れた格好の人物を見つけた。

 

「……愛梨」

 

 将志はそのトランプの柄の入った黄色いスカートとオレンジ色のジャケットを着た人物に声をかけた。

 すると愛梨は振り向いて、将志の姿を確認するなり将志の胸に飛び込んできた。

 

「もう! いつもいつも心配かけて! どれだけ僕達が心配したと思ってるのさ!」

「……すまないな」

 

 半ベソをかきながら愛梨は将志にそう叫んだ。

 将志はそれを聞いて、そっと愛梨のうぐいす色の髪を撫でた。

 

「本当に酷いですわ。これは少し何かお詫びが欲しいですわね」

「……考えておこう」

「ふふっ、約束ですわよ?」

 

 愛梨の頭を撫でる将志に、後ろから六花がぎゅっと強く抱き着いて耳元で色香のある声で囁く。

 将志がそれに答えると、六花は笑みを浮かべて将志から離れた。

 

「まったく、兄ちゃんはホントに人騒がせだよな〜。それはともかく、腹減ったから飯にしようぜ! 七日ぶりの兄ちゃんの飯を食わせてくれよな!!」

「……くくっ、了解した。では戦も終わったことだ、食事にするとしよう」

 

 威勢よく足元から炎を吹き上げるアグナに将志は笑みを浮かべると、将志は食事の支度を始めることにした。

 七日ぶりの将志の本気の料理は神奈子と諏訪子を合わせた全員で食べることになり、初めて食べた諏訪子を大いに驚かせることになった。

 

 

説明
民の信仰を賭けて、二人の神が激突する。そんな二人のために、銀の槍は裏方に徹するのであった。
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コメント
しかし、大和の神の信仰が増えるということは、自分にも利があることですからね。それに、自分の力でそれを成すということは自分の力を示すことにもなるので、むしろ快く引き受けたのではないでしょうか? 元ネタの人は仕方なくですが。(F1チェイサー)
…しかし、神奈子も仮にも軍神である以上、やりたくない侵略だったら武力で強引に拒否も出来たでしょうし。大和の神々の間で、どんなやり取りや駆け引きが繰り広げられていたのか、興味深い所ですな。(クラスター・ジャドウ)
クラスター・ジャドウさん:そうですね。戦いに勝ちこそしましたが、当初の目的は全く果たせていませんし。更に負けてしまえば自分が干されてしまうところだったので、割に合わないことこの上ないですw(F1チェイサー)
…槍妖怪、二柱の闘いから神社を守り、神へと昇格するの巻。神奈子は結局の所、信仰を奪えなかったから、試合に勝って勝負に負けた事になるのかな?…それにしても一方的に戦を仕掛けに行ったら、自らの立場が危うくなりかねない事態になるとは思わなかったろうw(クラスター・ジャドウ)
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