命-MIKOTO-12話-
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【??視点】

 玩具屋でおっさんと二人で働いていたら、目も眩むような美人がどういうわけか

このオンボロの店へバイトとして入ってきた。

 

 最初は世間知らずだったところもあったけど、飲み込みが早く仕事も最初のうちは

大変そうだったが、今では一人の従業員として信頼できている。

 

 だが、最初とは違って今でも目を離すことができないでいる自分がいた。

最初は初心者で面倒事を起こさないか心配だったのだろうと思っていたが。

 

 どうやら俺は彼女のことを好きになっていたようだった。

 

 だが、彼女には恋人がいるという話を聞いてはいたが。

まだ実際にその人物を見かけたことはなかった。

 

 彼女の周りは男の気配が一切しないから。

嘘をついたのだろうか、それとも俺の気を引こうとして・・・?

 

 久しぶりに始まった恋の気持ちは昔とは違う雰囲気を感じていた。

 

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【命視点】

 

「おはようございます〜」

 

 元気よく挨拶をすると、店長さんの代わりに一緒に働いてる高田さんが顔を

出してきて、嬉しそうな表情で私に近づいてくる。

 

「おはよう〜。今日も一日がんばっていきましょ〜」

 

 何気ない挨拶から始まって、いつもの日常。と思っていたけれど、何かがずれて

おかしな方向へ進んでいくことになる。

 

 今日はマナカちゃんを連れていく予定だったけれど、萌黄が休みを取って

家に居てくれてるので、任せています。早く二人が仲良くなればいいのに。

 

 萌黄は苦手なりに頑張ってますが、マナカちゃんがどうにも心を許してくれません。

人見知りが激しいようなので仕方ないんでしょうけど。

 

「ふふっ」

「なんかいいことありました?」

 

 高田さんが想像して笑みを浮かべていた私に声をかけてきた。

 

「ええ、マナカちゃんと私の恋人が初めて二人きりで過ごすもので大変かなって

想像したら、ちょっと微笑ましくなっちゃって」

「そうなんですか」

 

 いつもより笑顔が強めに見える高田さん、特に萌黄の話に対してのみ

反応が強くなることに少し違和感を覚えた。

 

 それは間が持たなくて萌黄がマナカちゃんを連れて玩具屋に訪れた時に

強烈に感じ取ることになった。

 

「命ちゃーん」

 

 扉に入ってきた人にいらっしゃいませ。と笑顔を浮かべながら言った先に

居たのは萌黄だった。すっかり困り果てた表情で隣にはつまらなそうにしている

マナカちゃんの姿があった。

 

「やっぱり無理でしたか」

「やっぱりって!? 私がんばったのに・・・!」

 

 私と萌黄の言葉の後にマナカちゃんの呟いた一言に萌黄は気づいて天を仰いでいた。

 

「嫌そうなのが丸わかりだからね」

「あ、しまったぁ・・・」

 

 表情にも出ていたのだろうが、心の中ですごい苦手意識があったのかもしれない。

そこを読み取られてしまったのだろう。萌黄に悪気はないと思うのだけど。

私は改めて、萌黄は子供が苦手なんだと思い知らされた。

 

「どうしました?」

 

 私達の騒ぎに気づいて奥から高田君が顔を出してきた。

 

「おや、君たち。お買い物かな?」

 

 萌黄を見て子供だと思ったのか、まとめて「達」なんて使うものだから

萌黄が怒り笑いをして口角が引きつるように上がっていくのが見えた。

 

「私、見てくれはこうだけど、大人なんで!子供扱いしないでね!」

「はいはい。ところで、この子は摩宮さんの妹か何か?」

 

「話を聞けえ!」

 

 子供は眼中にないとばかりに私に振る高田君が気にくわないのか萌黄は

珍しく、くいついてくる。

 

「いえ・・・」

 

 この時、私はとことん世間知らずなんだなって思い知らされることになる。

そう思わせる一言を不用意に話してしまった。

 

「萌黄は私の恋人ですよ」

「命ちゃん・・・!」

 

「え・・・?」

 

 他意も何もなく、純粋な気持ちで言うと。萌黄は慌てるように私の口を

塞ぐがもう既に出てしまった言葉は取り消しがきかない。

 

 私の言葉が耳に入った高田君は信じられないものを聞いたかのように

その場で固まってしまう。その固まってしまう原因が私にはわからなかった。

 

「高田君・・・?」

「え、あ・・・なんでもないです!そうなんですか・・・!ははは」

 

 そういって誰から見ても怪しげな態度をとって、一度奥へと引っ込んでしまう。

気まずい空気を感じた萌黄も普段ならそれを察するとその場から去ろうとするが

マナカちゃんがいたら、また同じことの繰り返しになるだろう、と。

私の仕事が終わるまで、近くの喫茶店などでマナカちゃんと待機していた。

 

 私の仕事が終了してすぐ、二人がいる喫茶店に顔を出した。

それからの帰り道で萌黄は私に軽い注意を促してきた。

 

「命ちゃんは差別とかしない純な気持ちの持ち主だからいいけど。

一般の人は同性が付き合うってだけで嫌悪を持ったり差別したりするんだよ」

 

 萌黄の言葉にマナカちゃんも大きく頷いていた。

子供でもわかるようなことを私は意識していなかったことに、軽くショックを受けた。

 

「で、でも高田さん。優しいですし、きっと大丈夫ですよ」

「だったらいいけどねぇ・・・」

 

 私の根拠のない希望を聞いて、萌黄は溜息混じりでそう答えるがマナカちゃんは

普段よりも深刻そうな表情をしているのを私は見逃さなかった。

 

「マナカちゃん?」

「うーん・・・」

 

 言っていいのか悩んでいる顔をしている。私はそんなマナカちゃんを気にして

緊張しつつも、その意見を聞こうとした。いいの?という確認を通ってから

彼女は渋々と私に告げた。

 

「期待はしない方がいいかも。あと、気をつけたほうがいい」

「え・・・?」

 

「心の動揺が激しすぎて感知しにくかったけど、同性愛に優しい感情ではなかった。

あと、もっと悪いけど。ストーカーに近い気質も感じられたよ」

「す、ストーカー!?」

 

 私だけではなく萌黄も驚きの言葉を上げる。よくニュースとかで取り上げられる

あの怖いやつだ。嘘だと思いたいけど、私はマナカちゃんの特殊な能力を信じてる。

 

「思い違いだったらいいけど、ちょっとは警戒した方がいいよ」

 

 と言われて私は緊張を持ちながら頷いた。

どうしてこうなってしまったのだろう、と私は混乱していた。

 

 だけど、よくよく考えれば隠していてもいつしかバレてしまう可能性もあったわけで。

私に隠し事なんて約束しない限りはいつかは漏れてしまう。

 

 だって悪いことをしているわけじゃないんだから、堂々としてればいいって

思っていたから。そういう私と世間の考えのズレを痛く感じられた一日だった。

 

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 その日、ストーカーかもしれないっていう話を聞いてから不安な気持ちで

いると萌黄はお風呂に入ろうとして、私に声をかけてきた。

 

「命ちゃん、久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか!」

「は、はい・・・」

 

 一緒にお風呂場に入った私達は軽く体にお湯を流した後に一緒に湯船に入る。

大きめに作られている湯船は二人くらいならそんなにきつくなく入れる。

入る人のサイズにもよるんだろうけど。

 

 天井から湯気で溜まった滴が水面に落下して微かな音を残す。

しばらくジッとお湯の温もりを堪能していると、萌黄はいきなり私の顔の

近くによってきた。

 

 そして萌黄の両手が私の後頭部に触り、もっと近づくように引き寄せてくる。

 

「萌黄?」

 

 二人はおでこをくっつけて、萌黄はとても優しい声で私に言葉をかけてくれる。

 

「何があっても、私達は一緒だからね」

「はい」

 

「もし、何かあったらちゃんとここに帰ってくるんだよ・・・」

 

 何があっても私たちが命ちゃんを守るからねって。その言葉がとても嬉しくて

お湯の温かさ以外の暖かいものが込み上がってきた。

 

「ありがとう・・・。萌黄・・・」

 

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 翌日、仕事場へ向かうとすっかり私を見る目が変わっている高田君と

挨拶だけ交わして午前の仕事に入る。

 

 その時間帯は何の問題もなかったけど、お昼に入って休憩しようとした

矢先に、高田君に声をかけられる。

 

 私は高田君に近くの人目の少ない路地に誘われて向かうと壁に押し付けられた。

 

 まずいきなり批判的な言葉を浴びせられ、威圧感を出して相手を怯えさせるような

やり口。それから、何が普通で普通じゃないかを淡々と語り、自分の理想を相手に

洗脳させようとしているのを感じた。

 

 私が渋い顔をして聞き流していると、それに気づいた高田君はカッとなったのか

ダイレクトに語調を強くして私を攻めるように言ってきた。

 

「俺が彼氏になって全うな道に戻してやろうって言ってるんじゃないですか」

「全うって何よ。まるで私が普通じゃないみたいじゃないですか・・・」

 

「普通じゃないね!女同士で乳繰り合って、ただのごっこじゃないか」

「ごっこなんかじゃないです。私達はちゃんと愛し合っています」

 

 私が反論すればするほど、彼を激昂させる。そんなことはわかっていても

妥協はできない。妥協したら、無理やりにでも彼と付き合う羽目になるかもしれない。

それだけは勘弁だった。

 

 だから、私はしっかり意識を強く持って。彼と向き合う。

私の中には昨日、私を励ましてくれた萌黄の言葉がある。だから、怖くなんかない。

 

「わかんねえかなぁ、俺と付き合った方があんたにとっても幸せなんだって」

 

 感情が昂ぶっていくのがわかるほど、言葉がざらついていく。乱暴になっていく。

もはや、最初にあったころの高田君ではない。まるで何かに取り憑かれているようだった。

 

「これが私達にとっての普通です。貴方の考えを私に押し付けないでください」

「それが異常だって言ってるんだろ!この、バカが!バカがあ!」

 

 気がおかしくなってる人に正論を言うのは間違いだとわかっていても、

言わざるをえない。私の機転のきかなさが、こういう展開を生んだのだろうか。

 

「ぐっ・・・」

 

 強い力で首を掴まれて締め上げられる、苦しい。苦しいけど、それよりも悲しい

気持ちが強い。なぜ、わかってくれないのか。いや、わからなくても。

 

 どうして・・・放っておいてくれないのか。

 

 バチンッ!

 

「・・・!」

 

 私は全力で私の首を絞めている彼の頬を叩いた。それも、跡が残るほどの力で。

急な衝撃に慣れていないのだろう。昔の・・・男に叩かれた女のように簡単にバランスを

崩して、情けない格好で崩れ落ちる高田君。

 

 彼が見た私の姿はどう映っていたのだろう。

 

 このとき、私は自分の能力が発現してしまった感覚があった。

私は涙を零しながら彼にこう告げた。

 

「たとえ、私が独り者でも。貴方のような人を好きになることはないでしょう・・・。

人の気持ちを考えてください!自分の気持ちで人を傷つけるな!!!」

 

 そう叫んで私は走りだした。この状況だと人に追いつかれるどころか、

人の目にも追いつかない速度で走っているだろう。

 

 数秒の間にだいぶ離れていた、人気のない土手のある場所に座り込んだ。

そこは一度マナカちゃんが逃げ出して、私が追いついた場所でもある。

 

 泣きながらも、その懐かしい思い出に浸りながら時間を過ごした。

 

 悲しい・・・。人の気持ちがこんなにすれ違ってしまうだなんて。

勝手にお店抜け出しちゃったな・・・。

 

 でも、もしクビになっても構わない。その覚悟は私にはあった。

 

「帰ろう」

 

 失意の中でも、私を待ってくれる家族や恋人がいる。それがどれだけ暖かくて

ありがたいか。計り知れないほどの気持ちがあった。

 

「萌黄たちの所へ」

 

 誰に言うまでもなく、私は立ち上がって家路を歩いていく。

その頃にはすっかり変身した姿も戻っていたが、心身が異様に疲れていた。

この能力のせいもあるだろうけど、今回のことが相当私の心に堪えたのだろう。

 

 家に戻ると私の様子にみんな心配してくれて、私に抱きついてきた。

柔らかくて暖かくて心地がよかった。人が何を言おうと私は、この人たちと

一緒にいることを恥じたりはしない。むしろ誇っている。

 

 こんなに素敵な人たちに囲まれてる自分は幸せ者だと。

 

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 次の日、お店に顔を出すと。疲れ顔の店長が私の顔を見て救世主だとばかりに

嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「助かるよ〜。昨日、二人ともいなくなっちゃって。お客さんの相手が

大変だったんだ」

 

「あれ、高田さんは?」

「あぁ、彼は・・・。何があったか知らないがしばらく休むと言ってきた」

 

 頬を真っ赤に腫れさせて、どっかの女にでも振られたんだろうって笑っていた。

普通の恋愛話だったらそれでもいいけど、もっと複雑なことがあったのは

店長の様子から知らないんだろうなって、ちょっと溜息が漏れた。

 

「ところで・・・」

「はい」

 

 それから想像もつかないことを店長から聞かれた。

 

「それから彼女さんとは上手くいってる?」

「はい・・・。え、ええ!?」

 

「前、同居してるとこを偶然見ちゃってね。私が強引に聞いちゃったもんで。

すまないね、この爺さん好奇心いっぱいなもんだから」

 

 笑って言う店長さんの顔には、どっちかと言うと私達に近い優しい表情をしていた。

 

「店長さんは変だとは思わないんですか?」

「どこが変なもんさ。人が人を愛するのはごく自然なことだろう?」

 

 その言葉に泣きそうになるのを堪えて私は店長さんにお礼を言うと

店長さんは既に頭の中で切り替えが終わったのか、こういうことを言ってきた。

 

「さぁ、今日も忙しくなるぞ。久しぶりに二人きりだからね!」

 

 気合を入れなさいって優しい言葉と強く背中を叩かれて気合を込められた。

その痛みはとても嬉しくて私は元気良く「はい」と答えたのだった。

 

 以前と全く同じというわけにはいかなかったが、ひとまずはいつもの生活に

戻って私は不安な気持ちを降ろすことができた。

 

 ただ、高田君のことが少し心配である。

強く言い過ぎたかもしれないけれど、あのくらい言わないと通じない雰囲気だったから。

 

 でも、そんな私の考えが甘いのかもしれない。

そして、そんな考えが続かないくらいには、その日はお客さんがいっぱい入ってきて

大繁盛したのだった。

 

説明
命の職場で起こる異変。人とは少し違った命の魅力に惹かれて悪い方向へ走っていく話
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