銀の槍、感知せず
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 将志が永遠亭で心を取り戻してからというもの、関係者は大騒ぎとなった。

 特に銀の霊峰の面々は将志の変貌に大パニックとなり、暴走したところを将志が武力で鎮圧に掛かる事態となった。

 そして数日後、将志と関係の深い者が集まって話し合いをすることになった。

 

「え〜っと、状況を確認するよ♪ まず、将志くんが自分のことを考えるようになって、主様から少し独立したんだよね?」

「それで、そのお兄様は今どうなってますの?」

「今は別の部屋で寝てるぞ。顔が真っ赤だったから熱でもあるんじゃねえか?」

 

 将志は現在、話し合いが行われている部屋とは離れたところで伸びている。

 アグナが言ったとおり、その顔は真っ赤に染まっていた。

 

「……お師さんに、何があったんでござるか?」

 

 涼の言葉に、全員の視線が客人に向けられる。

 

「ああ、それなら私がさっき少し将志のことを弄ってみたんだが……そうしたらああなった」

「いったい何をしたのかな、藍ちゃん?」

「最初は仕事の報告がてらうちに来てな。変われたのかどうか分からないから、確認する方法はないか、と言われたから、抱きついたり接吻したりその他諸々を。で、今回再確認のためにもう一度同じことをしてみた」

「……色々と問いただしたいことはありますが今は不問にしますわ。それで、どうでしたの?」

 

 藍の報告を聞いて、六花が額に手を当てながら藍にジト眼を向けた。

 すると、藍はため息をついて肩をすくめた。

 

「……断言しよう。今の将志は紫様と同格だ。いや、抱きついても平気な分だけ紫様よりはマシか。だが、接吻の段階で脈拍が乱れ始め、色々弄りだした段階で精神が限界を迎えた。正直、男としてはもう少ししっかりしていて欲しいものだ」

 

 ちなみに比較対象となった紫も将志と同じ部屋で伸びている。

 藍の指示によって将志がそっと抱きしめて愛の言葉を囁いたところ、あっという間に頭がパンクしたのだった。

 なお、愛の言葉は将志が条件反射で発したものであり、藍の指示には入っていなかった。

 恐るべし。

 

「でも、何でこんなことになったんだ? 兄ちゃん、俺が思いっきり接吻した時だって全然平気だったのによ」

「……将志が言うには以前までは相手の行為を特に意識していなかったらしいのだ。ほら、良くあるだろう、自分が何か窮地に立たされた時、自分を人形か何かだと思い込むことでそれをごまかそうとする奴だ。今まではいつもその状態だったらしい」

「それに……たぶん、好意を受けることにも慣れてないんじゃないかな? 今まで全部受け流していたのを受け止めることになったけど、それに心も身体も慣れてないんだと思うよ♪」

「しっかし、兄ちゃんって女が苦手だったんだな〜……その割には、くっついたり一緒に寝たりするのは大丈夫みたいだけど、何でだ?」

 

 アグナは困ったように頭をかきながらそう言った。

 それに対して、藍がため息混じりに答えを返した。

 

「……そこは教育の賜物だろう。六花の教えの中には、相手を抱きしめたりするものもあったからな。というか、現に私がそれで堕ちた口だ」

「お、おほほほほ……ほ、本当に申し訳ないですわ」

 

 藍の言葉を聞いて、六花は乾いた笑みを浮かべた。

 その謝罪に対して、藍は首を横に振った。

 

「いや、これに関しては良くやったというべきだろう。流石に触られたりするだけで過剰反応するようでは手に負えないからな。抱きついたり出来る分まだ救いがある。だが、ある一定以上の男女間の接触となると途端に弱くなるんだ、将志は」

「で、どうやって直すんですの?」

「それはもう慣れさせるより他ないだろう。ただ、あまりやりすぎると逆に症状が悪化したり逃げ出したりするだろうから、少しずつ慣らしていったほうが良いだろう」

「……藍ちゃん、随分と手馴れてるね♪」

 

 愛梨がそういうと、藍は薄く笑みを浮かべた。

 

「ふふふ……こういう経験ならそれなりに積んでいるからな。ご希望とあれば、男を飼いならす方法くらい教えるぞ?」

 

 藍の言葉に、その場にいた者は若干引く。

 しばらくの静寂の後、六花がそれを何とか破る。

 

「……この面子だと使う相手がお兄様しか居ませんわよ」

「ん? ここの連中に使ってもいいんだぞ? 馬鹿な男は女に簡単に踊らされるから、思いのままに操ることだって出来るぞ?」

 

 藍はそういうとニヤリと笑った。

 その経歴から考えると、藍の言葉は洒落になっていない。

 

「黒い、黒いですわよ、藍! というか、やったことあるんですの!?」

「いや、ない。ただ方法を知っているだけだ。第一、そんなことをしても将志みたいな奴は大体引っかからないし、使う意味がない」

 

 藍は残念そうにそう言って首を横に振る。

 つまり、意味があれば使ったのかもしれない。

 皆がそう考える中、アグナが声をあげた。

 

「そんで慣らしていくのはわかったけど、誰がどうやって慣らしていくんだ?」

「う〜ん、将志の嗜好が分かれば考えようはあるんだがな……」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 愛梨、六花、アグナの三人はその場で黙り込んだ。

 何故なら、問答無用で将志に好かれる存在に心当たりがあったからである。

 

「……なるほど、銀髪で、瞳の色は黒、知的で落ち着いた雰囲気で、大人びた印象だな……三人とも随分と具体的じゃないか」

「なあ!? 狐の姉ちゃん、今何やったんだ!?」

 

 突如藍が口にした言葉に、アグナが慌てて声を上げた。

 藍の目の前には藍色に光る妖力の玉が浮かんでおり、そこに三人の心の中が映し出されていた。

 

「私を甘く見ないで欲しいものだな。お前達より力は劣るが、妖術の扱いまで負けた覚えはない。心の情景を読むくらい訳のないことだ。それで……誰なんだ、今の女は?」

「……そ、それは……」

「ほう……将志の主、名前は八意 永琳か。ぜひとも会ってみたいものだな。それで、どこにいる?」

「あ、あの、藍ちゃん?」

「……迷いの竹林……その中の屋敷、永遠亭か。そうか、そういうことか。ようやく繋がった。あの竹林にあふれる力は将志のものか」

 

 質問するごとに藍は三人の心の中を見て、答えを得ていく。

 その鬼気迫る雰囲気に、アグナが冷や汗をかきながら声を上げた。

 

「……こ、こえ〜……これ、あれか? 妖怪の兄ちゃん達が言ってた狂気って奴か?」

「ああ、そのとおりだ。愛情というのは最もありふれた、それでいて一番強い狂気だからな。さて、行くとしようか」

「行くって……まさか貴女!?」

「決まっているだろう? 永遠亭だ」

「あ、ちょっと待ってよ!?」

 

 藍が部屋を出て空へ飛び立って行くと、心を読まれた三人組はその後に続いて出て行く。

 その後姿を、涼は苦笑いを浮かべながら見送った。

 

「……愛に狂った者は怖いでござるな……お師さんもなかなかに業が深い……」

 

 涼がそう呟くと、扉を叩く音が聞こえてきた。

 

「む、客人でござるか? すぐに参るでござる!」

 

 

 

 

 

「ええと……突然押しかけてきてどうしたのかしら?」

 

 ところ変わって永遠亭。

 突然の来客に対応したのは、八意 永琳その人だった。

 

「きゃはは……ごめん、ちょっとトラブルがあってね……」

「トラブル?」

 

 苦笑いをする愛梨に永琳は首をかしげる。

 すると、愛梨の前に藍が出てきた。

 

「初めまして。貴女が八意 永琳だな?」

 

 永琳はそう話す藍を見て、スッと眼を細めた。

 

「……金毛の九尾……そう、あなたが将志の話していた藍って子ね? どうしてここが分かったのかしら?」

「そこの三人から聞き出させてもらったよ。少しばかり反則技を使わせてもらったがな」

「反則技ね……そんなことをしてまで私に何の用かしら?」

「なに、少し挨拶をしに来ただけだ」

 

 永琳の問いかけに、藍は微笑を浮かべてそう言った。

 それに対して、永琳もまた笑い返す。

 

「ふふふ、あなたがするのは挨拶の名を借りた宣戦布告ではないのかしら?」

「そう焦ることもないだろう。それに別の話もある。まずはお互いのことを知るところから始めようじゃないか」

「まあ、それも良いでしょう。それじゃあ、中へどうぞ」

 

 永琳に案内されて一行は座敷へと向かっていく。

 すると、前からうさ耳の少女が歩いてきた。

 

「あれ、お師匠様? その人誰?」

「ああ、藍って言って将志の知り合いよ。お茶を準備してくれるかしら?」

「ん、わかった。それから、たぶん姫様が燃え尽きてるころだと思うから後で回収に行くよ」

「ええ、お願いするわ」

 

 てゐはそういうとお茶を用意しに台所へと向かった。

 座敷につくと、一行は四角い長机の前に座る。

 ちょうど永琳と藍が向かい合うように座り、愛梨達はその横に座る形である。

 

「さてと、まずは自己紹介から始めましょう。私は八意 永琳。将志の主よ。まあ、たぶんあなたは知っているでしょうけどね」

「八雲 藍だ。種族は妖狐。将志とは今のところ友人、更に言うならば師弟関係だ。もっとも、将志のことだからこれくらいのことは話していると思うがね」

 

 自己紹介から相手にけん制を仕掛ける二人。

 話し合いを始めて、早速周囲にプレッシャーが掛かる。

 

「それで、何を話すのかしら?」

「そうだな……まず、ここにいる者で普段将志がどんな行動をしているのか情報交換をしようか」

「いいわね。私が見ていない間の将志を知るのにちょうど良いわ。愛梨達にも話してもらうわよ?」

「え? 僕達も話すの?」

 

 突然話を振られて、愛梨はキョトンとした表情を浮かべた。

 それに対して、永琳がため息混じりに話を続ける。

 

「当たり前じゃない。むしろ一番話すべきなのはあなた達よ? さあ、話しなさい」

「えっと……普段将志くんはうちにいるときは大体勉強か仕事をしてるよ♪」

「勉強? 何の勉強だ?」

 

 愛梨の話を聴いて藍が質問をする。

 すると、その質問にアグナが答えた。

 

「あ〜っと……確か最近読んでた本は図鑑だな。草とか木の実とかキノコなんか調べた奴を確認してたぞ?」

「私が確認したときは動物図鑑でしたわ。特に毒を持った生き物について念入りに調べてましたわね」

「そういえば、この前将志は毒を持った生き物をたくさん捕まえてきたわね。お陰で血清の備蓄が充実したわ」

 

 将志は永琳のところに様々な毒を持った生物を生け捕りにして来ていた。

 また、ヒュドラやマンティコアのような連れて帰れない生物は毒だけ抜き取って持ってきていたのだった。

 

「後は僕達と特訓したり、料理の研究をしたり……あ、あと一緒に見回りをしたりしてるよ♪」

 

 その愛梨の言葉を聞いて藍と永琳はジト眼を愛梨に向かって向けた。

 

「見回りか……ものは言い様ね」

「私からしてみれば逢引と変わらん気もするがな」

「ち、ちゃんとした仕事だよ〜!」

 

 二人の言葉を、愛梨は必死に否定するのだった。

 そして、話が途切れたところで今度は藍が話を始めた。

 

「それじゃあ、次は私だな。私とは戦闘訓練をした後、一緒に昼食を作り、時間があれば演奏を聴いたりしているな」

「演奏? 何のことかしら?」

 

 藍の言葉に、今度は永琳が疑問を抱く。

 それに対して、アグナが何か思いついたように声を上げた。

 

「もしかしてあれか? あこーでぃおんって奴」

「それだ。将志が練習の成果を私に聴いて欲しいって言ってきてな。それ以来将志の演奏を聴かせてもらっているよ」

「そっか〜、最近上手くなったと思ったらそういうことをしてたんだ♪」

 

 将志の演奏技術の上達を素直に喜ぶ愛梨。

 その横で、永琳が悔しそうな表情を浮かべた。

 

「聴いてみたいけど、ここじゃ聴けないわね……外に出られないのがこんなにもどかしくなったのは初めてだわ」

「出られないだと? どういうことだ?」

「……それはこの場では関係ないことよ」

 

 月の人間に追われている現状、永琳達は発見されるわけにはいかない。

 また、どこに耳があるか分からないため、将志が永遠亭でアコーディオンを演奏することも叶わないのだった。

 そんな永琳に対して、六花が話しかける。

 

「それじゃあ、最後にここでのお兄様の生活を話してもらいますわよ」

「良いわよ。ここでは将志は基本的にお茶を淹れたり料理をしたりすることが多いわ。後は私の話し相手によくなってくれるわ」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 永琳の言葉に、全員押し黙る。

 何故なら、ある一点において決定的な違いがあるからなのだった。

 

「そういえば……」

「お兄様がただ世間話をするだけって、ほとんどないですわね……」

「……いいなぁ……」

「いつも大体は何か用事があったり、実のある話しかしないな……」

 

 四人は羨ましそうに永琳を見つめる。

 それを受けて、永琳は首をかしげた。

 

「あら、そうなの? 将志ってあの性格の割には結構おしゃべりだと思っていたけど、違うのかしら?」

「ううん、将志くんはあの性格通り自分からはあんまりしゃべらないよ♪」

「精々が話しかけられたからそれに答える、というくらいだな」

「それ以外は、大体何か別のことをしてますものね」

「そうだよなぁ……」

 

 実際問題、将志は滅多に自分から話をすることはない。

 基本的に将志は上昇志向が強く、暇があれば自分を磨く性格である。

 そんな彼が取り留めのない世間話をすると言うことは稀なのであった。

 それを聞いて永琳は嬉しそうに笑った。

 

「ふふっ、それじゃあその点に関しては私のほうが一歩進んでるってことね」

「ふっ、だが、確実に私の方が進んでいる部分もあるぞ?」

「あら、それは何かしら?」

 

 不適に笑う藍に対して周囲の視線が集まる。

 そして、藍は口を開いた。

 

「……将志を脱がせて見たことはあるか?」

 

 その瞬間、一瞬時が止まった。

 

「……え」

「……藍ちゃん? どういうことかな?」

「……まあ、元はといえばただの事故だったのだがな。この前将志をうちに泊めたときに、うっかり将志が風呂に入っているのを忘れていてな」

「それで、どうしたんですの?」

「仕方がないから一緒に入った。で、ついでだから抱きついてみた。流石に今の将志には刺激が強かったのか、あっという間にのぼせ上がっていたがな。あと、身体を磨く手ぬぐい代わりに私の尻尾を」

 

 仕方がないにしては、このお狐様ノリノリである。

 やりたい放題な内容に、六花が盛大にため息をついた。

 

「……何やってますの、貴女は……」

「ん? 少しでも女に慣れてもらおうという真心だ。……まあ、少し刺激が強すぎたかもしれないが」

「貴女は少しという言葉を辞書で調べなおしてきてくださいまし!!」

 

 悪びれもせずにそう言い放つ藍に、六花が叫んだ。

 六花がそう叫ぶ横で、考え込む姿が二つ。

 

「将志とお風呂か……」

「兄ちゃんと風呂か……」

「君達も何を考えているのかなぁ!?」

 

 よからぬことを考える永琳とアグナを愛梨はそう言って止めようとする。

 それに対して、藍が横槍を入れた。

 

「そうは言うが、私からしてみればお前達が初心過ぎると思うぞ? 将志だって男だ、今はああだがいつ変貌するか分かったものではないし、やはり男女の行き着く先にアレがあるのは確実なわけだからな。まあ、それが全てとは言わないが」

「……あの、私実妹ですわよ……?」

 

 将志とお揃いの銀髪の実妹がそう言ったが、その言葉は見事にスルーされた。

 

「ところで、お前は風呂に入って大丈夫なのか? 炎の精だろう?」

「ん〜? 兄ちゃんに加護を掛けてもらえば入れねえことはねえぞ? さっぱりしてえ時とか、割と水浴びとかしてっし。そん代わり、兄ちゃんがいねえと出来ねえけどな」

 

 将志は戦神や料理の神として有名であるが、本分はあくまで守護神である。

 その加護を直接受けていれば、例え炎の妖精であるアグナでも風呂に入れる程度にはなるのだ。

 風呂好きの炎の妖精とは、これ如何に。

 

「……まあ、いいか。間違いが起きたらそれはそれで……」

「あ、あの〜永琳さん? さっきから何を考えてるのかな〜?」

 

 永琳の呟きに愛梨が冷や汗を流しながら問いかける。

 その質問に、永琳は即答した。

 

「将志の合意が得られたら一緒にお風呂に入ってみようと思っていたのよ」

「いや、でも、恥ずかしくないの?」

「何を恥ずかしがる必要があるのかしら? 私は将志になら全て曝け出せるし、全てを受け止めてあげるつもりでいるわよ?」

 

 永琳は何も苦にせずそう言い切る。

 その様子から、その言葉が本気であることが見て取れた。

 

「言い切ったな……」

「当然。二億年間想い続けた相手だもの。それくらい訳ないわよ」

「う、うう〜……僕だって、隠し事はしてないもん……」

 

 平然と言い切る永琳の横で、愛梨が顔を真っ赤にしながら眼に涙をためてそう呟いた。

 その様子に、藍は大きくため息をついた。

 

「……やれやれ、敵は思った以上に強大だな。これは全力で堕としに掛からないと盗られそうだ」

「あら、宣戦布告するのかしら?」

「ああ。悪いが、将志は私がもらう」

 

 藍は永琳と愛梨に向かって力強くそう宣言した。

 それを聞いて、永琳は不敵に笑った。

 

「ふふふ……まあ、精々頑張ればいいと思うわ」

「……随分余裕だな」

「当たり前じゃない。将志は必ず私のところへ戻ってくる、私はそう信じているもの。でもね、それだけじゃまだ足りないのよ」

 

 永琳はそういうと、ピエロの少女に向かって人差し指を向けた。

 

「……だから愛梨。私はあなたに宣戦布告する。あなたの持つ相棒の座、いつかこの手に収めて見せるわ」

 

 そう話す永琳の眼は本気で、将志の全てを欲しがっているようであった。

 それを受けて、愛梨は俯いた。

 

「……それは譲れないなぁ……ううん、それだけじゃない……僕だって将志くんが好きなんだ、絶対に負けないよ!」

 

 愛梨は顔を上げると、そう叫んで相手を見返した。

 その眼には、確かな決意が込められていた。

 

「ふふっ、それじゃあこの時点を持って戦闘開始……とは行かないのだ、これが」

 

 藍の言葉に、周囲の人物の力が一気に抜けた。

 訳が分からず、六花が藍に声を掛ける。

 

「……いったい何だって言うんですの?」

「あの将志のことだ、いつどこで新しく女を引っ掛けてくるか分かったものじゃない。それに将志自身が本当の意味で女に慣れていないし、そもそも興味を持っているかどうかすら怪しい。そこで、だ。将志が女に慣れて、興味がこっちに向くまで共同戦線を張ろうと思うのだが、どうだ?」

 

 その話を受けて、永琳と愛梨は考え込んだ。

 

「確かに将志の様子を見る限り、意識はしても興味を持っているとは言えないわね……良いわ、手を組みましょう」

「そうだね♪ 興味を持ってもらえないと、どんなに面白い芸も見てもらえないもんね♪」

「良し、そうと決まれば早速作戦を練ろうじゃないか」

 

 藍は愛梨と永琳と一緒に今後将志にどう仕掛けていくかを話し合い始めた。

 その様子を、置いてきぼりにされた二人がジッと眺めていた。

 

「……なあ、俺達ってここに何しにきたんだっけか?」

「……私にはさっぱりですわ……折角ですし、輝夜に追い討ちでも掛ける事にしますわ」

「そっか。んじゃ、俺は散歩でもしてくる。輝夜の姉ちゃんを倒した相手には興味があるし」

 

 そう言いながら、六花とアグナは座敷から出て行った。

 

 

 

 

 一方そのころ、銀の霊峰では。

 

「……茶でも飲むか?」

 

 縁側に座っている紅葉の神様に、将志はそう問いかける。

 何故静葉がここにいるかというと、将志が自分が居る幻想郷にいると知って挨拶に来たからである。

 

「……(こくん)」

「……了解した。しばらく待ってくれ」

 

 静葉が頷くと、将志は準備をしに台所へと向かう。

 しばらくして、将志は盆に湯飲みとお茶請けの饅頭を乗せて戻ってきた。

 もちろん、饅頭は将志のお手製であり、中身は決して以前幽々子が食べた七色の味ではない。

 

「……茶が入ったぞ。それから、ついでにこれも食べるといい」

「……ありがと……」

 

 静葉はお茶を一口飲むと、饅頭を食べ始めた。

 饅頭は少し大きめで、静葉は両手で持って饅頭を食べる。

 

「……(はむはむ)」

「……美味いか?」

「……(こくこく)」

「……それは良かった」

 

 静葉が問いに頷いたのを見て、将志は優しく微笑んだ。

 それを見て、静葉は将志の顔を見ながら首をかしげた。

 

「……前より優しくなった……?」

「……ふふっ、かも知れないな」

 

 静葉の言葉に将志はそう言って笑う。

 そんな将志に、静葉は寄りかかった。

 

「……どうした?」

「……この方が楽……」

「……そうか」

 

 その後、二人は縁側に寄り添うように座りながら日向ぼっこを楽しんだのであった。

 

 

 

 

「……お師さん……拙者はお師さんが後ろから刺されないかが心配でござるよ……」

 

 その様子を、門番が不安そうに見つめていたのは余談である。

 

 

 

 * * * * *

 

 あとがき

 

 ……なんだろう、永琳もそうだけど、藍からも随分とヤンデレ臭がする……

説明
気づかぬうちに失くしていた心を取り戻した銀の槍。そんな彼に対して、周囲の反応はと言うと。
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コメント
何で私がヒロインを書くとヤンデレな部分が出るんでしょうかね……(F1チェイサー)
…今まで心を凍らせていた分、解凍されたら反動で超絶初心になった、と。…この状態だと伊里耶に容易く籠絡されたろうから、鬼達が移住してて良かった…。…しかし藍も、読心術まで使って永琳の事を暴くとは、十二分にヤンデレだよ。現状では停戦して共同戦線で収まったが、事態が進展した時が怖いね、マジで(ガクブル(クラスター・ジャドウ)
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