番外編:銀槍版桃太郎
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注意

 

 この話は本編のキャラクターを使った作者のやりたい放題の話です。

 以下の点にお気をつけください。

 

 ・著しいキャラ崩壊

 ・カオス空間

 ・超展開

 ・一部メタ発言

 

 なお、この話は本編とは一切関係ありません。

 以上の点をご了承しかねると言う方は、ブラウザバックを推奨いたします。

 

 では、お楽しみください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな〜!! 今日は集まってくれてありがと〜♪ 今日は演劇『桃太郎』を披露するよ♪ それじゃあ劇の始まり始まり〜♪」

「……誰に言ってるんですの?」

「モニターの前のみんなだよ♪」

「うわぁ……いきなりメッタメタじゃねえかよ……」

 

  *  *  *  *  *

 

『(ナレーター:愛梨)昔々、あるところに、おじいさん(演者:妖忌)とおばあさん(演者:幽々子)が住んでいました。ある日、おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました』

 

「それじゃあおばあさん、気をつけてくださいね」

「ええ、おじいさんも気をつけてね」

 

『おばあさんは川に着くと、早速洗濯を始めました』

 

「う〜ん、なかなか落ちないわ〜」

 

『おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきました』

 

「あら、美味しそうな桃ねぇ」

「いただきま〜す♪」

 

『おばあさんは川から桃を掬い上げると、そのままかぶりつきました』

 

  *  *  *  *  *

 

「はいカット」

 

 唐突に、観客席から声が上がる。

 その声は舞台監督を任されている輝夜のものであった。

 

「ちょっと、そこは家に持って帰るんでしょ!? 何でその場で噛り付くのよ!?」

「え〜、だって脚本にはそんなこと書いてなかったわよ?」

「そんな訳ないでしょうが! ちょっと脚本見せてごらんなさい!!」

 

 輝夜は幽々子から脚本をふんだくると、中に眼を通した。

 しかし、その眼はすぐに点になった。

 

「……何これ? 配役だけしか書いてないし、後は白紙じゃない」

 

 幽々子の脚本には、幽々子がおばあさん役をやるということしか書かれていなかった。

 輝夜が取り落としそうになった脚本を、助監督をすることになった妹紅が手に取る。

 

「て言うか、この脚本書いたの誰?」

「ふっふっふ、それは私よ!」

 

 妹紅が問いかけると、今回の脚本家であるてゐが不敵な笑みを浮かべて声を上げた。

 

「……てゐ、ちょっと来なさい。これはどういうこと?」

「桃太郎なんて誰だって知ってるでしょ? だから、白紙の脚本を配って好き放題やってもらうことにしたのよ。さあ、話が進まないから先に進めましょ?」

 

  *  *  *  *  *

 

「よく考えたらおじいさんにも分けてあげないと可哀想ね。持って帰りましょう」

 

『おばあさんは少しかじってそう思い、桃を持って帰ることにしました』

 

「おや、随分と大きな桃ですね……って、おばあさんつまみ食いしたんですか……」

「だって美味しそうだったんですもの……」

 

『桃についた歯形を見て、おじいさんは呆れ顔です』

 

「まあいいです。折角ですし、食べることにしましょう。切り分けますので、少し下がってください。えいやっ!!」

 

『おじいさんはそういうと、腰に挿した日本刀を抜いて一息で桃を真っ二つにしました』

 

「……きゅう」

 

『すると、桃の中から窒息した子供(演者:涼)がぐったりとした状態で出てきました』

 

  *  *  *  *  *

 

「カットカット」

 

 輝夜は頭痛を抑えるように額に手を当てながら舞台を止めた。

 

「……なんかいきなり子供が死に掛かってるんだけど?」

「……空気穴を開けるの忘れてたかしら……」

 

 輝夜の問いかけに、てゐはそう呟いた。

 

「というより、あの桃どういう仕掛けになってるんだ?」

「お師匠様の薬で巨大化させた桃の中に、スキマ妖怪の力で桃太郎役を埋め込んだんだけど?」

「……なんという惨いことを……」

 

 てゐの涼に対するあまりに酷い仕打ちに、妹紅はほろりと涙をこぼす。

 その横から、輝夜がふとした疑問をこぼした。

 

「それはそうと、身動き取れない中でどうやってあの一撃を回避したの?」

「……さあ?」

 

 大きな疑問を残したまま、舞台は再開される。

 

  *  *  *  *  *

 

『半死半生で桃の中から出てきた子供は桃太郎と名づけられました』

 

「あら、まだこんなに残ってるじゃない。食べないんならもらうわよ、二人とも」

「ああ、それは拙者のおかず!」

「おばあさんが食べるのが速すぎるだけですよ、それは!」

 

『桃太郎は弱肉強食の食卓の中で逞しく育ち、立派な青年へと育ちました』

 

「お宝は頂いていくよ!」

「それじゃあ私は酒でももらおうか!」

「すみませんね、皆さん。では、失礼します」

 

『そんなある日のこと、鬼達(演者:萃香、勇儀)が大将(演者:伊里耶)に連れられて近くの村々を荒らしまわり、略奪の限りを尽くすようになりました』

 

「おじいさん……もうご飯がないわ……これもきっと鬼のせい……」

「むむむ……これは由々しき事態でござるな!」

「いや、家には鬼は来てませんよ? 単におばあさんが食べすぎなだけですからね?」

 

『桃太郎は我が家の食料事情に危機感を覚え、鬼達から食料を強奪するために立ち上がりました』

 

  *  *  *  *  *

 

「カットカットカット!」

 

 突如として舞台監督が声を上げる。

 

「どうしたの、輝夜ちゃん?」

「さっきからナレーションおかしくない!? 鬼から食料を強奪とか童話にあるまじき話じゃない!」

「だって普通にやってもつまんないよ♪ だったら、少しでも面白い方がいいでしょ♪」

「いや、そういう問題じゃないでしょ!?」

 

 まくし立てる輝夜に対して、愛梨は楽しそうにそう答える。

 頭をガシガシと掻き毟りながら愛梨に抗議する輝夜の肩を、てゐがぽんっと叩く。

 

「姫様……」

「な、何よ?」

「気にしたら負けよ♪」

 

 釈然としない表情の輝夜を他所に、舞台は再開する。

 

  *  *  *  *  *

 

「桃太郎、旅は辛いものになるでしょう。これをもっていきなさい……あれ?」

「ごちそうさま〜」

 

『おじいさんが桃太郎に持たせようと思っていたきび団子は、既におばあさんのお腹の中に納まっていました』

 

「おばあさん! 桃太郎に持たせる分のきび団子まで食べないでください!」

「あら、そうだったの? ごめんなさいね、だったら代わりにこのお団子をもっていきなさい」

 

『怒り心頭のおじいさんにおばあさんはなおざりに謝ると、おばあさんは台所から大きな包みを持ってきました』

 

「随分と大きくて重いでござるな?」

「それだけ大きなお団子なのよ。さあ、行ってらっしゃい」

 

『桃太郎はおばあさんからお団子の入った大きな包みを受け取ると、準備を始めました』

 

「では、行って来るでござる!」

「気をつけて行って来なさい」

「おみやげ宜しくね〜♪」

 

『おじいさんとおばあさんに見送られて、桃太郎は旅に出発します』

 

「おや、あれは?」

 

『しばらく歩いていくと、目の前にとても強そうな犬(演者:将志)が一匹現れました』

 

「……わんわん」

「……」

「……わ、わんわん」

「…………」

 

『………………』

 

  *  *  *  *  *

 

「ごめん、カット……ひー、ひー」

「ぷくく……わんわんって……あんたが言うと似合わないにもほどが……」

 

 輝夜は腹を抱えて笑いをこらえながらいったん舞台を止める。

 その横では同じように妹紅が必死で笑いをこらえていた。

 

「……ええい笑うな!」

 

 そんな二人に対して、将志は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

 

「……お兄様? 洒落にしてはいくらなんでも……」

「……うるさい、俺の脚本にはそういうように書いて……」

 

 六花に反論しようとすると、将志は視線に気がついてそちらに眼を向ける。

 するとそこには、呆然とした表情でジッと将志のことを眺める銀髪の初老の男がいた。

 

「…………」

「…………」

 

 無言で見つめあう二人。

 しばらくすると、アルバートは力なく首を横に振りながらその場から立ち去っていった。

 

「待て、アルバート! これは劇だ、普段からこんなことをしているわけでは……!」

 

 将志は大慌てでアルバートを追いかけていく。

 

「あはははは! もう最高〜!」

 

 その慌てふためく様子を、てゐは大笑いしながら眺めていた。

 

 しばらくしてがっくりとうなだれた将志が帰ってくると、舞台は再開される。

 

  *  *  *  *  *

 

『周囲の時を止めた犬の発言から帰ってきた桃太郎は、犬と話をすることにしました』

 

「……鬼退治に行くのか?」

「そうでござるが?」

「……そうか」

「そうだ、お団子をあげるからついて来てくれぬか?」

「……了承した。では、いただこう」

 

『桃太郎は背負っていた荷物を降ろし、包みを解きました』

 

「ふふふっ……さあ、召し上がれ♪」

 

『すると、包みの中から大きなお団子(演者:永琳)が出てきました』

 

「「………………ゑ」」

 

  *  *  *  *  *

 

「カット……カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットォ!!」

 

 輝夜はそう叫びながら手にしたメガホンを地面に叩き付けた。

 そして、舞台上の永琳に詰め寄った。

 

「ねえ、えーりん……貴方はいったい何をしているの?」

「何って、きび団子がなくなったからその代役をしているだけよ?」

「おかしいでしょ!? せめて食べ物で代用しなさいよ!」

 

 悪びれる様子もなく質問に答える永琳に、輝夜は頭を抱える。

 その横で、将志は脚本家に演技の相談をしていた。

 

「……てゐ。あの場合どうするのが正解なのだ?」

「そんなの、美味しくいただいちゃえばいいんだよ」

「やめんか! あんたはこの話を十八禁にするつもりか!?」

 

 混乱している将志にとんでもないことを吹き込もうとするてゐ。

 そんなてゐを妹紅が止めに入る。

 

「……きゅうう〜〜〜」

 

 その横で話を聞いていた紫が、何を想像したのか顔を茹蛸のように真っ赤に染め、眼を回して倒れた。

 

「紫様!? 話だけで気を失わないでください! どんだけ初心なんですか、貴女は!?」

 

 それを見て、藍は大慌てで紫を介抱するのであった。

 

 混沌とした空気を引きずりながら、舞台は再開される。

 

  *  *  *  *  *

 

『お団子に諭された犬は、桃太郎と一緒に旅をすることになりました』

 

「……歩きづらくはないか?」

「そんなことはないわよ。そんなことよりも、もう少し寄っても良いかしら?」

「……構わんぞ」

 

『お団子は犬とくっついて歩いていて、とても楽しそうです(羨ましいなぁ……)』

 

「あはははは……む、あれは……」

 

『海岸沿いをしばらく歩いていくと、今度は元気な猿(演者:アグナ)が出てきました』

 

「うっき〜♪ あんたが桃太郎か!?」

「そうでござるよ。猿殿は何をしているのでござるか?」

「それが腹減っちまってな……何か食いもん持ってねえか?」

「う……参ったでござるな……」

 

『食べ物を持っていない桃太郎は大いに困りました。すると、犬が猿に声をかけました』

 

「……猿。しばらく時間は掛かるがそれで良いのであれば食事を作ることは出来るぞ。どうする?」

「いいのか!? そんじゃ頼むわ!!」

 

『犬が食事を作ることを提案すると、猿は大喜びでその提案に乗りました』

 

「……承知した。少し待っていろ」

 

『犬は海に飛び込むと次から次へと槍で魚を取ってきて、早く食べられるように塩焼きにしました』

 

「ん〜うめぇ! ごちそうさま!!」

「よく食べたでござるな。ところで猿殿、一緒に鬼退治をして欲しいんでござるが……」

「おう、良いぜ! 宜しくな!!」

 

『お腹一杯ご飯を食べて大満足した猿は、桃太郎の鬼退治について行くことにしました』

 

  *  *  *  *  *

 

「はいカット」

 

 輝夜は話を止めると、体育座りをした。

 

「……何だろう、桃太郎の話で犬が海に飛び込んで漁をするのがまともなのかと言われたらそうじゃないのに、今までと比べるとまともだと思ってしまう私はおかしいの?」

「それに関しちゃ私も同意だよ。おかしいはずなのに、何でおかしいと思えないんだ……」

 

 輝夜と妹紅は二人して桃太郎と言う話を見つめなおす。

 そんな二人を、紫は苦笑いをしながら見つめていた。

 

「そもそも、犬が槍を持っている時点でおかしいと思うのだけど……」

「それ以前に団子が平然と喋って歩いていることの方が問題でしょう……くっ、こんなことなら、私が団子の役をしたというのに……」

 

 藍は悔しそうにそう呟いた。

 

 微妙な空気の中、舞台は再開される。

 

  *  *  *  *  *

 

「えへへ〜、兄ちゃん♪」

「……どうした?」

「うんにゃ、何でもねえ!!」

「寒くはないかしら、犬さん?」

「……いや、そこまでは寒くはないが……寒いのか?」

「ええ、私は少し寒いわ。だからもう少し寄らせてもらうわよ」

「ははは、犬殿はモテるでござるな〜」

 

『猿は犬の肩の上で楽しそうにはしゃいでいて、お団子は相変わらず犬にくっついて歩いています。桃太郎はそんな一行を苦笑いを浮かべながら見ていました』

 

「む? あそこに見えるのは……」

 

『しばらく進むと、目の前に酔いどれた雉(演者:天魔)を見つけました』

 

「ん〜? 何だ、貴様ら?」

「ああ、拙者は桃太郎と申すものでござるが……」

「あー、そう。まあ、とりあえず呑め」

「それでは、一杯だけいただくでござる」

 

『雉はそういうと桃太郎に向かって杯を差し出し、桃太郎はそれを飲みました』

 

「おお、良い呑みっぷりだな」

「かたじけのうござるよ。ところで折り入って相談があるんでござるが……」

「鬼退治だろう? 手伝ってやらなくはないが、少し腹が空いていてな」

 

『雉がそういうと、再び犬が前に出てきました』

 

「……ならば、俺が用意しよう」

「そうか……ならば用意してもらおうか、満漢全席」

 

『雉は意地の悪い笑みを浮かべながらそう言いました』

 

  *  *  *  *  *

 

「カット」

 

 輝夜は頭を抱えて話を止めた。

 そして、雉役の天魔のところに向かう。

 

「……冗談よね?」

「至って本気だが?」

「童話の中で鬼退治の対価に満漢全席なんて頼む奴は居ないわよ! 何を考えてるのよ!?」

「ふん、食いたいものを頼んで何が悪い。第一、鬼退治のような命をかけた行為を、たかがきび団子一つで引き受けることこそ狂気の沙汰だ。食べ物で釣るのならば、それこそ最後の晩餐の様なものでなければならんだろう?」

「これ演劇だから! 童話に現実を持ち込まない!!」

「だが断る」

 

 そうして天魔は輝夜の主張を一笑に付すのだった。

 

 輝夜に頭痛の種を植え付けたまま、舞台は再開される。

 

  *  *  *  *  *

 

「それで、どうするんだ?」

「……面白い。その挑戦、受けて立とう」

 

『雉の注文を聞いた瞬間、犬の料理人魂に火がつきました』

 

「……桃太郎、俺はしばらく旅に出る。その間、ここで待っていてくれ」

「私も犬さんについて行くわ」

「俺も一緒についてくぜ!!」

「あ、ちょっと!?」

 

『犬と猿とお団子は、そういうと桃太郎を置いてけぼりにして一目散に駆け出していきました』

 

「兄ちゃん、燕の巣ってこれで良いか?」

「……すまないが、それは質が悪い。出来るだけ白いものを頼む」

「交渉してきたわ。食材を分けてもらえることになったわよ」

「……火腿(フオトェイ:豚の腿をカビで発酵したもの)が手に入ったか。よし、次に行こう」

「兄ちゃん、サメ獲れた?」

「……ああ。フカヒレの分はこれで十分だ」

「犬さん、次は何を探しに行くのかしら?」

「……烏龍茶だ。最高の料理には最高の茶と酒が必要だ」

 

『犬達は世界中を駆け回り、満漢全席のための最高の食材を厳選しました』

 

  *  *  *  *  *

 

「……カット……」

 

 輝夜は手にしたメガホンを握りつぶしながら舞台を止めた。

 

「ねえ、これ桃太郎よね? 最高の満漢全席を作る料理番組じゃないわよね!?」

「……作るからには手を抜かん。ましてや、満漢全席ともなれば最高のものを作りたくなるではないか!」

 

 襟首を掴んで将志に詰め寄る輝夜。

 それに対して、将志は眼に炎を宿しながらそう張り切って答えた。

 

「な、何と言う料理人魂……本気すぎる……」

「というか、無駄に輝いてるわね……」

 

 そんな将志を見て、妹紅とてゐは呆れ半分でそう呟いた。

 

 無駄に闘志を燃やす料理馬鹿を止める者が現れないまま、舞台は再開される。

 

  *  *  *  *  *

 

「……どうだ。これが世界を回って集めた食材で作りあげた、最高の満漢全席だ」

 

『犬は自分の技術の全てを出し切って、注文の料理を完成させました。雉の目の前には、数え切れないほどの美味しそうな料理が並んでいます』

 

「ほう……完成させてきたか」

「……はへ〜……」

 

『雉は目の前にある料理を見て、感心しました。その横では、雉に酔い潰された桃太郎が寝転がっていました』

 

「……ふむ。では次に犬、貴様に食べさせてもらおうか」

「……何?」

 

『雉の突然の要求に、犬は首を傾げました。そんな犬に、雉は肩に手を回してしなだれかかります』

 

「死ぬかもしれない仕事を手伝うのだぞ? 協力者の願望を叶えてやるのが筋だろう?」

「……良いだろう」

「ああ、そうだ言い忘れていた。私に食べさせるときは、箸も手も一切使っては駄目だ。……どうすればいいか、分かるな?」

「……なん……だと……」

「分からないなら言ってやろう。口移しで食わせてみろ」

 

『雉はニヤニヤ笑いながらひたすらに相手の足元を見続けます。雉の無茶苦茶な要求に、犬は大慌てです』

 

「き、貴様はそれで良いのか!?」

「悪ければこんなことは言わないだろう。減るものでもなし、躊躇するものでもないと思うが?」

「大体何の目的でこんなことを要求するのだ!?」

「男が女を侍らせる様に、女だって男を侍らせてみたくなるものだ。今この場に男は貴様しか居ない。さあ、どうする?」

 

『雉がそう言って犬を困らせていると、犬をかばうように猿とお団子が前に出てきました』

 

「……おい、調子にのんなよ……?」

「……これ以上狼藉を働くのなら、私にも考えがあるわ」

「……おお、怖い怖い。ま、この程度にしておくか。そいつの困った顔は思う存分堪能できたしな」

 

『怒った猿とお団子を前にすると、雉は大人しく引き下がりました。どうやら犬をからかいたかっただけのようです』

 

「それで〜……どうするんでござるか〜?」

「こうして満漢全席も出されたことだし、満足するまで食ってから手伝うことにするさ」

 

『雉は目の前の満漢全席に舌鼓を打ちながらそう答えま「ご〜は〜ん〜!!」うわぁ!?』

 

  *  *  *  *  *

 

「カット! 誰かあの女をとめて!」

 

 輝夜はいきなり舞台に乱入した幽々子を止めるように周りに指示する。

 すると、真っ先に妖忌が幽々子の元へと走っていった。

 

「幽々子様! いくらお腹が空いたからって演劇中の舞台に突撃しないでください!」

「だって〜……あの将志が材料選びから本気で作った料理なんて食べないほうが無礼でしょ〜?」

「どうせ満漢全席なんて一人で食べきれる量じゃないんですから、場面が移るまでくらい我慢してくださいよ!」

「ちょ、ちょっと、引きずらないで!?」

 

 妖忌は舞台の上から幽々子を引きずって舞台袖に降りていった。

 

 気を取り直して、舞台を再開する。

 

  *  *  *  *  *

 

『満漢全席をおなかいっぱい食べた雉は、鬼退治について行くことにしました(食べ切れなかった分はスタッフが美味しくいただきました)』

 

「ん〜ここか? ここが良いのか?」

「っ……何処を触っているのだ、貴様は……」

「なに、暇だから貴様の弱点でも探ってやろうかと思ってな。ほら、次はここだ」

「うっ……止めんか、酔っ払いが!」

 

『犬は酔っ払った雉の執拗な逆セクハラに耐えながら旅を続けます』

 

「……なるほど……そこが弱いのね」

 

『お団子はその様子に興味津々です』

 

「なあ、兄ちゃんたちは何をしてんだ?」

「……知らなくていいことでござるよ」

 

『桃太郎は猿の視線をその光景から逸らしながら先に進みます。しばらくすると、鬼ヶ島が見える海岸に着きました』

 

「……あれが鬼ヶ島でござるか」

「舟があるな。これで行けっつーことか?」

「そのようでござるな。皆の衆、準備は良いでござるか?」

「……大丈夫だ、問題ない」

「私は大丈夫よ」

「へへっ、いつでもいいぜ!!」

「つべこべ言ってないでとっとと行くぞ」

「うむ、ではいざ行かん!」

 

『仲間の言葉に力強く頷くと、桃太郎は舟に乗って鬼ヶ島に向かいました』

 

「ふふふ、待ってたよ桃太郎!」

「早速だけど、私らと遊んでもらおうかね!」

 

『桃太郎が鬼ヶ島に着くと、早速鬼が戦いを挑んできました』

 

「……その前に、俺達と戦ってもらおうか」

「まさか、俺を仲間はずれにするなんてこたぁねえよな?」

「私も久々に暴れさせてもらうとしようか……覚悟はいいな、鬼共」

 

『すると鬼以上にやる気満々な桃太郎の仲間が鬼の前に出てきました。それを見て、出迎えた鬼は嬉しそうに笑います』

 

「良いねえ、そう来なくっちゃ。野郎共! 丁重にもてなしてやりな!!」

 

『鬼の一人が号令をかけると、たくさんの鬼達が桃太郎の仲間に向かっていきました』

 

「……遅い!」

「へっ、当たんねえよんなもん!!」

「温い……砕け散れ!」

 

「「「うぎゃあああああああああああああああ!?」」」

 

『犬と猿と雉は圧倒的武力で鬼達を片っ端から一方的に駆逐していきます。その様子は、ほとんど弱いものいじめみたいな雰囲気でした』

 

「ふふふ……皆さん、お強いですね」

「あ、大将」

 

『しばらくそうしていると、鬼の大将がやってきました。大将の登場に、桃太郎は気を引き締めました』

 

「さてと……お名前をお伺いしても宜しいですか?」

「……一つ、人の世の生血を啜り、二つ、不埒な悪行三昧、三つ、醜い浮世の鬼を退治してくれよう桃太郎。お主が大将でござるな? この桃太郎、お主達の横暴を決して許しはせぬぞ!」

 

  *  *  *  *  *

 

「カット」

 

 輝夜はこめかみを押さえながら舞台を止めた。

 

「……ねえ、その台詞怒られるんじゃないの? もろに某時代劇のパクリじゃないの」

「むう、そうなんでござるか?」

 

 輝夜に指摘されて、涼は残念そうにそう呟いた。

 そんな涼に妹紅が話しかける。

 

「というか、あんた全然戦ってないな……」

「……お師さん達が強すぎて、拙者の所まで敵が来れないんでござるよ……」

 

 将志にアグナに天魔。

 実際に戦うと、この三人は涼よりもはるかに強いのだ。

 この三人が前にいるせいで、涼と戦うはずの鬼までまとめて倒されてしまうのだった。

 

「藍さん、さっきからニヤニヤ笑ってどうかしたんですの?」

「なに、天魔は温いなと思ってな……私なら抵抗させる間もなく将志を沈められる。将志の弱点など知り尽くしているからな」

 

 藍はにやりと笑いながら六花にそう話す。

 それを聞いて、六花の眼がジト眼に変わる。

 

「……何処でそんなことを知ったんですの?」

「将志が風呂に入っている時に突撃して弄り倒した時だ。身体をあっちこっち弄られて悶える将志の姿はなかなかに来るものがあったぞ」

「……貴女は本当に何をしてるんですの……と言うか、セクハラで張り合わないでくださいまし」

 

 六花はそういうと、盛大にため息をつくのだった。

 

 なんやかんやで、再び舞台は動き出す。

 

  *  *  *  *  *

 

『桃太郎の名乗りを聞いて、鬼の大将は楽しそうに笑いました』

 

「桃太郎さんですか……貴女と戦うのもいいですけど……」

「ちょっと待った! 桃太郎とは私が戦うの!」

「何言ってるんだい、先に私が戦うのさ!」

 

『大将が桃太郎と話している横で、二匹の鬼はどっちが桃太郎と戦うのかで揉めていました』

 

「……とまあ、貴女は順番待ちのようですし、他を当たりますよ。ちょうど気になる人も居ますし」

「あ、待つでござる!」

「行かせないよ! まずは私が相手よ!」

「く〜っ! この賽の目が……」

 

『桃太郎の目の前には二匹の鬼が立ちはだかり、鬼の大将は別のところに行きます。大将が向かった先は、犬のところでした』

 

「こんにちは、犬さん」

「……お前が大将か」

「はい……ふふふ……」

 

『鬼の大将を前に構える犬でしたが、大将は攻撃してくるわけでもなく笑っていました』

 

「……何がおかしい?」

「いいえ、貴方をどう責め落とせばいいのかを考えていたんですよ」

「……おい、何か今「せめおとす」の部分に不穏な感じがしたのは気のせいか?」

「話は聞かせてもらった、協力しよう」

 

『犬と鬼の大将が話をしていると、雉が話に割り込んできました』

 

「いいか、私が今まで試したのは首と脇と……」

「あ、じゃあまだ耳とかはやっていないんですね」

「それで、貴様は犬をどう弄るつもりなのだ?」

「無論、食べます。もちろん性的な意味で」

「よし、協力しよう。まずは弱点を徹底的に洗い出すとしよう」

 

『雉は鬼の大将と一緒に、犬の弄り方を考え始めました』

 

「雉ぃぃぃぃぃぃ! 貴様、裏切るつもりか!?」

「裏切る? 違うな、私は常に自分の信条に沿って行動している」

「……信条だと?」

「常に面白いほうに付く!」

「ふざけるな!」

 

『フリーダムな雉の行動に、犬は爆発寸前です』

 

  *  *  *  *  *

 

「Cut, ……life led break down, beckon for the fiction! ……駄作!!!」

 

 一連の流れに、輝夜が握り締めたメガホンを木っ端微塵に粉砕しながら舞台を止める。

 輝夜は手から砕け散ったメガホンの欠片をパラパラとこぼしながら伊里耶と天魔のところへと向かう。

 

「ねえ、あんたたちこれが童話だってこと理解してんでしょうね?」

「はい、桃太郎ですよね?」

「その時点で十分すぎるほどに童話だな」

 

 輝夜の質問に、伊里耶と天魔はそう言って頷いた。

 

「だったら何で将志の弱点だの性的な意味で食べるだなんて言葉が出てくるのよ!?」

「あの、舞台の上では流石にしませんよ? 舞台袖に降りてからじっくり味わうつもりですのでそこは安心してください」

「そういう問題じゃなーい! 童話なんだからそういう言葉も自重しなさい!! いいわね!?」

 

 見当違いなことを言う伊里耶を、輝夜は思いっきり叱りつけた。

 そんな輝夜の言葉に、天魔はため息をつきながら肩をすくめる。

 

「全く、注文の多い監督だな……」

「あんたらがフリーダム過ぎるのが原因でしょうがぁーーーーーー!!!!」

 

 天魔の言葉に、輝夜は地団駄を踏みながら大声で叫んだ。

 

 監督大荒れのまま、舞台は再開される。

 

  *  *  *  *  *

 

「さて、覚悟はいいか、犬?」

「ふふふ……可愛がってあげますよ、わんちゃん?」

「……っ」

 

『ジリジリと迫ってくる雉と鬼の大将に、犬は大ピンチになりました』

 

「大丈夫よ、犬さん。私がついてるわ」

 

『そんな犬を、お団子が後ろから抱きしめてそう言いました』

 

「……団子……ああ、頼む。背中は任せたぞ」

「ええ……さあ、早く終わらせましょう?」

 

『犬とお団子は力をあわせて鬼達と戦うことにしました』

 

「そらっ、おりゃ!」

「うわああああああ!」

「へっへ〜、二十人抜き達成! 次はどいつだ!?」

 

『犬達が激闘を繰り広げている横で、猿は鬼を相手に何人倒せるか腕試しをしていました。猿の周りには負けた鬼達が累々と転がっています』

 

「お姉さまぁ〜!」

「はぶぅ!?」

 

『そんな猿に、鬼にさらわれていた女の子(演者:ルーミア)が飛びついてきました』

 

「ぐう〜!」

 

『猿は鳩尾に女の子の頭が入ったみたいで、苦しそうです』

 

「た、大変!? お姉さま、今お持ちk……手当てをするわ!!」

 

『女の子は猿を抱きかかえると、そのままどこかへ走り去っていきました』

 

  *  *  *  *  *

 

「……ちょっとカット」

 

 輝夜は疲れ果てた表情で舞台を止める。

 そして、脚本家の方に眼を向けた。

 

「ねえ、これどう収拾つけるの? 話がもうグッダグダなんだけど?」

「はあ……仕方がないなぁ……こうなったら秘密兵器を出すしかないわね」

 

 てゐはそういうと、なにやら人型のものを取り出した。

 

「……あの、それ何?」

「某所から借りてきたキ○グ・クリム○ン。それじゃ、ちゃちゃっと仕事してくるわ」

 

 そうして全ての過程が消し飛び、結果だけが残された。

 

  *  *  *  *  *

 

『それから色々あって、桃太郎は無事鬼退治を終えることが出来ました』

 

「……主と呼ばせてくれないか?」

「ええ、喜んで。これからも宜しく頼むわよ」

 

『犬はお団子を仕えるべき主と認めて、一緒に旅に出ました。二人はいつも一緒で、とても幸せそうです』

 

「お姉さまぁ〜!」

「だぁ〜! いつも出会い頭に飛びつくなっつってんだろ!!」

 

『猿は助けた女の子と一緒に暮らすようになりました。色々気苦労は絶えないようですが、毎日楽しそうです』

 

「それで、今日は何をするつもりだ?」

「そうですね……いいお酒が手に入ったので、一緒に呑みませんか?」

 

『雉は鬼の大将と意気投合して、鬼ヶ島で暮らすようになりました。毎日やりたい放題で来て、とても満足そうです』

 

「ただいま帰ったでござる!」

「おお、お帰りなさい。無事で何よりです」

「おみやげはあるのかしら?」

「うむ! これで当分の間は食事に困らないでござる!!」

 

『そして、桃太郎は鬼にたくさんの宝物を持たされて帰ってきました』

 

「……ところで、後ろの人はどちら様で?」

「……あ〜……何と申したらいいでござるか……」

「鬼ヶ島からやってきました〜♪」

「これからよろしく頼むよ!」

 

『……二匹の鬼と一緒に。めでたしめでたし』

 

  *  *  *  *  *

 

「はい、これでお話は終わりだよ♪ みんな、聞いてくれてありがとー♪」

「……一つだけ、思ったんだけど良い?」

「ん? 何かな?」

 

 疲れた表情の輝夜の言葉に、愛梨は耳を傾ける。

 

「あんた達、やりたい放題したかっただけでしょ?」

「キャハハ☆ そうかもね♪」

 

 そう話す愛梨の顔は、とても楽しそうな笑顔だった。

説明
この話は、『銀の槍のつらぬく道』本編には全く関係ございません。
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コメント
当時のきびや粟は米の代わりに食べられる、農民の大切な食料でした。しかし、それをもらったからと言って命をかけられるかと言うと……(F1チェイサー)
…遣りたい放題、滅茶苦茶な桃太郎、開幕!…しかしてゐよ、それは脚本と言わない。…永琳が演じる巨大団子って、顔・手・足が出るだけの球体着ぐるみ?因みに、「きび」は現代だと鳥の餌でしか無いので、天魔の言い分にも一理はあるな。…しかし、まだ紅魔館も幻想入りしてないし、八雲家にも橙が居なかったりで、メンツが少なくてちょっと淋しいかも?(クラスター・ジャドウ)
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