Fate/anotherside saga 〜ドラゴンラージャ〜 第九話『森の読書家』
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才能を疑い出すのがまさしく才能のあかしなんだよ。

――ホフマン

 

 

 

 

 

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「ここがそうかな?」

「うむ、そうであろうな。このような森の中に家を建てる者はそう多くはあるまい」

 

 

俺達は森のはずれの空き地にポツンと建っている家を見ながらそう話す。

俺とネロは今、ヘルタントの村から少し離れたところにある森に来ている。

どうしてこんなところに来ているかと言うと、この森のはずれに住んでいる人物にぜひ会うようヘルタント子爵に勧められたからだ。

何でもここに住んでいるカールという人物はとても博識で思量深いため、必ず俺達の役に立ってくれるという話だった。

 

 

『そのカールと言う人はそんなに頭がいいんですか?』

『ああ。私などあいつの足元にも及ばないだろうな』

『領主さまより、ですか?』

『それに信用できる男だ。君達の話を聞いても誰にも漏らさないだろうし、悪用することもあるまい。大丈夫だ、私が保障する』

『わかりました。領主さまがそこまで言うなら信用できる人なんでしょう。その人にも事情を説明して力を貸してもらいます』

 

 

というわけで、俺はネロといっしょにヘルタント城からその人物が住んでいると思われる家まで直接来てみたということだ。

 

 

「それじゃ。とりあえずノックをしてみるか」

 

 

家の前にいてもらちが明かないので、扉を二、三度軽くノックする。

すると中から軽く物音がした後、扉が開いた。

 

 

「おや、どなたかな? 見たところ、ここの村の人ではないようだが……」

 

 

中から出てきたのは、中肉中背の中年の男だった。

茶色の髪に人のよさそうな顔をしていて、どことなく特徴のない平凡な顔つきをしている。

隣のネロが首をかしげている。

たぶん、この人がヘルタント子爵が推すほどの頭のいい人物なのかどうか考えているのだろう。

 

 

「あなたがカールさんですか?」

「ああ。たしかに私がカールだが……。君達は一体?」

「俺は今日からヘルタントに住むことになったタクト・コノエと言います。こっちはネロ・クラウディウス」

「うむ、よろしくな」

「実はある人よりカールさんは聡明で色々なことを知っているから、ここのことについて教えてもらえばいい、と勧められまして。それで、突然ですがこうやって押しかけてきたんです」

「ははは、悪い気分ではないが、私はそこまで大した人物ではないよ。……しかし、一体誰がそんな大げさなことを言ったんだい?」

 

 

カールは俺の言葉に苦笑したが、そこで不思議そうに首をひねった。

俺はカールの眼をしっかりと見ながら答えた。

 

 

 

 

「あなたのお兄さんです、カールさん」

 

 

 

 

思いがけない言葉にカールは目を軽く見開く。

彼、カール・ヘルタントはヘルタント子爵の弟だ。

もっともカールの母親は城の下女――メイドだったらしく、ヘルタント子爵とは異母兄弟の関係にある。

そういった自分の出自から、カールは昔から領主の地位などにはあまり関心がなく、若いころにヘルタントを旅立って様々なところを放浪していたらしい。

カールがヘルタントに帰ってきたあと、ヘルタント子爵は彼を城で暮らせるようにしようとしたらしいがカールはそれを断った。

代わりにカールは森で静かに暮らせるように頼み、ヘルタント子爵はその願いを承諾した。

それ以来、カールは税などを免除され、この家で読書生活を送っているらしい。

 

 

「ふむ……どうやら何か事情があるようだね。わかった。とりあえず上がりたまえ」

 

 

カールに促されて、家の中に入る。

部屋の中央にはテーブルが一つ置いてあり、その上にはロウソクが立ててある。

壁際には本棚があるが、どう見ても本よりも酒瓶の方が多く置いてある。

本の多くは部屋の床やベットの上に散らかっている。

……一日中、本を読んでいる証拠だろう。

カールはイスを二つ部屋の隅から取ってくると俺とネロに座るように勧め、自分も別のイスに座る。

それに従って俺達がイスに腰を下ろすのを見ると、カールはまじめな表情で話を始める。

 

 

「口の堅い兄上が私との関係を話してまで君達をここに寄こしたんだ。何やら並々ならぬ事情があるようだね?」

「はい」

「まずは君達の事を話してくれないかな? そうでないと、こちらとしても力の貸しようがないからね」

 

 

カールはそう言って軽く微笑む。

たぶん、こちらが緊張しないように配慮してくれたんだろう。

 

 

「……今からする話は、はっきり言って信じられないような話です」

「信じるか、信じないかは話を聞いた後に聞き手が決めることだ。君は何の心配もしないで堂々と話すといい」

 

 

俺は少しだけためらったあと、意を決して月での戦いのことを話した。

 

 

 

 

 

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話が終わったときには窓から差し込んでくる春の日差しはだいぶ傾いていた。

一息着いてから、カールのついでくれた水を飲んでのどの渇きを癒す。

長話を何度もしたせいで、のどが焼けつくように痛い。

 

 

「……なるほど。別の世界に、((過去の英霊|サーヴァント))、聖杯か…………。確かに、にわかには信じがたい話だが……………」

 

 

難しい顔で考え込むカールを見て俺も緊張する。

ヘルタント子爵は大丈夫だと言っていたが、やっぱり心配なものは心配なのだ。

 

 

「安心したまえ、コノエくん。兄上がそうだったように、私も君のその突拍子もない話を信じよう」

「そんな簡単に信じられるものなんですか? あなた方の常識を完全に無視したような話なのに」

「そうだな……。確かに、普通なら信じることは難しいだろうな。だがこの大陸にはフェアリーと呼ばれる種族がいる」

「((妖精|フェアリー))?」

「ああ。彼らには次元、つまり時間と空間を自由に渡り歩く力があると、昔聞いたことがある。その時はよく理解することができなかったが、今の君の話を聞いて確信した。君の言う異世界というのは、こことは違う次元にある世界ということでいいのではないかな?」

「そう、ですね。たぶんそうだと思います。さっきも言いましたが、俺自身も別の世界があるって知ったのは、最近……というより、今朝の事でしたから」

 

 

俺がそう言うと、カールはにっこりと笑った。

 

 

「ほら、ご覧。君はさっき自分の話を『常識を無視した話』と言ったが、実際にはこの世界の常識とも十分繋がっているではないか」

「あ……」

「それに、私にはどうしても君がウソを言っているようには見えないんだよ。私はほんの少し前に会ったばかりだが、それでも君が平然とウソをつけるような人でないことくらいはわかるつもりだ」

 

 

……俺って、そんなにウソが付けないように見えるんだろうか?

いいことかもしれないけど、ちょっとショックだぞ?

って、そんなことはどうでもいいか。

 

 

「ということは、カールさんも俺の話を信じてくれるんですね?」

「ああ」

「なんというか……その……ありがとうございます」

「はは。お礼などする必要がないだろう。私も君の今の話でずいぶんと視野が広がった気がするよ。むしろこっちがお礼を言いたいほどだ」

 

 

なんだかカールの今の言い方、ヘルタント子爵に似ている気がする。

やっぱり兄弟ってことかな?

 

 

「しかし、君の話はわかったが、兄上はどうして私のところに君を行かせたんだい? 私はしがいないただの読書家。君の力になれるとは思えないのだが」

 

 

カールは少し困ったように言う。

 

 

「いえ。領主さまはカールが一番適任していると言っていました」

「私がかい?」

「はい。あの、実はお願いがあるんですが……」

「年長者に頼るのは若者の特権だよ。私にできることならば微力ながら力になろうじゃないか」

 

 

カールがにっこりと笑って言う。

俺は少しだけためらってから、その要件を話す。

 

 

「俺に……この世界のことを教えてくれませんか?」

「この世界のことを?」

 

 

予想していた用件とは違ったのか、カールが不思議そうに首をひねる。

 

 

「はい……。俺とネロは今日初めてこの世界にやってきました。だからこの世界の歴史とか常識とかが全く分からないんです」

「なるほど、それで兄上は私のところに君を行かせたのか」

 

 

カールが納得したように頷く。

めがみもまるで教えてくれなかったので、俺はこの世界のことをまるで知らない。

異世界というが、俺にはこの世界と前の世界とがどう違うのかもわかっていない。

しかし、この世界で生きていくには必要最低限の情報ぐらいは知っておかないといけない。

歴史や地名ぐらいなら知らなくてもバカだと思われるぐらいだが、一般常識まで知らないとなると色々とまずいことになってくる。

しかし、常識とはみんなが当たり前に知っているから常識なのだ。

俺の事情を知らない人から教えてもらうわけにもいかない。

領主さまやハーメル執事から教えてもらってもよかったが、あの二人は普段の仕事が忙しく、とても俺一人に構っていられない。

そこで、領主さまは信頼できる((異母弟|おとうと))であるカールに俺の事情を説明して、この世界の事を教えてもらうように勧めてくれたのだ。

それにカールは若いころにこの世界のあちこちを旅していたから、普通の人よりも多くの事を知っている。

まさに教師としては最適の人物なのだ。

 

 

「わかった。非才の身である私にどれだけの事を教えられるかわからないが、できるだけの事はすると約束しよう」

「ありがとうございます、カールさん」

「カールでいいよ、コノエくん。私としてもそっちのほうが気兼ねしなくていい」

「……わかりました、カール」

 

 

俺とカールはお互いに微笑み合うが、ふと思い出したようにカールが困ったような表情になる。

 

 

「ところでコノエくん。隣で寝ているクラウディウス嬢をそろそろ起こしてあげるべきではないかな?」

「へ?」

 

 

カールの言葉に驚いて隣を見ると、ネロがイスに座ったままスヤスヤと寝息を立てていた。

さっきから妙に静かだからおかしいとは思っていたけど、まさか眠てたなんてな……。

ネロのかわいい寝顔を見ながら苦笑する。

 

 

「おーい、ネロ。起きろ。こんなところで眠ったら、ダメだろー」

「……むうぅ。……奏者よ……もう、少しだけ……。……くぅー」

 

 

……だめだ。

ネロ、完全におやすみモードだ。

これじゃあ、中々起きないぞ……。

 

 

「はは。仕方ないな」

 

 

今日はネロもオーガと戦って疲れているんだろう。

そもそもネロにとっても、この世界は異世界なんだ。

もしかしたら、精神的にもけっこう疲れているのかもしれない。

肩をすくめて、カールを見る。

 

 

「すみません、カール。ネロも疲れているみたいですから、もう少しだけここで寝させてくれませんか?」

「構わないよ。そうだ、コノエくん。きみはまだ住む家も決まっていないのだろう? よければしばらくの間、私の家に泊まっていかないかい」

「えっ……いいんですか?」

「ああ。見てもわかるように私は今一人暮らしだからね、若者二人ぐらいを泊めるスペースぐらいは残っているよ。もちろん君が迷惑だと思うのなら無理にとは言わないが」

「いえ、迷惑なんかじゃありませんよ。助かります、カール」

 

 

カールに頭を下げて、お礼を言う。

外の景色はいつの間にかずいぶんと赤くなっていた。

窓から差し込む夕日が、寝ているネロの顔を赤く染める。

ネロはまぶしいのかときどき顔をしかめたりするが、それでも幸せそうに寝息を立てている。

その顔を見て思わず微笑む。

 

 

そのとき、ノックの音が聞こえてきた。

 

 

 

 

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あとがき

というわけで、自称読書家、他称大毒舌家のカールさんの登場です。

何も知らない拓斗とネロはこれからカールにみっちり絞られながらドラゴンラージャの世界の常識や知識を身につけることになります。

仕方ないとはいえ、EXTRA世界の常識を凛やネロに教えてもらって、ドラゴンラージャ世界の常識をカールに教えてもらう拓斗……。

異世界(記憶なし)主人公の宿命ですね!(キリ)

 

では、また次回お会いしましょう。

(最近珍しく暇な)メガネオオカミでした。

 

説明
今までの亀更新が嘘のように二日連続投稿です!
暇がある今のうちに投稿しておかなければ……!

今回の内容はタイトル通り。
原作でも重要なキャラであるあの方の登場です。

というわけで、第九話『森の読書家』。
お楽しみいただけたら幸いです(^^)
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コメント
kuorumu様>おお、いい推察です! 答えは次回の本編でwww(メガネオオカミ)
ふむ、最後のノックは誰だろう。時間的にも気軽に来れるのはフチぐらいか? ジェミニは単独では来ないし。でも他の知らない人物って可能性もあるな・・・(kuorumu)
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Fate Fate/EXTRA ドラゴンラージャ クロスオーバー 男主人公 赤セイバー カール ヘルタント ドラゴンラージャ一優秀な講師かも? 

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