インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#96
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キャノンボール・ファスト、専用機の部は荒れに荒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――主に、コースが。

 

 

 

物理的破損の意味で。

 

 

…と言うのも、最初の簪のミサイル掃射に触発されて((爆破魔|ボマー))化した二人がドッカンドッカンやりまくる為である。

 

具体的に言えばラファール・リヴァイヴ用高機動パッケージ『フウァール・ウィンド』を装備して機体各所に増設したランチャーからミサイルをばら撒きまくる『ラファール・オーキス』と破壊力よりも範囲を取ったクリア・パッションでの広域爆破を繰り返す『ミステリアス・レイディ』―――つまるところのシャルロットと楯無の二人である。

 

 

それだけでも十分に凄惨な事になると言うのに対抗しようとする面々が加わって最早手が付けられない。

 

 

ばら撒かれるミサイルとナノマシンが引き起こす数多の爆発。

それらを吹き飛ばそうとする衝撃砲やショット・ガンの散弾。

 

時々飛び交う大型((擲弾|グレネード))や((噴進|ロケット))弾。

 

ここぞというタイミングで展開されるAICやレーザーライフルでの狙撃による足止め。

 

 

それらによって『勝負が決まりそうになる度に仕切り直し』が繰り返され、二年訓練機の部以上に白熱した(別の意味で燃え上がっても居る)試合に観客は沸き立っていた。

 

一部、主にその惨状を目に溜め息をつく人たちも居ない訳ではないのだが。

 

溜め息の種類は主に三種類あり、具体的に挙げると自信をなくしかけている警備中の自衛隊IS操縦者に『誰に影響されたのやら…』と某副担任をチラ見する同僚&教え子コンビ、あとは『施設修繕費が幾らになるのやら…』と頭を抱える市の職員である。

 

――――大爆発。

 

ラファールの放ったミサイルがクリア・パッションに誘爆して起こった爆発に観客の声援が一層強まったのはその時だった。

 

 * * *

 

青木ヶ原樹海。

 

富士山の北西に広がる三十平方キロメートルに渡って広がる、過去の噴火の際の溶岩の上に出来た針葉樹・広葉樹の混合林だ。

その成り立ちから、数多くの洞穴、溶岩洞が多数ある。

 

―――その中の一つに、爆破された支社長室からの脱出を果たしたスコールとオータムは居た。

 

「オータム………」

 

自責の念がこもった呟きをこぼしながらスコールは傍らに寝かせているオータムに視線を落とす。

 

熱にうなされるような浅い呼吸。

ところどころが紅く染まった部分のある包帯が何とも痛々しい。

 

――爆破と逃避行はオータムに軽くは無い傷を負わせていた。

 

「ここにある物資も限界。次のポイントに移動しないと…」

 

今、スコールとオータムが身を隠している洞穴は『念の為』と医薬品やちょっとした食糧を隠しておいた場所だ。

同時に身を隠す場所としての意味も持っているが、あくまで『緊急避難用』であり長期滞在は考えられていない。

 

リスク回避の為に分散させてある物資を集めながら救援を待つためであり長期戦は端から考えていないのだ。

 

それに、今現在彼女らが身を置いている状態は想定されている物では無い。

 

オータムがISを喪っている、エムが撃墜されて行方不明になっている、救援の手立てがない、そもそもで味方だったハズの組織が敵に回っている。

 

前者二つはあり得る事ではあるが最後の一つが致命的だった。

 

「ッ、!」

 

不意に聞こえた『機械の駆動音』にスコールは身を強張らせる。

 

救援は無い。

味方も無い。

捜索なんて機械音がする以前の問題だ。

 

 

こんな辺鄙な場所に現れる『機械音』など追手のIS以外に考えられなかった。

 

(絶体絶命、だな。)

 

ISにダメージを与え一撃で戦闘不能に出来るような武器など、無いのだから。

 

それ以前に、人間の反応速度は機械の、ゴーレムの反応速度には遠く劣る。

余程の奇襲でもしない限りは反撃でやられるのがオチだろう。

 

 

だが、スコールはただ黙って始末される心づもりなど欠片も無かった。

 

少しづつ近づいてくる駆動音に身構え、腕を引き―――――

 

「スコール、オータム、無――」

 

現れた『ソレ』に、踏み切り飛びかかると同時に量子転送した右腕の大型ランスを叩き込む。

 

ギャリっ―――

 

金属のこすれる音。

 

スコールは自分の一撃がいなされた事に気付くとすぐさまランスごと右腕を転送し、今度は残弾少ないアサルトライフルを握った左腕を展開する。

 

相手を確認する事も無く、躊躇う事もなく引き金を引く。

 

デュノア社製アサルトライフル『ガルム』に比べると旧式である為に性能は劣る。

しかし改造され炸薬量が増やされた強装弾ならばダメージくらいは与えられる筈だ。

 

出し惜しみは無しに引き金を引き続ける。

 

「うぉあッ!?」

 

ギャリギャリと金属装甲を削るような音にスコールは命中を確信し―――

 

「えっ!?」

 

 

 

足元にあった『ナニカ』に足をひっかけて盛大にずっこけた。

 

それはもう、『どんがらがっしゃーん』と効果音が聞こえてきそうな位に。

 

幸い、と言ってはなんだが転んだ際のダメージは機体が受け止めてくれた為に怪我は無いがエネルギーを使い果たしてしまった為に強制解除され、そのまま少しばかり茂みになっている場所に突っ込んだスコール。

 

 

「痛たた……くそ、ここまでか。」

 

悪態をつきながら、せめて追手の顔くらい拝んでやろうと振り返って―――――目が合った。

 

 

 

鋼鉄の戦女神―――ゴーレムIIIの表情のない顔と。

 

それを見て、『ああ、これまでか』と諦観に至ったスコールだったが、良く見るとそのゴーレムがおかしい事に気が付いた。

 

 

 

一つ目。

カメラアイを保護するバイザー型カバーが破損している。

――これは先ほどのスコールの射撃の成果だろう。

 

二つ目。

胸にあたる部分が大きくへこんでいる。

――これも最初のランスの一撃を避けた時に掠ったかしたならば判らない話では無い。

 

三つめ。

何故か沈黙しているセンサーアイ。

 

四つ目。

いっこうに止めを刺そうとしない。

 

 

そして、その全ての答えが集約された五つ目の『異変』に気付いた時―――

 

「―――はぁ、助けに来て殺されかけるなんて、来ない方が良かったのか?」

 

そう、聞き慣れた声とともに、スコールを見つめていたゴーレムが―――正確にはその上半身が投げ捨てられてその背後に隠れていた『モノ』が露わになった。

 

そこに居たのは、『蒼いIS』。

 

そして、その操縦者は―――――

 

「エム、なのか…?」

 

「私以外の誰かに見えるなら、眼科に行った方がいいんじゃないか?」

 

憎まれ口を叩くエム。

 

その姿にスコールは思わず溢れそうになった『熱いナニカ』をぐっと押しとどめる。

 

「その機体は…?」

 

「ああ、これは―――っと、今はこんな話をしている場合じゃ無いな。スコール、オータムは?」

答えようとしたエムだったが、思い出したかのように中断し訊ね返す。

 

「――ッ、ああ。そこの洞穴の奥に寝かせている。」

 

「寝かせてるって…大丈夫なのか?」

 

「一応、手当てはした。…出来ればしっかりとした施設で治療してやりたいが…」

 

溢れそうになる何かに耐えながらスコールはエムの問いに淡々と答える。

 

「判った。すぐに移動しよう。」

 

「だが―――」

 

逃げる先が無い。

 

そう言おうとするが、

 

「大丈夫だ。アテはある。」

 

そう、自信満々に言うエムの姿に言えなくなってしまう。

 

(元々、八方ふさがりだったのだ。藁にでも縋ってやる。)

 

エムが誰かに洗脳されていたり、別の誰かが擬態しているとしたらそれまでだが、元より『出来る事』が無いスコールは大人しくエムに従う事にした。

 

説明
#96:舞い戻る風、再動する風


なんだかマドカさんが主人公化しつつある今日この頃。
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