銀の槍、拾い者をする
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 どこまでも続く竹林の中を、銀の槍を背負った男が歩く。

 その男、槍ヶ岳 将志の足取りは心なしか軽く、どことなく早足であった。

 

「……さて、今日はどのような罠の構成なのだろうか……」

 

 将志は目的地である永遠亭の前にいつも仕掛けられている罠に考えをめぐらせる。

 いつも罠を仕掛けてくる兎の少女の長きに渡る挑戦は、全て将志に軍配が上がっている。

 それを受けて、てゐは何とかして将志を罠にかけようと罠を試行錯誤し、段々と難易度の高い罠の設置を行ってきている。

 将志は毎回永遠亭を訪れるたびに、密かにそれを掻い潜ることを楽しみにしているのだった。

 

「……む?」

 

 ところが、この日は少し様子が違った。

 目の前の道には大量の石が散乱していて、何かが爆発したような後があり、更にその奥には大きな穴が口をあけていた。

 どうやら先に罠に掛かった不幸な者がいるらしかった。

 

「……妹紅か?」

 

 将志は普段てゐの罠に酷い目に遭わされている少女の名を呟きながら、落とし穴を覗いた。

 すると中には崩れてきたと思われる土砂から、天に向かって突き出した二本の脚が生えていた。

 

「……いったいなんだと言うのだ……」

 

 将志はそう呟くと落とし穴の中に降り、土砂を掘り返した。

 すると、中から見慣れない人物が現れた。その頭にはウサギの耳が生えていた。

 

「……む?」

 

 そんな見覚えのない少女を見て、将志は何かが引っかかった。

 どこかでこの少女の服装を見たような気がする。将志は何となくそんな気がした。

 

「……いずれにせよ、ここに放っておくわけにはいかんな。兎のことなら、てゐが把握しているだろう」

 

 将志はそう言うと気絶している少女を抱き上げ、一度永遠亭に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 将志は少女を抱いたまま罠を掻い潜り、永遠亭へとたどり着く。

 するとまず出迎えたのはてゐだった。

 

「……なぁ〜んだ、掛かったのはあんたじゃなかったのか……」

「……はははっ、残念だったな」

 

 罠に掛かったのが将志ではないと知るや否や、てゐはがっくりと肩を落とす。

 そんなてゐに、将志は笑いかけた。その様子を、てゐはつまらなさそうな表情で見つめる。

 

「というか、その子を抱きかかえたまま罠を突破してきたわけ?」

「……まあ、そういうことになるな」

「……今度から罠の前に赤ワインを注いだワイングラスを用意しておくわ」

 

 てゐは投げやりな声でそう言って頬を膨らませた。そんなてゐに将志は質問を投げかける。

 

「……ところで、この娘はどうすれば良い?」

「ん? この子、うちの兎じゃないわよ? 大体ここの兎達には罠の場所は教えてあるし、余程の事が無いと掛かんないもの」

「……ということは、どこかから迷い込んできたということか」

「そうなるね。とりあえず、お師匠様のところへ行ってみたら? この子は私が預かるわ」

「……頼む」

 

 将志はそういうと、少女を抱えたまま兎達の部屋へと向かうことにした。少女を個室の寝台に寝かせると、将志は奥にある居間へと足を運ぶ。

 するとそこには暇をもてあましている輝夜が寝転がっていた。

 

「あら、もう来たの? 今日は随分と早いわね」

 

 将志がやってくると、輝夜は体を起こしてそのほうを向いた。

 一方の将志はその正面に座り、背負った槍を脇に置く。

 

「……今日は休みの日だからな。本来ならば仕事はあるのだが、全て愛梨や六花に取られてしまったよ」

「そういえば、普段将志はどんな仕事をしているの?」

「……基本的には対外関係の仕事が一番多いだろうな。他の組織の情報や部下達が持ってきた情報をまとめ、それを踏まえて警邏のルートの変更や人事の再編等をするのが主な仕事だな」

「意外と事務的な仕事なのね」

「……どこの組織も上層部は似たようなものだ。部下をまとめるとなると重要になってくるのは情報だ。それを処理するとなれば、必然的に事務的なものになるだろう」

「体を張った仕事はしないの?」

「……いや、することはするぞ? 幹部で集まって合同で稽古会を行うこともあるし、俺自身が警邏に出ることもある。下からの情報を鵜呑みにするのは危険だから、重要だと思うことは自らの眼で確かめるのだ。特にうちの組織の仕事は場合によっては大事件に発展しかねないからな、そこは慎重にならねばならん」

 

 二人が話していると、人がやってくる気配がした。

 将志がその気配に振り向くと、そこには紺と赤で染められた服を着ている己が主の姿があった。

 

「将志、ちょっと良いかしら?」

「……主か。どうかしたのか?」

「あなたが拾ってきた兎のことなのだけど……あの子、月兎よ」

 

 固い表情を浮かべながら永琳は将志にそう告げる。

 それを聞いて、将志は顔をしかめた。その纏う空気が剣呑なものになり、思わず槍に手が掛かる。

 

「……何だと? 追手である可能性は?」

「分からない。今はてゐが容態を見ているわ。とにかく、あの子が目を覚まして事情を聞くまでは私達は会うわけには行かないわ。場合によっては、あの子を追い出すなり何なりしなくてはならないわよ」

「……俺はどうすれば良い?」

「将志もここに残ってなさい。あなたも月の人間から見れば何が何でも捜し出したい人物なのよ? あなたの存在が知られれば間違いなく確保に乗り出すでしょうね。あの子の目が覚めたら呼ぶように言ってあるから、話を聞きにいくわよ」

「……了解した」

 

 こうして、将志は永琳と輝夜と共に月兎の少女の目覚めを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

「……う……ん……」

 

 月兎の少女が目を覚ますと、目の前には少々狭い天井があった。

 少女はぼんやりとした頭で体をゆっくりと起こす。

 

「目が覚めたみたいね。具合はどう?」

 

 そんな少女に、少し幼さを残す声がかけられる。

 少女がそのほうを向くと、狭い部屋の中に置かれた椅子に座っているウサギの耳を生やした小さな少女が座っていた。

 

「ひっ……」

 

 その少女、てゐを見て月兎の少女は恐怖に顔をゆがめる。

 そのあからさまに怯える姿を見て、てゐは首をかしげた。

 

「……どうしたの? 私、なにかあんたが怖がるようなことした?」

「あ、貴女は月から来たんじゃないの?」

 

 てゐの質問に、酷く怯えた様子で少女は言葉を返す。

 その言葉に、てゐは首を横に振る。

 

「いんにゃ、違うよ。私はずっとここに住んでる白兎の因幡 てゐよ。で、月がどうかしたの?」

「あ、その……何でもない……」

 

 少女はてゐの言葉を聞いてホッと一息ついて体から力を抜く。

 その表情からは恐怖が消え、少し安心したようであった。

 

「……ひょっとして、あんた月から来たの?」

「っ……はい……」

 

 てゐの質問に少し身を強張らせながら少女は答えた。

 月と言う言葉に対して過敏に反応するその様子から、月に関して何か嫌なことがあるらしいことが分かる。

 

「何でまた月からはるばるこんな辺境に来たわけ?」

「……ここなら、月のみんなには見つからないと思ったから……」

「それってどういうこと?」

「私……月から逃げてきたのよ……」

「どうして?」

「月では地球から人間が攻めてくるって言う話が上がって、それを迎え撃つために戦争を起こす準備を始めたのよ。それで、私は……戦争が怖くて逃げ出した……」

「ふ〜ん……まあ、確かに戦争は怖いわね。で、あんたは自分が逃げたことで何を怖がっているわけ? 戦争がないところに避難するのは普通のことだと思うけど?」

「私、軍人だったのよ……それも、指揮官にとても近い兎だった……だから、連れ戻されたら何をされるか……」

 

 絞り出すような声で少女はてゐの質問に答えていく。

 質問に答えていくたびに少女の顔は蒼ざめていき、かなり精神的に追い詰められているようだ。

 そんな少女の言葉に、てゐは無感情で頷いた。

 

「……そういうこと。つまり、帰る気はもう無いわけね?」

「……もう私は月には帰れない……」

「そういうことなら、ここに住みなさい」

「え?」

 

 突然投げかけられた大人びた女性の声に、少女は顔を上げる。

 すると開け放たれた個室の扉の前に永琳が立っていた。

 

「お師匠様?」

「……や、八意様?」

 

 突然現れた手配中のかつての月の重役を前に、少女の表情が引きつったものになる。

 永琳はそれに構わず話を続ける。

 

「貴女が外に出歩くと、月から逃げてきた兎がこの一帯にいるということが明るみに出るわ。それならば、ここに住んで情報の拡散を防いだほうが良いでしょう?」

「……あ、あの……」

「何かしら? ちなみに拒否権は無いわよ。貴女には何が何でもここに住んでもらうわ」

「……じゃあ、私を月に追い返したりはしないんですね?」

「しないわよ。そんなことをしたら私達の居場所が知られるかもしれないでしょう?」

 

 永琳はやや高圧的な態度で少女に当たる。

 しかし、少女は永琳の言葉に逆に安心し、どんどん表情が柔らかくなっていく。

 

「そ、そうですか……ところで八意様がいるってことは……他の方も?」

「ええ、居るわよ。紹介が必要かしら?」

「あ、はい……」

「そう。二人とも入ってらっしゃい」

 

 永琳がそういうと、長く艶やかな黒髪の少女が部屋の中に入ってきた。

 どうやら先程までの話を部屋の外で聞いていたらしかった。

 

「蓬莱山 輝夜よ。知ってるかもしれないけど、貴女と同じ月から逃げてきた者よ」

 

 輝夜は少女に対して軽く自己紹介をする。

 そんな輝夜を見て、永琳は首をかしげた。

 

「あら、将志はどうしたのかしら?」

「将志ならお茶を淹れに行ったわ。もうすぐ戻って来るはずよ」

 

 輝夜は行方不明のもう一人の居場所を端的に告げる。

 すると、月兎の少女がその名前に反応した。

 

「あ、あの……将志ってもしかして……」

「あら、知ってるのかしら?」

「合ってるかどうか分からないですけど……銀の英雄の槍ヶ岳 将志さんですか?」

「ええ、そうよ……ってちょっと待って、何であなたは将志が生きていることを知っているのかしら?」

 

 ふと沸いた疑問を永琳は少女に問いかける。

 何故なら永琳が居た頃の月では、将志は移住する際に永琳達を守って死んだと思われていたのだ。

 その質問に、今度は少女が首をかしげた。

 

「あれ、依姫様が結構頻繁に分霊を呼び出しているので、生きているんだとは思ってましたけど……それに過去に将志さん本人が月に来られて、それ以来捜索隊が結成されたという話もありますよ」

 

 少女が知っている話は、大和の神の一柱である建御守人こそが銀の英雄たる槍ヶ岳 将志本人であり、未だに地上で生きていると言う話である。

 そして月ではその将志を何とかして月に連れてこようと捜索隊が組まれていると言うのが、少女の認知している事実であった。

 その話を聞いて、永琳は頭を抱えた。

 

「……ちょっと将志を呼んでくるわ」

「……俺ならここに居るが?」

 

 永琳が将志を呼ぼうとすると、当の本人が人数分の紅茶を盆に載せて運んできていた。

 訳が分かっていない将志に、永琳が質問を投げかけた。

 

「将志、あなた月に行ったことがあるのかしら?」

「……そういえばそんなこともあったな……幻想郷の管理者が月に進攻するというから、その護衛でな」

 

 永琳の質問に、将志は懐かしそうにそう答えた。

 まるでことの重大性が分かっていない将志に、永琳は顔を手で覆う。

 

「それで、あなた名乗りを上げたのかしら?」

「……名乗ってはいないが、敵の大将に言い当てられたな。何とかして俺を捕らえたかったようだが、振り切ってきた」

「その大将の名前は分かる?」

「……確か、依姫と呼ばれていた気がするな。神の力を上手く使いこなしていたから、何となく覚えていた」

 

 将志は記憶の片隅に会った敵の大将の名前を永琳に告げた。

 すると、永琳は深々とため息をついた。

 

「なるほどね……あの子なら、確かにあなたを捜そうとするわね……ずっと記録に残っていたあなたの資料を見ていたし」

「将志さん……」

 

 永琳がため息を付く傍らで、月兎の少女はジッと熱のこもった視線で将志を眺めていた。

 彼女に声をかけられ、将志はそちらに眼をやる。

 

「……む? どうした?」

「あの、サインください!」

「「「「…………はい?」」」」

 

 突然発せられた少女の言葉に、彼女以外のその場にいた面々が思わず呆けた表情を浮かべる。

 そしてしばらくして、将志は困った表情で頬をかいた。

 

「……すまんが、話が見えてこんのだが……どういうことだ?」

「だって、二億年離れ離れでもご主人様に忠誠を誓うとか格好いいじゃないですか! 見た目も良いし、何より強くて優しいって評判なんですよ!? 将志さんは知らないでしょうけど、月には依姫様を筆頭に未だにファンが多いんですから!! まだ生きていると判った時の騒ぎは凄かったらしいですよ!!」

 

 訳が分からないといった表情で将志が問いかけると、少女は興奮した様子でそう捲くし立てた。

 その様子は、人気アイドルに詰め寄るファンそのものであった。

 

「……分かったから落ち着け。全く、月ではいったい何が起きているのだ……」

 

 そんな彼女に、将志は困惑した表情でそう呟く。

 自分の与り知らぬ所で勝手に膨れ上がった自らの評価に、どうすれば良いのか分からないのだ。

 

「何と言うか……将志ってアイドル的人気があるのかしら?」

「まあ、建御守人って言う神様が将志に似ているってだけで崇拝されるレベルだしね……それにエピソードも英雄らしくて格好いいし、料理番組に出るような趣味人でもあるし……と言うか永琳、貴女と将志のお話を題材にした小説や漫画だってあるの知ってるでしょう?」

「……初耳よ。何度か将志に関して取材を受けた記憶はあるけど、まさかそんなことになっていたなんて思いもしなかったもの」

「……信仰ではなく、崇拝なのか……」

 

 呆然とした様子の永琳に輝夜が乾いた笑みを浮かべてそう答える。

 それを聞いて、将志はげんなりとした表情を浮かべた。

 

「そういえば、あなたの名前をまだ聞いていなかったわね?」

 

 気を取り直して、永琳は少女にそう話しかけた。

 すると少女はそちらの方を向く。

 

「あ、そうでした。私はレイセンって言います」

「レイセンね……念のため名前を地上の者に合わせたほうが良いかもしれないわね……」

「……つまり、レイセンの名前をここに合う様に改名するということか?」

 

 少女の名前を聞いて永琳はそう呟き、将志はそれに質問をする。

 

「そういうことね。ええと、あの花の名前何て言ったかしら……あの花の名前つけたいのだけど……」

 

 永琳はそう言いながらその部屋においてある本棚から植物図鑑を取り出し、目的の花を捜す。

 しばらくすると、永琳は幻想入りした植物の図鑑の中からそれを発見して声を上げる。

 

「ああ、あった。優曇華の花って言うのね」

「あ、あの、いくらなんでも語呂が悪すぎませんか?」

「兎って言えばやっぱり因幡の白兎よね。と言うわけでイナバってつけたいわ」

「ねえ、その因幡の白兎の実物が目の前にいるんだけど?」

「……レイセンに漢字を宛てるとすればどんな漢字になるだろうか……」

 

 こうして、月兎の少女の名前を考える話し合いが始まるのだった。

 

 

 

 

 

「……というわけで、今日からあなたの名前は鈴仙・優曇華院・イナバよ」

 

 長い話し合いの末、少女の名前が決定した。

 

「何だか、随分と長い名前になっちゃいましたね……」

 

 鈴仙は新しく自分につけられた名前に苦笑いを浮かべながらそう呟く。

 

「……まあ、特に長くて困ることは無いとは思うが……」

「……私、あんたらの感性が良く分からなくなったわ……」

 

 てゐは鈴仙の少々変わった名前をつけた張本人達に対してそう言い放つ。

 もう少し良い名前があっただろう、その眼はそう告げていた。

 

「あら、感性なんて人それぞれよ。例えば、将志の料理も独創的なものはどうして思い至ったのか私には分からないもの」

「……俺としては、主の研究の発想の方が分からないがな。論文を読めば確かに納得は出来るが、そこに至る発想が常識から外れているからな」

「常識に囚われていたら研究に進歩は無いわよ。大体、あなたの料理だって常識を覆すようなことをいくつもして来たでしょう?」

「……そう言われればそうだったな」

 

 お互いの感性について、将志と永琳はそう言い合う。

 永琳は常識を覆すような発表をいくつもしてきたし、将志も度肝を抜くような奇抜な料理を出してきたのである。

 そんな中、輝夜が疑問を呈して将志に質問を投げかけた。

 

「……ねえ、将志って永琳の書いた論文の内容が理解できるの?」

「……少しだけだがな。俺がかじったのは栄養学だ」

 

 輝夜の質問に将志はそう答える。

 

「そういえば、将志ってよく栄養学の本を読み漁ってたわね。その一点においては私の話に完璧について来れていたわ。恐らく、栄養博士の学位は楽に取れるレベルにはなっていたでしょうね。けど、どうしてそこまで熱心に勉強してたのかしら?」

 

 永琳は将志と初めて出会ってからの数年間を思い出して懐かしそうな表情を浮かべて質問をする。

 それに対して、将志も当時を思い出しながら質問に答えた。

 

「……俺の料理で体調を崩されては元も子もないからな。また、食品の成分は味にも大きく影響するから尚のことだ。それに、だ」

 

 将志は言葉をそこで一旦切る。

 不自然な言葉の切られ方に、永琳は首をかしげた。

 

「……それに?」

「……主と対等に話が出来ることが嬉しかったからな」

 

 すると、将志は照れくさそうに眼を逸らしながらそう言った。

 余程照れくさかったのか、その表情には少し赤みが注している。

 

「将志……」

 

 永琳はそれが嬉しかったのか、将志を笑顔を浮かべて優しい眼で見つめながらそっと抱きついた。

 

「…………」

 

 将志はそれを受けて反射的に抱き返し、無言で永琳の眼を見た。

 見つめあう二人。周囲には、どこからともなく甘ったるい空気が漂い始めていた。

 

「うわ、ま〜た二人の世界形成しおるし」

「ほんっっっとに隙さえあれば惚気るから油断ならんわ」

 

 その二人を見て、輝夜とてゐがもうやってられねえと言わんばかりに吐き捨てた。

 それを聞いて、鈴仙は苦笑いを浮かべた。

 

「これが昼ドラだと、将志さんが浮気したり取り合いになったりしますよね」

「ごめん、それ洒落になってない」

「ゑ」

 

 冗談のつもりで言った一言に対する輝夜の深刻な返答に、鈴仙の表情が固まる。

 輝夜はそれを見て、ため息をつきながら事情を説明しだした。

 

「将志に対する恋愛病末期患者が永琳の他にも何人か居てね……今はその末期患者が集まって、これ以上患者が増えないように努力してるのよ」

「しかも肝心の将志は超が付くような朴念神だし、おまけに無意識で女の子口説くもんね……鈴仙も毒牙に掛からないように気をつけるのよ?」

 

 将志の所業に呆れ顔を浮かべながら、てゐは鈴仙にそう呼びかけた。

 

「将志さんに口説かれる……それ、いいかも……」

 

 すると鈴仙は将志に口説かれるのを想像し、うっとりとした表情でそう呟いた。

 それを聞いて黙っちゃあいないのが約一名。

 

「……将志は渡さないわよ」

「ひっ……」

「えーりん、空間歪んでるから落ち着いて」

 

 笑顔で物を言わせぬ重圧をかけてくる永琳に、鈴仙は思わず声にならない悲鳴を上げた。

 輝夜は空間を歪ませるオーラを纏う永琳を宥める。

 

「……さっきから何の話だ?」

「……あんたは少し察することを覚えるべきだと思うわ」

「……む?」

 

 そして状況を全く理解していない将志に、てゐは盛大にため息をつくのだった。

 

説明
ある日、銀の槍がいつもどおりに永遠亭に向かおうとすると、そこにはちょっとした客が待っていた。
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コメント
続き:それに月からの追跡に怯える鈴仙が発信機の仕掛けられそうな場所を確認していないはずがありませんし、通信機器も捨てるはずです。以上のことから、将志の力によって守られている自分達は安全と考え、下手に動かずに現状維持をすることにしたのです(F1チェイサー)
神薙さんの言うとおり、鈴仙は玉兎であったがために幻想郷に侵入し、永琳達に会うことになりました。しかし、鈴仙は永琳達がここにいることを全く知りませんでした。と言うことは、迷いの竹林に隠れてから千年以上経った今も優れた文明を持つはずの月の民が永琳達の情報を掴めていない事になります。(F1チェイサー)
↓恐らく鈴仙が普通に地上に降り立ってからしばらく身を隠しながら放浪、その間に外の世界で「月に兎は無い」となり玉兎である鈴仙は幻想入り、その後迷いの竹林に入って今現在なう……って所じゃないでしょうか?……結構無理矢理?(神薙)
…ちょっと質問。確か原作たる永夜抄では、博霊大結界があるから、月人から発見されないと言うオチだった筈。…しかし、偶然だったにせよ、月人たる鈴仙が博霊大結界を突破し、幻想入りしてしまったと言う事実。状況上、紫に報告は出来ないとは言え、「月の頭脳」ともあろう者が対策を怠るのは、如何な物かと…。(クラスター・ジャドウ)
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