真・恋姫†無双 想伝  〜魏†残想〜  其ノ五
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「……北。おい、北!」

 

「……はっ」

 

 

最近では黄忠や璃々以外の人々から呼ばれることの多くなった“北”という仮の名。

 

その名を強く呼ばれたことで呆けていた意識を取り戻し、顔を上げる。

 

そこにはそこそこ豪奢な椅子に踏ん反り返ったこの街の太守がいた。

 

身体はともかく、服の裾から除く腿には余分な肉が見て取れる。

 

髀肉の嘆――と言ったところだろうか。

 

 

もっとも、嘆くのは本人じゃ無い。周囲にもそんな奇特な人間はいない。

 

 

そのお世辞にも整っているとは言い難い顔は不機嫌一色で彩られている。

偉い人間……というか変に自尊心の強い人間ほど無視されるのは我慢ならないらしい。

 

 

「貴様が早急に耳に入れたいことがあるというから態々時間を作ったというのに……!」

 

「……申し訳ありません」

 

 

――時間なんざ作らなくても有り余ってるだろうに――

 

 

そんな反論を胸の内に押し込め、頭を下げ謝罪した。

こういう人間は謙る人間を善しとする傾向にあると経験上知っている。

 

案の定、太守らしい仕事を微塵もしない太守は下手(したて)に出る俺を見て満足そうにニンマリと笑みを浮かべた。

 

嫌悪感しか感じない笑み。この手のタイプは苦手だ。

 

なのでさっさと用件を済ますことにする。

 

 

「色々考えるのはその後でもいい……よな?」

 

「ん?なんだ?」

 

「いえ、なにも。太守殿のお言葉通り、早急に耳に入れたい案件……というよりは提案に近いものなのですが」

 

「……言ってみろ」

 

「はい。提案とは先だってこの街を襲撃した賊の件です。聞けば過去に数回この街は賊の襲撃に晒されていると聞きます。先日に一度。そしてそれ以前、前太守殿の時に二回ほど」

 

「……ふむ」

 

「つまり、下手をすればこのまま四回、五回と襲撃が続く可能性があります。そこで提案なのですが、兵力の増員と刺史殿への援軍要請。そして街周辺の偵察に人員を割いていただけないでしょうか」

 

「ふん。なんだそんなことか。駄目だ、却下する」

 

 

ある程度は予想していた答え。即座にこちらの提案は却下された。

 

 

「……理由をお聞かせ願いたい」

 

「理由じゃと?そうさなあ……兵力など今のままで充分。私を護る為の人数がいればそれでよい。刺史殿の手を煩わせればそれはつまり借りになる。なぜ私が刺史殿に借りを作らなければならんのだ」

 

 

今のままで充分?……ふざけやがって。

 

というか何だその喋り方。元ごろつきの頭が太守の椅子に座って頭良くなったつもりなのか?色々とだだ漏れだよ……ったく。

 

 

元ごろつきとか元江賊とか元黄巾党とか、スネに傷を持つ人間は山ほどいる。

 

魏にいた頃もそういう人達と接することはもちろんあった。

人間、しっかりした環境にいれば変わるもんだってことも分かってる。

 

だから俺は経歴で差別をしない。でも、こういう輩は別だ。

 

 

「……なら、偵察に人員を割くことだけでも」

 

「偵察に人員を割くだと?馬鹿げているにもほどがある。第一、賊共が襲撃を続けるなどという保証がどこにある?そんな曖昧な可能性を信じて無駄な事をするわけにはいかん」

 

 

……大概阿呆だ。大真面目に答えているところなんかが特に。

既に感じていた頭痛が酷くなった。太守は調子に乗って言葉を重ねる。

 

 

「そんな余計なことを考えている暇があるなら、さっさと溜まっている仕事をなんとかしろ」

 

「……お言葉ですが。その仕事は本来、太守殿がするべき仕事では?」

 

「何を言っておるか。この街における行動のほぼ全権を与えてやったのだ。貴様は私の手足となって働く理由があるだろう」

 

 

太守の言葉に、周囲の人間達から大小様々な笑い声が漏れる。

それはこの街を前太守から力で奪うより前に親交があったクソ太守の仲間達。

 

ただ、数人の兵と文官と思しき服装をした数人は難しい顔をしたまま黙り込んでいる。

 

仕官はしたものの雑務しか回されず、文官らしい仕事をひとつも任せられることの無い形だけの文官。同じく境遇に身を置く数人の兵。

 

当たり前だろう。このクソ太守は政(まつりごと)の“ま”の字も知らない。

軍備のなんたるかも知らないのだ。

 

太守に逆らうことも出来ずに、その日をただただ暮らす惰性な人々。

 

もっとも、それは彼らなりに自分の身を護る術なのだろう。

真似をする気も無いし肯定する気も無いが、だからと言って完全に否定する気にもなれなかった。

 

 

「では兵を幾人か選別して、城壁の各所に配し、警戒を強化することだけでもお許し願えないでしょうか」

 

「……それぐらいならばよかろう。だが私達は一切関知せん。貴様の好きなようにやれ」

 

「貴重な時間を割いていただき感謝いたします。ありがとうございました、それでは」

 

 

これ以上この空間にいるのは耐えきれない。色々な意味で。

早口で心の篭っていない謝罪と感謝を述べ、俺は謁見の間を後にした。

 

 

 

 

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【一刀が去った謁見の間にて】

 

 

 

「ふう……あのガキは一体なにを考えているのだろうなあ?」

 

「ああ、まったくよ。兵とは王を護る為にいるというのにそれを偵察に出せやら、刺史に援軍を要請をしろやら……分かっていないにも程がある」

 

「本当にな。刺史の眼がこの街に届けば我らの失脚は明白。それこそ街の全権を奪われるに決まっている」

 

「おおっと、それ以上は口にするな。どこで誰が聞いているか分からないからな」

 

「聞かれていても問題は無いな。事情を知らん兵や役にも立たない文官共。それにあの北とかいうガキ。刺史への繋がりなど、どこにもない連中だ」

 

「確かにそうだな」

 

「それより聞いたか。最近この辺りで妙な集団を見掛けるようになったという噂なんだが――」

 

 

 

 

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「くそ……どうするか」

 

 

予想以上に馬鹿だった馬鹿相手の謁見を終え、城の廊下を門に向かって歩きながら、一刀は苦虫を噛み潰したような表情で一人ごちる。

 

これで、兵力自体を増強し街の防備を固めるという案は潰れてしまった。

 

兵力を増強するとは言っても、街の人間達を集めて自警団のようなものを作る、というだけの案なのだが。それでも、あると無いとではまるで違う。

 

正規の軍を相手取るには明らかに不十分な戦力だが、ただの賊相手なら戦い様はあるのだ。

 

もっとも、街の周辺はほぼ平原。数相手だと若干の不利は否めない。

 

第二案。荊州の刺史である劉表へ援軍を要請するという、あまり上手くない案も同様に潰れた。

 

同じ州に属するとはいえ、大きな街と小さな街の統治者とでは考え方も違う。

援軍を要請し、荊州の中央が地方に進出してくればそれがマイナスに働くこともある。

 

 

劉表が本拠地とする郡は【 襄陽 】。

ここ、荊州の北端に位置する郡【 魏興 】まではそこそこの距離がある。

援軍を要請し、それが認められて援軍が来るまでの時間にも問題があった。

 

 

つまり、中央からの援軍は不確定要素に満ちているということ。

それを全面的に肯定して、中央の介入を受け入れるのはあまり良い手とは思えなかった。

 

 

この外史ではどうかなのか知らないが、劉表は決断力に乏しいというイメージがある。

 

先だって黄忠に問うて見たところ、曖昧な表情で苦笑いを返してはいたが、同時に否定もしなかった。つまりはイメージ通りなのかもしれない。

 

太守の馬鹿みたいな――いや、真実馬鹿な答え。

 

そして何もかもが上手くいかないこの状況にイラつきつつ、指でトントンとこめかみの辺りを叩き、リズムを取りながら思案を巡らせる。

 

 

「街の人達のやる気はあるんだ。あとはあの太守だけなんだよ……くそっ」

 

 

嫌悪感も露わな表情と声色。それを隠そうともしない一刀。

 

彼の性格や人となりを知っている人間がこの場に居れば、驚き眼を疑うだろう。

 

それほど北郷一刀という人間にとって、このような表情は珍しかった。

 

 

「ん?あれは……」

 

 

ふと顔を上げた一刀の眉がピクリと動く。

視線の先、門の前には数人の男達と一人の女性が対峙していた。

もっと正確に言うなら、女性――黄忠が太守の部下共に絡まれていた、だが。

 

自分のこめかみがピクリと動いたのにも気付かないまま、一刀は眉間に寄せた皺を更に濃くしてその一団に近付いていった。

 

 

「こりゃあ上玉だなあ、おい」

 

「へへ、黄忠って言えば荊州一と言っても過言じゃねえ女だろ?しかも未亡人と来たもんだ」

 

 

太守の部下とは名ばかりの、元ごろつき達。

 

 

「……私はここで人を待っているだけ。用が無いのであれば構わないでいていただけるかしら?」

 

 

言葉面は穏やか。だがその声色は冷たかった。

一刀と同じく、その表情は普段とまるで違う。

 

どこまでも無表情なその下に、嫌悪感や怒りの色が見え隠れしている。

もっとも、黄忠の肢体を舐めまわすように見る男たちにそれが分かるはずもなかったが。

 

 

「ああ?待ってる相手ねえ……そんなやつを待ってるより俺達とイイことしねえか?」

 

 

ピクリと黄忠のこめかみが動き、下げた手にグッと力が込められた。

 

 

下卑た男達はそれに気付かず手を伸ばす。だがしかし

 

 

「……失礼。俺の連れに何か?」

 

「あ?」

 

 

背後から掛けられた声にその手がピタリと止まる。

邪魔をされて不快だと言わんばかりの、声と共に振り返る男達。

 

その間をスッと自然に通り抜け、一刀は黄忠の傍に寄った。

 

 

「やー悪いな黄忠。話が少し長くなってさ」

 

「あら、私はそれほど待っていませんよ?今来たばかりですから」

 

 

お互いに先刻の様子が嘘のように朗らかに会話を交わす。

 

 

自分達に対する時とは全く違う黄忠の態度。

そして自分達が行おうとしていたことを邪魔した北という名の得体の知れないガキ。

 

その二つの相乗効果だろう。

 

 

「おいおいおい!!なに邪魔してくれてんだあ?良いとこだったのによお!」

 

 

男達の一人が声を荒げて一刀と黄忠に詰め寄った。

一人では何も出来ないのに複数人になると急に強気になる。

それが人間の性ではあるが、ここまでテンプレなのも最近は珍しいだろう。

 

黄忠に向けていたものとは違う冷たい視線を、一刀は男たちに向けた。

 

 

「……う」

 

 

一瞬だけその眼に怯んだ男だったが、相手はただのガキ。

そして周囲には自分の仲間が数人いる。それが強みになったのか、男は強がるように鼻を鳴らした。

 

 

「ふん!おい黄忠さんよ、あんたが待ってたのはまさかこのガキか?」

 

「ええ、その通りです。それにガキでもありません。少なくともあなた方よりかは余程」

 

「照れるね。まあ前者はともかく後者に至っては否定する気無いけどさ」

 

「ふふ」

 

「てめえらふざけやがって……!!女だろうがガキだろうが我慢ならねえなあ!」

 

「俺、一応ここの太守様から街での行動とか他の案件に関しては全権を貰ってるんだけど?」

 

「んなもん知ったことじゃねえ!テメエなんぞの代わりはいくらでもいるんだよガキが!!黄忠は最悪生きてりゃあそれで良いしなあ!!」

 

 

そう言って男は腰に挿していた剣を抜く。

ろくに手入れもされていない刃零れした剣を見て、一刀は溜息を吐いた。

 

同時にス……とその眼が細くなる。

 

 

「抜いたな?」

 

「ああ!?これからテメエをぶっ殺すんだから当たり前だろうが!!」

 

「随分と沸点の低いヤツだ。いいのか?挑発したのはこっちでも先に抜いたのがそっちなら後には引けないぞ?」

 

「死人に口無しって言うだろ?お前らを殺してお前らが先に手を出したことにすれば何の問題もねえ。つーかそこの女はともかくただのガキがいっちょ前の男気取りかよ、おい」

 

「その悪知恵、もっと別のことに使えないのかね」

 

 

ふと視線をずらすと、男の背後に控える数人も同じように下卑た笑みを浮かべながら剣を抜いていた。やはり刃零れし錆び付いた剣を。

 

 

「……ふう。分かったよ」

 

「死ねやあ!」

 

 

男が頭上に剣を振り上げる。

そのまま振り下ろせばちょうど一刀の頭の位置。一刀は呆気なく死ぬだろう。

 

もっとも――

 

 

「な……あ……?」

 

 

――振り下ろせれば、の話だが。

 

 

男の顎の下には刀の柄がピタリと当てられていた。

一刀の右手は鞘を掴み、親指は鞘側から刀の鍔を押し上げている。

その押し上げられた鍔と鞘の間からは陽光に反射して眩い銀色の光が見えていた。

 

 

リーダー格の男が剣を振り上げたまま止まったのを見て、他の男達も戸惑いを隠せずに停止する。

 

一刀は少し顔を伏せたまま、低い声を発する。

 

 

「……ここでお前らを殺すのは簡単だ。だけど俺は極力平時に人を殺したくない。戦でもなければ女性に血を見せるのも嫌なんだよ。だから――」

 

 

男の眼が一刀の眼を捉える。そこにあったのは本物の、殺気。

その瞳の中にあったのは、大陸を治めた覇王と共に歩んできた月日の重み。

左慈に覚悟があるかと問われ、この外史に自分の意思で降り立った者の覚悟。

 

 

 

「――失せろ」

 

 

 

ただそれだけで、勝敗は決した。

顎に刀を突きつけられていた男は、刀が引かれると同時にその場にへたり込んだ。

 

 

「それじゃ行こうか、黄忠」

 

「……」

 

 

返事の無い黄忠を訝しんで振り向くと、なぜか黄忠は呆気にとられた表情で固まっていた。

 

目の前で手を左右に振る。

 

 

「おーい黄忠?」

 

「……あ、え、ええ。そうですね、行きましょうか」

 

「おう」

 

 

我に返った黄忠と共に、一刀は揚々と城を後にした。へたり込んだままの男をその場に残して。

 

 

 

 

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無言で歩く黄忠と一刀。

おもむろに一刀が路地に入り、黄忠もその後に続く。

 

そのまま一刀は建物の壁に背を預け、深いため息を吐いた。

 

何も言わずに律儀に佇む黄忠に苦笑を向ける。

 

 

「ごめん。驚かせたか?」

 

「ええ、少し。でも、助けて頂いてありがとうございました」

 

「そう言ってもらえるのは有り難いけど。……にしてもまだまだ餓鬼だな、俺は。イライラしてるところにあんな光景見せられちまったからか、どうにも止まんなかった」

 

 

殆ど無意識の内に、一刀の手は腰の刀に置かれていた。

熟考するように静かに眼を閉じる。やはり律儀に、黄忠はそれを見守っていた。

 

 

少し経ち、一刀はゆっくりと眼を開く。

その表情から憂いの色は消えていなかった。

 

しかしその眼に宿るは先刻とはまた違った類いの陰り。

 

 

「この前、お茶会をした日からかしら。元気がありませんね」

 

 

黄忠がピンポイントで陰りの確信に触れる。

少なからずそれに驚いた一刀は、一瞬だけ表情を固めた後に再び苦笑した。

 

 

「……まあ、あまりにも予想外だったんでね。ひとつ俺の目的が消えちまった」

 

「目的……ですか」

 

「ああ。陳留の刺史……いや。曹孟徳っていう人間に仕えるって目的がさ」

 

「曹孟徳……その方は亡くなられていたということですか?」

 

「いや、そもそもいなかった……そういうことなんだろうな」

 

「???」

 

 

一刀の言葉の意味が分からず、黄忠は戸惑う。

“亡くなった”では無く“いなかった”。それはどういうことなのか。

 

少なくとも今の黄忠には理解できるはずも無かった。

 

 

「……少し怖いんだ。もしかしたら華琳だけじゃ無く、他の皆もいないんじゃないのかって。もちろんこの世界にいる皆は俺の知ってる皆じゃない。でもさ、それでもいるといないとじゃ大違いなんだよ。やっぱり」

 

「一刀さん?意味がよく……」

 

「……ん。ああ、悪い。独り言のつもりだったからな」

 

 

一瞬、黄忠がこの場にいることも忘れて呟いていた一刀。

ふー、と頭を切りかえる様に息を長く吐き出し、髪をガシガシと掻いた。

 

 

 

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「そういや太守殿に、偵察は駄目だって言われたよ」

 

「そうですか。賊が東に潜伏しているのはほぼ間違いないのですけれど……」

 

「ああ。東から来る商人達からも、寂れた砦がポツンと建っていたっていう話を聞いてる。多分、そこが奴らの根城だろうな。他の郡とも連携が取れれば別なんだけど、どうにもこの街は位置が悪い」

 

「北に擁州、西に益州、……そして太守殿は他郡にも劉表殿にも援軍を請う気が無い」

 

「ああ、その通りだ。正直、大きい声じゃ言えないけど官軍は当てにならない」

 

「私の友人も単独で一軍は動かせませんし、益州の赴任地からもそれなりに距離が……」

 

 

急な話題の切り替えにも戸惑わず、黄忠は渋い表情でそれに答えた。

 

 

 

賊は襲撃に現れ、なぜか街を完全に蹂躙することは無く、物資や食糧を奪って行くだけ。

 

そして目障りな人間や歯向かう人間だけを殺すという賊に似合わない周到さ。

 

少しは頭の回る人間がいるのだろう。要は生かさず殺さずの状態だ。

 

前太守の時に二回。この前の襲撃で計三回。聞けば黄色い布を見たのは初めてとのこと。

 

ならこの前、襲撃を行った黄巾党の中に前回、前々回と襲撃に加わった賊がいるのかもしれない。

 

愚鈍な太守がというより、総合的にこの街が舐められている。そう感じた。

 

 

「断られた以上、別の手段を取り付けるしかない。櫓に兵を配して警戒の強化に当たらせることだけは許可させたよ。あとは賊の襲撃が無いことを祈って別の対策を考える」

 

「今のところ最善の方法ですね。私が偵察に行ければ話は別だったのですけど……」

 

「璃々がいるからな。そこは気にしないでいいよ。街の皆は良い人達ばかりだけど、正直なにかあったときに璃々を護りきれるとは思えない。俺も璃々とずっと一緒に行動するっていうのは無理だしな」

 

「ええ、私としても璃々に怖い思いはさせたくありませんから。璃々は母親の私が護ります」

 

「ああ。その方が良い。警戒の件だけど、出来るだけ視力の良い兵を選んで、取り敢えず朝夕の二回に分けて二人づつ、交代制で見張りをしてもらおうと思ってる」

 

「賊と一般の旅人をどう判断しましょうか?」

 

「賊は黄色い布を付けてる筈だ。賊かどうかの判断基準はそれに頼ることになるけど。念の為、今街に来ている商人たちには黄色いものを身に着けないようには伝えてある」

 

「抜かりがないですね」

 

 

黄忠は一刀の手際の良さに改めて感嘆し、笑みを浮かべた。

 

反面、一刀の表情は晴れない。

 

 

「とはいえ問題は戦力だ。過去に襲撃してきた賊が全戦力だって保証もない。威力偵察が可能ならいくらか手は考えられたんだけどな。今となっては無い物ねだりだよ」

 

「劉表殿に討伐軍を頼めればいいのですけど……」

 

「黄忠の伝手があっても今は無理だろうな。南の方で袁術との小競り合い中じゃこっちに戦力を割けないだろうな」

 

 

南から来た商人と旅人からの情報を思い出して表情が渋くなった。

 

 

「はい……お力になれず、すみません」

 

「いいや。こうやって一緒に考えてくれる人がいるだけでも有り難いよ。正直、助かってる」

 

 

自身の不甲斐なさにシュンとなる黄忠に、一刀は気にするなという風に笑顔を向ける。

 

 

そして何を思ったか――

何の気なしにポン、とその手が黄忠の頭の上に乗せられた。

 

 

 

「あ……」

 

「あ」

 

 

 

純粋な驚きに眼を見開く黄忠。

その口から発せられた声によって一刀も、自分が何をしたのかを自覚した。

 

 

(何してんだ?俺)

 

 

「ご、ごめん!なんつーか、その、いつも璃々にやってるときと同じような感覚でつい」

 

「……」

 

「えーと……黄忠さん?」

 

 

慌てて黄忠の頭から手を退け、しどろもどろになりながら弁解する一刀。

 

反面、黄忠は先刻まで一刀の手が乗せられていた自分の頭に、放心しているような不思議な表情のままで何故か自分の手を乗せていた。まるでそこにあった何かを確かめるかのように。

 

 

「……一刀さん」

 

「は、はい?!」

 

 

名前を呼ばれ、過敏に反応する。

怒られるとは思っていないものの、失礼をしてしまったという負い目が、返事を裏返らせていた。

 

 

「その、ひとつだけ聞きたい事があるのですけれど」

 

「あー……ひとつだけと言わずいくらでも。俺の独り言も聞いてもらったし」

 

「はい、それでは」

 

 

それは本当に素朴な疑問。

何の気なしに。黄忠自身でさえも、何故そんなことを聞いたのか分からなかった。

 

 

「さきほど言っていた曹孟徳という方は……一刀さんの想い人ですか?」

 

 

「――」

 

 

前後の会話とまったく関係の無い、繋がりの無い質問。

 

 

 

一瞬、一刀の表情が固まった。

だがその表情は瞬時に変わる。

 

とても優しい、なにかを愛しむような表情に。

 

そして

 

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 

とても単純で短い言葉を紡いだ。

 

 

「……そうですか」

 

 

たった一言。短い肯定。

だが、だからこそ、黄忠は何も言えなかった。

そのたった一言に込められた強い感情に、ただ圧倒されたのだ。

 

 

 

初めは北郷一刀という青年そのもの――在り方に興味を持った。

そして今、その青年が想う女性にも、また同様に強い興味を抱いた。

 

一刀に向けている自身の感情。

それがどういったものなのか、今の黄忠には分からない。

 

“愛”という、自分が亡き夫に感じていた感情。

言わば、その“愛”という感情の前段階と言うべきものを彼女は知らなかった。

 

いや、ただ経験したことが無かったのかもしれない。

 

 

 

その感情の名は――

 

 

 

 

 

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【 あとがき? 捕捉? 】

 

 

終わり方が変に中途半端かな?以上!!あとがき終わり!!

 

 

今回初めて郡の名前を出しました。

合っているかは分かりませんが、三国志ドライヴというサイトの郡地図を参考にさせてもらっています。もし、その辺りに関して読者様方からの捕捉やご指摘がありましたら、遠慮せずにお願い致します。

 

色々なところから知識を得ているのですが、ちぐはぐだったり別の記述があったりと、正直大変です(泣)

 

多分、最終手段は『この外史はこういうものです』的な感じになってしまう気が……。

できればそういう最終手段は使いたくないので、頑張ります。

 

とはいえこの外史は既に『曹氏が無い』という現状がありますので、今後どうなるかは分かりませんが、ね(苦笑)

 

 

あ、ついでにもう一つ。

最後の黄忠関係の文ですが多分、分かりにくいと思います。

 

 

 

作者の中の取り敢えずの黄忠設定。以下参照。

 

 

・夫は既に他界(未亡人)。

・璃々は六歳くらい。

・↑そういうことなので個人的には最高でも26歳ぐらいが妥当なラインかと。

今の時代の文化と違うと思うので(例:日本では15歳が元服だった等)六歳の娘がいて、既に既婚者(現未亡人)だったとしても年齢的にはどちらかというと20歳に近いと思う。

最低ラインは21歳かな?つまり21歳〜26歳くらい。

 

・亡き夫は老齢な叔父で結構年上(そんな記述がどこかにあった気がします)

んで、夫のことは愛していた、と。

・そういう類いの結婚だったので【愛】という感情の経験はあっても、その前段階の感情経験は今までに無かった気がする(まったくとは言いきれないが)。

 

 

 

大体こんな感じですね。

もし何か不可解といいますか、ご意見がありましたら、こちらもよろしくです。

 

 

 

説明


待っててくれたかい?
まあどっちでも構わないけどな!

さてさて今回のお話は曹氏が存在しないと知った一刀の心の内が少しだけ垣間見える予定だ!

正直、変に複雑にしようとか思った結果、作者も自分が何を書いたかわからない始末だハッハッハ!

ではどうぞ!

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コメント
魏興郡ですが、北端というよりは北西端と書いた方がいいような気がします。すんごい小さい町ってことになってるけど、まがりなりにも太守がいるってことは、郡都の西城なんだろうか。(PON)
きまおさん、ありがとうございます。深く……深く傷つきましたよ。もし更新が滞ったらあなたのせいだ!(マテコラ PS2に移植されたやつやってないんですよー(泣)(じゅんwithジュン)
ハムさんもこっちも楽しみにしてたよん!・・・・なーーーんて言うと思ったか、嘘だよーん!!・・・ごめん、ちょっとボケたかったんだ・・・(マテコラ しおん様は・・・うん、PS2版無印の差し替えイベントがすべてだよ・・・(きまお)
根黒宅さん、ありがとうございます。おっと、そうでしたか。それじゃあ公式なんですね。亡き夫が老齢な叔父……複雑やなあ。(じゅんwithジュン)
いや、ゲームの方でもその設定の筈。真か無印か覚えてないけど紫苑自身がその辺りを説明した。(根黒宅)
飛鷲さん、ありがとうございます。そうなんですね。アニメ版は見ていないので初めて知りました。じゃあどこでその知識を得たんだろう……?ウィキかな?(じゅんwithジュン)
東文若さん、ありがとうございます。誰が上手いことを言えとww うちの一刀が死んじゃうでしょうがあ!←(某北の国から)(じゅんwithジュン)
亡き夫は叔父という設定はアニメで出ていたような気がします。(飛鷲)
紫苑さんの感情それは、私怨ですね!!( ・∇・)(東文若)
オレンジぺぺさん、ありがとうございます。漢字違うぅぅぅぅぅ!!!!!これ狙ったんですよね?そう信じてます!  まったくもって一刀は通常運転。しかしもしかしたら魏の面々以外からの好意には鈍感だったり――しないかな。(じゅんwithジュン)
mokiti1976-2010さん、ありがとうございます。危なかったですね、『そして紫苑さんの年齢はきっと――』の辺りまであなたの背後に黒い影が……(じゅんwithジュン)
芋名月さん、ありがとうございます。まだまだ一刀のカッコよさは序盤です。これからもっとカッコ良くなる……予定ですww(じゅんwithジュン)
アサシンさん、ありがとうございます。暫し!暫し待って頂きたく!!(じゅんwithジュン)
このまま紫苑さんと恋仲に落ちそうな感じが…さすがにそれは気が早いのでしょうか?そして紫苑さんの年齢はきっと21歳かと…そう言わないと危険そうな匂いがする…。(mokiti1976-2010)
更新待ってました♪ さすが一度乱世を経験しているだけあって一流の武人みたいで凄く格好いいです。(芋名月)
続きを・・・・早く続きをぉぉぉぉおおお〜!!(アサシン)
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