ハマ線の君たちに捧ぐ
[全6ページ]
-1ページ-

…そうか、もう君も消えてしまうのか。

当たり前のようにそばにいたのに。

当たり前のようにいつも会えたのに。

 

…もう、いなくなってしまうのか。

遠い遠いところへ、行ってしまうのか。

-2ページ-

君に出会ったのは、僕がまだ小学校に上がる前のことだったっけ。

ウグイス色の古い電車に混じって、生まれたての君は文字通りギラギラと輝いて見えた。

205系。それが君の名だった。

 

山手線によく似ている、でもどこかが違う。

ウグイス色のラインの下に、グリーンの細いラインが入っていて。

山手線と同じような顔をした君は、しかしそれでも別の路線なんだということをアピールしていた。

 

やがて時は流れ。

うれしい日もつらい日も、雨の日も風の日も、君は休まず走り続けた。

橋本から分かれる相模線に、君の弟が入ってきた日も、君は走り続けた。

東神奈川で顔を合わせる根岸線の車両が、いつしか103系から209系に置き換わったその日も、君は走っていた。

やがて八王子で出会う、中央線の電車が、E233系に変わったその日も、まだ君は走り続けていた。

-3ページ-

…君は僕にとって、見慣れた存在だった。

毎日見ているうちに、少し飽きてきたこともあった。

新型車両が入るとしたらいつごろになるのだろう?と思ったこともあった。

根岸線の電車が中央線と同じE233系に換わると聞いたときは、209系が君のあとを継ぐのかもしれない。

そう思ったこともあったが、結局君はそのまま走り続けていた。

 

全部同じ形の君の仲間たちだったが、山手線から入ってきた君の先輩が2編成。

単調な横浜線の電車たちの中にあって、その2編成が来たときにはわずかながら心が躍ったのをよく覚えている。

それでも、君は当たり前のように走り続けるんだろうな。

そう信じて疑わなかった。

 

突然だった。

横浜線に新車が入るという報せを耳にしたのは。

-4ページ-

…そうか、もう君も消えてしまうのか。

当たり前のようにそばにいたのに。

当たり前のようにいつも会えたのに。

-5ページ-

2014年。

君が走り続けてきた横浜線に、とうとう新車が入る。中央線や根岸線と同じ、E233系だ。

一度投入されれば、ものすごいペースで先輩たちを追い出していく彼ら。

もし、彼らが入ってきたら、君たちはあっという間に横浜線を離れていくことになるんだろう。

 

…それでも君は。

不満ひとつこぼすことなく。

涙ひとつ流すでもなく。

ただただ、黙っていつものように、いつもの線路をひたすらに走り続けて。

 

決まってしまったことを、いまさらどうすることも出来ない。

まして僕は一人の乗客だ。君のためにしてあげられることは本当に少ないのかもしれない。

もしかするとただ、去っていく君を見送ることだけしか出来ないのだろう。

 

当たり前のようにそばにいた君。

当たり前のようにいつも会えた君。

そんな当たり前が、やがて思い出の彼方に消えていく。

君の後輩たちが、新しい『当たり前』を作っていく日も、もうすぐそこまで来ている。

-6ページ-

いよいよあと1年。

まだ、今の時点では早いかもしれないが、慣れ親しんだ横浜線を去っていく君たちに、この言葉を捧げよう。

 

26年間おつかれさま、205系…。

そして…横浜線を支えてくれてありがとう。

君たちの勇姿は、決して忘れることは出来ないだろう。

説明
私の地元を走るJR横浜線。
そこを走る205系電車に捧げる駄文。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
678 670 0
タグ
横浜線 電車 JR東日本 鉄道 205系 

古淵工機さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com