銀の月、自己紹介をする
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「今日からここでお世話になります、銀月といいます。宜しくお願いします」

 

 将志に名前をもらった翌日の朝、銀月は本殿の広間に集まった一堂の前でそう言ってぺこりと頭を下げる。

 それに対して、それぞれ自己紹介をする。

 

「キャハハ☆ 随分と礼儀正しい子だね♪ 喜嶋 愛梨だよ♪ 宜しく、銀月くん♪」

「槍ヶ岳 六花、そこに居る将志の妹ですわ。宜しく頼みますわよ、銀月」

「俺はアグナだ。宜しくな、銀月!!」

「ここの門番をしている、迫水 涼でござる。宜しく頼むでござるよ」

「ルーミアよ。……ねえ、貴方は食べても」

「おらぁ!!」

「いあっ!?」

 

 食べてもいいか、などと問いかけるルーミアをアグナは全身をしなやかに使った見事なガゼルパンチで顎を打ち抜く。

 それを受けたルーミアは空中で縦に一回転し、べちゃっと床に落ちて動かなくなった。

 

「幻想郷の管理者をしている、八雲 紫よ。貴方のことは見ていたわ。将志とは仲良くやりなさいよ?」

「紫様の補佐を担当している、八雲 藍だ。将志とは親友という間柄だ、何かあったら遠慮なく頼ってくれ」

 

 紫は胡散臭い笑みを浮かべながらそう言い、藍は微笑を浮かべて自己紹介をする。

 唐突に現れた妖怪に、六花は額に手を当ててため息をついた。

 

「……ちょっと待ちなさい、何で貴女方がいらっしゃるんですの?」

「私も居るよ、六花!」

 

 六花の言葉に、二本の尻尾と猫耳をつけた少女が藍の後ろから出てくる。

 勢いよく出てきた彼女に、六花は笑顔を向けて手を振る。

 

「あら、橙。貴女も来てたんですのね。で、どうかしたんですの?」

「将志が人間の子供を拾ったから、直接会いに来たのよ」

「僕に会いに来たの?」

 

 紫の言葉に、銀月がこてんと首をかしげながら問いかける。

 それに対して、紫は微笑みながら答える。

 

「ええ、そうよ」

 

 そういうと、紫は銀月の身体をじっくりと見回した。

 それが終わると、今度は将志に眼を向ける。

 

「……どうかしたの?」

 

 紫の行動の意味が分からず、銀月は紫にそう言った。

 すると、紫は小さくため息をついた。

 

「……こんなこともあるものなのね……ねえ、銀月。貴方、将志が来たときに妙に安心感を覚えなかったかしら?」

「えっと……そういえばそうかも」

 

 銀月は将志と初めて会った時のことを思い出し、そう言った。

 紫はそれを聞いて一つ頷くと、今度は将志のほうを向いた。

 

「将志、貴方もこの子に親近感とか感じなかったかしら?」

「……む、良く分かったな?」

 

 紫の問いかけに、将志は意外そうな表情でそう言った。

 

「当然よ。だって、銀月の魂が貴方の魂によく似てるんですもの。おまけに、お互いに引き合うように干渉してるわ。ちょうど、磁石がお互いに引き合うみたいにね」

「……どういうことだ?」

 

 紫の言いたいことの意味が分からず、将志は問い直す。

 それに対して、紫は胡散臭い笑みを深めた。

 

「少し意味は違うけど、類は友を呼ぶってことよ。魂の形が似ているということは、その者を構成するものが似ているということ。こうしてみると髪や眼の色は違うけど、きっと銀月は将志と同じような才能を持っていて、将志と似た姿に成長するでしょうね。例えるなら、父親とその血を色濃く受け継いだ子供みたいな感じね」

「つーことはだ、銀月には戦いの才能と料理の才能があるってことか?」

「それは実際にやってみないと分からないわ。よく似ているとは言っても、ところどころに違いはある。その変わった部分が何なのかによって、才能にも違いが出るはずよ」

 

 紫の話を聞いて、将志は複雑な表情を浮かべて銀月を見る。

 

「……『あらゆるものを貫く程度の能力』だけは持っていて欲しくはないな」

 

 かつて、将志は自らの能力のせいで心を見失ったことがあった。

 将志は銀月が己の能力のせいで、自分の大切なものを失うようなことにならないかどうかが気に掛かるのだ。

 

「いや、それもそうだが、お前の一番恐ろしいところはそこではなくてだな……」

 

 そんな将志に、藍が違う意見をぶつけようとする。

 その後ろで、銀月はジッと紫のほうを見ていた。視線に気付き、紫は銀月のところに向かう。

 

「……どうしたのかしら?」

「あ、ごめんなさい……その、綺麗な人だなと思っただけで……」

 

 紫の問いかけに、銀月は素直にそう言った。表裏のないその様子を見て、愛梨は藍のほうを向く。

 

「……藍ちゃん……」

「……どうやら、一番似なくて良い才能はしっかり持っているようだな」

 

 将志を髣髴とさせる言動。

 嫌味無く素直に相手を褒めるその人誑しの言動に、二人はげんなりとした表情を浮かべた。

 

「……ありがとう。子供に言われるくらいなら私もまだまだいけそうね」

 

 紫はそれに対して、嬉しそうに微笑んだ。

 その様子を見て、態度が激変するものが居た。

 

「ゆ、紫様が口説き文句に耐えただと!?」

「い、いつもなら顔を真っ赤にして、眼を回して倒れるのに!?」

 

 藍と橙は紫の銀月に対する反応を見て、飛び上がらんばかりに驚いた。

 何故なら橙が言ったとおり、紫は異性に少し口説かれただけで混乱してしまって眼を回すからである。

 そのせいで、外の世界でナンパされたときに気絶し連れて行かれそうになり、たまたま同行していたアルバートに助けられるなどという事態に陥ったのだった。

 紫だけでなく、藍にとっても頭の痛い問題なのであった。

 

「銀月、ちょっとこっちへ来い」

「え、なに?」

 

 声をかけると、銀月はとてとてと藍の所へとやってきた。

 銀月がやってくると、藍はその肩をしっかりと掴んで目線を合わせた。

 

「銀月、一つ確認したいことがある。一度、紫様に抱きついてみてくれないか?」

「何で?」

 

 藍が何を考えているのか分からず、銀月はちょこんと首をかしげる。

 それに対して、藍は真剣な表情で銀月の茶色い瞳を見た。

 

「……頼む、紫様のためだ」

「うん、わかった」

 

 藍の真剣さを汲み取って、銀月は頷く。

 そして紫に近づくと、きゅっと腰の辺りに抱きついた。

 

「あらあら、いったいどうしたの?」

「よくわかんないけど、頼まれた」

 

 笑みを浮かべる紫に、銀月は顔を上げてそう答える。

 銀月はどうしたら良いか分からず、そのまま抱きついたままになる。

 

「……お姉さん、良い匂いだね」

 

 銀月は思ったことを素直に口にしながら、抱きつく腕に少し力を込める。

 そんな銀月の頭を、紫は微笑みながら撫でる。

 

「うふふ、口が上手いのね。でも、あんまりお姉さんを困らせちゃ駄目よ?」

 

 紫がそういうと、銀月は慌てて紫から離れた。

 

「ご、ごめんなさい……」

「うん、素直で宜しい」

 

 罰が悪そうな顔で必死に謝る銀月に、紫は笑みを深くする。

 そんな彼女の後ろから近づく人影。

 

「……失礼するぞ」

 

 その人影こと、将志は紫の肩を掴み少し強引に抱き寄せる。

 そして腰に手を回し、しっかりと抱きしめた。

 

「きゃっ!? な、なななななななんなの!?」

「……いや、藍に頼まれてな。理由は良く分からんが、抱きしめて来いと」

 

 顔を真っ赤にし、混乱した様子の紫。

 そんな彼女に、将志もやはり訳が分からないといった様子で答えを返す。

 

「ら、らん!? な、何で……っ!?」

 

 藍に向かって問いかけようとする紫。

 だが、その質問は頬に触れる指の感触で止められる。

 

「……いつも思うのだが、肌が綺麗だな、紫は。触れていて心地が良い」

 

 将志は指先で紫の頬を目元から顎の先まで優しく撫で、顎先を指で軽く持ち上げながらそう呟いた。

 傍から見れば、それはどう見ても将志が紫を口説いているようにしか見えなかった。

 

「あ、あう……きゅぅ〜〜〜〜〜……」

「お、おい紫!?」

 

 案の定、耳の先まで真っ赤に染まり眼を回して紫は倒れこんだ。

 そんな紫の様子を見て、将志は慌てて彼女の肩を揺する。

 

「……やはり、そうか……」

 

 そんな紫の様子を見て、藍が静かにそう呟く。

 藍の様子に、同じく隣で見ていた橙が首をかしげる。

 

「藍さま?」

「ふっ……見えたかもしれないな、光明が」

 

 藍はそう言って笑みを浮かべた。

 その一方で、やはり先程の様子を見ていた銀の霊峰の面々が集まって話をしていた。

 なお、ルーミアはアグナのガゼルパンチがクリティカルヒットしていたらしく、未だに起き上がってこない。

 

「それにしても、銀月はあの歳にしてあれですの……」

「……ありゃほっとくと兄ちゃん以上の誑しになるんじゃねえのか?」

 

 幼い銀月の言動に、恐ろしいものを感じて将来を案じる六花とアグナ。

 ただでさえ将志一人で大騒ぎをしていると言う現状。

 だというのに天然誑しがもう一人増えるかもしれないという事実に、その表情はげんなりとしている。

 

「つまり、お師さんの女誑しは魂に刻み込まれているレベルだった、という事でありますなぁ」

「きゃはは……ひょっとしたら、将志くんも六花ちゃんが仕込むまでもなくこうなってたのかもね……」

 

 遠い眼をして呟く涼に、愛梨は乾いた笑みを浮かべることになった。

 

 

 

 

 それからしばらくして、紫が何とか息を吹き返した。

 紫は気を取り直して一つ咳払いをすると、男二人に話しかけた。

 

「ところで、将志、銀月、ちょっと試してみたいことがあるのだけど、良いかしら?」

「……何だ?」

「……どうしたの?」

 

 紫に話しかけられ、二人は紫の前にやってくる。

 

「もしかしたら、銀の霊峰の神社に神主が出来るかも知れないと思ってね。銀月は霊力も結構高いし、将志との相性も良い。だから、将志の分霊を降ろせるんじゃないかと思うのだけど?」

「……どういうこと?」

 

 紫の言うことの意味が分からず、銀月は首をかしげた。

 それに対して、紫は噛み砕いた説明をする。

 

「貴方の中に神様が入れるんじゃないか、ってことよ」

「入ったらどうなるの?」

「その神様の力を借りられるわ。将志だったら、守り神と戦神それから料理の神様の力ね」

「……だが、俺の力や経験をそのまま移したりしたら恐らく体が耐え切れんぞ?」

 

 紫に対して、今度は将志が質問をする。

 将志は実際に自分の分霊を降ろした人間を見たことが無いため、どうなるかが分からないのだ。

 

「それは当然、出来ることには限度があるわ。強い力を体に詰め込むと、他の事が犠牲になる。例えば、将志の経験を最大限に引き出したら、運動能力や神力の恩恵はわずかしか受けられないわ。その逆も然りよ。この使える量は修行によってどんどん増えるはずだから、使いこなしたかったら修行をすることね」

「じゃあ、どうやって神様を中に入れるの?」

「基本的には祈れば出てくるけど……まあ、その辺りの祈祷の作法とかは後で教えるわ。まずは出来るか出来ないかを確認しましょう? それじゃ銀月……」

「……む?」

 

 紫が試そうとすると、どこからとも無く銀色の光の粒が流れてきた。

 無数に流れるその光の粒は、銀月の小さな身体の中に流れ込んでいた。

 銀月がしていることといえば、ただ眼を瞑って立っているだけである。

 

「……これは驚いたわね。銀月がただ祈るだけで、将志の力がこんな簡単に流れてくるなんて……」

 

 銀月の様子に、紫は少し驚いた様子でそう呟いた。

 いくつかの手順が必要な神降ろしを相性が良い神とはいえ、いとも簡単にやってのけたのだからそれも頷けるであろう。

 

「……っ」

 

 しかし、しばらくすると銀月は顔をしかめ、光の粒は身体の中に入らなくなった。

 入ろうとしても拒絶されているような状態になり、光の粒は入っていけない。

 

「……ふむ、どうやら俺の力をすぐに引き出すことは出来るようだが、その限界が極端に小さいようだな。これでは出来ても精々身体能力を上げることが出来る程度だな」

 

 将志は銀月の様子をそう解釈して分析した。

 それを聞いて、紫はどこか腑に落ちないといった表情を浮かべた。

 

「う〜ん、銀月ならもっと受け入れられると思ったのだけど……やっぱり、どれもこれも揃ってるって訳には行かないのかしら? まあ、銀月の場合は元の霊力も高いし、何より将志と同じような才能を持っている可能性があるわ。ちゃんと育てていけば、銀の霊峰の優秀な人材になるんじゃないかしら?」

「……要修行、といったところだな。俺の場合は才能と言うよりも日頃の修行が実を結んだようなものだからな」

 

 将志はそう言いながら銀月の肩を軽く叩く。

 それに対して、銀月は頷いた。

 

「うん……頑張るよ、お父さん」

 

 その言葉を聞いて、将志は固まった。銀月の発した言葉の意味を確認しながら、将志は銀月に問いかける。

 

「……なに?」

「だって、僕はお父さんの子供みたいなものって言ってたよ?」

「……いや、それはものの例えで……」

「……だめ?」

 

 少し混乱している将志に、銀月はそう問いかける。

 銀月の眼は純粋な光を湛えたまま、将志を見つめている。その眼を見て、将志はため息をつきながら力なく首を振った。

 

「…………好きに呼ぶと良い」

「……ありがとう、お父さん」

 

 将志の承諾を受けると、銀月は嬉しそうに笑った。

 その様子を、橙はジッと眺めていた。

 

「ねえ、おかあsむぐぅ!?」

「橙、ここでそれは禁句ですわ!!」

 

 橙の口を即座に塞ぎに掛かる六花。

 もし、その言葉がそのまま発せられていた場合、厄介な状況になったことは想像に難くなかった。

 

「ああ、そういえば言い忘れるところだったわ。銀月、命が惜しかったら白玉楼には近づかないことね」

 

 紫はふと思い出したようにそう言った。

 それを聞いて、将志は怪訝な顔で紫を見た。

 

「……どういうことだ?」

「将志、貴方は幽々子に始めて会ったとき、何をされたか覚えていないのかしら?」

 

 紫は薄ら笑いを浮かべながら、それでいて瞳では将志に強く警告していた。

 そんな紫を見て、将志は少し考える。

 

「……ああ、そういうことか」

「ええ。幽々子はきっと銀月を気に入るでしょうね」

 

 幽々子と始めて会った時のことを思い出して、将志は納得した。

 かつて、幽々子は将志を手に入れるために死に誘おうとしたのを思い出したのだ。

 もし、そんな幽々子の前に魂のレベルでそっくりな銀月が現れたら、どうなるかは容易に想像できた。

 

「ねえ、どうかしたの?」

 

 そんな二人に何も知らない銀月は問いかける。

 

「……いや、何でもないさ」

「ええ、そうよ。とにかく、少なくとも私や将志が大丈夫と判断するまで白玉楼に行っては駄目よ?」

 

 二人は銀月を不安にさせないように幽々子のことを教えず、再び白玉楼に行かないように念を押した。

 

「うん、わかった」

 

 それに対して、銀月は素直に頷いた。

 

「大丈夫、他の人に殺されるくらいなら私が食べ」

「テメェもう黙ってろ!!」

「ぎゃふん!!」

 

 復活して銀月に話しかけるルーミアに、アグナが遠心力をフルに使った強烈なローリングソバットを決める。

 アグナの脚は鳩尾に刺さり、ルーミアは二、三回床を転がってうつ伏せに倒れた。

 そんな二人を尻目に、愛梨が思いついたように手を叩いた。

 

「あ、そうだ♪ みんなで銀月くんの歓迎会をしようよ♪」

 

 それを聞いて、六花が微笑を浮かべて頷く。

 

「良いですわね。となると、材料の調達をしないといけませんわね。私が行ってきますわ」

「……猫に食材を取られないようにな」

「……分かってますわよ」

 

 将志の言葉に、六花は少し苦い表情を浮かべて頷く。

 何故なら、六花が人里に入ると何処からともなく猫が寄り集まってきて、六花を先頭とした大行列が出来るからである。

 おかげで六花は買い物の度に裏路地に入って猫を振り切らないといけないのであった。

 

「ルーミア殿、そこで伸びていないで準備を手伝うでござるよ」

「うう〜……お姉さま、激しい一撃だったわ……」

 

 涼は床に伸びているルーミアの頬を指で突いて起こす。するとルーミアは腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。

 二人は大勢で囲める長机を部屋の真ん中に置き、準備を始める。

 

「……さて、俺は今ある食材の仕込を始めるとしよう。アグナ、頼むぞ」

「おう、任せろ兄ちゃん!!」

 

 将志は肩にアグナを乗っけると、台所へと歩いていく。

 すると、その後ろを追いかけるように銀月がトコトコとついていく。その様子は、親鳥についてくる鴨の雛のようであった。

 

「……将志もいきなり随分懐かれたものだな」

「本当にね。まるで本当の親子みたいに見えるわ」

 

 藍と紫はそれを微笑ましい眼で見守る。

 そんな藍の服の袖を橙が引っ張る。

 

「藍さま、私はどうすればいいの?」

「私達はお客さんだから、ここで待っていれば良いさ」

 

 橙の質問に、藍はしゃがみこんで橙と眼を合わせて頭を撫でながら答えた。

 

 

 

 リズミカルな包丁の音が台所に響く。

 将志の手元では、次々と食材が切られていく。

 その様子を、銀月は少し離れたところから眺めていた。

 

「……どうした、銀月?」

 

 視線に気付き、将志が声をかける。

 すると銀月は躊躇いがちに答えを返す。

 

「その、やることがなくて……だから、ここで見てて良い?」

「……ああ、構わんぞ」

 

 将志はそういうと、次々と下ごしらえをしていく。材料を切り、鍋をかき混ぜ、フライパンで炒める。

 その一連の動きは、銀月の眼には踊っているように見えた。

 

「……お父さん、楽しそう」

「……実際に楽しいからな」

 

 銀月の呟きに将志は調理をしながら答える。

 それを聞いて、銀月は期待に満ちた視線を将志に送る。どうやら父親と認めた相手と同じことが出来るのが嬉しいようである。

 

「それ、僕にも出来るかな?」

「……料理を覚えたければ教えよう。その他にも、お前がここで生きていくために必要なことは全部教えてやるし、知りたいことがあれば皆に聞けば良い。覚えることは沢山あるが、まあ慌てずに覚えていくが良いさ」

 

 将志はそういうと、洗い桶で包丁を洗って布巾で水気を拭き取る。

 どうやら一通りの仕事は終えたらしく、後は六花の帰り待ちとなったようだ。

 

「……お父さん……」

「……ふふっ、心配することは無い。お前には沢山の手本がいる。それは俺であったり、愛梨であったり、はたまたもっと違う誰かかもしれん。例えお前がくじけそうなときも、きっと誰かが手を差し伸べてくれることだろう。だから、そう焦るな」

「でも、みんなの期待に応えられなかったら……」

 

 銀月は不安そうな表情で将志の紺色の袴を握り締める。余程不安なのか、その手が白くなるほど力が込められていた。

 そんな銀月の頭の上に、将志は手のひらを優しく置く。

 

「……考えすぎだ。良いか、紫によれば、お前は俺と同じくらいの才能がある確立が高いと聞く。つまり、少なくとも俺と同じくらいのことが修練を積めば出来るということだ。それに、俺と違う部分が俺に劣っているとも限らんだろう? だから、お前はお前なりに頑張れば良い。後のことは俺が引き受けてやるからな」

「……うん、分かった。僕、頑張るよ」

 

 そう話す銀月の眼は、決意を込めたとても強い光を宿していた。

 

 

 

 

 余談ではあるが、その後開かれた歓迎会において銀月が早速将志の地獄饅頭に直撃して死線を見たことと、怖いもの見たさに饅頭をかじった門番が救済の無いまま昇天しかけたことを追記しておく。

説明
銀の霊峰の仲間入りを果たし、銀の月の名前をもらった少年。彼は、まず仲間達に自己紹介をすることになった。
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コメント
笑えば良いと思うよ……正直自分でも考えてから苦笑しか出ませんでしたもん……(神薙)
クラスター・ジャドウさん:読み返してみると、案外酷いことになってますね……(F1チェイサー)
神薙さん:え〜っと、これに対して私はどう対応すればいいのでしょう?(F1チェイサー)
…こうして、「将志の(義)息子・銀月」がここに誕生したのであった。しかし、銀月の天然誑しっぷりが危惧されていたが、原作開始時間軸位になると、次第に危惧が現実の物になってくるんだよなぁ…。(クラスター・ジャドウ)
引かれあうっていう所で思わずホモォ…な事を考えてしまった俺って…(神薙)
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