訳あり一般人が幻想入り 第12話
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「zzz……zzz……」

 

 小悪魔は図書館の所々にある椅子の一つに寝ていた。あの時に引っ込んだ睡魔がまた小悪魔に襲いかかり、少しだけならと睡魔の侵攻を許してしまったのだろう。隣には山積みになっている本を乗っけている台車があった。

 

『何!? 何!!? 何!!!? 何ィイィィ!!!?』

「zzz……んえ?」

 

 刹那、遠くから誰かの叫び声が小悪魔の耳に届き、ぼんやりとした意識の中、小悪魔は起きた。

 

『何、なん、だよぉォォォォォォ!!!!?』

「え!? 一体何があったの!?」

 

 小悪魔はただならないことが起きたと感じ、先程までの眠気が吹っ飛び、意識を完全に現実世界に戻して叫び声がした方向に飛んでいった。

 

 

 

第12話 Knowledge and shady girl

 

 

 

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「遅い。メイド妖精より遅いわ」

 

 掃除を終えて戻ってきた横谷に、労いの言葉ではなく批評の言葉をかける咲夜。横谷は顔をしかめながら言い訳をする。

 

「仕方ないだろ、初めて働く奴と前から働いている奴と比べるな。館内部はムダに広いわ分かりやすい構造になってないわで、トイレを探す時間が増えちまうんだよ」

「……まぁそうよね。私もあなたがメイド妖精より使えるとは思っていないから仕方ないわね」

(じゃあなんで批評したんだよ……)

「因みにその言い訳にかこつけて勝手に小休止したり、手を抜いたりしてないでしょうね?」

「……そんなワケないだろう、ちゃんとやったっつーの」

 

 横谷は反論したが動揺して変な間が生まれてしまった。小休止したことは否めないし主に移動に長時間かけての掃除の疲れで後半はやや手抜きをしていた。

 

「何よその間は」

 

 その間を見逃すこと無く、咲夜は怪しんで問いかける。

 

「……掃除の疲れで反応が遅れただけだ」

 

 とっさに苦しい嘘を言う。更に怪しんでまた問いかけてくるかと思ったが咲夜は問いかけることはなかった。

 

「まぁいいわ。じゃあ次の仕事は……図書館の方に行って小悪魔の補助をあたってもらうわ。あなたは『aggressive』な仕事より『passive』な仕事のほうがいいでしょ?」

「お、おう……」

 

 唐突な本格的な英語発音に横谷はたじろいだが、アグレッシブの反対語を言っているのだろうと大方理解はした。確かに館内を動きまわって掃除するより、図書館で本の整理ぐらいだろうからそっちのほうが楽だろうと横谷は考えた。

 

「じゃあ行くわよ」  

 

 と、咲夜が横谷に同行を促し図書館へ向かい歩き出した瞬間、遠くから何か割れた音が響く。

 

「まさか……」  

「えっ? なんなんだ!?」  

 

 咲夜は思い当たる節があるような顔でキッチンの方へ走りだす。横谷も咲夜の後を追いかける。

キッチンにはメイド妖精が三人、エプロン姿でオロオロとしていた。

 そのメイド妖精の足元には割れた皿が散らかっていた。咲夜はハァ、と一つ溜息を付いたあとすぐに散らかった皿の破片を集める。三人のメイド妖精は必死で頭を下げて謝っていたが、

 

「謝るよりも先に、この破片を片付けることが先じゃないのかしら?」

 

 と、顔を見ずに問いかける。それを聞いたメイド妖精たちは慌てふためきながら一人は咲夜と一緒に破片を集め、残りの二人は頭同士をぶつけるという漫画でしか見たことのないワンシーンをして、箒とちりとりを取りに行った。

 

「ごめんなさい、あなただけ図書館に行って頂戴。メイド長に命じられて来たって小悪魔に言えば分かってくれるから」

 

 咲夜は作業をしながら、咲夜が小悪魔に言うはずの言葉も含めて横谷に言う。

 

「あ、ああ」

 

 横谷は短く返事をしてキッチンを後にする。

 

「はぁ、貴女達ももう少し気が利けばいい……」  

ガシャーン!

「!?」

  

 またも何かが割れる音が響き、横谷は驚いて再びキッチンに戻ると、また新たな皿の破片が固まって佇んでいた咲夜の足元に散らばっていた。

 どうやら立ち上がったときに、キッチンに置いてある無事だった皿を咲夜が触れてしまい落ちてしまったようだ。

 

「あぁ……」

 

 咲夜はやってしまったと言わんばかりに声を小さく漏らす。

 

(……メイドにも皿の誤り……)

 

 十六夜咲夜のようなメイドの名人でも、皿を割ることがある。その道に長じた人でも時には失敗することがあるというたとえ。

 そう書きそうなつまらない((諺|ことわざ))を心の中で呟きながら、同情の目で咲夜を見遣ったあと、図書館に向かった。

 

 

 

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「うっわカビ臭っせぇな。いきなり暗いし、なんなんだここの図書館は……」

 

 横谷は図書館のドアを開けるなり、部屋の中に充満するカビの臭いが鼻に貫き思わず口を滑らす。ここの図書館は日光も窓すらもなかった。

 カビ臭いのも窓を開けて換気するといったことができないからだろう。余談としてここでの「いきなり」は方便で「とても」という意味である。

 横谷は小悪魔を探すために図書館の中を歩き回るが、人間の背丈の十倍かそれ以上の本棚が威圧的にずらりと並んでいるだけで、小悪魔どころか人物もネズミさえも見当たらなかった。

 

「デカ過ぎだろ本棚とかここの土地の面積とか。あとこのカビ臭さもどうにかならないのか……ん? あそこに光が……」

 

 鼻に来るカビの臭いに苛立ち、ブツクサと文句を言っていると、奥からぼんやりと淡いオレンジが目に入る。横谷はそれを頼りに歩く。

 

「段々光が強くなってきたな。それに比例してカビ臭さも強くなってきたが……」

 

 鼻をつまみたくなるような臭いを我慢して進むと、ようやくその光の光源が見えた。スペースが何故かここだけ円形に広く取られ、その周りにいくつかのランプが一つだけある長テーブルを囲うように照らしている。

 が、ランプの内回りに本が山積みになって、本来の意味として使われていないように思えた。

 

(なんだあれは……)

 

 横谷は怪しんで本という塀に囲まれた城に近づく。

 

「後ろにいるのは誰」

 

 刹那、その城の中から少女の声が横谷に問いかけてくる。その声は小悪魔の声ではなかった。横谷は動揺して体が固まる。

 

「そのまま黙ってるつもり?」

 

 少女はさらに問いかける。横谷は黙っているというよりそこから声が出てくるとは思わなかったので言葉が出ないだけだったが、このままだと不審者だと誤解されると思い、声が出ている方に歩み寄りながら返事をする。

 

「あ、えと、俺は横谷優で……」

「これ以上近づかないで」 

「え?」 

 

 横谷は足を止める。次の瞬間、上から光る玉が顔をかすめていった。

 

「……へ?」

 

 横谷は恐る恐る顔を見上げる。見ると多数の光弾が横谷に向かって落ちてきていた。

 

「うえぇぇええ!?」

 

 横谷は必死に避け一目散に逃げる。

 

「何!? 何!!? 何!!!? 何ィイィィ!!!?」

 

 何かのトラップに引っかかったのか、それとも本の城に居る少女に何かしらの逆鱗に触れてしまったのか、そう考える暇さえも惜しいぐらいに頭はパニック状態になる。

 

「何、なん、だよぉォォォォォォ!!!!?」

 

 左右に走る。或いは体をくねらせて間一髪に、光弾に触れるか触れないかギリギリに避ける。また或いは受身また或いはジャンプ、と無意識に避け動作と逃げ動作を繰り出し、落ちてくる光弾から逃げ続ける。

 

「アッ!」  

 

 しかし足元を見ずに逃げ回る結果、放置してあった本に蹴躓き前のめりに倒れこんでしまう。

 

「くっ!」

 

 すぐに上体を起こし、後ろを振り返る。

 

「うわっ!?」

 

 今度は青白く光る先の尖った光弾が顔をかすめる。横谷は恐怖のあまりに体が強ばり、その場から動くことができなかった。

 

「一体どうやってここに侵入したのかしら。まさかあの泥棒みたいに飛んできたわけじゃないわよね」

 

 本の城から現れた少女が、古書らしきものを持ちながら横谷を見遣る。

 長い紫の髪を垂らし、先にはリボンでまとめ、ドアキャップにも似ている三日月の飾りをつけた紫色の帽子をかぶり、紫と薄紫の縞模様のワンピースと薄紫のケープを羽織っている。

 

「な、なにがあったんですかぁ〜!?」

 

 奥から小悪魔が慌てた様子で現れる。横谷の叫び声が小悪魔の耳に届いたのだろう。

 

「パチュリー様、さっきの叫び声は一体……あれ? 優さんなんでここに?」

 

 小悪魔はキョトンとした顔で横谷のもとに近づく。

 

「パ……チュリー?」

 

 横谷は小悪魔の言葉を反復する。記憶の片隅にあるその名前が記憶の中から一気によみがえる。

 

「あいつが……動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジか……」

「なんで私の名前を知っているのよ。それにその((渾名|あだな))も」

 

 パチュリーは怪訝な顔で横谷を見る。

 

「小悪魔、貴女はこの男のことを知っているようね。一体誰なの?」

「はい、この人は……」

 

 状況がまだ飲み込めないままに小悪魔は横谷の事情を説明する。

 

 

 

 

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「ふぅん、こんな男を雇うなんてレミィの身勝手も目に余るわね、よりによって外来人をここに寄越すなんて」

 

 ひと通りの説明を聞いたあと、パチュリーはレミリアの傍若無人さに呆れていた。その顔はまるでわんぱく坊主に振り回されている親のような顔つきだった。

 その様子にレミリアのワガママに事あるごとに巻き込まれて迷惑してることが目に見えた。

 

「まぁ、私の読書の邪魔をしなければ誰だっていいわ。で、あなたはここに何をしに来たの?」

 

 パチュリーはレミリアのいつものことと流して、横谷に問いかける。

 

「あ、俺は小悪魔の補助に当たれと咲夜が……」

「そ。じゃあ小悪魔、後は頼んだわ」

 

 パチュリーは面倒くさそうに返事をして、全て小悪魔に任せて自分はもとの本の城に戻る。

 

「あ、はい、わかりました。じゃあ行きましょうか」

「あ、ああ」

 

 横谷は小悪魔の後ろについていく。その時後ろからパチュリーが横谷を呼び止める。

 

「あなた、よくあの弾幕避けられたわね。といっても、狙ったつもりはなかったけど」

(弾幕? さっきのあの光る弾のことか?)

 

 横谷は先の光景を思い返す。あの時は自分の考えで動いたというより無意識に動いていたに過ぎなかった。

 しかし狙ったつもりはなかったと言っているとはいえ、下手して動いて当たらないものも当たっている可能性は大いにあった。思い返して自分は随分な悪運を持ってたと横谷は今更になって思う。

 

「……火事場のバカ力って奴だろう」

 

 的確だと思う言葉を言い放ち、小悪魔のもとへ向かう。

 

「バカ力……そうね、馬鹿っぽそうな顔してるし」

 

 パチュリーは横谷の歩く後ろ姿を見て悪口を呟いてからまた本の城に戻り、途中だった魔導書を読み続ける。

 

 

 

 

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 大量に山積みされた本が乗っている台車を横谷が押しながら、小悪魔が数冊本を手に取って本棚に戻していく。そんな単純な作業を延々と繰り返していく。

 そんな中、横谷はパチュリーが出したと思われる見慣れない光弾のことを小悪魔に尋ねる。

 

「あの光の弾はなんなんだ。危険な香りがプンプンするんだが」

「ああ、それは弾幕といって、スペルカードを使うときに出てくる弾です」

「スペル、カード?」

 

 横谷は聞き馴れない言葉に反復し、首を傾げる。その様子を見て小悪魔は丁寧に説明をする。

 

「スペルカードというのは、技の名前とその技名の意味を体現した技を考えて、それぞれの技名を契約書形式に記した契約書のようなものです。人間と妖怪、もしくは強い妖怪同士で対決するときに必要以上の力を出して周りに危害を加わらないように考案されたルールなんです。」

「そうか……確かに妖怪が本気の力を人間相手に出したら、人間に負けが見えるのは明白だしな」

 

 横谷は小悪魔の説明を聞いて、合理的なルールだなと関心したが、また引っかかることがあった。

 

「……その弾幕は当たると死ぬのか?」

 

 横谷は恐る恐る尋ねる。いくら力を必要以上に出さないための代わりの攻撃方法とは言え、その光弾が触れただけで死に至ってしまってはルールなんてものが何ら意味を成さない。

 『そこらへんは当たらないように気合なり勘なりで避けること。死んでも当局は一切関知しないからそのつもりで』などと言われたらそれで終わりだ。

 弾幕戦を生き抜く術を知らない者があの時の偶然がそう何度も起こるはずもない。

 

「当たり所が悪ければ死ぬかもしれませんが、追い打ちして殺す、なんてことはルール上禁止されていますから安心してください」

「そ、そうか。なら安心、なのか……?」

 

 横谷は一抹の不安は拭え切れないが一応安堵するとともに、あの時パチュリーの弾幕が万が一当たって死んでしまったら、そう考えて背中から冷や汗が流れた。

 

「それにしても、どんだけ本が置いてあるんだよ……こんなの読みきれるのか?」

 

 話題を((逸|そ))らして未だに慣れないカビの臭いに((鬱陶|うっとう))しさを感じながらも、膨大の量の本に読める時間どころか一生かけてすべて読みきれるのかと疑問に感じる。

 

「確かにまだ読み終わっていない本はありますけど、一日の殆どは図書館で過ごして十二時間以上の読書は当たり前ですから、ここの本をすべて読み終わるのもパチュリー様ならできますよ」

「十……二時間て……」

 

 小悪魔の嘘偽りが混じりない受け答えに呆然とする。

 

「何十年かけて読み終える気だよ。読み終える前に、寿命で人生の本が読み終えちまうだろ」

 

 横谷は皮肉を込めながら、遠まわしに『普通の人間』が読み終えることは無理だと諭すように言う。

 それこそ寝食忘れて読書に没頭するのであれば話は別だが、見た目が小学生の体格で黴臭く光が灯火以外に無い環境の図書館で、その習慣を続ければ確実に虚弱体質になり、いずれ病気をして本を読める状態になれなくなることも考えうる。

 別の考えとして速読というのもひとつの手だが、彼女は魔法使いであり、魔法を使うための陣の組み方や調合薬を作るときの材料に分量または入れる順序など、一読しただけで全て暗記できる代物のもとは――素人考えで――思えない。

 

「あれ? 知らないんですか? パチュリー様はもうかれこれ二百歳超えていますよ?」

「……へぁ!?」

「パチュリー様は魔法使いですから、普通の人間に見えても妖怪なんですよ」

「なん……だと……」

 

 横谷にとって魔法使いは『魔法を使える人間』としか思っていない。某超有名魔法ファンタジー洋画みたく魔法使いでも年は人並みに取ると考えているので、魔法使いを妖怪の種族の中に入っていることや、年をとるのも人より遅いことに驚く。

 

(こんなところで合法ロリの奴に会えるとはな、てことは)

 

 余計な感想を心の中で述べた後、横谷は小悪魔の話からふと考えがよぎり、小悪魔に尋ねる。

 

「じゃあお嬢様はあれで何百歳なんだ?」

「お嬢様は五百歳くらいだと思います」

「ご、五百って……」

 

 人外なのだから人間と同年齢とは思っていなかったとはいえ、あまりにも現実離れな数字に横谷はたじろぐ。見た目は小学校低学年の体格で年齢の桁数が三つなら尚更だ。

 その後一旦冷静になり更に質問をする。

 

「――じゃあ、妹様は」

「え……妹様ですか?……」

 

 その言葉に小悪魔は動揺した。

 

「い、妹様なんていませんよ。ここにいるスカーレット家はお嬢様以外誰も……」

「じゃあなんであの時に妹様、フランだったか? その名前を出したんだ?」

 

 一瞬言葉につまり、目を逸らしてから喋る小悪魔。

 明らかに嘘を付いている行動をする小悪魔に横谷は詰め寄る。小悪魔が自分から妹様の名前を出して、聞かれないように図書館の中に逃げていった光景はさすがの横谷でも覚えている。

 

「なにか……触れちゃいけないことなんか?」

「いや、あの……」

 

 小悪魔は沈黙してしまう。横谷にとってもこれ以上問い詰めることは少し気が引ける所もあった。もしかしたらそのフランという妹は最早故人になって、赤の他人にそんなことを話すのをためらっているのではとも考えたが、それはあらゆる考えの中で一番確率の低いパターンであるとわかっている。

 病死など幻想郷で生きている者としては一番縁遠い人物であり、何らかの戦いで死んだとしてもその人物より強い者がルールを無視して倒した事になる。それは幻想郷の根幹を揺るがすことだ。

 

 これらの考えからフランは紅魔館内、もっと言うなら幻想郷全体として『要注意人物』と察した。

それが読み通りだった場合、何日滞在するのかわからない紅魔館に少なくともその妹様に鉢合わせする可能性があるのだ。

 どんな人物かわからないがそんな人物に会ってしまったら命がないかもしれない。そう思うと聞かずにはいられない。自分の命のために、一刻もこの館から出てこの土地からも五体満足でおさらばするために。

 

「教えてくれよ。言っちゃいけないことなら黙っておくから、頼む」

 

 横谷は小悪魔に頭をさげる。普段は横谷の意地であまり頭を下げてまでの懇願することはないが、命と比べたら意地など((比肩|ひけん))に価するものではないと考えたからだ。

 小悪魔はそんな横谷を見て難しい顔をする。だが一息ついた後、観念したかのように話しだす。

 

「……妹様は、少し気がふれています。それにとても危険な能力を持っています。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。すべての物にある「目」を操り、その「目」を自分自身の手の中に移動させて、それを強く握ることで相手に触れること無く、容易く破壊できます。その能力を持ち、それでいて情緒不安定な性格にお嬢様は危惧して幼い妹様を一度地下室に幽閉しました」

「幽……閉……」

 

 横谷は最後の単語を反復した。

 フランが予想以上に危険な存在であることのより、レミリアがフランを幽閉するということに気持ちが傾いていた。危険な存在のものとはいえ、実の妹を幼い頃から幽閉させるという行動に、胸がつまる思いがした。小悪魔の話は続く。

 

「でも、妹様自身も外に出ようと思っていなかった面もありましたし、ある異変をきっかけに今はしていませんが、幽閉期間が長かったせいか人と触れ合うときに加減ができずに相手を壊してしまうこともあります。ですから優さんのことを案じて話さないほうがいいと思ったんですが……」

「あ? いやむしろ話してくれよ、そんな大事な話。なんで話そうと思わなかったんだよ」

 

 横谷はつっこみを入れる。横谷にとって一番大事な話をなぜ話すのをためらったのか、そのことにただただ疑問に思った。

 相手に触れること無く、弾幕を使うこと無く命を一瞬にして葬る。そんな危険人物が、ここ紅魔館に居る。考えるだけでも不安が((拭|ぬぐ))えないにない悪夢だ。

 

「いや、もしかしたら興味持って自ら会いに行ってしまうかと思って……」

 

 横谷はそれを聞いて眼を閉じて深い溜息をつく。そして鋭い眼光を小悪魔に突きつけながら言葉を返す。

 

「俺がそんな事すると思ってんのか? 俺が自分の首を締めるようなことをする男だと思っているのか、ええ?」

「え、あ、いや、といわれましても……」

 

 小悪魔は横谷の凄みにタジタジになる。

 見ず知らずの外来人がどういった人格なのかわからなかったからこそ、小悪魔なりに心配して妹様のことを話さないという行動に出たのだろうが、そんなことは知ったこっちゃないといった感じに横谷はさらに言い立てる。

 

「そんな話聞いて誰がそんな奴に会いに行くってんだよ。大体その話聞かないで、もしフランに鉢合わせしたらどうするんだよ。殺されてから言っておけばよかったじゃ済まされねぇんだよ! 俺は外の世界に帰るためにいやいや働いてるんだ! ここで妖怪の餌になるために来たんじゃねぇんだよ、わかったか!」

「あ、う……ごめんなさい……」

 

 涙目で小悪魔は謝罪する。他人の理由こそ知ったこっちゃないものだが徐々に語気が荒くなる横谷の剣幕に気圧される形で、小悪魔は無意識のうちに頭を垂れていた。

 

「あ……すまん、言い過ぎた……」 

 

 横谷は小悪魔を見て我に返り、小悪魔から目線を外しながら謝る。

 自分が言っていることは正論だと思ってはいても、相手の親切心を無下にするほど言い立てるつもりはなかった。言い訳ではないが自分でもなぜここまで怒っていたのかわからなかった。

 

「いえ……こちらこそ黙っていてすいません。……そうですよね、こんな話をしてそれでも妹様を見に行こうなんて思う人はいませんよね……」

 

 自分の身勝手な親切が、かえって一人の人間を殺してしまうところだったと猛省しながら、小悪魔は沈痛な面持ちでさらに謝る。

 横谷はなんと言葉を返せばいいのか戸惑った。相手から謝られることに慣れていない横谷にとって、ここまでの謝罪はかえって困らせた。

 今までこのような場面に対面してきたときは、大抵相手は謝らず悪態をついて立ち去るか、逆切れして殴りかかってくるかの二択しか遭遇していない。そのため三択目の対応は持ち合わせていない。頭を掻きながら無言でやり過ごす。

 

「本戻してきますね……」

 

 重い空気に耐え切れなかったのか、そそくさと飛びながら数冊の魔道書を奥の一番上から順に入れていく。

 

「……悪魔の種族なら、罵声か悪態ついてその場から離れろよ」

 

 そのほうがよっぽど悪魔らしいだろ……――横谷は口からも心の中からも呟きを漏らす。

 

「……ん?」

 

 横谷の耳から、物がぶつかり合う不審音が聞こえてくる。どうやら右向かい側の本棚から音が発生している。

 

「パチュリーか?」

 

 横谷はそう言って、未だに止まぬ不審音が出る場所に向かう。

 

説明
◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。
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東方Project 幻想入り オリキャラ 紅魔館 

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