混沌王は異界の力を求める 14
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「ん…ぅ……」

 

ぼんやりとした意識が定まらないまま、フェイトはゆっくりと目蓋を開いた。

 

「あっ、フェイトちゃん」

 

焦点がぶれている視界よりもさきに、聴覚が長年の付き合いの親友の情報を脳へ送ってきた。

 

「んむ…な…のは? はやて?」

 

親友の声を聞いたとたんに、揺らいでいた視界が安定し、そして心配そうにこちらを覗き込むなのはとはやての姿が眼に入った。

 

「よう、起きたか」

 

視界に入る光景に新たな影が挿す、人修羅の姿が眼に入った。

 

「意識ははっきりしてるか? どこか痛むところや軋むところはあるか? あるなら言え、((瞬|まばた))きより短い時間で治す」

 

身体を起こそうとすれば、身体の各部が微かに軋む。だが気になるほどではない。こちらの身を支えながら言った人修羅の言葉を、頭を左右に振ることで答える。本当は少し意識がはっきりしていなかったが、彼の手を煩わせるほどのことではないと思って言っていない。

 

「良好。さて、起きたばかりで悪いんだけど移動だ。ここから脱出する」

 

その言葉に辺りに視線を走らせれば、自分が未だあの赤い世界に居ることに気がついた。

 

「なのは、アリス……ちゃんは?」

 

なのはに尋ねるが、返答が返ってくるよりも先に、大体の予想はついていた。周囲を見回してもアリスの姿は無い、周辺のどの破砕痕も既に砂煙は完全に収まっている。そして自分が気を失うときには居なかった人修羅の姿がある。

 

「人修羅さんが追い払ってくれたよ」

 

やっぱり、と上半身を持ち上げ、空間に魔力刃を突き刺し穴を開けようと奮闘している人修羅の背を見た。

 

「人修羅さん、有難う御座います。なんだか今回、人修羅さんに頼ってばかりだよね、私たち。外の敵の殆ども人修羅さんが倒してくれたんでしょ?」

 

「やっぱ硬ってえ……ん、ああいいさ別に、流石にあいつらだけじゃ四桁の敵は捌ききれないからな。そもそも俺はそういうときの為にあそこに居たんだ」

 

だが、と彼は空間を噛みギチギチと音を立て、火花を上げる刃を無理やり動かしながら言った。

 

「正直俺は、今のお前を見て納得できない」

 

「え?」

 

「アリスは確かに強い、だが強いといってもだいそうじょうの奴と強さも戦闘法も大して変わらん程度だ。能力制限があるとはいえお前ら三人が同時に掛かって倒せない相手じゃないんだよ」

 

人修羅が肩越しにこちらを見た。金の水晶のような瞳が私の姿を映している。

 

「少なくともお前が気を失わされるような相手じゃない」

 

人修羅の言葉に何も返答できず、無言で俯いてしまう。視界の端で同じようになのはもはやても俯き、無言となっていた。その様子に彼は軽く息を吐き、視線を前に戻すと再び刃を動かす作業に取り組んだ。

 

「なんでアリスに苦戦したんだ?」

 

手を緩める事無く、前を向いたまま、刃を動かすまま、人修羅は言った。

 

「それはっ……」

 

「人間そっくりだったからか? 違うよな。それもあるだろうがそれだけじゃないだろう」

 

顔を跳ね上げたこちらの言葉を塞ぐように彼は言った。

 

「アリスがお前たちに一切の悪意を向けなかったからだろう? 敵意も、殺意も、害意も、反意も、悪意と呼べる一切が無い。だがそれでも無感情ならよかった、機械や人形のようにな」

 

人修羅の肩が僅かに震えた、顔が見えないから解らないが恐らく頬を歪めたのだろう。

 

「だが違う、アリスがお前らに向けたのは好意。興味、好奇心、笑顔。言葉を除けば年相応の少女にしか見えない」

 

人修羅が頭を振った。

 

「やさしいんだよね、お前ら基本的に」

 

「………」

 

「非殺傷設定なんて物がある世界だから、見敵必殺があたりまえの世界かとおもったんだがな。傷つかないんだし」

 

人修羅が口を閉じるとその場に嫌な沈黙が降りた。魔力刃と空間が起こす摩擦音だけが響いていた。

 

「悪意の無い敵に非情になれない。悪癖だな、直さなけりゃお前らだって、死ぬぞ?」

 

人修羅が再び肩越しに振り向いた、その眼には哀れみすら浮かんでいた。

 

「でもっ……! そんなの、あんまりじゃないですか……、あんな娘に、情けを懸けずに倒すなんて」

 

言葉が上手く纏まらず、頭の中で浮かんだ言葉をそのまま吐き出してしまう。情けないが今の自分に言えることはコレくらいしかない。

 

「なに、アリスは既に何度も死んでる。気にすることじゃない」

 

人修羅のその言葉に、思わず身を立ち上げかけたが、軋む身体は言うことを聞かず持ち上げかけた腰を落としてしまった。

 

「それでもっ……」

 

「悪魔の戦いに善悪は無い、あるのは弱肉強食の生死だけだ」

 

何か言おうとしたなのはを、人修羅が言葉を重ねることでそれを塞いだ。

 

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「お前らの言いたいことは解る」

 

説教は自分には似合わないと思っている。だが言わねばならない。彼女等のことは死んで欲しくない程度には気に入っているし、知己の仲の人物が殺されるのは悪魔になっても気分がいいものじゃない。

 

「俺も数年前は人間だった身だ、良心が咎めるのは解る」

 

知己の人物が死ぬのは辛い。

 

「そんな物は日常に放り込んでおけ、戦場に持ち出してくるんじゃ無ぇ」

 

だが、あの時はどうだっただろうか……?

 

「前に立つものは皆敵だ」

 

 

『世界が必要としてたものは……あそこには無かったのよ』  『こんな世界で……助けてくれるヤツなんかいるもんか』

 

 

あのときは、何を考えていたんだっけ……?

 

「戦場で立ちふさがるなら敵だ、善悪感情など関係無い。自分の意見なんて誰も聞いちゃくれない」

 

 

『……わたしたちは、もう友ではない』  『なんで…なんでオマエはいつも、オレの邪魔ばかり…』

 

 

あれ……?

 

「道が((違|たが))えばそれは敵だ。派閥が((違|たが))えばそれは敵だ。目指す物が((違|たが))えばそれは……敵だ」

 

グラグラと頭蓋の内側で何かが揺れている。意識が振動している。

 

思考と言語が一致しない。脳内で言葉が二重三重に歪む。まるで自分が((二|・))((人|・))、((三|・))((人|・))になったかの様な感覚がある。

 

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いきなりの爆発音。人修羅の声に集中していたばかりに、周囲に対する警戒を怠っていた。それは背後のはやてちゃんも、腰を落としたままのフェイトちゃんも同じだったようで、身を竦ませていた。

だが爆発音自体は集中していた方向、つまり人修羅さんから響いたものだった。

 

「あっ……」

 

先ほどまで虚空に突き刺さっていた彼の魔力刃が無くなっていた。それだけではない、彼の手首から先もごっそりと全て失われていた。

 

「………おっと」

 

彼は右手が爆発したことに一瞬たって気がついた。否、一瞬どころか数秒も経過した後にだが、そんなことは些細なことだ。

 

「………」

 

刃と化した己の魔力によって、手首より先が失われ、それでもなお元の形を取り戻そうと、蠢いている右手に彼は眼を落とす。無表情に。

 

「………おっと」

 

そして数秒後にもう一度そう呟くときには既に彼の腕は元に戻っていた。

 

「制御が甘かったな……」

 

何事もなかったかのように手の平を開閉させながら彼は言った。

 

(なのは、今……)

 

はやてちゃんが念話で話しかけてきた、その理由は分かる。彼の異常な再生力は今更問題にすることではない。

念話は返さず、頷きの形だけを返す。雰囲気からして恐らくフェイトちゃんも気付いているだろう。彼の瞳の色が変化したことに

金色の瞳が一瞬だけ、紅色になり、そしてその直後に黒色に転じ、そして金色に戻ったことを。

 

「ふむ、何か自分でもよく分からんことを口走ってたみたいだ。今の話は戯言だと思って忘れてくれ」

 

右腕を一振りし、彼は虚空に開いた大穴に視線を向けた。先ほどの爆発で空間に生じたもので、その断面は荒々しい。

 

「さぁ入れ。恐らくただの人間が生身でここに入るなんて前代未聞じゃないかな」

 

人修羅さんは言いながら自分の開けた大穴に入っていく、こちらを振り返りもしない。

 

「……うん」

 

一呼吸入れ、彼の背を追う。背後でフェイトちゃんとはやてちゃんが続く音が聞こえた。

 

大穴に脚を踏み入れる。そこに有ったのは赤い世界だった。

だが先ほどまで居た世界のように地や空が赤いわけではない、そもそもそんな物が無いのだ。壁、床、天井全てに深紅の流れがある。血液よりも濃い赤い流れが。

 

「アマラ経絡にようこそ」

 

大仰に手を広げて彼はそう言った。

 

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「退屈だねー、セデク……」

 

「そうですねぇ、ピクシーの姐さん」

 

ヘカトンケイルを逃してからは襲撃も無く、手持ち無沙汰にホテル・アグスタ正面玄関の柱のうちの一本に、背を預けた状態で座り込んでいるメルキセデクと、その彼の頭の上で寝っ転がっているピクシーは無表情に空を眺めていた。

 

「我が主はまだ中から出てきませんか?」

 

「んー……人修羅なら、もう多分出てもおかしくは無いと思うけど、出てきてないんだよね、まだ」

 

「そうですかー……」

 

再び沈黙する二人。空を緩やかに流れ行く雲を眺める二人。だがそんな一切の身動きをとらずにじっとしている二人のから正面、約一メートルの位置の空間がいきなり歪んだ。

 

「……?」

 

零瞬ともいえる速度でそれに気付いたピクシーと、数瞬遅れて気付いたメルキセデクが裂けようとしている空間に視線を向ける。

 

空間を裂き現れたのは右肩に石柱を背負った姿のだいそうじょうだった。メルキセデクは良い暇潰しができたとばかりに立ち上がり、頭上のピクシーを揺らしながら、だいそうじょうに歩み寄った。

 

「おや、だいそうじょう、貴方は中から出てきたんですか。その肩に担いでいる石の塊はなんです?」

 

虚空から出現したというのにそのことに関してメルキセデクは一切疑問を挟まない、悪魔にとってはいきなりの出現など日常茶飯事だからだ。

 

だいそうじょうが空いている左の手で骨だけの頬を掻きながら言った。

 

「ふむ……戦利品、とでもいうものか」

 

「はあ、随分とでかい物をドロップした奴が居たんですね…」

 

「セデク、たぶんそうじゃ無い、ただ敵を石化させて持って来ただけ」

 

「然り、人修羅殿から内側に入り込めるほどの者が居れば捕獲するようにと、承っていたものでな、それと……」

 

だいそうじょうが左手を右袖に入れ、なにやらゴソゴソ探っている、ピクシーとメルキセデクが疑問の表情を作っていると。

 

「これが」

 

だいそうじょうが何かを掴んだ左手を突き出す。その手のひらに乗せられている物体にメルキセデクは驚愕を、ピクシーは疑惑の表情を浮かべる。

 

「これ……アレですよね、主が数十個ほど所持しているあの……」

 

「うん……でも色がおかしいよ、こんなの人修羅が持ってるヤツのなかで見たこと無い…」

 

「この蟲、どうやらこの建物の地下からコレを盗み出そうとしていたようだったのでな。だがそもそも人間の手にコレがあるはずが無いのだ」

 

だいそうじょうが握っていたそれを再び袖に収める。

 

「まぁ、コレについてはわし等では適当な判断が出来ぬ、人修羅殿の判断を仰がねばならんな」

 

「まぁそうだねー、人修羅意外でそれに詳しいのは閣下くらいだしねぇ………あの人が素直に教えてくれるわけないし」

 

「では、主が戻って来たら考えましょう、次に……だいそうじょう、その肩の上の人蟲を如何する気ですか? 主からは何か言われてます?」

 

メルキセデクの問いにだいそうじょうは頷き答えた。

 

「うむ、人質として役立てろ、俺の許可は必要ないから、と」

 

だいそうじょうの言葉を聞きピクシーが勢いよくメルキセデクの上で立ち上がった。

 

「じゃあ人修羅が戻ってくるまでに、それ、片付けちゃおっか」

 

言って、ピクシーはメルキセデクの頭から飛び上がり、ふよふよと飛びだした。

 

「おや? 姐さん、どちらに行かれるので?」

 

「んー、その蟲を引き取ってくれる人の所? かなー」

 

「それは………彼女等に言わなくても良いことなので……?」

 

メルキセデクが遠目でスルトと何か話しているシグナムを見た。

 

「え、何で? 言う必要ある? 色々首突っ込まれて面倒になるだけでしょ? ほら、二人とも早くあたしについてくるっ!」

 

そう言ってピクシーは森の中へ入って行ってしまった、だいそうじょうとメルキセデクは一瞬顔を見合わせる。だいそうじょうは苦笑いとともに肩の荷物を背負い直し、ピクシーの後をすぐに追った。メルキセデクは

 

「いいでしょうか本当に……」

 

数度首をかしげ、しかし同じようにピクシーを追った。

 

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ホテル・アグスタからやや離れた森林の中、それなりの距離があったために、先の人修羅の『ゼロス・ビート』の射程内に入ることの無かったその場所では、数分前から地面に座り込み、頭を抱え小刻みに震えながら、その場を動こうとしないルーテシアと、それを必死に連れて行こうとするゼストの姿があった。

 

「ルーテシアッ! ここは危険だすぐにでもあの連中がここを探知するやも知れん!!」

 

「―――――いや……ガ…リュ…が………い…や………」

 

「ぐっ……!」

 

ホテル・アグスタへガリューが向かい、最後に通信を送ってから既に数十分は経過している、それに先にホテル内へ侵入したというアリスも一向に戻ってくる気配が無い……いっそルーテシアを抱えてここから退避すべきだ。

 

ゼストが数瞬でそこまで思考を走らせると、ルーテシアを抱える為に、彼女の肩に手を置いたとき。

 

「―――!?」

 

前方に強大な闘気を感じ、思わず反射で己のデバイスである槍を復元、構え、反応すらよこさないルーテシアを守るように半歩前に立つ。

 

「へぇ、人間にしては反応速いねぇ、元はどこかの軍人さんかな?」

 

目の前、二メートル地点にそれはいた。薄い羽根を背から生やした小さな人型。スカリエッティの下で召喚されているのを何度か見たことがある。確かピクシーという最下級の悪魔だったはずだ、だが、

 

(なんだ……この威圧は……?)

 

その小型の体から発せられる威圧は、とても最下級悪魔が発せられるものでは無かった。その異常ともいえる圧倒的な威圧感がゼストの肌にピリピリとした幻痛を与えている、少しでも気を緩めれば、本能が目の前の存在に対して攻撃を仕掛けてしまいそうだ。スカリエッティのところで見たスカディやアルビオンでさえここまでの威圧感は無かった。

 

「姐さん、威圧しています、抑えて抑えて」

 

その威圧感の所為で、ゼストはピクシーの脇に二体の悪魔の姿があるのを知覚できておらず、声を聞き始めてその二体が居ることに気がついた。脇の二体は恐らく一対一なら勝利の目が見える、だが中央のピクシーだけはどう逆立ちしても勝てる気がしなかった。

 

「あれ? 結構抑えてたんだけどな………あ、ごめんねっ! 怖がらせちゃったみたいで」

 

ピクシーの闘気が急速に静まっていく、緊張感の途切れにゼストは全身から一瞬で汗が吹き出るのを感じ、自身を無理やりにでも落ち着かせる為に声をひねり出した。

 

「貴様等、時空管理局の手のものか……?」

 

ゼストの問いにピクシーがフフン、と鼻を鳴らし小さな胸を張ると、答えた。

 

「違う違う、あたし達は一応の協力関係にあるだけだから、あんた達がなんもしなきゃ別に何もしないよ。ここにいるのはあたし達の判断、だから別にあんた達をひっとらえて突き出す……なんて事はしないから安心しなさい」

 

「あたし達って、ほぼ姐さんの独断じ――――――」

 

右隣にいた甲冑に身を包んだ悪魔がにぶい衝撃音とともに蹲った。

 

「うるさい、ちょっと静かにしてて、物理的に」

 

ピクシーは倒れている悪魔こちらに向き直り、話しかけてきた。

 

「あたしはあんた達に質問することがあるからここに来たの。必要なことだけ答えてくれればそれでいいの」

 

「それで……こちらに何の利があると?」

 

「ん? あれ、これあんた達のじゃなかったの?」

 

ピクシーが顎でしゃくると、彼女左隣から骸の体の悪魔が進み出てきた、そしてその肩に担いでいた石柱を前へ突き出した。ゼスト眼を細めてそれを見るが何なのか理解できない。故に先ほどの問いに対し否定の言葉を述べようとしたとき。

 

「ガリューッ!!!」

 

背後のルーテシアが叫ぶ声が聞こえた、思わず振り返るとその顔は焦燥と恐怖が混ざり合った顔から、深い絶望と悲嘆へと切り替わっていた。

 

「おっ、なんだやっぱりそうじゃん。最後まで答えてくれたら、これは五体満足、元気百倍な状態で返してあげる」

 

悪魔の申し出に、右脚にしがみ付いて震えているルーテシアの反応もあり、ゼストは頷くしかなかった。ルーテシアはとある事情から感情をロックされており、通常は無表情なのが主だ、ゆえここまで感情が表に出てくるのは稀なことだ。

 

「オッケオッケ、素直なのは良い事だよね。じゃあ一つ、ここに送られてきた悪魔はあんた達の差し金?」

 

問いにゼストは言葉を返さず首を左右に振ることで応じた。

 

「二つめ、悪魔はあんた達が召喚したわけじゃない、じゃああんた達は何でここにいるの?」

 

「それは―――――」

 

ゼストは一度口を閉じ言葉を選んで言い直した。

 

「それは、貴様等に蹂躙された悪魔どもの主からサポートをしてくれと頼まれたからだ」

 

「へぇ、三つ目、その主っていうのは、ジェイル・スカリエッティで間違いない?」

 

「肯定だ」

 

「うんうん、結構結構じゃあ四つめ、あの建物の内に魔人が現れたんだけど…あれはあんた達の知り合い?」

 

魔人。恐らくアリスのことだろうとゼストはあたりをつける。彼女達とは少し前にたまたま出会ったのだが何故か、アリスには

 

「死んでるおじさんだぁ!」

 

という理由で気に入られ。保護者の二人からは

 

「同志か」

 

と、よくわからない理由で気に入られてしまい、たびたび行動を共にすることがあった。

 

「ああ、その魔人とは面識がある」

 

「ふーん、まいいや」

 

「………」

 

「うしっ! じゃあ最後、あんた達これがなんだかわかる? こいつが盗み出そうとしたものだけど」

 

言葉とともに、石化ガリューを担いでいた悪魔が、何かを突き出してきた、それはまるで硬質な蟲のようだが、作り物なのか身動き一つしない、無論ゼストの記憶には無い、ちらと脚元のルーテシアを見るが、彼女も震えながらも小さく首を左右に振った。

 

「あっれ、あんた達も知らないのか………嘘をついてる訳じゃないみたいだし、うーん……ま、いっか後で人修羅に聞いてみよ、それじゃ約束どおり、こいつは返してあげる、だいそうじょう」

 

「御意」

 

骸の悪魔が応じ、石化したガリューを地面に置き、骨だけの両手を合わせ唱えた。

 

『常世の祈り』

 

次の瞬間、石だったガリューの体がギシギシと、音を立てながら元に戻っていった。

 

「――――――――!!」

 

復活したばかりのガリューは初めは頭を振ったりしていたものの、そばに骸の悪魔がいることに気がつくとすぐさま、飛び上がり構える、だが。

 

「ガリュー、大丈夫、大丈夫だから…戻って…」

 

ルーテシアがガリューに呼びかける、するとガリューは数瞬迷ったもののルーテシア手甲へ戻っていった。

 

「さて、あんた達はおそらく管理局の奴等には召喚師として感ずかれてる。でもまだ見つかっては居ないみたいだから早めにどっか行っちゃいなよ。この場でこれ以上何かする気なら、こいつらがあんたたちを止めるよ」

 

「女史は何もせぬのか―――――」

 

今度は骸の悪魔が沈んだ。

 

「うるさい、あたしは基本サポート方なの、まぁいいや、それじゃーね、次は良い戦場でね〜」

 

言うとピクシーはホテル・アグスタの方へ飛び去ってしまう、そしてその後をふらふらしつつも、甲冑の悪魔と骸の悪魔は追った。

 

「ふぅ………」

 

緊張からの開放ゆえ、ゼストは己が深く息を吐き出すのを抑えられなかった、そこでゼストは初めて自分が未だに攻撃の構えを説いていないのに気がついた。

 

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(気まずい……)

 

はやては心の中で大きな溜め息を吐いた。無理もないだろう、だが実際の溜め息を吐くことなど出来ない。

 

深紅の経路、アマラ経絡という名前の所を歩き続け早数十分、それまでに交わされた会話といえば、ここに入った直後に人修羅の言った。

 

「言っておくが、武装は解くなよ、ここ結構体力使うから」

 

という無表情で言われた警告の後は誰も何一言口を利いていない、女三人、男? 一人居て誰も何も話していない。

人修羅の雰囲気がそうさせている。彼は先ほどの魔人の世界からこちらに入ってから無表情を貫き通しており、それが場に何ともいえない沈黙を発生させていた。

 

(なんか喋らんと……)

 

そう思い、最後尾に居たはやては口を開きかけたその瞬間。

 

ガアッ!

 

(ッ!? 獣の声!?)

 

いきなりだ、いきなり獣の咆え声と重圧がはやての背後から襲い掛かった。

 

「くっ!」

 

復元状態のままのシュベルトクロイツを咄嗟に背後に振りぬく、衝撃、シュベルトクロイツの杖先と、飛び掛ってきた獣の大爪とが衝突し奇音を生む。一瞬の押し合い、だが獣はすぐさまその身を((翻|ひるがえ))らせると、一メートル程の後方に着地した。

 

「チィ フイヲウテタトオモッタガ」

 

「なんや! あんたは!」

 

そこに居たのは全身を硬質な青白い毛で((覆|おお))った巨大な狼だった、ザフィーラよりも二周りは大きい、狼の鼻先がはやての胸下ほどまでに高いのだ。

 

「フン サスガアルジガメヲカケルニンゲン カンタンイカヌ」

 

やや片言だが青狼は眼と口の端から白い炎を洩らしながらも流暢に言葉を紡いでいた。

 

「せあっ!!」

 

そのとき背後で新たな激突音が響いた。はやては青狼への牽制の為、振り向こうにも振り向けず、激突音を分析するだけにとどめた。音からしてぶつかったのは氷塊と拳。ならば受け止めたのは人修羅だろう、なのはもフェイトも、氷塊も拳も戦闘には用いないと、はやては仮定した。

 

「ふん、これでも駄目か。不意打ちに不意打ちを重ねた二段構え。流石のアンタでも不意打ちの直後にはスキが出来ると思ったんだがな…」

 

「『心眼』舐めんなロキ、こちとら殺気さえ向けられりゃ、例え別世界からの奇襲でも対応して見せるわ」

 

人修羅の身内へ話すような口調に、はやては警戒を解かないまでも、青狼から目を離し背後を向く

 

「惨敗だよ、ったく……ホントにオレはアンタに攻撃を当てれんのか心配になってきた」

 

「ならいい加減諦めろ、息子まで引っ張り出してきやがって、なあフェンリル」

 

「オマエが抜かすな、二千万マッカの借金を踏み倒されてたまるか」

 

「じゃあ頑張れ、俺に攻撃を当ててみろ、そしたら返してやらんでもない」

 

「よく考えたら……いや考えなくてもオマエがオレに条件出すっておかしいだろ……」

 

見ればフェイトよりも長い金色の髪を((靡|なび))かせた男がそこに立っていた。恐らく彼がロキなのだろう、ならばこの青の狼がフェンリルか。

 

「サヨウ、妖獣フェンリルト、キオクセヨ」

 

青狼がこちらの考えを読んだかのように名乗りを上げた。

 

「……オレも名乗っとくか、魔王ロキだ、フロイライン、襲うような形になって悪かったな」

 

芝居掛かった((恭|うやうや))しい動作で男も名乗った。雰囲気は全く違うがその男は、どこかその姿はどこかオーディンに似ていた。

 

「悪かったなお前ら。俺の身内の行楽につき合わせて」

 

ばつの悪そうに人修羅は言った。

 

「つーか、こいつら人間だぞ? 万が一有ったら如何するつもりだ?」

 

「クククッ…気配や身体運びで大体の強さは分かるさ」

 

「ソレニ、オソウマエ、ホエタダロウ? コロスナラ、ホエナイ」

 

言いながらフェンリルはその背にロキを乗せる。その様子を見ていた人修羅が不意にはやて達をむいた。

 

「ほら、時間無いんだろ? 急ぐぞ」

 

軽く手を振り人修羅はなのは達を急かした。その顔には先ほどまであった無表情はいつの間にかどこにもない。

 

(よかった……)

 

何が起こったかは未だによく分からないが、人修羅が元に戻ったのは確かなようだ。

 

「少し、話そうか」

 

少々歩を進めたとき人修羅は唐突にそう言った。

 

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「よく考えたら何も説明して無かったよな、お前らに、ここのこともあいつらのことも、何か聞きたいことはあるか?」

 

人修羅は身体をなのは達の方へ向け、後ろ向きに歩きながらそう言った。

 

「じゃあ……一つええか?」

 

人修羅の言葉に、背後から付いて来るロキ達を見ていたはやてが言った。

 

「ここって一体何なん?」

 

言ってはやては辺りを見回す。あたり一面は全て赤い。

 

「言ったろ、アマラ経絡」

 

「……そやのうて、ここがどういう場所なんか教えてくれへん?」

 

言われて人修羅は数秒の無言で待ったをかけた、そしてその末に口を開いた。

 

「言うならばここは、全世界の血管だ」

 

「全世界の、血管?」

 

「周り見てみろ。何処も彼処も赤い液体が流れてるだろ? それは名をマガツヒと言い、悪魔も含めた全生物、そして全世界を形造っているものだ」

 

「世界を形造るもの?」

 

「まあ、基本的には悪魔の餌になったり、((悪魔召喚師|デビルサマナー))が使うばっかなんだけどな。ああ後、マガツヒは密度が薄くなると、赤から緑に変じてマグネタイトと呼ばれる物になる」

 

そこまで言って人修羅は口を閉じ、一度首を小さく傾げ頷くと再度口を開いた。

 

「脱線したな……。話し戻すけど、世界だって何のエネルギー無しに生きているわけじゃない。ここから送り出されるマガツヒを吸収して生きている」

 

まぁマガツヒを喰ってんのは世界の中心だけどな、と人修羅は小さく付け加えたが誰も聞き取れなかった。

 

「だから、血管?」

 

「ああ、だからお前ら俺から絶対離れんなよ、ここは全世界に繋がっている。幾億万の世界全てを合計した広さを持ってるからな、はぐれたら俺だって見つける自信は無い」

 

人修羅の言葉に三人は無言に人修羅との距離を縮めた。その様子を背後で見ていたロキがケラケラ笑っていたが、人修羅が笑っていない笑顔を向けると、一瞬で大人しくなった。

 

「人修羅さんは、迷わないんですか……?」

 

なのはが笑顔の人修羅に尋ねたが、彼は笑顔から何とも煮え切らない顔へと変じて言った。

 

「ん……前にな、いさ……ある邪神……そう、ある邪神。アマラ経絡に住み着いてた邪神を倒した事があってな、そいつを倒したときに((アマラ|ここ))はまるで庭みたいにに慣れたものになったんだよ」

 

たぶん力を吸収したんだろうなと、人修羅は姿勢を前に戻した。いつもの彼ならそのときのことを嬉々として話すのにと、三人は彼の妙な態度に疑問を持った。

 

「アマラ経絡のことはもういいだろ? 話変えさせてくれ」

 

早口で人修羅は話題の変更を要求した。急な話題の変更に三人は違和感を覚えるも口に出すことはしなかった。

 

「じゃあ……さっきの、あのアリスって娘はいったい誰……何なんですか?」

 

フェイトのその言葉に人修羅は一言で答えた。

 

「悪魔だ」

 

「……それは分かってます」

 

「魔人だ」

 

「……それも分かってます」

 

人修羅は僅かに口を歪ませると話し始めた。

 

「魔人アリス、生い立ちは俺と似たような物だな。人として一度死に、悪魔として、魔人として蘇った、悪魔としては異例の人間の肉体を持った存在だ。俺を除けばこいつしかいない……と思う」

 

それから

 

「あんたは気絶してて見てないだろうが、基本的にアリスは二人の大悪魔、魔王ベリアルと堕天使ネビロスをお供につけてる」

 

そこで人修羅はふと考え込む姿勢をとり、そして最後尾に居るロキに言葉を飛ばした。

 

「なあロキ。俺達が始めてアリス達と接触したのって何処の世界だっけ? ((星神|ホシガミ))の世界だっけ? ((北極星|ポラリス))? あれ((大霊母|メムアレフ))の世界だっけ?」

 

「((北極星|ポラリス))の世界だ。((大霊母|メムアレフ))の世界にもアリスは居たがアレは魂の一部が勝手に形を成したものでおっさんどもとは関係ないし。((星神|ホシガミ))の所にはそもそもアリスが居なかった」

 

「そっか、サンキュ」

 

「礼はいいから金を返せ」

 

「断る」

 

露骨に嫌な顔をするロキを、完全に視界の外に追いやった人修羅は、なのは達に視線を戻した。

 

「ま、アリス達とはその世界からの因縁でな。これまでもちょくちょくぶつかったりしてきたんだよ」

 

言って人修羅は苦笑した。

 

「ここに入る前にも言ったけどさ、次に会ったら((躊躇|ためら))うんじゃねえぞ? 間違いなくもっと強くなってるだろうからな、見つけ次第に張り倒せよ、敵なんだから」

 

明日の天気でも話すように人修羅はアリスを倒すよう言う。

 

「人修―――!?」

 

人修羅のその言葉に異を持ったのか、なのはが口を開きかけた。だが彼女が言葉を言い切るよりも先に、フェンリルが彼女の腰元の衣服を噛み、それを止めさせた。

 

(おっとそこまでだ、嬢ちゃん)

 

なのはの頭の中に声が響いた、ロキのものだ。

 

(こっから先はアンタが踏み入って良い話じゃない。大将に何か言いたいのはよく分かる。だが大将が((敵|・))と認識したヤツは何があろうと倒さなきゃならない)

 

「そんなの……」

 

(クククッ……声出すな、大将に感づかれる。それに言っただろ、何か言いたいのは分かると)

 

フェンリルがなのはの服からか口を離した、口端から白炎を噴いていたはずだが衣服の何処にも焦げ目は無い。

 

(この話題はちょっと訳ありでな、アンタ等も聞いとけ。大将は覚えてるかどうか分からんがちょっと昔にいざこざがあってな)

 

(いざこざ……?)

 

フェイトの声が響く、どうやらロキは念話を人修羅を除く全員に広げたようだ。

 

(まあ、先に一つだけアンタ等に聞きたいことがある。アンタ等だけじゃない向こうの世界に居る連中の誰でも良い)

 

そこでロキは一度言葉を区切り、少々距離の離れた位置に居る人修羅をちらと見ると、再び声を広げた。

 

(大将に、人修羅に一度でも、((名前で呼ばれたこと|・・・・・・・・・))はあるか?)

 

ロキの言葉に、三人は記憶を掘り起こす、だが。

 

(――――)

 

無い、一度も無い。彼は普段から他者を、お前やあんた((等|など))で呼んでおり、ここに居るなのはも、フェイトも、はやても名前で話しかけられたことも、話したことも一切無い。

 

(無いだろ? ならこの話はオマエ等には話せない。オレの口からは話せない……睨むなオマエ等、話したくても話せないんだよ)

 

話したくても話せない? その言葉になのはは首を傾げた。

 

(そうだよ、大将の信用を勝ち取れていないヤツに話せないってことだ)

 

(……どうゆうことや)

 

(言ったろ、アンタ等大将に名前で呼ばれたこと無いんだろ? あの人は自分が信頼した相手は名前で呼ぶクセがあんだよ。本人は気付いてないみたいだがな。仲魔を名前で呼んでるのは聞いたことあるだろ?)

 

(………)

 

(大将は甘いからさ、敵対者以外に聞かれた事は基本的に答えるし、請われれば助けもする、仲良くはしてくれんだよ表面上はさ)

 

(名前で呼ばれないだけで、何で表面上のものだと貴方は言い切れるんですか? こっちに来た人修羅さんを見たわけでもないのに)

 

表面上と言われ、若干不機嫌な声でフェイトがロキに尋ねた、その問いにロキはつまらなそうにこう言った。

 

(オマエ等の世界が大将にとって幾つ目の世界なのか、分かってるか?)

 

その言葉の持つ意味に一同は言葉を失った。

 

(世界一つなんて、大将からしたら絆創膏みたいなものだ。大変お世話になりました、はいさようなら、二度と会うことは無いでしょう。こんな具合でな。……たまにこっちに来るスルトとかからの言葉でアンタ達が幾数の世界を又にかけた組織に組していることは知ってる。だがそんなアンタ達でもこれまでオレ達悪魔の存在を全く知らなかったんだろう? アンタ達が思っている以上にアマラは広い。大将がアンタ達の世界から去れば、二度度会うことは無い。絶対に、永遠に)

 

ロキは大きく息を吸うと、一息で全てを吐き出した。念話内でではない、実際の動作としてだ。

 

(大将にとっては世界は使い捨て、一々信頼なんか持ってたら((限|きり))が無い。その世界で協力してくれる人間というだけで大将は信用はするが信頼は絶対しない)

 

さて、

 

(オレの言葉を聞いてオマエ等が何を思おうがオレには関係ないが、クククッ……さてオマエ等はどうする? 動くも良し、動かぬも良し)

 

ロキの挑発気味の物言いに即座に切り替えしたのははやてだった。

 

(人修羅さんに、直接聞くのはNGなんやろ? せやったらピクシーさんに聞こうと思います)

 

(へぇ! あの最小の暴君に聞くのか、確かにアイツは仲魔の内で数少ない大将にものが言える悪魔だが)

 

(なら、ピクシーさんに聞けば話してくれるっちゅうことか?)

 

(……勇者だなアンタ等、オレなら間違ってもあの妖精に大将のことで何か聞こうとは思わないんだがな……アイツ滅茶苦茶鋭いんだよ、複数の意味で……答えてくれると思うなら聞いてみろ、アイツなら大将の信頼が無くとも話してくれるかもしれない。それにアイツはあのときの当事者だ、オレよりも詳しい)

 

あのとき、当事者。気になる単語が複数出てきたが、それらについて三人が思考を回すよりも先に、前方を確認していなかったなのはが、いつの間にか足を止めていた人修羅の背に衝突した。

 

「わっ! ……人修羅さん……?」

 

「………」

 

人修羅の背に衝突したなのはは、人修羅の名を呼ぶが、彼は歩こうとはせず、右の壁に視線を向けている。

 

「ロキ、ここだと思うか?」

 

彼は壁に視線を向けたままロキへ声を放った。

 

「オレよりもアンタの方がよく分かってるだろ、分かりきった事を聞くな」

 

「ココダ」

 

「そう、お前等は来るか?」

 

「そっちにオーディンの野郎が居るんだろ。むざむざ死にに行けるか」

 

「シカリ」

 

「そうか」

 

「じゃあな、たまにはこっちにも顔出しとけよ。フラロウスのヤツがそろそろヤバイ。アマテラスとウリエルに捕獲されてから眼が死んでる」

 

「知らんわ」

 

去っていくロキとフェンリルに軽口を叩き合い、その姿が遠方の十字路を右に曲がり見えなくなったときに、人修羅は口を閉じ視線の先にある壁を凝視した。

 

「人修羅さん…?」

 

再度なのはが人修羅の名を呼ぶ、今回は人修羅はなのはに視線を向けた。

 

「出口だ」

 

「えっ?」

 

「だから出口だ、たぶんここからホテル・アグスタに出られる」

 

「……ホンマか?」

 

疑わしそうにはやてが人修羅の眼前にある壁を手の平で軽くたたきながら言う。壁からは硬質な音が響いておりとても向こう側に抜けられるものとは思えない。

 

「まあ見てろ」

 

はやてを押しのけ、人修羅は両手を貫き手の形とし、正面の壁目掛け発射、抵抗も無く突き刺した。

 

「そらよ…っと!」

 

そして左右に思い切り引き裂く、硬い音を立てていた壁はその音に反して軟体に動き目の前に巨大な穴を出現させた。

 

「さぁ出来た出来た、行くぞ」

 

得意げに人修羅はそう言い、やはり振り返りもせずに先に行ってしまう。二度目ともなればこそ、なのは達は今度はためらう事無く人修羅を追った。

 

(汝に覚悟と意志と幸いを)

 

人修羅の背を追う瞬間に、三人はそう言ったロキの声を聞いた気がした。

 

-8ページ-

 

ホテル・アグスタ二階―――――先ほどまで来客で溢れていたこのフロアも、本日のメインイベントである骨董オークションを後に控えた現在では、動くものは殆どなかった。

 

だが、そのとき虚空に突如、金の色の瞳を持つ右目が開いた。

 

「………」

 

右目は周囲の状況を把握するかのように数度、瞳を左右に動かした

 

「………」

 

数秒後右目は目蓋を落とし、目を閉じる、だがその代わりとでも言うかのように、今度は空間が縦に切り開かれた、そして、大きく切り開かれた空間の内側から現れたのは勿論、瞳ではなく、複数の人影だった。

 

「よし、アグスタ! 案外近い位置にあったな!」

 

最も早く飛び出してきた人影、人修羅が若干嬉しそうな声を上げた。

 

続いて現れたのは、バリアジャケットからドレス姿に戻ったなのは、フェイト、はやてだった。

 

「……………」

 

最後に飛び出してきたなのは、フェイト、はやては先ほどの人修羅が一方的にいった言葉の意味を頭の中で何度も反復しながら考えていた。

 

(なのは)

 

フェイトが念話だけでなのはに呼びかけた、だが視線は人修羅に覚られぬようにする為か、明後日の方を向いている。

 

(……フェイトちゃん、どうかした?)

 

(さっきのロキさんの話どう思う?)

 

(………)

 

なのはが思わず口元に苦笑いを浮かべる。

 

(今の状況、昔の私たちみたいに、単純じゃないんだよね)

 

(……うん)

 

少々昔、なのはとフェイトはそれぞれが違う信念を持っていた為に、争っていた事があった、そのときはなのはが力技でフェイトを押さえ込んだことで、二人の間に友情のような奇妙なものが芽生えたのだが。

 

(あの時は互いの目的がはっきりしてたし、完全に敵対状態だったんだよね、だから『お話』もできたし、ぶつかり合うこともできたんだけど…)

 

人修羅の場合はそんな単純な話ではない。彼は外面では訓練や任務にも、とても積極的に協力してくれているが、先ほどの会話によれば内面は機動六課と距離を取っており、決して歩み寄ろうとはしないと。

 

(……私たちって「悪魔」っていうものについて何も知らないんだよね)

 

実際その通りなのだ、なのは達機動六課は悪魔というものの生態的な情報は人修羅から聞いているが、内面的、概念的なものは一切知らない。六課が人修羅について知っていることと言えば、数週間前ほどに行われたはやてとの交渉の際「力を求める」と言ったものくらいで、その他については全く知らない。

 

(そういえば……はやて)

 

(ん? どした?)

 

(丁度今なのはと交渉の話になって思い出したんだけど、あのとき言ってた無限書庫閲覧許可のことは結局どうなったの? 私あの後席を外したからよく聞いてないんだけど…)

 

(……? ―――――あっ)

 

フェイトに言われてはやては思い出した。部外者が無限書庫の閲覧を許可されるには少々面倒な手続きを踏まねばならないこともあり、人修羅、及びそれに与する悪魔を一時的に機動六課の預かりとし、その後継人の立場にあるのは、実ははやてなのだ。

 

(そういえば、あれから色々あってすっかり忘れてたけど、幾らなんでも閲覧許可印書が送られてくるのが遅すぎるよね……)

 

なのはのその言葉に、はやては首を傾げた。本来なら一週間もすれば閲覧許可印書は届く、だがはやて名義で時空管理局本局へ送ったものは数週間たつ今でも送られてきていない。

 

(確かに変やね……任務が終わったら一度本部にかけなおしてみようと思う)

 

三人は同時に頷き合う、その様子を見ていた人修羅は三人に言葉をかけた。

 

「なあ、オークションとやらはまだいいのか?」

 

その声にフェイトがはっとした様子で待機状態のバルディッシュに尋ねた。

 

「オークション会場に向かわないと……バルデッシュ、オークション開始までの時間は?」

 

【One hour Twenty-six minutes】

 

「うっわ、結構時間立ってたんか……でもそんな急ぐような時間でもあらへんか」

 

「でも、急いで会場警備に向かわないと……」

 

「じゃあ人修羅さん私たち会場に向かいますから、これで……」

 

「ああ後で」

 

人修羅を置き去りにするかのようになのは達が歩き出す、だが、三人が会場へ向かおうとT字路を直進しようとしたとき丁度のタイミングで。

 

「うわっ!!」

 

「わっ!」

 

T字路を曲がってきた痩躯の人物の内の片方と先頭を行っていたなのはが接触してしまった、両者は流石に転倒はしなかったものの、なのはが痩躯の人物に身を預ける形となってしまった、なのはは一瞬間を置いたものの直ぐに自分の置かれている状況を把握し、文字通り眼前の人物から身を離す

 

「え…あっ、あのすみません!!」

 

「いえ、こちらこそ…って」

 

謝罪の仕合で互いの目が合う

 

「……え?」

 

なのはと痩躯の人物は、思わず合った目を逸らせずにいた。

 

「なのは……?」

 

「ユーノ君?」

 

数年前、共に戦場を駆け抜けた仲間だったのだから。

 

-9ページ-

 

「えっと……ユーノくんは人修羅さんとはお初やったね、人修羅さん、こちらは時空管理局の魔術師の「ユーノ・スクライア」くんと、んで此方が人修羅さんや」

 

「よろしく」

 

「ああ」

 

ユーノが差し出した手を人修羅は取った。

 

「いや、機動六課に人型で強力なアンノウンが加わったっていうのはきいてたけど、まさか今日出くわすとは思わなかったな…」

 

「ユーノ君はどうしてここに?」

 

「ああ、ほら僕、考古学の研究もしててね、今日の骨董品オークションの鑑定を頼まれたんだよ、ヴェロッサも来てるんだけど」

 

微笑むユーノに、なのはは、ふと先ほど念話で話題に上がった無限書庫閲覧のこと思い出し、丁度良い機会だとユーノに尋ねた。

 

「ねぇ、ユーノ君、少し前に六課から無限書庫の閲覧認証依頼だしたよね、あれってまだ時間かかりそう?」

 

「えっ、僕ちゃんと許可出したよ? 六課のほうに、届いてないの?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「は?」

 

「え?」

 

複数の疑問の声が微妙な間を作りながら連鎖した。そのすぐ後ろで人修羅が、「あー、そういや許可貰ってなかったなぁ」みたいな事を呟いているが、この男はいったいこの世界に今の今まで何しに来ているつもりだったのか。

 

「えっ!? ……あのちょっちょっと待ってね…」

 

なのはが慌てた動きで眼前に画面を展開し六課に繋げる。

 

「あ、ヴ「なぁのはあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

なのはが何かいうよりも先に画面からヴィータの凄まじい声が大音量でお届けされた。その音量になのはは思わず後ずさり、周囲の人間も悪魔も数歩引いた。

 

「おいっ!! フェイトとはやてもそこに居んのかっ!!?」

 

「え…あ……いるけど、あの」

 

「だったらいいっ!! おめぇら一体今まで何してやがったぁぁぁぁ!!!!」

 

ヴィータが怒るのも無理はない、なのは、フェイト、はやてはついさっきまで、何のログも残さず魔力残滓もろともロストしていたのだ、怒るヴィータに懸命になのはとフェイトとはやてが、謝罪と言い訳を必死に言い始めた、それらを後目に、人修羅が苦笑いを浮かべるユーノの目前に動いた。

 

「なああんた」

 

「え? ああごめんなさい、つい呆けてしまって」

 

「別にいい、それより無限書庫の閲覧許可はあんたが決めるものなのか?」

 

この悪魔初対面の人間にお前である。仕方が無いが。

 

「うん、一応僕が最高責任者だしね」

 

「この場で許可することは可能か?」

 

「一応可能だけど?」

 

よし、と人修羅が頷く。

 

「ならば今許可を貰いたい、時間はたっぷりあるが無限じゃないんでな、早めに終わらせたい」

 

「……よし解ったよ」

 

ユーノが画面を展開すると、そこに何やら書き込んでゆく、そして。

 

「よし、できた、今回は六課じゃなくてはやての方に直通で送っておくよ、後で確認してみてくれ」

 

「わかった、があんたにはもう一つある」

 

人修羅の言葉に「?」の表情を作るユーノ、だがそのとき人修羅の背後の空間が歪んだ。しかし歪みはすぐに収まり、その代わりに一つの小さな影が歪みから飛び出した。

 

「ハロー人修羅君、なにやらこんな賑やかな所に、ロンリーなボクを呼んでどうするつもりっスか?」

 

一瞬後に現れたのは分厚い本を携えた一匹の小型な白いヒヒだった。

 

「……え?」

 

「よし、あんたにはしばらくこいつを預かっていてほしい、本来なら俺が行く予定だったんだが色々あってな、こいつなら住み込みで寝ずに調査できるはずだし」

 

「始めましてだね人間君、ボクは魔神トート。人修羅君の命令っスけど、しばらくチミについていかせてもらうっスよ」

 

人修羅は未だに怒られ続けているなのは達に目を向ける。

 

「俺は外の警備に戻るから、こいつ等が解放されたらそう言っておいてくれ、じゃトートのこと宜しくな」

 

言って人修羅は駆け出した、ユーノは未だに何が起こったのか思考が間に合っておらず硬直している。

 

「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

人修羅のあまりの会話のテンポの速さに途中置いてきぼりになってしまったユーノだったが、人修羅の背が見えなくなる段階でやっと思考が追いつき、驚愕の声を上げた。

 

「ドンマイっスよ、人間君」

 

トートが人事のように、ユーノの背を叩いた。

 

-10ページ-

 

人修羅はアグスタの廊下を遠慮することも無く駆け抜けた。オークションまでもう時間は無く、人の姿はない故に人修羅は速度を上げて正面玄関へ向かう。無論全力を出して走れば衝撃波だけで大変なことになる為、常識内の速度ではあったが、

 

「………」

 

だが十字路に差し掛かったとき、人修羅はその速度を緩め始め、そして十字路の中央に立つ頃には脚を完全に止めていた。

 

「………」

 

本来ならば、彼はすぐさま外の警備に戻るべきだろう、敵は全て撃退したとはいえ、ヘカトンケイル以上の悪魔や、チェルノボグのように隠密性に優れた悪魔がまたやって来るやも知れないのだから。しかし人修羅は動こうとしない、首を左に向けたまま微動もしない。不意に人修羅が右手を持ち上げ、魔力刃を一瞬で展開した。

 

「そこに居る奴、何が目的か知らんが出て来い、十秒は待つ」

 

言って人修羅はカウントダウンを始めた。

 

―――― 十

 

左の通路は丁度日が差しておらず、暗く何も見えない、だが人修羅はそこに居る何者かがこちらの様子を伺っていることに気付いていた。

 

―――― 九

 

しかし何者も暗がりから出てこようとはしない、人修羅の魔力刃は莫大な光を放っている、こちらが見えないはずが無いのだ

 

「八、七……飽きためんどい、((零|ゼロ))」

 

この男は案外飽き性だ。魔力刃を持つ手を振り上げ、振り下ろそうとしたその瞬間。

 

「待った待ったっ! 止めてくれっ」

 

魔力刃が床に着刃するか否かで人修羅は刃を振り落とす動きを止めた。視線を床から正面に上げて見れば、そこには深緑の長髪を持った長身の男が慌てた様子で立っていた。

 

「……誰だお前は?」

 

魔力刃を展開したまま人修羅は言った。

 

-11ページ-

 

(怖っ……)

 

長髪の男「ヴェロッサ・アコース」は目の前の人物が放つ威圧感に身を振るわせた。

 

彼はクロノやシャッハから機動六課に協力している悪魔、人修羅のことを聞いており、ホテル・アグスタでちょっとちょっかいをかけてやろうと思っていたのだが。

 

「……誰だと聞いている」

 

(話が違うぞクロノめ……!)

 

まあ、彼が味方に対しての態度を聞いていただけで、敵に対してどの様な態度をとるか聞いていなかった所為でもあるのだが。

 

「すまない、僕はヴェロッサ・アコース。時空管理局で査察官をしている者だ。君のことはクロノ君やシャッハから聞いていてね、今日はちょっと挨拶に来たんだが」

 

矢次早に言葉を紡いだ、何とか彼に敵ではないと思わせなければすぐさま首を刎ねられそうだったからだ、それだけの気配を彼は持っている。幸いなことに彼はクロノやシャッハの名前を聞いた辺りから、刃をこちらに向けることはしなくなった。

 

「その査察官とやらが、何故態々俺に?」

 

しかしまだ警戒は解いてはくれないようだ、その証拠に彼は構えこそ解いたものの、相変わらず刃は展開したままだ。

 

「いやなに、かわいい妹分のところに新入りが、しかも男が入ったというなら、どんな人物か確かめてみたくなるじゃないか」

 

「……?」

 

疑問の表情を彼は作った。良し、あと少しで警戒は解かれるはずだ。

 

「はやてだよ、八神はやて。一応これでも彼女の兄貴分でね、六課に対して色々とサポートをしている身なんだよ」

 

「……そうか」

 

言って彼は魔力刃を納めた。良かった、表情はにこやかなままにしておけているが、内心では安堵の息と冷や汗が止め処ない。

 

「魔人 人修羅だ、コンゴトモヨロシク」

 

彼の差し出す手を取る、悪魔だといって若干警戒はしていだが、極普通の人間男性の手だった。

 

「さて、君には色々尋ねたいこともあるが、今は未だ君は任務中だろう? また後で話がしたい」

 

「それは、こちらも望む所だ」

 

「そうかい、それは幸いだ、じゃまた後で」

 

こちらが手を振って彼とすれ違おうとしたときには、既に彼は走り始めていた。

 

「彼がねぇ……」

 

数秒で見えなくなった彼を見送り、ヴェロッサは一人呟いた。

 

-12ページ-

 

ホテル・アグスタ外東側、日の関係で今は日陰で覆われている、ここで建物の影に隠れるように壁に手をついたティアナが押し殺した慟哭を上げていた、先ほどまんまとヘカトンケイルの罠に掛かり、仲間を危険にさらした自分のミスが許せなかったからだ。

 

「っぐ……!!」

 

「ティア………」

 

離れたところでそれを見ていた、スバルは何か声をかけようと、ティアナの下へ歩を進めようとした。だが、そのとき右肩を掴まれた、スバルが肩を掴んだ人物を確認しようと振り返る。

 

「メルキセデクさんと……だいそうじょうさん……」

 

「今は何も言わずにそっとしておいてあげるのがやさしさですよ、スバル」

 

「でも……」

 

「何、彼奴は一人にしておいてやったほうが良い、そのほうが色々整理もつくからの」

 

「………」

 

スバルが踏み出していた足を戻し、ティアナを見守るだけに留めた、その様子を見てメルキセデクはスバルから手を離す。

 

「おっ、ここにいたか」

 

ふとそのとき頭上からピクシーの声が落ちてきた。そして身体も同時にメルキセデクの頭へ落ちてきた。

 

「人修羅出てきたみたいだよ、さっきのあれさっさと見せに行こうよ」

 

言うだけ言ってピクシーは飛んでいってしまった、メルキセデクとだいそうじょうは一瞬スバルに視線を送ると、人修羅の元へ向かった。

 

-13ページ-

 

「何だこの色?」

 

人修羅は疑問の声を上げていた、正面玄関から外へ出た瞬間、待ち構えていたピクシーたちに捕まり、だいそうじょうからある物を渡された。

 

「あー………」

 

だいそうじょうから渡された、見慣れた形の、しかし見慣れぬ色のそれを眼の高さまで持ち上げ、眉を寄せた。

 

「白でも、藍でも、緑でも無く、かといって橙でも無い、「透明なマガタマ」なんて始めてみたぞ」

 

-14ページ-

 

「そうか、失敗したか」

 

(ドクター、ごめんなさい)

 

「いやなに、あれと同じものは既にあってね、あれは実験に使いたかっただけなんだ、気にすることはない」

 

(だが、こちらは聞きたい事がある、スカリエッティ)

 

「なんだね、騎士ゼスト」

 

(貴様等と対立している悪魔の一人が言った人修羅とは一体何だ、会話ログは貴様等にも届いているだろう)

 

「ククッ……」

 

(何がおかしい)

 

「いや、すまない騎士ゼスト、まさかこの世界に人修羅が現れると思っていなかったものでね」

 

(質問の答えになっていない、ちゃんと答えてもらおう、あれほど強力な悪魔を従える存在だ、知らぬというわけではあるまい)

 

「そうだな、人修羅とは全ての魔を従え、世界を変える存在としか言えない、すまない私にだってそのくらいしか解っていなくてね」

 

(………)

 

無言で画面が消える、スカリエッティはもう一度喉を鳴らし、背後に控えていた紫の痩躯に声をかけた。

 

「人修羅はやはり来たようだねラクシャーサ」

 

「そのようで、しかし、へカトンケイルがまさかアグスタに向かっていたとは」

 

「ああそうだね、私も驚いたよ「ノーヴェ」にはあの蟲はもう必要分はあると言ってなかったかな?」

 

「聞いていなかっただけかと、しかしネルガルにアルシエル、スカディ、カトプレパスにフレスベルグ。火消し役を送るには少し数が多かったのでは?」

 

「なに、予想外のことが起ったなら、どれだけそれを利用できるかだよ、幸い物事はいい方向に流れているようだしね。だが「チンク」や「セイン」には少しハードスケジュールだっただろうか?」

 

「誤差の範囲内かと」

 

そうかい、とスカリエッティはラクシャーサに言葉を返すと会話を打ち切り、自身の正面にある巨大なビーカーを見上げた。そのビーカーには淡い藤色の長髪の女性が逆さに浮かんでおり、彼女の周囲には虚空から赤い液体とも気体とも判断できる物が流れ集まり収束している。

 

「さて、彼が本当にあの人修羅だとするなら、一体どんな結果になるのだろうね、彼にはせいぜい驚いてもらうとしよう」

 

前方のビーカーの背後、さらに巨大なもはや水槽ともいえる物があった。その中には前方のビーカーよりも濃く、強い赤の液体が溜まっており、さらにその中央に。

 

「楽しみだねぇ、本当に」

 

亜麻色の髪を腰ほどまで伸ばした右腕の無い少女が浮いていた。

 

説明
第14話 ホテル・アグスタ 後編
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コメント
これでにじファン時代に追いついた、のかな?覚えてるのがこの辺までだったはずなので。次回更新楽しみに待ってます。(赤いマハラジャ)
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女神転生 人修羅 リリカルなのは クロスオーバー 

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