恋姫†無双 ありえたかもしれない外史シリーズ 董卓・賈駆伝
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 恋姫†無双 二次創作SS 外伝

 

 エイプリルなふーるな日に送った 単発SS

 

 

 恋姫†無双 ありえたかもしれない外史シリーズ 董卓・賈駆伝

 

 

 

 

 

「……寒い!!」

 

 ひょんなことから事件に巻き込まれて『三国志』のパラレル・ワールドにようこそおいでませな、高校生北郷一刀は、今、極寒の吹雪の中にいた。

 

「何故こんな事に?」

 

 

 

 一刀少年は頭を捻りながら思い出す。

 

 今日の午前中に悪友の及川と一緒に課題をこなす為に博物館に行って――

 

 その時、『中国出土した最古のメイド服』と銘がうってあった、となりの『鏡』を凝視していた背の少し低い少年に胸騒ぎを覚えてから――

 

 なんとなく心配になって、一刀は木刀を片手に博物館へ向かうと――

 

 昼、博物館であった少年がいたのである。

 

 ――『メイド服姿』で鏡を脇に抱えながら。

 

「えっ!?」

 

「み、み、みるんじゃねぇ――!!」

 

 小柄で顔立ちが整っている少年のメイド姿は――下手な女性が身に付けるより、綺麗に見えた。

 

 思わず、一刀の頬が少し手に染まるぐらいには。

 

「なんで――「シャァッ!」――へぶっ!」

 

 一刀が少年に問いただそうと声を掛けたその刹那。

 

 彼は、羞恥心からか、頬を真っ赤に染めて手にしていた銅鏡を一刀の脳天に打ち付けたのである。

 

「……はあっ、はあっ、はあっ……し、しまった! こんな時間に人と出くわすとは思わなかったとはいえ――」

 

 メイド服姿の少年は、額から出る汗を拭いながら、証拠隠滅の言い訳を一人で呟いていたが、手にしていた銅鏡にヒビが入り、光を放ち出す。

 

「げっ! ……まあ、コイツも災難だな。――深夜に俺に出会った為に人生を棒に振る事になったのだから。平和ボケしているこの世界の住人に『外史』世界で生きる術など、あろうはずもない。異分子を取り込む事になってしまったが、捨て置けば勝手にのたれ死ぬだろうさ――」

 

 可憐なメイド姿の格好でそんなことを言いながら、少年『左慈』は、一刀と共に銅鏡の放った光に取り込まれ、――この世界から消えるのであった。

  

   

 

「……」

 

 吹雪が舞う極寒の世界の中で、一通り事を思い出した一刀は、後頭部を押さえながら悩んでいた。

 

「――このままでは凍え死んでしまう! ここがどこか知らんが、兎にも角にも暖をとらなきゃ」

 

 身を切るような寒さ故に、思考を止めた聖フランチェスカの制服姿の一刀は身を丸めながら、歩き出す。

 

 周りは吹雪の世界。

 

 自分の居場所もわからず、けれど、このままでいる事も叶わず一刀は歩き出すのであった。

 

 足下に拡がる白銀の雪を踏みしめながら――

 

 

 

 どれ程の時間を歩いたのかは覚えていない。

 

 ただ、ひたすら一刀は歩いていた。

 

 歩みを止めたら、再び歩む事は出来ないと考えながら。

 

 たった、一時のようにも感じるし、何時間も費やした気もする。

 

 吹雪は相変わらず止む様子は無く、ひたすら一刀の行く先を阻む。

 

 視界は悪く、頬に氷が貼り付いたように冷たくなり、シューズの中にある足は、隙間から入った雪で、正直、感覚が無くなり始めていた。

 

 ズボンのポケットに入れた手はかじかみ、中にあったチョコレートを握っても溶けもせず、手のひらの中にある。

 

 腰のベルトに差した木刀も雪と氷が張り付き、吹雪が尋常ではないものを物語っていた。

 

 ――部活の朝練で疲れたときに口にしていた幾つかのチ○ルチョコが、今、一刀の所持している唯一の食料であった。

 

「――死ぬ前に喰った食べ物がチョコレートというのは、さけたいもんだなぁ」

 

 鈍り始めた意識で、一刀は苦笑しながらそう呟いた。

 

――ゃぁ

 

「――ん?」

 

 吹雪の音が立ちこめる中、一刀は何かを聞いたような気がした。

 

――っちにいってぇ!

 

 やはり、聞き間違いではなく、確かな声が一刀の耳に届いたのである。

 

 一刀は、その声がしたほうに一途の願いを込めながら、歩き始めるのであった。

 

 

 

「ぃやあ! こないでぇ!」

 

 少女は吹雪の中、手にしていた枯れ木の枝を目の前で左右に振りながら、後ろに後ずさる。

 

 彼女の目の前には、グルルルッと呻る狼が一匹いた。

 

 少女を獲物として見ているのか、狼は頭を低くしながら少しずつ、間合いを詰めていく。

 

 恐怖の余り、少女は瞳から涙を溢れさせ、目の前にある絶望に耐えられなくなり、ギュッと目を閉じた。

 

(――お父さん、お母さん、詠ちゃん。ごめんなさい)

 

 少女は大切な人達に心で謝罪をする。

 

 ――だが、『運命』は、彼女を見捨てなかった。

 

 

 

「ギャン!」

 

 彼女の耳に届いたのは狼の悲鳴であった。

 

 少女はおそるおそると目を開く。

 

 彼女の瞳に映ったのは――

 

 見た事もない不思議な作りをした白い服を身に纏った男性の後ろ姿であった。

 

 その大きな背中は、少女の父のように頼もしく見えた。

 

「野良犬が、子供を襲うなんて――狂犬病の類か?」

 

 だが、その男性。一刀の言葉に少女は今までの恐怖を忘れ、ムッとリスのように頬を膨らませる。

 

 どうやら、一刀の『子供』という発言がお気に召さないようであった。

 

「――ったく、メイド服姿の男に襲われるわ、気が付いたらこんな寒い所で迷子になっているし、今日は何て日だ」

 

 一刀は愚痴りながらも、手にしていた木刀を握り直し、トンボの構えを取る。

 

 剣士として、薩摩隼人として野良犬如きに(一刀は狼と気が付いていない)遅れを取るわけにはいかないと思考し、目の前の敵に専心する。

 

 そんな一刀の気概にあてられたのか、狼は闘争心を無くし、「キャン! キャン!」と吠えながら吹雪の中に消えていくのであった。

 

 一刀は、少し呆気にとられたが木刀を降ろし、深呼吸を一つする。

 

 そして、後ろに振り返り、尻餅をついている人物に手を差し伸べる。

 

「――大丈夫?」

 

 そこで、はじめて一刀は、助けた人物が少女と知る。

 

 寒冷対策をしたふわふわのモコモコと表現出来そうな、毛皮の帽子に厚手のコートに手袋。

 

 それに手作りの感じがする明るめの色のマフラーに、耳当て姿で、自分を見つめる潤んだ瞳が――一刀の心を捕らえたのである。

 

 少女もまた、不思議な姿をした少年の優しげな瞳に魅入られる。

 

 そして、自分の窮地を救ってくれた事にお礼を言っていない事に気が付いた少女は、それを述べようと彼の手を取る。

 

 だが、――少女の予想もしない事が目の前で起きた。

 

「――やっぱ限界だったみたいだ」

 

 少年はそう呟きながら、手を引っ張る少女を支えきれず、前のめりに倒れ込んできたのである。

 

「――えっ?」

 

 少女は突然、倒れ込んできた少年に覆い被された。

 

 雪のクッションが大きな音を立てて、二人は絡み合ったままその場に倒れる。

 

「あ、あの!」

 

 異性に突然、押し倒された少女は声を上げるが、少年はピクリとも動かない。

 

「へ、へうぅぅぅ――」

 

 身動きが取れなくなった少女は情けない声を上げる。

 

 それは恐怖からの声ではなく、自分の不甲斐なさからであった。

 

 そして、覆い被さる少年に心の鼓動が止まる事が無く、心臓が激しくバクバクと脈打つ。

 

 だが、決してそれは不快感を感じるものではなかった。

 

 こうして雪原が拡がる白銀の世界で、少年と少女は、奇妙な邂逅を果たした。

 

 この邂逅が何れ、この世界に多大な影響を与えるとも露知らずに――

 

 

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一刀は、ぼんやりとした意識の中、暖かさに包まれまどろみの中で幸せを感じ、まるで休日にベッドの中で惰眠を貪るようなそんな感覚にとらわれていた。

 

 ――学校に行かなくてよかったっけ?

 

 ――いやいや、その前に朝練にちゃんと出ないと不動先輩に叱られるし?

 

 ――そもそも、今日は何曜日だったっけ? 今週の週末に早坂兄妹と及川の四人で映画館に行く約束をしてたような気が。

 

 ――けど、何か怠いなぁ……昨日、そんなに疲れるようなことをしたっけ?

 

 そこまで、思考が辿り着いたとき、一刀の頭の中へフラッシュバックのように記憶が甦り出す。

 

 メイド服姿の変な少年に巻き込まれ、極寒の吹雪の世界に飛ばされ――

 

 途方に暮れながら歩き、聞こえてきた声を頼りにそこへ駆けつけたら、野良犬に襲われている子供――じゃなくて、女の子がいて――

 

 そこまで思い出した時、一刀は事の『異常』さに気が付き、意識を覚醒させ、眼を開いた。

 

 目の前に映ったのは――知らない天井であった。

 

 耳にバチバチと枯れ木が燃える音が届くと共に、暖かさを肌で感じ、自分にかけられていた毛布を少しずらしながら、ゆっくりと一刀は上半身を起こした。

 

 ふと、下半身に違和感を感じそこへ視線を移す。

 

 そこには、座臥の横に置かれた椅子にもたれながら一刀の足を枕代わりにして、スヤスヤと安らかな寝息を立てている少し、クセのあるウェーブがかかった髪を持つ少女がいたのである。

 

「あら? 気が付いたようね」

 

 横からかけられた声に一刀は首をそちらに向けた。

 

 そこにいたのは、自分にもたれるように眠る少女と同じ雰囲気を持った優しげな印象を感じさせる女性であった。

 

 女性は一刀に近づくと、彼の頬を手で優しく撫でる。

 

「熱はないみたいね……キミ、どこか身体に違和感はあるかな?」

 

 近づいてきた女性の香りにドキマキしながら、一刀は頬を真っ赤にさせながら首を横に振った。

 

「? あらあら」

 

 女性は一刀の心情に気が付いたのかクスクスと笑いだいた。

 

「――ごめんね。余りにも可愛い反応をしてくれるから、おばさん楽しくて」

 

「え、えっと。いえ、気にしないでください」

 

 一刀はそこまで言って、自分を助けて貰ったお礼を述べていない事に気が付きハッとなる。

 

「あ、あの! 助けて頂いて――「いいのよ」――」

 

 一刀が感謝の気持ちを言葉にしようとした口を女性は微笑みながらそっと人差し指で優しく触れるように押さえる。

 

「困った時にはお互い様でしょ? それに――娘がお世話になったみたいだから」

 

 女性の視線が一刀の足下で眠る少女に移る。

 

 その優しげな表情に一刀は少しだけ心奪われた。

 

「あっ、そう言えば自己紹介がまだだったわね? 私の名前は姓は董(とう)名は白(はく)っていうの。キミの名前は何ていうのかな?」

 

 どこか、幼い表情をする女性に一刀は、首を傾げる。

 

(――日本人にしては不思議な名前だな? そもそも、董白さんだっけ? 瞳の色とか赤紫だし……)

 

 一刀がそんな事を考えていたら、董白と名乗った女性は不満そうに頬を膨らませた。

 

「ぶうっ! オバサンに名前を教えてくれないの?」

 

「――す、すみません。俺は、北郷一刀って言います」

 

 一刀が自分の名を慌てて名乗ると、目の前の董白は首を少し傾げた。

 

「ほんごうかずと? んーこの『涼州』では、聞いた事のない名前ね。あっ! もしかしてキミ、羌の出身なのかな?」

 

「? 何ですかそれ?」

 

「えっ?」

 

 互いに言葉の疎通が出来ず、話がかみ合わない。

 

 その事実に一刀は少しずつ、冷や汗を背に感じていた。

 

「――『りょうしゅう』というのはここの事ですよね?」

 

「そうよ」

 

「じゃあ、県庁所在地はどこになるんでしょうか? 俺が倒れていたのは雪の中――」

 

 一刀はそこでハッとなり、驚愕の表情を浮かべた。

 

「けんちょうしょざいち?」

 

 首を可愛らしく傾げている董白を横目に一刀は考える。

 

(豪雪地帯であっても、日本では今の季節に吹雪になることなんてない――外国であるなら日本語がこんなに通じる事もおかしい……けど、『りょうしゅう』って単語はどっかで聞いた事があるような気がするんだよなぁ)

 

「董白さん。変な事を言うようですが、ちょっと頭が混乱していまして。差し支えなければ、色々ここの事を教えてくださいませんか?」

 

「そうね。あの、吹雪の中、倒れたんだものね。いいわ、私の知っている事でよければ。主人が帰ってくるまで暇を持て余していたし――娘がそれでは――かずと君と呼んでいいかしら? も動けないでしょうしね」

 

 董白は一刀の申し出を受け、ゆっくりと話を始めるのであった。

 

 

 

 かなりの時間を話で費やした。

 

 一刀は、董白の話から、どうやら古代中国。しかも、祖父の実家で読みあさって楽しんでいた『三国志』の世界に自分がいると理解した。

 

 原因は――あのメイド服姿の少年とのやり取りであることは思い付いたが、それ以外の事――即ち、元の世界へ還る方法などはわからずのままであった。

 

 どうしたものかと考えていた一刀に董白からありがたい提案が出された。曰く――

 

「行く当てが無いのなら、ここにいなさいな」

 

 一刀としては、ありがたい話であったが、どうしてそこまでしてくれるのか理解できず董白に理由を尋ねた。

 

 すると、彼女は微笑みながら、こう答えた。

 

「さっき、かずと君が起きた時にも言ったと思うけど、困った時はお互い様でしょ? ――それに、人見知りの激しいこの子が貴男の傍でこんなに無防備な姿でいるんだもの。悪い子には見えないからね。ウチの子を助けてくれたお礼もしたいしね?」

 

 一刀の横に椅子を用意して、そこに腰掛けながら彼が身に付けていた聖フランチェスカの制服を繕いながら董白はそう言ってくれたのである。

 

「――しかし、この着物……見た事もない素材で出来ているわね? うーん」

 

「ああ、それはポリエステルといって、化学繊維で――」

 

 そこまで喋って一刀はハッとなり、口を紡ぐ。

 

 董白の言が正しければここは、古代中国の世界。こんな事を言っても理解できるはずもない。と、一刀が考えていると。

 

「ぽりえすてる? かがくせんい? なに? なにかな? それ?」

 

 身を乗り出した董白の姿が至近距離にあったのである。

 

 外は吹雪で彼女の主人は、用事で留守にしており、家を預かる妻としては、娯楽と呼べるものはあまりにも少ない。

 

 故に一刀の口から出た言葉は董白の好奇心を揺さぶるには十分たる効果があったようである。

 

 一刀は頬を人差し指で掻きながら、どうしたものかと考えていたが、ふと、ある事に気が付いた。

 

 董白は色々この世界について一刀に教えてくれたのに自分の事は名前以外何も語っていない事に気が付いたのである。

 

 行く当てのない自分を受け入れてくれようとしている『恩人』に一刀は、質問を受けた事と共にそれから派生する様々な会話を続けるのだった。

 

 

 

「うーん、理解しづらいお話がたくさんあったけど、一刀君のいた世界は凄いところだったのね? まるで、天上界のようね」

 

 董白の言葉に一刀は苦笑するしかなかった。

 

 自身も古代中国にタイムスリップして混乱しているのだから、彼女の気持ちを理解できなくはない。

 

 そんな事を考えていた一刀は足下にもぞもぞと何かが動くのを感じた。

 

「う〜ん」

 

「あら、起きたみたいね」

 

 董白も娘が眠りから覚めた事に気が付き微笑む。

 

「……?」

 

 少女はまだ意識がはっきりと覚醒していないのか、とろんとした表情でキョロキョロと頭を左右に動かしている。

 

 彼女の心情を言葉にすると――あれ、わたし何でこんな所で寝ているのかな? であろうか。

 

 そして、少女は一刀とその横にいる母である董白と視線が合う。

 

「! へ、へう!」

 

 母と自分を助けてくれた少年に寝起き姿を見つめられ恥ずかしさの余り、耳まで真っ赤にした少女は勢いよく立ち上がるが――

 

「あら?」

 

「あっ」

 

 つんのめって、一刀の胸元にダイブする形になった少女。

 

「――大丈夫?」

 

 一刀が少女を気遣って、顔を上から覗き込むような形で声を掛けるが、少女は顔をより首まで真っ赤にさせて硬直していた。

 

(ん〜一刀君ってば意外に女をたらし込む才能があるのかもねぇ)

 

 ただ一人、董白は少年と娘を見つめながらそんなことを考えていた。

 

 

 

 ――そして、ここでまた、少年少女達を繋ぐ新たな絆が一つ。

 

 

 

 

 

「かえったぞー」

 

「小母様、ただいま戻りました」

 

 

 

 家の入り口からそんな声が聞こえてきたのである。

 

 そして、足音が近づいてきて、一刀達の居る部屋の前で止まり、扉が勢いよく開く。

 

 そこに現れたのは、少女と同じ年齢ぐらいの緑髪を二つのおさげにした眼鏡をかけた少女と、扉より大きな体躯をした――例えるならば、メタボリックと言う言葉が裸足で逃げ出すくらいの肥満の体型で、試しにへその緒から火を付けると数日間は燃えていそうな脂肪を蓄えている中年の男性であった。

 

「今日はいい鹿肉が入ったぞ白。――月も、倒れた小僧っ子の看病なぞしおってからに大変じゃからなぁ。これで精を付けて……」

 

 醜悪な顔を子供のように微笑ませて、男性は話していたが、目の前の光景に眼を奪われ静かになる。

 

 一緒にいた眼鏡の少女も一刀を指さしながら目を見開いて、口をパクパクさせていた。

 

 まあ、無理も無いだろう。

 

 最愛の娘が、命よりも大切な幼なじみが、行き倒れで担ぎ込まれた少年とあつい抱擁をしていれば驚く事は無理もない。

 

「――殺すわ」

 

「確か、明後日ぐらいに羌の族長と会合があったような――肉料理の材料としてバラスかのう?」

 

 何かとても恐ろしい事をおしゃっている二人に一刀は背筋が凍る思いに捕らわれる。

 

「こら、二人とも! 一刀君はまだ、元気になっていないんだから、そんな風に脅さないの!」

 

「し、しかしのう、詠ちゃん」

 

「え、ええ。小父様」

 

「しかしも、かかしもありません!」

 

 可愛らしい顔立ちをした董白が怒ったところで正直、余り怖いようには見えないのだが、二人には効果てきめんであるようで、タジタジになっている。

 

 そんな光景を目の当たりにしながら一刀は未だ自分の胸の中に顔を埋めている少女に声を掛けた。

 

「――助けてくれてありがとう。俺は北郷一刀っていうんだ……君の事はなんて呼べばいいのかな?」

 

「え?」

 

 少女は一刀の言葉に我を取り戻した。そして、まだ少し頬を紅潮させた状態のまま自己紹介をする。

 

「あ、あのこちらこそ、危ないところを救っていただいてありがとうございました。わたしは董卓っていいます。――えっと、わたしは董家の長子なので、あそこで怒られているお父さんと同じ名なので、出来れば、月って呼んでください」

 

「『ゆえ?』 ああ、字(あざな)っていうやつ――「いいえ? 月というのはわたしの『真名』です」――まな?」

 

 わからないと言わんばかりに一刀はうーんと呻る。

 

 その姿がおかしいのか月は一刀の胸によりかかったままの姿勢で、彼の顔を見上げながらクスッと微笑むのであった――

 

 後日、真名の事を董白から聞いた一刀はそれを止めようとするのだが、月が泣きそうな表情な表情で抵抗したので、それは諦めざる得なかった。

 

 無論その後、月と一緒に真名で呼ぶ事になった(月だけ禁忌を犯させるわけにはいかないと考えて)少女、詠から容赦のない跳び膝蹴りが彼の側頭部に炸裂し、――その横で、月の父こと董卓仲穎が嬉しそうな表情を浮かべながら肉包丁を研ぎ、一刀の命運は尽きたと思われた――が。

 

 月が「兄様(にいさま)にそんな事したらゆるさないから」と涙目で咎められ、二人の計画は頓挫したことは言うまでもない。

 

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 季節は冬から――春を迎え、涼州にとって短い夏が訪れる。 

 

 一刀が平穏な世界から妙な世界に飛ばされ、早数ヶ月が経とうとしていた。

 

 始めは慣れない世界で色々あったが、董家一家の暖かい優しさに包まれ、一刀は故郷に哀愁を抱きながらもこの世界で頑張って生活を送っている。

 

 電気も水道も無く、無論、コンビニなどの便利なものも無く、始めは相当苦労したが、集落の人達の助けもあり、次第にそれにも慣れたのであった。

 

 月に『兄』と慕われ、白に『自慢の息子』と称され、長である董卓の苛烈な愛情? にも耐え、邑で一番の賢者である詠の責めにも耐え抜く胆力を持ち合わす一刀を人々は始めは、警戒したり、怪しんでいたりしたが、毎日、董家の面々と繰り返す、即席コント(董卓&詠による苛烈な責め)にいつしか、好感を持つようになっていく。

 

 そして、今を生きる現在、涼州の民族衣装を身につけている北郷一刀は、人生においてこれ程までにないぐらいに真剣な表情をしていた。

 

 何故なら――

 

「小僧! もちっと速う走れぃ! 矢が当たってしまうぞ!」

 

 遠く離れた安全な場所から董卓の怒号が一刀に届いた。 

 

 一刀は、疾走したまま、ちらりと後ろを振り向く。

 

 ――グルルルゥ!

 

 凶暴な牙から涎を滴らせながら、大木を引き裂く強大な爪を持った手で四つ足になりながら一刀を追走する熊がそこにいた。

 

「ちくしょぉぉぉ――!!」

 

 少年は走る。まだ見えぬ未来を求めながら。

 

 何故このような事態になっているかと説明をすると、邑の男達を動員して時折、行われる『狩り』に一刀は参加しているのである。

 

 実りの少ない西涼にとって、狩りは、大事な食料を得る為に必要な事であった。

 

 だが、兎や鹿などの肉では、邑にいる皆の腹を満たす事は難しい。

 

 時には身の危険を冒してでも、『大物』を狩らねばならない。

 

 そして現在、その囮役をしているのが一刀であった。

 

 無論、自主的ではなく長である董卓の指名&月や詠と仲良くしている一刀への若い男共からの嫉妬による推挙の結果であるが。

 

 兎にも角にも、一刀は後ろに迫る恐怖を振り切る為に必死に逃げる。

 

 以前の彼ならば、すぐにへばっていたであろうが、この世界に来て日々の生活を送っていく内に手に入れた体力により、難を逃れていた。

 

 だが、一刀は後ろを振り向いた所為で、前方に対して疎かになり、そのせいで躓いてしまう。

 

「し、しまった!」

 

 そして、そのままろくに受け身も取れずに、盛大に転けてしまったのである。

 

「! あの馬鹿!」

 

 それを見ていた詠が、傍にいた狙撃役の男達を促し、矢を射らせる。

 

――グオォォーン!

 

 一刀に覆い被さろうとしていた熊が雄叫びをあげた。

 

「! このおぉぉぉー!」

 

 熊が怯んだその刹那、一刀は手にしていた剣を熊の喉にあてがい、左手の甲で剣を力強く押し込んだ。

 

――グギョエェェー!

 

 一刀の渾身の反撃に熊は絶叫を上げのたうち回り、やがて、口元から白い泡をブクブクと吐き出し、白目をむいて――絶命した。

 

「――はぁ、はぁ、はぁ……た、助かったぁ」

 

 熊の返り血を頬に浴びた一刀はそれを腕で拭いながら、再び尻餅を着いてへたれこむ。

 

 獲物を仕留めた事で男達の歓声が響く。

 

「ほぅ」

 

「……」

 

 男達が騒ぐ中、董卓と詠が一刀を見つめながら、前者は嬉しそうに眼を細め、後者はまるで、苦虫を潰した様な何とも言えない表情をしていたのであった。

 

 

 

 狩りに出たその日の夜。邑ではささやかながら宴が催されていた。

 

 邑の中心にある広場の中央では火が焚かれ、男達が仕留めた熊が帰りを待っていた女達の手により料理され、皆に振る舞われる。

 

 男達は狩りでの武勇伝を語り。老人達は息子達の無事の帰還を感謝し、子供達は目の前のご馳走に眼を輝かせ、女達は給仕に右往左往し、皆、明るい意表で宴を楽しんでいた。

 

「……」

 

 一刀は、焚かれた火を灯りにしながら、そんな光景を見ながら微笑んでいたが――やがて、その表情に寂しさを浮かべる。

 

 そして、その場を離れ、広場を後にするのであった。

 

 

 

「……兄様」

 

「……」

 

 そんな一刀を二人の少女は見逃さなかった。

 

 父にお酒を酌していた手を止め、月は「少し、席を外します」と両親に断り、一刀を追いかけた。

 

 一方の詠も酒が注がれていた盃を口から外し、立ち上がって少年の後を追った幼なじみをおいかけ――ようとしたが、その前に盃と酒の入った徳利を手にして再び、後を追うのであった。

 

 

 

「――はぁ」

 

 宴の席を離れ、人々の喧騒と篝火の灯りが遠く感じられる邑の郊外で一刀は満天の星空を見上げながら溜め息を吐いた。

 

 今の生活に不満があるわけではない。

 

 むしろ、感謝することばかりである。

 

 けれど――みんなの幸せそうな笑顔を見るたびに一刀は思い出してしまう。

 

 自分が居た世界の事を。

 

 育ててくれた両親や鹿児島の祖父母。そして、かけがえのない友人達と過ごした日々が甦り、何とも言えない寂しさが込み上げてくるのであった。

 

 だが、いくら郷愁の想いを募った所で元にいた場所へ還る事は叶わない。

 

 そう、考えると空しくなる一刀であった。

 

 

 

「――兄様」

 

 一刀の背に今にも泣き出しそうで弱々しい声が掛けられた。

 

「――月?」

 

 この場所に月が追いかけてきた事に一刀は驚く。

 

 月はそのまま、駆け出すように一刀に近づき、一刀の手を取った。

 

「――いっちゃ、やです」

 

「は?」

 

 妹分が口から漏らした言葉の意味がわからず、一刀は首を傾げる。

 

 月は、そのまま一刀の腕にすがるように抱きつく。

 

 さすがの一刀も妹的存在とは言え、それ相応に年頃な女の子である月の急接近に慌てて、腕を振り解こうとするが彼女は、決して腕を解放してはくれなかった。

 

「ど、どうした月?」

 

「――おいていかないで!」

 

 一刀の問い掛けにイヤイヤと首を横に振る月。

 

「何を言っているんだ? 俺はどこにも行きはしないよ?」

 

「――嘘です」

 

 月は顔を上げ、涙で溢れそうな瞳をらしくなく強ばった表情で一刀にキッと向ける。

 

「兄様は、帰りたがっています――元のいた世界、『天上界』へ」

 

 彼女の思いがけない言葉に一刀は、背中に雷が落ちたような衝撃を感じた。

 

 そして、自分の心を見透かされた事の不甲斐なさに苦笑する。

 

 それと同時にこんなにも『兄』として慕ってくれている月に嬉しさが込み上げてきた。

 

「くおぅらぁ!」

 

 だが、そんな一刀に怒声が浴びせられた。

 

 一刀が月を腕にぶら下げたままそこへ視線を向けると、そこにいたのはもう一人の妹分である(彼女は頑なに否定しているが、一刀を含めた皆の意見は『妹』として一致している)詠であった。

 

「なんの権限があって、ボクの大事な月を泣かしてんのよ!」

 

 徳利を背にぶら下げながら、フラフラとした足取りで詠は二人の許へと赴く。

 

「いや、まあ、何だ、平たく言えば誤解しているぞ、詠」

 

「――そこへ座れ」

 

 一刀の弁明など聞く耳持たず詠は、地面を指さしてそう命令する。

 

 詠はジト目で頬を紅く染めながら、一刀を見据えていた。

 

 その様子に一刀は彼女が酔っている事を認識した。

 

 そして、以前から董卓や邑の男衆に絡まれた経験から、酔っぱらいには下手に反論しない方が良いと学習していた一刀は「大丈夫」と月に言い聞かせ彼女から腕を放しもらい、その場へ正座する。

 

「誰が正座しろ何ていったのよ!」

 

 だが、詠は一刀が正座しているのがお気に召さないようで、大声で吠え立てた。

 

 一刀は、やや不満げな表情を浮かべながら胡座をかいて座り直す。

 

「これでいいのか――「よいしょっと」――オイ」

 

 一刀が胡座をかいて座り直した途端に詠は彼の片足に座り、背を預けるようにしなだれかかったのである。

 

「え、詠ちゃん!?」

 

 幼なじみのうらやまし――もとい、奇妙な行動に目を丸くして驚く月。

 

「ゆえーなにしてんの? アンタもこっちに座りなさいよぉ」

 

 だが、酔っぱらいは事もあろうか、開いているもう一方の一刀の膝をポンポンと叩きながら、月を促したのである。

 

「コラ! いい加減に――「あ、あのそれじゃあ、失礼します」……」

 

 一刀が詠を窘めようと声を上げたのだが、それを遮るように月がいそいそと、もう片方の膝にちょこんと座ってしまった。

 

「むふー、こんな美人二人も侍らせて、役得でしょ?」

 

 少々、酒臭い吐息をさせながら、ニヤニヤとした表情で詠は一刀にそう問うた。

 

「重い。どけろ」

 

 恥ずかしさの余り、一刀は頬を真っ赤にさせながら照れ隠しでそう言葉を発する。

 

「へうぅ〜ご、ごめんなさい〜」

 

 一刀の言葉に謝るも月は、兄の膝上という抗いがたい誘惑に負けているのか退こうとはしなかった。

 

「うるさい、この甲斐性なし! アンタは黙ってボク達の椅子になっていればいいのよ!」

 

 酔っぱらっているツン子は是非もなし。

 

「――余計な事を考えず、アンタはこうやって月やボクが命令したら言う事を聞いてればいいの!」

 

 少々、ヒステリック気味な詠の言葉に一刀はハッとなる。

 

 詠も、月と同様に自分が望郷の念にかられている事に気が付いていたという事実に。

 

 だから、それ故に――異世界の迷子の少年は口を開いた。

 

「――そうだな。詠の言う通りだな」

 

 その言葉に月は驚いた表情で一刀の顔を見上げる。

 

 詠もまた、視線は彼の方に向けてはいないが、酒を注いだ盃をピクッと動かして静止した。

 

「ありがとう月、詠」

 

 自分が決して不幸ではないと言う事を彼女達が身を持って教えてくれた事に感謝する。

 

 これから先も望郷の念は消えないだろう。けれど、その代わりに運命は、自分にかけがえのない家族を与えてくれた。

 

 感謝の言葉がよほど嬉しかったのか、月は子犬のように頭を一刀の胸に擦りつけてきた。

 

 一刀はそんな妹分に苦笑しながら、彼女のクセがある髪の毛を優しく手櫛で梳いてやる。

 

「……」

 

 もう一人の妹分は膝に座ったまま、無言でちびちびと酒を飲んでいた。

 

 多分、酔っていても自分らしからぬ行動に恥ずかしさを今更ながらに感じているのであろう。

 

 一刀は笑顔で満天の星空を見上げる。

 

「――こんな日がいつまでも続いたらいいですね」

 

「ああ、そうだな」

 

 一緒に星空を見上げた月の言葉に一刀はそう答えるのであった――

 

 

 

 余談ではあるが、帰ってこない月を心配した董卓が、「どれ、わしも――」と立ち上がった瞬間、横にいた妻の手により軽く、首を『捻られ』白目をむいていたことは想像に難しくない――

 

-4ページ-

 

 刻はまた少し流れ――

 

 今回もまた一刀は真剣な表情を浮かべていた。

 

 前回と違うと言えば、その横に詠が眉をつり上げながら一緒にいたことであろうか。

 

 

 

 共に縄で上半身を縛られて正座して、周りを屈強な者達に囲まれているという変わった状態で。

 

 

 

 さて、ふたりが何故、このような事になっているのかと言えば。

 

「ふーん。君達二人は妹の誕生日を祝うべく、狩りをしていてそれに熱中するあまり、私達の領域に来てしまった。と、言う訳かな?」

 

「そうよ!」

 

 二人の目の前で屈強な男達を従えている二十代前半ぐらいの女性が、おもしろそうな表情を浮かべながら一刀達に問い、詠がガーッと吠えるかの如く、声を上げた。

 

「――スミマセン、スミマセン! 妹は世間知らずな所がありまして、本当に失礼を致しました!」

 

 詠の不遜な発言に対して、一刀が彼女を庇うように身を乗り出し、目の前にいる女性に頭を下げる。

 

「アンタ何勝手な――「お前は黙っていろ!」――なっ!」

 

 そんな二人のやり取りに目の前の女性はクスクスと笑い出した。

 

 その光景に呆気にとられ、一刀と詠は争うのを止める。

 

「――いえ、ごめんなさいね。君達の兄妹愛に耐えきれなくて、つい」

 

「なななななっ、何を言っているんですか」

 

 女性の言葉に動揺し、不遜な態度は立ち消え、丁寧な言葉遣いでどもる詠。

 

「ふふふ……しかしお兄さんの方はちょっと、疎いかな?」

 

「はぁ」

 

 何故、詠が慌てて、目の前にいる女性がそんな事を言うのかが、理解できない一刀は首を傾げる。

 

「妹は、兄に危害が及ばぬようワザと不遜な態度をとって私達の怒りの矛先を集めていたのに……ねぇ?」

 

 女性は微笑みを浮かべた表情で一刀から詠に視線を向ける。詠は恥ずかしそうに頬を紅潮させてそっぽを向いた。

 

 どうやら、女性の言に間違いはないようである。

 

「ふふふ、本当に面白い兄妹だこと……まあ、そういう理由であれば、赦さない事もないわね」

 

 女性は楽しそうな視線を二人に向ける。

 

「――条件は?」

 

 彼女の視線から何かを読み取った詠が眼鏡のレンズの奥にある瞳をやや細めて短くそう問うた。

 

「そうね……君のお兄さんをこのまま南匈奴(フンヌ)に連れていってもいいかしら」

 

「いいわよ……但し、この人は義理とはいえあの『董仲穎』の息子です。彼と周辺の族長と事を構えたいのならそうしたらいいわ」

 

 その瞬間、二人の女の間に雷鳴のようなモノが鳴り響いた。

 

 しかし、不穏な空気はすぐに解けた。

 

「それは不味い事になりそうね……いざこざは望む所じゃないから――貴女に免じてこの場はこのまま解放してあげる」

 

 女性の言葉に詠は頭を深々と下げて返礼の形とした。

 

「――ほら、行くわよ」

 

 そして、縄を解かれた後、詠は、状況が理解できず、ボケッと立っている一刀を促す。

 

「あ、ああわかった……あ、詠。ちょっと待って」

 

 荷物を匈奴の民から受け取った一刀は、そこで我を取り戻したが、すぐにある事を考え、先を行く詠に待ったをかけた。

 

 一刀は荷物から仕留めた一羽の鳥を袋から取り出して、女性の前で膝をついてそれを恭しく差し出したのである。

 

「ええっと、知らないとはいえ、貴女達の土地に入った謝罪としては、ささやかではありますが――どうぞ、お受け取りください」

 

 ――この一刀の行動に彼以外の者達の刻が止まった。

 

 そして、少しの間を置いてわき上がったのは、彼と詠を除いた者達からの大爆笑の渦であった。

 

「え? え? え?」

 

 一刀は訳がわからず、あたりをキョロキョロと見渡していた。

 

「〜〜アンタは、何やってんの! 恥さらしな事せず、ちゃんとついてきなさいよ!」

 

 顔を恥ずかしさで真っ赤にした詠が一刀の耳を引っ張りながら、その場を一刻でも早く後にしようとする。

 

「痛っ! 詠! 耳、耳がとれるってば!」

 

「うるさい!」

 

 そんな兄妹を見送りながら女性は二人に声をかけた。

 

「機会があればまた会いましょう? 私の名は蔡?(さいえん)文姫(ぶんき)――二人の名前は何て言うのかな?」

 

 蔡?の呼びかけに、詠は振り返り、キッと強い眼差しで彼女を見据える。

 

「……賈駆文和。で、こっちの馬鹿が北郷一刀よ。じゃあね、匈奴のお妃様」

 

「――知ってたの?」

 

 蔡?が今までの態度を改めて、親しみやすい穏和な表情でペロリと舌を出した。

 

「こんな僻地で――都人のような振る舞いをしているもの。嫌でも気付くわよ」

 

「――ふふ、貴女を敵に回すと怖いわね? ん〜お兄さんを略奪するのは諦めないといけないかも」

 

 蔡?の言葉に一刀は青ざめる。――まだ、奪う気満々ですか? と。

 

 自分の行動がそういった事に帰結しているとは露とも思っていない朴念仁がそこにいた。

 

 そんな一刀の様子に気が付いた蔡?がニッコリと可愛らしく微笑んだ。

 

 思わずその姿に見惚れて頬を朱に染める一刀。先程から、青くなったり、赤くなったり、忙しい奴である。

 

「ほら、さっさと歩く!」

 

 一刀のデレデレした態度(詠主観)が気に入らない詠は声を荒げながら彼を促した。

 

「何を怒っているんだ――あべしゅ!」

 

 鈍い男に対して、詠の容赦のない裏拳が炸裂するのであった。

 

「ふふふ――またね?」

 

 

 仲良く帰る二人の後ろ姿を蔡?は、両手に後ろに手を組み身を乗り出した格好で、楽しそうにけれどその中に少しだけ寂しさを含んだ表情でそれを見送るのであった。

 

 お互いにこの邂逅がこの世界において重要なものであったとは思いもよらずに――

 

-5ページ-

 

「まったく、とんだ災難だったわ」

 

「まあ、無事だし。狩りも何だかんだで成功したしさ。月の誕生日を祝うには申し分ないだろ?」

 

 虜囚の身にあったというのに楽天的にニコニコと笑う一刀に詠は少しカチンと来た。

 

「――アンタ家に帰ったら『家族会議』だかんね」

 

「――何故!?」

 

 言われのない事に一刀は困惑する。

 

「ふん! 蔡文姫に見とれちゃって鼻の下伸ばしてたって、月と白小母様に言いつけてやるんだから」

 

「……」

 

 一刀はへこむ。この世の終わりのようにへこんだ。

 

 月に涙目で非難され、董白さんに笑顔で言葉責めされ、二人の手により――当分、ご飯抜きの刑が確定する未来が決定したからである。

 

 ついでにここぞとばかりに董卓が肉包丁の手入れを丹念に仕始める事は、間違いない。――正にお先真っ暗である。

 

「――詠さん! それだけは! それだけはぁ〜!」

 

 あまりにも素敵な未来予想図に混乱した一刀は、突如、詠の腰に抱きついて懇願する。

 

「ちょ、ちょっといきなり何すんのよ、この助平!」

 

 腰にまとわりついた一刀に頬を真っ赤にさせて抗議の声を上げる詠。だが、その視線の先に捕らえた光景に驚き、すぐに真剣な表情になった。

 

「――詠!?」

 

 詠の様子がおかしい事に気付いた一刀は、彼女が視線を向けていた方角に己の視線も移す。

 

 そして、二人が見た光景とは――

 

 

 

 

 

 自分達が住む集落から上がる火の手と黒い煙であった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――こんな日がいつまでも続いたらいいですね』

 

 少女の願いは――叶わず儚い夢となり、外史の歯車が軋む音を上げ、回り始めた―― 

 

 

-6ページ-

   

 

「小僧! 儂の事はいいから! 娘を! 月を頼む!」

 

 ――村人に襲いかかる『白装束』達を蹴散らしながら、既に満身創痍となった董卓はその巨漢を盾にして、道を作り、想いを少年に託す。

 

 

 

「小父さまぁ!」

 

 馬に跨って追っ手から逃走する一刀の背にいる詠の悲痛な声に答える事の出来ない――己の無力さを悔しがる。

 

 

    

 大切な妹を助ける為に一刀と詠は、月を連れ去った集団を追いかけ、都、洛陽へと潜入を果たした。

 

 そこで傀儡として、為政者として祭り上げられていた月に再会する二人。

 

「――月を護る為にアンタは成さねばならない事がある」

 

 幾つもの紆余曲折を経て、董卓の参謀として月の近くの傍に居る事が叶った詠は、月を護る為に『異邦人』である一刀にある提案を持ちかけた。

 

「月を護る為よ――」

 

 それは、平穏な世界で生きてきた一刀にとって苦痛でしかない選択であった。

 

 

 

 

 

「アンタの名前は今日から『胡車児』(こしゃじ)よ――月の邪魔をする十常侍や野心溢れる無能な臣をその手で『屠る』事。それが、『白装束』から追われるアンタに唯一、残された選択肢よ」

 

 一刀の置かれた立場を『策士』として上手く誘導する詠の心は荒れていた。

 

 仮にも兄的存在であった一刀に『今日からアンタは自分の身を守る為、非情な暗殺者になるのよ』と迫ったのだから。

 

 そして、一刀の優しさを知る詠は彼がどう選択するのか知っている――

 

 一刀は詠から差し出された暗殺用に用いられる短刀を受け取ったのである。

 

「月には――月には、俺は元の世界に帰ったと伝えてくれ」

 

「――わかったわ」

 

 今にも泣きそうな表情をしている詠の頭をポンポンと優しく一刀は撫でる。

 

「詠は優しいな」

 

 少年は、少女達を護る為に裏の世界へとその身を投じたのであった――

 

 

 

-7ページ-

 

 

「……」

 

 一刀は、洛陽の郊外に出て、小川に飛び込み、血塗られた己の身体を清める。

 

 バシャバシャと水音を立てながら、頬に、服にこびりついた、己が殺めた人々の血をぬぐい去ろうと必死に。

 

 あれから幾人の人を詠の言われるがままに、この手で殺めてきた。

 

 無論、その度に殺人者である自分に本当に嫌気が差していた。が、今日はそれ以上に自分を責め立てた。

 

 ターゲットをいつものように始末する事に成功したのだが、運悪くその現場を対象者の子息に見られたのであった。

 

 ――自分の顔が割れたら、月と詠に危害が及ぶ。

 

 

 

 そう考えた一刀は泣きじゃくりながら、既にこと切れた親にすがりついて泣く幼子を――

 

 

 

 

 

 始末した――

 

 

 

 

 

 己の為に。

 

 罪なき尊い命を己の手で刈り取ったのである。

 

 

 

 

 良心の呵責などもう既に無いと思っていたのに、一刀は泣き叫んだ。

 

 それと同時にもう、後戻りは赦されないと理解したのである。

 

 ――夜の小川に映し出された月が儚く、少年の嗚咽をそっと見守っていた。

 

 

-8ページ-

 

 

 最近、一刀の様子がおかしいと詠は気付いていた。

 

 ある日を境に、まるで死人のように変わったからである。

 

 暗殺者になったことで明るさは無くなったものの、まだ、その瞳には覇気が宿っていたのにだ。

 

 しかし、仕事はきちんと、それもこれまで以上にこなしていたので何も言わなかった。

 

 けれど、宮中で策謀を巡らす賈駆文和ではなく、詠としての部分が、一刀の変化に、どこか焦りを感じていたのである。

 

 詠は、竹簡をカシャンと音を立てて机に放り出し、墨の付いた筆も乱暴に硯に置くと部屋を飛び出した。

 

「ちょっ! 賈駆っちどこへ、いくん?」

 

 廊下で声を掛けてきた客将、張遼こと霞の静止にも気が付かずに詠は目的地へと向かうのであった――

 

 

 

 詠が用意した一刀の私室は、政庁の離れにある物置の荷物に隠した地下にある。

 

 彼女は焦る気持ちを抑えて、周囲に人影がないかを確認してその物置へと侵入するのであった。

 

 一刀は薄暗い部屋の中にある座臥の上で身を丸くして震えていた。

 

 詠はその光景に槍で心臓を突かれるような衝撃を受けた。

 

 ――それと、同時に一刀に甘えていた自分を激しく責める。

 

 『月を助ける』というお題目で兄に甘えて、彼の『心』を蔑ろにしていた事実に。

 

 ――だから、詠は踏み出した。

 

 緊張した息づかいで一歩一歩、一刀に近づき、彼の横に腰掛けて座り、何かに怯えている一刀を優しく胸の中で包み込んだ。

 

「――ごめんなさい」

 

 詠は、一刀の髪を優しく撫でながら、まるで慈母のように暖かく彼を包み込んだ。

 

 そして、一人で抱え込んでいた重圧から解き離れた一刀の慟哭が、地下室に響き渡るのであった――

 

 

 

 どれ程、時間が過ぎたのか互いに覚えてはいない。

 

 悲しみが通り過ぎるまで、詠は彼の頭をずっと抱きしめていた。

 

「――全く、普段は兄貴ぶっていたくせに、子供のように泣いちゃって」

 

 そう言いながら座臥で安らかな表情で眠る一刀の頬をつんつんと突く詠。

 

 本人は気付いてはいないが、その表情は、笑顔でとても幸せに満ちている。

 

「……」

 

 地下室なのに一応周りを確認した上で、感謝と詫びの気持ちを込め、一刀の頬に接吻を少しする詠であった。

 

 ――彼女も相当なブラコンである事は間違いない。

 

 

-9ページ-

 

 一刀は詠と心を交わした事により、救われたのか――以前のように少しだけ明るくなった。

 

 ただ、詠にまで自分の犯した罪を共感させるには迷いがあった。

 

 けれど、彼女はそれをすべて受け入れてくれ「元々、アンタをいえ、『一刀』をこうした責任はボクにあるんだ――」と言って、自分を受け入れ慰めてくれた事に一刀は心より感謝した。

 

 ――血に汚れた自分はもう、故郷に還れはせず、『月』に会う事も赦されないが自分は『詠』が支えてくれていると。

 

 

 

 あれから一刀と密会を幾度も交わした詠は、自分では全く気付いてはいないがご機嫌であった。

 

「詠ちゃん――何だが、ご機嫌だね?」

 

 白装束に傀儡として囚われの身にある月も幼なじみのご機嫌な姿を喜んでくれていた。

 

「そ、そうかな? 最近、十常侍の奴等も大人しいし、白装束の奴等も何も言ってこないからね」

 

 詠の言葉に月はニコニコとしていた。

 

 そして、幼なじみが自分の為に危険を冒してまで傍に居てくれる事に感謝した。

 

 ――願わくば、この場に両親がそして、『兄』がいてくれたらどんなに嬉しい事だろうと思いながら。

 

 

 

 そう思っていた月の鼻にどこかしら、懐かしい香りが届いた。

 

(――これは……兄様の香り?)

 

 そして、その視線は、傍にいる幼なじみに向けられる。

 

(……詠ちゃんは、兄様は『元にいた世界に戻った』って言ったけど、なんで、兄様の香りが詠ちゃんからするの?)

 

「ん? 月、どうかしたの?」

 

「――ううん、何でもないよ詠ちゃん」

 

 月は己の思考を考えすぎたと否定した――だが、一度を感じた違和感はそう簡単に拭えるモノではなかった。

 

 ――それが、自分にとって大切ならなおさらである。

 

 

 

 それから数日が過ぎたある日の夜遅く。

 

 月は先日から感じていた悩みで中々、眠れずにいた。

 

 そして、風に少し当たろうと中庭に出た。

 

 白装束達がどこかで見張っているかも知れないが、彼らは、塀の外に出ない限り干渉はしてこなかった。

 

 少し、冷たい夜風に身をさらしながら月は静かに佇んでいた。

 

 だが、彼女の耳にどこかしら、違和感を感じる音が聞こえたのである。

 

 そして、彼女の瞳にこんな深夜にどこかに出かける詠の姿が映った。

 

「――詠ちゃん?」

 

 こんな夜更けにどこにいくのであろう? 月はそう考えると詠の事が心配になり彼女の後を追いかけた。

 

 そして、辿り着いたのは政庁の裏に佇んでいるにある物置であった。

 

「こんな所になんの用事なのかな?」

 

 月は何も警戒せずに、その物置へと入っていった。

 

 彼女以外の者ならあまりの怪しさに近づく事すらしなかっただろうが、――彼女はそういったことに少し疎い少女であったからである。

 

 だが、その先にあるのは少女にとって――

 

 

 

 

 詠は今、一刀のいる地下室の中で談笑を交わしていた。

 

 内容はとりとめのないものだが、彼女にとってそれは、智謀の策士ではなく、詠という一介の少女して過ごせる貴重な時間でもあった。

 

 詠は、自身で気が付いては無かったが、親友に嘘を吐き欺きながらも、一刀と密会する事に背徳感に似た蜜の味に抗いのない様な気持ちを感じていた。

 

 

 だが、運命という名の神は少年少女達に、更なる試練を与える。

 

 ―― 一刀と詠の逢瀬を月は見てしまったのだ。

 

 部屋の扉の鍵穴から溢れる灯りの先に見えたのは、座臥の上に腰掛けて、互いに談笑し合う男女の姿。

 

 女は親友である詠で、相手の男の方は――『元の世界に帰った』と聞かされた兄、北郷一刀であったから。

 

「――どうして? どうしてなの詠ちゃん?」

 

 親友の裏切りに等しい行為に月は頭の中が真っ白になりその場から後ずさる。

 

 が、それがいけなかった。

 

 足を縺れさせ、月はその場で尻餅をついて転けてしまったのである。

 

「――誰だ!」

 

 そして、皮肉にも暗殺者として技術を磨いていた一刀の耳にそれは届いた。

 

 一刀は詠から離れ、枕に忍ばせた短刀を手に扉を蹴り開けて、不審者と対峙した。

 

 部屋の灯りで照らされ、無様に尻餅を着いた状態でそこに居たのは――

 

 胡車児と名を変えた一刀が一番出会ってはいけない――いや、一番出会いたくない少女である詠がその場に居たのである。

 

「――にいさま、えいちゃん……どうして?」

 

 瞳から涙をポロポロとこぼしながら、月は二人にそう問うのであった――

 

 

 

 外史という名の歯車が軋む音を立てながら輪廻する――

 

 

 

 

-10ページ-

 

 

 

 

「何だこりゃー!」

 

 そう絶叫するのは、天の御遣いこと北郷一刀であった。

 

「ふふふ、ちょっとした余興ですわご主人様」

 

 咆哮する一刀を微笑みながら意味ありげに見つめるのは、北郷軍一の弓の使い手であり、『妄想超特急未亡人』でもある紫苑。

 

「ななななな、なんなのよ! この内容は!」

 

 一刀と同じくヒートアップしているのは、勿論、ツンデレメイドの詠である。

 

「まあ、実際に街に売り出す前に是非、ご主人様達に意見を聞きたかったのよん」

 

 そう発言しながらクネクネと軟体生物のように身をくねらせている妖怪ゴーリキーヒモパン。

 

「こんなの恥ずかしくて街に出せるか! 却下だ! 却下! って璃々ちゃんはこんなもの見ちゃいけません!」

 

 一刀の膝の上に座り、本を覗いている璃々を窘めながら、一刀は本を閉じる。

 

「?」

 

 何気に、一刀がこの本を読み始めて間もない頃から、彼の膝の上にいたのだが、文字を読む事が出来ない璃々は、彼の顔を見上げながら解らないとばかりに可愛らしく首を捻るだけであった。

 

 一刀の言葉に著者である紫苑は残念そうな表情になり、監修の貂蝉はがっかりと肩を落とした。

 

「――朱里と愛紗も何とか言ってやってよ!」

 

「は、はうぅぅ! 何でもありません、何でもありませんよ!――ちょっといいかも? とか全然思っていませんからハイ!」

 

 はわわ軍師の慌てた様子に一刀は涙を流す。

 

 そして、声を掛けたもう一人の少女に視線を向けると――

 

 

 

 熟読中――

 

 

 愛紗は、手にした本を力強く握りしめ、頬を朱に染めながら、悶々と作品を黙読し続けていたのである。

 

 軍神の豹変ぶりに一刀はガクッと項垂れるのであった――

 

 

 

 ――詠ちゃんとわたしとご主人様と……三人で……うん、いいかも。

 

 

 

 周りの大人達の喧騒と人知れずそんな事を呟いている月を見ていた陳宮こと音々音は、傍にいた張々の顎を撫でながら、静かにやりきれない溜め息を吐くのであった。

 

 余談であるがこの本は街に出る事はなかったが、政庁で働く女性陣達の間で人気になり、一刀達の目を盗んで続刊が次々と発刊されたとの噂が残るのだった――

 

 

 

 おしまい

 

 

※このSSは2008年のエイプリルフールのネタとして書いたものです。

 後半がダイジェスト形式になっていますが、月と詠をメインヒロインにした作品自分なりの外史です。

 董卓の孫娘である董白がお母さん役として、蔡?もオリキャラとして出たりイタイ作品ではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです。

 

 

 

 

説明
恋姫まつり! 終了お疲れ様でした。
多大な応援ありがとうございました。
今回、この作品を掲載した理由は、三作品投稿しないと応援メッセージが閲覧できないという理由からです。orZ
再掲載という形ですが、何とぞよろしくお願い申し上げます。
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コメント
続きが気になるwww(アルヤ)
続きが・・・読みたいです(チャイ)
続刊熱烈希望!(鬼間聡)
左慈に何があったんだろう・・・・・。(future)
ああ、あのシーンがああなって再び御目通りがかなうとは・・・気づくのが遅れましたが嬉しい限りです(イスピン)
楽しく読ましていただきました。 昨年の夏頃に恋姫†無双を知ったので、この作品は初めて読みました。 読み逃した身としては、いい機会でありこういう場が今後発展していくことを願うばかりです。(mista)
続きを・・・・(karin54)
>きりゅーのすけさん おっしゃるとおり、にゃんにゃんなトコロを改変して掲載しています(藤林 雅)
>nemesisiさんへ その通りです。ちょっと変更してますけど……(藤林 雅)
>GEASSさん エイプリルフールネタだったので……よく考えてみます (藤林 雅)
>MiTiさん お褒めの言葉ありがとうございました(藤林 雅)
>メカニさん クォーツさん 意外性でしか勝負出来ない自分の不甲斐なさにorz(藤林 雅)
>八神さん DDDさん HM-6さん 美鷹さん 再掲載なのに支援ありがとうございました。嬉しかったです。(藤林 雅)
一部変わっていたのが気になりましたが、よくよく考えれば、TINAMIは18禁駄目でしたね・・・orz ともかくあのあのなつかしの作品を見れて嬉しかったです(きりゅーのすけ)
この作品作者のサイトで期間限定で掲載されていたものですよね?(nemesis)
最後のオチがなければサイコーです!ってか、続きが気になる!書いて〜〜(>_<)(GEASS)
胡が間違っていたので直しを(胡車児○ 湖車児×)是否!続編を。もう出てるんですかね?(クォーツ)
今回、初めて閲覧させて頂きました。素晴らしかったです。まさか湖車児を持ってこようとは・・・。(クォーツ)
公開が終了していたので見れて嬉しかったです。ありがとうございます(美鷹鏡羽)
いい作品でした!(MiTi)
色々と予想外でした、謝。(メカニ)
あるのは知ってたんですが、公開終了してたので見れて嬉しいです。謝々。(HM-6)
祝! 再掲載!(DDD)
ブログから消えてた作品が再度みらた事に感謝(サワディー(・ω・))
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