もしも雪蓮がいなくなる前に、蓮華と一刀がくっついていたら ―前編―
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「おっ休みー、今日はおっ休みー♪」

 

 と雪蓮は城の廊下をスキップしていた。

 彼女曰く、今日は数週間ぶりの終日オフである。

 仕事しなくて いいのである。

 

 袁術から江東を奪還して以来、軍備の再編成やら民心の安定やら法整備やら周辺諸国との外交調整やらで殺人的な忙しさに飲み込まれていた雪蓮。

 それらもやっと一段落し、先日有能な補佐官 兼 鬼の監視役たる冥琳から やっと、「明日は休んでいいわよ」というお言葉を承ったのだ。

 

 雪蓮 感激。

 

 フツーだったらどんなに差し迫った仕事があったとしても遊びたい時には遊びに行くのが雪蓮のスジであったが、さすがに一国一城の王となって、これから天下に覇を唱える基盤作りの時期に 遊び呆けることはできない。

 ちゅうわけで、ここ数週間は雪蓮らしくない勤勉と勤労の日々だったのである。

 

 正直ストレスが溜まる溜まる。

 雪蓮は そのストレスを、今日というお休みで発散しつくすつもりだった。

 死ぬほど遊びまくるのだ!

 

 そのためには一緒に遊ぶ相手がいる。その相手を誰にするか、雪蓮はもう心に決めていた。

 北郷一刀。

 彼以外の誰が、私のこの猛る気持ちを受け止めてくれるだろうか、イヤない!

 

「一刀と何して遊ぼうかなー?魚釣りかなー?それとも花見をしながら酒盛りかなー?」

 

 雪蓮の想像力はムクムクと膨らんでいく。

 

「……それとも、日がな一日 寝所で、……ムフ」

 

 想像は あらぬ方へも先走る。

 

 そうこうしているうちに雪蓮は、一刀の私室に到着。

 かなりテンションがハイになってる雪蓮はノックを飛ばして いきなりドアを蹴破る。

 

「かーずーとっ!あっそびーましょー!」

 

 さあパーティーの始まりだ!とばかりの雪蓮の浮かれようだった。

 しかし一刀の部屋はシンと静まり返っていた。

 カーテンに阻まれて部屋に入り込めぬ朝日、うっすら暗い室内には人の活動の気配はなく、ただ寝台の上に こんもり毛布を被った山があるだけ。

 

「なぁに、一刀たらまだ寝てるのー?」

 

 雪蓮は呆れまじりに一人ごちた。

 とはいっても今の時刻は日の出から四半刻と経っていない、現代の時刻に換算すればAM6:00前といったところか。

 だから一刀がまだ夢の中であったところで責められる いわれはないのであるが、そういうことも軽く無視してしまえるほど今の雪蓮はファイテンションであった。

 正直、今 彼女を止められるものはあまりない。

 

「一刀〜!起きてよ、起きて朝ごはん食べずに遊びに行きましょー!」

 

 朝食の時間すらも待ってもらえないとは。

 しかし雪蓮は反省しない。

 ズカズカと一刀の眠る寝台まで歩み寄ると、毛布を引っ掴み、

 

「起っきろーッ!」

 

 と盛大に毛布を剥ぎ取る。

 その下から現れたのは、いまだ夢心地で幸せそうな寝顔をたたえる一刀と、蓮華。

 

「―――え?」

 

 我が目を疑う。

 雪蓮はテンションが上がりすぎて視覚が変になったのかと目蓋をゴシゴシ擦り、再び寝台の上を確認する。

 一つの寝台に寝ているのは一刀と、蓮華。

 

「―――あれ?」

 

 雪蓮はしつこく目蓋をゴシゴシ擦る。が、どれだけ目を擦ろうと一緒の寝台に一刀と、蓮華、が寝ている現実は変わりない。

 蓮華、愛すべき我が妹 蓮華。

 それが何故 自分の部屋でなく、一刀の部屋で一刀と同衾しているのか。

 だがそれだけならまだいい、ただ一緒に寝ているだけなら夜中にご不浄に行って帰りに寝ぼけて部屋を間違ったという可能性だってある。

 が、問題なのは服を着てないということだった。

 一刀も蓮華も服を着てないということだった。上半身も下半身も、そして下着すらも。

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「うひゃっ?」

 

 雪蓮は慌てて毛布をかけなおし、決定的な部分を自分の視界から隠す。

 

「……ううん」

「くかー……」

 

 これだけのことをされても一刀も蓮華も いっこうに眠りから醒める気配はない。よっぽど昨晩は疲れるようなことをしたのか。

 

「……いい、いやいや、そういうことよね、これは………」

 

 雪蓮は混乱する自身を抑制するかのように独り言を呟いた。

 男女二人、同じベッドで、しかも服を着ずにすることといったら……。

 

「え?なに?コイツら いつの間に そーいう関係になったのッ?」

 

 いかに普段他人の目を気にしない雪蓮でも、ここまで確定的なものを目撃したら気付かざるをえない。

 

 でも なんで?

 いつ?

 イヤそういう風になれとは思って自分自身 二人を煽ってたりしたけれども、そういう きっかけとか気配とか私 微塵も感じなかったし。

 何?私 鈍なの?それともこの二人の世を憚るスキルが上位なの?でもそしたら こんなところで見つかるわけないし、鈍?私やっぱり鈍?空気読めないヤツだった私?

 

 と雪蓮が混乱しきりでいると。

 

「………うーん」

 

 と寝台で寝ている妹の方が、寝返りを打った。今までうつ伏せに寝ていたのが仰向けになり、裸の胸が開放感たっぷりに ゆらんと揺れる。

 

「蓮華ったら…、服の上からじゃ わからないけど、意外と……」

 

 妹の成長に圧倒されて生唾を飲む姉。

 

「………はっ、そんなことしてる場合じゃないわ!早く部屋から出ないと、もしこんな状態で どっちかが起き出したりしたら どーいうことになるか……!」

 

 雪蓮の恐れももっともであった。妹の逢瀬に遭遇する姉、しかもそれを向こうにも気付かれる、想像しただけで気まずさが天元突破だ。

 雪蓮は足音を立てぬよう慎重に後ずさり、部屋の出口に向かう。数歩たらずの距離しかない出口が、いまや三蔵法師が向かう天竺への道のりのように長いものに思えた。

 

「そ〜っと、そ〜っと……!」

 

 足音を殺して部屋を脱出しようとする雪蓮。あと2,3歩で出口だ、もう少しと気が緩みだした瞬間。

 

 

 すってーん!

 

 

「きゃあッ!」

 

 雪蓮はズッコケた。何かを踏んで足が滑ったのが原因だった。

 お尻を思い切り床に打って、いてて、と呻く雪蓮。

 

「もぉ〜、いったい何ぃ?」

 

 痛みに苛立つ声。いったい何を踏んでズッコケたのか?バナナの皮でもあったのか?雪蓮が足元を確認してみると、そこにあったのはバナナの皮――では当然なく、何か、クシャクシャに丸めた紙クズのようなもの。

 

「……なに、コレ?」

 

 雪蓮はその紙クズのようなものを踏んで滑ってコケたのか?手元にソレを引き寄せてマジマジと見てみる。

 

「ま、まさかコレ………?」

 

 雪蓮はピンと閃くものがあって、ソレを両手で広げてみる。丸めた紙クズのようなソレは広げると三角形になった、伸縮性のある布地で作られたソレは。

 

「ままままままま、まさか…ッ?」

 

 パンツ?蓮華のパンツ?

 その持ち主とおぼしき本人が まっぱで寝ているから その可能性大だ。同じ まっぱでも一刀のパンツという恐れは低い。

 雪蓮は改めて部屋を見渡してみる。入ってくる時には気付かなかったが、室内には脱ぎ散らかされた服がそこかしこに落ちている。

 なんという生々しい風景。

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「…………んっ」

 

 寝台の方から くぐもったげな声がした。

 雪蓮がビクゥッと硬直した。滑って転倒を始めとし、色々大騒ぎをしてしまった直後である。何やってんだろうアタシ、と雪蓮は今さらながらに悔恨の念。

 

 雪蓮が恐る恐る振り向くと、寝台の上では蓮華が気だるそうに頭をもたげていた。

 

「やば…!」

 

 雪蓮が小声で呟く。

 しかし蓮華はまだ寝ぼけているのか、部屋の隅にいる姉の存在にはまったく気付く風もなく。

 

「…………んー」

 

 寝ぼけ眼を擦ると、すぐ下の眠ったままの一刀に気付き。

 

「……あ、一刀♪」

 

 と想像を絶する艶っぽい声を出して、

 

「…………ちゅ」

 

 予告無しに おはようの接吻を。

 直視させられる雪蓮はたまったものではない。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!?」

 

 

 それを目の当たりにした雪蓮は、喉の奥から飛び出そうとする声を寸前で押さえ込む。

 その間にも寝ぼけた蓮華は、熟睡中の一刀を相手に 大人のキスを堪能中。

 

「……ん、………んん、…ちゅう」

 

 うわ、スゴイスゴイ。スゴイ勢いで蓮華の唇やら舌やら喉が脈動していく。これ以上事細かに描写すると年齢制限に引っかかりそうなので詳しくは書けないが、とにかくも妹の行う それは姉には刺激が強すぎた。

 ひとしきり一刀の唇を味わった後、二人の唇は湿っぽい糸をひいて離れる。

 そして蓮華は陶然とした表情で、

 

「……一刀、好き」

 

 と言って また性懲りもなく唇を重ねようとする。

 しかしその頃には、それを見守る羽目となった姉の理性も限界だった。

 

 

 

 

 

「にゃにゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 城中に響き渡る大声に、城壁に留まっていたスズメがすべて一斉に飛び立った。軍馬たちは驚き暴れ、厩舎はパニックに陥る。

 そして人間だって その大声には無反応ではいられず、

 

「きゃあッ!?」

「なんだッ?」

 

 安眠を貪っていた一刀と蓮華も叩き起こされる形となった。

 

「なにっ?なにっ?今の、敵襲ッ?」

 

「落ち着け蓮華、とりあえず胸を隠せ!ああそれから、ええと……!」

 

 寝台の上で驚き慌てふためく二人、その頃には室内には彼ら二人の姿しかなかった。出入り口は開け放たれたまま、その外で忙しげな足音が遠ざかっていた。

 

 

 ……………。

 

 

「――――てなことがあってぇ、ホントにビックリしたのよ」

 

 それから多少時間は過ぎ、日もそこそこ昇ってきた頃には雪蓮も冷静さを取り戻し、今朝あったことを報告するほどの余裕ができていた。

 

「だからって、そんなこと報告されて どう反応しろって言うのよ?」

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 周公瑾こと冥琳は溶き卵の浮かんだ中華粥を掬った。朝食時に押しかけてきて そんな艶聞をされても本当に困る。

 

「だってぇ、ホントにビックリしたんだもん。一刀と、蓮華が、いつの間にあんなことに……?」

 

「何言ってるの、アナタ以外 皆 気付いてたわよ」

 

「ええっ?」

 

 冥琳の指摘に雪蓮は心底驚いた。

 

「皆 気付いてたッ?じゃあやっぱり私 鈍?鈍だったの私ッ?」

 

「鈍感かどうかは知らないけれど、ことさら驚く必要があるとも思えないけど。だいたい二人がああいうことになるのはアナタが最初に望んだことじゃない。天人の血を孫家に入れる、それが北郷を呉に招いた理由でしょう?」

 

「そうだけどぉ、実際あんな生々しいものを見せ付けられたら、やっぱ驚くものでしょお?」

 

「あらあら、雪蓮も可愛いところがあるのね、男女の逢瀬を目の当たりにしただけで そんなに取り乱すなんて」

 

「失礼ね!私コレでも純情なんだもん!」

 

 雪蓮はプウと頬を膨らませた。

 冥琳はそんな断金の友に苦笑しつつ、テキパキと朝食を進める。

 

「もう冥琳たらッ!ご飯食べてないで私の話も聞いてよ!」

 

「そっちこそ、朝食ぐらい落ち着いて食べさせて欲しいわね」

 

「あ、あの……、周瑜様、孫策様」

 

 おずおずと二人の会話に割り込んできたのはお付きの侍女だった。

 

「なにっ?」

 

 雪蓮がギロリと侍女を睨み返す。

 

「こらこら八つ当たりしない、で、どうした?」

 

 冥琳が困った親友をなだめ、侍女に聞き返す。

 

「はは、はい、朝の挨拶にと孫権様がお見えになってます、お通ししてもよろしいでしょうか?」

 

「蓮華がッ?」

 

「わかったわ、こちらへご案内して。あと人数分のお茶の用意を」

 

「冥琳ッ?」

 

 侍女は「かしこまりました」と返事して、そそくさと部屋から出て行く。

 

「ちょっと待ってよ冥琳!蓮華をここに入れるの?私どんな顔して会えばいいのよ!」

 

「普通でいいに決まってるじゃない、アナタの話から察するに、二人はアナタが忍び込んだことには気付いてないんでしょう?だったら何もなかったように装うのが上策、変に意識してると返って勘ぐられるわよ」

 

 二人が言い合っているうちに侍女に案内されて蓮華が入室してきた。

 

「おはようございます姉様、本日もご機嫌麗しゅう」

 

 と型にはまった挨拶でキチンと頭を下げる蓮華には、今朝 一刀の寝室で見せた あの妖艶さは微塵も感じられない。今彼女が纏うのは、この朝の空気とまったく同じ清々しいまでの晴れやかさだった。

 

(……ねえ冥琳、女って ああも早変わりできる生き物なのね)

 

(いや、アナタだって女でしょうに)

 

 小声で話し合う断金の二人。

 

「あの……、二人ともどうなすったんですか?」

 

「いえ、何でもありませんわよ蓮華様。ささ、お座りになってください、今 茶の準備をさせていますので」

 

 冥琳が席を勧めるものの、何故か蓮華は腰の辺りをモジモジさせて、

 

「いや、いいの冥琳、私はこのままでいいわ」

 

「なによぅ蓮華、そわそわしてぇ、お茶ぐらい飲んでけばいいでしょお」

 

 何故か やたらと絡んでくる雪蓮。…いや、何故絡んでくるのかは理由は大体明白なのだが……。

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「いいえ姉様、私はこの後すぐに出掛けなければなりませんので」

 

「あら、そうなの?」

 

「蓮華様も本日は休暇のはずでしたね、何処へお出掛けなさるのですか?」

 

 冥琳が尋ねると、蓮華は顔を綻ばせて、

 

「ええ、ちょっと街へ出てこようかと思って……」

 

「それはいいことです、蓮華様も最近は働きづめでしたから、これを機に羽を伸ばして来てくださいな」

 

「ありがとう、それじゃあ……」

 

 蓮華が答礼して、部屋から辞そうとした その時……。

 

 

「一人で?」

 

 

 と、うっそりとした雪蓮の声が、蓮華を捕まえた。

 

「…はい?」

 

「その街へ…っていうのは一人で出掛けるの、蓮華?」

 

「あ、あの、それは〜……」

 

 詰問するような姉の口調に、蓮華は大いに戸惑う様子だった。彼女が返答に困り、雪蓮が更なる追い込みをかけようとしたのを、冥琳が止める。

 

「お気になさらずに蓮華様、さあ お急ぎを、貴重な休日を無駄になさらぬように……」

 

「え、ええ……」

 

 蓮華はやはり戸惑い交じりだったが、しかし このまま ここに留まっていても姉に捕まってしまうのが目に見えていたので 腰をモジモジさせながら部屋を後にした。

 蓮華が去った後の室内では、

 

「もう冥琳、なんで逃がしちゃうのよ!?あれ逢引よ、絶対一刀と街で逢引するつもりなのよッ!?」

 

「したっていいじゃない若い者同士なんだから。あの二人、きっと今が一番楽しい盛りなんだから邪魔せずに見守ってやりなさい」

 

「う〜」

 

 冥琳は落ち着いて茶をすすり始めたが、やっぱり雪蓮にはいかんとも納得しがたかった。

 額に浮かぶ汗をハンカチで拭う。

 たしかに、

 蓮華と一刀をくっつけようと思い立ったのが自分であったとしてもだ。

 一番最初に一刀を見つけてきたのは自分なのだ。一刀を保護しようと決めたのも自分なのだ。

 その自分よりも先に蓮華が一刀といい仲になる?なんか納得がいかない、なんでと言われても説明しがたいが、なんだか納得しがたいのである。

 雪蓮はハンカチを握り締めた。

 

「……私も行く」

 

「は?」

 

「私も街に行く!そして蓮華と一刀がちゃんと節度ある交際をしているのか、確かめてやるわ!姉として!」

 

「ちょ、ちょっと雪蓮、何言ってるの……、って、雪蓮、それ何握ってるの?」

 

「なにって、ハンカチだけど……」

 

 といって雪蓮が自身の手を確認してみると、そこに握られていたのはハンカチではなかった。

 蓮華のパンティーだった。

 

「……アレ?」

 

 どうやら、今朝の騒ぎでドサクサに紛れたまま持ち出してしまっていたらしい。

 

「じゃあ、さっき蓮華がやたらと腰をモジモジさせてたのって……」

 

「座るのを拒否してたのって……」

 

 雪蓮と冥琳は顔を見合わせた。

 

 

 ……………。

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「……と、いうわけで、私たちは今 街を行く一刀と蓮華の後を こっそり着けていまーす」

 

「なんで私まで……」

 

 結局、雪蓮は街へ繰り出して、宣言どおり蓮華たちのデートへの監視を人知れず行っていた。

 人知れず、なのは冥琳が同行して この先走りな友だちの手綱をとっているからだ。若い二人のためとはいえ苦労の尽きない冥琳である。

 

「……まったく、私だって貴重な休暇の日なのに」

 

「何 愚痴ってるのよ冥琳、二人が動き出すわよ、隠密行動をとりつつ後を追うわよ!」

 

 雪蓮が鼻息荒く二人の背中を追う。

 城を出た直後は蓮華一人だったものの、しばらく行くと案の定 一刀が合流してきた。

「待ったかい?」

「今来たところよー」

 などとテンプレな会話を交わしつつ、その後は二人寄り添うようにピッタリ、なんか腹立つ。

 雪蓮はイチャイチャする二人の背中を見詰めるごとに、パンティを握る手に力を込めた。

 

「雪蓮、妹の下着に当り散らすのは おやめなさい」

 

「あっ、冥琳。二人がどっかのお店に入るみたいよ。あれは……、服屋?」

 

「うむ、男女が連れよって入る店にしては上出来なんじゃないの?蓮華様が着る服を北郷が見繕ってあげる、いい光景じゃないの」

 

「その考えは 甘うございます、雪蓮様、冥琳様」

 

「うひゃあああああッ?」

 

「なっ、ししし、思春ッ?」

 

 いきなり二人の背後に立って声を掛けてきたのは、呉の将にして蓮華の直属ともいうべき忠臣、甘興覇こと思春だった。川族出身であるためか気配を消すのが得意な彼女は、すぐ背後に接近するまで その存在を雪蓮たちに気付かせなかった。

 

「思春、どうしたのアナタ、何故こんなところで?」

 

「愚問です雪蓮様、私は蓮華様の直臣。蓮華様のいるところ私は いずこにも供をします」

 

「でも今回は蓮華様と北郷 二人だけの外出。だからアナタも大っぴらには同行できず、私たち同様 尾行に留まっていると……」

 

「うっ」

 

 冥琳に図星を突かれて思春は言葉を詰まらせた。

 

「……ええ、冥琳様の仰るとおりです。蓮華様からは城を出る前に同道せずともよいとの執拗なお達し、そこまで頑なになられるには何かあるかと思い 密かに後をつけてみれば、あのように軟弱な男と逢引を楽しまれるためとは……!」

 

「思春!わかるぅその気持ち!私たちは同志だわ!」

 

 と手放しに喜ぶ雪蓮、逆に冥琳は冷静な態度で。

 

「それで思春、さっきアナタが言った、甘い、ってのは どういうこと?」

 

「はっ、今しがた蓮華様と北郷が入ったあの服屋、実を申しますとアレは下着専門店なのです」

 

「「下着専門店ッ!?」」

 

 雪蓮と冥琳は、揃って手の内にある蓮華のパンティーを覗き込む。

 

「…まぁ、ある意味仕方ないわよね」

 

 女の子をノーパンのまま街中連れ回すとなったら、それは新しいジャンルの羞恥プレイだ。

 

「蓮華様のために新しい下着を見繕ってから本格的に逢引を楽しむという算段なのだろう。北郷も案外気が効いているではないか」

 

 冥琳は感心していうが、思春の反応はまるで正反対だった。

 

「おのれ北郷一刀、蓮華様をこのような不埒な場所に連れ込むとは。もし ここで蓮華様に淫らなマネをするようなら この甘興覇、許してはおけぬ」

 

「許さないって…、どうするつもり」

 

 雪蓮が恐る恐る尋ねると、思春は答えて、

 

「はい、これで北郷一刀を一突きにいたします」

 

 と細長い棒を持ち出した。

 それを見て雪蓮も冥琳も安堵した。いかに思春の腕っ節がバケモノ並でも、得物があのように細い棒では叩かれる側も大した怪我にはなるまい、その辺 思春も良識を持ち合わせていたか、と彼女のことを見直したが、

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「これは、吹き矢、というものです」

 

「へ?」

 

「この棒が、筒状になっていまして、その中に小さな矢を仕込み、尻の方から息を吹きかけて矢を飛ばす、という道具です。先日 北郷からその仕組みを教わりました」

 

「北郷……、お前 自分の教えた知識で殺されようとしてるぞ」

 

 冥琳が戦慄混じりに呟く。

 

「さらにこの矢には、鴆毒が塗ってあります」

 

「ちんどく!」

 

「そうです、かの董卓が弁皇子とその母君を殺害する時に用いたとかいう あの毒です」

 

 思春は真顔で力説する。

 

「ご安心を雪蓮様、もしあの軟弱男が蓮華様に不埒を働こうとした際は、この甘興覇がこの吹き矢をもって成敗してご覧に入れます。標的を狙って音無く瞬殺、まさに私の特性に見合った暗殺武器です」

 

「なるほど、よくわかったわ。…お〜い、そこにいる警邏の兵士さ〜ん」

 

 雪蓮は、ちょうどその場を巡回していた街の警備兵を呼ぶ。兵士は、自分たちを呼んでる相手が孫策であることに気が付き、何事かと慌てて駆け寄る。

 

「兵士さん、コイツ不振人物だから、番所まで しょっぴいちゃって」

 

「しぇ、雪蓮様?」

 

 太守の言いつけでは仕方がない、警備兵は大いに戸惑ったが、結局は太守の命令を優先して甘将軍をお縄にかける。

 

「雪蓮様っ、どういうことですか、雪蓮様ぁーッ!」

 

 ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜♪と兵士に引きずられて思春退場。

 

「ふぅ、これで一刀が暗殺される危険はなくなったわ」

 

「よい仕事をしたわね雪蓮」

 

 ガッ、とハイタッチしあう断金の友。

 ところで下着専門店に入っていったカップルの方はどうなったろう、雪蓮たちは後を追うことにした。

 

「う〜ん、蓮華たちは何処に行ったのかしら〜」

 

「しッ、いたわよ雪蓮」

 

 マネキンの陰に隠れつつ雪蓮たちが窺うと、ちょうど蓮華は、恋人の選んでくれた下着を何点か持って更衣室に入るところだった。

 試着するらしい。

 シャッと閉じられたカーテンの向こうで、一刀はソワソワと蓮華の着替えを待つ。

 

「くぅ〜、一刀のヤツ、なんだかとっても楽しそう〜!」

 

 ほぞを噛む雪蓮。

 しばらくすると、試着室の内側から呼びかけられたらしく、一刀はカーテンの隙間から頭を突っ込む。

 

「うわぁっ!」

 

 その光景に雪蓮は絶句した。

 

「蓮華ってば大胆、だって今、あの子、下着の試着してるはずでしょ?」

 

「その姿を北郷に吟味させる。……なかなか上級な恋人行為ね……」

 

 冥琳も感心するように呟いた。

 どうやら蓮華と一刀の仲は、そういうことが平気でできるまでに進展しているようだ。

 しかし、こうなると益々 思春をしょっぴいておいて良かったと雪蓮たちは先見の明を自賛する。

 

 蓮華は様々な下着を試しているらしく、一刀は試着室の前で待機してはカーテンに頭を突っ込むという行為を繰り返していた。

 

「ねえ冥琳、アイツら いつまでやれば気が済むんだろ?」

 

「相変わらず気が短いわねアナタは。退屈なら どっかでゴハンでも…、あら?」

 

「どうしたの冥琳?」

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「アレ、祭殿…」

 

 冥琳が指摘するとおり、店内をうろつく祭さんを発見。

 いつもなら城内で呑んだくれてるはずの酔っ払いが どうしてこんなところに。

 場違いな酔っ払いは当然のごとく一刀と遭遇。

 一刀が混乱するのもさもありなん。

「おお北郷、どうしてこんなところに おるのじゃ?」などという祭の声が遠巻きながら聞こえてくる。

 そして交わされる会話の中から試着室に入っているのが誰かを勘付いた祭は、

 おもむろに試着室に乱入。

 遅れて店内に響き渡る蓮華の黄色い悲鳴。

 一刀が外で orz な体勢をしている横で、試着室内では何が行われているのか?

 しばらくの後 試着室から出てきた祭はホクホク顔をしていた。

 一刀に別れを告げて足取り軽くこちらへ向かってくる祭を、雪蓮と冥琳が確保。

 

「おお、策殿に冥琳ではないか、今日は街中で顔見知りとよく会う日じゃのう」

 

「そんなことは いいから祭!アナタ試着室で蓮華に何したのよ!」

 

「返答次第によっては無礼討ちもやむをえませんが?」

 

 冥琳が半ば本気で言うのへ、祭はフフンと鼻を鳴らした。

 

「なるほど、おぬしら二人、さしずめ いい仲となった北郷と権殿が気になって後を付回しとるといったところじゃの?」

 

「うっ」

 

「あやつらだけでなく策殿も初々しいことじゃ。そういうことなら この黄蓋、特別によいことを教えて進ぜよう」

 

 祭は雪蓮たちの耳に口寄せて、囁くように言った。

 

 

「―――豹柄じゃった」

 

 

「ヒョウガラッ!何が、何が豹柄だったのッ?ねえ祭ッ!」

 

「いやあクソ真面目で面白味もないとばかり思っておったが、権殿もアレでなかなか“女”ということじゃな!」

 

 煽るだけ煽って祭は去っていった。

 

 破壊神的な彼女の登場で一時混乱した蓮華と一刀のデートであったが、その後はリズムを取り戻し、順調に予定を消化していった。

 

 服屋で下着を買いそろえた後は京劇を観覧し、演目である覇王項羽と虞美人の悲恋に涙し、その後はカフェテラス風の点心屋で見終えたばかりの演劇の感想を語りつつ、新作の水菓子に舌鼓を打ったりしていた。

 

 その間も、雪蓮と冥琳はずっと二人の背中にくっついていた。

 

「けっこう上手くやってるじゃないか、二人とも」

 

 冥琳が優しげに呟く。

 

「蓮華様たちが ここまで上手く恋人をやっているとは思わなかったが、孫呉の未来を思えば僥倖かも知れんな。二人の仲睦まじさは やがて呉を支える礎となろう」

 

「……う〜」

 

 しかし雪蓮はしかめ面して唸ってばかりだった。

 

「さ、そろそろ帰ろう雪蓮。私たちも いい加減 自分の休日を満喫したいところだ」

 

「……冥琳、私決めた」

 

「は?何を?」

 

「決めたったら決めたんだもん!」

 

 

 はたして雪蓮が心に決めたこととは何か?

 

 

 後編――雪蓮の逆襲――に続く

説明
恋姫祭りは締め切られてしまいましたが、どうしても書きたいという意欲と他の方々が投稿しているのを見て筆を取ってしまいました。

思いのほか長くなって またもや前後編に、
あらすじはタイトルの通りです。読んでやってください
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コメント
カイ様>ネタは時代を超越しますw(のぼり銚子)
(スキル)て、この時代あったのか?(カイ)
320i様 >ありがとうございます、満足するまで2828してくださいw(のぼり銚子)
kazuto様>ラヴな二人を書くのはとても楽しいですもん!(のぼり銚子)
かなりラヴラヴじゃん(玖龍)
ハイドラ様>そんなっ!童貞の夢が壊されたッ!(泣(のぼり銚子)
hannariero@yahoo.co.jp(はんなり)
G‐on様>これはもうBaseSon様にファンディスクを出してもらって、蓮華の下着姿を差分CG50枚ぐらい描いてもらいましょうw(のぼり銚子)
なんという見事な展開……。蓮花には明るい色もいいけどここは一つ一刀デザインのスケスケレース(白)をお勧めしたい。何はともあれ後編に期待です。(G-on)
oa様>たしかに蓮華の黒い肌には明るい色が良く似合う………。でも一刀は色んな柄を着せたかったと思うんです、店まで来たんだし(のぼり銚子)
超級覇王様>ところで蓮華ってフツーにゲームの立ち絵でも穿いてないように見えません?蓮華ってそういう羞恥プレイが似合う子ですよね?(のぼり銚子)
りばーす様>暴走こそ我が信条…、とかいうと どっかの中二病の悪役みたい。続編は今制作中です、楽しみに(のぼり銚子)
蓮華は豹柄じゃなくて白色or水色だろ常考(oa)
はいてない蓮華……だ…と… 悶え死にました(超級覇王)
この素晴らしきお笑い展開と暴走展開!是非とも続きを!!(りばーす)
かわうそ様>次号、フォースの暗黒面に堕ちた雪蓮様をお楽しみください。雪蓮「ユー アー マイシスター」蓮華「ノウ!…ノウ!」(のぼり銚子)
八神 祐様>恋姫のキャラは皆等しく最高なのですよw祭さんももちろん最高です(のぼり銚子)
にゃ〜様>一刀が蓮華に付っきりなだけに冥琳がツッコミとして大活躍w(のぼり銚子)
Reo様>呉の恋愛格差は深刻なのですw(のぼり銚子)
舞野様>暴走するのは雪蓮だけとは限りませんwお楽しみにw(のぼり銚子)
MiTi様>ありがとうございます、その率直な言葉が嬉しい!(のぼり銚子)
ととと様>遠慮せずに どうぞ好きになってください!蓮華は俺の嫁です!(のぼり銚子)
THE10様>バカップルほど見ていて楽しいものはないのですw(のぼり銚子)
曹魏の民様>ありがとうございます、深夜は物音に気おつけてくださいねw(のぼり銚子)
カピパラ様>続きは鋭意構想中です、今しばらくお待ちを(のぼり銚子)
今回からコメントにレスを付けていこうかと思い立ちました。よろしくお願いします。(のぼり銚子)
雪蓮の逆襲!? これはもう期待せずにおれないー! はい、GJすぎです。(ブリューナク)
祭さんはやはり最高です!!・・・もちろん雪蓮も大好きですよ?(サワディー(・ω・))
冥琳が結構ノリノリだwww(にゃ〜)
一刀のラブジョアめ!w(Reo)
これはw続きに大期待です♪雪蓮がどんな暴走するのかなw(舞野)
いい!ひっじょうにGJ!(MiTi)
蓮華好きになりそうですw(ととと)
もう、このバカップルめ!!(THE10)
豹柄じゃった・・・最高でしたw声出して笑いましたwww(曹魏の民)
続きが〜〜〜〜〜〜!!!!   気になる・・・・・(カピパラ)
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真・恋姫†無双 恋姫無双 蓮華 雪蓮 

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