仮面ライダーサカビト その五(後) 《ライダーシンドローム編》
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前回までの仮面ライダーサカビト。

 

代々木悠貴は悪の科学者に洗脳・改造され、“仮面ライダー”を殺害してしまう。

 

その後、紆余曲折を経て代々木は改造人間サカビトを名乗り、V3と激闘を繰り広げるが、圧倒的なV3の力と技の前に敗北を喫する。

 

時と場所は移り行き、1975年…栄光の七人ライダーがデルザー軍団を打倒し、ネオショッカーが現れるまでの空白の出来事。

 

七人ライダーの内、一号、ライダーマン、アマゾン、ストロンガーは魔の国に残るデルザー残党との交渉の為に旅へ。

途中、ネオショッカーの妨害を跳ね除けて、魔の国へ向かうライダーたちを待ち受ける運命とは?

 

 

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 各国で旅客機が“原因不明”で墜落したニュースが流れる頃、四台のバイクは道なき道を走っていた。

 新サイクロン、ライダーマンマシン、ジャングラー、カブトロー。

 それぞれ開発の経緯もスペックも異なるマシンが、大自然のオフロードを横一列。目的地である魔の国までアクセルを緩めることは無い。

 そこに広がっていたのは想像を上回る凄惨な景色だった。

 累々と連なる死体のカーペット、それは全て岩石生命や獣人、改造魔人たちだった。

 

 「…ひどいな、これは…」

 

 魔の国の支配者:改造魔人。

 世界制服を策謀する悪の集団であり、どんな目に遭おうとも自業自得。

 だが、死体の中にある幼い子供の魔人の躯を眼にすれば、敵対心以外の感情…この惨状を作り出した者への怒りが込上げる。

 それは善悪以前、心の根源的な部分に備わっている基本的な回路であり、その回路を持たない人間は最早魔人と呼ぶしかない。

 

 なんの慈悲も情けもない、轢殺・惨殺・皆殺し。

 この大虐殺を犯した何者かへの純然たる激情。その感情を噛み殺して城茂は言葉を紡ぐ。

 「…どうですか、何かわかりますか、結城さん?」

 「そうだな…この死体の多くは…同じ攻撃方法、すさまじいパワーを持った怪人に殺害されている」

 とっさに本郷は先ほど飛行機の上で名乗ったゼネラルモンスターの言葉を連想していた。ネオショッカーの名前を。

 

 

 「それをやったのはファンガイアと呼ばれる魔人ですよ」

 

 

 濁った激流のような、激しい濁流のような、耳障りな声の主。

 僧侶風の格好をした毛むくじゃらの明らかな改造体。デルザーの本拠地である魔の国で、雪男を思わせるその容姿。

 その怪人――スノウ司祭――がデルザーの改造体だとライダーたちが断定するのに時間は要らなかった。

 

 「ここは名乗らせていただきましょう。

  私の名前はスノウ司祭。雪男族族長にしてデルザーの司祭長。

  一時期は栄光のデルザー十三人衆にも籍を置いていた、しがない改造魔人ですが…同時に…」

 

 スノウ司祭は両手第三指に嵌められた指輪を見せ付ける。

 距離こそあるがライダーたちの視力はその意匠には見覚えがあった。

 アマゾンのギギの腕輪とガガの腕輪、それと非常に良く似た眼のエンブレムが確認できる。

 

 「これはジョズの指輪とパギの指輪。そして私はその力で戦う戦士。

  そうですね…仮面ライダートート…とでも名乗りましょうか?」

 

 仮面ライダーという言葉に怪訝な態度を取る四人のライダー。

 そもそも仮面ライダーと名乗る経緯は、栄光の七人ライダーたちも異なる。

 一号と二号は自然な流れとしても、そのふたりからエネルギーを受けた直系のV3、そのV3に名を送られた四号のライダーマン、ここまでは自然な任命といえる。

 しかし、残る三人はそれぞれ先輩ライダーに名を送られたわけではなく、悪と戦う戦士という意味合いで使っており、明確な基準や定義を作ってはいないが、それにしても生まれながらの怪人であるデルザーが名乗るとは、想像にもしていなかった。

 

 「…お前は俺たちの味方なのか?」

 

 「そうなれることを強く希望します。私には情報がある。

  次なる悪の組織ネオショッカー。吸血鬼のファンガイア。ニッポンのナガノに封印されている超古代文明生物…。

  人を裁く獣頭の天使、人の突然変異種、欲望の結晶体、絶望の先から生まれる異形…他にも無数に存在する世界の脅威、それらの情報を私は持っています。どうです?」

 

 「なら――もうひとつ質問させてもらう」

 仮面ライダー一号が三人のライダーの前に出た。

 「ファンガイアとやらに仲間たちが倒されている間、お前は…何をやっていた?」

 

 本郷猛の声、優しくも強く、子供たちに対する慈悲に満ちた青年の言葉。

 薙ぎ倒された魔人の子供たちへの憐憫は、そのままスノウ司祭への疑惑へと変わっている。

 

 「ジョズとパギ…この指輪の研究をしていました。幾分未完成だったものでね」 

 「仲間たちが戦っている間、隠れていたのか」

 「ええ。私が加わろうとあのファンガイア…ルークは倒せない。ならば犬死でしょう?」

 

 その回答に四人のライダーたちの返答は決まり、スノウ司祭もその決意を察してヤレヤレと深く息を吐いた。

 

 「…では、戦って死ねと? 玉砕することだけが正義だと?」

 「女子供まで戦ってる中で引き篭もってるような根性無しはいらねえ、ってだけだよ」

 「お前が一緒に戦えば、子供を逃がすくらいはできたんじゃないか?」

 

 ストロンガーとライダーマンの言葉にも、スノウ司祭は理解できないとばかりに眉をひそめる。

 現実に子供の魔人を最前線で戦わせたことから考えても、スノウ司祭の考えは実力主義のデルザーとしてはマジョリティなのかもしれない。

 だが、それが正しいと認めることはしない。正義の二文字が許しはしない。

 

 「アマゾンライダー…私のトートの力は貴方と同じ古代インカ文明の力…あなたがライダーならば、私も…」

 「違う! 仮面ライダーは…マサヒコが呼んでくれたその名は…!」

 アマゾンを始めて仮面ライダーと呼んだのは日本で最初のトモダチ、マサヒコ少年だった。

 マサヒコ少年も思慮深くそう呼んだわけではないだろう、しかしトモダチがそう呼んで、信じてくれたことが、アマゾンライダーの明確な力になっていた。

 仮面ライダーという名前が、密林ジャングルで育って心細い日本でも戦い抜く力を与えていた。

 「…それは仕方ない。それでは…死んでいただきますよ?」

 「へえ、デルザー流のジョークは上方落語並だな」

 

 

 「私が生き延びるには…もっと多くの武器が必要です。

  天才と呼ばれた本郷猛と結城丈二の脳髄、正木博士の残した超電子ダイナモ…そして無限の力を持つギギ・ガガの腕輪!」

 言葉と同時にスノウ司祭の姿が変わっていく。

 アマゾンの変身プロセスと同じく万華鏡のような光に包まれ――幻想的な流れの中でスノウ司祭の肉が隆起する。

 膨れて萎み、それぞれが狼男やミイラ男に大蛇、様々な顔面が苦痛と憎悪の表情を貼り付けて浮かび上がる。

 

 「アマゾン、アレは…!」

 「十面鬼と同じ力…ギギの腕輪もそう云ってます」

 「てめえ、自分の仲間の首を…!」

 

 質問には応えず、スノウ司祭は消え去り、そこには赤い鳥が示現していた。

 仲間たちを生け贄とし、血のように赤い魔鳥。

 

 

 

 

 「トォオオオゥッ、トォオオオオオオォオオオオ!」

 

 「気を付けろ! デルザーに超古代インカの力…どの程度の能力か、想像できない!」

 ライダーマンの言葉に、ストロンガーは舌打ちひとつ。

 「どっちにしろ…デルザーのお客さんに通じる技は…これしかねえだろ! チャアジ・アァップ!」

 ストロンガーの胸に装着されたS字のエンブレムが超電子のエネルギーを受け、嵐の中の風見鶏のように大回転。

 光り輝く銀の角を持つ最強の戦士、仮面ライダーストロンガー・チャージアップ。

 出し惜しみもしない、相手の罠にはまず飛び込む男気。ストロンガーはタメもおかずに全力投球。

 

 「超電ッ…ドリルキィィイイック!」

 

 最も多くのデルザーを撃破した自慢の超回転必殺キック。

 既にそのデータをも入手しているであろうスノウ司祭=トートの取った行動は、祈るように両手を組むことだった。

 しっかりと結んだ両の手は、その境目から炎のように光が漏れ出し、凶悪なエネルギーが発露している。

 

 「…スーパー大貫通ッッ!」

 

 トートは組んだままの拳を突き出す。

 名前からして、アマゾンの最強技:スーパー大切断に相当する技であることはわかった。

 もちろん、アマゾンとストロンガーの二大超必殺技、スーパー大切断と超電子ドリルキックは直接対決したことはなく、どちらの威力が上かは分からない。

 だが、その威力を試すまでもない、とばかりにライダーマンはカセットアームのアタッチメントを交換する。

 

 「スイング・アァームッ!」

 

 横からスーパー大貫通を封じるべく伸びるのは腕。ライダーマンのカセットアーム、フレイル状の遠投武器だ。

 正確にスノウ司祭=トートの顔面を捉えているが、トートは避けようともせずにそのまま顔面で受け、意にも介さない。

 「っく…俺の力では…援護にもならないのか…っ?」

 

 そして激突するのは超電子ドリルキックとスーパー大貫通。

 回転技と回転技、互いに相手を貫く技、削岩刃を二枚合わせたようにエネルギーを消耗させあい、その衝撃はエネルギーの奔流となり、周囲に積み上げられていた怪人たちの死体を蒸発させるほどだった。

 戦いの結果は。

 

 「ッッがゥ!」

 

 勝敗は相応の衝撃で弾き飛ばされ、超電子の力が解けて通常形態に戻っているストロンガーで察せられる。

 「驚いた。我がスーパー大貫通を受けて生きているとは。さすがはブラックサタン最強の戦士だ」

 

 余裕すら見せるトートの方は二・三歩後退した程度で、両の足で立っている。

 かつて、デルザー軍団屈指の実力者ジェネラルシャドウは超電子の技を一度は受けきったが、それでも大きなダメージを受けていた。

 今回のようにノーダメージで済ませた物は無く、あまりの事態に自失するストロンガーだが、戦いは続いている。

 「ライダァーッ…!」

 「スーパーァッッッ!」

 間髪入れず、トートへと一号とアマゾンの二大必殺技が殺到する。

 完全に必殺のタイミング。 トートにはスーパー大貫通を溜める時間も、避ける空間もなかったが、トートには超古代の力があった。

 

 「超・変・身ゥ、ぁっ!」

 

 トートの気合一発。赤い羽毛が逆立ち、瞬時に紫色に染まる。

 アマゾンライダーは持ち合わせていない超古代の力。((もうひとりの超古代の戦士| ク  ウ  ガ ))の使っていた((重甲の姿|タイタンフォーム))だ。

 

 「キイイイイィィック!」

 「((大|ダイ))! ((切|セツ))ッ! ((断|ダァアアアアアアン))ッッ!」

 

 なんとその胸板の分厚いことか。一号ライダーのライダーキックを刎ね返してみせる。

 なんと頚椎の堅牢なことか。アマゾンライダーのスーパー大切断に0,02秒耐え、次の瞬間で切断された。

 

 「やっ――」 

 「ってねええええッッ!」

 首を失ったトートの胴体が身を翻し、一号には回し蹴り、アマゾンには蹴りの反動を利用した腕刀で反撃を加える。

 牽制程度のライトブローだが、牽制で充分とばかりにトートの胴体は空中を漂っていた自身の首をキャッチャーフライのように受け止め、元の位置に置きなおす。

 

 「…なるほど。今のがライダーキック。“かなり”効きましたよ、スペックノート以上です」

 余裕に溢れた“かなり”だった

 一号のライダーキックはほとんど効いていない。

 確かに一号の身体能力はショッカーの技術力に準拠し、他のライダーに比べて旧式化している。

 だが特訓してきた。ゲルショッカー、デストロン、GOD…度重なる戦いで弱音も吐かず、鍛え続けてきた。

 強くなり続ける悪に対抗するために限界さえ超えたキックは、イカデビルに防がれた時の比ではない。

 それをあっさりと防ぎきった紫のトートの耐久力は単純に考えてイカデビル以上、だがそれ以上に。

 

 「今の再生能力は…厄介だな」

 

 アマゾンのスーパー大切断は、栄光の七人ライダーの中で…いや、数十年後、数百年後の未来に至るまでに発生する無数のライダーたちの中でも間違いなく五指に入る破壊力を有する。

 何せ無限大のエネルギーで補完・強化された森羅万象を裂く魔獣の一撃。防ぐことはできない究極の必殺技。

 だが、トートは防がない。防ごうとすらしない。

 ((切断された上で再生する|・・・・・・・・・))。スーパー大切断の最も合理的な対策だった。

 

 「…さて、ルールがお分かりか。

  私の紫の装甲を突破できる可能性があるのは超電子の技かスーパー大切断のみ。

  ですがそれすら私には防ぎ方がある。さあ、どうなさいますか? 負けると分かって戦いますか? 降伏なさいますか? そうなさい、私には勝てない、今ならば許してあげましょう。なに簡単です、今すぐあなたたちは四人、ふたりずつで殺しあいなさい。そうすれば仮面ライダーひとりの首ひとつと引き換えに、一名の方を私の部下として取り入れてあげましょう! さあ仲間同士で殺しあいなさい、そして私に許しを請うのです!

  私の心は広い、その命と使命を私のために使いなさい、そう私! 私こそがこの世界の救世主であり、真の英雄! 仮面ライダーなんぞは私の部下! もちろんジェネラルシャドウよりもマシーン大元帥よりも私は偉大で、荘厳で、究極へといたる超越者なのですよ、そもそもこの世界はぁああ!」

 

 長々とスノウ司祭が喋る間に、四人ライダー達も作戦を固めた。

 圧倒的に不利な状況、絶対的なピンチ、超えるべき逆境。

 なんのことはない、仮面ライダーたちにとってはいつものことなのだ。

 

 「立てるか、ストロンガー」

 「…ああ、チャージアップは暫くできねえが…まだまだイケるぜ。アマゾンの兄さんよ、アンタは?」

 「ギギとガガの腕輪を合わせる反動はあるが、動けないということは無い」

 

 「…そうです、最初から不可能だったのです。今の私は薄汚いシャドウはもちろん、マシーン大元帥…いえ! 岩石大首領すら従えるだけの度量がある、恥ではないのです、ただ単に私という器が大きすぎるだけなのです。私に劣るというのは至極当然の…

  …ん? もしや…私と戦うのですか? 私は仮面ライダートート。あなた方を上回る最強のライダーなのですよ?」

 

 「ライダーごっこか。チビっ子がやるなら大歓迎だが…手前のようなヤツにやられるとゾッとしねえな」

 「ほほう? 私は仮面ライダーではないと? アマゾンと全く同じ力を源とする、私が?」

 「何度も云わせるな。その名前は…お前のようなヤツが名乗っていい名前じゃない」

 

 核ミサイルのことを、世界は英雄とは呼ばない。

 拳銃のことを、世界は勇者とは呼ばない。

 心無き力を、人は正義と呼ぶことはない。

 

 「…まあ、いいでしょう。私も別に拘る必要もありませんし…では、決めますか」

 

 

 突然だった。

 トートの全身に浮かび上がる顔。

 ケイトウの魔女、狼、岩石生命、髑髏頭…かつてのアマゾンの宿敵、十面鬼を髣髴とさせる。

 それぞれの口が、トート自身の口も含めて十一の口が全く同じ言葉を呟いた。

 

 《パラダイム・シフト・インドライブ》

 《((ぱらだいむしふといんどらいぶ|パラダイム・シフト・インドライブ))》

 《((Paradise Shift In drive|ぱらだいむしふといんどらいぶ))》

 《((パらダいム・しフと・イんドらイぶ|ぱラだイむ・シふト・いンどラいブ))》

 

 

 言葉に続いて口からは不健康な紫色の煙が噴出し、見る間に周囲を埋め尽くす。

 「!? なんだコレはっ? アマゾン?」

 「アマゾンシラナイ! こんな攻撃…知りません!」

 咄嗟にアマゾンが日本語を忘れてカタコトになるほどの驚きが走る。

 改造部位が少なく、口部を露出しているライダーマンは、いつぞや真空部屋に閉じ込められたときに使った超小型の酸素ボンベをくわえ込み、息を止める。

 「全員、落ち着けッ! 煙の中から出ろ!」

 

 

 《パラキート…さえずるように、パラドックス…見違えろ、パラダイス…腐るように眠れ、パラライズッ!》

 

 

 トートの呪文だけが響く煙幕の中、ストロンガーは退却せず、額の((超感覚器官|カブトキャッチャー))を使ってトートの位置を探っていた。

 この煙幕にどんな効果が有るかは分からないが、トートもこの中に居る以上、速効性の罠とも考えにくい。

 ならば、小細工をする前に急所狙いで至近距離から必殺技を叩き込む。

 超電子だけがストロンガーの武器ではない、敵の罠にはまず飛込み、その上で叩き潰そうとするこの挑戦的な精神力こそがストロンガー最大の武器だった。

 「超電子は連発できねえが…一泡吹かせてやるぜ」

 

 

 カブトキャッチャーが輝き、ストロンガーは霧の中で、仮面ライダーの仲間たちとは異なる背中を捉えた。

 

 ――が、その背中はトートではなかった。それどころか敵ですらない、ふたつの背中。

 

 「なん…どういう、技…なんだ、これは、こいつは…現実じゃない、これは…!」

 

 「茂、どうしたの?」

 

 「なんなんだい、こいつは…」

 

 異国の森林で戦っていたはずが周囲を見渡せば、ここは城茂が中退した城南大学の近くにある商店街。

 ありえない。瞬間移動の能力? だがそれ以上にありえないふたりの人物がそこには居た。

 城茂と同じようにブラックサタンに改造され、共に戦ったパートナー、岬ユリ子。

 大学で同じアメフト部に所属していた親友、沼田五郎。

 このふたりはここに居るわけがない、いや、((どこであろうと|.......))存在するわけがないのだ。

 「…本当に、お前たち…なのか?」

 「…?」

 「何の話よ、茂?」

 沼田五郎はブラックサタンの改造実験の失敗で、岬ユリ子はデルザー軍団との激戦の中で、それぞれに命を落としている。

 沼田五郎の仇を討つために戦いが始まり、岬ユリ子の想いに応えるために戦いを終わらせた。

 正に仮面ライダーストロンガー=城茂のブラックサタン・デルザーとの戦いは、このふたりのために有った。

 

 「こいつは…トートの野郎の能力は…まさか…」

 

 城茂は、この“攻撃”にかつてない危機感を覚えた。

 強靭な精神力を持つ城茂、その根底には沼田五郎、岬ユリ子との絆がある。

 今、城茂の抱いている危機感。それは城茂の心は、正義は、このふたりの笑顔を挫くことはできないこと。

 この罠の中で、安らぎすら覚えている自分自身の正義。それが城茂の最大の敵であった。

 

 

 

 トートの生み出した煙幕が収まった後に残っているのは、先ほどまでの大自然と同じ場所とは思えない、採石場のような空間。

 超電子ドリルキックとスーパー大貫通の激突が生み出した衝撃によって周囲は荒涼、改造魔人たちの死体も他組織の怪人と同じようなプロセスで爆発・四散した。

 その中で戦い続けているのはトート、結城丈二=ライダーマンだけだった。

 

 「一号! アマゾン! ストロンガー! どうしたんだ! 立て!」

 

 仮面ライダーは一定以上の衝撃を受けると自動的に変身が解ける。

 それは変身解除によるエネルギーの解放でダメージを中和しようとする機能のためだが、今の一号、アマゾン、ストロンガーは変身も解けていないことからダメージを受けているとは思えない。

 しかし立ち上がらない。三人は横たわったままだ。

 

 「起こしては可哀想ですよ。彼らは今、とても幸せなんですからね…」

 「キサマ、何をしたッ?」

 「私のこの能力は戦闘とは最も懸け離れており…それでいて、戦闘において最も強い能力なのですよ」

 

 単純な腕力でライダーマンを跳ね飛ばしたトートはオペラスターのように大仰に、自信に溢れて腕を振るう。余裕を見せ付けるように。

 ライダーマンも情報収集と、そして何より限界が近づいている己の体を休めるために、トートの言葉に耳を傾けた。

 

 「どういうことだ?」

 「あなたは兵器開発の科学者だそうですが…こことは違う世界、という話を知りませんか?」

 「…平行宇宙、か?」

 ライダーマンは、暗黒組織:デストロンに所属していた。

 デストロンでは様々な技術を次々と開発していたが、その中に次元と空間を研究する科学者がおり、結城丈二にアドバイスを求めてくることもあった。

 その中で出た議題こそが、平行宇宙。別世界の可能性だった。

 

 「平行宇宙には様々な説がある。泡理論、子宇宙理論、観測者理論…今後も出続けるでしょうし、実際はどれが正しいのか分かりませんが…私の能力は、その平行世界に人間の魂だけを旅立たせることが出来るのですよ。そう、あのアマゾンやゴルゴスさえも持ちえなかった究極無比のチカラ! 古代インカ帝国の最大最強の力を、この改造魔人たるこの私が得たのです!

  なぜ私がデルザー軍団から除名されなければならなかったのか…それこそが我らがデルザーが仮面ライダーに破れた最大の要因、いいえ、所詮デルザーなどはその程度の組織だったのでしょうが…そう、この私が所属してやっていたというのに、あのゼネラルシャドウなんぞと入れ替えなんぞ…!」

 

 そのあとも延々と喋り続けるトートを放置し、ライダーマンはカセットアームの点検をしつつ、一号・アマゾン・ストロンガーの状態を確認した。

 変身解除されず、身動きもとらないが、ヘルメット越しでも各種バイタルは確認できる。生きてはいる。

 ならばどうしたのか、その回答は全て、トートの安いプライドが透けて見える自慢話の中にあった。

 

 「私は、古代インカの長技術と我が権謀により、次元を超越するという完成された能力を得たのです!」

 

 「他者の魂だけを異なる次元の、似た魂に擬似的に融合させる。惑星番長理論により同じ魂同士が引き合うエネルギーを利用するのです!一号、アマゾン、ストロンガーの三人は…いえ、ライダーマン! あなた以外の全てのライダーには明確に“変えたい過去”が有ります。

  彼らの魂は、理想とする世界の匂いに惹かれた。

  愛するものの居る世界、戦士として戦う必要のない世界、自分のためだけに生きられる世界。

  彼らは自分から行きたい世界へ旅立ったのですよ! 彼らも所詮はただの人間なのですよ。戻ろうと思えばいつでもこの世界に魂の力だけで帰ることもできる。

  ただ、それでも彼らは帰ってこない。なぜか? その世界の居心地がいいからですよ!」

 

 情報を隠すこともなく、トートはベラベラと喋り続ける。

 ライダーマンはこの怪人の戦う動機、背負っている物を察した。

 なんのことはない。デルザー軍団に所属しているという以外に自意識を満たせなかった怪人が力を持ち、自分の薄いプライドのためだけに世界を征服しようとしている。

 

 

 「さて…それでは、死にますか? 結城丈二? あなたは((P ・ S ・ I|パラダイム・シフト・インドライブ))では倒せない。

  あなたには変えたい過去がない。直接攻撃で殺して差し上げましょう…まあ、楽に、とは云いませんがね」

 

 

 変えたい過去を持たない、それはいかなる人間か?

 ライダーマン=結城丈二は、デストロンに育てられた孤児だった。

 彼は、自分を育んだデストロンを信じ、その天才的頭脳と卓越した行動力によって様々な発明を行った。

 全ては正義と世界のためだと信じてきた行動。だが、それらはデストロンによって悪事に応用され、多くの人々を傷つけた。

 デストロンは結城丈二の信頼を裏切り、右腕を奪い、友人たちを殺害し…ライダーマンの怒りと復讐の戦いは始まった。

 

 

 だが、結城丈二は変えようとする過去を持たない。

 

 

 父のように慕ったデストロン大首領。

 全ては偽りだったとしても、結城丈二に正義を教えたのは確かに彼だった。

 裏切ってからもそんな義父を見捨てられず、“彼”の攻撃から大首領を身を呈して庇ったこともある。

 愚行。人類の敵を救うという正義にあるまじき行為。だがそんな行動を取った結城丈二を、“彼”は否定しなかった。

 

 

 《お前はいい奴だな…今時珍しいよ》

 

 

 仮面ライダーV3=風見志郎は、そんな結城丈二の脆さまでも優しさとして受け入れた。

 何をしても過去は変えられない。その果てで出会った戦友のために、戦友が信じる全てのために、彼は戦う。

 

 

 仮面ライダー四号、結城丈二は改造人間である。

 謎の秘密組織デストロンに右腕を奪われたが、仮面ライダーV3によって正義の心を呼び起こされ、仮面ライダー四号として蘇った。

 

 

 「さあ、仲間たちが平行宇宙から戻ってくるかもしれないという希望を抱きながら…無意味な時間稼ぎをしながら、死になさい!」

 「ライダーマンを嘗めるなよ、トート!」

 「…何?」

 「キサマは私の獲物だ。キサマは…私が倒す!」

 ライダーマンの唇は強くその言葉を紡ぎ、ロープアームが怪しく光る。

 「…滑稽、という言葉の意味を知っていますか?」

 「ああ、キサマのことだろう? トートッ!」

 

 

 最強の怪人と最も熱いライダーの一騎打ちが始まった。

 

 

 

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 “幸せ”とはなんだろう。

 一体何人の人間がそう問い掛け、何人が答えを得たのだろう。

 少なくとも、ストロンガー=城茂は幸せの中に居た。

 

 沼田五郎と岬ユリ子のふたりが笑っている。その笑顔の輪の中に自分が居る。

 概ね平和な昭和の日本、大学のアメフト部で汗を流し、将来のことを悩み、輝かしい青春が咲き乱れる。

 

 「――ねえ、茂、五郎さん、次はどこに行く?」

 

 ふらりと立ち寄ったアミーゴという名前の喫茶店。

 コーヒーの香りと、本郷というレーサーのトロフィーや賞状が所狭しと並べられた店内。

 その香りに気分良くその店を出た三人は、日曜日を満喫していた。

 視界を向ければ、周囲には何かの取材か、親子連れの写真を撮るカメラマンが見えた。

 

 

 「“幸せな町並み”って特集でね…お兄さん、どっかで見たことあるな…あれ、アンタ、城南大学の風見志郎じゃないの?

  有名人に会うとは…あ、俺は一文字隼人。ヨロシク」

 「写真は困りますよ、今日は家族と買い物に来ているだけですからね」

 

 断った大学生、風見志郎は家族と一緒に人ごみの中に消えていく。

 断られたカメラマン、一文字隼人は次の“幸せそうな町並み”を探してやはり人ごみへ。

 どこかで見たかはわからないが、どこかで見た男たちに、城茂は視線で追う。その姿にユリ子は眉をひそめた。

 「茂、今のひとたち、知ってるの?」

 「いや、見たこともねえ顔なんだが…なんだろうな、どっかで…」

 「うちの大学の風見志郎だろ? ほら、マットの白い豹。新聞なんかで見た顔だぜ。

  それによ、カメラマンも戦争写真家の…なんとかって男だろ、こっちは新聞を作る方だ」

 城茂の無知に沼田五郎が補足する。

 ――本来ならば風見志郎も一文字隼人も、そして本郷猛も栄光の道を歩く身であったはずだ。

 それだけの才能のある男たちであり、幸せになるという人間として当然過ぎる権利だ。

 

 「そういうんじゃないんだよなァ。もっと…どこかで…」

 「ねえ、茂。あれ、ちょっと見てみましょうよ。露天商が出てるわ」

 

 

 視線を移せば、確かに露天商が出ており、ダンボールに《アマゾン・アクセサリー》と書かれている。

 ひげを蓄えた老人が、エキゾチックな造詣に造りこまれた装飾が施された逸品を並べ、商いをしていた。

 「ほう、恋人にプレゼントかね」

 浅黒い店番をしている老人は、双子の美人姉妹…水城涼子と水城霧子の姉妹と異文化交流をしながらゆったりと時を過ごしている。

 このふたりは涼子の恋人である神敬介という青年へのプレゼントを探しているらしかった。

 「父親からの赤いジャケットを着ているのか…だったら、このペンダントはどうかな?」

 老人=バゴーはゆったりとした様子で商品を説明する。値札も付いていないその場の雰囲気で値段を付ける。

 あまり高くもなく、儲かっているのか疑問になるような値段で。

 水城姉妹にしろ、バゴーにしろ、GODやゲドンさえなければ、このような邂逅する機会もあったのだろうか。

 

 

 「ねえ茂、どうしたの? カワイイのがたくさんあるわよ」

 「っへ、オメカシってのはよ、お嬢さんがするもんだぜ。ユリ子」

 「もうっ、どういう意味よ!」

 「そのままの意味じゃございませんかね、何せ…」

 

 《何をしている、城茂》

 

 

 

 

 時が止まった。

 反論するユリ子、豪放に笑う五郎、シャッターを切る隼人、家族と歩く志郎、はしゃぐ水城姉妹、商品の管理をするバゴー。

 色を失うように世界が静まり、朗々とひとりの男が茂のそばへと歩み寄る。

 

 《天がお前を呼んでいるぞ》

 

 「…誰だ、手前ェ!」

 

 《こんな所で何をしているんだ。向こうの世界ではトートをライダーマンが食い止めている。

  それ以外にもネオショッカーが…いや、俺たちも知らない強大な悪が息衝いている》

 

 「何の話だって訊いてんだよッ! 俺はお前なんて…ストロンガーなんて知らねえ、俺は、俺はッ!」

 

 判っている。城茂は全て理解している。

 この悲しみや痛みのない世界は自分の居るべき場所ではないことを。

 

 《地が呼ぶ限り、我々は…いや、俺は戦うしかない》

 

 「どういうことだッ!

  ここに残ってちゃいけないのかよッ! ここには五郎もユリ子も居る!

  本郷さんも、一文字さんも、皆が幸せに暮らせる当然の世界だ。なぜ俺たちは戦わなければならないッ?」

 

 《お前は…忘れたのか。城茂。岬ユリ子との…電波人間タックルとの誓いを…俺たちはまだ果たしていない》

 

 

 他に理由が必要か、そう云わんばかりの言葉。

 かつてブラックサタンの奇怪人たちを震え上がらせた存在感を漲らせて。

 城茂の身体は震えていた。この世界を失う恐怖ではない、新たな戦いへの武者震いだ。

 

 「…っへ、分かってるよ。約束は…まだ果たしてないからな…ユリ子」

 

 

――悪い怪人たちが居なくなって世の中が平和になったら…ふたりでどこか、美しい所へ行きたいわ――

 

 

 向こうの世界、帰るべき世界での岬ユリ子と結んだ最後の約束。

 彼女が死を覚悟し、決して果たされることはないと知りながら伝えた誓い。

 こんな綺麗な世界へ来るのは、地球の悪を全て蹴散らしてからでなくてはならない。

 

 

 「悪い怪人は…まだまだ腐るほど…それこそ、もうとっくに腐りきってるような怪人を倒し続けなきゃいけねえんだからな」

 《さあ、人が呼ぶ》

 「悪を倒せと」

 《俺を呼ぶ…》

 「聞けッ!」

 《悪人ども!》

 「俺は!」

 《正義の戦士ッ!》

 『仮面ライダーッッ!』

 

 

 

 

 どれだけ眠っていたのだろう。

 

 

 『ストロンガァアアアアアアアッッッ!』

 

 

 雄叫びと共に、戦士は立ち上がる。

 また、戦いの世界へと彼は帰ってきた。迸る稲光、空気を劈く雷鳴を引っさげて。

 

-4ページ-

 

 「兄貴どもは…ちょいと寝坊が過ぎるようだな」

 

 ストロンガーの視界の中では、未だに一号とアマゾンは横になり、全身を青く染めたトート・ドラゴンフォームとライダーマンが渡り合っていた。

 そのことを視認したトートは声に怒気を含ませる。

 

 「なぜだぁあああっ? キサマら人間の脆弱な心は世界よりも自分自身の心の安寧を望むはず! 望むものが全て有る世界だったはずだ! 栄光が! 未来が! 欲望を満たす全てが!

  欲望を満たすことが人間の唯一の目的のはずだ、私のパラダイムシフトインドライブは最強の能力だ! 破れるはずが無い、全てのある世界から出て私に戦いを挑むなんて、無意味だ、ありえない、理解できねぇぁ!」

 「…それを理解できないならば、やはりキサマは…仮面ライダーではない」

 「うるせぇぇぁぁああっッ!」

 トートの腕が空気を切り裂き、ライダーマンの胴体を捉える。

 青のトートはスピード主体、打撃力が激減する形態ではあるが、その攻撃はライダーマンは立ち上がれない。

 ストロンガーが目覚めるまでの二分間。

 魂が別の世界に行き、無防備になったライダーたちをトートの攻撃から身を挺して庇い続けた最も改造部位の少ない戦士、ライダーマン。

 既に累積したダメージはレッドゾーン、精神力だけで立っていたライダーマンは立ち上がるだけの力を失っていた。

 「次はキサマか…ストロンガー…」

 トートの言葉の中にあるストレスは危機感によるものではなく、純粋な苛立ちによるものだった。

 テレビゲームが上手くできない子供のように、幼児的でシンプルなストレス。

 「キサマの超電子は私には通じない。そしてお前の逃げ足よりも私は速く動ける。

  面倒だ。降伏して変身を解け。楽に殺してやる」

 「俺たち仮面ライダーが楽に死にたいと何時云った? 楽に生きるつもりもなければ、楽に死ぬ気もない」

 ストロンガーの胸のS字が再び回転する。チャージアップの予備動作だ。

 しかし、ストロンガーの体は変わらない。角も銀色にならず、赤のままだ。

 「チャージアップは一回一分、そして連続して使えない…キサマの脆弱なブラックサタン製のボディでは耐え切れないからな」

 「そういうことらしいな。だがまあ…てめえを倒すのには、このブラックサタン製の体でも充分だがな」

 「やめろ、ストロンガー! 時間を稼げ! アマゾンと一号が目を覚ますまで耐えろ!」

 ストロンガーの背中にライダーマンの懇願めいた絶叫は届かない。

 「超電子…」

 必殺の構えを取るストロンガーに、トートは冷やかだ。

 「チャージアップもできないのに超電子はないだろ。キサマは自分のデータも把握できていないのか?」

 トートは拳を組み、構える。

 先ほどチャージアップしたストロンガーの超電子ドリルキックを迎撃した、スーパー大貫通の構えだ。

 迎え撃とうとするトートには気にもせず、ストロンガーは大地を蹴った。

 

 「超電ッ! ドリル…」

 

 「スーパー大貫通ッッ!」

 

 回転してはいるがもちろん超電子の力もないキック。激突した瞬間、ストロンガーの右足全体は激しい破砕音を上げた。

 そしてそれよりも大きな音を立て、トートの両腕が千切れて吹き飛んだ。

 

 「…あ?」

 

 「キィイイイイッックゥッ!」

 

 軸足を右から左に変え、ストロンガーの電キックが唖然とするトートの胴体を捉え、後方へと大きく弾き飛ばす。

 「っち、っぐぁ、っふぁアアアア、なっ…なんだぁああ?」

 先ほど超電子ドリルキックを跳ね返したはずのスーパー大貫通は、ストロンガーの回転を加えたドリルキックに突破された。

 

 トートの変身は解け、残ったのは両腕を失った満身創痍の改造魔人・スノウ司祭だけ。

 怪人を変身させていた両腕のジョズとパギの指輪は、超電子ドリルキックの衝撃で完全に破壊された。

 エネルギー元を失えば、再生能力を持とうと関係ない。

 

 「莫迦な…どうやって…」

 

 「そんなこと…俺が知るかっ…!」 

 

 傷ついた二本の足で大地を踏みしめ、白いスカーフを風になびかせて彼は敢然と言い放つ。

 科学者の定めた理屈を、敵の罠を、己の信念と正義で打ち砕く。それこそがストロンガーという戦士の矜持。

 …ではあるが、その激突の瞬間を目の当たりにしたライダーマンは的確に分析していた。

 

 スノウ司祭の精神自体は仮面ライダーとは程遠い自己中心的な怪人的パーソナリティ。

 しかし、肉体を維持するジョズとパギの指輪は、アマゾンと同じインカの超エネルギーを発生させており、仮面ライダーと非常に近い。

 ストロンガーは、超電子ダイナモを起動させないまま超電子の技を使おうとしたことで、肉体全体のエネルギーが急激に欠乏。

 結果、そのエネルギーを((目の前のエネルギー源|..........))であるトートのスーパー大貫通から吸収、自身のエネルギーを増しつつ、敵を弱体化させるという現象が起き、スノウ司祭が敗北することとなった。

 後にライダーマンはこの現象をライダーシンドロームと命名、十号ライダー・仮面ライダーZXによって究極の必殺技へと昇華することとなる。

 仮面ライダーサカビトのフェイタルキックの原理ではあるが、この時点ではストロンガーの云うとおり、“そんなこと知らない”現象だった。

 

 

 「ウソだぁ…私が…この私は…デルザーだ…!

  ゼネラルシャドウや他の連中とは違う、俺は…俺は…!」

 

 「そうだな、お前はシャドウとは違う」

 

 「…っ!」

 

 「お前は、我が身可愛さに仲間を見殺しにした…ただの臆病者だ」

 

 

 怒髪天を衝く。毛むくじゃらのスノウ司祭の全身の体毛を激昂に逆立たせ、両腕がないまでも口元から冷気を噴出させ、ストロンガーを凍結させるべく突撃する。

 対するストロンガーは全身のエネルギーを使い果たし、ライダーシンドロームを使った反動から満足に動かない。

 

 「死ねぇええええ! ストロンガァアアア!」

 

 ストロンガーはエネルギーを使いきり、反応できない。

 そもそも反応する必要もない、迎え撃つふたつの影が動いているから。

 

 『ダぁブル・ライダぁパぁンチっ!』

 

 

 一号ライダーとアマゾンライダーの左右から挟み込む形で放たれた必殺拳。

 スノウ司祭の頭部は宙を舞い、その断面からは弁の壊れたホースのように冷気を撒き散らし、血飛沫と混じり、赤いダイヤモンドダストを周囲に広げた。

 

 「狸寝入りが長いんじゃねーか、おふたりさん?」

 「敵を騙すならまず味方から。そういうことだ」

 「イイユメ…皆、笑ってるユメ…ミテタ」

 

 アマゾンは今の今まで眠っていたのだろう、声が涙に上ずり、カタコトに戻っている。

 山本大介も城茂と同じように、理想とする平和な世界から取り残され、脱出に時間が掛かっていたらしい。

 「アマゾン…誰か、呼んだ。トモダチいるこの世界…守る」

 「っへ、六男の兄貴は狸寝入りじゃなく、寝坊だったわけか」

 誰も言及しないが、一号=本郷猛は本当に敵を欺くために意識が戻らないフリをしていたのだろうか。

 彼こそが最も平和な世界を望み、その世界に未練がないはずもない。その彼もまた、戻ってきた。この戦いの世界へと。

 

 

 その後、この世界での平和を求めて七人は各地に散った。

 ネオショッカーとの戦いを繰り広げ、ドグマ・ジンドグマ・BDN・ゴルゴム・クライシス。

 戦友であるスカイ、スーパー1、ZX、BLACK RXの四人を加えたイレブンライダーたちはその激戦をも戦い抜いた。

 時代が昭和から平成へと移り、三人のライダー…シン・ZO・Jがそれぞれネオ生命体、フォッグ、“財団”との戦い。

 

 

 だがしかし、フォッグとの戦いから五年後、西暦一九九九年の((未確認生命体|グロンギ))との戦いでは彼らはなぜか姿を現さなかった。

 研究家たちは、仮面ライダーたちのこの謎の行方不明を“ライダー空白期間”、あるいは“メタルヒーロー期間”と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 そして、時は流れ、二〇一〇年。

 V3の記憶と能力を奪ったワーム:V3Dによって捕えられた仮面ライダーサカビト=代々木悠貴は薄暗い部屋の中に居た。

 両手には手錠、腹部のベルトには図太い鎖を巻きつけられ、鉄格子の付いた小窓だけが室内に光を取り入れ、部屋の中に何があるかもよくわからない。

 だが、その中にはもうひとり、悠貴と同じような年頃の少年が居た。

 

 「よお、誰だ? お前は?」

 「僕の名前は、前杉士樹…君には仮面ライダーアクエリアス、って言った方が分かるかな?」

 「知らねえよ、まあ…アレだ。俺は改造人間サカビト、代々木悠貴。よろしく頼むわ」

 

 

 戦場は過去から現代へ。

 トートを倒したライダーシンドローム=フェイタルキックを持つ戦士、サカビト。

 トートの云っていた別世界からの来訪者、仮面ライダーアクエリアス。

 

 

To Be Continued

 

 

 

 

-5ページ-

 

 

 

 

出張版ライダーラジオ:ライダーの必殺技

 

超「こんにちは。風都ラジオのパーソナリティ、総合格闘家の流超一朗です」

八「仮面ライダー研究家、八十 四郎だ」

超「今回はラジオドラマ、仮面ライダーサカビトのデルザー編の解説版としての収録となっております。よろしくお願いします」

八「おう、よろしく頼む」

流「さて、早速ですが八十さん? 作中ではスーパー大切断を全ライダー中、最強の技のひとつとして挙げていますが…本当でしょうか」

八「間違いないだろうな。スーパー大切断はギギの腕輪に加え、ガガの超エネルギーが合わさって無限大のエネルギーを発揮する」

超「無限大、というと、他にも類例が有るような気もしますが」

八「まあな。どんなものでも破壊できる系だったらシンのスパウンカッター、ハイパーカブトのハイパーゼクター…いくらでもある。

  無限大って言葉に拘るなら、そのものズバリ無限大を超越した戦士、オーズなんてのが居るしな。

  スーパー大切断の凄いところは、“防がれたことが無い”という一言に尽きるな」

超「? えっと?」

八「なにせ、あのRXのリボルケイン!!(モノマネ)ですら不発に終わったことがあるのが仮面ライダーの必殺技!

  ラスボスの真ゼロの首だって一撃でスパーン! 強い、強すぎるぞ! スーパー大切断!」

超「ほー、悪の首領を一撃で。それは確かに凄いですね。ところで他にはどんな敵を倒したんですか?」

 

(妙な沈黙)

 

 

超「? どうかしましたか?」

八「…いや、まあ、種を明かすと、その一発しか使ってないんだよね、スーパー大切断。

  ギギとガガのふたつの腕輪が揃うのが最終回だった関係で、最終決戦でトドメで使われただけ。

  しかも、大切断とどう違うのかもよくわからないし、そもそも真ゼロ自体が戦闘力に長けるタイプじゃないし」

超「ああ…そう…なんですか」

八「なんだよ、お前、その顔は! 良いじゃねえか、例え一打席一安打しかなくとも打率十割は十割!

  必殺技に規定打席があるのか? いいやない(反語)ッ! 強い、強すぎる! 最強だぞスーパー大切断!」

 

 

超「…では、他には何か有りますか? 防がれたことのない必殺技は?」

八「ん、まあ、結構有るな。そもそも一〜二回しか使ったことの無い技って多いし。

  その中でも特記するのだけ紹介するぜ」

超「お願いします」

八「まずはエックスライダー真空地獄車だな。これは使用回数も比較的多く、しかもスーパー大切断と同じで防がれたこともない」

超「正に必殺技、ですね」

八「ただし、最終戦だけ使用のスーパー大切断とは逆で、最終決戦では使用していない。

  理由としてはキングダークが大きすぎて投げ技の地獄車は掛けられなかった点。

  及びキングダーク体内では狭くて使えなかった点、などが挙げられる。

  相手が等身大で、かつ広いスペースが有れば、ラスボスクラスのキャラクターにも有効な技だろうな」

 

 

超「なるほど。一長一短、といったところですね、他の有名どころは?」

八「Jのジャンボライダーキック、これだな。冷静に考えると最強の必殺技」

超「Jといえば、唯一の巨大化能力を持つライダー、でしたか?」

八「これも戦闘が少なく、ジャンボライダーキックも使用回数一回だが、これがスゴイ。

  普通、ライダーの必殺技って身長2メートルのヤツが使って瞬発的な破壊力で20〜40トンとかだが…地球最大の哺乳類のクジラは30メートル弱で体重が150トンオーバーなわけだ」

超「ああ、なるほど…」

八「Jは身長が40メートルくらいで、それが急速落下し、しかもJパワーで保護されている。

  純粋な破壊力、トン換算でこれを上回ることは難しいんじゃないか?」

 

八「あとはキマれば必殺、として俺が推すのはブレイド・キングフォームのロイヤルストレートフラッシュ。

  発動が不発に終わったことはあるが、直撃して倒せなかった相手は居ない。

  注目すべきは、敵が完全不死であるはずのトライアルシリーズですら消滅させる能力だな」

超「おおう、必殺技、という感じですね」

八「さらに特記すべきは、ポーカーの役に順じて威力を参照する以上、この上が在り得るってところだよな。

  ポーカーには、フォアカードにジョーカー1枚を加えたファイブカードっていう役があるからな。

  ラウズカードの性質上、ジョーカーを手役に含むことはありえないが、もし仮に存在していたとしたら…威力は計り知れないな」

超「カタログスペック的な最強、というわけですね」

八「完成していない、っていう意味で期待値は高いな」

 

八「あとは破壊力とはちょっと違うが…これも打率十割だな、仮面ライダーベルデのデスパニッシュ」

超「ベルデ…ちょっと聞いたことがありませんが…?」

八「まあ、知名度で云えば下から数えた方が早いライダーだからなぁ…。

  契約モンスターもカメレオン、敵怪人の定番怪人で技の使用回数も二回だが…そのどちらでもライダーを殺傷している」

超「ライダーをふたり殺害、ですか!?」

八「最も多くのライダーを倒したライダー、だったら三人殺害+αの最狂ライダーの王蛇、

  ライオトルーパーで撃墜数を増やすファイズ、劇場版で敵ライダー倒しまくりの電王、

  アンチライダーの最強ライダーディケイド…辺りが候補だが、必殺技二回使用でそのターゲットが全てライダー、しかも必殺率百%、はベルデだけ」

超「最強ではないが、ライダーキラーといったところですね」

八「そもそも敵を倒すことが出来るならオーバーキルは不要なわけだしな、ライダー同士で戦うならばこれで充分だよな」

超「なるほど。必要に応じた必殺技、と」

八「ライダーはどう云おうと戦闘が目的なわけだから、開発思想によって方向性は変わる。

  Xは息子の命を救うためにカイゾーグのノウハウを流用した結果。ゼクトのライダーはワームのクロックアップに対抗する機能が必須。

  戦闘動機が違えば、用兵思考も変わる。最強の必殺技ってのは決め難い」

超「奥深いものですね」

八「あとは未確認のライダーだが、仮面ライダーサカビトのフェイタルキックも存在するとすれば特記かな」

超「サカビト?」

八「こう、アルファベットのYって、ひっくり返した“人”みたいに見えるだろ。Yと人。

  だからYで逆人、サカビト」

超「ほほう、そのライダーの必殺技が最強、と?」

八「他のライダーの必殺技のエネルギーを50%まで吸収し、それを自分の技に加算できるんだそうだ」

超「…はい?」

八「単純なハイパワーの必殺技だったらどれでも中和しつつ、自分の元々の攻撃力分のダメージを相手に通せるってわけだ。

  まあ、反転キックみたいに連撃が前提だったりするのはどうしようもないだろうし、そもそもライダーを倒すしかできないライダーってのも問題だと思うけどな」

超「それも用兵思考の問題ですか」

八「こいつの情報は少ない、今後、どんな相手と戦うことになるのか、そこが問題だな」

 

 

 

-6ページ-

 

 

 

 

 

一定のダメージを受けると解除される変身。

>これって平成とかだと当たり前ですけど、正確な説明ってないですよね。

相手の猛攻中に変身解除したらどう考えても危ないし、機能上の不備というには直後に再変身してるケースも多い。

 

 

威勢のいいことを云って、負けるライダーマン

>まあ、オヤクソク。というヤツですよね。

最初はどうにかしてライダーマンで勝てないか、とかも真剣に考えたんですが、それだと今度は他ライダーがヤバい。

この七人ライダーだったら、合体技だとしてもトドメを決めて良いのは、一号・V3・ストロンガーの三人だけなんですよ。

 

 

惑星番長理論

>これは石ノ森漫画の番長惑星から引用。

パラレルワールドが舞台のSF。未読の方は是非。

 

 

パラダイム・シフト・インドライブ

>別世界に魂を飛ばし、戻ってくるまでに肉体を破壊すれば勝利できるが、魂自体は別の空間に残っているため、相手を抹殺することはできない。

“この世界から抹消できる”という能力だが、RXやディケイドのように空間を渡る能力には無力。

仮面ライダーナイトのように明確な望みを持っているライダーは恐らく帰ってこられない。

逆に強そうなのが王蛇辺りか? 戦闘途中で別世界に飛ばされても即座に戻って来そう。

アクセルやオーズは番組序盤と後半で効力が変わってくるだろうし。

キマれば帰ってこれる人とそうでない人が別れそうな能力。

説明
 全仮面ライダー映像作品を同じ世界観として扱い、サカビトを中心に各々の謎を独自に解釈していく。

 サカビト=代々木悠貴は改造人間であるが、仮面ライダーではない。
 仮面ライダーを倒すために悪の科学者によって拉致・改造され、子供を庇った仮面ライダーを殺害してしまった一般人だ。
 人々から英雄を奪った罪を贖い、子供たちの笑顔を守るため、サカビトは今日も戦うのだ。
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コメント
修正いたしました。(84g)
見ていてください、俺の、俺の返信!…いや、ごめんなさい。 超返信遅れてました。(84g)
>ストロンガーの視界の中では、未だに一号とアマゾンは横になり、全身を青く染めたトート・ペガサスフォームとライダーマンが渡り合っていた。  クウガで青いのは、ドラゴンです。緑はペガサスです。(蒼き星)
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