つり乙〜いーじーるーと〜
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(。・ω・)ノ 1! (。・ω・)ノ 2! (#・ω・)ノ 3!! (。#・д ・)ノ始まりだぁい!!

 

 〜雨の日の出会いがラヴロマンスだなんて誰が決めたんだ?〜

 

 

 

 

「――ええい、もうやめろ! やはり貴様には才能が無かった! 失せろ、雌犬の子!」

 

 と、兄である大蔵衣遠に見限られ2年と半年程度が経った。

 それは同時に妹である大蔵りそなに仕え始めてからの月日である。

 季節は夏、世間一般の学生には夏休みという時期だが、妹は((自由登校|フリーダム))なのであまり関係ない。

 そんな妹が、夏の旬野菜を使ったカレーを夕食に食べている時のこと、急にのたまった。

 

「相変わらず家事……特に料理の腕は見事ですね。妹、女としての自信は粉々どころか真っ白のキャンパスの如く何もないです」

 

 正直、料理の腕うんぬんは今更の話だ。

 自信がある分野かと問われれば10段階評価で9以上は自己採点で与えられる。

 が、本当に今更であり、彼女の料理の腕も今更だ。

 むしろ彼女は料理などする必要がないのだから当たり前を通り越しているとも言える。

 だからこそ会話の意図がわからない。

 

「急にどうしたの? むしろさ、りそなが((家事完璧|パーフェクト))だったら僕の存在価値が芯を入れ忘れた鉛筆より無いんだけど……」

 

 要はただのハッタリ、抜け殻、人の形をした何か……そんなレベルだろう。

 自分で言っておいて凹んだ。

 

「自分で言って勝手に凹まないで下さい。無駄に可愛らしい顔した兄にそういう顔されると、妹の立場が色々と無くなります」

 

 兄妹間のコミュニケーションを否定しているわけではないが、回りくどいことを言わずに用件を述べて欲しいものだ。

 この想いがりそなにも伝わったのだろうか、「なら……」と前置きを置いてこちらを見据える。

 

「ならぶっちゃけます。妹、下の兄からの贈り物が欲しいです」

 

 本当に何の脈絡も無くぶっちゃけました、この妹。

 とりあえず噴出す内容でも目玉が飛び出す内容でも無いので、一息付いて聞き返す。

 

「本当にぶっちゃけたね? でもなんで?」

 

 

 

 

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「要約すると誕生日プレゼントは対外的……というより対内的に渡せないから、ここにきて3年のアニバーサリー的な何かが欲しいと」

 

 りそなの話を要約すると、そういうことだろう。

 

「あれ? 妹、今何か凄く端折られた感がするのですが……」

 

 りそなが何か逆らうことすら出来ない流れに違和感を覚えているようだが、気にしたら負けだ。

 

「……うん、僕もりそなにはお世話になってるし、記念というのは響きがいいよね」

 

「いえ、むしろ世話になっているのはこちらなのですが……」

 

 さて、食器を片付けてることとしよう。

 

「あれ? いつの間に食べ終わりましたっけ?」

 

 りそなが不可解だと言わんばかりの表情を浮かべるが、気にしたら負けだ。

 

 

 

 

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 と、昨晩の回想もさておき。りそなへのプレゼントを考えながら、夕食の買い物を済ませる。

 何か場面がいきなり飛んだ可能性があるが、気にしたら負けだ。

 

「う〜ん……せっかく半年も猶予があるんだから何か凝ったモノを贈りたいなぁ」

 

 条件は記念になるモノ、個人的にお金はあまり無いから自分が作れるモノ、というのが大前提だ。

 しかも時間が半年もあるとなると、凝ったモノを送りたくなるのは人の性ではないだろうか?

 そんなことを考えながら曇り空の下、昼過ぎの街中を歩いていると、ふと布屋が目に入った。

 

「……せっかくだし、少しぐらいはいいよね?」

 

 誰に確認するわけでもないのに、そう呟いてしまうのは色々と屈折した感情があるから。

 兄に見限られ授業も止められた身だが、服飾と関わっていきたいという気持ちに嘘はない。

 ……花形であるデザイナーの才を真正面から否定された身としては、未だダメージが大きいのだが。

 

「わぁ、これ良い生地だなぁ……メーター3980円? 高いなぁ〜でも欲しいなぁ〜」

 

 自身の傷なんかより、憧れの人たちが進んでいる業界(みち)への興味の方が圧倒的に強い。

 

(この階には良質な生地が多いなぁ……その分高いけど)

 

 口に出すのは憚れたため、心の内で呟く。

 正直な話、大蔵家の財力ならば世界最高級な生地でも簡単に手に入るだろう。

 が、あくまで大蔵家であって僕自身ではない。

 僕自身に個人資産は無く、幾許かのお金とりそなとの生活費しかない。

 りそなに頼ればモノには不自由しないのだが、りそなに迷惑をかけたくない。

 

(時間があるんだし、服を作ってあげたいなぁ……ううん、僕が作りたいんだ)

 

 例え、兄に才能がないと否定されても服飾関連が好きなのは変わらない。

 そう、3年目の記念。いつか思い出すことになる当時の記録。

 何年もすればサイズが変わって着れなくなるだろう。

 だが、それは成長だ。先へ進んだ証であり、過去と未来を繋げるもの。

 だからこそ、月日を冠した記念には意外とピッタリなのではないだろうか。

 

(まぁ、僕のデザインセンスは高くないんだけどさ……)

 

 正確には10段階評価で7くらい。

 ちなみに天才と呼ばれる人種は10段階評価で12以上は当たり前だ。

 

(問題はりそなのイメージに添うデザインか……)

 

 残念ながら出だしから躓いていた。

 

 

 

 

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(あぁ、不足していたのはそれだけじゃなかったよ……)

 

 最も重要な物、それは運なのではないかと思った。

 事業に成功する人は基本的に時の運に恵まれている。

 才能を生かすのも機会があってこそだ。

 勿論、運は実力で引き寄せるというのも強ち間違いではないだろう。

 様々な情報を統計した結果、機会を得ることもできる。

 

(はぁ、雨とは予想してなかったなぁ……)

 

 今の僕には運と情報が圧倒的に足りていなかったようだ。

 見事なまでの夕立……というかゲリラ豪雨だろうか。

 

(この中を歩いたら痛いだろうな……)

 

 などと、店舗の軒下で雨宿りしながら無駄なことを考える。

 多少は雨脚が弱くなるまで、ここで待つしかないようだ。

 すぐ近くにタクシーでも見えれば、と思わなくもないが、生憎と大通りからは外れている。

 妹へのプレゼントにはデザインセンスが不足しており、自身には運と情報が不足していた。

 自分の情けなさに溜息のひとつでも吐きたくなる。

 

「「――はぁ……」」

 

 が、何故か溜息が謎のハーモニーをかもし出した。

 

「……ん?」「えっ……?」

 

 いつの間にか自分は一人で器用なことができるようになったのだろうか、とバカな考えは一瞬で棄てて声の方向に視線を向ける。

 おそらく同じような雨宿り客がいたのだろう。

 その人も溜息が重なったことで視線を僕に向け、思わず視線が交差する。

 そこに居たのは妹より小さい少女だった。

 だが、幼いというわけではなく、純粋に背が低いのだろう。

 年齢は定かではないが、おそらく自分と近い年頃と推測する。

 黒髪と黒眼の典型的な日本人だがどこか作り物の印象を与える。

 何より白すぎる肌が、日本人の一般的なイメージを乖離させている……というかアレだ。

 

「……何か? 視線をそちらに向けた私が言うのも何ですが、言いたいことがあるならどうぞ」

 

 答えるかは別ですが、と若干ジト目で睨むような表情で向こうから声をかけてきた。

 初対面の女性に対して失礼な眼差しを送っていたのかもしれない、と反省しつつ折角の機会なので指摘してみる。

 

「えっと、その……ズレてて、凄いことになっていますよ……髪型が」

 

 豪雨に雷の閃光が走り、少し送れて轟音が鳴り響いた。

 うん、女性に対してカツラの指摘など人生で初だったが、今言わないと互いに後悔しただろう。

 昔だったら英国紳士風に対応していただろうが、夢と挫折を知った自分はそれなりに穢れていたようだ。

 

 

 

 

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 女性に髪型のことを指摘すると、顔を赤らめて自身の頭部に触れていた。

 肌が白いためか、紅潮が良く目立つ……今回は指摘を自重するが。

 おそらくカツラもかなり濡れており、元通りのセットにはならなかったのだろう。

 彼女は少し考えた後、溜息を吐いてカツラをとった。

 

(……白、いや銀かな? もしかしたら日本人じゃなかったのかも)

 

 黒髪のカツラの下から出てきたのは綺麗な銀色の髪だった。

 珍しい髪色だったが、長年海外暮らしをしてきた身としては驚きはしなかった。

 なんだかんだで同じ髪色の人には過去に逢ったことがある。

 少し気になるとしたら、不自然な瞳の色もカラコンか何かで黒にしているかもしれない、という程度のことだ。

 

「……君は驚いたりしないのだな。大抵の人は私の髪と肌を見て驚かれて気分を悪くするのだが」

 

 それを見ても特に表情を変えずにいたのを、不自然に思ったのだろうか。

 彼女が自身の容貌について訊ねてきた。

 

「えっと、僕は海外暮らしが長いから肌色や髪色の様々には慣れていたし、過去に同じ髪色の人とも会ったことがあるから……」

 

 ここ日本では珍しいだろうが、別段それ以上の感想はないと伝える。

 敢えて付け加えるのなら綺麗だということだけだろう。

 

「……はぁ、私を取り巻く環境にも君のような人がもう少しいたのなら、多少は人生が変わっていたかもしれないな……」

 

 まるで自嘲するかのように彼女が嘆く。

 その心内はわからないが、髪色や肌色から大分苦労してきたのだろうと推測される。

 

「まぁ、君のおかげで、この豪雨で最悪だった私の気分も少しは晴れたよ」

 

 少しだけ笑って彼女が僕に礼を述べる。

 特に何かしたわけでもないのに礼をされるなんて不思議な感じだった。

 

「ふむ、今の私は少しだけ気分がいい。すぐに止むだろう雨だから軒下で待とうと思っていたが、少しだけ気が変わった」

 

 満面というわけではないが、楽しそうな声色で少女が語る。

 

(……少しでも彼女のためになったのなら、良いことができたのかな?)

 

 誰かのために自分ができること、相手に喜ばれること、自分にとってソレは生き甲斐そのものと言える。

 そう、それが偶然の出会い、些細な言動であっても。

 ほんの少しだけ……本当に少しだけ……今日この時間、この天気、不足だらけの自分自身にすら……感謝をした。

 

 

 

 

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「さて、君がもんのすげぇと指摘してくれたおかげで、もんのすげぇ恥をかかず、もんのすげぇ感謝しているよ」

 

 訂正、本当はもんのすげぇ怨まれてた。

 いや、今回は言い方に問題があったのかもしれないが。

 

「えっと……どういたしまして?」

 

 こういう場合は謝っても逆効果な気がしたため、いっそのこと開き直ってみた。

 若干苦笑いと浮かべながら礼の返事をする。

 

「――ああん?」

 

 が、もんのすげぇ睨みをきかされた。

 

「……まぁ、ここでいきなり謝罪されるくらいならば、最初から指摘など結構だったがな」

 

 睨まれ損だが、選択肢は間違っていなかったと推測される。

 ただ気にしないといけない点がある。

 

「ん、どうした? 冷めない内に飲むべきだぞ? なに、指摘してくれたお礼だ。茶の一杯くらいは馳走するさ」

 

(どうして僕は初対面の女性と喫茶店で相席してお茶をしているのだろう……いや、本当になんでさ?)

 

 ここではないどこぞの正義の味方らしき人物の口癖を心内で洩らすが、この際どうでもいい。

 実は雨宿りした軒下のすぐ隣が喫茶店であり、何故か彼女に連れられ今に至る。

 外は先ほどまでのゲリラ豪雨程ではないが、雨は降り続いているため、一応これは雨宿りとも言えないくもない。

 

「まぁ、下らないことはさておき……午後一の天気予報で雨になるのはわかっていたらしいな」

 

 と、先ほどまでのやりとりを下らないことと切り捨て、正面の彼女が外の様子を眺めながら今日の真実を告げる。

 そう、先ほどテレビから聞こえてきたニュースによると、午後一の最新ニュースで大雨が予想されていたらしい。

 

「そうみたいだね。まぁ、それを知らなかったのもあるけど、元から天気がイマイチだった時点で察するべきだったのかもね」

 

 自身の注意力の無さを少々呆れる。

 

「……ほぅ、それは私も同類であると? ふむ、確かにそうだな。ここで君と茶をしているのがその証拠だなぁ?」

 

 訂正。自身の発言の注意力の無さにかなり呆れる。

 

「……ごめんなさい」

 

 少なくとも彼女の理由は違うかもしれないのだから言葉は選ぶべきだった。

 彼女の白すぎる肌などを考慮すると、出歩くには天候もかなり選ばないといけないのかもしれない。

 それを自分と同じく考え事をしていて、天候まで配慮していなかったと聞こえる言い方は失礼だ。

 そもそも彼女は自分と違って傘を持っていたのだから、同列に考えてはいけない。

 そう思い目の前の彼女に謝罪する。

 

「はて? なんのことやら? 君はただ正論を言っただけではないか……悪天候すら察せぬ愚か者のな」

 

 ……もしかしたら彼女の理由も僕と大して変わらないのかもしれない……決して口に出したりはしないが。

 

 

 

 

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「まぁ、少し考え事をしていてね」

 

 どうせ、今限りの相手であるし深入りすることもないだろうと、少しだけ考えていたことを口にする。

 たまたま街中で雨宿り中に出会った互いに名も知らぬ者同士。

 二度と会わないと言っても過言ではないだろうと、少々気が軽くなる。

 

「ほぅ……それはそれは天候に気が付かないほど高貴な悩みなのだろう? 先ほどまでの勢いは無くなったが雨もまだ止みそうにないし、是非とも話してみてくれたまえ」

 

 訂正。いきなり重力が倍になったが如く重たくなった。

 

「ははは……高貴かどうかはともかく個人的に色々と思う処のあることだよ」

 

 苦笑いを浮かべながら、少しでもハードルを下げるよう個人的な悩みということにしておく。

 

「ふむ、こちらも少し言い過ぎたな。なに、余程のことでもない限りそれをどうこう言うつもりはない」

 

 彼女もわかってくれたのか、雰囲気が穏やかになったように感じる。

 もしかしたら良いアドバイスを得られるかもしれない。

 そう思い、簡潔に事情を話してみることにする。

 

「実は……」

 

 

 

 

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「――君は優しい兄なんだな」

 

 妹へのプレゼントについて悩んでいると話した結果、彼女の口から出た第一声はそれだった。

 そして声色も先ほどまでの少しばかり棘のあるものとは違っているように感じた。

 

「まぁ、僕が優しいかどうかはともかく……妹のことは大切な家族だと思っているよ」

 

「先ほどは失礼な言い方をして済まないな。それはとても頭を悩ませることだろう」

 

 大蔵家の中で本当に家族と呼べるのは、今は妹のりそな一人だけだろう。

 兄には見限られているし、大蔵家にはそもそも居場所がない。

 その妹のためならば、とても悩むと言っても過言ではないかもしれないが、生憎とそういう悩みとは少し異なっている。

 

「ただね、悩みと言ってもプレゼント自体は、何を贈りたいか決めてるんだよ」

 

 そう、プレゼントは服を、と考えている。

 今ある問題はそのデザインだ。

 それさえ決まれば、製作自体は現状さほど問題ではない。

 

「ほう? では、悩んでいるのは種類やデザイン、資金関係などか?」

 

 彼女は中々に確信をついてくる。

 確かに資金もそれなりにアレだが……まぁ、そちらは何とかなる範疇だ。

 

「うん、正にその通り。僕としては服をプレゼントしたいと考えているんだ」

 

「確かに年頃の女性に合ったデザインの服を選ぶというのも難しいだろうし、高く付くだろう」

 

 何か足元を見られているような言い方だが、彼女の言い分も最もだ。

 

「高く付く、と言っても生地に少々といったところだよ。機材もシーチングも揃っているしね」

 

 だが、市販品を買うつもりはないのでそこは訂正しておく。

 生地は少々値を張るが、他は揃っているので資金に関しては先ほどの通り何とかなる。

 

「ほぉ! 自分で製作するのか? てっきりブランドなどで悩んでいるのかと思ったよ」

 

 自分で作る、という点で彼女も驚いたようだ。

 目を少しばかり大きく開け、こちらを見据える。

 

「私も製作に挑戦したことがあるが……服飾は大変だぞ? 私もデザインは得意だが、((型紙|パターン))となると真逆のセンスが問われる……」

 

 敢えて型紙は不得意と彼女は言わないが、恐らく苦手であり、作ったと明言しないのもそのためだろう。

 それにパタンナーは名前が世に出ることはほとんどないし、仕事量や能力と比較しても報われない。

 その辺りは致し方ないことなのかもしれない。

 服飾の花形はデザイナーだが、パタンナーは屋台骨だ。

 

「まぁ、僕は逆にデザインよりそちらの方が得意なんだけどね」

 

 型紙の技術は10段階評価で文句なしに10を与えられる自分にとって稀少な分野だ。

 

「うん、真逆とは良く言ったものだよね。確かにデザインをする時にも現実的な製作を考えながらやってしまうし……」

 

 完成形を想像できない、縫製に時間がかかる等、デザインをする時にはいつも考えていたことだ。

 

「……それは君がデザインより((型紙|パターン))の方に向いているからではないか?」

 

(……あれっ? そう言われるとそうかもしれない……)

 

 彼女の言うとおり、今思えばデザイナーよりパタンナーの方が才能があるのかもしれない。

 型紙は先生が一番褒めてくれた項目だし、自分自身も立体裁断や平面作図が得意と言える。

 

「そう……だね。よくよく振り返ってみるとそっちの方が向いてるのかもしれない……」

 

 何かが……敢えて例えるのならばアイデンティティとでも言うべきだろうか?

 それが傷ついたわけではない。

 が、何とも言えない不思議な感覚に突かれた気分だ。

 

「……君、大丈夫か? 顔色は悪くないが……」

 

 恐らく呆然としていたであろう。

 目の前の彼女に心配されてしまった。

 

「えっと、大丈夫……だよ。その……以前に僕はデザインを……デザイナーを目指していてね」

 

 夢破れた話ではあるが、りそなへのプレゼントの件で再び浮上してきた服飾への情熱を否定できない。

 

「でも、才能が無くて止めさせられたんだ……確かに天才と呼ばれる人たちに比べたら僕なんて路傍の石未満かもしれない。けど……」

 

 それはデザイン、デザイナーとしての才であり、真逆とも言えるパタンナーとしての才への否定ではない。

 確かに与えられた課題だけではどうにも好き嫌いが現れる。

 好みなどプロの前では言い訳に過ぎないが、生憎と自分はプロではなく経験不足の未熟者だ。

 

「何も服飾に関わるのはデザインだけじゃないもんね。才能が無いと悲嘆するより、他の可能性に向けて努力した方がよっぽど建設的……だね」

 

 勿論デザイナー志望だった者としての未練はある。

 だが、服飾に関わっていきたいという想いに嘘はなく、デザイナーだけが服飾の全てではない。

 以前から考えてはいたが二の足を踏んでいた……が、パタンナーとして才能があるとするなら。

 そう思うと、俄然やる気や意欲が湧いてきた。

 

「君が一人で納得するのはアレだが、後者の方が建設的、という意見には同意する」

 

 目の前の彼女も同意してくれた。

 

「だが、根本的な問題は解決したのか? 君が今悩んでいるのは、てっきりデザインについてだと思っていたのだが……」

 

「Σ( ̄ロ ̄lll)」 

 

 

 

 

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「――っん? あっ……電話」

 

 当初の悩みについては解決していないが、携帯がブルったので確認して見てみると、りそなからの着信だった。

 

「あぁ、当たり障りない内容であればこの場でも構わない」

 

 と、目の前の彼女が許可してくれたので席を立たず、そのまま通話ボタンを押す。

 

『――もしもし妹です。結構な雨だったようでしたが大丈夫ですか? あと早く帰ってきて下さい』

 

「もしもし帰るの遅れてごめん兄です。昼間からネトゲーに集中して気づかないのは関心しないよ?」

 

 ついつい家を出る前の妹の姿が浮かび苦言してしまう。

 そこまで面白いだろうかW・Q・Pは?

 

「ふっ……」

 

 今のやりとりが面白かったのだろうか?

 目の前の彼女が少し笑いながら紅茶を飲む。

 

『この時間は張り合う相手がいないので飽きました。【ルナちょむ】もいませんし。というわけで暇です。早く帰ってきて相手して下さい』

 

「誰さ【ルナちょむ】って? まぁ、雨も止んでき「――ごほっ!?」って君、大丈夫!?」

 

 電話中に目の前の少女が紅茶を飲みながら咽た。

 

「ごほっ、ごほっ……」

 

『えっ? 誰か一緒にいるんですか?』

 

 電話越しに聞いていたりそなから問われる。

 

「あっ、えっと……雨宿り仲間?」

 

 端的かつ適当に伝える。

 その間に目の前の彼女も落ち着きを取り戻し、自分に視線を向け、問いただす。

 

「あぁ、大丈夫だ……一つ君に問いたい。君の妹の名前はもしかして……りそな、か?」

 

「――えっ!?」

 

 どうやら彼女はりそなの知人らしい……世間とは狭いものである。

説明
本編よりイージーなルートで頑張る本編再構成兼新ルート。
続編が決まったため、なんとか発売までには完結したいところ。
ヒロインがヒロインなだけに、なんとしてもね……
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月に寄りそう乙女の作法 つり乙 

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