そらのおとしもの 幼女とJK一緒にお風呂に入りたい
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そらのおとしもの 幼女とJK一緒にお風呂に入りたい 

 

 

「魔術の名門アーチボルト家9代目頭首ケイネス・エルメロイ・アーチボルト……ではなく、王家に仕える高貴なる鳥デラ・モチマッヅィがここに仕る」

 3月も後半に差し掛かったとある週末の午後。

 春の話題があちこちで囁かれるようになった京の街の一角に存在するうさぎ山商店街。

そのアーケード街を抜けて行った先に存在する向かい合う2件のもち屋。

 その内の1件である『RICECAKE Oh!ZEE』の2階の一室へとメタボ体型のオカメインコっぽい白い鳥が入ってきた。

 胡散臭いが一応鳥であるが故にその翼を活かして大空を飛行し窓から入ってきた。

「何をしに来たんだよ、鳥?」

 部屋の主であるピアスが特徴のヘタレ顔男子高校生は映画紹介雑誌を床に置いて白い顔を鳥へと向けた。

「鳥ではないぞ、青年よ」

 鳥は首を横に振った。

「私はロード・エルメロイの称号を関する天才魔術師。ではなく、王子の后を探しにはるばるこの街までやって来た王家に仕える高貴なる鳥であるデラ・モチマッヅィだ」

 鳥はモデル立ちをしながら右羽を広げてポーズを取ってみせた。

「結局鳥であることには変わりねえじゃないか」

 ピアス少年大路もち蔵は呆れ顔で鳥を見ている。

「お前には高貴なる存在である私に対する崇拝の念が足りん。故に間違いなのだ」

「俺は鳥類を崇拝しているほど暇じゃないんだよ」

 もち蔵は大きなため息を吐き出した。

 

「で、天才魔術師が転生した所の高貴な鳥が俺に一体何の用なんだよ?」

 もち蔵は改めて急に訪れた鳥に問い直す。

「フム。私の未来の花嫁である朝霧史織さんとの仲をより一層深めるためにだな」

「お前には無理だからさっさと諦めろ」

「確かに史織さんは高校2年生の17歳。転生する前の天才魔術師である私ならばBBAと一蹴していたであろう。だがっ!」

 鳥はフッと息を吐き出して格好つけてみせた。

「鳥として生まれ変わり、この世界を大空より見下ろしより広い視野を持った私は気付いてしまったのだっ!」

「何に?」

「美とは幼女のみに存在するにあらず。幼女以外にも美女は確かに存在するのだっ!!」

 鳥は熱く吠えた。

「具体的には?」

「メガネッ! メガネ無口系美少女である史織さんに私の心は奪われたのだッ!! メガネ最高ぅ〜〜っ!! ヒャッハァ〜〜〜〜〜〜ッ♪」

 鳥は大興奮して瞳をランランに輝かせる。すると、鳥に内蔵されている映写機能が作動。もち蔵の部屋の壁がスクリーンとなって映像が流れ始めた。

 映像にはメガネを掛けたサイドポニーテールの少女がジャージ姿でバトミントンのラケットを振っている姿が映っていた。

 話題のメガネ少女、朝霧史織だった。

 

「完全にストーカーだろ。このアングルは」

 もち蔵は映像を眺めながら小さく呟く。

 映像を趣味とするもち蔵にはよく分かっていた。史織はカメラとなっている鳥の存在に全く気づいていない。それすなわち、鳥が自分の存在を一切史織に知らせていないことを。

「まあ、コイツの目が録画装置になっていることは本人も知らないから悪意のある撮影とは言えないけどな」

 もち蔵は何となく映像を眺め続ける。

 すると気付いた。鳥はただ遠くから史織を眺め続けているだけだということに。

「幼女幼女とうるさいコイツが、なあ」

 傲岸不遜、己の欲望(幼女と戯れる)ためならどんな恥知らずな真似もやってのける鳥。その鳥が体育館の外から史織の練習風景を見守っている。それがもち蔵には意外だった。

 そして体育館の中の光景はやがてバトン部の面々も練習を始めたことを映し始める。

 ピンク色のジャージ着た少女たちの中に1人、白く丸いもちのような髪留で髪を2つ束ねた素朴な感じの少女がいるのを発見した。

「たまこ……」

 寝癖が垣間見えるその少女、北白川たまこが部活仲間と談笑している姿を見てもち蔵はドキッとした。

「って、そろそろ正気に戻れ、鳥っ!」

 もち蔵は鳥の頭にチョップを入れた。少女を覗き見ているで良心が傷んだ。

 

「はっ!? 私は今まで一体何を?」

 鳥が驚きながら頭を左右に回している。ようやくこちらの世界に帰ってきたようだった。

「朝霧のことを語っていて熱くなりすぎたんだろ」

「そうだっ! メガネ無口系貧乳美少女である史織さんこそ、私にとっての女神っ! アテナなのだっ! 火星に移住することも厭わん」

「それは女神を殺す行為だからな。ていうか、属性に貧乳が追加されてるぞ。女神に対してひどいんじゃないのか」

 もち蔵は呆れ顔で頭を掻いた。

「ちなみに私は、あの娘のことも少し気に入っているぞ」

 鳥は窓の向かいの家をチラ見した。たまこの部屋だった。

「何しろ娘は、寝癖だからな。これにグっと来ない男がいようか? いや、いまい」

「お前のフェチは特殊すぎて俺にはついていけねえよ」

 もち蔵はちょっとムッとしながら答えた。

「そしてもちを作るのが上手い。食事に一生事欠かん」

「たまこは料理作るのも上手いからな。将来はきっと良いお嫁さんになるんじゃないか」

 もち蔵は何故か誇らしげだった。

「そして貧乳なのが実に良い。アンの姉であることも高ポイントだ。娘を娶ればアンがもれなく付いてくるというのはオプションとして魅力的すぎる」

「たまこがお前の嫁になるわけがないだろ。バァ〜〜カッ!」

 もち蔵は不快感を露わにして鳥を罵る。

「恋敵である美しすぎる鳥の私に嫉妬か、青年よ?」

 ニヤニヤしながら鳥が意地悪く尋ねる。

「うるせえっ!」

 もち蔵は鳥から目を背けた。

「だが、安心しろ。私は史織さんを妻に迎えると心に固く誓ったのだ。そしてこの身は全世界の幼女の為に捧げると。そんなわけで、娘にどんなに言い寄られようと私が靡くことはない」

「幸せな頭してるよな。さすがは鳥だ」

「娘のことは、アンの姉だと思いながら精々エロい目で見るだけだ。安心しろ」

「どこにも安心できる要素がねえよ」

 もち蔵は頭を掻きむしった。

「まあ、そんなこんなで幼女こそ至高の美と考えていたかつての私ではあった。が、一定の条件さえ満たせばJKまで愛でられることが判明した。生まれ変わって実に大きな視野を持ったビッグな人物に私は生まれ変わったのだ」

「何がビッグな人物だ。鳥だろうが、お前は」

 もち蔵の口から再び大きなため息が漏れ出た。

 

「で、話が逸れまくっているけど、お前は一体何をしに俺の部屋に来たんだ?」

 もち蔵は面倒くささ全開の表情でもう1度尋ねる。

「私がここに来た理由など決まっている」

 鳥は羽を広げて再びポーズを取った。

「幼女たちと、具体的にはアンとチョイさまと一緒にお風呂に入りたい」

「エロ鳥と認識されているお前には無理な願いだ」

「史織さんも一緒がいい。是非一緒に入りたい」

「だから無理だっての」

「オプションで娘と一緒に入ってやっても良いぞ。あの娘が泣いて懇願するならな」

「フザケんじゃねえぞッ!」

 もち蔵はキレた。

「ならば、青年は娘と一緒に入浴する。私は幼女ズと史織さんと一緒に風呂に入る。これで良いな?」

 鳥が悪い顔をしながら微笑んだ。

「うっ!」

 もち蔵は提案を咄嗟に拒否することができなかった。

「みなまで言う必要はない。青年とて男。好きなおなごと一緒にお風呂に浸かりたい欲望は当然持っておろう」

「お、俺は、そんなスケベじゃ……」

 鳥の言葉を否定したい。だが、もち蔵の口から明確な否定の言葉が出て来ない。

 何故なら、もち蔵の脳裏に、たまこと2人で入浴中の光景が一瞬浮かび上がってしまったから。高校生の男の子だから仕方ない妄想だった。

「クソぉッ! 鳥の提案を否定できない卑しい俺が存在するなんてッ!!」

 もち蔵は床を叩きながら悔しがった。

「青年よ。自分に素直になれ」

 鳥はもち蔵の肩をポンっと叩いた。

「男の夢を実現するために……力を貸してくれるよな?」

「………………っ」

 もち蔵は答えなかった。

 言い換えれば、否定の言葉を出せなかった。

 

「けど、たまこたちとどうすれば一緒にお風呂に入れるかなんて……俺にだって分かんねえよ」

 もち蔵は床に手を付いたまま弱々しい声で答えた。

「案ずるな、青年よ。このミッションを遂行するための仲間なら既に呼んでいる」

「仲間?」

「どうやらお出ましのようだ」

 鳥の声と共に階段をけたたましく登ってくる足音。そして窓の外からは大きな羽ばたきの音が聞こえてきた。次の瞬間、2人の少女がもち蔵の部屋へと窓と扉から入ってきた。

「小鳥遊六花の第一のサーヴァント。ミョルニルハンマーの使い手凸守早苗ッ! 第四次聖杯戦争の英雄、天才魔術師ペドネス・アーチボルトの要請により参上なのDeathっ!」

 自身の身長よりも長いツインテールを持つ小柄な少女はJOJO立ちしてポーズを決めた。どう見ても中二病患者だった。

(・3・)「おじさんは、ただでもちがたらふく食べられるって聞いたから、わざわざ空美町から来てやったのさ。ぶっひゃっひゃっひゃ」

 立派な金髪と巨乳を持ち、真っ白い大きな翼を背中から生やした天使少女はもち蔵たちを見ながら突如笑い始めた。どう見てもKYだった。

「このメンバーで必ずや幼女とJKと一緒にお風呂ミッションを完遂するぞ」

 鳥は意気込んでいる。

「いや、どう見ても負け戦フラグだろ。このメンバーじゃ」

 もち蔵は大きなため息を吐き出した。

 

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「どんな困難なミッションであろうと、サーヴァントにしてスーパーエージェントである凸守さえいれば完遂は約束されたも同然なのDeath! 凸守はやるDeathッ!」

 凸守はツインテールの房をブンブンと回して意気込みを表している。

「いや、重度の中二病患者連れてきても役には立たないだろ」

 もち蔵は凸守を見ながら頭を掻いている。

 もち蔵は以前、インターネット上の掲示板にたまことの仲の進展を願う書き込みをしたことがある。

 

投稿者名:うさぎ山商店街の星RiceCakeもち蔵

Sb:毎年幼馴染の誕生日が祝えません

本文:幼馴染の女の子の誕生日を毎年祝ってあげようと一念発起するんですが、何故か毎年祝ってあげることができません。アイツの為に買った誕生日プレゼントが毎年贈れずに溜まっていく一方です。これはきっと大宇宙の大いなる意思が作用しているからだと思います。ちなみに彼女の誕生日は12月31日大晦日です。

 

 その結果、うさぎ山動物園にやってきたのがKMRという謎の高校生サークルの一行であり、凸守はその内の1人だった。

 

『すっ、凄いのDeath! 凄いのDeathわよ、マスターっ! この鳥はケイネスなのDeath! 第四時聖杯戦争なのDeathわっ!』

 

 凸守はケイネスが転生したという鳥をいたく気に入り、それ以来頻繁にうさぎ山商店街を訪れるようになっていた。

 自身をサーヴァントと名乗り、不可視境界線がどうとか魔界がどうとかよく口にするものの、実際の凸守自身は普通の中学生。言い換えるとただの中二病患者。

 彼女が加わった所でまともな計画が立てられるとはもち蔵には思えなかった。

 

「やるDea〜th。凸守はどんなミッションでもコンプリートしてみせるのDea〜thッ!」

 まだ何をするのか聞かされていないのに凸守のやる気は漲っていた。

 鳥を見るとやたらとテンション高くなる凸守は週に2回以上は遠路はるばるうさぎ山商店街を訪れるようになっていた。

 当初は向かいのたまやへと足を運んでいたが、凸守なりに気を使い、気づけばもち蔵の部屋が集会場になっていた。

 部屋の主には何の断りもなく、この部屋に勝手に鳥とJCと天使が乗り込んでくる。もち蔵のプライバシーは完全に失われていた。高校生の多感な時期、しかも妄想好きでシャイなもち蔵にはちょっと辛い状況だった。もうだいぶ慣れてしまったが。

「それで天才魔術師ケイネス改めて高貴なる鳥デラ・モチマッヅィ。略してデラネス。凸守を呼び出してのミッションとは一体何なのDeathか?」

「私は幼女とJKと一緒にお風呂に入りたいのだ。どうすれば良いと思うか?」

 鳥はとても澄んだ瞳で凸守へと語っていた。

「幼女とJKと一緒にお風呂、Deathか?」

 凸守もあまりにもアレなミッション内容に首を捻っている。

 そんな凸守を見ながらもち蔵は考える。

「…………凸守自身が幼女でJKみたいなもんだよな」

 凸守は来月から高校生になる。その意味でJK予備軍と言って良い。一方で身長は150cmに満たず、見事なまでのツルペタ体型である彼女は外見上小学生にしか見えない。

「……凸守が鳥と風呂に入れば万事解決なんじゃねえか」

 ボソッと解決策を小声で呟く。けれど、1人と1羽に述べるわけにはいかない。それはセクハラとしかならないことはもち蔵にも十分に分かっていたから。

 そんなKYなことを本人に告げられるはずがなかった。

 

(・3・)「ペッタンコDeath女が鳥と一緒にお風呂に入れば任務達成じゃねえ?」

 

 もち蔵が告げられないことを(・3・)はあっさりと言ってしまった。そこに痺れないし憧れもしなかった。

「せっ、せっ、セクハラなのDea〜thっ!! 凸守はセクハラを受けているのDea〜thッ!! セクハラ許すマジなのDeathッ!!」

 顔を真っ赤にして怒る凸守。中二病患者であっても、羞恥心は年頃の乙女たちと変わらない。

「確かにこのツインテ娘は仮想JKでかつ擬似幼女と言えなくもない。だが、本物のJKである史織さんのような神々しさはこの娘にはない。そして、本物の幼女であるアンやチョイさまのような幼女力に溢れているわけでもない。本物の輝きを前にすればツインテ娘はまがい物。この娘との入浴は娘と同じでオプション選択程度のものだ」

「セクハラを上書きされているDeathッ!! ガッデムなのDeathッ!」

 

(・3・)「頭の逝かれたロリBBAじゃ、鳥だって満足できないよね」

 

「黙るのDeathよ、この(・3・)ッ! 凸守はまだ15歳。正真正銘のピッチピチなのDeathッ!!」

 (・3・)は凸守に抗議の言葉を向けられてもまるで怯まない。というか、怒りを向けられていることにさえ気付いていない。レベルが段違いのKYだった。

「……あの(・3・)って、鳥の昔からの知り合い、なんだよな」

 もち蔵はこの部屋に勝手に訪れてくるもう1人の未確認生物を見ながら彼女に関する情報を整理する。

 長い金髪に追随を許さない圧倒的なナイスボディを誇る美の化身とでも言うべき天使少女。これで顔が(・3・)でKYでなければ大人気だろうにと口惜しく思っている。

 この(・3・)は(・3・)という名前らしい。もっとも、本名は別にあるらしいのだが(・3・)は自分をおじさんと呼び、鳥は(・3・)と呼ぶので不明。

 本人に訊くのも何か鬱陶しい感じがするので、もち蔵も(・3・)と呼んでいる。

 (・3・)は、詳しくは知らないが鳥が人間だった頃からの知り合いらしい。もっとも、当時の(・3・)はとてもバカで不幸だったが、KYではなかったらしい。

 鳥が人間から鳥へと転生して変わったように、(・3・)もまた残念な方向へと変化してしまったようだった。

「って、俺も何をどうでも良いことを考えているんだか……」

 自屋の中で繰り広げられる騒動に現実逃避している自分に気付いてため息が漏れ出る。

 

「とにかく、凸守にはミッションをコンプリートするために名案があるのDeathッ!」

 (・3・)の相手をしているのに限界を感じたのか、凸守は大声を出して流れを断ち切りにかかった。

「して、その名案とは?」

「敵を知り己を知れば百戦危うからずなのDeathッ!!」

 凸守は自信たっぷりにドヤ顔を晒してみせた。

「コイツが自信満々なほどに信用ならねえんだよなあ」

 その力強い表情にもち蔵はどうにも期待が持てなかった。

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(・3・)「モチうっめぇ〜〜〜〜♪ 鳥とかヘタレ男とか中二病とかどうでも良いけどここに来ると美味いもち食えるのが最高〜」

 

 もち蔵の許可もなく、商品を勝手に食べ出した(・3・)を放っておいて、残りの3名は店の外へと出た。

 3月後半の昼間とはいえ、外の風はまだ僅かに冷たいと感じる気候だった。

「それでツインテ娘よ。具体的にはどうするつもりなのだ?」

 鳥が凸守に尋ねる。

「勿論、諜報活動に決まっているのDea〜th」

 凸守は踏ん反り返りながら偉そうに答えた。

「凸守が幼女ズと腐れ一般人JKどもに接近を図ってデラネスと一緒にお風呂に入る意思があるのかまず確かめるのDea〜th」

「……いや、確かめなくてもエロ鳥と一緒に風呂に入りたい女なんかいないだろう。凸守自身が拒否しているだろうが」

 もち蔵は小さく呟いた。

「おおっ! なるほど。どこにでもいそうな普通の女学生のフリをしながらスパイ活動に従事する。うら若き乙女は警戒心を解いて、格好良くもラブリーな私とお風呂に入りたいという本音をつい漏らしてしまうわけだな」

「心の中のどこを探しても出てこねえよ、そんな本音は」

 もち蔵は鳥の解釈に呆れるしかない。

「敵の手の内さえ知ってしまえば……勝利は約束されたも同然なのDea〜th」 

 やけに自信たっぷりに語る凸守。

 だが、3ヶ月ほどの付き合いを通じてもち蔵は知っていた。

 凸守はシチュエーション大好き少女なだけ。それが本当に実行できるかにはさして関心がないことを。

「コイツ、スパイごっこに興奮しているだけだよな」

 もち蔵は凸守を見ながらまたため息を吐いた。

 

(・3・)「もち……うっめぇ〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 店内からは(・3・)の叫び声が聞こえてくる。

 (・3・)が美味しそうに食べるのでその宣伝効果もあって『RICECAKE Oh!ZEE』の売り上げは伸びた。

 けれど、(・3・)は無許可で商品を勝手に食べていくので宣伝のプラス分はどんどん消費されていってしまう。結局、あまり役に立たない(・3・)だった。

「凸守と(・3・)で勝てると思ってる鳥の根性はすげぇよ」

 意気地のないことに定評のあるもち蔵にとって、鳥は腹立たしくもあり羨ましくもある対象だった。

 

「ツインテ娘よ。たまやの方から娘たちの声が聞こえる。どうやら出てくるようだぞ」

「いよいよ、凸守の大スパイとしての歴史的な第一歩目が刻まれる瞬間なのDea〜thッ!」

 幸せそうな2人だなと横に並びながら立っていると、『たまや』の玄関が開いて3人の少女が出てきた。

「チョイさま、アン、娘が出てきたぞ」

 鳥の声にハッとする。

 もち蔵が正面を向き直すと、褐色の肌をしたストレート髪の少女、サイドで一箇所髪を束ねた小学生の少女、白い玉状の髪留めでツインテールを束ねた寝癖髪の高校生少女が道路へと現れた。

 王家に仕える占い師で鳥の上司にも当たるチョイ・モチマッヅィ。たまやの次女でたまこの妹である北白川あんこ。もち蔵の想い人で幼馴染の同級生北白川たまこだった。

「幼女たちとの入浴……天才魔術師より高貴な鳥に生まれ変わりはや幾年月。ようやくその労苦が実る時がきたのだっ!」

 うさぎ山商店街に来てから好き勝手ばかりやって、肥えに肥えまくった分際で鳥は感涙の涙を流した。

「マジうぜぇ」

 もち蔵は鳥を殴りたい衝動に駆られたが、グッと堪えた。

 

 

「あっ! もち蔵だ」

 たまこはもち蔵を見ながら顔をパッと輝かせた。

 もち蔵はたまこに生まれた時からの幼馴染として、ご近所さんとして、もち仲間として気に入られている。

 もっとも、もち蔵がたまこに対して抱いているような気になる異性として見ているのかと言われると、少年自身望み薄だと考えていたが。

「よおっ」

 自分の気持ちを隠すように澄まし顔を心掛けながら右手を小さく上げて返事する。

「どうしたの? デラちゃんとお出かけ……あっ」

 たまこの顔が急に少し曇った。

「早苗ちゃん、来てたんだ。いらっしゃい」

 たまこの顔は凸守を向いてすぐに明るくなった。

「DeathDeathDea〜th。こんにちはなのDeath。凸守はうさぎ山商店街がとても気に入りましたので何度でもやってくるのDea〜th♪」

 凸守は気分良さげにその場でクルッと回ってみせた。

「早苗ちゃんがこの商店街をとっても気に入ってくれているのは私も嬉しいよ」

 たまこは手を叩いて歓待を体で表現する。

 

「でも早苗ちゃんの一番のお気に入りは……もち蔵、なんだよね?」

 たまこの表情にまた暗い影が差した。

「はあっ? 一体何を言っているのDeathか?」

「ツインテ娘がわざわざこの商店街に来るほどに焦がれている相手といえば、私しかいなかろう」

 凸守と鳥はたまこの話を即座に否定する。もち蔵としても声には出さないものの、凸守と同じ心境だった。見当違いも甚だしいと。

「でも、早苗ちゃん。いつもまっすぐもち蔵の部屋に上がっていくし……」

 たまこはチラチラともち蔵と凸守を交互に覗き見る。

「それは、このヘタレもちの部屋が集会場所として適しているからで……」

「もしかしてもち蔵と早苗ちゃんって……その、付き合っていたりするのかな?」

 尋ねるたまこの表情は暗かった。だが、とんでもない誤解を受けたもち蔵と凸守はそんなたまこの表情の変化にまで気が回らない。

「とんでもない誤解なのDeath! 凸守が腐れ一般人の男に付き合うなんてあるはずがないのDeath!!」

「そうだっ! 俺が凸守と付き合うなんて絶対にあり得ないからっ!」

 もち蔵と凸守は必死になって誤解を解こうとする。

 しかし──

「あっ、ごめん。こういう敏感な問題は私なんかがおいそれと口出しちゃまずかったよね」

 たまこはもち蔵たちが付き合っているという前提を崩してくれない。

「だから、その、ちゃんと教えてくれる時になったら話してね。私、2人とも大好きだからいっぱい祝福するから」

 たまこの表情は暗い。けれど、もち蔵たちはその意味を考えずに自分たちにかぶせられた誤解を解こうとするのでいっぱいだった。

「だから凸守は大路もち蔵のことなんて少しも何とも思っていないのDeathってば!」

「俺の好みのタイプは、家庭的で素朴な感じのする明るく元気な女の子だってっ!」

 たまこにサラウンド効果で両側から激しく訴える。

「こんな息の合った喋り方をされたんじゃ……鈍いってよく言われる私でもさすがに気付いちゃうよお」

 たまこは笑ってみせた。わずかに頬を引き攣らせながら。

「全然気付いてないのDeathっ! 解釈が間違っているのDeathッ!」

「たまこ、お願いだから俺の言うことを聞いてくれぇ〜〜〜〜っ!」

 もち蔵は懸命にたまこを説得する。

 一途に好きでいる女の子に、他の少女と付き合っていると思われるのは心外もいい所だった。

 

「ツインテ娘よ。誤解を解こうと必死になるのも良いが、ミッションを忘れるでないぞ。今のお前は、闇のエージェントなのだということを忘れるな」

 熱中する凸守に対して一刻も早く幼女と入浴したいらしい鳥は注意を促した。

「はっ! そうでした。今の凸守は世間に表出せない黒い任務を請け負った超一流エージェントだったのDeath!」

 凸守は口に手を当てながら驚いた表情を見せた。

「えっ?」

「凸守がより多くの情報を集めるためには誤解を受けたままの方がむしろ活動し易いのです」

「へへっ!?」

 もち蔵は話が良くない方に傾いているのを感じていた。そしてそれを修正する手段を持っていなかった。たまこに素直に想いをぶつけることができないヘタレだった。

「凸守と大路もち蔵の関係がどんなものなのかはご想像にお任せするのDeath」

「やっぱり……そうなんだ」

 たまこはわずかに俯いた。

「もち蔵。良かったね」

 顔を上げた少女は目一杯の明るい表情を作っている。

「もち蔵ってば、高校2年生になっても女っ気が全然なかったからちょっと心配していたんだけど……ちゃんと、彼女できたんだね。おめでとう」

 それはたまこらしくない幾重にも包装が重ねられた作られた笑顔。

 普段であればそれが偽物の笑顔であることにもち蔵が気付かないはずがない。けれど、笑顔を向けてくる対象が自分であり、内容が内容だけに冷静な判断が下せない。

「いや、だから、俺と凸守は恋人でも何でもな……ブベッ!?」

 もち蔵のみぞおちに凸守の肘が入った。

「さあ、デラネスのマスターも凸守に聞きたいことが沢山あるはずなのDeath。じゃんじゃん聞いて打ち解けてくれればいいのDeath」

「おっ、おい……」

 もち蔵は凸守を止めたかったが、肘が入った腹が痛くて呼吸さえもままならない。

 大路もち蔵17歳。

 肝心な所で言えない動けないヘタレ青年。

 

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「なあ、アンよ。あの2人は本当に付き合っているのか?」

 3人のやり取りをジッと聞いていて瞳を細めたチョイの質問に対してあんこは腕を組みながら首を捻ってみせた。

「どうだろ? もっちーがお姉ちゃん以外の女の子に熱を上げるなんて思えないんだけど……」

 あんこは腹部に手を当てて苦しがっているもち蔵を眺める。

「お姉ちゃんに相手にされてこなかった悲しみから他の女の子に走っちゃったなんて展開は十分考えられるんだよねぇ。もっちーの場合だと特に」

 あまり頼りない幼馴染のお兄さんを見ていると小学生ながらため息が漏れてしまう。

 もち蔵の気持ちはあんこも良く理解している。というか、あれだけあからさまなアピールが続いているのに何故姉がもち蔵の気持ちに気付かないのか理解できない。というか、たまこ以外はみんなもち蔵の気持ちに気付いている。

 姉は全般的に色恋沙汰に疎く、たまにそれをあんこも疎ましく思う時もある。

 でも、そんなたまこが最近変わってきたとあんこは考える。

 

『もち蔵にプレゼントもらえるなんて……びっくりだよぉ』

『俺は……義理堅い男なんだよ』

 

 きっかけは去年の大晦日。

 もち蔵は何年も渡せないでいたたまこの誕生日プレゼントを初めて手渡した。多くの人の手を借りながら。

 そしてあの日、あんこやたまこは初めて凸守と出会った。

 

『もち蔵って高校生なのに彼女の1人もいなくて寂しいんだろうなあって思っていたんだけど、わたしの勘違いだったみたいだね』

 

 たまこはその時からずっと凸守をもち蔵の彼女だと評している。当初はあんこもそれがたまこの本心だと思っていた。けれど……。

「もち蔵のことは女の子の中では幼馴染でもち仲間の私が一番良く理解していると思ってたんだけど……勘違いだったみたい、だね」

 あれからたまこが顔に影を落とす場面をあんこは何度も目撃するようになった。

 そんな姉の姿を見ていると、あんこもやきもきしてしまうことがある。

「意気地なしのもっちーと、自分の気持ちにさえ鈍感なお姉ちゃん。どうしてあんこの周りの大人ってこんなにだらしないのかなあ」

 大きなため息が出てしまう。

 

「それでアンはどうするこの1件をつもりですか?」

「そんなことあんこに言われてもぉ……」

 自分より少しだけ年上の居候に尋ねられてあんこは答えに困った。

 年末から何となく見守ってきた問題であり、今すぐに答えを出す必要はない気もする。そもそも当人同士の気持ちが重要なのだから。

 でも一方で2人を見ていると、心配にもなるし好奇心も沸いてくる。何かしたい、してあげたいと思う気持ちも強い。

 あんこもまた思春期を迎えた少女であり、今は転校してしまったクラスメイトに淡い想いを抱いているということも要素に加わる。

 総じて言えば、お節介とは分かっているものの、何か動きたかった。

 けれど、その何かが分からない。

 そもそもどんなルートに至るのが自分にとって、たまこにとって、もち蔵にとって良いのか分からないのだから決めようがない。

「えっと、とにかく早苗ちゃんがもっちーと付き合っているのかちゃんと確かめないと」

 あんこの方針。それは凸守と同じで情報収集に励むことだった。

「どうやって確かめるのですか?」

「えっと……早苗ちゃんともっと親しくなって、ちゃんと話してくれるようにして」

「どうやって親しくなるのですか?」

「それは……」

 チョイの的確すぎる質問にあんこは答えに詰まる。

 何かヒントはないかと周囲を疑う。

 鳥、が目に入った。

 

「…………と、一緒にお風呂に入る瞬間が迫っている……仲良く…………たぎるぞぉ〜〜」

 

 鳥は何故かは分からないけれど興奮している。

 その言葉の一部があんこの耳に入った。

「そっか! お風呂だ」

 あんこは手を叩いた。

 かつて朝霧史織が初めて北白川家を訪れた時のことを思い出す。

 あの日あんこは史織と一緒に料理を作り、うさ湯に行って一緒にお風呂に入ったことで彼女にとても懐いた。

 それを再現すれば、凸守とも仲良くなれるのではないか。

 あんこはそう考えた。

「早苗ちゃん早苗ちゃん」

 あんこは早速行動に移ることにした。

「何Deathか?」

 凸守が振り返った。

 あんこは大きく息を吸い込む。

 何かを少しでも変えるきっかけを作りたい。 

 そう思った。

「早苗ちゃん。あんこたちと一緒にうさ湯に行こう」

 あんこは状況を変えるための第一歩を踏み始めた。

 

「幼女の方から入浴お誘いフラグキタァアアアアアアアアアアアァッ!!」

「うるさいぞ、デラッ!」

「うわらばぁああああああああぁっ!!」

 チョイのパンチを食らって豪快に吹き飛んでいく鳥。

 

 鳥の第一歩は……訪れなかった。

 

 

 

 続く

 

 

 

説明
水曜定期更新

そらのおとしもののSSです。
ロード・エルメロイも(・3・)も出ているので間違いないでしょう。
でも、どこかそらおとらしくない。途中で一部シリアスだったりするからか。

来週はエイプリルフールを挟むので……智樹が死ぬ話でもしましょうね。

過去作リンク集
http://www.tinami.com/view/543943


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コメント
なるほど。死刑執行者がいない世界ではデラネスや(・3・)でも普通のウザキャラとして生きていける事に今さら気づかされました。(tk)
ロード・エルメロイと(・3・)が一回も死んでないからか確かにいつもとちがう感じだな。(mtms)
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