KVP:3匹目
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:林

 目を覚ましたヒョロナガはまず、むくりと起き上がり、周りを見渡した。すると自分から少し離れ

たところに、デブがうつぶせに倒れているのを見つけた。そしてどうしたのだろうと声をかけようと

して、その声がそのまま悲鳴へと変わった。

 「うわあああああああああああ!?」

 ヒョロナガは気絶しなかったものの腰を抜かし、その場にへたり込み、動けなくなってしまった。

 「で、デブさん・・・」

 声をかけてみるが、勿論、フェイスハガ―に昏睡させられているため返事はない。

 (返事がない、ただの屍のようだが息はしているようだ。にしてもこんな生き物?見たことない

ぞ?)

 と、自分を落ち着かせて現状を把握しているとガサッと後ろで物音がした。

 「ひっ!」

 (落ち着け、アニキ達が帰って来たのかもしれない。そうだ、そうだよ)

 「あ、アニキ達お帰りな、さ・・・い?」

 再び自分を落ち着かせ、ゆっくり振り向くとそこにいたのは、はたしてカズトだった。

 「あ、ああ・・・っ」バタンッ

 さすがに今度は気絶したようだ。

 あたりはうす暗く、今のカズトは全身装備で、ヘルメットのデザインが鬼に見えるようなものなの

も一役買ったのだろう。

 (ありゃ、気絶しちゃった。まあ騒がれるよりいいか)

 カズトは、ヒョロナガが気絶しているだけだと確認すると、デブの方へ近づいていった。

 (遅かったか。でも、まだはがれてないな・・・よし)カチカチ

 左のガントレットを操作し、ヘルメット内部のモニターにデブの胸部、骨、内蔵をレントゲンのよ

うに映し出した。

 そしてそこには予想以上のものが映っていた。

 (チェストバスター、しかもクイーンタイプだと!?)

 丁度いいので、ここらでエイリアンの生態に触れておこうと思う。

 エイリアンとはハチ、アリのように一つの社会を形成して繁殖をおこなう。しかし、エイリアンに

はオスが存在せず、クイーンと呼ばれる個体が卵をうみ、その卵から生まれたフェイスハガ―が宿主

に取り付き、チェストバスターを寄生させるのである。そしてチェストバスターは宿主の胸を突き破

り、成体となるのだ。クイーンを産み付けるフェイスハガ―はかなり低い割合で生まれるのだが、エ

イリアンを管理するため、通常は卵の時に破棄される。

 しかし、ここにそれが居るという事は――

 (地球を、滅ぼそうとした?)

 そう考えるのが妥当であろう。カズトの師匠達、プレデタ―とは戦闘や狩りを好み、仕事、生きが

いとしている。多くの部族にわかれ、それぞれが戦士としての志、掟、義、行動を志している、が、

一部、戦士としてよりも自分の感情や、欲望を先行する者たちも存在する。

 おそらく今回、地球人にしてやられた者などが仕組んだのだろう。

 理解はできる、実際狩り仲間などがやられた時などは怒りや悲しみを覚えたりする。だが戦場や、

狩りの最中の死は戦士として、最高の名誉である狩りの成功に次いでの名誉であるため割り切ってい

る。しかも名誉のために戦わない者に名誉はないという共通の教えがあるため、自制するのが普通で

ある。

 (では何故、それほどまでの想いなのか?・・・まあ後で考えよう)

 考えても分からなさそうなのでカズトは考えるのをそこまでにして、横たわっているデブに思考を

戻した。

 師匠から教わったことや、これまでの経験から対処法を見つける。

(チェストバスターに寄生された宿主を、何の医療施設もないところで助けることは不可能。麻酔で

孵化を遅らせることはできるが、おそらくそろそろフェイスハガ―が剥がれて、こいつが意識を取り

戻して、胸を突き破って出てくる・・・なら)シュリンッ!

 そう判断したカズトは、右腕のガントレットから、内蔵されているリスト・ブレイドを長めに生や

した。

 (せめて、苦しまないように・・・ふんっ!)ズシャッ!

 そのままデブの胸部を貫いた。剣先が地面にまで達したのか、硬い感触が伝わってきた。

 そしてそのままズッと引き抜くと、ブレイドにチェストバスターの血がついたらしく独特の黄色い

血がデブの赤い血に混ざって付いていた。このブレイドはエイリアンの酸に耐性があるが、何かの拍

子に衣服に付いてしまったら大変なので、周りに注意しつつ勢いよくふるって酸性の血を払い落し、

再びガントレットへ収納する。

 ついで、そのままでは可哀そうなのですでに役目を終え、絶命したフェイスハガ―をデブの顔から

剥がす。

 すると背後でガサガサと何かが近づいてくる音がした。

 アニキ達が丁度追いついたようだ。

 振り向くと走ってくるアニキとチビが目に入った。

 視界を元に戻すと、アニキの怒り、チビの諦めの表情が鮮明に見えた。

 そして、異物も。

 

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 アニキはカズトが目に入ったとたん、心の中で諦めの色が強くなったのを感じた。

 しかし横たわっているデブとヒョロナガ達に気付くと、怒りがそれを塗りつぶした。怒りで頭が沸

騰し、カズトを一刻も早く殴り飛ばしたい衝動にかられた。

 それ故に気付くのが遅くなってしまった。

 左上の木の枝から飛びかかって来たそれに、カズトが手に持っているものと同じ物に―――フェイ

スハガ―に。

 「アニキ!」

 「うわああ!!?」

 時すでに遅く、速度は落とせず、しかし咄嗟に動かした顔は戻せず、自分から飛び込んでいくよう

だった。

 走馬灯に意識が入ろうとした時、視界の隅で何かが光った。

 「え?」

 次の瞬間、フェイスハガ―が視界から消え、足がもつれて転んでしまった。

 「いてっ、つおっ、が!?」

 「アニキ!?」

 10メートルほど転がって止まったアニキだったが、頭の中はまだあらゆることが転がって、こんが

らがって訳が分からなかった。

 ふと、すっかり近くなったカズトを見ると、何かを左下から前に投げたような格好をしていた。

 そして駆けよってくるチビの後ろの木の幹を見ると、そこには襲いかかって来たはずのフェイスハ

ガ―が、細長い鍵爪のようなものが8本付いた円盤によって磔にされていた。

 ゆっくりと頭を動かし始めて、何が起こったのかを確認する。

 (まず俺がこっちに走ってきて、頭に血が昇って周りが見えなくなって、そしたらアレが飛びかか

ってきて、視界の隅で何かが光ったと思ったら消えて、でもアレがあの幹に磔にされてるってこたぁ

、こいつがアレを投げて俺を助けたってのか?何故?)

 余計に現状が分からなくなり、再び頭を抱えそうになると、カズトがデブの死体の方へ歩いて行き

、カズトがしゃがみこみ、デブに触れようとしたところで我に返り、思わず

 「やめろ!」

と叫んでしまった。

 カズトは驚き手を止めた。

 (言葉が通じるの・・・か?)

 しかし、カズトはそれを無視するように再びデブに手を伸ばすと、ひょいっと、その巨体を担ぎ上

げた。

 そしてそのまま森の奥へ行こうとしたが、アニキが見逃すわけもなく、

 「やめろって言ってんのが、聞こえねえのか!」

駆けだし、後ろから殴りつけようとするが、カズトは後ろに目があるかのように横に一歩ずれてよけ

る。ついでに足をかけて転ばすのも忘れない。

 「なっ!?と、いてえ!」ドスンッ

 カズトがそのまま歩いてゆこうとするので、アニキが立ち上がろうとした時、カズトはクルリとこ

ちらに振り返り、息をめいいっぱい吸い込み

 「ゴアアアアアアアアアアアア!!」

と叫んだ。それはもはや咆哮といった方がよいもので、アニキは浮かびあげた腰を再び地面へと落と

した。立ち上がろうとするが、腰が抜けたらしく立ち上がることができない。

 そのことを確認すると、カズトは林の奥へと消えて行った。

 

 しばらく放心していたアニキだったが、チビの声によってそれは解かれた。

 「アニキっ、大丈夫ですか?」

 「あ、ああ、平気だ」

 と言ったものの、立ち上がる気にはなれなかった。

 「デブが、連れていかれちまいましたね」

 「ああ。あ、ヒョロナガは!?」

 チビに確認すると、ヒョロナガの方へと駆けて行き、意識があるかなどを確認する。

 「大丈夫です!こいつは気絶してるだけみたいっス!」

 良かった、と思う反面腰を抜かし、みすみす仲間を連れ去られた自分に怒りを覚えた。

 「くそっ!」ドガッ

 いらだちを隠すことができず、地面に拳を叩きつけるアニキ。だが、後悔するのは後回しにしなく

てはならない。速く追いかけなければ、本当にカズトを見失ってしまうからだ。

 呼吸を整え、立ち上がると、アニキは何時も通りチビに命令した。

 「チビ、キョロナガを起こせ。さっさとあいつを追いかけるぞ!」

 「へい!ほら、ヒョロナガ起きろ!」ビシッ

 「ふがっ!?・・・あれ、チビさん、アニキ。あ、化物がそk「わーってる。今から追いかけるん

だ、寝っ転がってねえでさっさと立て!」・・・は、はい!」

 訳が分からず、とりあえず立ち上がるヒョロナガ。しかし、なんとなく事態を察し、頭を切り替え

た。

 「よし、それじゃあ逃げつつ、あの化け物を追いかけるぞっ!」

 「へい!」

 「はい!」

 そして三人はカズトからデブを取り戻すため走りだしたのだった。

 

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 カズトはその頃・・・

 (あー、なんか打ち切り漫画の最終回みたいだな・・・)

 なんてことを思いつつ、近くの茂みから3人のことを見ていた。

 林の奥へと消えて行く時、カズトは実際に消えていた。

 消える、といっても視界からという意味で、体に装着している光学迷彩装置を起動させ、担いでい

るデブごとアニキ達の視界から消えたのだ。

 もっとも場所が林だったためか、アニキには、奥の方へ歩いて行って消えたように見えたようだ。

 (さてと、それじゃあちゃっちゃと後始末しちゃいますか)

 アニキ達がきちんと消えたことを確認すると、カズトはデブを担ぎなおし、茂みから出て行った。

 デブを連れ去った目的はこれ――後始末である。

 フェイスハガ―は元々、生物兵器として生み出された生命体であり、何度かの地球潜入と、資料の

知識から、地球人はフェイスハガ―のサンプルがあれば同等か、それ以上のものが作れるであろうこ

とは容易に想像できた。そしてその先に待っているものも。

 故にカズトは、地球などの知的生命体が存在する星においての後始末は、出来る限り行うようにし

ている。

 船に戻る途中で、先ほどのフェイスハガ―を回収することも忘れない。

 のんびり歩いていたカズトであったが、林から出たところであることに気付いた。

 (地響き・・・地震じゃないな。このリズムからすると徒歩で来てるな。数は大体2500から3000っ

てところか。でも徒歩で?ヘリコプターとかバギーを使えばいいんじゃ・・・)

 そこまで推測すると、かすかな疑問を浮かべつつも、カズトは走りだした。 

 無論、デブと2匹のフェイスハガ―を両肩に担ぎながらである。

 

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:宇宙船内

 カズトは宇宙船に着くと、1人と2匹を下ろし、船内へ入った。

 「えーっとここら辺に・・・あ、あった」

 探し物が見つかったようだ。探しものとは―――

 「自爆スイッチ」

 古今東西、あらゆるところで活躍する自爆スイッチであった。

 そしてこれは、スイッチを押すことによって、半径2キロ圏内のものが吹き飛ぶだろうというもの

だった。

 ちなみに、カズトのガントレットについている自爆装置はこれよりも強力である。

 理由はのちに明かされる。

 「名残惜しいけど、この船ともさよならだな」

 といって、ポンッと席を軽くたたく。

 元々、カズトは物に執着する性格ではないのだが、この宇宙船は師匠からもらった数少ない、カズ

トの宝物の一つであった。

 「タイマーを3分後にセット・・・よし、それじゃあさよならだ」カチッ

 自爆ボタンを押し、カズトは素早く船外へ出た。

 

:宇宙船外

 外に出たカズトは、先ほどとは別の方向へ――もう1匹のフェイスハガ―が向かった方へ走りだし

た。

 その後ろ姿はどこか楽しそうに見えた。

 

 

 

 

 カズトはこの時、一つのミスをした。小さな、しかし、この後の展開を大きく左右することになる

ミスを・・・。 

 

 タイマー通り3分後、宇宙船は大爆発を起こし、周りの木々を巻き込み、跡形もなく消え去った。

説明
一日遅れての投稿、本当にすみません。
さてお待たせした今回は、ヒョロナガの目が覚めるところから始まります。
長さは前回とほぼ同じです。
それでは、どうぞ
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コメント
デュークさんコメントありがとうございます。一応設定としては、プレデタ―に育てられた人間としています。(下駄を脱いだ猫)
疑問に思ったのですが、一刀は人間型の宇宙人?それとも純粋にプレデター?(デューク)
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