恋姫†無双 関羽千里行 第20-1話
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第20話 −拠点2-1−

 

○愛紗

 

兵士A「おい...今日の隊長、なんかいつもより厳しくないか?」

 

兵士B「それは...あれだろ。」

 

兵士A「ああ、あれか...」

 

 兵士の一人がそっと目配せした方を確認し、何人かのため息が聞こえてきた。今兵士たちは調練を受けている最中であり、ひたすら訓練場の中を走らされていた。それくらいはいつものことなのだが、今日に限っていつもより彼らの隊長の気合が入っているのか、先ほどいつもの五割増しくらいの勢いでしごかれている気がする。

 

兵士C「なあ、どういうことなんだ?」

 

 事情を知らない新人の兵士が、わけがわからないといった様子で尋ねてくる。

 

兵士A「ああ、お前は今日が初めてか。いいか、覚えておけよ。あのな...」

 

 先に配属されていたと思われる兵士が続きを話そうとした所で...

 

愛紗「こらそこっ!無駄口を叩くな!それとも、もっとこのまま走りたいのか?」

 

兵士一同「申し訳ございませんっ!精一杯走らせて頂きますっ!」

 

 一番後ろから喝が飛んでくる。自分たちは汗だくだというのに、同じ訓練を自分でもしながら汗一つかいていないというのは、やはり彼女が常人とは異なる存在であるということなのだろう。これなら、黄巾の大群を一人で相手にしたなんていう噂も本当のものかもしれない。それに関して元黄巾党の連中に尋ねても、皆一様に蒼白な顔をして何も話してもらえないので、確かめるには至っていないのだが。新人の兵士がそんなことを考えている一方で、この現状を引き出した元凶はというと...

 

一刀「あはは、みんなの視線が痛いなぁ...」

 

 チクチクと刺さる恨みがましい視線に耐えかねるといった様子の一刀だが、今日に関してはこの場から逃げるわけには行かなかった。というのも、今日の調練は全ての隊を見て回り、現状本郷軍がどれほどに練度をあげられているか定期に見て回る一刀の仕事の一つであり、その報告の結果いかんによって今後の方針などが決まってくるからだ。そしてもちろん、一刀自身が自分の隊を持つにあたって調練の仕方を勉強しようという意図もあり、一刀は各隊から目を離すわけにはいかなかった。

 

 しかし今まで見てきたところ、祭や星といった隊では普段通り訓練していた様子だったが、先程まで見ていた思春や愛紗の隊はいつもよりかなり気合が入っているようであり、一刀は申し訳ない気持ち出いっぱいになっていた。特に最近仲がいい甘寧隊の人たちには近々酒の席で仕返しされるのは必至だろう。そんなことを考えているとランニングが終わったのか、愛紗が報告にやってきた。

 

愛紗「次は組手ですが...一刀様、今日はこの季節の割には気温も高いですし、日陰におられてもよろしいのですよ?」

 

一刀「みんながあっちにいるのに、そんなことはできないって。俺なら大丈夫だから。」

 

愛紗「...そうですか?くれぐれも水分補給は忘れないでくださいよ?」

 

一刀「わかってるって。」

 

愛紗「なら良いのですが...」

 

 愛紗は一度だけ心配そうな顔をして振り返ったあと、隊の方へと戻っていった。

 

 

 

 そして調練も終わり、城に戻る道中を一刀と愛紗は二人で歩いていた。

 

愛紗「全く、あの程度でへこたれるようでは、どんな脅威からも身を守ることなどできないというのに...」

 

一刀「あの位で勘弁してあげなよ...結構吐いてる人とか多かったよ?」

 

愛紗「吐けるうちはまだ動けます。」

 

一刀「そ、そっか...」

 

 愛紗は肉体の限界を気合とか根性で乗り切れといったような思考をしているから、そういうことを言えるけど、隊の人たちはたまったものじゃないだろうなぁなどと考えてしまう。しかし、愛紗も本当に無理なことはさせないと信じているのでとりあえず頷いておく。

 

一刀「そういえば、今日は何の日か知ってる?」

 

 唐突な質問に一瞬きょとんとなる愛紗だが、すぐに何かを思い出すようにうーんと唸ってみせる。

 

愛紗「あちらの暦で、ということででしょうか?あの日記が手元にあればよいのですが...ふむ...」

 

 それを見ておそらく俺は今、かなりにやけた表情をしているだろう。お手上げと言った様子でこちらを見てくる愛紗に、

 

一刀「今日はね...愛紗の誕生日だよ!」

 

愛紗「いえ、違いますが。」

 

 一刀両断された。賢い愛紗のことだから、瞬時に実際の誕生日をあちらの暦にも当てはめるのも試した上で答えたのだろうが、それにしても瞬殺であった。

 

一刀「やっぱりうまくいかないな。あっちと勝手が違うからなぁ...」

 

 その一言から答えも導き出したのか、愛紗が訝しげな視線をこちらに向けてくる。

 

愛紗「もしや...あの不快極まりない日ということでしょうか?」

 

一刀「おっと!なんのことかわからないな。」

 

愛紗「トボけても無駄です!全く、あの時は私があちらのことにてんで不案内なことを良い事にあることないこと...」

 

 そう、今日は嘘をついてもいいと言われているエイプリルフールにあたるのだ。それをいいことに、俺は愛紗に今日に限って実は水道からは酒が出てくるのだとか、今日は逆立ちをして歩くといいことがあるとか、前に吹き込んでいたのであった。それをそっくり信じた愛紗に、次の日全て話した時には思いっきりへそを曲げられてしまったが。そもそも基本的に真面目な愛紗にとっては、そんなことが一般的に許されている日というのは受け入れがたいものがあったようだ。今でも苦手な酒が入っていると思い込んで勧めたコップの水を色々理由をつけて断ったり、本当に逆立ちして悠々と廊下を移動していた愛紗を思い出すと、笑いがこみ上げてくる。

 

愛紗「あ、今思い出し笑いをしましたね!」

 

一刀「だって、あの時の愛紗ってば、歩いてる時はほんとにずっと逆立ちで...ぷふ!」

 

愛紗「う〜!もう知りません!」

 

 ぷいっと後ろを向いてしまう仕草も可愛いと感じてしまうあたり、惚れた弱みというものかと自分でも思うのであった。

 

一刀「ごめんごめん。今日はもうアガリだったろ?お詫びに今日は二人で何か美味しいものでも食べていこうよ、奢るからさ。」

 

愛紗「...本当ですか?」

 

 少しだけこちらを振り返るようにして視線を送ってくる愛紗。その少し上目になった仕草に、

 

一刀「(参ったな。)」

 

 そして、

 

一刀「もちろん。確かこの前警邏に行った時、入りたそうにしてた店あっただろ?あそこに行ってみよう。」

 

愛紗「な!それではまるで私が食い意地が張っているように聞こえるではないですか!」

 

 そう口を尖らせながらも、嬉しそうに腕を組んでくる愛紗を連れ立って、二人で街へと向かうのであった。

 

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○霞

 

 一刀は今日は非番で街の中を歩いていた。最近は街の治安も以前に比べてかなり良くなっており、愛紗も一人で出かけることにさほど酸っぱくいうことはなくなっていた。最も、それも愛紗に外に出て行くところを見られなければの話だが。

 

店主「よう兄ちゃん!今アツアツの肉まんが上がるところなんだ!食っていってくれよ!」

 

 いつものごとく、街に出ると一刀は色々な人に声をかけられる。飯店の陽気な店長が、店先から頭を出して一刀を呼び止める。

 

一刀「お、美味しそうだね。じゃ、一つもらおうかな。」

 

店主「まいどあり!ちょっとそこに腰掛けといてくれるかい。おいお前!兄ちゃんに茶でも出してやってくれ!」

 

一刀「いやいや、気にしなくていいよ。」

 

店主「何言ってんだい。兄ちゃんが頑張ってるから俺達がこうして安全に商売できるんじゃねぇか!どうせお代はいらないって言っても置いていくんだから、せめて茶でも飲んでいってくれ。」

 

一刀「そうか...ありがとう。」

 

店主「おうよ!だが、うちの母ちゃんは兄ちゃんと言えどもやらないからなっ!」

 

一刀「ははは、いつ来ても仲がいいなぁ。」

 

 そんな一刀の様子を電信柱...ではなく少し離れた軒先から見つめる影があった。

 

霞「じー。」

 

 観察するように一刀を見つめる霞。そんなことはつゆとも知らず談笑する一刀。霞が隠れるようにして一刀をつけてきているのには理由があった。

 

 

 

 

 時は遡って一刀が外出する少し前。

 

霞「はぁ。愛紗はなんでウチにデレてくれへんのやろ。そろそろウチの気持ちを受け取ってくれてもええんちゃうかなぁ。」

 

 それは霞の抱える一番大きな悩みであった。度重なる霞のアタックも尽く失敗に終わっている。正確に言えば無視されているわけではないので、失敗とは言えないのかもしれないが。そこへ、

 

一刀「やあ、霞。霞も今日は非番かい?」

 

 ある意味霞の悩みの一端を担っている一刀がやってきた。一刀のことは嫌いではないし、むしろ付き合いやすくて居心地はいいのだが、やはり一刀以外にはなかなかデレてくれない愛紗のことを考えると少し妬けてしまう。

 

霞「なぁ。一刀はなんでそんなに愛紗に好かれとるん?」

 

一刀「唐突だね。うーん、長く一緒にいるからじゃないかな?」

 

 突然のことに驚きながらもそう返す一刀。しかし、

 

霞「でもそれってそんなに長い年月ってわけやあらへんのやろ?愛紗は天の国っちゅうとこやのうてこっちで育ったって前に言ってたし。」

 

一刀「うっ...そうだったかな...」

 

 そこら辺の事情は説明していないので返答に困る一刀。前の外史がどうなどという話はしないということで愛紗とも合意していたので、気軽に話すわけにはいかなかったのだ。

 

霞「なぁなぁ、どうしたん?」

 

一刀「そうだ、買い物を頼まれてるんだった!じゃ、そういうことで!」

 

 分の悪い一刀は戦略的撤退を行うことに決めた。明らかに嘘だとわかる言動にも何も言わず、それを見送っていた霞だったが、

 

霞「なんか一刀には秘密があるに違いあらへん...今日はそれを確かめさせてもらうで!」

 一刀には気づかれないようにその後を追っていった。

 

 

 

 

そして現在。

 

霞「うーん、一刀てホント色んな人に話しかけられるな...これで何人目や。」

 

 霞は城を出てからというもの、一刀に話しかけてくる人の多さに驚いていた。自分もそれなりに町民とは仲がいいとは思っていたが、一刀のそれは少し異常かもしれない。

 

霞「別に女の子ばっかりに話しかけてられてるわけやあらへんし、話してる内容もただの雑談やし...なんなんやろうな。」

 

 それは恐らく彼の人柄がそうさせるのであって、言葉では言い表しがたいものなのだろうが、霞にとっては謎が深まるばかりだった。

 

一刀「おばあちゃん、腰の様子はどう?」

 

お婆さん「おかげさまでこの通りじゃ。ほれ!」

 

一刀「あ、危ないよ、おばあちゃん!わわっ!」

 

 慌てる一刀を見て周囲から笑いが沸き起こる。その光景はとても暖かく、今まで様々な場所を旅し、いろいろな光景を見てきた霞にとってはとても貴重なものに感じられた。

 

霞「わからへんけど...なんかああいうの、ええな。」

 

この時の霞は、その光景にただ純粋にそう思っていたのだった。

 

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―あとがき―

 

れっど「というわけでしばらく拠点回です。」

 

霞「あーいしゃ♪ほれほれ〜♪」

 

愛紗「ちょ、やめっ!」

 

れっど「デレが少ないという方もいらっしゃるかもしれませんが、そこに関してはもう少しお待ちくださいね。」

 

霞「ここやろ?ここがええんやろ〜?」

 

愛紗「だ、だめ!そこはぁっ!」

 

れっど「...あとは各自ご想像の中でお楽しみください。」

 

霞「あはは〜♪」

 

愛紗「だ、だれかぁ〜!」

 

説明
恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第20-1話になります。
拠点回です。
今回は愛紗さんと霞さんです。

思えば遠くまで来たものだ...更新始めて半年が経ちました。
全然話が進まないことに少し焦っていますが...
精神と時の部屋実装はまだですか。
それではよろしくお願いします。
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タグ
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