SAO〜菖蒲の瞳〜 第三十八話
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第三十八話 〜 黒猫たちのこれから 〜

 

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【アヤメside】

 

翌日、アラームのおかげで快調な朝を迎えることができた俺は、まだお休み中のキュイをポケットに入れて――部屋に置いていくと帰ったときマジ泣きされる――部屋を出たとき、一つの部屋の前で固まってる四人の影を見つけた。

 

少し聞き耳を立ててみると、その四人は、「何か聞こえる?」「ダメだ。全く聞こえない」「誰か《聞き耳》スキル持ってればな……」「やっぱり、少しドアを開けるしかねえか?」などと、明らかにアウトな会話をしているようだった。

 

赤の他人であって欲しいことこの上ないが、生憎、昨日の夜この宿にチェックインしたのは((俺たち| ・ ・ ・ ))しか居ない。

 

「……何やってんだお前ら……?」

 

俺が怪訝な声で話しかけると、キリト、ササマル、テツオ、ダッカーの四人はビクッと反応して振り返り、俺を見て「ふぅ……」と小さく安堵の息をついた。

 

「いや、ふぅ……、じゃねえよ。何やってんだお前らは。そこ、ケイタの部屋だろ?」

 

純粋な俺の疑問に、テツオが答えてくれた。

 

「実は、昨日の夜部屋から出たとき、たまたまサチがケイタの部屋に入ってくのを見てさ」

 

「そうか」

 

野次馬根性丸出し過ぎて溜め息も出なかった。

 

「そうかって、アヤメは気にならないの?」

 

「気にならない、って言うのは嘘になるな。からかいたいというのも良く解る。だけど」

 

そこで区切りを入れた俺は、左手を開閉して拳の握りを確かめながらキリトたちに近付く。

 

それを見たキリトたちは頬を引き吊らせ、腕を上げて頭を庇うような態勢を取った。

 

俺は腕を振り上げて勢い良く振り下ろし、ぽん、とキリトの腕に手のひらを置いた。

 

「これは行き過ぎだ。俺たち以外の客がいたら迷惑極まりないし、軽く犯罪的だぞ。少しは自重しろよ」

 

ぽかんとした顔をする四人に俺はそう言い残し、通り過ぎる。

 

キリトたちに俺の顔が見えなくなったあたりで、俺はフレンドリストから四人の名前を選んでメールを一斉送信した。

 

内容は【ちなみに、今のは初回限定特典だ】。

 

背後で誰かが立ち上がる気配がした。

 

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一階のロビーにある六人掛けのテーブルに座って適当に談笑しているとき、二階からケイタとサチが一緒に下りてきた。

 

それを見たキリトたちはニヤリと笑い、ケイタとサチは俺たちが集まってるのを見て早足で近付いてきた。

 

「みんなおはよう。もしかして、待たせちゃった?」

 

「いいや、待ってないよ」

 

ケイタの問いにキリトが答えた。

 

すると、ダッカーがケイタの首に腕を回し、肩を組むように絡みついて小声で尋ねた。

 

「なあなあ。昨日の夜はどうだったんだ?」

 

「ぶっ!?」

 

ストレートな質問に、ケイタは噴き出して顔を赤くした。

 

隣のサチはダッカーの言葉が聞こえていなかったらしく、疑問符を浮かべている。

 

「ケイタ、どうしたの?」

 

「サチは知らないでいい。そんなことより、寝ぼけ眼なキュイでも見て和んでいよう」

 

下手に会話に参加させればサチにも飛び火すると考えた俺は、そう言って俺の膝の上でふらふらしているキュイを指差した。

 

それによって、サチの注意はこっちに向き、飛び火の心配はなくなった。

 

「何でそれを……」

 

そこで誤魔化せばいいものを、ケイタはジト目でダッカーを睨んで詰問する。

 

ダッカーが詫びれたようすもなくテツオのことを話すと、ケイタはガクリとうなだれた。

 

「で? どうだったんだ?」

 

テツオも身を乗り出し、いやらしい笑みを浮かべながらケイタに詰め寄る。

 

ササマルとキリトも苦笑いこそ浮かべているが、聴覚を中心とした意識は完全にケイタへと向けられていた。

 

「何もなかったよ。サチが一人で寝るのが怖いっていうから、一緒に寝ただけ」

 

「本当にそれだけか?」

 

「本当にそれだけだよ」

 

「ま、だよな〜」

 

ダッカーは落胆したように言うと、ケイタから腕を離して溜め息をついた。

 

一体、何を望んでいたのやら。

 

「キュ……キュィ?」

 

「あ。アヤメ、キュイちゃん起きたみたいだよ」

 

「おはよう。キュイ」

 

「キュキュ」

 

キュイは、さっきまで見つめていたサチに驚きこそ怯えたようすはなく、挨拶するように鳴くと、俺の目を見てから甘えるように寝転がった。

 

「ふふ。かわいい」

 

そう言いながら、撫でようとサチが手を伸ばすと、キュイは身を固くして警戒する。

 

姿見はオッケーでも、お触りはダメらしい。でも、どこか似たもの同士だからか、馴れるのが早い。

 

「じゃあ、どこか朝ご飯でも食べに行くか」

 

キュイを三十秒近く撫でまわして骨抜き状態にした俺は、キュイをポッケトに移動させてそう切り出した。

 

サチと一緒にキュイを可愛がっていたため、いい加減ケイタの視線が痛くなってきたからだ。

 

「あ。その前に、皆に言わなくちゃいけないことがあるの」

 

俺がイスから立ち上がったところで、突然サチがそう言った。

 

「早く言わないと決心が揺らいじゃいそうだから、今言わせて」

 

そこで一旦止めたサチは、一度ケイタを見てから決心したように頷き、言葉を続けた。

 

「私、もう皆と一緒に戦わない」

 

「……どうしてだ?」

 

「やっぱり怖いし、いざってときに竦んで皆に迷惑かけたくないから」

 

「……うん。分かった」

 

不安そうなサチに対して、テツオ、ササマル、ダッカーの三人は頷いた。

 

「俺たちも、サチに無理して欲しいわけじゃないしな」

 

「そうだよ」

 

「ありがと。……ごめんね」

 

そう言ったサチは、申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。

 

「じゃあさ、サチが抜けるならもう一人の盾役はどうするんだ?」

 

「それなら僕がやるよ」

 

ササマルの言葉に、今度はケイタが答えた。

 

「え、いいのか?」

 

それに驚いたのはキリトだった。

 

ケイタの《棍》スキルの熟練度は、同じ層のプレイヤーたちと比較すると頭一つ高いらしい。

 

そして、《棍》は両手武器であるため、必然的に盾を装備することはできない。

 

つまり、盾役になるということは、その高い《棍》スキルを捨てるということになるからだ。

 

「ああ。やっぱりリーダーとして、皆を守るには盾を持ってる方がいいかなって思ってね」

 

そう言うケイタの言葉からは、しっかりとした覚悟が感じられる。

 

ケイタの言葉を聞いたキリトは「分かった」と頷いた。

 

「そんなわけだから、盾役の先輩としてよろしく頼むよ、テツオ」

 

「そう言うことなら任せとけ」

 

ぐっ、と親指を立てたテツオは、二カッと笑って答えた。

 

「じゃあ、最後に聞きたいんだが」

 

軽く挙手をして発言権を求めながら、俺はサチの方を向いて尋ねた。

 

「サチは、これからどうするんだ?」

 

その俺の質問に、サチは「あ……」と言って言葉を濁した。どうやら、まだはっきりとは決めていなかったようだ。

 

「一応、生産職になって黒猫団の資金面とかをサポート出来たらなあ、とは思ってるんだけど」

 

「何になればいいか分からないと」

 

「うん」

 

確かにその通りだ。一言に生産職と言っても、《商人》《鍛冶師》《お針子》など意外と種類がある。

 

しかも、《商人》はその人の向き不向きに大きく影響されるし、《鍛冶師》や《お針子》はもうある程度の上位層は出来あがってきているので、今からスキル上げして稼ぐのもそこそこ難しい。

 

そのことをサチに話すと、やっぱり分かっているらしく「そうなんだよね……」と溜め息混じりに答えた。

 

「ちなみに、サチは何か生産系のスキル持ってるのか?」

 

「《料理》と《裁縫》の二つなら」

 

「ふむ……。となると、《お針子》になるのが妥当なところか。まあ、下層のプレイヤー相手なら生活費くらいは稼げるな」

 

「なあ、アヤメ。《アレ》なんかどうだ?」

 

「……《アレ》か」

 

キリトの提案に、俺は頷いた。

 

「確かに、《アレ》を取ってるプレイヤーはまだ少ないだろうな」

 

「だろ? それに、《アレ》はかなり役に立つと思う」

 

「あ、あの、二人とも。《アレ》ってなに?」

 

俺とキリトが勝手に話を進めていると、サチが控え目に間に入って聞いてきた。

 

他の皆も不思議そうな顔をしている。

 

「《アレ》っていうのは、最近見つかった《エクストラスキル》のことなんだ。まだ取ってる人が少ないから、もしかしたら良いんじゃないかって思って」

 

「どんなスキル?」

 

「名前を《工芸》スキル。《アクセサリー》を作るスキルだ」

 

アクセサリーとは、装備するだけでプレイヤーに何らかの《バフ効果》を与える装備アイテムのことだ。

 

レア度の高いものに至ってはスキルが付いていたりもするらしい。

 

そしてこのアクセサリー、入手方法がモンスタードロップか宝箱くらいしかなく、ショップに売っていたとしてもかなり高価なため入手が困難でもある。

 

「そんなスキルもあるんだ。……すごく気になる」

 

軽くスキルの説明をしてみたところ、思いのほか食いついてきた。

 

「サチ、そういうの好きだからな。よくブレスレットとか作ってたっけ」

 

ケイタの言葉に、サチは照れ笑いを浮かべながら頷く。

 

「なら、取りに行くか?」

 

「行きたい」

 

キリトの問いに、サチは即答した。

 

「じゃあ、朝ご飯食べてから行くか。他の皆はどうする?」

 

「俺たちは下層でレベル上げかな。ケイタの盾役の指導も兼ねて」

 

「分かった」

 

これからの方針が決まった俺たちは、宿屋を出た。

 

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【あとがき】

 

以上、三十八話でした。皆さん、如何でしたでしょうか?

 

今回は短いですね。

【ケイタが《盾役》にクラスチェンジしました】

【サチが《生産職》を目指しました】

 

今回で原作での《月夜の黒猫団》のお話は終わりです。

次回からは、強いて言うなら《サチの工芸スキル修得》編になります。

 

本作品の二大ヒロイン登場の予感です。

 

それでは皆さんまた次回!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《SAO〜黒紫の剣舞〜》もよろしくね!

 

説明
三十八話目更新です。

サチが失踪し、その本音を聞いた《月夜の黒猫団》。
彼らはどのような道を歩むのか。

コメントお待ちしています。
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コメント
ネフィー 様へ  そうなります。まあ、それだけじゃありませんがね……。(bambamboo)
そっか、サチは生産職行きか…。となると、アクセサリーを作ってプレイヤーへ販売して生活費を稼ぎつつ、黒猫団のメンバーの装備増強を補助するような形になるのでしょうか(ネフィリムフィストに戦慄走った)
本郷 刃 様へ  今のところはそうですね。ただ、後に《片手棍》から《片手剣》に変更する予定です。テツオが片手棍装備ですからね〜。(bambamboo)
サチは工芸職につくのですか、なるほど確かに合っていそうですね・・・ところでケイタの《棍》ですが、原作では両手棍でしたけどこれは《片手棍》への移行と考えればいいんでしょうか? そうすれば《片手棍》で盾装備が可能ですし。ともあれ次回も楽しみにしております♪(本郷 刃)
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