たとえ、世界を滅ぼしても 〜第4次聖杯戦争物語〜 紫銀追憶(理想宿命)
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時を少し遡ろう。

 

狂える騎士の忠誠を手に入れ、銀の英傑を想う前の記憶。

目覚める瞬間まで、彼が視ていた【夢】の話を。

未だ、名も知らぬ彼等の夢を。

その、運命の一欠片を。

 

もはや戻れぬ、生前の記憶。

さりとて、彼等の身を縛る、遠い思い出。

 

名誉ある戦い、理想と共に行く未来。

予想外の出会い、運命の流転に流される。

 

幸福の記録か、それとも不幸の序曲か。

絶望へ至る物語、その一幕を再び上げよう。

 

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深い深い水の底、沈んでいくような錯覚の中、何処かへ流れていくような気がした。

冷たいのではなく、苦しいのでもなく、ただ、ただ包み込まれるような―――――湖の底に。

 

現実の苦しみからの、一時的な解放。

優しい空間、まるで生まれる前に戻ったような、その落ち着き。

 

そんな中で、【夢】を、視た。

 

(幸せでした、私はあの頃幸せでした。忠誠を誓い、誇りを胸に、何物にも代えがたい理想を追いながら、たった一人の背中を守り続けたこの時を、忘れる事等出来ない。だからこそ、この心は今も嘆く。どうして私はあの時に――――――――何も出来なかったのだろう)

 

 

綺麗な、暖かい、夢と。

 

 

(悲しかった、いつだって俺は一人だった。信じてもらいたい相手は受け入れてくれず、届けたい声は拒絶される。願っている事なんてとても小さいモノで、それ以外に興味などなかったのに、どうして俺はあの時――――――――間違えてしまったのか。)

 

 

寂しくて、悲しい、夢を。

 

 

 

………観客は独りきり、理想との思い出と、報われぬ想い出を知る。

 

 

 

<SIDE/間桐雁夜> 〜邂逅別離〜

 

 

――――――ふと、眼を開けると、そこは広大な野原だった。

思わず息を呑む、その野原は、朝焼けの為か黄金に輝いているようにも見えた。

 

眠っていた筈の自分雁夜が、再び【夢】に誘われたのだと気付くのに、数分かかった。

それほどまでに、その光景は美しくて、とても心が揺さぶられたからだ。

 

 

…その中を、1人の男が進んでいた。

 

 

紫の髪、長い長い綺麗な髪。

その髪を束ねる事無く、その男は道を馬に乗って歩いていた。

深い彫りのある顔に、何処か憂いを帯びた表情。

 

即座に、雁夜はそれが、自分のサーヴァントの過去だと思った。

 

そして――――――――顔が分からない、自分のサーヴァントは1人だけ。

 

 

(バーサーカー…なのか?)

 

全く、狂戦士になど見えない男。

自らの傍に寄り添う、言葉を語れぬサーヴァント。

あの黒いフルプレートではなく、今は白と銀を用いた甲冑を身に着けている。

まさか、あの仮面の下があのような顔だったとは、分からなかったが……確かに、あれは自分のサーヴァントだと、何故か確信できた。

 

(此処は、何処だ?それにアイツは、何してるんだ?)

 

一体、何処に向かっているのだろうか。

この広大な野原を1人、何処に辿り着こうというのか?

ただ、ただその真っ直ぐな視線の先を追うように、雁夜は見つめる事しか出来なかった。

 

その時だ、騎士が向かおうとしている先に、何者かが現れたのは。

 

 

『■■■■■■、待ちわびたぞ。』

 

金色の髪、翡翠の瞳、白馬に乗った、凛々しい顔立ちの騎士が其処にいた。

その瞳には信頼の色を宿し、真剣な表情をしている。

視る者が見れば、その美しさにひれ伏しただろう。

その気高さに、頭を垂れて言葉をかけるだろう。

だが―――――――今の雁夜には、それよりもずっと重大な事があった。

 

(((セイバー|・・・・))……っ!?何故だ?何故此処にセイバーが現れる!?)

 

 

倉庫街の戦闘にいた、セイバーのサーヴァント。

あの少女騎士が、バーサーカーを出迎えていたのだ。

まるでそう、【親しい間柄】のように。

 

『はい、お待たせしてしまいましたか?王よ。』

『いいえ、貴方はいつも時間に正確だ。

おかげで私はその分も有意義に政務にとりかかれるのです。

では行きましょうか……貴方が来てくれれば、民を苦しめる野盗の集団等すぐにでも掃討出来ましょう。』

『……このような事は、全て我々に任せていただければよいのですが…』

『何を言うのです、このような事も王としての務めでしょう。

■■■■■■、私は――――――――この国の人々が、苦しむ事が我慢できないのです。』

 

真剣な表情で語りあう、少女と彼。

いや、この会話を聞く限り、もはや「親しい」という分類では分けられない。

そう、まるで。

 

(……ああ、そうか、そうだよな……お前は、■■・■■■■■■。

爺の持ってきた、聖遺物から分かってた事じゃないか……そうか、なら彼女を【王】と呼ぶのは当然だ。だって―――――――お前は、((アーサー王の騎士|・・・・・・))なんだから。)

確かに、一国の王と、それに忠誠を誓う騎士の姿だった。

 

 

『……分かりました、王よ。

ならば御身は、必ずや私がお守りいたします。

我が剣の名に懸けて、決して敵の弓矢も寄せ付けず、槍剣すらも切り裂きましょう。』

『ああ――――なら、安心です。

貴方の決して((刃毀れしない名剣|■■■■■■))によって守られるなら、傷等負わないでしょうから。

我が命を貴殿に預ける、彼等を率いて見事勝利を、頼みますよ■■■■■■。』

 

遠ざかる背中、2頭の馬は野原を過ぎていく。

そしてその先にあるのを見て、雁夜は瞳を見開き息を呑んだ。

 

(―――――――――っ凄い。)

 

それは―――――統制された騎士達の姿。

しっかりと隊列を組み、1人1人が瞳を猛らせ、下される命令を今か今かと待っている。

まさに、王の為の軍隊。

それを率いるのは…………ただ、1人。

『恐れるな、騎士達よ!民の敵を蹴散らすのだ!我らの王に、我らの誓いをみせるのだ!誇りを持って、今こそその剣を振るえ!我等の王に、アーサー王に勝利を!!!!!!!!!』

 

 

―――――――――勝利を!勝利を!勝利を!

 

声が響く。

草原に、騎士の声が響く。

かの無双の英雄、最強の騎士。

【彼】が、その声で他の騎士達を鼓舞するだけで、確かに士気は高まっていた。

その想いを全て【王】の為に、【彼】は捧げていたのだ。

 

ハッキリとした【信頼関係】。

これにより王と騎士は、お互いを信じ合い、その意志を確かにお互いに分かりあっていた。

その証拠に、【彼】を見守る【王】の眼は、確かに喜んでいるようにも見えるのだから。

 

 

(………けど、バーサーカーは…■■■■■■は…どうして。)

 

 

その時、雁夜はふと思った。

ならば何故――――――あの時、バーサーカーはセイバーに襲いかかったのだろう、と。

こんなにも信じ合っていたのに、あの時バーサーカーは本気でセイバーを殺そうとしていた。

分からない、しかし説明がつかないのだ。

 

(この、2人の【信頼関係】を壊す程の、【何か】が起こった…?)

 

それしか、思いつかない。

しかし、そもそも英雄の事を勉強していた訳でも無い雁夜では、■■■■■■の事を全て分かる訳が無いのだ。

もっと、もっと【彼】の事を知らなければ………【今の間桐雁夜】は、自分のサーヴァントを知らなすぎるのだから。

 

 

 

――――――――――■――ベ―――■ネア――――――――――――

 

 

ふと―――――――――――何かが、聞こえたような、気がした。

 

 

 

(う……ま、待ってくれっ!まだ何も分かってないんだ!だから…っ!!)

 

酷い眩暈がする。

何処かに引き寄せられる感覚。

思わず手を伸ばす。

必死に、誰かに掴んでほしくて。

 

その時……【彼】の、■■■■■■の剣が、視界に入った。

 

 

(ああ―――――あの剣、あの剣は………)

 

 

聞いた、確かに。

あの少女が言っていた、剣の名前。

決して((刃毀れしない名剣|■■■■■■))。

その名を調べれば、嫌でもすぐに分かるだろう、【彼】の過去。

そして、彼の真名と共に、歴史にその名を連ねたに違いない、その剣は。

 

まるで―――――――――――澄んだ湖の水面のように、美しく輝いていた。

 

 

 

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――――――ふと、次に眼を開けると、そこは深い森の中だった。

緑が美しく、木々の木漏れ日が優しいこの森は、確かに見覚えのあるものだった。

(……バーサーカーは、草原…なら次は……ドラグーンなのか。)

ふっ、と雁夜は以前視た【夢】を思い出す。

独りで震えながら、夜の闇に消えていった少年の姿を。

今も、この夢の何処かで苦しんでいるのだろうかと、周囲を見渡す。

 

『■■■■!■■■■!何故だ、何故今すぐに邪龍を殺しに行かない!?儂はその為に【その剣】をお前に与えたのだ!!今すぐにあの邪龍を退治するのだ!!』

『――――父上、約束通り邪龍は倒します。

しかし、その前にどうか、本当の父の仇を討たせてください!母上の力になりたいのです!どうか、俺を行かせてください!!!!!!!!』

(っ!?な、何だ!?)

 

その時、凄まじい怒号が響いた。

そして、それに被さる様に、凛とした声が響く。

恐ろしい程の怒鳴り声、上げたものの怒りを感じる声。

必死な声、確かな意思を込めた、決して折れぬという強い声。

その双方に怯みながらも、雁夜はその先に視線を向ける。

 

そこに、【彼】が、ドラグーンがいた。

 

必死な表情で、目の前で怒りを露わにしている男を宥めながら懇願する姿は、雁夜には意外に思えた。

あの冷静沈着といった男が、あれほどまでに動揺している姿は、何故か違和感を感じた。

 

(…本当に、ドラグーンなのか?まるで、別人のような…)

そう訝しむ雁夜を置いて、目の前の彼等の会話が続く。

 

 

『貴様…育ててやった恩も忘れて己の都合を叶えるつもりか!?どうせ逃げるつもりだろう!邪龍を殺すのも最初は嫌がっていた貴様が、大人しく戻って来るものか!』

『違う!そんな事はしません父上!!必ず戻ってきます…邪龍もこの手で殺します!だからどうか、行かせてください!!』

『…ふんっ!いいだろう…そこまで言うのならば、貴様の叔父に会っていくがいい。

 奴は、他者の運命を知る事が出来る力を持っている、その力を借りて【仇を殺せるか】聞きに行け!そうすれば、奴から貴様が向かった言質が取れる…逃げる事など出来ぬのだと、その頭に叩き込んでいくがいい!いいか、仇を取ったらすぐに戻ってくるのだ!そうしてそのまま邪龍を殺しにいけ!いいな!!!!!』

『あ、ありがとうございます…!』

バタンッ!と音を立てて小屋に入っていく男の姿を、【彼】は静かに見つめると、そのまま頭を下げて踵を返した。

自然と――――――――後ろから見ていた雁夜と、向かい合うような形になった。

 

(あ…)

 

その穹色の眼を視て、雁夜は少し気まずくなった。

相手は分からないのだと思いながらも、堂々と視ているのも申し訳なくなったのだ。

けれど、そのまま脇を通って行く【彼】に動けないまま止まっていると―――――――

 

 

 

『………どうして、信じてくれないのですか?』

 

そんな、声が、聞こえた。

 

 

(え…?っ、え!?何だこれっ!?)

 

その言葉に、何かが引っかかった気がして、雁夜が思わずその姿を振り返ると。

 

 

 

――――場面が、変わっていた――――

 

 

深い森から、突然離れた一軒家の前に。

そして、その振り返った視線の先には、茶髪の少し疲れたような感じのする男性が1人佇んでいた。

いつの間にか、雁夜と【彼】は別の場所に移動していたのだ。

いや……これは雁夜が、【彼】の記憶を移動しただけなのだろう。

 

いうなれば、これは【夢物語】

延々と歩いてる姿を見せる訳にもいかないから、省略されてしまったのかもしれない。

そもそも……必要な所しか、見せるつもりが無いのかもしれないが。

 

『――なんと、お前が私の甥だと?』

『はい、養父に貴方に会っていくようにと言われ、貴方の力を借りるようにと教えられました。

どうか、俺に道を示してくれませんか?父上の仇を討てるのかを教えてください。

出来ぬというのならばその理由も、お願いです、母上の力になりたいのです。』

『ああ………なんと、いう事だ…このような、このような事が…』

『?…叔父上、どうか、したのですか…?』

(…なんだ、様子が…おかしい…まさか…止めてくれ、言わないでやってくれ、そんな顔をするのなら、きっと【ろくでも無い事】なんだろ…?コイツは敵討ちに行くだけじゃないか、だから、だから言わないでやってくれよ…!)

 

【彼】が言葉を紡いでいる間にも、叔父という立場の男の表情が見る見るうちに悲痛なモノに変わっていた。

まるで憐れむような、まるで悍ましいモノを見るような、そんな顔。

雁夜は、嫌な予感がした。

聞いてはいけないような、そんな気がして。

戸惑っている【彼】が、とてつもない苦痛を背負ってしまうような気がした。

 

 

しかし―――――――

 

 

『ならば、我が【人の運命を見通す力】を持って、その問いに答えよう。

―――――――お前は見事父の仇を討ち、敵を倒すだろう。

その戦いはまさに戦神の如し、多くの戦士がお前を恐れ、お前に焦がれるだろう。

しかし、お前は自らの肉親、そして愛する者と共には生きられぬ運命にある。

お前の母たる女は、決してお前を受け入れる事は出来ない。

そして、養父と邪龍をお前は無情に斬り捨て、その手で殺すだろう。

気高き乙女と愛し合う事も出来るだろうが……お前は、愛する乙女と添い遂げる事は叶わない。

それどころか、自らの手で愛する乙女を、【女としての地獄】へと突き落とす事になる。

その結果、お前が義兄弟と認めた男に―――――――――そして、お前が唯一認めた騎士に、殺される事になるだろう。』

『な…』

 

――――――――――その((言葉|予言))は、言い放たれた。

 

紡がれた言葉に、【彼】の瞳が見開かれた。

言われた言葉が理解できなかったのか、呆然とその場に立ち尽くす。

 

【多くの人を不幸にして、誰にも顧みられることなく、殺される運命】

それが、【彼】に与えられた人生だと、叔父はそう言ったのだから。

 

しかし、だからこそ、叔父でもある人は言ったのだろう。

これが最初で最後の好機であり、そして選択の時だと。

 

 

『ああ、お前の運命は残酷だ。

お前を中心にした全ての恋の喜びは、やがて全ての悲しみへと変わるだろう。

お前がその苦しみから逃れたいと願うなら、今ここで、全てを捨てて逃げ出してしまえばいい。

養父の元にも戻らず、母親の元に向かわず、1人で世界へ旅立てばいい。

そうすれば―――――――――お前は決して、この先の絶望を知る事は無く、その最期を迎える事も無いだろう。』

 

その運命は過酷であり、決して幸福へは至れないと。

どんな形であっても、その終わりは悲劇として訪れると。

逃げても良いのだと、叔父は言った。

受け入れなくてもよいと、男は言った。

 

それを、【彼】は静かに笑みを返して、こう言った。

 

 

『………たとえ、それが運命だったとしても、選ぶのは俺だから。

どんな形でも、どんな終わりでも、きっと覆せると信じている。

それに――――――――俺は、この先の未来を、信じたいんだ。』

 

静かな微笑みを浮かべて、【彼】は教えてくれた事に礼を述べ、そのまま逃げないと言ったのだ。

男に背を向けて、【彼】は立ち去る。

その後ろ姿を見ながら、男は悲しそうに眼を細めた。

ほんの僅か、引き留めようと伸ばされた手は、届く事は無く。

真っ直ぐなその視線、遠い道を歩み出した青年に、叔父は何を見出したのか。

 

『ああ、ならばせめて、■■■■……お前の終わりが、穏やかなモノであらんことを、祈ろう。』

 

一滴の涙を流し、遠ざかる背中に向かって紡がれた声は――――ただひたすらに悲しかった。

 

 

 

 

――――場面が、変わる――――

 

 

(……………此処は…?)

 

煌びやかな宮殿。

美しい装飾品。

 

『いやいや!■■■■殿は素晴らしい!流石はかの王の息子であらせられる!!』

『ああ、父君の仇を1人残らず皆殺しとは!素晴らしい武勲だ!!きっと天で父君もお喜びされているでしょうなぁ!!!』

『全く羨ましい限りですな、此度の戦での貴殿はまさに「英雄」だ!あの敵国もこれで滅びるでしょう……いやぁ、めでたい!』

『…………そう、ですか…ありがとうございます。』

 

貴族、といえばいいのだろうか?その煌びやかな人々の中で、戸惑ったように浮いている【彼】が、いた。

【彼】を取り巻く者達は、愛想笑いと分かる類の笑みを浮かべながら、しきりにその戦功を口にしていた。

その光景に、雁夜は眉を顰めた。

あの様子を見る限り、【彼】が嫌がっているのは分かりきっていたからだ。

それを、あんな形で囃し立てるなんて、明らかに【悪意】を感じざるを得ない光景だった。

しかし、【彼】はそれをどこか上の空で聞いているようだった。

しきりに何かを気にしているようで、よそよそしい感じでそこに1人で立っていた。

 

『■■■■殿』

『っ!ああ―――――どうなのでしょうか、王妃に、謁見はさせてもらえるのでしょうか!?』

 

その時、後ろから語り掛けてきた白髪の執事に、【彼】は顔色を変えて語り掛けた。

その言葉に、

 

(……そうか、そうだよな、母親に会いたいのは、当たり前だよな…)

 

 

 

<とうさま、かあさま……ぼくは、すてられたの…?>

 

 

以前の夢、最後の悲痛な声が思い出される。

この【夢】を視る限り、【彼】の父親は殺されていたが、母親はまだ生きているのだ。

なら、当然自らの事を知って、逢ってほしいと、そう望んだとしてもおかしくはないのだから。

 

しかし――――――

 

『申し訳ございませんが…王妃は、貴方様にお会いしたくないと、仰せなのです。』

『ど…どうしてっ!?俺はあの方の為に、敵国との戦に参加したのにっ!!』

『…どうか、ご容赦を…此度の戦における褒賞は、すぐにでもご用意するとの事ですので。』

『そんなものいらないっ!だから、だからどうか謁見させてほしい!頼む!!!』

『――――――お引き取りくださいませ、王妃は、【貴方に会いたくない】のです。』

『っわ、分かりました…失礼します。』

 

――――――――その要望は、叶わなかった。

理由は分からずじまい、幾ら言っても聞き入れてもらえず。

【彼】は、やむなくその場を立ち去るしか、出来なかったのだ。

 

 

 

 

『もう、これしか……方法は、無い。』

 

 

 

 

…………だから、何とか話をしたくて無理をして会いに行ったのだろう。

ただ、一度でいいから、自分の名前を呼んでほしかっただけの、その行動を誰が責める事が出来る?

 

【母親に、会いたい】

 

その、幼かった子供の心の、一欠片の祈りを、誰が否定する事が出来ただろうか。

 

雁夜は、その後ろをまるで幽霊のようについて行くしか出来なかった。

そうする事が、役割なのだというかのように、ただ見ているしか出来ない。

そうして、恐らく王妃の部屋の前であろう場所に近付いてきた時に―――――――

 

『王妃、彼の者は貴女様の息子…■■■の元へ帰らせず、このまま王宮にとどめる事こそが国の為…』

『嫌じゃ!信じられぬ…あ、あのような戦をするなど、あれでは獣当然ではないか!?あのような、あのようなモノなど……っ!』

『王妃!国の為、しいては陛下の為ですぞ!あの戦力を無駄に手放す等、愚の骨頂ではありませぬか!ましてや前王の忘れ形見でございましょう!?』

 

――――――その声が、ハッキリしだした時に、間桐雁夜は確信した。

 

「聞かせては、いけない」と。

 

 

(っ止めろ…ドラグーン止めろ!聞くな!聞いたら駄目だ!戻れっ!!)

 

雁夜は必死に【彼】に叫ぶ。

だが声は届かない、もはや終わってしまった過去でしかない【ソレ】は――――――――――終わるまで流れ続ける映画と、何一つ変わらないのだから。

 

 

 

『違う!あのような((怪物|バケモノ))わらわの息子ではない!!あれこそは、まことの【穢れた血】の生み出した者ぞ!!

ましてや、戦場で敵を片っ端から皆殺しにし、その血で笑うような者の【親】なのだと認めぬぞ、認めてしまったら…っ!

わらわは―――――――――自分の腹から!【あの((怪物|バケモノ))を出した】ということになるではないかっ!!!』

 

 

…聞いて、しまった。

【彼】は、聞こえてしまったのだ。

扉に手を伸ばした時に、その会話が聞こえてしまった。

自分を利用しろという家臣の声と、それを、否定する王妃の声を。

 

 

父の仇を討つ為に、遠い祖国へやってきて、そして母に息子として逢いに来た【彼】は。

 

 

『…………はは、うえ……あ…ああああああああああああああああああああああああああああああああああ…っ!!』

 

 

その想いを告げる事すら赦されず、失意の底で、自らの生まれた国を去る事となったのだ――――――――――

 

 

-4ページ-

 

……こうして、間桐雁夜は目覚めたその時、彼等を【知らぬ己】に怒りを抱いた。

そして、その結末がどうなるのかを、直感で悟り、【その結末】へ悲哀を抱いた。

報われぬ運命は、偉大な功績を遺した者ほど、大きな形となり降りかかるのだと、彼は気付いた。

 

されど、いまだ知らぬ深淵の底。

 

深い水面の底には、底知れぬモノが眠っている。

事前に知らねば、危険なほどに深い【闇】。

どうか気付いてほしい、その痛みを。

どうか分かってほしい、その苦しみを。

それが彼等の【狂気】であり、【絶望】なのだと。

 

この世で何よりも恐ろしいものは―――――――【神や怪物等ではない】のだから。

 

 

NEXT

-5ページ-

【後書き】

 

さて、おじさんが2回目に視た夢の内容でした。

【従者】の昔話、余りにも相反するバーサーカーとドラグーンの過去。

バーサーカーの方がマシじゃない?とか受け取る人もいるかもしれませんが…

今回の話、考えようによっては、

【最初から何もない人と、後から失う人】のはどちらがよりつらいでしょうか?

という内容、冷静に考えると、中々キツイと思います。

 

それでは、ここまでの閲覧どうもありがとうございました!

今回のBGMは、【legend(Fate/hollowat araxia)】でした。

 

※皆様の感想・批評お待ちしております。

説明
※注意

こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。


今回は完全に作者のオリジナル設定です、オリジナルなんて見れぬ!
という方は無理をせずUターンをお願いいたします。m(__)m
それでも見てやろう!という心優しい方は、どうぞ閲覧してくださいませ。
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