【南の島の雪女】風呂と雪女とカムロー
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【登場人物】

 

白雪 … 沖縄に来た雪女。風乃と一緒に暮らしている。気が強くて、突っ込み役。

 

風乃 … 白雪と一緒に暮らしている高校生の女の子。ボケ役。

 

かむろー … 水の妖怪。小さな子供で無邪気。水のある場所にあらわれる。

 

 

【一緒にお風呂に入ろう】

 

白雪が部屋でくつろいでいると、突然、ドアがバタンと開く。

 

「白雪! 一緒にお風呂に入ろう!」

 

「え?

 …おいおい! 風乃! なんだその恰好は!」

 

「なんだその恰好は、って?

 裸だよ、ハダカ」

 

「平然と裸とか言うな! ここは風呂場じゃないぞ! おかしいだろ!

 目の毒だから、さっさと服を着ろ、恥ずかしい!」

 

「もう、白雪ってば、目をそらさないでよ。恥ずかしがらないでよ。

 私たち女の子同士じゃない!」

 

「うるさい、早く服を着ろ!

 お前と風呂に入るのは、それからだ!」

 

「…あれ? 結局、風呂に入ってくれるの?」

 

 

【風呂場にて】

 

「ひゃあああ!? つめたい! つめたう!

 ちべたいいいい!」

 

むき出しの裸身に、冷たいシャワーを一気に浴びて、奇声を発する風乃。

 

「はっはっは…。

 雪女が、温かい風呂に入るとでも思ってるのか?

 バカめ。

 雪女の風呂と言えば、冷たいシャワーに、

 湯船ではなく冷船(ひえぶね)だ」

 

「寒い寒い寒い…

 あっついシャワーを浴びさせてよぉ…」

 

「ほら、熱いシャワーだぞ」

 

白雪は、お湯の蛇口をたっぷりとひねる。

 

「ぎゃあああああ! あっつぅい!」

 

「はっはっは、熱いだろう」

 

「もう! 白雪のバカ! 人間が耐えられる熱さにしてよ!」

 

「嫌だ。

 ほら、あっちの湯船は空いてるから、

 お湯につかればいいじゃんよ」

 

「えー。湯船は空っぽだよ。水なんて入れたことないし…。

 というか、湯船自体、使ったことないから」

 

「はぁ? 湯船を使ったことないのか、お前」

 

「うん。風呂はシャワーばかり浴びてる。

 っていうか、沖縄ではそんなに湯船を使わないよ」

 

沖縄の温暖な気候のためか、湯船にお湯をためず、シャワーを使う人が多いという。

 

「何ぃ? お前、シャワーしか使ってないのか!

 湯で満たさなくて、何のための湯船だ。けしからん!」

 

「…雪女がそれを言う?」

 

 

【風乃、はじめての湯船】

 

湯船には、たっぷりの湯がたまっている。

シャワーを使って、お湯を入れたからだ。

風乃はシャワーをにぎり、一息つく。

 

「ふぅ。ようやく湯船に湯がたまったね。

 湯が溜まるのって、時間かかるんだぁ…」

 

「おい、早くシャワーを返せ。俺に冷水浴びさせろ」

 

「もう、白雪はせっかちさんだなぁ。ほんの30分程度、待っただけじゃない」

 

「30分は長いわい!」

 

「さーて、湯船に飛び込んじゃおうっと!」

 

風乃は、飛び込みのポーズをとる。湯船に飛び込む気まんまんだ。

 

「えい、とう!」

 

軽くジャンプし、頭から飛び込む。湯船に。

シャワーしか浴びたことがないから、湯船の正しい入り方がわからないのだ。

 

「かむろー」

 

突然のことだった。

風乃の目の前に、黒い影があらわれる。

「かむろー」という気の抜けた声とともに。

 

「ぷごふっ」

 

風乃は、かむろーと激突した。

風乃は湯船から弾かれ、風呂場の床にすってんころりん。後頭部をぶつけた。

目をぐるぐる回して、ばったりと倒れる。

 

「おい、風乃! 大丈夫か! 頭をぶつけたが、脳みそは無事か!?

 あ、コイツに脳みそは無いか…」

 

ひどいことを言いながら、白雪が風乃を助け起こす。

 

「うわーい、お湯だぁ、お湯だぁ、うへへへへ」

 

風乃は、目をくるくる回しながら、湯船に浸かっているようだ。妄想の中で。

 

 

【かむろー登場】

 

湯船から突然あらわれた影は、裸の子供だった。

倒れた風乃に、話しかける子供。

 

かむろー

「お姉ちゃん、だいじょうぶ? 頭うったよ?」

 

風乃

「大丈夫なわけないでしょ! お前のせいです! 名を名乗れい!」

 

かむろー

「かむろーと言います」

 

風乃

「かむろー?」

 

白雪

「…こいつ、人間じゃないな」

 

白雪は、かむろーが人間でないことを察知し、にらみつける。全裸で。

 

かむろー

「うん。かむろーは人間じゃないよ。妖怪だよ。

 水の妖怪」

 

白雪

「やはりな。妖怪だと思ったぜ」

 

かむろー

「むかしむかし、かむろーは、井戸の中に人間をひきずりこんでたんだけど、

 今は井戸がないから、お風呂の中に出てくるようになったのです」

 

白雪

「…今、さらりと恐ろしいことを言ったな」

 

かむろー

「えへへ」

 

白雪

「で? お前、何しに来た。まさか、風乃をひきずりこみに来たか?」

 

風乃

「なっ、何を言ってるの、白雪!

 怖いこと言わないでよ」

 

白雪

「風乃の1人や2人くらい、別にひきずりこんでもいいぞ」

 

風乃

「ひどいょ白雪!」

 

 

【かむろーと水遊び】

 

かむろー

「今日は、ひきずりこみに来たんじゃないよ。

 お姉ちゃんたちと遊びたいから、出てきたの」

 

白雪

「『今日は』ってなんだ! 『今日は』って!

 …まあいい。俺は風呂に入りたいんだ。

 遊んでるヒマなんかない」

 

かむろー

「水鉄砲ぴゅー」

 

かむろーは、指を鉄砲のように使って、水をぴゅー、と飛ばす。

 

白雪

「おわっ!? こ、こら、やめろ!」

 

白雪の顔にお湯がかかる。

たまらず、顔を手で覆う白雪。

 

白雪

「こら! 俺は湯が苦手なんだよ!

 湯をかけるな!」

 

かむろー

「お湯が苦手なの? お姉ちゃん」

 

風乃

「そっちのお姉ちゃんはねぇ、雪女さんなんだよ。

 だから、あっつーいお湯は苦手なんだって」

 

かむろー

「雪女!? 本当に!?」

 

かむろーは、湯船から出て、白雪に近づく。

興味しんしんで、白雪をじっと見る。

 

かむろー

「じーっ…」

 

白雪

「どうだ、びっくりしただろう? 沖縄に雪女だなんて」

 

かむろーの興味深そうな視線に、なんとなく気分をよくする白雪。

 

かむろー

「えい」

 

かむろーの手が、白雪のお腹にふれる。

 

白雪

「おわっ!?」

 

かむろー

「お腹つめたーい! すごーい!」

 

白雪

「こら、勝手に体をさわるな!」

 

かむろー

「ごめんなさい…でも、雪女だっていうのは本当だったんだね。

 すごく肌が冷たいし」

 

風乃

「うわー、白雪の腕つめたーい」

 

風乃は、白雪の腕をつかんで、さらさらと触る。

 

白雪

「おい、どさくさにまぎれてお前も触るんじゃない…」

 

 

【かむろーとさよなら】

 

白雪

「さて、そろそろ風呂から出るぞ」

 

風乃

「私も出るー!」

 

かむろー

「えー、もう帰っちゃうの? お姉ちゃんたち」

 

かむろーは、不満そうな顔をしている。

まだ遊び足りないようだ。

 

白雪

「お前も風呂から出ればいいだろう?」

 

かむろー

「かむろーは、水のあるとこでしか動けないから、

 お風呂からは出られないの」

 

白雪

「そうか。じゃあ、風呂以外では会えないのか」

 

かむろー

「海とか川とかプールなら、かむろーと会えるよ。水があるから」

 

風乃

「じゃあトイレでまた会おう! 水あるし!」

 

かむろー

「トイレは…水があるけど…ちょっと、嫌だなぁ…。臭そうだし」

 

かむろーは困った顔で答えた。

 

 

< おわり >

 

 

【あとがき】

沖縄の人はシャワーしか使わないって言いますけど、どうなんでしょう。

少なくとも、私の家族はみんな、風呂はシャワーしか使っておりません。

習慣的なものもあるかもしれません。

 

本来カムローは、井戸にあらわれる妖怪なのですが、

現代だと井戸はそうそう見られないので、風呂場に出現する、

という感じにしました。

 

今後登場させるとしたら、プールとかに出したいですね。

 

おわり。

 

説明
雪の降らない沖縄県で、雪女が活躍するコメディ作品。
南の島の雪女、第9話です。(基本、1話完結)
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タグ
南の島の雪女 沖縄 雪女 コメディ 

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