外史異聞伝〜ニャン姫が行く〜 第一篇第一節
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第一篇第一節 【あるところに猫外史がありましたとさのこと】

 

 

 

 大きく開けた空間の先を見据え、先頭を歩くのは、きれいな毛並みの黒猫アイシャ。

 

「ご主人様、この奥から殺気を感じますニャ」

 

 彼女は、警戒を緩めることなく、後続に続く主と仲間たちに注意を促す。

 

 彼女らが辺りを警戒しながら進んでいるのは、霊山の斜面に大きく口を開けた洞窟を塞ぐように作られた朱色に塗上げられた寺院の中。

 

 洞窟をそのまま利用しているのか、ゴツゴツとした岩肌の壁が見受けられる。大きな空間が広がっているようだが、日の光が射し込むこともなく全体を見渡すことはできない。

 

 点々と焚かれている篝火はあるが、薄暗く頼りない。そればかりか、どこかひんやりとした肌寒さを感じさせ、不安と畏れを抱かせるには十分な雰囲気を醸し出している。

 

 しばらく進むと、終着地であろう石の扉が炎の明かりに揺らめきながら、その姿を浮かび上がらせている。

 

「この中か…」

 

 緊張から零れ出たカズトの独り言が、彼女たちに緊張を伝播する。

 学園の博物館から銅鏡を盗んだ賊を阻むも、銅鏡を割り、異世界と呼べるこの世界に迷い込み天の白猫としての役割を与えられた北郷一刀ことカズト。

 

 この世界に来て、関羽ことアイシャと張飛ことリンリンに助けられたこと。

 

 劉備の役割に自分が当てられ、三國志の英桀である曹操ことカリンや孫権ことレンファ達と((鎬|シノギ))を削り、語りあったこと。

 

 しかし、統一を目前に白衣を纏った管理者を名乗る者たちによるこの世界の否定。そして、始まる世界の消滅に抗う自分たち。

 

 彼は、目を閉じ、微笑みをその顔に浮かべる。

 

「…」

 

 そこには、不安や恐れなどの負の感情はない。

 

 その激動の中を共に歩んだ仲間達のことを思い描き、胸に熱いモノが込み上げてくるカズト。その経験と仲間たちが、彼の自信であり、誇りであり、原動力となっている。

 

 ただ、身体が雄猫になっていたり、三国志の登場人物のほとんどが雌猫になっていたりと未だに謎が多いが…

 

 たまに煮干しを手土産にやってくる黒髪の人間の女の子と話せればと何度となく試みていたが、如何せん猫の身では意思疎通もままならず。彼女にモフモフとされるがままとなっていた身としては、為す術がなかったことが、カズトとしては情けない限りである。

 

「ほう、どこからそんな余裕が出てくるのやら」

 

 カズトの思考を遮るように、物腰の柔らかそうな雄の声が何処らともなく話しかけてくる。そして、その声に反応するように石の扉が地を揺らし、その身を削る音を立てながら開いていく。

 

 ドゴゴゴ

 

「はにゃニャ!?」

 

「お兄ちゃん!白衣の奴らなのニャ!」

 

 薄黄金色のシュリはさりげなくカズトの腕を取り、赤虎のリンリンが扉の奥を指差す。そこに猫の身からすると大きな銅鏡と白い外套のような物を羽織った二匹の猫が、祭壇の上からカズトたちを見下ろしている。

 

「お待ちしておりましたよ、天の御使い北郷一刀。それにしても、この様な外史が存在しようとは…」

 

 話し掛けてきた眼鏡をかけた銀黒猫と、その後ろに今にも飛び出しそうと毛を逆立てた金と銀の虎柄猫がいる。

 

 管理者を名乗る彼らは、この外史という世界を否定し、その発端たる北郷一刀と外史の消滅を目的とする存在。それは、同じ管理者を名乗り、外史の肯定派に所属するバケ…もとい貂蝉が、カズトに語ったこの外史と呼ばれる世界の理。

 

(…正直あの時は喰われるとかと思った…いろんな意味で…。だって、ピンク鬣を三つ編みにした雄ライオンが、筋肉質な巨体と大きなブツを押し付けてくるんだぞ!想像できるか!)

 

 そんなカズトの心の叫びは、誰にも届くことはない。

 

「于吉…無駄話しはいらん!」

 

「はいはい、わかりましたよ。左慈」

 

 銅鏡を盗んだ賊である左慈の言葉にヤレヤレといった風に肩を竦める于吉は、手で印を作ると声とも言えない音を発する。

 

“転”

 

「ニャっ!?」

 

 カズト達の周りの空間が、渦を巻く様に歪みだす。

 

 アイシャ達は、各々武器を構え、様子を伺うことしかできない。そして、歪んだ空間が解けていく。

 

「カリン!レンファ!」

 

 そこには、黄金色の毛並みの猫<カリン>、桃色の毛と澄んだブルーの瞳の猫<レンファ>と魏・呉の主立った者たちが姿を現す。

 

「ニャ!?カズト!」

 

「…」

 

 慌てた様に声をあげるレンファの 前にシシュンが立ち左慈たちを見据える。

 

「あなたたちは先に行ったはずじゃあ…?」

 

 大きな鎌を油断なく構えなおすカリン。

 

 他の者たちも突然のことに驚きを浮かべていた表情が、すぐに絶対零度の微笑みへと豹変する。

 

(アレぇ何だろ?この場違いな嫌な予感は?)

 

 カズトの予感と併せて背中に冷たい汗が流れる。

 

「ねぇシュリ?この緊急事態にその手は何かしら?」

 

「…ずるいニャ」

 

「…」

 

 カリンの冷たい声とレンファの凍てつく視線が突き刺さる。シュリは何も語らずその腕を放すことはない。

 

「ほほぉ、シュリよ。油断も隙もないとは、このことかニャ」

 

 アイシャの怒気にシュリが一瞬震え上がるが、さらに身体を引き寄せる。

 

 あのアイシャさん、敵前なんですが…と言おうとするカズトにキッと鋭い刃のような視線を突き刺さし、黙らせる。

 

「人形風情がふッ」

 

「「「黙れニャ!!」」」

 

 彼女達から無視され、声を荒げた左慈が飛び出そうとした瞬間、恋姫達の怒気を含んだ重たい声に途轍もない圧力を感じ、身体を止める。

 

「…さて、カズト。この状況を説明してくれないかしら?何故、シュリが貴方の腕を取っているのかをね」

 

 目線だけでネズミを殺せそうな視線をするカリンは、カズトに照準を変更する。

 

「…」

 

 レンファも瞳の端に涙を溜め、頬を膨らませながら睨んでくる。その表情に、可愛いなぁと思うカズトであるが、それが現実逃避でしかないのは明らかである。

 

「「「ご主人様(兄ちゃん)(カズトさん)(北郷)!!」」」

 

 案の定、嫉妬したアイシャ達がこれでもかと顔近づけてくる。まあ、薄荷色の猫のセイだけは、笑いを堪えるのに忙しそうであるが…

 

「ふっぬううう!あらん?さすが私のご主人様ん♪こんな時でもモテモテねぇ♪」

 

 ピンクの鬣を三つ編みに結い上げ、その力強さを示すように盛り上がった筋肉を盛り上げながら、勢いよく暗がりから姿を現す貂蝉。

 

「貂蝉!どうやって!」

 

 突然姿を表した貂蝉に警戒する于吉。

 

「それはねん♪于吉ちゃんが、構築した私用の結界をご主人様への愛を下半身に集めて、一撃でぶち壊してからん♪正面から堂々と入ってきたわよん♪」

 

 貂蝉は、ふふんと((しな|・・))を付け、筋肉を盛り上がる二足歩行のライオン。どんな愛なのかは置いておくとして、結界に阻まれて今まで様子を見せられなかったようだ。

 

「まあ、彼女たちはどうでも良いみたいだけれど」

 

 貂蝉は、流し見るように自分のご主人様に目を遣る。

 

 そこには、世界の消滅が目前に迫っているのにも係わらず、いつも道りのカズトたち。

 

「ガァ!!…このくだらない外史をお前らごとぶち壊してくれる!!」

 

 自分の存在をここまで蔑ろにする態度に憤怒した左慈が雄叫びの様な声をあげると、背後にある銅鏡を割ろうと振り返る。

 

「なっ!…左じッ」

 

 カッ!!

 

 左慈の突然の行動を止めようとした于吉が言葉を発したその時、銅鏡が自身を護るようにまばゆい光を放つ。

 

「ツァ!!」

 

 左慈は、あまりの眩しさに目を閉じ、殴りかかろうとした腕で目を覆う。

 

「な、何が!?」

 

 于吉は驚きの声をあげる。その様子から想定外の事態なのだろう身体を硬直させている。

 

『…

 

 …

 

 この身は、外史への扉…』

 

 空間を震わせるように意思が響き渡る。

 

「主、これは!?」

 

 先程まで笑いを堪えていたセイが驚きの声をあげる。

 

「わからない!もしかして外史の消滅!?」

 

 目を開くことのできないカズトには、状況に理解が追いつかず、どうすることもできない。

『…

 

 …

 

 そして、北郷一刀が発端…』

 

「つっあ!?」

 

 更に光が増し、目を閉じていても痛くなる程の光に思わず声を漏らすカズト。

 

『…

 

 …

 

 さあ、新たに創られし外史へ…』

 

 外史の全てが、光り出す。

 

「なっ、これは!ご主人様、これは正史からのッ」

 

 貂蝉が何かを叫ぼうとした言葉と共に、世界という枠を埋め尽くす様に白く染め上げられていく。

 

 

 

つづく

 

説明
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猫外史 恋姫†無双 ニャン オリキャラ 左慈 于吉 一刀 

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