同人用原稿『ポーカフェイス』
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ショウダウン(Showdown)

意味:ハンドの終わりに残っているプレイヤーすべてがホールカードを開いて誰が勝者かを決定するプロセス。

もし誰かがベットして、だれもコールしなかった場合に はショウダウンはない。

例えば、「ショウダウンで勝つにはベストハンドを持っていなくてはならない」

あるいは「ショウダウンのあと、チップを集めて席を 立った」というような使い方をする。

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【街】

この店も釘閉めてやがんな……。

正明「千円で8回転で何で”海に力入れてます”で」

くっそウケる。笑えねえ。

かと言ってスロットに逃げるなんて簡単な話しにはなるまい。

スロイベントはガチで掴んで動かないとまず勝てないしねー。

正明「うーん、面倒くせーな」

それでも勝ったんですから良いんですけどね。

今日はプラス7000円。

今月パチンコはトータル19万5000円プラスで、麻雀がマイナス20000円で17万5000円勝ち……か。

……どこのフリーターやねん。

正明「チッ……………」

17万5000円勝ち。

移動を含めると稼働時間160時間で………17万5000円勝ち。

175,000÷160=…………

シャキーン! シャキーン! シャキーン!

時給1093.75円

正明「ああああああああ! ペース悪い!」

チッ。チッ。チッ。チッ。チッ。チッ。チッ。チッ!

舌打ちしすぎてまるで時計の針を演出しているようになってしまっている。

ペース悪い! やっぱりイベント情報収集して朝からスロ並ぶしか……いやいや、最近は設定6座っても運ゲーならやはりここは回転数頼りのパチンコを……!

prrrrrrrrrrrrrrrrrrr。

正明「お」

"仲間用の携帯"が鳴る。

今の時代高校生といえど、携帯二台持ち自体は珍しくは無い。

大体周りは不倫対策も兼ねて恋人用とプライベート用で持つが、俺は”プライベート用”と”仲間用”で携帯を別けている。

『発信者:JAN』

ポケットから携帯を取り出し、ディスプレイに映る相手を確認する。

正明「じゃじゃーん。ジャンでしたー!」

この時間にジャンから誘いの電話が来る、ってことは麻雀か。

prrrrrrrr、

正明「……」

……ジャン、か。

勝率が低い勝負をするのは……いや、しかしジャンからの誘いを逃げるのも、

正明「……」

prrrrrrrr、

今はペースが時給1093.75円。

勝率云々の前にペースが悪い今は何よりも"場"が欲しい。

prrrrrrrr、

正明「……っ!」

やってやんよ!

ピ、

斬『もしも……』

正明「おらあああ! 誰がジャンにビビるって!?」

斬『うあ……荒れてるね」

うっせ。

斬『マサ、パチンコ?」

正明「今終わった」

斬「そうなん。プラス?」

正明「おらあ!」

斬「あー、……養分お疲れさま」

7000プラスだこの野郎!

斬「……とか言って、本当はまた勝ったんだろ?」

正明「……」

斬「毎度思うけどパチンコで勝ち続けるって凄いよな」

付き合いが長いとこういうやりとりも見破られるようになる。

正明「言っておくがジャンはパチンコ向いてねーよ。対人のゲームの方がセンスあるぞ」

斬「はは、ありがと。じゃあ対人ゲームの代表である麻雀行こうよ」

出たな、”イッツーのジャン”。

正明「面子は?」

斬「恭介と、もう一人新しい人が空いてるみたい」

正明「なるほど……」

斬「うん」

正明「……」

カモか。

こいつ俺がペース悪いのまで把握してカモをセッティングしてくれたんじゃ……いや、それは考え過ぎか。

斬「あはは、なんならコンビ打ちして確実にまわしても良いよ」

正明「……」

……うわ、俺すっげー気を遣われてる!

正明「ジャン」

斬「なに?」

く……白々しいさにイラつきを超えてニヤニヤしてくるぜ!

正明「かかってくるが良い!」

斬「……」

うわー、道行く女子高生の皆さん、アニメ台詞っぽい口調を言ったからってそんなジロジロ見ないでくださいよ。

斬「要するに、ガチで良いんだよな」

本人は無意識だろうが、勝負を持ちかける声質が若干変化している。

正明「……」

自信を付けるのは良いことだが、正直恐ろしい奴を育てたもんだ。

斬「レートはデカリャンピンで行く?(1000点=2000円)」

ぐ……! こいつ生意気に……!

祝儀とかオプション付けたら半荘一回で軽く10万動く値段じゃねえか……。

斬「新しい人はそんなに麻雀歴長くないみたいだから運の要素は省きたいからね」

斬「協議ルールにしてデカピンなら一番勝率を高く絞れるんじゃないかな」

正明「カモが逃げるだろ。デカピン(1000点=1000円)のアリアリにしよう」

斬「りょーかい」

もうコイツに勝つには運の要素を増やさないと話しにならん。

正明「いつもの場所だな。時間は?」

斬「30分後でどうかな。二人とも近くにいるみたいだし」

正明「オッケー。それじゃー現地で……」

斬「あ、待ってマサ!」

正明「ん?」

斬「ウマはゴットー(1位+10,000点 2位+5,000点)で進めたけど……」

正明「ワン・スリー!(1位+30,000点 2位+10,000点)」

ピ。

スケスケ(恭介)と新人……。

誰か知らないが、また新しいカモがいるんだろ。それならそっちはおいしいな。

とか言って始め適当に打って勝たせたらルールも知らないカモはいきなり帰るとか言い出すからな。

それと、俺の大親友のATMスケスケ君ね。

正明「うふふ。スケ君も懲りないねえ」

人を相手にするギャンブルなんて、一回二回の勝利こそあれど長期的に考えたら実力の差が明確に出てくる。

今は花札での賭けは主流ではないから覚えてないが、最もポピュラーな麻雀をそんな考えで打ってたらいつまで経ってもカモなのだよ。

うふふのふ、だから俺の親友なんだけどね。

正明「……」

『朱ウーピン』

通学路でもあり、活気ある街にあるのが違和感を覚える今は亡き雀荘。

正明「……チッ」

人に言える立場じゃねーな。

麻雀も一時期はプロと対等……とかも思ったが、それはプロのひよっこであってプロの本物にはまるで歯が立たない。

プロ野球選手で言うなら二軍なら勝負になるがスタメンレベルなら軽く遊ばれるってとこか。

それも麻雀の世界ならプロのひよっこ以上の奴は高レートで打てるアンダーグラウンドにゴロゴロいやがる。

正明「……」

しかし自分の実力が反映される対人ギャンブルはそれだけ魅力的だ。ギャンブルを続ける以上、麻雀からは逃げられない。

……いつかパチンコ、パチスロはやめないとな。

新しい機種が出て来て、釘や設定判別を一々勉強して、それでいて安定して勝ち続ける周期に入ったら台ごと撤去される。

機械が相手というよりも、そこが一番よろしくないな。

とはいえ麻雀のフリー打ち一本で打つにはまだまだ未熟だ。

クソ高い場所代の中では生き残れない。そこは弁えている。

幼少期から麻雀の英才教育というほど叩き込まれた俺だが、プロ試験は受かっても実際プロの頂点にはなれない。

そもそも麻雀のプロってのが強ければお金がもらえるって発想が素人っぽいよな。

財布の中身を確認する。

数枚の諭吉が悲しそうにこちらを眺めている気がしてならない。

……今日は牛丼250円で決まりだな。

???「あ、あの……」

ん?

振り返る。

???「……」

正明「……」

こんな包帯女、知り合いではない。初対面だ。

しかも何気にデカいくね?

???「……」

正明「……」

思わず後ろを見る。誰もいない。

???「わ……、」

正明「……?」

なんだこいつ。中々特徴のあるやつだな。

オレよりキャラ立ってんじゃね?

???「……あ、だよね、だよね。わたしなんかが声かけてもウザいだけだよね」

ナニコレめんどくさい。

どうやって逃げ出すか……、逆ナンでも無さそうだし、何より宗教っぽい勧誘の臭いもしないわけでもない。

???「あの、……好きですか?」

正明「あーーーー! おっけー把握!」

???「え?」

判かったよボクちん。これパターン1ね。

正明「オレね。今はそういうの興味無いんだわ」

???「ぁ……」

目の前の女性の声は正確に聞き取れはしなかったが、これは過去何度か経験がある。

決まってこうやって面識の無い女の子が話しかけてくるのは「私の友達の●●ちゃんが正明君のこと好き〜」みたいな下り。

俺が青春をしているならば悪くは無いが……残念だな。

正明「悪いね。せっかく声かけてもらったのに」

???「い、いえ! その……私なんかと会話してくれただけで嬉しかったです!」

正明「いやいや、村人の前に立ってAボタンを押すだけだ」

???「へ?」

いかん、スベった。

???「あの、もし、気が変わったら……」

正明「あー……」

???「だよね! だよね! わたしなんかが声かけてもキモち悪いだけだもんね!」

面倒くせー奴だな。しかし面白いので嫌いじゃない。

正明「ごめんね。俺この後女の子とテーブルで向き合うからさ」

ウソは言ってない。

???「あ、ごめんね! わたしもう死のうね! そうだよね! そうするね!」

おい待てコラ。

後味が悪すぎる言葉を残し、謎の包帯女は振り向き様に走って行った。

???「はぁう!」

???「あぐ……うう……もう楽になっちゃおうかなあ……」

正明「……」

うおおおお、こええ!

冬だもんな。色々切なくなる季節だし、まあやむを得ん。

それにしても、このパターンは告白してくるより代理人みたいな立ち位置の子が可愛い法則は絶対に崩れないよな。

何気なくぼんやり眺めていたらやがて人ごみに消えていった。

正明「……」

モテる男はツラいぜ。

肩に手を置いて「君の方が可愛かったよ(キラ☆」

なーんて言ってあげれば良かったかな。ぐふふふふ。

……言ったらいくら貰えるんだクソが。

”メールボックス注目! 運命を変える様なメールあなたのメールボックスに……”

ピ。

はいはいうるさいうるさい。

そういやモチが勝手に登録したこの謎SEまだ残ってたのか。

『JAN:ワン・スリーで場所作った。あと、勝手に電話切るのは少し身勝手だと思う。参考までに』

何の参考だよ。素直に電話勝手に切るなって言えよカス。

正明「オッケー。ワンスリーマンスリー!」

……うわ、何がワンスリーマンスリーだよ。久しぶりに自己嫌悪だわ。

まあともかく場はできた。

正明「さて……稼ぎまひょか」

エセ関西弁は良いね。テンションが上がってくるぜ。

今日は勝てそうな風が吹いてるぜ。

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【12/8】

正明「………………」

トータルでマイナス25,000円。

頭痛が痛い。目が目眩する。骨が骨折する。

諭吉が消えた。

俺、蒸発。

正明「……うぐ、」

もうね、泣きそう。

教師「えー、であるからXはXなりのXをXしてー」

うるせえタコ、真面目に授業しやがれ。

正明「……………………………………」

ふざけんな。俺の25,000円今すぐ返せ。

昨夜はジャンの一人勝ちだった。

それは良い。25,000円もデカいがさしたる問題ではない。

……あ、うそ。ちょっと見栄はった。すげー痛い。お金返してほしい。ジャンとか死ねクソが。

だがまあまあ、整理だ。整理しろ。負けを負けのまま繰り返さないためにも整理するのだ竹原正明。

そう……ギャンブルの場に身を置く以上負けは避けられないが、昨夜は別だ。負けは許されない。

カモを相手に、しかもワンスリーとは言えデカピンでこの数字はシャレにならない。

初対面のヤツが想像以上に強いとかなら話しは分かるが、そうではない。あいつは60000円も負けてもう二度とやらないだろう。

そう。唯一収穫になりそうなカモも逃がした。

加えて俺の大親友ATMのスケ君が見事に大裏切り。

金を持て余しているATMから引き下ろせず、大事な新しいATMは破産。

そして俺は25000円奪われた。

正明「……」

だが一件最悪のケースに見える中にも収穫はあった。

正明「ってあるわきゃねえだろおおおおおおおおおおおおお!!」

教師「おい、うるさいぞ出席番号12番。雰囲気イケメン」

正明「てんめえ、それが教師の言う言葉かバーコード!」

教師「バーコード!!!!!」

正明「るせえ! イライラしてんだよ! 頭にバーコード当てて"ピ"ってやつ当てるぞ"ピ"って」

教師「男のくせに良い髪してるよな竹原! お前バーコードっつったから退学な!!!」

正明「どんな独裁だハゲ!! 職権乱用で明日の一面にバーコード載せるつもりかてめえこの野郎!」

教師「またバーコードつったな生徒の分際で!!」

ああああああああめんどくせえ、イライラする!!!!

女子生徒1「竹原君また負けたんだってー」

女子生徒2「えー、キモーい」

正明「負けた⇒キモーい の流れを説明しろコラ!!!」

斬「先生、授業を進めてください」

生徒「そうですよ。試験前なんですからちゃんとやってくださいよ」

教師「あ、う、うん……授業やるね」

正明「チッ…………」

いかん、冷静になれ正明。クールでナイスガイが売りのイケメンにマイナスな印象を与えてしまう。

教師「先生はなあ、カツラは逃げだと思うんだよ」

聞いてねえよタコ。

斬「……」

正明「……っ!」

なんだあいつ、助けたつもりか!?

人から25,000円奪って自分は100,000近くポケットに入れて助けたつもりかてめえ!?

……冷静になれ。無駄に怒っても諭吉が返ってくるわけではない。

この授業中という無駄な時間でいかにして諭吉を救出するか考えるんだ。

正明「…………」

よしよし、落ち着いてきた。

まずは今日(徹夜麻雀なので今日)の反省だ。

ジャンは高校生としてではなく、それこそ一人の玄人だ。俺が負けることも十分に想定できた。

しかしジャンのみと勝負するわけではない。

他の奴らから点数を奪い、結果的にプラスならば別にトータル二位でも三位でも構わん。

そして他の奴らはというとカモがネギ背負った麻雀覚えたてのガキ(同級生)が二匹。

当然カモ相手なので容赦なく山から牌を奪えるだけ奪ってサマをしまくった。

で、ごらんの有様だ。

正明「……」

ああああああああ!

もうプライドどうこう言ってらんねえ。本気でしばらくジャンとコンビ打ちを視野に入れて……。

キーンコーンカーンコーン。

教師「よし本日の授業はここまで。竹原。職員室来い」

正明「てめえが来い公務員!」

昼休みになると同時に何人かの生徒は購買へダッシュへ行き、お弁当組は余裕を持っておしゃべりを始める。

いかにも学生らしい昼休みだが……、

正明「……いかん。そんなことをしている場合ではない」

諭吉2体、救出せねば。

うちの学校は幸いなことに、4限⇒昼食⇒2限と小学校みたいな流れだ。

その分昼食が遅れ腹は減るマイナス要素はあるが、午後はギャンブルしてサボっても2限分しかダメージが無い。

正明「……」

……さて、昼休みはどうするか。

ここは無難にパチ仲間からの情報を元にパチでおとなしくハネモノさわってプラス2万ぐらいは……、

斬「マサ、悪い。英語の教科書貸してよ」

正明「……敵がまさか自らやってくるとは」

斬「やめてよ。ギャンブルにそういう私情持ってくるなって教えたのはマサだろ」

正明「HAHAHA、ギャグに決まってるだろ。諭吉2体奪われたぐらい全然気にしねーよ。ああ、もう全くですよ」

斬「……」

正明「ぜんっぜん気にしてないから。うん。25,000円だろ。たかが25,000円だ。ぜんぜん気にしてないから」

斬「そういう回りくどいのは、」

正明「昨晩はよくもやってくれたなテメエ」

斬「ま、マサ!」

こいつは四光院 斬(しこういん ざん)。

高校に入ってから俺が麻雀を教えたクラスメイトであり、相棒であり、一番の博打仲間だ。

正明「んで、カモの調整もできないジャンちゃんが何の用でございますか」

斬「やっぱり少しぐらい良い思いをさせた方がよかったかい?」

なにが少しぐらい良い思いだペーっ! ぺっぺっぺっー! 10万買った人は言うこと違いますねー。

正明「初対面のヤツ可哀想だったよな」

斬「素人にテンピンは厳しいレートだったからね。ボクも最初はそうだったし、勉強代だよ」

正明「……」

こいつ、貫禄が付いてきやがった……。

パチンコしてる場合じゃねーな。そろそろ一回ぐらい本気で潰しておかないと勝負の場で見下されて打たれる。

斬「それよりもずっと座りっぱなしで腰が痛くて……」

正明「そりゃ避けて通れねーからな。俺も腰と左手がイマイチだわ」

斬「……麻雀で左手、使うの?」

正明「あー痛いの右手だ。間違えた」

斬「マサ」

正明「ギってねーよ」

麻雀は山から1牌ずつ引くゲームだが、左手で2、3牌ぶっこぬく技がある。

斬「ボクの右手は痛くない。そもそも麻雀では右手は痛くならない」

正明「しつけーよ。色々あんだよ。察しろ」

斬「……っ!」

斬「ご、ごめん……男の子はその…色々夜も忙しいと思うけど……その、手首痛めるほど激しく動かすのかい?」

正明「ちげーよむっつり!! パチンコで腱鞘炎近いだけだボケ!!」

それに俺は夜のサウスポーだ。

……うわ、さむ。自分でトリハダ立つとは。最近ギャグも博打も不調だな。

斬「あ、ああ……なるほど」

くそ、一夜にして十万稼ぐ女は違うな。

斬「……」

正明「何だよ、そんなに敗者の顔が楽しいかよ?」

斬「てかさ、英語の教科書」

正明「やだよバカ。一万払えば貸してくれる奴いっぱいいんだろ」

斬「お昼ご飯、奢っちゃおうかな〜」

正明「ジャン。愛してる」

斬「……」

斬「マサ、そういう言葉を軽々しく言うのは人としてどうかと思う」

正明「んじゃ愛してない」

斬「……」

斬「………………」

正明「傷ついてんじゃねーかバカ!」

斬「き、傷つくわけないだろ! なに言ってんだ!」

ふとジャンの机に目を向ける。

細部までは見えないが教科書がびっしりと隙間無く机に収納されているのが見える。

多分本当は英語の教科書も持ってて、昨日のオレの負けに対して何か補填をする名目がほしいんだろうな。

……こいつは本当に頭良いよな。

そりゃあ麻雀とか確率ゲームも強いわけだわ。

正明「ん、待てよ、それを見破るオレの方が頭良くね?」

斬「え、なんの話し?」

正明「うっせ。ほら教科書」

斬「ありがとう。マサは確か英語の教科書二册持ってたよね」

正明「関係ねーわ。オレ午後からパチンコ行っから」

斬「……マサ、パチンコは辞めないの?」

正明「やめるつもりはあっけど今はまだ時期じゃない」

斬「それ辞める気ない人が言う言葉だよね」

うんにゃ、実は本音だ。

パチンコは新しい機種に応じて釘の位置を一々把握しないといけないから面倒くさい。スロットも運ゲーだし。

正明「……」

正明「釘の位置を一々把握するの面倒だからな」

斬「ああ、そうなんだね」

正明「……」

正明「位置を一々把握するのが面倒だからな」

斬「? 聞こえてるよ?」

正明「うるせえ死ね」

斬「マサ!」

くそが、うるせえ女だ。

斬「そういう言い方は良くない。大体マサは言葉遣いが乱暴すぎる。それじゃあ社会ではやっていけない」

てめえオレのかーちゃんかよ。

斬「あと、パチンコ行くならいつものところは警察の見回りがあるからやめた方が良い」

正明「三店方式はオッケーで学生のパチンコはダメなのか?」

斬「……マサがそう言うなら、いいけど」

正明「冗談だよバーカ。わーかってるって」

斬「要するに、その、少し動きあったから心配してるんだ」

正明「カモがいなくなる心配か? って誰がカモだてめえ!?」

斬「マサ!」

うお……まさかノリツッコミで怒られるなんて……こいつどんだけ空気読めねーんだよ。

いや、違うか。オレか? オレのギャグセンスがもう若いヤツに通用しなくなったのか?

斬「あ……そんなに落ち込まなくてもいいじゃないか。ほ、ほら。飯行くだろ!」

正明「おお。別にジャンに怒られたり諭吉2体ぐらい全然気にしねーよ」

斬「…………」

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【廊下】

斬「……さっきの話しなんだけど」

正明「あん?」

斬「左手」

正明「溜まってるならボクで……とか? いやいや、それむっつりキャラじゃなくてただの恥女だぞ」

斬「言ってないだろ!!」

ちょっとからかわれるとすぐ大声出すよなこいつ。小学生かよ。

斬「マサ、昨日2回ギっただろ」

正明「…………」

眼も良くなってきたな。

こりゃマジで勝てる勝負で一度確実に潰すか、それかいっそ開き直ってコンビ打ちを極めるか……。

正明「まあ2回イカサマをしたかと言われるとしていない」

斬「見えたよ」

正明「むっつりキャラに加えて覗き見キャラまで見いだしたか」

斬「怒るよ」

後半は点数がヤバくなってなりふり構わずサマを使いまくった。

それこそ2回ではすまない。

逆に言うとそれだけサマを使って2体諭吉消滅だもんな。サマ無しでやったら新入り以上に悲惨だったのではないだろうか。

正明「イッツーのジャン。かっけー異名だよなあ」

斬「何だよ異名って」

正明「あれ? 知らねーの。俺らの仲間打ちでそう言われてんだぞ」

斬「……ダサいよね、それ」

正明「めちゃくちゃかっこいいじゃん」

斬「マサが言うなら良いけどさ……」

斬「ボクは九蓮のザンとかがいいな」

てめえ九蓮アガったことねーだろ。(麻雀の役名)

正明「でもま、異名が付くってことは色々マークされたってことだ。こっからは中級者は相手しなくならから場を開くのがしんどいぞ」

斬「マサも異名とかあるの?」

正明「オレはあまりの麻雀の強さに”スリーセブンの竹原”という偉大なる異名を持っている」

斬「……」

正明「おい、ギャグ滑った空気にすんな。これマジだから」

斬「こんにちは、スリーセブンさん」

正明「視線を逸らしながら言うなよバカ!」

ドン。

???「るぎゅ!」

正明「ん?」

何かにぶつかった様な……。

正明「まあいっか。なあ、それよりも他に新しい奴来ねーかな。俺もおこぼれ欲しい」

???「るぎゅぎゅぎゅぐぐぐぐぎゅ!」

斬「お、おいマサ……」

んー、歩きにくい。

足下に視線をやると、

???「……」

正明「……おや?」

見た事の無いようなチビっ子が同じ学園の制服を付けている。

背徳間を感じられるほど小さいな……。

???「あんた……、」

???「ブルドーザーかーい!」

正明「おおっと」

チビっ子の張り手をヒラリとかわす。

残念。このイケメン主人公であるこの僕は君のツンデレキャラに付き合うことはできないのさ。

正明「って、てめえ! 制服お前の鼻水でべちょべちょだねえか、汚え!」

正明「クリーニング代諭吉2.5枚なり」

斬「いい加減ボクへの当てつけやめてくれないか!」

???「きいいいいいいいいいいいい! なんなのこのなんちゃってホストみたいな男は!」

正明「ああああん!? てめー誰に何つったよチビっ子!!!」

斬「これはマサが悪い。謝って」

正明「なんでオレが謝るんだカス! 大体小学生がいる学校じゃねーんだよここは。二万返せてめえ!」

斬「……」

???「おい下級ホスト」

正明「カッチーン。あ、それ怒るよ? そのワードお兄ちゃん怒るよマジで。カッチーン」

???「はあ? 何その猿みたいな低俗な言葉。あんたこの私が誰だか知ってんの?」

正明「知らねえよカス。マロみてーな生意気な眉毛しやがって。マロってやろーか?」

???「ま、ままま………まゆげ……!?」

斬「く…ま、マサ! 失礼だろ!」

てめえも笑ってんじゃねーか。

???「……こんの下級ホスト。この風雪木葉を怒らせてどうなるかわかってるっての?」

斬「風雪……木葉って、」

正明「はあ? お前みたいなチビが怒ったらどーなるんだよ。眉毛増えるのか? あん?」

木葉「……」

正明「私怒ったら怖いんですアピールかーい? あーいるいる。やめとけ。そういうヤツ男子ドン引きだから」

木葉「……」

正明「女なんて腹パンでいちコロだろ? やんのか? やんのかやんのかやんのかチビ」

木葉「……」

正明「お? ビビッタ? 泣いちゃうのチビちゃーん。ごめんねー。眉毛とか言ってごめんねー。マユゲたんマジごめんねー」

木葉「……おい」

正明「あ、やんの? いいよいいよ。オレ女と子どもと老人は容赦なく殴れっから。かかってこいよマユゲチルドレン」

斬「最低だ……」

木葉「やれ」

ガタイの良い男「HEY! BOSS!」

正明「あ、いえ、その……」

正明「……」

正明「ち ょ っ と 待 っ て く だ さ い」

どっから沸いて来たんだこのむさ苦しい奴は。

正明「冷静に、冷静に、落ち着いて……ね。今ちょっとお子さんとお話していただけで、決してお父さんの思っているようなシチュエーションでは……」

木葉「こいつはただのボディーガードよ」

正明「……」

正明「ジャン。この学校ってボディーガード連れてきていいのか?」

斬「良くないと思う」

正明「く……っ!」

ボディーガードを学校に連れてくるのはよくないって……くそ、ちょっと面白いじゃねーか。腕を上げたなこいつ。

ガタイの良い男「安心してください。2、3発で楽にします」

木葉「ふざけんな。この風雪木葉に喧嘩を売ったんだ。腕の骨は折れ。下級ホストだし底辺層は潰せ」

ガタイの良い男「HEY! BOSS!」

正明「てんめえ、日本語しか喋れねえくせに何がHEY! BOSS!だコ……」

ガタイの良い男「……」

ジャリ。

大男が目の前まで迫る。

正明「何故あなた方はすぐ暴力に頼るのですか? 神は暴力を嫌います。アナタは本当は優しい人のはずです」

斬「マサ、無神論でしょ」

正明「バラさないで!」

ジャリ。

正明「…………ぐ、」

暴力反対! 暴力反対! まずいまずいまずい!

正明「せんせえええええい!!! 不法侵入者がいます!」

バーコード「どうした」

おおおおおおお! ナイスバーコード!

正明「先生! 先生大変です! 学校に不審者がいて生徒を殴ろうとしています!」

バーコード「なんだと!?」

ガタイの良い男「……」

木葉「あんた、本当に知らないの? ここあたしのおじいちゃんの学校よ」

バーコード「おい、いないじゃないか竹原」

竹原「目の前にクマみてえな大男がいんだろボケ!!」

バーコード「うーむ。わからん。歳は取りたく無いもんだなあ。それじゃあ俺は職員室で仕事してるから」

木葉「ヤれ」

正明「ジャン! 警察! お巡りさん! 110番!」

斬「う、うん……」

木葉「言っておくけど風雪グループは警察ともグルよ」

日 本 終 わ っ た。

ガタイの良い男「……」

斬「……っ!」

あと一歩前に出たら殴られると思ったその時、ジャンが正明の前に立ち仁王立ちをする。

斬「暴力は良くない」

ジャン……。

ガタイの良い男「…………BOSS!」

何がボスだバーカ。この指示待ち人間め。

木葉「何アンタ」

斬「マサの態度が悪い。こちらに非がある。ただ、暴力は良くない」

木葉「……あー、なるほどね」

木葉「彼女殴った方が面白いかもね」

正明「……っ!」

こいつ、とんでもないクズだ。

木葉「眼の色変えたところで下級ホストになにができるのよ?」

正明「……」

クズ相手なら……仕方が無いな。

正明「確認しておくが……」

正明「……いいんだな?」

ガタイの良い男「……っ!」

木葉「な、なによ……っ!」

正明「もう一度だけ言うぞ」

正明「本当に良いんだな?」

斬「マサ……」

ガタイの良い男「……」

木葉「お、おい……」

大男が俺に威圧されながらも一歩前に出て来た。

よし、ならば俺も覚悟を決めよう。

正明「斬、愛してる。お前の犠牲は無駄にしない」

斬「え、」

正明「俺の代わりに殴られてくれるんだろ? 愛してる。ジャン。今度抱いてやるから」

木葉「おいコラ底辺ホスト」

正明「さらばだ! また会おう!」

ピューーーーーーーーン!

ふっ……100m10秒台の帰宅部を高校生ごときが捕らえることはできまい。

 

 

 

 

 

木葉「……」

ガタイの良い男「……」

斬「……」

斬「……マサのそういうところ、良くないと思う」

木葉「アンタ、男見る目無さ過ぎでしょ」

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【商店街】

正明「はー、ここまで来れば楽勝だな」

にしてもあいつ女を殴った方が面白いなんてクズすぎだろ。最低だ。

それにあのウドも眉毛に殴れって言われたら女を殴るのか? 本当に最低なクズだなあアイツら。

生徒を守る教師がただのバーコードだし……どいつもこいつもクソすぎだろ……!

正明「まあ寛大な精神で許していかんだい」

もはや日本語の領域を超えてしまったか。我ながら恐ろしい。

よし! 今日は予定通りパチンコだな。

まずはハネモノで諭吉2体救出して……、

正明「ん?」

しばらく工事をしていた馬鹿でかい建物。

普段何気なく新しいパチンコ屋かな、と気にかけていた程度だったが、それがパチンコ屋で無いとわかった途端あまり意識していなかった。

なんのことはない、ただの成金趣味のビル。

いつもの正明なら気にかけないが、

「ウイングビジネスソリューション」

見た事の無い、聞いたことも無い社名。

ただ、気になったのはその右側に刻まれた高級感溢れる文字。

【風雪グループ】

正明「……」

もしかして、コレ。フーセツって読むのか……?

意識というのは不思議なもので、今まで全く気付かなかったがちょっと気をつけて町中を観察するだけで風雪グループという単語を幾つも目にする。

正明「……」

ついに女に媚びを売る時が来たか。

正明「あのチビマユゲとくっつけば生涯ニート生活が送れるのか……歩くドル箱だな」

だけどあのマユゲはなあ……どう見ても小学生だし…ぐぐぐ、タイプじゃないなあ……

正明「しかしハメれば生涯勝ち組。歩くフルスペックだな」

恭介「む」

正明「お?」

声の方向に視線をやる。

恭介「……終に(ついに)、出会ってしまったか」

正明「おーっすスケスケ。昨日一緒に麻雀したばっかだけどな」

彼の名はスケスケ。ATMなので俺の大親友だ。

恭介「人間として生を受けた刹那、彷徨ったこの矛盾した空間に出会う。確かに。それは必然だな」

ちなみに彼は言動の通り現代医学ではどうしようもない不治の病を患っている。

正明「スケスケは今日パチンコ?」

恭介「パチンコ……か」

正明「なあに、釘の流れを読み取る程度の能力さ」

恭介「竹原正明。彼の有名な、この国での錬金術師だ」

いきなりナレーション……しかも脇役が主人公の説明をするのは新しい。

正明「錬金術師の意味が分からんが……そのノリは少し好きだ」

恭介「くく……好き、……か」

……くっそ、ジワジワくる!

恭介「ところで、最近相棒を見ないな」

正明「ジャンちゃんはね。お星様になったの」

恭介「否。剣士ではなく悪霊だ」

正明「悪霊っておま……」

呪われるぞ。

恭介「アレは人間ではない。竹原正明。それは其方も把握しているだろう」

正明「スケスケは人間なん?」

恭介「くく……なるほど。一本取られた」

何を言っているのか分からないがジワジワくる楽しさを持っているのはちょっとうらやましかったりする。

正明「俺は今からパチンコ行っから、土日徹麻しようぜ(徹夜麻雀)」

恭介「戯れも悪くない」

よし! カモげっと!

恭介「竹原正明」

正明「ん?」

恭介「悪霊との関わりはもう絶ったのか?」

……こいつ、あぶねーぞ。

危ないのは言動を見ればすでに判るが、問題はそこではない。

陰口を口にする対象、モチのことを悪く言うのは心臓に悪い。

恭介「論より証拠だ。竹原正明は今恐怖をしている」

正明「んだよスケスケ。俺があんなメンヘラ女なんかに……」

???「あの……」

正明「メンヘラ女とか言うなよスケスケ! モチのこと悪く言う奴は俺がぜってええええ許さねえ!!!」

恭介「……」

???「……」

正明「ってあれ?」

???「……あ、こんにちは」

正明「……?」

???「あ、だよね。だよね。メンヘラ女なんて記憶の片隅にも残らないよね」

正明「ああ、昨日の」

昨日のメンヘラ。

???「あ、はい! 覚えていてくれたんですね」

包帯っていう特殊アクセサリをしてる時点でそう易々と忘れねーよ。

恭介「汝、その包帯は?」

???「え、えと、今14時ですね」

恭介「…………」

???「……?」

……く、くそ、コイツらおもしろい!

恭介「……野暮だったか」

???「あ、だよね! だよね! 私がまた人を不快にさせたんだよね!」

つーか今日も俺に会いに来るなんてこの子も頑張りすぎだろ。

もしかしたらこの包帯も、俺のことが好きな女の子に無理矢理殴られたりとかそういう理由で……、

正明「ってー! 同情作戦だろ、その手には乗りませんよ!」

???「……え?」

正明「どうせ今日も俺のこと誘いに来たんだろ?」

???「あ、はい」

正明「素直なのは可愛いけどダメーーー」

???「あ、だよね! だよね! もう私いらないよね!」

タイプじゃないわけじゃねーんだがなー。つーかこれぐらいの容姿あれば普通にモテんだろ。

恭介「竹原正明は魔女といい、闇を好むか」

あ、メンヘラそうな女って意味か。

正明「プロポーション良い子は好きよ」

???「あ……ご、ごめんね! もっとダイエットするね!」

いつも思うんだが痩せてる女が言うダイエットってなにすんだ? 内蔵でも削るの?

正明「まあいいや。俺今日パチンコ行くからさ。っていうか俺パチンコ大好きのギャンブル中毒の最低人間だから。あんまり近づかない方が良いよ」

恭介「竹原正明。この世界に生きる錬金術師という立場を持つ男」

正明「おい、一回の登場で紹介二回してるぞ」

???「……っ!」

???「ギャンブル……好きなんですよね?」

正明「好きな言葉は確率変動とワン・スリー」

???「あの……麻雀とか、その、」

???「……ポーカーとかも興味あったりしますか?」

正明「……」

もしかして、

カモ?

???「あ、そんなの興味無いですよね! そうですよね。つまんないですよね!」

正明「もしかして、君も麻雀やりたいのかな?」

正明「あ、ボクね。麻雀凄く弱いけどとっても大好きなんだ」

正明「ボクも最近始めたばかりで良かったら一緒にやる人を探しているんだけど……」

???「すみません…麻雀はちょっと……」

正明「チッ」

???「ああああ! だよね! だよね! やっぱりこういうのって失礼だよね! ごめんね、もう死のうね!」

やっぱり俺に近づいた目的は女絡みかよ面倒くせえ。

正明「んじゃーパチンコ行くから。ばいばーい」

恭介「ああ。しかしいずれ会う時は来るだろう」

お前は土曜日約束したばっかだし、そもそも同じクラスだろ。

???「ああ……! ……あー」

正明「……」

まー正直ちょっと可哀想だとは思うがなあ。

しかし俺には俺の都合があるし。

巡り合わせだな。うん。

-6ページ-

【自宅】

正明「…………ん」

朝。カーテンから漏れる鬱陶しい光を浴びて目を覚ます。

もちろん平日なので朝に目覚める。

時計に目をやると7時20分。遅刻はしないですむ時間だが……、

正明「……」

今日もアイツ来ねーのか。

正明「…………チッ」

いや、キレてないすよ。

うん。全然キレなんかないすよ。

別に付き合ってるわけでもないし。怒ってねーよふざけんなカス。

正明「……」

プライベート用の携帯を開く。

『モチ:1件』

正明「おお!」

『モチ:おひつじ座生まれのアナタ。冬とは思えない。春の陽気の様なポカポカした温かい一日。同じおひつじ座の人と運命の出会いをすることも……? 悪い相性はかに座』

正明「……」

言いたいことが200個ぐらいあるが1つだけ言わせてくれ。

正明「俺はおひつじ座じゃねえんだよおおおおお!!!!」

-7ページ-

【屋上】

斬「逆にさ。それってモチの愛情表現じゃん?」

恭介「つくばねの 峰よりおつる みなの川 こひぞつもりて 渕となりぬる」

正明「あれ? 語尾に"ジャン"とか言っちゃう? またキャラクター作っちゃうジャン!?」

斬「マサ。そういうキャラ付けをさせたがるのは良くない」

恭介「組織とは横暴なモノだ」

斬「てかさ、モチはいつ学校来るの?」

正明「知らん」

斬「知らんて……それは流石に薄情だと思う」

正明「モチの方が薄情だろ」

恭介「悪霊とこちらから接触を試みるのは反対だな」

斬「そうだ! マサ、昨日は酷いじゃないか!」

正明「たまにはステーキでも食べるかな……ああ! 財布から諭吉2枚消えてて楽しみにしてたステーキが食べられない!!」

正明「ん、昨日がどうしたって? あと全然気にしてないぞ」

斬「……逆にそこまでくると清々しいと思う」

恭介「なるほど……妖気を落とさなければ下々の民は認識できないか」

そういやさっきからスケスケは何言ってんだ?

正明「まあモチはそろそろ学校来るだろ。どんな内容だろうとようやくメール来たし」

斬「うん。よかったね」

最近はモチがいないからこの3人で昼飯を取ることが多い(学校にいるときは)

基本3人になると、必然的に花札に流れ昼食を賭けることになるのだが、いかんせん花札は運の要素がでかすぎる。

正明「そういえば花札ってさ、今後賭ける場が増えると思う?」

恭介「否。現世の世界では既に忘れられた過去の遺品だ」

あ、花札って遺品なんだ。

斬「マサ、すぐに何でもかんでもギャンブルにくっつけるのは良くない」

正明「今月幾ら勝ってるんですか先輩?」

斬「マサ!」

恭介「竹原正明!」

正明「何で俺が怒られるんだよちくしょう! あとスケスケもどさくに紛れて便乗してんじゃねーよ!」

バン!

正明「ああん!?」

勢い良く空いた屋上のドアを睨みつけると、

男子生徒「おい! 2年の野球部のキャプテンが渡り廊下でボコられてるぞ!」

がやがや。

のどかな屋上から野次馬達が次々と男子生徒の言葉につられて屋上から消えて行く。

斬「……っ!」

正明「あらー、こわいですねー、奥様」

恭介「争いから何も生み出さない。しかし人はまた間違える」

恭介「くく……争いの先に何が待っているとも知らずに」

やべえ、やっぱこいつ面白い。弟子入りしようかな。

斬「マサ、行くよ!」

正明「やだよ。120円のパン食ってるし。差額19880円」

斬「マサ!」

正明「…………」

ジャン? 少しらしく無いな。

斬「風雪木葉だ。きっと」

正明「なるほど」

誰だっけ。

斬「昨日マサと喧嘩した女の子だよ」

正明「まゆげ!」

斬「そう!」

恭介「奇怪だな……竹原正明。其方はまゆげと戦っているのか?」

正明「ああ。マロっちはもう許さねえ。俺は昨日世界中のマロ眉毛が嫌いになった」

恭介「ほう……マロ眉毛か。赴きがあってよいではないか」

正明「外人かハーフでも」

恭介「クク、異端者か。共鳴はされていない。となると一般人のようだな」

共鳴ってなんだろう。ツッコミたい……しかしツッコメない……くう、このツッコミ殺しめ!

斬「マサ、早く!」

正明「おうけい。今度ボコってやんよ。でも今日は時期が悪い。次に期待しよう」

斬「マサ!」

正明「……」

ジャンにしては珍しくやけに突っかかってくるな。

正明「いかねえって言ってんだろ。めんどうくせえ」

そんなことより花札を一文100円でやる会話に持って行くことが重要か……いや、花札100円は俺も結構なリスクを背負うな。

正明「よし。インチキしよう」

恭介「強い想いは声へ具現する」

斬「モチとぶつかってるかもしれないだろ!」

正明「……っ!」

-8ページ-

【校舎】

気付いたらすぐに足が動いていた。

野球部「くそ……ふざけんな、チビが……」

木葉「おい。何してる」

木葉「早く利き手を折れ」

野球部「ざけんな……!」

ガタイの良い男「HEY BOSS」

女子1「あ、あの、風雪さん、生徒が大勢見ていますが……、その……」

木葉「ふえ? まさかこの風雪木葉に向かってやめろって命令してんの?」

女子1「ああ、いえ、そういうわけでは……」

木葉「見せしめにはちょうどいいっての」

木葉「それともなに?」

木葉「アンタも見せしめなる?」

女子1「い、………」

木葉「あははは、冗談だっての」

木葉「大体理事も全部あたしのだしさ。全部あたしのだよ。この学校も。こいつらも」

女子「……」

木葉「おい、何してる。早くしろ」

ガタイの良い男「HEY BOSS」

野球部「う……あああああああ! やめろおおおおお!」

正明「待ちやがれ! おじゃおじゃ丸!」

木葉「お、おじゃじゃ丸!?」

正明「この世に悪がある限り、正義の扉は開かまい」

正明「だ、だれだー。 ふふふ……」

男子「あ、だれだーって自分で言っちゃうんだ」

木葉「あんた……昨日の下級ホスト…!」

正明「貴様らに名乗る名は無い」

うーん、やっぱスケスケと比べるとどうしても味が出ない……

正明「……って今下級ホストつったヤツ前出てこい!」

木葉「あたしよ」

正明「まーたてめえかチビマユゲ」

木葉「この下級ホスト、また……」

正明「さあ。モチを返してもらおう」

木葉「……餅?」

正明「ん、モチだよモチ」

木葉「……?」

正明「……あれ?」

モチいねーじゃん。

正明「おいチビマユゲ。モチはどーした?」

木葉「なによそれ」

正明「……」

ふむ。

正明「なあ、今ってどういう状態? 三行で教えてくれ」

男子「野球部、木葉様にたてつく。裁かれる。正義のヒーロー表れる」

なるほど。把握した。

正明「ちなみに2年B組の鏡望代っている? 目付き悪い不登校気味のメンヘラ女。ちょっと頭おかしいヤツ」

男子「鏡さん今日も休みですね」

正明「オッケー」

木葉「……………………」

正明「……」

熱い視線だな。これだから色男は何かと困る。

正明「いつの日か」

正明「私を分かる」

正明「時がくる」

木葉「あの下級ホストを今すぐ殺せええええええええ!!!」

ガタイの良い男「HEY BOSS!」

正明「アデュー」

ピューーーン。

あーあ、野暮だったか。

っていうかあのガタイの良い男って誰だよ。

専属SPか? どう見てもあんなの高校生じゃねーだろ。

まあ一旦逃げてさえしまえば、足の速さで俺の右に出るものはいまい。

ピューーーーーーン!

「おじゃじゃ丸……」

「チビマユゲ……」

がやがやがやが……

木葉「ぐ、ぐ……ぐ…………!」

木葉「きいいいいいいいいいいい!!!!」

下級ホスト!

絶対許さない!

-9ページ-

『JAN:マサ、今どこ?』

んー?

大当たりの最中にメールなんて気が利くじゃないか。

連チャンしてくれるのは素晴らしいんだが、3連を超えるとパチンコってのは不思議と嬉しさよりも暇って感じる様になるんだよなー。

『マルマンでパチンコ。疑似連1の緑だけど群予告だけでもってたぜ!!!! 今4連中』

しかしタバコ臭いのは頂けないな。タバコは身体に悪いよー、うん。

『JAN:すまない、よくわからない』

『パチンコの演出。わかんなくていいよ』

『JAN:木葉がマサを探してた。気をつけた方が良い』

正明「…………」

『だれそれ?』

『JAN:マユゲと言えば判るだろうか。いい加減ギャンブル以外のことも覚えた方が良いと思う。そういうの良くない』

ああ、眉毛か。

アイツはロリ属性だからなあ。美人とかブサイク以前にタイプじゃないな。

そもそも俺はギャンブル一筋だしなー。

正明「…………」

でもジャンは可愛いよな?

正明「……」

『ジャン>>>>モチ=包帯女>>マユゲ』

よし。送信完了っと。

ブブブブブブ。

お、流石保護者キャラ。メールのやりとりも早いな。

『JAN:この不等号なに?』

『竹原正明が選ぶ抱きたい女ランキング』

あ、連チャン終わった。9連か。

継続率78%にしては少し物足りないが、並以上ってとこか。

でも出玉削ってるしなー。しかもジャンからもメール途切れたし。帰るべ。

【トランジション+街】

パチンコ屋を出て、財布の中身を確認する。

実はギャンブラーにとって大当たりの瞬間よりもこの瞬間が一番楽しかったりする。(勝っている時に限るが)

今日はプラス3万ってとこか。

イヒヒヒヒ。今月パチンコは調子が良いな。

ブブブブブブ。

正明「お」

30分時間が経ち、ようやくJANからメールが来た。

『そういうの、良くない』

うおおおおおおお、可愛い!

ジャンはなんか独特な可愛さがあるんだよなー。

まあ生涯独身貴族を決めた俺には無縁の話しだが。

いや待てよ、あのマユゲって金持ちっぽいよな。

このイケメンキャラクターを活かし、俺様の虜にしてやるってのは……、

ガタイの良い男「おいてめえ!」

正明「ぬおおおおおおおおお!?」

エスケープ!

ガタイの良い男「待てごらあ!」

てめえHEY BOSS以外禁止だろうが。日本語喋ってんじゃねーよバーカ! キャラ壊れてんだろうが!

ガタイの良い男「あああああ! くっそ、こちら高橋。三番通りにてターゲットを発見」

あ、高橋さんでしたが、これは失礼。

正明「じゃーなー、高橋せんぱーい」

ダダダダダダダダ!

ガタイの良い高橋「あ、待ちやがれ!」

うーむ。しかしあの眉毛も本気だな。俺のギャンブルテリトリー内にまで探しに来るとは。

真剣にあの眉毛と和解する方法ってのを模索するか。

ガタイの良い高橋「おう兄ちゃんええ加減にせんかい!」

ほんっとうにキャラクター安定しないな高橋先輩。

ピューーーーーン!

しかしスピードスターと呼ばれたこの俺には付いてこれまい。

???「あ、」

???「あの……、」

ピューーーーーン!

ん、何か見覚えのある子が居たようないない様な……

???「あ、だよね、だよね、私みたいな気持ち悪いウジ虫みたいなヤツは存在丸ごとスルーだよね」

しゃーない。ギャンブル一旦休止して眉毛をどうにかするか。

-10ページ-

【12月14日】

斬『マサ、今どこにいる!?』

正明「んあ?」

斬『風雪木葉の取り巻きが町中でマサを探してる。もう冗談じゃすまされない範囲まで……!』

正明「あー、それなんだがジャン。今暇か?」

斬『え、ああ。時間は空いているけど……』

正明「ちょっとマユゲと和解する方法を思いついた。いつもんとこまで来てほしい」

斬『いいけど、どこ? 倉庫街? 高架橋の下?』

正明「とんねるー」

斬『わかった。今から向かう』

 

さて、ここまでは上手く行ったが、ここから先は考えてなかったな……。

-11ページ-

【トランジション】

斬「きたけど」

正明「おいーっす。相変わらず無駄にオシャレしてるな」

斬「マサと会うからだろ!」

正明「……」

斬「あ、なんだ、その。要するに、ボクは普段からオシャレに気をつけてて、別にマサに特別な感情は……」

うわ……コイツ可愛い。

正明「続けてくれ。特別な感情は?」

斬「……」

斬「そんなのどうでもいいだろ。それよりどうしたんだい?」

こいつイジられるの本当に嫌うよな。

斬「そうだ。そんなことよりマサ。街では風雪グループのロゴが入ったスーツを来た黒服がたくさんいる」

正明「……」

斬「いくら金持ちの娘だからって、私情で嫌う相手一人にここまでの人員を動かす相手って相当ヤバいよ」

正明「……」

そうか。そんなに動いているのか。

斬「実は昨日、恭介もその黒服に襲われたらしい。恭介は大丈夫だけど、今後色々……」

正明「おっけー」

正明「実はな。一度マユゲと腹を割って話そうと思う」

斬「それはいいと思う。けど現実的じゃない」

斬「今色んな奴らが血眼(ちなまこ)になってマサを探してる。多分向こうに会話する気はないと思う」

正明「あー、それなら大丈夫。直接話し合えばきっと分かってくれるさ」

斬「だから、そうは思えない。そもそも木葉と話す機会なくやられる可能性もある」

正明「うん。それは俺も思った」

と、いうことで……。

 

【イベントCG】

正明「ちょっと誘拐してみた」

木葉「んーーーー! んーーーーー!」

斬「………………………………………………」

正明「ちゃんとした猿ぐつわが良かったんだけど、ボールしか無くてさ。こいつ普通にしててもばっちいのにって思ったら案の定ダラダラでさ」

斬「………………………………………………」

木葉「んーーーーーー! んぎーーーー!」

正明「あんまりエロさは無いんだよなー。どっちかっていうとばっちい」

鼻でこぴーん。

木葉「んがああああああああああああ!!!」

正明「ふふふのふ」

斬「………………………………………………」

正明「それよりもなんかコイツの眉毛触ってたらフサフサ感が心地良いぞ」

正明「んで、マユゲと直接話して和解したい。どうすれば良い?」

木葉「ころふ! ぜったひころふ! いまふぐころひへやる!」

正明「おいうるせえぞマユゲ。トニックシャンプー顔中に塗りたくってやろうかてめえ」

木葉「んぎいいいいいいいいいいいい!」

正明「はははは、面白いなコイツ。だんだん眉毛に愛着が沸いてきた」

木葉「こにょふうへつこのひゃにむひゃって! ころふ! ころふ!」

正明「そういや雀荘の近くにあるペットショップでさ、こんな感じの猿がいたんだよ。地味に可愛くて……ん、ジャン?」

斬「マサ……」

斬「それ、犯罪だよね。それも大きい罪になる」

正明「大丈夫。みんなやってるし」

斬「誘拐なんて誰がやるんだ!!」

いかん、また滑ったか……。

斬「マサ! そこに座って! 前々から言いたいことはあったけど今日は……」

正明「待て待て待て待てジャン待て待て待て」

斬「またそうやってくだらない時間稼ぎをして……」

正明「じゃなくてさ。オレもこっからどうしていいか分からなくて」

正明「さっきジャンの言ったとおり、木葉と話せないかもしれないだろ」

正明「オレも誘拐とかはしたくないし、かといって一方的に殴られるのもイヤだ。なので……な」

斬「な、……って」

正明「ジャン。どうしたらいい? オレはジャンを信じてるからここに呼んだし、ジャンを信頼してるから意見を聞こうと思ったんだ」

斬「……………………」

斬「まったく……マサは……」

ちょろいな。

オレが言うのもなんだがこいつ変な男に引っかからないか心配だな。

斬「そうだね……ボクもパートナーとして応えないと……」

正明「ああ。ジャンはオレの大事なパートナーだからな」

木葉「もりゅあぎゃってんじゃにゃいわよぉ!」

るっせー猿だな。空気読めよてめえ。

正明「んじゃあどうする? あと任せた」

斬「……てかさ、まず口にあるギャグボールとってあげなよ」

正明「へー。これギャグボールって言うんだ。SMプレイとかで使う道具で普通の人は正式名称知らないはずだけどよく知ってるな」

斬「おいマサアキ」

正明「あ……ごめんなさい」

過去何度かこんなノリで怒らせた時、文字通り血を見ることになったからな……。

斬「……あ、そうだマサ。一つ聞きたいんだけど」

正明「ん」

斬「何でこんな低俗な道具持っているんだマサ!!」

正明「そこかよ!」

斬「答えろ!!」

く……逃げられない…!

正明「お、怒るな…怒るな……これは…そう。モチが持ってたんだ」

斬「あの子は……」

あー怖い怖い。怒らせる前に眉毛に話題移そう。

木葉「ぷはっ……よ、よくもこの風雪木葉に牙を向けましたね! 下級ホストの分際で食物ピラミッドの頂点に君臨するこの……」

正明「うるさい。耳痛い」

木葉「むぎいいいいいいいいいいい!」

斬「……」

正明「ってこんな感じで、話しにならないのよ。だからジャンからお願いしてくれよ」

斬「はあ……頭痛い」

正明「竹原正明の半分は優しさでできてるから大丈夫だよ」

斬「……そうすか」

うーむ、イマイチな反応だな。流石にネタが古すぎたかな。

斬「木葉、今丸いの外すね」

正明「ギャグボールだろ? おいおい今さら知らないフリすんなよ」

斬「マサアキ!」

正明「すみません!!」

うわ……怖え。ツッコミ入れたら怒られるってどんな理不尽だよ。もう帰るよボク。

木葉「…………」

眉毛もビビってんじゃねーか。怖いなあ、ジャンは。

斬「喋れる?」

木葉「……ん」

斬「よかった」

斬「それで、確認だけどマサに変なことはされてないよね?」

木葉「……」

木葉「……ゆ、」

斬「ゆ……? マサ、ちょっときて」

正明「ヤダよ。ジャンすぐ斬るもん」

木葉「誘拐してるでしょーが!!!」

正明「……」

斬「ああ……うん」

おおう……ナイスツッコミ。

木葉「大体あんたの彼氏なんなのよ! 手紙で呼び出していきなり誘拐するなんて狂ってるわ!」

木葉「あんたもあんたよ! 彼女ならちゃんと彼氏繋ぎとめておきなさい」

斬「彼女……」

斬「……」

斬「木葉。良い人みたいだね」

木葉「誘拐犯に言われたくないわよ!」

こいつ本当にちょろいな。

正明「ジャンー。腹減ったから寿司行こうぜー」

斬「わかった」

木葉「お前達ふざけんな、マジでふざけんな、殺す。絶対殺す!」

キーキーキーキー猿かよこいつは。

まあいいや。タバコ吸おう。

斬「それでものは相談……なんだけど、今回の件、全て無かったことにできないかな?」

木葉「できるか一般市民!」

斬「う……」

木葉「ただで済むと思うなよ。あんた達絶対生かしておかないから……!」

正明「おかないから……! うーん、いまいち萌えないツンデレ口調だなあ」

正明「生かしておかないんだからねっ! ってちゃんと言ってくれた方がキャラ立つんじゃん?」

木葉「下級ホスト! あんたは拷問した後に殺す!」

斬「今のはマサが悪い」

うーん、仕方ないか。

付けたばっかのタバコを踏みつぶす。

正明「じゃ、適当に犯してから殺すか」

木葉「……え?」

斬「……」

正明「あー、悪りぃなジャン。ちょっと戸惑ってると思うけど、オレ本気ね」

木葉「…………」

正明「拷問して殺すんだろ? この俺を」

正明「だったら適当に犯して楽しんで、刑務所に数年入った方がお得だろ?」

木葉「…………っ」

目の前の女の表情がみるみる青ざめていくのが分かる。

こいつは今まで弱者の気持が分かんないからこういう態度を取れたんだろうな。

木葉「や、やれるもんなら……」

パン!

正明「あ、声出させないから」

ビンタを一発入れた後、俺はすぐに力づくで女の口元を塞ぐ。

木葉「………………!」

懇願する。今頃、立場が分かったのだろう。

正明「オレちゃんと言ったじゃん。女と子どもと老人は容赦なく殴るって」

正明「今回は殺さないとオレが殺されるみたいだから、しょうがないよな」

木葉「…………」

正明「ということで、交渉失敗したからジャンは帰って良いよ」

斬「……本気、なの?」

正明「俺が引かないのはジャンが一番知ってるだろ?」

斬「…………」

木葉「………ん、んん! んんんんんん!」

正明「うるさいよ」

口元にあてた指を強く、強く、握る。頬肉の上から歯並びが奇麗に整っているのが感じられる。

俺が男で、生殺与奪を握っていることを再認識させる。

正明「誰が喋って良いって言った?」

木葉「……ん、……ひぃ」

もっとも、既に恐怖の感情しか抱いていないこの女に対し、そこまでやる必要性は疑問だが。

斬「……私はこの件とは無関係だからな」

正明「ああ。誘拐が犯罪ってのならジャンは誘拐に加担してないしね。全然オッケー」

正明「強姦と殺人も俺一人でできっから、もういいや」

木葉「………!」

俺の手の中にある小さい身体が小刻みに震える。

初めて、そして唐突に訪れる死の現実に直面すれば、人間は誰でもこうなる。

正明「って漏らしてんじゃんコイツ。プルプル泣いてるし本当に猿みたいなヤツだったよな」

斬「強姦殺人は刑が重くなるから殺すだけがいい。あと身代金を要求するのもダメだよ」

正明「おっけ。んじゃーあんま痛めつけないでやっか」

木葉「……ぅ…う…」

正明「じゃあな、ジャン。短い間だったけど楽しかったよ」

斬「ああ。恭介とモチにも伝えておく」

短くそれだけ言い切ると、ジャンは俺から背を向けて去っていった。

木葉「ご、ごめんなさい……ごめんなさ…! むぐっ!」

正明「おっと。緩めちゃったか」

再度指に力を入れ直す。

感情の無い目で、獲物を覗く。

正明「オレも人のこと言えないけどさ、今更謝るってクズすぎじゃね?」

木葉「…………ん、ん!」

俺の言っていることを数秒遅れて理解して必死に頷く。

正明「まさか、君は今頃謝れば許してもらえるとでも思ってんの?」

木葉「……っ!」

その言葉はそのまま木葉の胸に届き、静止した状態でただ目から涙がこぼれた。

正明「だってお前自分より弱い野球部の利き手一方的に折ろうとしたじゃん。やってること同じだよ」

正明「やったね。オレと同じクズだね」

木葉「……ぅ、……うぅ……っ!」

正明「てめえはオレにもそれやろうとしたしな」

木葉「……………っ!」

ふーん。

正明「そうだな……謝り方によっては、もしかしたら気が変わるかもね」

木葉「……………」

今の俺の言葉は耳ではなく、直接彼女の心に届く人形だ。

添えているだけの手をゆっくりと話す。

木葉「……ごめんなさい」

言いながらも、大粒の涙が頬を伝う。

正明「え、そんだけ?」

木葉「ごめんなさい!」

正明「気に入らない奴片っ端から権力で潰してきたよな?」

木葉「ごめんなさい!」

正明「別に謝らなくていいよ。オレもてめえと同じクズだし」

正明「だから辞める気ないし」

木葉「ごめんなさい!」

正明「って言われて、てめえは自分より弱い奴を許したん?」

木葉「……っ!」

正明「オレはほら、心きれいだから良心痛むけどさ。てめえは平然と弱者潰してきてよな。あ、攻めてないよ。楽しいよな。わかるわかる」

木葉「ごめんなさぁい!!」

正明「だから何度も言わせんなよションベンマユゲ。てめえもずっとやってただろうが」

木葉「もうやらない!」

正明「ウソつけ。昨日もやったじゃん」

木葉「もうやらない!! 二度とやらない!!」

正明「部活動頑張っている人の腕を、大勢の前でプライドごとへし折ろうとしたよね。ひどいなー。最低だなー」

木葉「もうやらないって言ってるでしょっ!」

正明「おい」

首を掴んでる腕に、力を入れる。

正明「バカかてめえ? オレは謝り方によっては……って、言ってんだけど?」

木葉「ごめんなさい……ごめんなさい!」

正明「暴力に沈められる気持ちが分かったか?」

木葉「はい……ごめんなさい! 許してください」

……ふーむ。

まあ、こんなもんかな。

正明「じゃあ一つだけ頼むは」

木葉「……」

正明「飯奢って」

木葉「はい!」

木葉「……………」

木葉「………めし?」

斬「はーい、カットー」

正明「うい監督お疲れしゃーしゃー! どう? 俳優になれる?」

斬「てかさ、マサなら本当に可能性はあるよ」

正明「ジャ●ーズは?」

斬「無理じゃないかな」

木葉「………」

正明「マジかよ……将来の夢が絶たれたべ…!」

斬「マサはそういうの興味無いだろ」

木葉「………へ、……へ?」

斬「着替え買ってきたよ。木葉、こっちおいで」

正明「こいついきなり小便もらしたわ。アレだろ。潮吹きってやつだろ」

斬「マサアキ!!」

正明「すみません!」

木葉「…………」

斬「恐かったね。ごめんね。服自分で脱げる?」

正明「美味しいポジションちゃっかり取るよな……いるよなーこういうヤツ。あーヤダヤダ」

斬「こっち向いたら斬る」

木葉「……」

斬「大丈夫? まだ泣く?」

木葉「い、」

木葉「今の……」

斬「全部演技だよ」

木葉「………………」

正明「え、イケメンで演技力がある高身長で性格の良い役者の卵はいないかって?」

正明「いやー、そんな人そうそういないでしょ。いやー、そんな凄い人はそうそういないはずだけどなー。いやー」

木葉「下級ホスト……」

正明「てめえ禁止ワード触れたな。ジャンどっかいけ。こいつもっかいシバく」

斬「こっちを向くなとボクは言った」

正明「………………」

選択肢間違えると首が跳ねるからな。おー、恐い。

木葉「え、……えん…ぎ…?」

正明「そりゃーそうだろ。オレが誘拐したり幼女殴ったり小便もらすまで恐喝するわけないだろ。心きれいな男NO1のこのオレが」

木葉「あんた全部したでしょーが!!」

正明「オレは心きれいだから」

正明「殺さないしレイプもしないし、腕の骨も折らなかったろ?」

木葉「…………」

斬「マサ。いい加減向こう向いててくれないか」

正明「はいはい。一本吸ってくるわ」

斬「タバコは悪いって自分で言っていたじゃないか」

正明「タバコの副流煙は悪いよなー。主流煙おいC!」

斬「……」

木葉「……」

斬「プッ……ああいうヤツなんだ」

斬「マサは性格悪いし金に卑しいしギャグのセンスもない」

斬「でも、筋が通ってるんだ」

木葉「……」

斬「ボクたちはギャンブラーだから。いつもリスクを背負ってるからね」

木葉「ギャンブラー……」

正明「あー、すげー分厚いステーキ食べてーなー!」

木葉「……」

木葉「確かに……」

斬「ん?」

木葉「あいつ、ポーカーの才能あるかも」

 

説明
同人ゲーム用の原稿です。
この作品は今の所完成する予定がないので、書き溜めてある分忘れずに投稿しようと思いました。
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