真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ三十七
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 朱里は机の上に並べられた何枚かの札を見ながら考え込んでいた。

 

 その札には『鳳統』、『周瑜』といった自軍・他軍の軍師の名前が書かれ

 

 ており、朱里はそれを一つ一つ見ては難しい顔で再び思案にふけるという

 

 事を繰り返していた。

 

「朱里〜、いるか〜?」

 

「は、はい!何ですか、ご主人様?」

 

 そこに一刀がやって来たので朱里は札を片付けて出迎える。

 

「一応新しい政の区割りが出来たんで朱里に見てもらおうと思ったんだけど

 

 …忙しかったか?」

 

「いえ、大丈夫です。確認の上、またご報告させていただきます」

 

「よろしく頼むよ。それと、予定通り明日から洛陽へ行って来るから留守の

 

 間の事は任せる」

 

「御意です」

 

(ちなみに既に戦の終結から二ヶ月余りが経過しているので、謹慎は終わっ

 

 ている)

 

「それじゃ、俺は街の見回りに行って来るから」

 

「はい、お気を付けて」

 

 朱里は笑顔で一刀を送り出すと、再び札を取り出して考え事に戻っていた

 

 のであった。

 

「この中で一体誰を選べば良いのでしょうか…最も『六韜』にふさわしい人

 

 は…これを役立ててくれそうなのは…」

 

 

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 そして次の日、俺は輝里と桔梗を連れて洛陽へ向けて出発した。

 

 洛陽へ入る手前の宿場に泊まった夜、同じく洛陽に向かっていた蓮華達と

 

 合流し、ささやかな宴となっていた。

 

「こうして一刀とお酒を飲むのも久しぶりね」

 

 ほろ酔い加減の蓮華が潤んだ眼でそう話しかけてくる。

 

「ああ、最近はあまり会う事も無かったしな」

 

「そうよ〜一刀はもう私の事なんかどうでもいいって思ってるんでしょ〜」

 

 蓮華はそう言いながら俺にしなだれかかってくる。

 

「いや、その、どうでもいいだなんて思った事は…」

 

「じゃあ、何であれ以来何も無いのぉ〜?」

 

 あれ以来って…いや、待て待て。そっちの話はやばいって!後ろで思春が

 

 すげぇ怖い顔で睨んでるし!!

 

「ちょっと落ち着けって『落ち着いてるわよ〜私は』いや、完全に酔っ払っ

 

 て『酔ってなんかいませんよ〜きゃははは!』…ダメだこりゃ」

 

 酒の勢いで絡みまくって来る蓮華を何とか寝かし付けてから、再び宴の席

 

 で飲みなおしていると、今度は思春が話しかけてくる。

 

「北郷、ちょっといいか?」

 

「いいけど…珍しいな、思春が俺に用なんて」

 

「まあ、たまにはな」

 

 思春はそう言って俺と差し向かいで座ると、俺に酒を注いで自分には手酌

 

 で注いで一杯飲み干すと、話し始める。

 

「お前は蓮華様の事をどう思っているんだ?」

 

 

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「何を突然…」

 

「突然ではない。お前と蓮華様の間にあった事位は私とて承知だ。それにつ

 

 いて今更とやかく言うつもりは無い。そもそも蓮華様自体が望んだ事でも

 

 あるからな。ただ…」

 

 思春はそこまで言うと少し口ごもる。

 

「ただ…何だ?」

 

「蓮華様がお前と朱里が仲良くしている所を切なそうに見ている事が何度も

 

 あってな。それを見てるのがつらいんだよ、私は」

 

 思春はそう言って詰め寄って来る。

 

「だからな、もしお前が少しでも蓮華様の事を想っているっていうのなら…

 

 少しでいいんだ、蓮華様と一緒にいてやってくれないか?」

 

 思春がそう言って頭を下げる。

 

 確かに俺は蓮華とああいう事をした。決して欲望に流されての事では無い

 

 から、そうしたい気持ちが無いでは無い…しかし。

 

「悪いが、はいそうですかとそれを受けるわけにはいかない」

 

 俺がそう言うと、思春は殺気の籠った眼で俺を睨みつける。

 

「何だと!?…私がどんな気持ちでこんな事を頼んでいると思っているのか

 

 お前は分かっているのか!!」

 

「幾ら鈍感な俺でもお前がどれだけ蓮華の事を慕っているのかは分かってい

 

 るつもりだ。でもな…」

 

「朱里がいるからか?」

 

「それだけではない…厳密に言えば朱里も関わる話なんだけど…」

 

 

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 俺がそこまで言って押し黙ってしまうのを思春は訝しげな眼で見る。

 

「どうした、何か人には言えない事でもあるのか?」

 

 本当はこの事を誰かに言うべきではないのだろうけど…これを言わなけれ

 

 ば納得はしてくれなさそうだな。

 

「これからいう事は皆には秘密にしておいてほしい。それを誓ってくれなけ

 

 れば、この話は此処で終わりだ」

 

「…分かった、誰にも言わない。この首と真名に賭けてもな」

 

 ・・・・・・・

 

「まさか…そんな」

 

 思春は俺の話を聞いて半ば呆然となっていた。

 

「信じられないだろうが事実だ。そしてそうなったら蓮華とは永遠の別れと

 

 なるだろう。だから…すまない」

 

 俺はそう言って頭を下げる。

 

「後どれ位なんだ?」

 

「詳しくは俺にも分からない。ただ、そう遠くはないという事だけは分かる」

 

 思春はうつむいたままそれ以上何も言わなかったが、一言だけ『今日聞い

 

 た事は誰にも言わない』とだけ言ってくれた。

 

 それからしばらく二人共黙ったまま酒を飲んで、どちらかという事も無く

 

 その場はお開きになった。

 

 

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 次の日の朝、俺達はどうせ行き先は一緒なのだからと連れ立って洛陽へと

 

 出発した。

 

「ねえ、一刀。昨日は思春と何を話してたの?」

 

 蓮華が馬を寄せて来てそう話しかける。

 

「蓮華に手を出したら殺すって言われた…」

 

「えっ!?」

 

「待て、北郷!何時そんな事を…」

 

「というのは冗談だ。まあ、内容は二人だけの秘密って事で」

 

「むう〜私をのけ者にして二人で仲良くなってる」

 

「蓮華様、べ、別に私は北郷とどうこうなったわけでは…」

 

「そうだな、せいぜい俺に酌してくれた位だしな」

 

「…私だって一刀にお酌した事無いのに、思春ずるい」

 

 蓮華はそう言って思春をじと目で睨み、思春は慌てた様子で何やら釈明に

 

 追われていた。何だか新鮮な感じだ。

 

(ちなみに昨晩一刀と蓮華が酒を飲んでいた時は双方手酌であった)

 

「ほらほら、もうすぐ洛陽だ。あんまりはしゃいでいると洛陽の民達から変

 

 な目で見られるぞ」

 

 俺がそう言うと二人に『お前が言うな』的な眼で睨まれた…怖い、怖い。

 

 

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「それじゃちょっと出かけて来るから」

 

 俺は輝里と桔梗に後を任せると、洛陽の街の様子を見に行く事にした。

 

「しかし、洛陽もすっかり雰囲気が明るくなったよな」

 

 実際、初めて洛陽に来た時(反董卓連合軍との戦いの終結の後)は続く戦

 

 乱の為か、ここが本当に都かというような暗い雰囲気だったのだが、陛下

 

 や月の政の成果か行き交う人々の顔にも明るさが見え、それが街全体を良

 

 くしているように感じたのである。

 

「あっ、一刀やん。何時洛陽に来たん?」

 

「一刀さん、やっほ〜」

 

 近くの茶屋にいた真桜と沙和が俺を見つけて声をかけてくる。

 

(ちなみに二人からは真名を預かり済である)

 

「ついさっきな。ところで二人は今日は休みか?」

 

 俺がそう声をかけた瞬間、二人の眼が泳ぐ。

 

「ほう…サボりか。麗羽は相変わらず随分と寛容な上司なんだな」

 

 実は二人は衛将軍となった麗羽の部下として主に宮中の警護兵を統括して

 

 いるのだが…正直、麗羽自身があまり真面目ではない為、二人の行動に対

 

 しても正直厳しくないのが現状であった。その為、陛下から一度本気で凪

 

 をしばらく貸してくれと頼まれ、二週間程出向させた事があった位だ。

 

 実際、凪がいる間は多少真面目になったものの、凪が帰ったら結局こんな

 

 感じに逆戻りだ。

 

(ちなみに斗詩と猪々子は交替で南皮の政務に当たっている為、洛陽に不在

 

 な事が多い)

 

 

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「二人共…そんな事ばっかしてると、また凪がこっちに来る事になるぞ?」

 

 俺がそう言った瞬間、二人の顔が凍りつく。

 

「ひっ…まさか凪も来とるん?」

 

「いや、今回凪は留守番だけどね」

 

「良かったの〜。なら安心してサボれるの〜」

 

 はっきり言いやがったぞ、この人…そういや凪も『あいつらのサボり癖は

 

 昔から何度言っても変わりませんでしたから』ってため息ついてたな。

 

「取りあえずサボりも程々にな」

 

「へ〜い」

 

「わかったの〜」

 

 二人は俺の言葉にかなりな生返事で返してきた。こりゃ、凪が再びこっち

 

 に派遣されるのもそう遠くなさそうだな…。

 

 俺はそう思いながらその場を離れようとしたその時、少し離れた所から大

 

 きな音が聞こえた。

 

「何だ、今の?何かが割れたような…」

 

 俺がそっちの方へ向かおうとする前に、真桜と沙和が素早く動いてそっち

 

 の方へ向かっていった。

 

 そして俺がそこへ着くと、数人のゴロツキが二人にあっさりとのされた後

 

 であった。どうやらこのゴロツキ共が喧嘩して辺りを壊していたのを二人

 

 が取り押さえたようだ。

 

「どうや、一刀。ウチら大活躍やろ?」

 

「沙和も頑張ったの〜」

 

 二人はそう言ってドヤ顔をするが…正直、普段から頑張ってほしいと思っ

 

 てしまった。

 

 

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 明くる日、俺は陛下に挨拶に出向いた。昨日は到着が結構遅い時間だった

 

 ので日を改めて参内したのであった。

 

「一刀は元気そうじゃの」

 

「はっ、陛下もお変わりなく…」

 

 と言いたい所ではあったが、どうも陛下の様子がおかしい。

 

 俺にそう声をかけた後は何処か上の空だ。

 

 俺は隣にいる月に問いかける。

 

「なあ、月。陛下はどうされたんだ?」

 

「ここ数日あんな感じなんです。何やら思いつめているような顔をしている

 

 かと思えば、嬉しそうな顔になったり、不安そうな顔をしたりで…お体が

 

 何処かお悪いのでしたらお医者様にお見せした方がと勧めると『まだ心の

 

 準備が出来てない』とか言って必死に拒まれて…」

 

 月は不安そうに眉をひそめながらそう言っていた。そりゃ、此処で陛下に

 

 何かあれば一大事なわけだし…。

 

「月、今すぐ医者…出来れば華佗を連れて来てくれ。此処は強引にでも診て

 

 もらう事にしよう」

 

 俺のその言葉に頷いた月が立ち上がろうとすると、

 

「ま、待て!医者はまだ待つのじゃ!」

 

 陛下が慌てた様子で止める。

 

「しかし、何処かお悪いのであれば…」

 

「月、少し席を外してくれんか?出来れば一刀以外は人払いを」

 

 その陛下の突然の言葉に月は驚きながらも指示通りにする。

 

 

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「それでは何かありましたら…」

 

 そう言って月が下がり、俺と命(二人きりになったので真名で呼ぶ)だけ

 

 になったが結局、命は何処か落ち着かない素振りのままであった。

 

「一体どうしたんだ?本当に体の具合が悪いのだったら…」

 

「い、いや、決してそういうわけでは…でも、その…あのな。正直まだ本当

 

 に診てもらったわけではないのでそうなのかどうかが分からぬのじゃが…」

 

 命はそう言ったきりまた黙り込む。

 

「?…本当は何処か悪いのか?」

 

 俺は急に心配になる。その時、俺の脳裏には先帝劉協陛下の事がよぎって

 

 いた。命もまた同じような病なら…。

 

「いや、あの、その…実はの…こないのじゃ」

 

「こない?何が?」

 

「その…月の物がじゃ。どう計算しても一刀とのあの後からなのじゃが…」

 

 えっ…えええええええええええっ!!それって…まさか!?

 

 俺の頭の中には混乱とドス黒くなった朱里の姿が渦巻いていたのであった。

 

 

                                 続く(無事に行くかは不明)

 

 

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 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 さあ、えらい事になりました。

 

 本当はもっとスムーズにラストまで行くつもりだったの

 

 ですが、ここで命がとんでもない事を!?

 

 次回はこの続きから…果たして本当にそうなったのか?

 

 そして一刀は!?朱里は!?

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ三十八でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 追伸 思春や真桜が一刀とタメ口なのは、一刀がそれを許して

 

    いるからですので。

 

    そして、正直な話、続きを書くのが怖い…本当にどうしよう?

 

    ちなみに一刀達が現代に戻るのはもう少し先ですので。

説明

 お待たせしました!

 今回より拠点を織り交ぜながらエピローグへ向けて

 進んでいきます。

 残された時間で一刀と朱里は何を成すのか?

 朱里は誰を後継者として選ぶのか?

 そして最後にとんでない展開が…。

 それではご覧ください。
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コメント
大当たりぃーっ!やったねカズくん、家族が増えるね!ああ…朱里が呪裏に…いや修羅かな( ゚д゚)はわわ(七詩名)
ataroreo78様、ありがとうございます。本当に荒ぶる龍となるかは次回以降にて。それと…朱里はまったくそれに勘付いてないわけではないですが、知らないふりをしているという噂もちらほらと。(mokiti1976-2010)
ラスト間近にして伏龍が荒ぶる龍と化すのか?そういえば朱里は一刀と陛下が寝た事を知ってましたっけ?(ataroreo78)
h995様、ありがとうございます。確かに漢王朝の事を考えればそれが一番良いのですが…やはり種馬は種馬なのか?次回をお楽しみに。そして…確かにあの娘が一番適してそうな気もします。(mokiti1976-2010)
NEOじゅん様、ありがとうございます。確かに一番ヤバいのは一刀の命です。物理的に血祭りになるか、全てを搾り取られるか…怖っ!(mokiti1976-2010)
TAPEt様、ありがとうございます。その反応が逆に怖そうな気もします…さてさて。(mokiti1976-2010)
平野水様、ありがとうございます。やっちまった結果、とんでもない事に繋がったという所ですね。さて、どうなる事か?(mokiti1976-2010)
きまお様、ありがとうございます。正直、あのコメントを見た時に『先を越された』的な感じではありました。しかし子供が乱立するかは未定(オイ。そしてその子を後継者にすると未来に希望はなさそうな気が…。(mokiti1976-2010)
牛乳魔人様、ありがとうございます。さすがに命がいなくなったら漢が存続しませんが…何か普通に想像出来るシチュエーションですね、それ…。(mokiti1976-2010)
観珪様、ありがとうございます。一応まだ本当に子が出来たと決まったわけではないですが…正直六韜とか言っている場合ではないです。(mokiti1976-2010)
氷屋様、ありがとうございます。確かに…まずお姉様方が真っ先に襲い掛かって来る事は間違いない。朱里も個人的感情はともかく…という所はあるかもしれません。(mokiti1976-2010)
天子が天の御遣いとの間に子を為した。これで漢室の権威は確固たるものになり、天下は盤石となりました。やはり血は争えないのか。そして六韜の後継者ですが、案外恋姫最年少のあの子かもしれませんね。(h995)
やべえ……マジやばい。どれぐらいヤバいかぅて言うと……マジやばい。具体的に言うと、一刀の命が。(じゅんwithジュン)
朱里「へーーーーーーーーー」(TAPEt)
うーん、ジョークで残していたコメが現実に!?(え これは一刀の子供乱立フラグですね!関係持った人少ないけど!!・・・後継者は「みうみう」でお願いします(な、なんだってーーー(きまお)
一刀さん達が現代に帰る時に命も一緒に来るフラグか!?で朱里が血涙を流しながら「おじいさま、おばあさま・・・お二人のひ孫です(グギギ)」とかなんとか(牛乳魔人)
六韜うんぬんよりも先に懸案すべき事案ができてしまったww 自分よりも先に子を孕まれてしまった朱里ちゃんの心境はいかに……(神余 雛)
これはやばいwwwwww命が本当に出来ちゃってた場合、ばれたらここぞとばかりに私も子供が欲しいと一刀を慕う者たちから襲われますな(笑)朱里はなんだかんだいいつつ認めちゃいそうな気もするが(氷屋)
一丸様、ありがとうございます。何だか一丸さんが血の涙を流している姿が眼に浮かびました…本当に命がそうなのかは次回にて。(mokiti1976-2010)
summon様、ありがとうございます。そうです、まだ動乱は終わってはいなかった!!さあ、どうなる事やら?(mokiti1976-2010)
くっ、ぐぅ・・・っっっっ・・・ぎりり・・・・・くっ、ぐっ・・・・がり・・・・はあはあはあ・・・・命、幸せになるんだよ・・・・・・ガクッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ、続き楽しみに待ってますww(一丸)
これは最後にして最大の山場が発生しましたねw どうなるのか、楽しみにしています。(summon)
殴って退場様、ありがとうございます。そう、とんでもない規模の爆弾です。さあ、どうなる?六韜の後継者の行方も気になる所ですが、朱里ももはやそれどころではないかもしれません…。(mokiti1976-2010)
最後に爆弾投下してしまったかww。そして六韜は意外なダークホースの手に?(殴って退場)
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