十二支・幻想奇譚 ボカロ界からの脱出! 第8話 闘争心と殺意
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(庭、ヘリポート)

 

海斗:・・・・・・・・・

 

 海斗は、相変わらず、押し黙ったままだった。戦意ややる気が、微塵も感じられない。

 

テル:仕方ない、ここのルールを説明するので、仲間の方々、ちゃんと理解していて欲しい。君たちがこの方をサポートする事になりますからね

めぐみ:仕方ないですね。解りました

 

 白い手袋をはめた“執事”風の姿のテルは、右手の中指で眼鏡をちょっと調節した後、手に持っていた“辞書のような黒い本”を広げ、1項目ずつ説明し始めた。

 

テル:まず、ここでの対戦方法は勿論、シミュレーションRPG戦闘です。しかし、他では観られない、数多くの“制約”を、あなた達だけでなく、私たちも受けます

ユキ:まず1つ!

テル:ここでは、戦闘スキルと回復スキル以外、一切使用禁止になります。補助スキルや自動効果スキル、つまり“強化”、“戦略”、“ダブルスキル”などは使えません

ユキ:つまり、ボコスカ殴り合うとか魔法決戦とかの、ガチ戦闘だけで〜す

テル:それから、回復スキルの効果ですが、半減であると同時に、対象は1名だけになります

ユキ:強すぎる方の補正をしま〜す

テル:それから、最大の補正にして、我々が海斗に言った“一人では絶対に勝てない”理由にもなっているのが、最後の制約です

ユキ:じゃじゃーん!

テル:ここでは、素早さと運が、双方の全員共に、“0”、になります。よって、攻撃を回避することも、かいしんの一撃によるラッキーヒットもなくなります

ユキ:まぁ、ちょっと地味だけど、闘いなんて、そんなものですよ

 

 めぐみは、心中穏やかではなかったのだが、表情だけでも落ち着けて、テルに質問した。

 

めぐみ:攻撃はOKって事だから、“召還”はいいのね

テル:召還した後の召還獣にも、先ほどのステータス補正などはかかりますけどね

めぐみ:それと、いつもの“ヒーゲ”がいないけど?

テル:ここではジャッジはいません。館のシステムが自動で計算します。但しここではステータスなどは“無表示”なので、“ダメージ値”だけが表示されます。双方の“HP”などは、我々でもあなた達でも、お互いに知ることは出来ません

ユキ:回避も出来なくて、会心の一撃も出ないんだから、それだけで十分でしょ?

ミキ:じゃあ、始めましょうか?

 

 ギューーーーン!!!!

 

 ミキは羊コスプレのような、紫のモコモコを首に巻き付けた、☆マークが可愛い白いコート姿の魔法使い、テルは今と同じ姿の執事である僧侶、ユキは軍用武器やアイテムをランドセルに詰め込んだ戦術師だった。

 

めぐみ:みんな! 海斗があんなだけど、とにかくコッチもバトルに入るよ!

 

ギューーーン!!!

 

 海斗を含めて、めぐみ達全員もそれぞれのジョブに変身した。

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めぐみ:とにかくこちらは8名、いや、海斗も合わせれば9名もいる! 相手は3名! 数ならこちらが上! でも、それでも海斗一人では勝てないと言っているのだから、当然相手のHPは最低でもかなりの数値のはず

リン:まぁ、でも、うちのリーダーがあれじゃあ、うちらがあいつらに攻撃を加えないと、どうしようもないみたいだけどね

レン:そうだね。話では、回復もっているメンツ、つまり、ミクとめぐみは、海斗のサポートに専念しないといけないから、残りは全員あいつらへの攻撃専門になるよね

ハク:それに回復量も不十分みたいだから、私たちは“回復”専門の召還獣を召還して、サポートします

めぐみ:ありがとう。私とミクでは回復しきれないと思っていたから、助かります

ハク:では。召還! “ウンディーネ”!

ネル:召還! “シルフ”!

テト:ヾ(*´∀`)ノ

 

 テトが杖をかざすと、召還獣“ハイピクシー”が召還された。

 

めぐみ:これで回復担当が増えて、長期戦でもなんとかなるか・・・

 

テル:では、始めます。メンバー数の関係から、我々先行で文句無いですね?

めぐみ:仕方ないです

テル:では。ミキ様、作戦通り、“海斗叩き”は頼みます。私とユキは他のメンバーの殲滅に専念します

ミキ:りょーかい!

 

めぐみ:くっ!・・・・いや、ラッキーなのか? 海斗相手には一人、我々相手は8vs2。これなら勝てるかも!

ミキ:それは、どーかな?

 

 ミキは海斗の目の前に来て、杖を振りかざした!

 

ミキ:スキル“摂関”(せっかん)!!!!

 

 バコン!!!!!

 

 ダメージ200

 

海斗:ごふぅ・・・・

 

 ミキの杖は海斗の頭を直撃し、海斗は唾液を吐き出し、たまらず膝を突いてしまった! そのダメージは意外なほど大きく、HPの半分を削られてしまった(海斗残りHP200)。

 

ミキ:さぁ、これであなた達の回復役は、嫌が上でも彼を回復しないといけなくなりましたね

めぐみ:はん! その程度なら、2,3人で全回復できるから、なんともないね!

ユキ:それがだめなんだよね〜。次はユキの番! スキル“ミサイルポッド”!!!

 

 バシュバシュバシュバシュ!!!!!!

 

 ユキの赤いランドセルから、無数の小型ミサイルが発射され、海斗達のパーティ全員を爆風が襲った!

 

 ドゴン!ドゴン!ドゴン!

 

 ダメージ全員100

 

 海斗の残りHPは100になってしまった!

 

テル:私は回復役だから、攻撃を喰らわないように、近寄らないでおきます

 

 テルはユキの後ろにまわり、海斗達のパーティの隣接か近隣からの攻撃を回避してしまった。

 

テル:さて、私たちのルーチンはこんなものです。次はあなた達のターンですが、これでも勝てると言い張りますか?

めぐみ:ぐぅ・・・・仲間をある程度犠牲にしないと、こちらは攻撃できない・・・

ミク:ミク〜、回復対象が一人では、追いつかないミク〜

めぐみ:海斗の回復は召還獣3体に任せて、私たちは仲間を回復しつつ、攻撃しよう

ルカ:しかし、海斗さん、こんな状態でも戦意が感じられません

ネル:支えるリーダーなのに、お荷物かよ・・・・

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海斗:う・・・・・俺は・・・・・

 

 テレッテッテッテー!

 

青い宝石:海斗、おめでとう! また今回も君だけレベルアップだ! 今回のスキルは、

海斗:もう、いいよ・・・

青い宝石:随分、投げやりだな

海斗:メイコの事も、仲間のピンチの事も、全部、俺がまいた種だ・・・

青い宝石:しかし、君がやられたら、ゲームオーバーで“アノ世行き“であると同時に、仲間の奮闘も無駄になるのだぞ?

海斗:仲間はたぶん、またあの扉に戻って、次の挑戦者を待つことになるんだろ?

青い宝石:しかし、メイコはどうなる? あの状態に変わってしまったのだ、同じ扉に戻れる可能性は、ほぼ0だぞ?

海斗:メイコなら・・・きっと、何らかの状態で、この世界にいてくれる・・・。もう、それでいいだろ・・・

青い宝石:・・・・所詮、卑怯者のヘタレか・・・・・

海斗:な、なんだと!!!!

青い宝石:事実を言ったまでだ! 前は“卑怯も俺にふさわしい”とか言ってスキルを受け取ったくせに、女一人にフラれたくらいで、あれもだめ、これもだめ・・・

海斗:・・・・・・じゃあ、どうしろっていうんだよ・・・。さっきのあいつらの攻撃を観ただろ? 仲間が頑張ってくれているのはわかるよ。でも、あの攻撃じゃあ、どのみち、ジリジリHPを削られて、全滅だ・・・

青い宝石:だから、お前の“卑怯”が役に立つんじゃないのか?

海斗:ここでは“自動効果スキル“は無効。更に素早さと運も0。俺の卑怯要素を全部押さえ込んでいるんだぜ?

青い宝石:だから、これからお前が受け取るスキルが役に立つんじゃないのか?

海斗:一撃必殺の攻撃とでも言うのか?

青い宝石:それに近いから、今度のスキルを受け取るには、今のグダグダではだめなのだ

海斗:?

青い宝石:お前・・・自分に根幹の責があるにしても、お前とメイコの関係をこんなにした“アイツら”が憎いか?

海斗:・・・ああ、憎いよ。“きっかけしか作ってない”なんて”詭弁“(きべん)だ! きっかけを作っただけで重罪だ! 俺以上に卑怯者だ!

青い宝石:・・・・卑怯には卑怯で対抗したいか?

海斗:ああ!!! あらゆる卑怯な手段で、この場から消したいと思うね!

青い宝石:よし! その“気持ち”があえば、このスキルを渡してもいい

 

 青い宝石は輝きだして、海斗の周囲をオーラが包んだ。

 

 ギューーーーン!!!!!

 

 海斗の周りのオーラは、消えることなく海斗を包んでいた。

 

海斗:こ、これは・・・

青い宝石:新しい攻撃スキル“アウト・ロー”(無法者)だ。自動効果スキルではないので、制約を受けない、というか、このスキルは、“場の制約“を無効にして、移動、攻撃してしまうスキルだ。ある意味、これ以上の卑怯スキルはないと言えるだろう

海斗:こ、これさえあれば・・・、あの白いアホ毛女や黒い執事やガキを・・・・倒せる!!!!

青い宝石:しかし、くれぐれも使用には注意してくれ。このスキルは使えば使うほど、ココロが黒く、無法な人物に・・・

 

 海斗は青い宝石の忠告を全く聞いてなかった。杖を捨てて、説明が語られている途中から、ダッシュでミキ達の元へなぐり込んでいってしまった!

 

***

 

めぐみ:な! なんだ!? 一体どうしたって言うんだ!?

ミク:ミク〜、なんか突然海斗さんが輝きだして・・・まだ、こっちが回復してないのに・・・

ネル:バカ! 残りほとんどないのに、無茶してつっこみやがって! ほんと、お荷物だな!?

ハク:でも・・・なんか様子がおかしいですよ?

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(ミキまで、あと4マスの地点)

 

 ユキはマシンガンを構えて海斗の前に立ちふさがった!

 

ユキ:ちょっと! 1回の移動力もこっちの制約条件も無視して! どうせ残り少しなんでしょ! このマシンガンd

海斗:ガキ! 消滅したくなかったら、ドケ!!!!!!!

ユキ:!!!・・・・・・は、はい、すみません・・・

 

 ユキはあまりの恫喝にびっくりして、横にどいた後、ぺたんとその場に座り込んでしまった。海斗はユキを無視して、その先へ更に突っ込んでいった。

 

(ミキまで、あと2マスの地点)

 

 執事姿のテルが、立ちふさがっていた。

 

テル:こ、この、無法者が! 私はミキ様を守る役目がある! ユキのようにはどかんぞ!

海斗:なら、消えろ!!!!!

 

 ズバン!!!!!

 

 ダメージ9999

 

テル:ご・・ごほぉ・・・・

 

 海斗の手刀はテルの腹部の急所をクリティカルヒットし、そして海斗は手を戻して、テルを乱暴にどけて、ミキへ突っ込んでいった!テルは元の姿に戻り、ログアウトして消えてしまった。

 

ミキ:きゃあ!!!! こ、来ないで・・・来ないで!!!!!

海斗:もう、遅い!

 

(ミキの目の前)

 

海斗:覚悟は・・・・いいか・・・・・

ミキ:きゃぁ・・・・・・ま・・・待って・・・私たちの・・・負け・・・・

海斗:それはダメだな。落とし前はちゃんと・・・つけさせて・・・もらうぞ・・・・

 

 海斗は手刀を作って、肩の上まで腕を振り上げた!

 

海斗:死ねよ!

 

 手刀はミキに向かって放たれた!

 

 ズバ!!!!

 

 海斗の手刀がミキの腹に突き刺さる前に、何か、別の“モノ”に突き刺さり、ミキに刺さらずに、止まってしまった。

 

 ダメージ4999

 

 手刀を受け、そこに立っていたのは、学歩だった。

 

ハク:え!!!!??? あ!!!! 召還フィギュアの袋がいつの間に!

 

学歩:ごふぅ・・・・か・・海斗・・・・良く聞け・・・今のお前の攻撃は、“誰かを倒す「闘争心」”では・・ない・・・。憎しみだけが膨れ上がって放たれた“誰かを殺す「殺意」”だ・・・・

海斗:が・・・学歩・・・・・

 

 海斗の顔は真顔に戻っていた。手刀を引き抜き、呆然とその場に立っていた。

 

ミキ:が・・・学歩さん・・・・あ・・・ありがとう・・・・

学歩:ごふ・・・・ミキとユキ・・・お前達の負けでいいな? 宝玉を海斗に渡してくれ

ミキ:は、はい・・・

 

 ミキは呆然としている海斗に羊の宝玉を震えながら手渡した。こんな海斗だったが、なんとか受け取ることは出来た。

 

学歩:わ・・・私は・・・・回復のために・・・フィギュアにまた戻るが・・・・青い宝石よ・・・。海斗の憎しみだけを増強させるスキルは封印しておけ・・・・。こんな攻撃、シミュレーションRPGでもなんでもない・・・

青い宝石:わかった・・・このスキルは封印する

学歩:それと・・・海斗よ・・・・憎しみから出る「殺意の攻撃」には・・頼っては・・・・いけない・・・・。どんなに卑怯でも・・・「闘争心」から出る攻撃だけに・・・頼るのだ・・・・

 

 シューーーン

 

 学歩は茄子フィギュアの元の姿に戻り、その場に落ちてしまった。そして、館もヘリポートも消えて、平坦な地面と1つの扉だけが残った。一行はとにかく扉の外に出ることにした。

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(ボカロ界ロビー)

 

全員:・・・・・・・・

 

 海斗が申し訳なさそうに、ようやっと切り出した。

 

海斗:・・・みんな・・すまん・・・今度ばかりはみんなと学歩に助けられた・・・

ハク:・・・・私達3人とも、召還をしてなかった。学歩が自分の意志で無理矢理自分から出てきたらしい

ネル:学歩は大丈夫です。今回は1回と数えられてないから、まだ1回、ちゃんと召還する機会は残ってます

めぐみ:しかし・・・・今回の件は、あまりにイレギュラー過ぎで、私たち全員、何ともコメントできないんだ。あのまま殺意に任せていたら、とんでもない事になっていたとはいえ、殺意攻撃がなくても、ジリジリとHPを削られて、負けていた可能性は高い

ミク:ミク〜、でも海斗さん? もうあんな事、しないでね?

海斗:ああ、スキルも封印されたし、俺も、もう二度とあんな事はしないよ。誓う

ハク:頼むからそうしてよね。学歩だって、そう毎回、アナタのキレる状態を防ごうと思って、無理矢理の自己召還で出て来れないし

海斗:ああ、すまなかった・・・・

めぐみ:とにかく結果的には、難関の羊の部屋はクリアーできた。ただ・・・メイコさんが抜けちゃったけどね

海斗:それも弁明しようがない。原因の元は俺だ。ここにいないということは、どこかの部屋に行ってしまったと思う。もう一度会って、正直に謝りたい。そして“今”の俺の気持ちをちゃんと伝えたい

めぐみ:“メイコさん探し“が加わっちゃったけど。ここのあなたの挑戦は終わってない

ミク:そうミク。次は“8:00の申(猿)の宝玉の守護者達”ミクね。確か、アンとローラとミリアムだったかな

ハク:とにかく先を急ぎましょう。ここでかなり時間を使っちゃったからね

海斗:ああ、次はちゃんと頑張るよ

 

こうして一行は、申(猿)の扉を開けて中に入ったのだった。

 

(続く)

 

CAST

 

工藤海斗:KAITO

0:00の子の宝玉の守護者&案内天使・ミク:初音ミク

1:00の丑(牛)の宝玉の守護者・ルカ:巡音ルカ

2:00の寅(虎)の宝玉の守護者・メイコ:MEIKO

3:00のうさぎ(兎)の宝玉の守護者・めぐみ:GUMI

4:00の辰(龍)の宝玉の双子の守護者・リン:鏡音リン

4:00の辰(龍)の宝玉の双子の守護者・レン:鏡音レン

5:00の巳(蛇)の宝玉の守護者達・ハク:弱音ハク

5:00の巳(蛇)の宝玉の守護者達・ネル:亞北ネル

5:00の巳(蛇)の宝玉の守護者達・テト:重音テト

6:00の午(馬)の宝玉の守護者・学歩:神威がくぽ

7:00の未(羊)の宝玉の守護者達・従者・ユキ:歌愛ユキ

7:00の未(羊)の宝玉の守護者達・従者・テル:氷山キヨテル

7:00の未(羊)の宝玉の守護者達・主・ミキ:miki

 

その他:エキストラの皆さん

説明
○ボーカロイド小説シリーズ第11作目の” 十二支・幻想奇譚 ボカロ界からの脱出!“シリーズの第8話です。
○私の小説シリーズでは、“KAITOにーさん”が初の“主役”を勝ち取った作品です。
○内容は、まぁ、にーさんの代表曲のように、卑怯というか、何というか…。久々に脱出物です。
○なにやら不思議な空間に飛ばされたKAITOにーさん、どうなるのでしょうか?

☆戦闘編なのですが・・・・どうやら、海斗がオカシナ事に・・。
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タグ
Vocaloid KAITO 初音ミク 巡音ルカ MEIKO 鏡音リン 鏡音レン 亜種 インタネボカロ AHSボカロ 

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