cross saber 第17話 《聖夜の小交響曲》編
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第17話〜疾風の((烏爪|うしょう))〜 『聖夜の((小交響曲|シンフォニア))』編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【side マーシャ】

 

 

「ここからは本気でとりにいく」

 

 

その言葉を最後に、彼の纏う気配が目に見えて変わった。

 

その背中は、ロングコートのせいもあるだろうがそれより明確に、闇夜に溶けてしまいそうなほど暗い。

 

 

ーーーーゾクリ

 

 

私は、女、ミーリタニアに感じたものと寸分違わない殺気に思わずたじろいだ。

 

こんなレイヴンは見たことがない。

 

気焔でも諦念でもない。 ただただ底知れぬ深い殺意。

 

先程まで声高らかに罵倒する言葉を並びたてていた女までもが、その口を大きく開けたまま静止していた。 だがそれも数刻のことで、女は微かに歪んだ相貌を消し去ると、獰猛な笑みをたたえて狂ったように肩を震わせた。

 

「ふ……ふふ………いいわ……! いいわよキミ………!! さあ、私を楽しませて御覧なさい!!!」

 

「楽しむ……か………。 楽しんでくれたらそれこそ幸いだ…………」

 

レイヴンは何か逡巡するかのように首を回し、黒光りする刀をガシャリと揺らして短く言った。

 

「いくぞ」

 

ビュッという風切り音。 空気が裂け、大地が唸りをあげる。

 

「!!!」

 

刹那、ミーリタニアの腕が瞬いた。

 

 

轟音。 衝撃。 コンマ一秒と隙のない斬撃の雨。

 

 

刀と爪とがぶつかり合うたびに膨大なエネルギーが炸裂し、波状に大地を揺るがす。

 

 

「っっつ!!」

 

 

その剣戟に先に折れたのはなんと、これまで防戦など寸分も見せなかった女の方だった。 見ると、細身の身体を翻し、大股にステップを刻んで距離をとった女の頬には確かに切り傷がついていた。

 

女はその部分をすっとなぞると、なおも嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「あははっ! ……面白いわ。 これこそ勝負よ!!」

 

「そうか……。 お褒めに預かり光栄だ」

 

たったそれだけ口にしただけで、二人は言外に何かを理解しあったかのように沈黙した。

 

そして不意に、私の視界から消え去る。 影と影とが衝突し、大きな一音を皮切りに、せき止めていた濁流が流れ出たように激烈な戦闘が始まった。

 

レイヴンの剣戟は先程までの沈降が嘘のように速く、優美だった。

 

形にはまらない二刀流。 しかし、洗練された太刀はその一閃一閃が見惚れてしまうほどに流麗で、漆黒のコートをまるでカラスの翼のようにヒラリとたなびかせて戦うその様子は、まさしく剣舞と呼ぶに相応しかった。

 

全方位から降り注ぐ連撃にふと混ざる直突きや回旋斬りが完全に相手の読みを外し、着実にダメージを刻んでいく。

 

だがミーリタニアも、負けじと捨て身の突進撃を繰り出す。 発動準備時間も事後硬直も少なく、その上連発可能らしい必殺の剣技《エクステンド・マーキュリー》を次々と打ち出し、単調なリズムに急激な変化を付けた攻撃を敢行してくる。

 

二人は引き寄せられるように激突し、反発するように乖離する。 幾重もの光芒が流星のように闇夜に儚く四散する。

 

己の命を懸けた真の闘い。 それでも双方の剣は私を魅了した。

 

そして、永遠にも思える剣閃の嵐の中で、ついにその時は訪れた。

 

 

ーーーーガキイィィィィン!!!!!

 

 

一際大きな爆音と共に二人が互いの一撃の威力に弾き飛ばされ、僅かな間が開いた。 束の間の静寂。 ふと、未だ狂気の笑みを切らさないミーリタニアが静閑に溶けるような柔らかな猫声で言った。

 

 

「キミみたいな剣豪と戦えたことを誇りに思うわ。 レイヴン?」

 

 

その言葉を受けたレイヴンの口元の一端が微かに上がった。

 

 

「ああ……俺もだ、ミーリタニア。 …………あんたのその崇高心に敬意を表して、俺の最たる剣技を以ってこの戦いに終止符を打とう」

 

 

彼の纏う黒い気嵩がさらに増大した。

 

ーーー次の一撃で全てが決まる………!!

 

私がそう直感して数刻たがわず、私よりずっと早くそれを予期していたであろう二人が同時に地を蹴った。

 

「ハッ!!!」

 

「ふっ………!」

 

 

 

その時のレイヴンの剣戟は、圧巻だった。

 

彼は交錯の瞬間に太刀の全てを下方から上空へと鋭く跳ね上げ、まさしく天を衝くような連撃をおよそ十に渡って繰り出したのだ。

 

反撃はおろか、防御も回避もまともにする間もないその剣戟に、ミーリタニアはたまらず宙に高く飛んで後退しようと図った。 だが、それは大きな過ちだった。

なぜならーーー

 

 

 

((空中|そら))はレイヴンの((領分|テリトリー))だからだーーー!!!

 

 

 

バサッと漆黒のコートをなびかせ、レイヴンの肢体がまるでその背に不可視の翼でも生えているかのように舞った。

 

女のように白く細い腕が胸の前で交差され、ギリリと引き絞られる。 そして、その二本の刀身に吸い寄せられるかのように漆黒のエネルギーが彼の身体を包む。

 

ーーああ。 あの技は………。

 

月を背に飛ぶ烏が如きその雄?な姿に、私の中でとある記憶がフラッシュバックした。

 

 

私、レイヴン、イサクの三人が初めて剣技の修行を許されたのは、五年も前の事だった。 まだ幼いながらも私とイサクが気合を入れて息巻く横で、彼、レイヴンだけは剣技の修得を拒んだ。

 

その時は今とは全く違ってよく話したし少ないながらも笑顔を見せていたのだが、理由を聞いたとき、子供にしては恐ろしいほどませた調子でーーまあ、それも私が彼に惹かれた様子の一つであるがーー「疲れるし、発動時間の間に何撃も打ち込んだ方が速いから」と言ったことには、さすがの師匠、ファティナも苦笑いをしていた。

 

それ以来彼は剣技の修行を一切行わずにひたすら連撃を磨いていたのだが、その一年後の夏の日、彼は突然ファティナの元へやってきて、落ち着かない様子で教えを請いたらしい。 「俺に上級クラスの剣技を教えてほしい」と。

 

今現在イサクが最も誇っている奥義、《蒼狼》は、その上位剣技に入るのだが、実はそれを会得するには途轍もなく長い修練が必要とされる。 イサク自身もそれを修得したのはつい一年前のことなのだが、それでも驚異的なスピードであるとちょっとした噂になったぐらいだ。

 

しかしながらレイヴンは弱冠十二歳、しかも一ヶ月で、会得に何年かかるかも分からないとされる大技をものにしてみせたのだ。

 

だが、極一部の人間しかその事を知らない。

 

なぜなら、彼自身その技を人前ではほとんど使わなかったからだ。 それに彼はある日を境に、それを封印していた。

 

あれは、そう。 三年前、彼の父親が失踪してしまってからだ。

 

以降、つまりほぼ三年の間、彼のその剣技を見たことがなかったが、私の目の奥には初めてあの技を見た時の衝撃と共に、はっきりと彼の姿が焼き付いていた。

 

 

忘れるはずもない。 あの技は、胸の前に構えた二本の黒刀を斜め十字に斬り上げるあの二刀流剣技は、レイヴンが唯一愛用した、何よりも速い光をも超える最速で最強の上位剣技。

 

その名もーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ゲイル・クロウ……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

空夜を闇が斬り裂いた。 空よりも淡い息、闇よりも深い影が。

 

死神の使者とされる烏の爪が、疾風にして為された十字の傷痕を残して、常夜もろとも女の身体を引き裂いた。

 

 

 

 

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【side カイト】

 

「セアアァァァ!」

 

僕は唯一こちらに分があるスピードで的の背後に回り込むと、コンパクトなフォームで大剣を振り払った。 一閃が、巨躯の腰にザシュッと傷を刻む。

 

「グオオォァァァ!!!」

 

怒号と共に、振り向きざま叩き降ろされた野太刀を回避し、そのまま脇腹に一撃を入れてから離脱。

 

完全に把握した間合いから三歩分引いたところで、敵、大猿の様子を伺う。

 

左肩と腹部に深々と決まった太刀が効いているらしく、奴は身体を大きく揺らしながら荒々しい呼吸を繰り返している。 その黄色く光る目はまさに火を噴かんがごとく燃えたぎっている。

 

案外冷静に状況把握できているように見えるだろうけど、僕も無傷というわけではなく、左脇腹に一撃くらってしまっているが、もう奴の単調な攻撃パターンも掴めた。

 

そう、だから僕は内心どこかで油断していたのだ。 だからこそ、その考えに行きつかなかった。

 

ドウッと地を一蹴した僕の目先で、亜獣は突撃のモーションも見せずに両の手で巨剣を振りかぶった。

 

ーー隙だらけだ。 簡単に背中に回り込める。

 

そう思い、さらに加速しようとした僕の目に飛び込んできたのは赤茶色の光芒。 その異様な閃爍の光源を無意識に追うと、そこにあったのは大猿が大上段に構えた野太刀だった。

 

 

ーーー剣技!!?

 

 

予想だにもしない事態に旋律が走る。 しかし今更制動をかけるわけにもいかず、僕はそのまま突っ込んでいった。 こうなったら向こうより速く懐に潜り込んで、一気に斬り捨てるしかない。

 

だが、またしても変事が起こった。

 

奴は、まだ三十メートルの距離があるにもかかわらず突然咆哮をあげたかと思うと、恐ろしい速さで巨剣を振り下ろしたのだ。 もちろんその太刀は空を斬り、大地を穿ち、勢いよく粉塵を撒き散らした。

 

「!!!!」

 

その時だった。 朦朦とたちこめた土煙の中からいくつもの巨大な岩石の塊がゴウと飛び出してきた。

 

突然の奇襲に対応しきれず、岩石の一つをまともに受けてしまう。 動きの止まった僕に追い打ちをかけるように、さらに三つの巨岩が襲いかかってきた。

 

「ぐっ!!!」

 

重い衝撃が腹部にめり込む。 乾いた息と共に、微量の鮮血が口から吐き出される。 ドッドッと、多々ある岩石群と同じように地を転がり、その度にザラザラした石片が切りつけてくる。

 

僕は数十メートル吹き飛ばされた地点で辛うじて踏み止まった。 ズキリズキリと訴えかけてくる全身の痛みを黙らせて、砂塵の中から猛然と迫ってくる亜獣を睨みつける。

 

ーー地面に大穴を穿って幾つもの巨石を打ち出す剣技か。 どうやら簡単に勝てると思っていたのは大間違いだったようだね。

 

リスクも結構あるけど、出し渋って命を落とすようじゃ元も子もない。 それにセシリアが見てる前でこれ以上不甲斐ない格好は出来ない。

 

それならこっちの秘技も、お披露目だ…………!!

 

 

僕は大剣を横ざまに構え、意識を集中した。

 

精神が一体化したように馴染んだ手中の相方にコネクトするにつれて、ポツリポツリと小さな光粒が溢れ出し、徐々に集合と分裂を繰り返していく。 やがて光は一陣の旋風となって大剣を取り巻き始めた。 眩い程の光芒が暗く沈んだ周囲の景観を明確に切り出し、その一角を秋夕の黄昏に染め上げる。

 

 

 

 

 

「ギルト・クルセイダー!!!」

 

 

 

 

 

叫びと共に空へと突き上げた黄金の剣が、天を射る稲妻の如く瞬き、ゴゥと龍の唸り声をあげた。

 

「綺麗………」

 

背後からセシリアの感嘆の声が聞こえた。

 

確かにその感想には我ながら同感だ。 今の僕の手中にあるのは先ほどまでの無骨な大剣ではなく、無数の光の集合によって形成された黄金の旋風。 深い藍色の中に沈んだこの夜を打ち消し、穏やかな温かさを運ぶ。

 

これが僕の隠し技。 刀剣そのものの形状を変化させる剣技、《ギルト・クルセイダー》。 攻撃範囲、威力を増大する奥義だ。

 

燃費の悪い僕は剣技があまり向いていないのだが、このさらに上位に位置する、諸刃の剣であるあの技を使わないですむだけ幸運だったと言えるか………。

 

僕は形を変えた大剣を後ろに払い、彼女に向かって微笑んだ。

 

 

「長らくお待たせしちゃったね。 でもこれで終わる。 あとほんの少しのご辛抱を」

 

「はい……ありがとう………((カイト|・・・))」

 

 

光に照らされ夕日色に輝くその顔の下で、彼女の笑みが一際強く映えた。

 

僕は頬が緩みかけたのをぎこちない苦笑いで誤魔化し、視線を戻す。 先よりも胸の内の決意が重くなり、身体を包む迷いが軽くなったのを確認し、もう一度愛剣の柄を握り直す。

 

 

そして、地を蹴った。

 

亜獣がここぞとばかりに野太刀を振りかぶる。 その周囲には発動準備の完了を示す薄く濁ったオレンジ色の光芒。 だが、僕は構わず突進を敢行した。

 

「こいっ!!」

 

「グルルアァァァァッッッ!!!!!!」

 

怒声と共に大猿の巨剣が叩きつけられた。 爆風、砂嵐が同時に巻き起こり、またしても幾多もの岩石が飛び出してくる。

 

 

「うおおおぉぉぉ!!!」

 

 

僕は咆哮をあげながら愛剣を両手で握り、鬼神の如く振るった。 ヴォンヴォンと重量感のある風切り音が響き、黄金の旋風が触れる障害物を片っ端から風塵へと化していく。

 

そして、最後の一閃が朦朦土煙を斬り払い、地面に野太刀を尽きたてたままの無防備な大猿を露わにした。

 

大きく開かれ血走った黄色の双眸とビタリと目が合い、今更死を恐れるようにもがく亜獣に対してさらなる怒りを決起した僕は低く吐き捨てた。

 

 

 

「無意味に女性の涙を地に落とさせるなんて………あの世ではしないことだ!!!」

 

 

 

上段に構えた大剣が、地を揺るがすジェット音と共に亜獣の身体を両断した。

 

 

 

 

 

説明
この話が書きたかった!!! 何度頭の中で映像化したことか………。
これぞレイヴンの本気です!!

そして、一ヶ月ぶりのカイトも本気です。 今回は本気の回です。

(書きたい書きたいと思っていただけで、内容は上手くまとまってない恐れが………と言うより、確信的に迷走してます)

どうか、温かい目で見守ってください。
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オリ主 友情  微恋愛 バトル cross saber 

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