悠久の時の流れの中で 〜敢えて矛を手に〜 第一章
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第一章

 第二回 ((受王|じゅおう))、二臣と策謀す

 

 ((女?|じょか))宮より戻ってきた((受王|じゅおう))は眉間に皺を寄せ、苦りきった表情であった。

 

宮殿前で控えていた臣下の慶びの挨拶を聞き流し、外殿から内殿へ歩きだした。

 

外殿と内殿を隔てる((分宮楼|ぶんきゅうろう))、((喜善殿|きぜんでん))を抜け、((顕慶殿|けんけいでん))に入っていた。

 

顕慶殿に入った((受王|じゅおう))は、侍従に((諫大夫|かんたいふ))の((費仲|ひちゅう))と((尤渾|ゆうこん))を呼び出させた。

 

 

諫大夫は、王の近くに侍り、王の言動に過ちがあらば、身を挺して諫言するのが務めの役職である。

 

 

((費仲|ひちゅう))と((尤渾|ゆうこん))の両名は、((受王|じゅおう))が即位した後に、直々に召し出された逸材で、若輩の身ながら((太師|たいし))((聞仲|ぶんちゅう))や((丞相|じょうしょう))((箕子|きし))、((亜相|あしょう))((比干|ひかん))であろうと、過ちがあらば、諫言することを躊躇わない者であった。

 

 この為、朝臣からは((蛇蝎|だかつ))の如く嫌われていた。

 

 しかし、((太師|たいし))((聞仲|ぶんちゅう))や((鎮国武成王|ちんこくぶせいおう))((黄飛虎|こうひこ))から、絶大的な信頼を勝ち得ている。

 ((受王|じゅおう))からも信頼を勝ち得ており、北方七二諸侯の乱の報を知らせたのもこの二人であった。

 

 ((受王|じゅおう))は、顕慶殿に昇ってきた二人を近くに呼び寄せ、子牙と呼んでいた仙人風情の男から二つの竹片を渡した。「綱紀粛正」と「放伐」と書かれた竹片である。

 

 

 ((費仲|ひちゅう))は、険しい表情で言上する。

「陛下の心中はお察しします。しかし、聖徳は三皇五帝に優るとも劣りません。この策を用いれば、その聖徳に重大な瑕疵が付きます。臣らにお任せくだされ、御手に血の汚れは付いてはならないのです。」

 

 

「黙れ!北方の反乱が起きたのにも関わらず、聖徳なぞ余にあるわけ無かろう。」

 

 

 ((尤渾|ゆうこん))が進み出て、言上する。

「聖徳の有無は置いておいたとしても、王者の手が血で染まることはよろしくないことです。」

 

 

「老臣や親族に権力を握られている余が王者であろうはずがない。」

 

 

諫大夫の両名は、黙って頭を下げた。

 

 

「両名と話して、余は決心した。両名の言い分も聞き入れ、明日の朝議で変革の勅を掛けることにしよう。だが、反対多き場合には、もう一つの方針に切り替えることにする。これでよいか。」

 

 

幾分か表情が落ち着いた((受王|じゅおう))は、両名に伝えると、そのまま内殿奥深くへ入っていった。

 

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 翌朝、朝議が開かれると、さっそく((受王|じゅおう))から、統治体制に関する深慮を開帳した。

 

 ((丞相|じょうしょう))((箕子|きし))が天を仰ぎながら溜息をつき、玉座の前にひざまずいて、言上する。

 

 

「老臣、あえて王族の一人として陛下に申し上げます。((殷|いん))王朝を開闢なさった((湯王|とうおう))から綿々と続く祖法を変えることは、((湯王|とうおう))を侮辱なさることであり、先祖に申し訳が立ちません。祖法を変えなければならないほど、国は荒れておらず、無闇に法を変えれば、万民の尊崇と信を失うことになります。邪説に眩惑される事は、王者として避けねばなりません。変法の勅は御撤回なさいますよう、老臣あえて諫大夫に成り代わって御諫言申し上げます。」

 

 

「北方で反乱が起きているのにも関わらず、国は荒れていないと申すか。」

((受王|じゅおう))は怒りを露わにしながら、問いただした。

 

 

 ((亜相|あしょう))((比干|ひかん))が進み出て、言上する。

「北方の反乱は、とうに((太師|たいし))が平定しておられます。祖法に従わぬ蛮族に慈悲を与えるまでに及びません。((殷|いん))の民さえ守れればそれでよいのです。」

 

 

((亜相|あしょう))の言を聞いた((受王|じゅおう))は、苛立ちを隠そうともせず、立ち上がり、内殿に姿を消した。

 

 

「陛下は何を血迷っておられるか。祖法を変えてまでも、((殷|いん))から離れた化生のものを民と同列に扱うなどと。」

((丞相|じょうしょう))は溜息をつき、誰に聞かすともない声で呟いた。

 

 

 

 

第一章 第二回 ((受王|じゅおう))、二臣と策謀す 完

 

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第二回 受王、二臣と策謀す
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