混沌王は異界の力を求める 15
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「報告は以上、かな。周辺索敵はセトさんがやってくれるし、現場検証は調査班がやってくれるけど、皆も協力してあげてね。セトさんの索敵が終了したら撤退するから」

 

言って、手元の資料から目を離し、頬やバリアジャケットを砂塵で汚している新人の子達を見た。誰も彼も、まだ大丈夫ですという意思と極度の疲労が瞳の内側で交互に現れている。

 

「……で、ティアナは……」

 

四人と一匹の中で唯一人、((悄気|しょげ))ているティアナに視線を向ける。アリスの世界に飲み込まれたときとほぼ同時刻にティアナが敵悪魔の策に引っ掛かり危うくスバルを友射しかけたのは既に聞いている。いい((娘|こ))何だけどちょっと一途なんだよね……と同期が聞いたら思わず突っ込みを入れそうな台詞をなのはは心の中で呟いた。

 

「……ちょっとわたしとお散歩しようか」

 

「―――はい……」

 

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「ちょっと失敗しちゃったみたいだね……」

 

「すいません、何とかアイツに一発入れようと思ったんですけど……」

 

「わたしはそのとき別の所に居たし、メルキセデクさんに叱られたみたいだし、ちゃんと反省してると思うから、改めて叱ったりはしないけど、ティアナは時々ちょっと頑張りすぎちゃうんだよね、それでちょっとやんちゃしちゃうんだ」

 

でもね

 

「ティアナのポジションはわたしと同じ、前後左右、何処にも味方が居るの」

 

ティアナの両肩に手を置く、手を置いた瞬間、ティアナの身が脅えたように小さく震えた。

 

「戦場では一人じゃないんだから、今日と同じミスを二度と繰り返さないって、約束できる?」

 

ティアナの瞳を正面から見据える。薄青の瞳は若干戸惑うように左右に揺れたものの最後にはこちらへ真っ直ぐに向いた。

 

「―――はい」

 

「よし、ならわたしからもう言うことは無いよ。約束したからね?」

 

「はい……」

 

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なのはさんがその場から去った後も、しばらくはその場で動けずに居た。頭上を見上げれば、真昼をやや過ぎた頃だろうか、ほぼ真上から木漏れ日が差している。

 

「はぁ……」

 

目を細めそれを見ていると、自分でも意図しない溜め息が出た、それに気付いて口元をはっと押さえるが、溜め息を聞くものは誰も居ないことに気がついて、妙な苦笑いが出た。

 

「ふむ、汝は随分と揺れておるの」

 

突然背後から声が聞こえた、しかしもう慣れた……慣れるほど背後を取られるというのは自分でもどうかと思うが。ゆっくりと振り返るとそこには思ったとおりの姿があった。

 

「だいそうじょう……さん」

 

「セデクに話は聞いたが、しかしまぁ、随分と?れたの、汝は。その様子じゃと、高町以外にセデクにもよほど絞られた御様子」

 

「……いつから聞いてたんですか?」

 

「高町が報告は以上、と申した頃だったか」

 

思わず半目になってしまった。この悪魔の神出鬼没っぷりはよく分かっているが、流石にそこまで前から潜んでいたとは思わなかった。

 

「そう睨むな、汝が一人になるまで、潜んでおったワシの身も考えよ」

 

「女性が一人になるまで潜み続ける男性というのも((傍|はた))から見たら、どう写るか考えてください」

 

「あなや、それは考えにも及ばなんだ、ふむそうか、そういう考えもあるか……」

 

「そういう考えもじゃなくて、そういう考えしかないですからね」

 

「だが、ランスターひとつ尋ねたいんじゃが」

 

「? なんですか?」

 

「ワシは見ての通り、五穀を断ち、即身仏で仏となった身じゃ、己の外見がどの様な物かは水面を見ずとも理解は出来る」

 

「はぁ」

 

「この肉の無い((骸|むくろ))の身を汝に晒した上で聞こう、ランスター。御主、儂が雄に見えるか?」

 

「……は?」

 

待て、何だって? 今コイツは何と言った?

 

「すみません、聞き間違えたかも知れません、え……今何て言いました?」

 

「ん? 聞き取れ難だか、ではもう一度。御主はワシを男と思っていたのか?」

 

―――え?

 

「え? だって、声とか普通に男性の物じゃないですか」

 

「ワシの声帯は既に塵に還っておる。この声はワシの生前のものとは大分違うぞ、この声は口や喉で出しておる物ではない。」

 

「じゃあ……」

 

口を開いて言葉に詰まった。骨格? ダメだ。成人男女の骨格の差など自分は知らない。口調? コレもダメ。ヴィータ副隊長のように男勝りな口調な女性など珍しくは無いし。だいそうじょうの口調はどちらとも取れる。ならば身長? ダメに決まっている。だいそうじょうは僧衣で全身を隠しているし、しかも猫背だ。ちゃんとした身長など分かる訳がない。

 

(あれ? 否定できる材料、無い……?)

 

「…………」

 

「ふむ、まあワシの雌雄など、そんな糧にもならぬどうでも良いことは置いといてだな」

 

「えっ!? いや、あの、結構どうでもよくない事なんですが……」

 

慌てふためくこちらを見てだいそうじょうは歯を鳴らして笑ってみせた。

 

「気は晴れたか?」

 

「えっ?」

 

「ワシは狂言やら能やらに疎くての、昔からコレしか他者の気を紛らわす手段を知らぬ。高町から言を受けているときの御主は、何というかな、河に肉を落とした上、そのままずぶ濡れになった子犬のようじゃった」

 

「子犬って……子どもじゃないんですから、変な風に例えないでください」

 

「ワシから見れば生きておる人間なぞ、みな童子と変わらぬよ。汝はしょぼくれておるより、何時も通りに一歩ひいて冷めた言を放っておるほうが合っている」

 

ああ言えばこう言う、この僧侶に何か言うこと自体が無駄な気がしてきた。

 

「はぁ……それで、何かあたしに何の御用ですか?」

 

本日何度になるか、数えるのも嫌になる程の溜め息の内で、最も脱力したものをティアナは吐いた。おそらく今、幸せという物をメーターで見ることが出来たなら、とっくに零を振り切り、マイナスに突入しているだろう。

 

「セデクは汝の判断を咎め、高町は汝の意思を見た、ならばワシが汝に言う事は何か。そんなことは決まっておる」

 

頬杖をつき、如何にも好々爺といった雰囲気でだいそうじょうは言った。顔に肉がついていれば笑っていたように見えただろう。

 

「汝の策が何故失敗したかだ、汝の事だ、セデクにも高町にも碌に言い訳も弁解もしとらんのだろう? こんな老いぼれなら聞くが、如何にす?」

 

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正面でランスターが数度視線を泳がせた後、ゆっくりと頷いた。

 

甘くなったなと自分でも思う。かつて、八年前にはあの創世の地で、メノラーを奪い合い、殺し合った十と一の魔人の内の一人だった自分が、数年たっただけで、異界で童子の育成する真似事しているとは。

別に落ちぶれただとか、腑抜けた訳ではないと自分では思っている、実際にどうかは知らないが。今でも、死は救いだと信じている、目の前の橙の髪を持つ少女も、迷うくらいなら葬ってしまった方が良いのではと考える自分が居るのも事実だ。

だが、いくら考えはしても行動を起こす気には一向になれない。目の前に生があるなら葬るのが魔人だ。ならば己は魔人としておかしくなったのかと、一時期は頭を抱えもしたが、どうやら他の魔人も似たようなものらしい。ヘルズエンジェルは毎日のように、くびなしライダーやらターボばあちゃんと走り回っているし、トランペッターも、サラスヴァティやアメノウズメ等と何やら励んでいる。

 

「あの方は((妾|わらわ))たち魔人すらも引き付け、変えてしまう王者の品格を備えておるのよ」

 

マザーハーロットが以前洩らした言葉が、今でも頭の内に張り付いているのも、そういうことなのだろう。

 

「だいそうじょうさん?」

 

ランスターの疑を含んだ声で、回想の世界から現実に引き戻された。

 

「…おっと、物思いに耽っておった、すまぬ」

 

ランスターに言葉を返すと、付いていた頬杖を戻し、何時も通りに座禅の姿勢をとる、やはりこの姿勢が最も自分らしい。

 

「で、ワシは汝がしくじった際は建物内部に居た。セデクから大まかな概要しか聞いておらん、御主の口から聞かせて貰えんか」

 

嫌なら構わんが、と付け加えるのも忘れないでおく。ランスターの性格だ、安易な道を示されても必ずその逆に向かおうとするのは既に知っている。

 

「いえ、話しま……聞いてください」

 

一度息を整え、ランスターは話し始めた。

 

「あいつ……ヘカトンケイルでしたっけ? あいつ見た目は完全に人型でしたし、トールさんやスルトさんのように武器を持っている訳じゃなかったので、遠距離からなら簡単に仕留められると思ったんです」

 

「ふむ、それで? どうした?」

 

「腕の射程くらいなら遠目でも分かりましたから、スバルにウイングロードでギリギリの高さで牽制と挑発をしてもらって、隙ができた所にあたしが最大火力で一気に倒そうとしたんですけど……」

 

「しくじったと?」

 

「はい……何発か逸れて、離脱していたスバルの方に……」

 

「それで、セデクが横からナカジマを掻っ攫って何とか直撃は逃れたと?」

 

「はい…」

 

「ふむ……モンディアルとルシエはどうした? 銀竜は火炎……ここでは炎熱系だったか? 炎熱系故、木々に囲まれているここでは参加しないと聴いているが、モンディアルとルシエは見物させていただけか?」

 

「キャロが使える魔法は補助魔法、しかも((身体強化|ブースト))系です。射撃タイプのあたしとは相性が悪いです。エリオはスバル以上に近接向け、しかも一撃離脱です。あの体躯の相手に有効打を与えるには恐らく最低でも五発リロードの上、キャロの補助魔法が必要です。なら遠距離で攻撃できるあたしがやった方が良いと判断したら二人には引かせました」

 

「そうか……」

 

案外考えて動いているものだな、表面だけの策でナカジマを危険に晒したようにセデクは言っていた為、無策で突っ込んだのだと思っていたが、それなりに考えたようだ。この点は素直にランスターを評価した。

 

「それ程まで考えていながら、汝はしくじった。それは何故だか分かるか?」

 

「………」

 

「ナカジマの風道を使いヘカトンケイルを牽制、挑発したのは良い。汝がヘカトンケイルへ射撃をしたのもまた良い」

 

「………す」

 

「ん?」

 

「分かってます。なのはさんにも言われました。前後左右、何処にも味方は居るんだって。エリオとキャロを下げさせるだけじゃなくて、他にも役立たせて上げられた筈です。あたしも射撃だけじゃなくて幻術魔法を使えばメルキセデクさんが戻ってこれるまで時間は稼げたはずなんです」

 

「そうじゃな、ヘカトンケイルは幻術の類に対する耐性は一切無い。使っておれば上手くいったろう」

 

「そうですか……」

 

「よいよい、現実は一回、じゃが過去を振り返るのは幾度でも可能。あのときにこうしておけば、ああしておけば。それで次に繋げられるなら上々じゃ」

 

それに

 

「成長しているのも強くなっているのも汝だけではない。ナカジマもモンディアルもルシエも成長している、伸び悩んだらワシ等を頼れ。ワシ等はその為に人修羅殿に連れてこられたのじゃから」

 

言うと、何故かランスターは一瞬、ほんの一瞬だけ虚を突かれたような表情を浮かべたが、即座にそれは消えた。

 

「ではな、汝もそろそろ戻れ。高町、ナカジマ辺りがそろそろ不審がるやもしれん」

 

言って、主の元に戻ろうと大型宿泊施設の方へ意識と躰を向けたそのときに

 

「あのっ!」

 

背を向けたランスターから声がかかった、首を回してそちらを見てみれば、ランスターが何かを言おうとして言いよどみ、一度言葉をを飲み込み、そして苦し紛れのように、恐らく始めに言おうとしたのとは別の言葉を放った。

 

「だいそうじょうさんのホントの性別はどっちなんですか?」

 

「―――――」

 

その思いもしなかった言葉に顎骨の辺りが音を立てた。頬肉がまだあったなら、吊りあがっていただろう。

 

「さてな―――」

 

明確に答えを示さずに、ランスターの前から姿を消すことにした。

 

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だいそうじょうさんが目の前から消えた。

 

「ん……」

 

ふと頭上を見上げ目を細める。上からの木漏れ日が、先ほどよりも僅かに緩くなっていた。

 

「………」

 

目に入った光を追い払う為に、一度軽く((頭|かぶり))を振り、ホテル・アグスタに足を向け、歩を進める。

 

(強くなっているのはお前だけじゃない、か)

 

だいそうじょうはそう言ったが、はたして本当にそうなのだろうか? なのはさんとの毎日の訓練も激しさと密度こそあれ、充実感と達成感は無く。悪魔たちとの特訓もただ一方的にやられているようにしか感じられない。

他のメンバーは天性の能力と感覚でどんどん強くなっていく、天才が群れて動いているような機動六課に、本当に自分は籍を置いていて良いのかと、疑問に思ったことは一度や二度ではない。

 

(今日の((友人射撃|フレンドリーファイア))の所為で、本当に六課から外されるかもしれないな……)

 

そんなことにはならないだろうとは思うが、いつの間にか新人フォワード陣が三人になっているという、一抹の不安が消えないのも事実だ。しかし、かといってこの場で失点を帳消しに出来るような名誉挽回の機会が訪れるわけはなく、今できることといえば。

 

「はぁ……」

 

溜め息をつきながら、歩を進めるくらいだ。

 

「あっ! ティア!」

 

物思いに耽っていれば、ふと歩を進める先から自分を呼ぶ声があった。下がり気味だった視線を正面にずらし上げて見ればそこには

 

「スバル……」

 

おそらく新人メンバーの内で六課結成前と比べ、最も強くなっている存在が、こちらの名を呼び駆け寄ってくる。周囲に隊長たちや味方悪魔たちの姿が無く、調査班の姿しかない所を見れば、どうやらこの一帯をスバルが一人で仕切っているらしい。

猪突猛進で、デスクワークや資料整理が苦手なスバルが……という思いが、胸の内に湧き上がった

 

(現場の仕事どころか、その他の仕事までなくなっちゃうかもね……)

 

そんなことを思えば自然に口元が自嘲気味に笑った。

 

「ティア……?」

 

「ん、何でも無い」

 

意識して表情を消し、現場検証に加わることにする。

 

(あたしは本当に強くなってるんだろうか……?)

 

その思いは結局、撤収命令が下されても消えることは無かった。

 

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「だからね? オーディン君。ボクはこれを持って帰って、ちょっと((解体|バラ))してマシン達に組み込んで強化しようって言ってるだけっスよ」

 

「莫迦を言え、貴様は先日にも、“よーし、ビットボールが『シナイの神火』を撃たせれるように改造するぞー”と言ってその大半を駄目にしたばかりだろうが。おかげで六〇〇は有ったビットボールが四十を割ったのだぞ、認められるか。今度はナタクあたりに手を出すつもりだろう?」

 

「同じ轍は二度踏まないっスよオーディン君。眼からレーザーは機械のロマンっスよ。何で理解できないんスかチミは」

 

ほぼ完全な形状で機能を停止しているガジェット三型を前にして、二体の悪魔が言い争っていた。オーディンとトートだ。

 

「理解できぬ。何故貴様はそうまでしてマシン共を改造したがるのだ。あんな物、必要最低限の機能さえ備えていれば良いだろうに」

 

「せっかく面白そうなものが転がってるんスから、弄って((解体|バラ))して組み立てるのは悪魔として当然っス。必要最低限の機能だけで良い? そんなだからチミは知識を得ただけで満足しちゃうんスよ。先に進まなきゃ楽しくないんっス」

 

「貴様の場合は前に進むどころか、後退をし始めるから((性質|たち))が悪い。もし今我の眼前に居るのがオモイカネやダンタリアンならば我は一切止めようとは思わない」

 

「はーん。つーことは何スか、チミはただ単にボクが気に入らないだけってことっスか?」

 

二体の魔神が白熱させる除々にずれ始めた議論の元であるガジェット三型の足元、ガジェットを挟んで魔神達とは逆の位置に居るキャロは、険悪なものが混ざり始めた議論を気にもせずにフリードを隣に置き、ガジェット三型の検証を続けていた。この娘も中々に肝が太くなり始めたようである。

 

「………、?」

 

微かに離れた場所から聞こえた草を踏む音が気になり、キャロが視線をふと右に持ち上げてみれば、戦場跡から少々離れた位置にフェイトと、見覚えのある男性が何かを話しているのが眼に入った。

 

(たしか、あの人って……)

 

眼鏡で後ろ髪を纏めたその人物の素性を自分の想像と合っているのか確認する為に、罵倒の混ざり始めた議論を無視してキャロは本部に居るシャーリーに念話を飛ばした。

 

(えっと…シャーリーさん?)

 

(はいはーい、何? キャロ?)

 

(フェイトさんと一緒にいらっしゃるあの人って、確か……)

 

キャロが言葉を見つけるよりも先に、シャーリーがその先の言葉を作った。

 

(ああ、ユーノ先生ね。時空管理局無限書庫司書長ユーノ・スクライア先生。優秀な考古学者としても魔導師としても有名で、その検索魔法や指揮能力で若くして無限書庫の実用を可能にした人だね。なのはさん、フェイトさん、八神部隊長の幼馴染でもあるんだよ)

 

(へぇ……)

 

隊長三人と親密な関係だということは知らなかったキャロは素直にその言葉に感心し、再び視線をフェイト達に向けた、しかし、どうやら念話の最中に移動したらしく、もう既に姿は無かった。

 

「………よし!」

 

一度軽く周囲を見回し、二人の姿が無いことを確認したキャロは、ユーノ・スクライアのことを頭の片隅に追いやり、目の前のガジェットに視線と手を戻し、打撃音と奇声を含み始めた議論を全く気にせずに検証を再開した。

 

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「そっか、ジュエルシードが、ガジェットにね」

 

「うん、調べてみたんだけど、局の保管庫から各地に貸し出されてたはずのジュエルシードが、数年前に盗み出されちゃったみたい」

 

「そっか・・・」

 

自分の責任でもないのに、気落ちした様子のユーノを見てフェイトは自身の口元に笑みが浮くのが判った。

 

「まぁ、追跡調査は引き続きしてるし、私がこのままこの事件を追っていけば、いつかきっとたどり着けるから」

 

「……フェイトが今追ってる事件…って、スカリエッティの……」

 

「うん、でもね、ジュエルシードがガジェットの中から出てきたときに、驚いたのもあったんだけど、それと同時にすごく懐かしかったんだ。さよならもあったけど、あのときのことは私にとっても、なのはにとっても色んな、全てのことの始まりだったから」

 

「そう…か……」

 

ユーノが口を閉じると、両者の間には沈黙が下りた。しかしそれは別段不快な物ではない。二人が二人とも、数年前の出来事、はやてやヴォルケンリッター達とも出会っていない頃の過去にに思いをはせているのだ。

 

「ところでさ、フェイト」

 

「ん? どうしたの?」

 

「これ、大丈夫なのかい?」

 

言ってユーノが自身の前髪を指で軽く巻いた。その動作にフェイトは、ああ、と声を洩らし、自身の金の前髪のうち一房だけ白の色を持ったものに眼を向けた。

 

「人修羅さんが言うには、呪殺に触れた髪が死んだってことらしいんだけど、別に少しの間髪が伸びなくなるくらいで、私自身に実害は無いみたいだから」

 

「………そう」

 

しかしユーノはフェイトの言葉に物憂げな表情を見せた。そして、ちらとフェイトの顔を窺うと、言いにくそうに言葉を作った。

 

「あの、さフェイト、ホントに彼等((悪魔|アンノウン))は大丈夫なのかい?」

 

「え?」

 

「……直にはやてから報告があると思うけど、この間、悪魔との戦闘で初めて戦死者が出たんだ」

 

「………」

 

「今までの二年間で、壊滅こそすれ、死者が一人も出なかったというのが異常なんだけれど……」

 

そこでユーノは言葉を区切った。

 

「実はこれは管理局でも極一部の者のみが知ってる情報なんだけど……彼が、人修羅君がこの世界にやって来てから悪魔達の行動が妙に活発化してるんだ」

 

「………」

 

「なのはのあの事件のこともあるし……ごめん、僕はあまり彼等が信用できないんだ」

 

表情がどんどん暗いものになっていくユーノに、押し黙っていたフェイトが口を開いた。

 

「大丈夫だよ、ユーノ」

 

「え?」

 

「人修羅さん達は大丈夫だよ、私となのはとはやてが保障する」

 

言ってフェイトは口に笑みを作った。

 

「それに、これから((無限書庫|しごとば))に人修羅さんの仲間の、トートさんだっけ? が居ることになったんでしょ? ならユーノもすぐに解るよ」

 

フェイトは大きく前に数歩踏み出すと言った。

 

「少しよく解らない所も有るけど、良い人……悪魔かな? 兎に角良い人って解るから」

 

その瞬間、小さな影が丁度フェイトが先ほどまで立っていた位置へ、風切り音と共に着弾した。

 

「!?」

 

二人は巻き起こった砂煙から腕で眼を守りながら、何が着弾したのかを確かめようとした。

 

「いってーチクショー、あんにゃろーめ。本気で攻撃してくれちゃって、もー」

 

地面に小規模なクレーターが出来ているにもかかわらず、その小さな影は気の抜けた声を放った。

 

「と、トート…?」

 

ユーノが飛来した魔神の名を口にした、しかし当のトートは聞こえていないのかクレーターから這い上がると、物々と呟き始めた。

 

「ちょっと、殴っただけじゃないっスか…って! ちょ…ちょちょちょ!」

 

台詞を途中でトートが不意に上空を見上げ慌て始めた、同じように三人が見上げると、トートの上空に大量の光の矢が構築されていた。

 

『ミリオンシュート』

 

「冗談……!」

 

降り注ぐ矢群にトートはその小さな右手を向け、抱えた魔本を逆の左手で開き、右に褐色の、左に赤色の魔力光を同時に持たせた。

 

『蛮力の結界』

 

トートを包むようにして張られた褐色の障壁に降り注がれる矢群は、マシンガンの駆動音ような音を響かせながら、当たる端から消滅していく。術者はそれをどこからか見ていたのか、矢群が変化を見せた。その数が一気に数倍にまで膨れ上がらせたのだ。

 

『アローレイン』

 

「むっ…!」

 

規模とサイズが膨れ上がったもはや矢群ではなく、矢雨とでも呼ぶべきものに、トートは右手の魔力光を更に増すことで答える。

 

「ちょ…ちょっと待って! トートさん!」

 

規模の広がった矢雨は当然周囲にも被害を与えた。トートが転がり込んできたばかりに、フェイトとユーノも光矢の猛攻を受けた。

 

「くっ……!」

 

矢雨を防ぐ障壁に、褐色のほかに金色と緑色が追加された。

 

「お、重い…」

 

頭上から降ってくる矢の一発一発が素人魔導師の魔力弾に及んでいる。その程度の攻撃なら、たとえ一千発降ろうとも、ここに居る二人の魔導師は防ぎきれる自信はあったが、文字通りの千発を数十回もやられれば、腕にも魔力にも負担がすぐにやって来る。

 

「そこっスね!」

 

耐えるフェイト達を一切無視していたトートが不意に左を向いた、そしてそちらに魔本の中程を開き向け、中に溜め込んでいた魔力を解き放った。

 

『アギダイン』

 

放たれた直系三十センチほどの火球は高速で飛び、フェイトとユーノの間をギリギリで通り抜けると、その先にあった少々盛り上がった地面に着弾した。

 

「ばーん!」

 

火の着弾が生み出したのは、爆発ではなく火柱だった。三重の螺旋を持って天高くまで突き立った巨大な火柱は、周辺の草木を一瞬で灰燼に変え、止んだ矢雨の代わりだ、とでもいうように、火炎と熱風をあたりに振りまいた。

 

だがそれらの熱気を切り裂いて、火炎の竜巻の中から飛び出してくる者がいた。神槍で熱を振り払い、豪風を巻き起こす者、オーディンだ。

 

「フンッ!」

 

槍の魔神は火炎と黒煙を引いて前傾姿勢で着地、そのまま一直線に本の魔神に向かう、高速で駆ける彼が手に持つ神槍には、巨大な緑色の魔力が残光を引いていた。

 

「来たねチミ」

 

対する本の魔神は、先ほどよりも強い魔力光を本に宿らせる。緑と赤の魔力は互いの距離がおよそ十メートルとなったときにその輝きを増大させた。

 

「くらうがいい!」

 

「あげるっス」

 

二人の魔神が同時に放った魔法は大規模な破壊を呼んだ。

 

『マハザンダイン』

 

『マハラギダイン』

 

烈風の生み出す((鎌鼬|かまいたち))は周囲の全てを切り刻み、烈火の生み出す((火焔|かえん))は周囲の全てを焼き尽くした。烈風と烈火は互いを打ち消しあい喰らい合い、しかしどちらも消滅する事無く破壊の規模を広げていった。

 

「ぬぅぅぅ……!」

 

「ちぃぃぃ……!」

 

オーディンの頬を炎が炙る。トートの腕を風が切り裂く。二体の魔神は互いに一歩も引かず、眼を見開き、歯を食いしばり、相手を潰さんとする。だが

 

「止めろ!」

 

『ジオダイン』

 

停止を命令する高い声、それと同時に二体の魔神の中央にそれらを飲み込む巨大な豪雷が突き立った。それは落雷音と雷光を纏って風と火を一瞬で叩き潰し、そして撒き散らされていた熱気と旋風を、雷圧で上書きした。

 

「ほんっとにあんたたちはぁ! いっつもいつも詰まんない事で喧嘩ばっかして!」

 

苛立ちで満ち満ちているピクシーの声が上空から降ってくる。しかしそれを受け止めるはずの魔神二体は既に先の落雷で意識を切断していた。

 

「まったくもう! 荒らすだけ荒らして気絶なんかしないでよ! 片付けるのいつもあたしなんだから!」

 

しかし、二体の魔神を生み出した火や風、矢雨の被害よりもピクシーの放った落雷の生み出した被害の方が遥かに大きかった。

 

「面倒だなぁ、もう……」

 

ピクシーは空中で鳥のように両手を大きく広げて唱えた。

 

『メディアラハン』

 

すると、葉の一枚に到るまで全て破壊されていた草木は即座にその身を水々しい姿へ修復させ、砕かれていた地面は上面に生えていた芝生まで全て再生した。

 

「ごめんねー、こいつらはあたしが後で叩きのめしておくから」

 

そう言って、ピクシーは二体の魔神を抱えてその場を去っていった。ピクシーの小さな体躯に対し、魔神達のサイズが余りにも大きいため半ば引きずるような形ではあったが。

 

「………」

 

「………」

 

残されたフェイトとユーノはしばらくの間、無言でピクシーの去った方角を見続けた。

 

「ユーノくーん、フェイトちゃーん」

 

しばらくする内に、両者の名を呼ぶなのはの声が聞こえ、そしてなのはの姿がフェイトたちの前に現れた。

 

「御免、遅れちゃ……どうしたの?」

 

「…いや、何でもないよ……ねぇフェイト」

 

「何……ユーノ」

 

「…ホントに大丈夫なのかい?」

 

「…大丈夫、だと思う、たぶん?」

 

「……?」

 

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「じゃあな、良い戦場を」

 

言って全身に入墨を刺した青年は席を立つとドアを開け放ち、足音で一定のリズムを響かせながら退出した。

 

「……つ、疲れた…膝が笑ってるよ…」

 

ホテル・アグスタの中ほどにある喫茶。昼も過ぎ、店内に人の姿は僅かしか無かった。その僅かのうちの一席、窓に接したその四人席に一組の男女が座っていた。白のチェアの背もたれに全身を預け脱力しているヴェロッサと、向かいでそれを苦笑いで眺めるはやてだった。ただでさえ長いヴェロッサの髪が、彼が首を背もたれに任せている為に完全に床に付いている。

 

「しかし、何なんだよ彼は、何故会話中なのにあんなに殺気だってるんだよおかしいだろ! 視線だけで殺されそうになったよ!」

 

自棄なのか何なのか、口調すら乱れているヴェロッサ。しかし口は動くものの身体は一切動かそうとしない。

 

「何でか知らんけど、人修羅さん雑談戯言やったら、普通に返してくれるんやけど、場の出来とる話し合いやと何故か硬くなる……というか尖るんよ」

 

「クロノが話しているだけで疲れる奴だと言っていた理由がよく分かったよ……」

 

言ってヴェロッサははやてと共に、先ほど人修羅から渡された二十枚ほどの紙の群れの最上に置かれている、“裁く者”と見出しのある資料の右部に書かれている、ステータスの面をちらと見て、軽いがしかし深い溜め息をついた。

 

「……何度見返しても目眩がするよ。何だいこの異常戦力は、何をしたらここまで異様な戦力が一箇所に集結するんだ、おかしいだろう」

 

ヴェロッサが最上の一枚を手に取った、“裁く者”の下の資料からは“神の如き者”“舞踏王”“這い寄る混沌”の名が続いているのが覗けた。

 

「こっちの基準に合わせて書いてくれてあるのは非常にありがたいんだが……全て測定不能かSSSなのが非常にありがたくない」

 

再び溜め息をついたヴェロッサに、はやてが苦笑をした。

 

「ロッサ、ほんまにコレ呈出するん?」

 

「……僕としては呈出したくない、間違いなく上に悪ふざけの類として見做されて僕は怒られる。しかしそれでも呈出しなければならない、なぜなら呈出しなければ僕は怒られてしまう」

 

ははは、と空笑いを短くし、ヴェロッサは一度髪をかき上げた。

 

「何で僕にこんな厄介な仕事が来るんだろうな、本来僕はフリーの仕事人のはずなんだけどなあ……」

 

「フリーやから、厄介な事回されるんと違うん?」

 

「まぁ、そうだろうね……」

 

ヴェロッサはそこでやっと首を持ち上げ、チェアに座りなおすと、今度は両肘をテーブルクロスに立てた。その動きでテーブルの上にある中身をほぼ残した三つのコーヒーカップが揺れる。

 

「僕が今日与えられた仕事は全部で三つ、まず人修羅君、彼の持つ全戦力を提示させること、彼に何らかの魔力制御をかけさせること」

 

「一つ目は、人修羅さんの仲間が余りにも数が多いから、主戦力の悪魔だけに絞ってもらった、二つ目は人修羅さんの耐魔力が膨大すぎた所為で並大抵の制御では弾かれて、ロストロギア封印クラスにせえへんと封印できへん」

 

「逆にそこまでいくと、今度は時空管理局の沽券に関わるから二つ目は御流れになった」

 

「問題は、三つめの要求やね……」

 

「本当にそうだよ……何なんだよ、管理局の上は何を考えてるんだよ!」

 

言ってヴェロッサは立てていた肘でそのまま頭を抱えた。

 

「クロノが聞いたとき微妙な顔をしたときに気付くべきだった! 僕は鉄砲玉じゃないぞ! ……滅茶苦茶怖かった……」

 

頭を抱えながらヴェロッサは呻いた。

 

「悪魔との戦闘で戦死した管理局実務の遺族に何らかの報償を支払うこと……」

 

ヴェロッサの呻きを最後に、二人は沈黙した。既に店内には二人を除いて座っている者は無く、身動きをするものは何も無かった。数十秒の時間を持って、はやてが口を開いた。

 

「何なんやろな……敵悪魔と人修羅さんはなんも関係あらへんのに、当たり先が間違っとるやろ」

 

「解ってるさ、そんなこと新規の新人でも解るさ……。上が何を考えているのか僕には分からない」

 

ヴェロッサが頭を持っていた腕のうちの右のものを顔にまわした。

 

「結局彼には分かってたけど断られたしね、“戦死したのはそいつが悪い、実務が無力なのは貴様等の自業自得だ”って」

 

「ほんまに今の上は何を考えとるんやろうなぁ……」

 

そこで場には再び沈黙が訪れた、しかしそれはすぐに破られた。

 

「さっきユーノから聞いたんだが……呈出されたはずの人修羅君の無限書庫閲覧許可証が六課のほうに届いていなかった、と」

 

「? それがどうしたんや?」

 

ヴェロッサの突然の言葉にはやては首を傾げた。

 

「君達ほどじゃないが、ユーノとはそれなりに付き合いは長い、彼が仕事に対して些細なことでもミスを犯すことは滅多に無い」

 

「………」

 

「それに時空管理局の電子系はほぼ完璧だ、何かの手違いでもない限り、文書がロストすることはまず無い」

 

「ロッサ……何が言いたいん?」

 

眉をひそめたはやては顔を手で覆ったままのヴェロッサに言った。対しヴェロッサは手の隙間から一度周囲に眼を走らせ何も無いことを確認すると、小さな声で言った。

 

「僕は……許可証が消失したのは、上が何かしたからじゃないかと思ってる」

 

「―――――」

 

その言葉にはやては即座の反応が出来なかった。一秒二秒と時間を刻み、十秒を過ぎたころにはやては眼を見開き、しかし小さな声で言った。

 

「何やて!?」

 

「許可証の消失は上が何かしたからだ」

 

そこでヴェロッサは一度息を吸い込む

 

「いいかい? ユーノの仕事のミスはまず無い、それはさっきも言ったね? そして何かしらの手違いで文書が喪失した。これも無い。六課の電子系は管理局の中でもかなり上位に入る物だ。データの全てに削除不能のバックアップが取られてる、だがさっきシャーリーに確認してもらった際には見つからなかった。そして削除不能のバックアップが唯一削除が出来るのは……上層部だけだ」

 

「な…ん……」

 

「だが、これはあくまで僕の予想だまだ分からない。しかし……彼が、人修羅君が先日言った管理局内部に内通者が居るって件、あれもどうも判っていて放置している様なんだ……

 

「上は…上は何が目的でこんな……」

 

「分からないが、僕は上が過去に悪魔に対して何かあったんじゃないかと思ってる、人修羅君に対する対応がまるで脅えているようにしか感じられない。無限書庫に行くという悪魔が何か見つけてくれれば良いんだが……がどっちにしろこれは僕等の給料元の根本に関わる話だ。あまり口外できない話というのは、分かるよね?」

 

「なのはやフェイトにも?」

 

「はやてが大丈夫だと判断できたら構わない、あまり広まって面白い話じゃないからね」

 

言ってヴェロッサは隣接している窓の外を見た、それにつられはやても視線を同じくする。眼下には丁度正面玄関から外に出た人修羅の姿があった。

 

「彼は、何故か何故なのか、解ってるのかなぁ……」

 

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「何でオーディンはボロクズになってるんだ?」

 

人修羅は全身に焦げ後を作ったオーディンを前にして周囲に尋ねた。しかし人修羅は先ほど自分がトートを呼び出したことを思い出し、ボロクズと化した理由を察した。そして人修羅は回答が帰ってくるよりも先にボロクズに対する興味を一瞬でを失った。

 

「ま、いいや。それよりセト、周辺に何か居たか?」

 

人修羅の言葉に、側に控えていた黒の巨龍は、黄の龍眼で遠方を睨むように眺めながら言った。

 

「オラズ……火ト魔ノ匂イニ((中|ア))テラレタカ……悪魔ドコロカ羽虫スラ……周辺二キロ…四方ニ…何モ居ナイ」

 

「今日の競りは既に終了したのだろう? ならば敵襲はもう無いと考えて良いと思うが」

 

「ですねぇ、検証は私たちの得意とするところではありませんし、主が中から戻ってきたわけですから早々に引き上げます?」

 

そうだなぁ、と人修羅は振り返り、ホテル・アグスタを見上げる。

 

(骨董オークションと聞いて何か出てくると思ってたが……)

 

地下の倉庫から無色のマガタマが出てきたときから、人修羅はオークションについてある予想があった。

 

(魔石、チャクラドロップ。その程度の代物くらいならあると思ったんだが、まさかメギドの石が出てくるとはね…)

 

オークションの最中には、セトとトールに人間に擬態させて、客席の中を探らせていた。オークション品の中に悪魔の道具が混じっていた際にそれを競り落とさせ、人間の手に渡らせぬ為だ。

悪魔の道具は、未熟な人間にとって害悪だ。たとえば過去に行ったとある世界では、反魂香三つで、全国を巻き込む大戦争が起こり、結果として、その世界は創造者が現れる前に滅んだ。

 

(メギドの石程度でそこまで物騒なことにはならないと思うが……まぁするに越したことは無いよな)

 

そう思って自信の行動に頷きを作り、人修羅は周囲にいる仲魔と、別箇所にいるスルトとだいそうじょうに、帰還の命令を送った。

 

(しかし、トールもセト競りが下手だな……。いきなり元値の十倍出すとかふざけてんのか……)

 

資金自体は無尽蔵にあるとはいえ、あまりにも雑な金の使い方は止めて欲しかった、次にアマラに戻った際にルキフグス辺りに何とかさせようと人修羅は頭の隅で考えた。

 

(にしても……)

 

人修羅はもう一度、今日のオークションで出展された品類を頭の中で、一から思い出した。出展許可されたロストロギアというものは、自分達から見れば大した物でもなく、無色のマガタマを除けば、出展された悪魔の道具は何度思い出してもメギドの石一つだけだった。

 

(悪魔がこれだけ出てきてんだぞ?、流れる品が少なすぎる……)

 

普通、悪魔が一〇〇も世界に現れていれば、それに比例して魔石やチャクラドロップなども現れるようになる。それは世界が通常だろうが滅んでいようが関係ない。

だがオークションで出品されたのはメギドの石一つだけだった。魔石程度なら当たり前に存在するものかと思い、先ほど調査班がやって来る前に戦場跡を調査してみたが、魔石どころが傷薬すら落ちていなかった。

 

(どうも妙な世界だな……)

 

世界を渡るようになって数年、こんな世界に遭遇するのは初めてだった。

 

(まいいか、そんな世界もあるって事か)

 

視界の端にスルトとだいそうじょうの姿を捉えた人修羅は六課に戻るために、アマラ経絡を開いた。

 

説明
第15話 疑念、不審、疑心
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タグ
女神転生 人修羅 リリカルなのは クロスオーバー 

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