インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#105
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「さあ、キリキリ吐きなさい。」

 

「偽証は許さん。」

 

「素直に、喋った方がいいと思うよ?」

 

整備科棟第一整備室の一角で一夏は鈴、ラウラ、シャルロットの三人に詰め寄られ、壁際に追い詰められていた。

 

それを遠巻きに眺める箒、セシリア、簪と本音が居るが、箒は一夏と視線を合わせず、残りの三人はどちらかと言えば鈴たちの味方らしく耳をそばだてていた。

 

「ええと、いいのか?機体の整備とか、調整とかしなくても。」

 

一夏は何とか逃げようとそう言う。

 

事実、ここに来ているのは昨日の戦闘で負ったダメージに対する応急処置とエネルギー・弾薬の補充のためだ。

 

「安心して、今、手に負える範囲の事はあらかた終わってるわ。」

 

「修理は発注した部品の到着待ちだ。弾薬とエネルギーは今補充している。」

 

自己修復機能では手に負えない程のダメージを負った部分の部品交換するくらいの処置が、技師でも整備員でもない彼女らの限界であり、その為の部品はつい先ほど発注したばかりだ。

 

「つまり、やれることはもう終わったって事。」

 

「そ、そうか。」

 

シャルロットの要約に一夏は逃げ場はもう無い事を否応なく悟らされた。

 

 

「箒、そこの打鉄用の脚部装甲持って来てもらえる?」

 

「ああ、これか?」

 

「本音は弐式の損傷部の装甲を外しておいて。私は装甲取りつけの準備するから。」

 

「おっけー。」

 

「ビットは…仕方ありません。予備の通常型を積んでおいて…こちらは…」

 

後ろに居る四人は順調に整備を進めている様子だったので一夏は色々と諦めた。

 

 

 

「で、何を吐けって言うんだ?」

 

「お前の様子がおかしい理由だ。」

 

詰め寄る三人組の相手を始める事にした一夏ではあるが、誤魔化す気満々である。

 

「・・おかしいか?」

 

「おかしいんじゃないかな。」

 

「いつも通りなんだが。」

 

「その((いつもどおり|・・・・・・))がおかしいのよ。」

 

三人の言葉の真意が読み取れずに首を傾げる一夏。

 

「アンタ、自分でも判って無いとか言うつもり?」

 

ずいっ、と鈴の指が一夏の鼻先に突きつけられる。

 

「なら、教えてあげる。――いつも通り過ぎるのよ。まるで、『いつも通りを演じているかのように』。不自然なのよ。」

 

そう言われて、一夏はドキリとした。

ドキリとして、そう言う動揺や緊張を見逃さないラウラが居る所で反応してしまった事を後悔した。

 

『これは、ばれたな』と。

 

「図星、か。」

 

案の定、一夏の動揺はラウラにばれていた。

 

「僕たちは一夏の事が心配で…だから、教えて?」

 

シャルロットにそう言われ、視線を逃がすが――

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

後で整備をしていた面々も一夏たちの方をじっと見つめている。

箒は『隠しきれなかった』とでも聞こえてきそうな感じに手を合わせて謝っている様子だったが。

 

「…判ったよ。余計な心配掛けたくなかったから黙ってたんだが―――」

 

観念して、一夏は黙っていた事を言う事にした。

 

「雪片が折れて、零落白夜の発動が上手くいかないんだ。」

 

「………」

 

言われた側としては、言葉が出なかった。

 

「まあ、無いモノは無いで何とかするしか無いんだけどな。――とりあえず、束さんには相談したから当座何とかすれば…」

 

その時だった。

 

 

ズドォォォォォォォン、と擬音すべきな、腹の底から響くような盛大な爆発音と震動が彼らを襲ったのは。

 

 

 * * *

 

「色々と任せきりにしてしまって、済まなかったな。」

 

「いえ…千凪先生も手伝ってくれましたし、((いつもの事|・・・・・))ですから。」

 

「そ、そうか?」

 

『いつもの事』という真耶の笑顔の後に妙に黒々とした『ナニカ』を見た千冬は思わず後ずさる。

 

「そうですよ。いつもいつも、面倒な書類が湧いて出ると私や空さんに押しつけて………ドウシテクレマショウカ。」

 

「や、山田君。なんだか怖いぞ?」

 

やや俯き加減になったことで目元が前髪に隠れて余計に怖くなり、千冬は顔を強張らせる。

…確かに、何かと言って書類関連を周囲に丸投げして他の業務に当たる事が多かったのは事実だから千冬は何も言い返せない。

 

「ソンナコトナイデスヨ?ワタシハイツモドオリ―――ッ!?」

 

その時、二人を轟音を伴った震動が襲った。

 

「なんだ!?」

 

「この振動…爆発?」

 

だが、昨日の一件により稼働可能なISは殆ど無く爆発など起こるが無い。

 

「一体、何が―――」

 

真耶の呟きに答えるかのように廊下の照明が赤に変わり、けたたましい警報音が鳴りひびく。

更には『非常事態警報発令』の文字と最寄りの((避難場所|シェルター))への地図が表示されたディスプレイが数メートルごとに表示されている。

 

『非常事態警報が発令されました。全生徒、並びに職員は直ちに所定の避難場所に避難してください。繰り返します。非常事態警報が―――』

 

「く。―――職員室、織斑だ。何が起こった。」

 

千冬は自身の焦りを感じながらISの通信システムを立ち上げて職員室へのコンタクトを試みる。

 

向こう側も相当な混乱状態にあるのだろう、普段ならば数秒も掛らない所を十秒近く掛って漸く職員室と通信が繋がった。

 

『お、織斑先生!』

 

「何が起こっている?」

 

『しょ、所属不明ISによる襲撃です!』

 

「数は?」

 

『"クラス代表戦"の際に確認された無人IS《ゴーレム》の発展型らしきISを七機確認。現在は整備科棟付近で打鉄弐式とラファール・オーキス、紅椿の三機と交戦中です。』

 

「判った。非戦闘員は教職員含めて直ちに地下シェルターに避難。…昨日の暴走事件もある、舞風以外の訓練機は使用禁止とする。」

 

『わ、判りました。各部署に通達します!』

 

「私と真耶もすぐそちらに向かう。――出撃できる教師は逐次投入でいい、現場に向かわせろ。」

 

『り、了解です!』

 

ぷつり、と通信が切れるや否や、走り出す千冬。

 

「聞いたな、真耶。行くぞ!」

 

突然そんな事を言われてもすぐに反応は出来る訳ない。

 

「ま、待ってください!」

 

置いて行かれそうになった真耶は慌ててその後を追った。

 

 * * *

 

「ダメですわ、一夏さん。」

 

「放せ、放してくれ!」

 

「零落白夜が使えないお前に何ができる。」

 

「今上がっても邪魔になるだけでしょ。」

 

簡易修理を終えた簪、シャルロット、箒の三人が上がった後の整備科室では一夏が他の面々に止められていた。

 

「零落白夜が使えなくたって、牽制と盾くらいには――」

 

出撃しようとする一夏の白式はその手に訓練機用のブレードを握っていた。

 

「だから、それで落とされたらアンタが足手まといになるのよ!それくらい判りなさいよ!」

 

そんな押して押されての問答を遮ったのは、誰かの手を叩く音だった。

 

「はいはい、ちゅうもーく。」

 

「え、?」

 

「篠ノ之博士?」

 

「どうしてここに?」

 

突然のVIP登場に驚く面々。

 

唯一驚いていない一夏は真っすぐ束に視線を向ける。

 

「とりあえず、いっくんを放してもらってもいいかな?エネルギーの無駄遣いだし。」

 

「あ、はい…」

 

束に促されて鈴、ラウラ、セシリアの三人がそれぞれ離れてISを一度((収納|クローズ))する。

 

「んで、いっくんにお届けモノだよ。」

 

束の背後には、何時の間にか現れた装輪式の自走コンテナ。

 

それががしゃんと音を立てて開く。

 

そこには、一本の日本刀型ブレードが収められていた。

 

「束さん、これは?」

 

「雪片弐型・影打。白式に装備させていた雪片の次に上手く出来た子だよ。」

『慌てて引っ張り出してきたんだよ。』

 

そう言われて、一夏は刀鍛冶の話を思い出した。

 

刀鍛冶が注文を受けると何本か作り、その中で最も良いモノを『真打』として納め、残りは『影打』として手元に残すらしい。

 

束も剣術道場の娘であるのだから、刀の話は知っていてもおかしくないと一夏は納得していた。

 

「ほら、みんなを助けるんでしょ?――大丈夫、いっくんなら、どんな険しい道もでも切り開けるから。」

 

「…はいっ!」

 

コンテナに納められていた『雪片弐型・影打』を抜き、構える。

 

今まで握ってきた雪片とは少しばかり違う感覚に戸惑いながらも、その手に掛る重さが一夏には心地よく感じた。

 

「――行きますッ!」

 

PIC起動。

室内にいる面々に影響が無いように注意しながらのスラスター噴射を経て一夏は戦場となった外へと飛び出して行った。

 

 

 

 

 

「………はぁ。全く、いっくんったら。流石ちーちゃんの弟。無鉄砲にも程があるよ。」

 

その呟きと溜め息にようやくフリーズ状態から解放された鈴、ラウラ、セシリアであった。

 

「ええと、篠ノ之博士。どうしてここに?」

 

「ん、ああ。昨日から学園で回収した暴走機の調査してたんだけど、ちょっと揉めてるみたいだったからこっち来たんだよ。」

 

そう言われて、鈴はふとある事に気付いた。

 

『昨日から調査していた。』

 

束は確かにそう言った。

 

ならば、どんなに急いでも――束が持ち歩きでもしてない限りは『二振り目の雪片』がここにあるのはおかしい。

 

「…束さん。」

 

「何かな、鈴ちゃん。」

 

「あの雪片の話、ウソですよね?」

 

「え?」

 

鈴のセリフにラウラとセシリアはただ驚いた。

束も驚いている様子だったが、同時に感心している様子もあった。

 

「どうしてそう思うのかな?」

 

「昨日から学園に来ている束さんに用意できる筈が無い。違いますか?」

 

そう言われて、ラウラとセシリアも気付いたらしい。

 

その視線を束に向ける。

 

「そうだよ。アレは雪片弐型の影打ちじゃ無い。アレは普通の訓練機用と同じ量産型のブレード。」

 

白状した束に鈴は食ってかかる。

 

「それじゃ…零落白夜が使えない一夏をそのまま―――」

「鈴ちゃん、ちょっと勘違いしてないかな。」

 

言葉を遮って宥めるような優しげな声で束は言う。

 

「へ?」

 

「((単一仕様能力|ワンオフアビリティ))は機体――ううんISコアによって発現するものだよね。」

 

「え、はい。」

 

「だから、問題ないよ。」

 

「それは、どういう―――?」

 

判らない鈴とセシリア。

 

ふと、何かに気付いたラウラが束に視線を送った。

 

「はい、ラウラちゃん。」

 

「もしや、零落白夜は雪片で無くても問題は無い?」

 

「大正解。」

 

にっこりと笑う束。

 

「そう、雪片はあくまでも『零落白夜』が発現する際に使っている道具に過ぎない。極論だけど刀じゃ無くてショートソードでもナイフでも…銃火器でも使えない事は無い。――いっくんの『零落白夜』のイメージが雪片で出来てるから、雪片じゃないとダメだと思ってたみたいだけど。」

 

だから、『雪片だ』と騙って普通のブレードを渡したのだ。

それでも、上手く行く確信が束の中にはあった。

 

――何せ、単なる日本刀型ブレードであった初代雪片もシールド無効化攻撃が発現していたのだから。

 

「発動させようとした時にバレるだろうけど、いっくんなら大丈夫だよ。」

 

「………」

 

無条件の信頼とも取れる言葉に、三人は黙り込む。

 

「さて、みんなの機体の応急処置を始めるよ。――箒ちゃんもそうだったけど、守られてばかりは柄じゃ無いでしょ?」

 

「はいっ!」

声が、重なった。

説明
#105:雪片の真実



明日から3週間の教育実習に入ります。
なので、次の更新は恐らく7月近くになるかも知れません。
………実習期間中の日曜日とかに一気に書いて一気に投稿する可能性も否定しませんが。
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コメント
感想ありがとうございます。山田先生はもっと早く爆発しても良かったと思います。空みたいに、生徒会長をボコしてみたりで。白式の拡張領域は雪片で埋め尽くされてますのでやっぱり最初の頃は近接格闘戦しかできない子ですよ? では、教育実習頑張ってきます。(高郷 葱)
追記:趣味に没頭することも大事ですが、教育実習も是非頑張って下さい。私の方も本来なら昨日から5日間似たようなものに参加する予定だったんですけれども、とある事情によりあえなくキャンセル。運が良いのか悪いのかで宙ぶらりんな気分ですが、陰ながら応援しております。(組合長)
更新お疲れ様です。いきなりの襲撃の展開にびっくりしました。そして山田先生がついにハジケテ怖い。零落白夜の考察は面白いな、と思いました。実は近接特化な機体じゃなかった白式。この理屈なら射撃だけではなく殴り合いでも使えるそうですね。(組合長)
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