ゆり式
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【唯視点】

 

 先日家族とちょっと長めの旅行に出たはずの縁が今私の目の前にいる。

普段のように小説を読みながら過ごしていた私はインターホンが鳴って

玄関の扉を開けたのと同時に固まったのだった。

 

「え、生霊?」

「え〜…私生霊なの〜?」

 

「そんなわけないな」

 

 いつものように涼しげな笑顔を振りまいていた縁の表情が変わる。

眉が困ったように目は細めている。

 

「どうしたんだよ、連絡も無しに」

「うん〜、なんとなく?」

 

「いや疑問符つけられてもな」

「えへへ〜」

 

 すぐにまたかわいらしい顔を浮かべて逸らそうとする。

いつもならスルーしてもよかったけれど、いつもと状況が違うために

私は食いついて離さない。

 

 私のしつこさに折れた縁はしょんぼりしながらも語ってくれる。

 

「あのね〜。行ってみたら家族だけじゃなくて親戚も来ててね〜」

 

 ゆったりと話し始める縁に対して真剣かつ、相槌も交えながら聞く。

 

「何だかお正月のこと思い出しちゃって…疲れちゃったの」

「そっか、疲れちゃったのか」

 

 多分普通の疲れとは違うものだろう。縁は家庭のことに関しては

無理しそうなほど頑張りそうだし。

 

「だから唯ちゃん成分求めて訪ねてきたの〜〜」

 

 細い目から涙目になって私に両手を前に出してきた。

抱かせてとか言われそうな予感…

 

「抱かせて〜」

 

 ピンポイントであった。

 

「それより勝手に抜け出したとかないよな。親とかお兄さんとか心配してないよな?」

「それは大丈夫。私の様子がおかしいのわかってくれたから」

 

 解放してくれたという。まるで拉致された人質のような言い回しである。

そんな弱った縁に断ることなどできるものだろうか。

 

 私は火照る顔を隠しながら肯定する言葉を送る。

 

「わぁぃ、ありがと〜。唯ちゃ〜ん」

 

 言い終わる前に飛びついてくる縁。彼女の胸が腕に押し付けられ

その柔らかさに私の心臓は更にドキドキの速度が上がっていく。

 

「んふふ、唯ちゃんの匂いだ〜」

 

「そんなに嬉しそうにされても複雑だな」

「どうして?」

 

「恥ずかしいんだよ!」

 

 縁の柔らかさが匂いが私の鼻腔と体の感覚を刺激する。

もうまともに縁の顔も見れないかもしれない。

 

「そんなことないよ、私は唯ちゃん大好きだよ?」

「私も好きだけど…」

 

 それは友達って意味の好きってことで。そう言おうとしてやめた。

何か胸に棘でも刺さったように痛かったから。

 

「そもそも、疲れて帰る先がなんで私の家なんだよ。自分ちでもいいだろ」

「んーん」

 

 きれいな髪が左右にさらさらと揺らされる。縁は首を横に振っていたから。

 

「唯ちゃんじゃないとダメなの」

 

 言葉は途切れずに私の目を見て縁は話を続ける。

 

「唯ちゃんは私の心の癒しなの。ここじゃないと、私の心は壊れちゃいそう」

 

 お金持ちのお嬢様だから付き合いで色々大変なんだろう。

上辺だけの同情しかかけることができなくて。そういえば私は縁になにを

してあげていただろう。

 

「唯ちゃんに対しての好き、は。もちろん友達や親友のそれもあるけど…」

 

 そのあと、普段見せないような恋をした乙女のようなちょっと恥じらいのある

顔をしていて。

 

 それがあまりに可愛くて私はドキッとした。

 

「できればその…恋人みたいな感じでも意識はしてるよ?

えっちなことでからかったりしてるけど、本気だよ?」

「縁…」

 

「ごめんね、唯ちゃん…。こんなこと言っても困るよね?」

 

 話が途切れた後、僅かに震えてることに気付いた。

縁が自分から離れようとした時、私は無意識に縁を抱きしめた。

 

「唯ちゃん?」

 

 勇気を出して話してくれたのに、私は逃げようとするのか。

縁を守る気持ちが強かったのにいざとなったら引くのか、私は。

 

 私は私自身が嫌になりそうだった。

 

 こんな、自分の本当の気持ちから逃げるような真似はしたくはない。

 

「私も…」

「へ?」

 

「私もずっと縁のことが好きだったんだ…小さいころから」

 

 気付いたのは中学生くらいのとき。でも、今思えば出会った時から

意識をしていたのかもしれない。言葉を知らなかっただけで。

 

「私も縁のこと大好きだよ…」

 

 精一杯言った言葉に縁の表情はいつもの眩いほどの笑顔よりも

更にまぶしく私の目には映った。

 

「唯ちゃん…」

「縁…」

 

「唯ちゃん顔真っ赤でかーわい〜〜」

「からかうなよ…!」

 

「うん、ありがとう。嬉しい」

 

 そして誰からかは覚えてないけれど。自然と二人で見詰め合った後に

互いに口づけをしていた。うっすらと湿っていてぷるっとした

縁の柔らかい唇の感触が心地よかった。

 

 現実かどうかわからないあやふやでふわふわした気分が私を包み込んだ。

恋人ごっこと言われても反論できない。出来たてほやほやのこの関係。

それでもちゃんと縁を守れるように私は努力していきたい。

 

 胸を張って縁を恋人だと言えるように、私は頑張ろうと考えていた。

 

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「へいへーい、お二人さんお熱いですなー」

「どこのナンパ野郎だ」

「ゆずちゃん、おはよー」

 

 休日があっという間に過ぎ去り、いつもの日常が戻ってきた。

この時間が私の心の穏やかさを与えてくれる。

あ、でも。厳密にいうと「いつもの」ではなくなってるわけで。

 

「おー、二人とも手なんか握っちゃって。おじちゃんに教えてごらんよー」

「あはは、ゆずちゃん面白い〜」

 

 ゆずこの言う通り、私と縁は登校時に会うと、縁から手握ろ〜って

誘いをかけてきた。当然恥ずかしがる私に縁は…。

 

『恋人同士は手を握って歩くのがふつうなんだよ〜』

 

 って気の抜けたような声で言うものだから、流されてしてしまったが。

やはり指摘されると気恥ずかしいものである。

 

「やっぱりチョメチョメなことやっちゃったのかい!?」

「おっさんかお前は!後、しつこい!」

 

「そんなに怒らんでも…」

 

 あまりに否定するからちょっと引いてるゆずこと寂しそうに見る縁の

姿に正気に戻り…。

 

「あ、ごめん…」

 

 特に縁の目の前でこんだけ否定するのはまずかったかなと思った矢先。

 

「ほら、ゆずちゃん。唯ちゃん謝ってるよ」

「ねぇ〜、珍しい!」

「お前らなぁ!」

 

 と、言いつつも少し表情がほころぶ私。

清々しい天気の下。こうやって何気ないやりとりが味わえるのは

ある意味贅沢なんだなって。縁が教えてくれる。

 

 本当に、毎日が楽しくて仕方がない。

 

説明
正月の話の時思ったんですが、縁にとっての「癒し」は唯だけなんじゃないかなって。ゆずことも楽しい時間送れるけど、唯はまた特別な気がします。前から書きたかった作品ですが、アニメ化もしたのでちょうどいいなと思い書いてみました。距離感が近い百合もいいもんだなぁって思います(´ω`*)
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ゆゆ式 櫟井唯 日向縁 野々原ゆずこ 百合 

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