真・恋姫†無双〜絆創公〜 中騒動第一幕(前編)
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真・恋姫†無双〜絆創公〜 中騒動第一幕(前編)

 

 集合場所として、半ばお馴染みとなっている大広間。ここでは今回の一件に対しての軍議の他に、来客である北郷一家がくつろぐ場所の一つとなっている。

 今ここには、小さな円卓を囲んで三人の女性が椅子に掛け、談笑している。一刀の母親である北郷泉美と、新しい仲間となったアオイとクルミだ。

 円卓の上には、緑茶の入った各々が愛用している湯飲みの他に、五、六冊の本が置かれている。話が弾んでいるのはその内の一冊に関してで、円卓の中央でそれを眺めながら三人は話していた。

 

 それは、北郷一家の思い出の詰まったアルバムだった。

 

「あら。懐かしい写真が出てきたわね〜!」

「ほう……これは」

「わ〜! 凄い素敵〜!」

「やっぱり二人も興味はあるの?」

「まあ、女性であるならば当然かと……」

「憧れだよね〜!」

「そうよね〜。でも二人も、凄く綺麗になると思うわよ?」

「い、いえいえ! 私など、このようなものは……」

「そんな事言わないのよ? アオイちゃんも女の子なんだから、そうなる権利がちゃんとあるのよ」

「は、はあ…………」

「ニシシシッ! アオイ姉さんはこういうのは苦手なんだよね!」

「う、うるさいな!」

「実はね……ここに来るときに、ヤナギさん達に頼んで、“これ”を持ってきて貰ったの」

「えっ、本当!?」

「ええ。もし良かったら、ここにいる皆にどうかしらって思って……」

「確かに、皆様が喜ぶのは間違いないと思いますが……」

「たぶん、ケンカになると思うよ? それもスッゴい激しく……」

「私もそう思ったの。だからね? 内緒で一人の子に協力して貰って…………」

「おー! 何か面白そう!」

「アオイちゃんとクルミちゃんも、協力してくれるかしら?」

「それは構いませんが、誰なんですか? その子というのは……」

「もうそろそろ来る頃だと思うんだけど…………」

 

 

 

−…………失礼しますなの〜!−

 

 

 

 会話の途中、可愛らしい声が三人の耳に届いた。声のした方向を見ると、そこには一人の少女が入り口に立っていた。

 茶髪の髪を片方にサイドアップ&三つ編みして、眼鏡にソバカスがチャームポイントの少女、于禁文則。真名を沙和という。

 少女の姿を確認すると、泉美は笑顔で立ち上がった。

「あら、沙和ちゃん! 来てくれたのね!!」

 泉美は円卓の上に置かれていた残りの本を持って、やって来た少女へと歩み寄った。

「隊長のお母さん、ごめんなさいなの。お仕事が思ったよりも長引いちゃったの〜……」

 近寄る泉美に対して、少し申し訳なさそうに頭を下げる。そんな事など気にしていないのか、笑顔を崩さずに少女の前までやって来る。

「ちゃんと仕事を最後までやって来たんでしょ? 途中で放り出すよりも、そういう責任感のある子の方が大好きよ」

「え、エヘヘヘ……///////」

 褒められたことが嬉しかったのか、胸の前でせわしなく指がチョコチョコと動いていた。

「あっ。それで、沙和に渡したいモノって何なの?」

「あ、そうそう。この本、沙和ちゃんなら喜んでくれるかなって……」

「……ッ!! これって!?」

 

 そう言って沙和の前に差し出されたのは、洋服のカタログやファッション誌の束だった。

 

「ここに来る前にね。沙和ちゃんが、オシャレが大好きだって聞いてね。私達の家にある本の中から良さそうなのを持って来たんだけど……」

「スゴーイ!! 綺麗な服がいっぱいなのー!!」

 一冊を手に取り眺めている沙和は、これ以上は無いくらいに瞳をキラキラさせている。

「良かったらこれ、全部沙和ちゃんにあげるわよ? 今後の参考になれば良いんだけど……」

「スッゴく嬉しいの! 天の国の服が作れるなんて夢みたいなの! ありがとーなのー!!」

 キャイキャイとはしゃぎながら、貰った本を胸に抱いてクルクルと小躍りしている。

「気に入ってくれたみたいで、私も嬉しいわ〜」

 そんな沙和の様子を、本を渡した泉美と、その少し後ろで椅子に腰掛けているアオイとクルミも嬉しそうに眺めていた。

 

「……あ、あとね。沙和ちゃんに頼みたいことがあるんだけど」

「なになにー? 沙和、本のお礼に何でもやっちゃうのー!!」

 

 

 

 時は少し経過し、ここは中庭。

 ここにも一人の少女が、周りを見回しながら歩いていた。

 何かを探しているであろう仕草をしているこの少女。紫の髪をツーサイドアップにして、ビキニにも似た露出多めの服装をしているこの少女は、李典曼成。真名を真桜という。

「うーん、どこおるんやろ……」

 片眉を上げ、腰に手を当ててキョロキョロ見回している。かなり長い時間探しているのか、軽くため息を吐いている。

「真桜!」

 自分の真名を呼ばれた少女は、声のした方向を振り向く。そこには自分の親友の一人である少女がいた。

 銀髪の長い三つ編みを背中に流し、生来の真面目さをその凛々しい顔つきに表した、楽進文謙。真名を凪という。

「おー、凪やん。どないしたん?」

 右手を挙げて、自分を呼んだ凪へと歩み寄った真桜。対照的に、呼び掛けた真桜に小走りで駆け寄った凪。

「真桜。隊長を見かけなかったか?」

「なんや。凪も人捜しとるん?」

「真桜もか?」

「ウチは沙和や。ちょっと聞きたい事あるんやけどな〜……」

「私も、隊長に確認したい事があるんだが…………」

 お互いに用件を打ち明けると、二人は一緒に歩きながら辺りを見回した。

 

 と。二人の足はほぼ同時に止まる。

 大広間の入り口に、小さく人集りが出来ているのを見つけたのだ。

 

「なんや、アレ?」

「行ってみよう」

 

 入り口の前。その扉の左右には、スーツ姿の男が二人立っていた。向かって右側には、通称軽はずみスーツのアキラ。左側には、通称自業自得コートのリンダがいる。

 そして、彼らが喋っている様子から、恐らく何らかの説明をしているのだと予測できた。

 それを聞いているメンバーは、霞、季衣、風の三人だった。

 

「霞さま。これは一体何事ですか?」

 疑問符を浮かべた凪が、一段に近寄りながら問い掛ける。声に反応して霞が振り返った。

「おー、凪っちに真桜ちー。ウチらしばらくは一刀に会えんみたいや」

「は? 姐さんいきなり何ゆーてんの?」

 唐突な話題提示に、真桜だけではなく凪も浮かべる疑問符が増えた。

 霞の言葉を引き継いだのは、残る季衣と風であった。

「兄ちゃんと兄ちゃんの家族が、“けんこーしんだん”をやってんだって」

「その為に、大広間を貸し切りにしておく必要があるそうですよ」

「???」

 二人の説明を聞いても、凪と真桜はいまいち納得出来ていなかった。

 

 そんな中、僅かに溜め息を吐きながらリンダが口を開いた。

「天の国では、いろいろ技術は進歩しているんですけど、反面人間の能力は低下していたりするんですよ。特に病気に対する免疫力に関してはね」

 先に来た三人にも同じような説明をしたのか、少しうんざりした様子で語り出した。

「ですので。皆さんがこの世界に来て、もしかしたら厄介な病気にかかっていないか。もっと言えば、今回の一件に関与した何者かに毒でも盛られていないか。それを確認するための作業を俺達がしている、という訳で」

 

 説明を受けた二人はなるほどと納得していた。……が、途中で真桜だけが首を傾げていた。

「ちょい待ち。それやったらここに最初に来た時に、隊長に使ったヤツでええやんか。何で広間閉め切るん?」

 真桜の言う、一刀に使ったヤツ。それはアキラが所持する、小型の機械である。確かにそれは小難しい事もなく、ものの数秒で一刀が健康であると診断していた。

 

「そうなんですよ……。それが使えれば、こんなまどろっこしい事しなくて済むんですが……」

 先程よりも更にうんざりした様子で語り出したリンダの横で、名前の挙がったアキラは顔を俯かせた。

「使えへんの?」

「ええ。“誰かさん”が興味半分に分解してしまって、装置が悲惨な状況になりましてね〜……!」

 語尾を伸ばしながら移した視線は、いつの間にか土下座の態勢になっていた隣のアキラに向けられている。

「結果、時間も費用も大幅にかかる方法になりましてね。おまけにそれは、関係ない人間を診断する場所から隔離しなくてはならないので、こうやって皆様に注意を促さなくてはならないんですよ〜……!!」

「すいませんすいませんすいません」

「おまけに、壊した事を報告する為に主任はまた頭を下げています……。妹の佳乃様は診断が終わって警邏に出ていますが、まだ泉美様は終わっていません……。女性を検査する時には、俺らはこうして追い出されますし……」

「だから僕はすいませんと何度も謝ってんじゃありませんか」

 抑揚なしの謝罪の言葉は、機械的にしか聞こえない。事務的なやり取りにリンダは納得出来なかった。

「何なら一週間の間、俺ら役員のご飯でも奢って貰いましょうか?」

「いやいやいや! ちょっと?!」

「それくらいの手間は掛かるんですよ。原因の先輩が何もしないなんておかしいでしょ?」

「そりゃ分かるけど! 俺は歓迎会の出費だってあるんだぞ!?」

「ああ。ついでですから、皆さんもご要望があれば……張遼様はどうです?」

「うぉいっ!!!?」

 土下座を崩さずに、どこから出したか分からないような雄叫びを上げるアキラ。

 

「あっ、じゃあウチは老酒十本で!」

「んなっ!?」

「ボクもご飯食べたいなー」

「ぶほっ!?」

「カラクリ開発の費用って、出してくれるん?」

「げふぁっ!?」

 

「えー…………。今のところ、御要望はこれぐらいです。何とかなりそうですか、先輩?」

「………………頑張りま〜す」

 少し前のリンダのように、うずくまってむせび泣いているアキラ。不謹慎ではあるが、それを見たリンダは幾分気が晴れた。

 

 と、リンダは何かを思い出したような顔になった。

「そうだ……。楽進様、一つ御報告が」

「ハイ?」

 名前を呼ばれた凪は、リンダに顔を向ける。

「于禁様にお会いした時には、何らかの覚悟をしておいた方が宜しいかと……」

 また訳の分からない事を言われて、凪は再び首を傾げる。

「いえ……。実は于禁様が、泉美様から服の本を何冊か貰い受けてまして。泉美様からの頼みというのもあるんですが、その中から何着か作る予定らしいんです……。で、その為に……」

「あ………………」

 リンダが言い澱む途中で、凪は察しがついた。沙和はまた、自分に試着させる気なのだ、と。

「于禁様は今頃、服屋の主人と話し込んでいる途中だと思いますよ。少し前に城をもの凄い速さで出て行きましたからね……。“革命を起こしてやるの〜!!”とか何とか叫びながら……」

「……………………」

 一体どんな服を試着させられるのか?

 泉美が頼んだ事とは言え、凪は不安でしょうがなかった。

 ふと視線を霞にやると、“諦めい”と言わんばかりに首を力無く横に振っていた。

 今後の自分の扱いを想像して、凪はウンザリしたように肩を落とした。

「えー、皆さん。とにかく今は広間に入ることも、北郷一刀氏に会う事も出来ません。要件が終わりましたら、こちらから連絡しますので…………」

 申し訳無さそうにリンダは皆に頭を下げる。

「まあ、そういう事なら致し方ありませんね〜。お兄さんとご家族の皆さんには、宜しくお伝え下さい〜」

「あーあ。兄ちゃんと遊びたかったなー……」

「あ。そう言えば、凪と真桜は一刀に会うつもりやったん?」

「あ、イエ。自分はそれ程急ぎの用件ではありませんので……」

「ウチは沙和捜しとったんやけど、まあ邑に行けば多分会えるやろ」

「皆さんには大変ご迷惑をおかけして……申し訳ございません」

 先程よりも深々と頭を下げたリンダを見て、皆は少しつまらなさそうにその場を離れた。

 ゆっくりとした足取りで散り散りになる女性陣に頭を下げ続ける男の隣では、いまだに嗚咽を漏らしているもう一人の男がいた。

 

 

 

 

「…………皆さん行きましたよ、先輩」

 注意深くなければ聞き逃すような声でリンダは呟いた。隣で泣いていたアキラは、その声を聞いて立ち上がる。

「何とかごまかせたかな?」

 先程まで泣いていたはずなのに、涙の後など一切無いケロッとした表情でアキラは話す。

「どうでしょうねぇ。一応は警戒しておいた方が宜しいかと」

「まあ、聞いて分かってくれる人達で良かったよ。さっき夏侯惇さんに会った時は大変だったな?」

「“ゴチャゴチャ言わずに、さっさと北郷を出せ!”ですもんね……」

「何とか言いくるめたけど、これを何回も説明しなきゃならないのかよ〜……」

「ま、仕方ありませんよ。泉美様のお気持ちも、分からないではありませんしねぇ……」

 苦笑を浮かべながら、扉に目をやる。

 おそらく中では、準備が着々と進んでいることだろう……

「よしっ! 乙女の夢を守る為だ。頑張るぞっ!!」

「ええ。その通りです」

「…………ところで、リンダ」

「はい?」

「さっきのさ……その、皆さんの御要望の……件なんだけど……」

 アキラは商人のように揉み手を繰り返し、リンダの顔色を伺っていた。

「……俺と折半にしましょうか?」

「助かりますっ! いやー、持つべきものは良い後輩だよ!」

 心底明るい笑顔になるアキラに、リンダはやれやれと溜め息をついた。

 

 

 

 

 

「なーんか怪しいな……」

 沙和を捜すために邑を歩き回る中、真桜は呟いた。その隣を歩いていた凪は、突然どうしたと顔を向けた。

「あの二人、ウチらに何か隠してるんちゃうやろか?」

「何故そう思う?」

「いや、何となくやけどそう思うねん」

「理由もなしに疑うのは失礼だぞ。あの二人は隊長と、隊長の御家族の為に動いてくれているんだ」

 呆れたように、ジト目で隣の真桜を見やる。

「沙和の事やけど、あの時に言う必要あったんか?」

「どういう事だ?」

「何かあの言い方。まるで沙和が城にはおらんって強調するような感じやった……」

 腕組みをしながら、真桜は険しい顔になった。

「じゃあ沙和はあの時、まだ城にいたって事か?」

「下手したら、あの時広間の中におったんちゃうかと思う」

「考えすぎだ。大体、そんな事してどうしようって言うんだ?」

「何をしてるかはウチにも分からへん。ただ、確かめる方法が無いわけやない」

「何をする気だ……?」

 

 

「あら。凪と真桜じゃない」

 考え込んでいる二人の隣から、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 目をやると、そこには自分の上司達がいた。

 

 黒髪ロングに左眼に蝶の眼帯をしている、夏侯惇元譲。

 その妹で、淡い水色の髪を持ち、その前髪を幾つか右眼の前に出している、夏侯淵妙才。

 

 そして、凪と真桜に声をかけた少女。

 金髪のツインテールを巻いて、小柄な体格。しかし、そこから醸し出される覇気は王者の風格漂わせる魏の覇王、曹操孟徳の三人。

 

 ……と。その後ろに隠れるようにして立っていた少女。北郷一刀の、そして彼の想い人の妹である、北郷佳乃がいた。

 

「華琳様、春蘭様、秋蘭様、佳乃様、警邏お疲れさまです!」

 生真面目な凪らしく、各々の真名と名前を呼びながら一礼する。

 そんな凪を見てニコリと笑った曹操。華琳は頭を上げるよう言った。

「貴女達は食事にでも来たのかしら?」

「いえ。自分達は沙……」

「ええ。まあ、そんなトコですわ」

 喋っていた凪の口を抑えて、真桜が割り込んできた。

「ま、真桜っ。何を……」

「ここはウチに任せとき」

 小声で耳打ちする真桜。凪は迷惑そうな顔で一旦引き下がる。

 

「華琳様たちは、佳乃の警護しとるん?」

「ええ、そうよ」

「いやー、佳乃は凄いなっ! ちょっと歩き回っただけで、民がこんなに貢ぎ物を渡してきたぞ!」

 豪快に笑いながら手に持っていた袋をガサガサ鳴らす春蘭。中には、食べ物の他に衣類や装飾品なんかも入っていた。

「姉者。貢ぎ物と言うと聞こえが悪い。差し入れと言うべきだ」

 隣で姉の言葉を正す秋蘭。そんな彼女も同じように“差し入れ”を貰い、ほんの少し嬉しそうな雰囲気を見せる。

「驚いたわ。まさか佳乃がこれほどまでの信仰を集めていたなんて……」

「そ、そんな……信仰なんて大げさなものじゃ……」

 やっと口を開いた佳乃は、顔を赤らめながら華琳の言葉に首を横に振る。

「謙遜しなくても良いわ。寧ろ誇りなさい。これが貴女の素質なのよ」

「は、はい…………」

 顔の赤みは戻らぬまま、俯いてしまった佳乃。しかし、その表情はどこか嬉しそうに見えた。

「で、華琳様。警邏はもう終わりなん?」

「ええ。これから城に戻る所だけど?」

「警邏の途中、誰か知ってる人間に会いました?」

「それは身内と言う事かしら? だったら会わなかったわね」

「ふーん……」

 なるほどなるほどと頷きながら、真桜は違う人物に目線を移す。

 

 見つめられた人物、北郷佳乃は、それから逃げるようにさらに俯いた。

 

「なーあ、佳乃。真桜お姉ちゃんちょーっと聞きたいことがあんねんけどー」

 ジト目で近寄りながら、目的の人物に話しかける。

「は、はい……」

「ちゃんとこっち見てくれんかなー? 何かウチ嫌われてるみたいやんかー」

「は、はい……っ!」

 顔の赤みは消えていたが、今度は涙目になっていた。

「今日は警邏で色んなトコ行ったんやなー?」

「……はい」

「服屋には寄っていったん?」

「ああ、行ったぞ! これを見ろ! どれもこれも華琳様に似合うものばかりだ!!」

 回答者の代わりに、無神経な大声で答えたのは春蘭。戦利品のように袋を掲げる姿に、真桜は苦笑する。

「……で、そん時やけど。誰か知ってるお姉ちゃんに会うた?」

「…………い、いいえ」

「ほーう……。あんなー、ウチの友達の沙和がな。服屋に行ったって聞いてん」

「っ!!!?」

「でも今なー、華琳様も佳乃も誰にも会うてへん言うたやんかー? だったら沙和はどこにいるんやろうなー?」

 追いつめられている佳乃は下唇を噛みながら、しかし逃げないように真桜を見つめ返している。

「もしかして、沙和がどこにいるか知ってるんちゃうか? もしかしたら、隊長も何か関係してるんか?」

「あ……あの…………」

「佳乃は嘘つく子ちゃうもんなー?」

 

「何っ!? 佳乃! 貴様何か隠しているのか!?」

 ここで身を乗り出してきたのは春蘭であった。

「さあ、言えっ! 何を隠している!?」

「……ッ!!!!」

 普段の彼女ならここで剣を突きつけるのだろうが、幸い今の彼女は大事な荷物を持っていたので、グイグイと詰め寄るだけになっていた。

 抑えられない恐怖に、佳乃は自分を抱くような防御反応をする。

 

 

「春蘭も真桜も、落ち着きなさい」

 

 

 凛とした声が、その場に沈黙と静寂を呼び寄せる。

 声の主は華琳。彼女は腰に手を当てて、溜め息をついていた。

「し、しかし華琳様……」

「春蘭。佳乃にはあまりキツく言わない事よ。一刀とは対応を変えなきゃ、ちゃんとした会話は出来ないわ」

 ピシャリと窘められた春蘭は、一気にションボリとして引き下がる。

 それと入れ違いに、今度は華琳が佳乃に近寄った。

 

「佳乃。私は気にしないわ。このまま口を噤んだとしても」

 

 一同に衝撃が走る。

 

 もしかしたら、この件に一刀が関係しているのかもしれない。だとすれば、一番気に留めるのは華琳であるはずなのに。

 

 それを代弁するかのように、秋蘭が口を開く。

「宜しいのですか、華琳様?」

「沙和が見あたらないことに関して、一刀が絡んでいるのは間違いないでしょうね。けど、沙和に不利益な事をしてはいないと思うわ」

「根拠は……?」

「佳乃が喋ろうとしていないからよ。もし沙和が酷いことをされるなら、佳乃やお義母様が止めているでしょうし、私達に相談しようともするでしょう」

「確かに……」

「それに、真面目な佳乃がこれほど躊躇しているという事は、隠し事が発覚する方が沙和に不利益だという事。もし沙和の立場が私達の誰かに変わっても、佳乃の反応は変わらないと思うわよ」

 言葉尻に“違う?”と尋ねる華琳。それに対して、ただコクリと頷く佳乃。

「だから私は、貴女を問い詰めたりはしないわ。ただね……」

「はい?」

 

 

「後々になって打ち明けた方が良かったと後悔して、それが貴女を傷付ける事になる場合もあるわ。私達に隠し事をしてしまったという後ろめたさで、ね。貴女は繊細だから、私はそれが気掛かりなの……」

 

「華琳……お姉ちゃん……」

 

 

−なるほど……佳乃の自主性を利用して……−

 

 秋蘭は内心で、華琳が佳乃を誘導したことを悟った。

 

 その読み通り、佳乃はおずおずと話し出した。

 

 

「実は……沙和お姉ちゃんに…………」

 

 

 

 

 

−続く−

説明
一週間前に思いついたネタを、出来るだけ新鮮なうちに。

大体、展開は予想できるかと……。
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コメント
さすがは華琳様、誘導尋問がご上手でいらっしゃる。(mokiti1976-2010)
これは沙和ちゃんを筆頭におしゃれ好き恋姫たちがここ押し寄せる旗ですねww(神余 雛)
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