真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第十三回 在野フェイズ:高順@・怪我と華佗と黄巾賊と(後編)
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張遼「アカンわ、もう流されてしまっとる」

 

 

 

呂布・陳宮・張遼の三人は、下へ降りる道から北郷と高順が落ちた場所へ戻っていたが、すでにそこには北郷・高順の姿はなかった。

 

 

 

陳宮「さきほどの雨のせいもあるです、溺れていなければいいですが・・・」

 

呂布「・・・・・・探す」

 

張遼「せやな、アカン方に考えてもしゃーない。とにかくもう少し下ってみよ」

 

陳宮「そうですな・・・少なくとも一刀殿のあの服装は目立つです。もしかしたら目撃者がいるかもしれないです」

 

 

 

三人は気を取り直して二人の捜索を続ける。

 

 

 

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【益州、とある村入り口付近】

 

 

 

北郷と高順は、華佗に連れられて、洞窟から十分ほど歩いたところにある、小さな村付近にいた。

 

ひとまず木のこかげに隠れて様子を伺ってみると、村の入り口には黄巾賊と思しき人物が二人立っており、村の中には村人の姿はない。

 

 

 

北郷「やっぱり黄巾賊の根城になってるみたいだな」

 

華佗「村人の姿が見えない、捕えられているのか・・・!」

 

 

 

最悪の場合全員殺されている、というのも考えられるが、そのような最悪の事態は誰も口にしない。

 

そして、行動に移る前に、高順が各々の動きを指示していった。

 

 

 

高順「まず、北郷様と華佗様は、私が入り口を制圧したらすぐに村人を探し出して保護し、けが人の手当てをしてください」

 

華佗「高順は入り口を制圧したらどうするんだ?」

 

高順「私は入り口を制圧した後、残りの黄巾賊を撃破、一味を捕獲します」

 

 

 

そこまで話したところで北郷が待ったをかけた。

 

 

 

北郷「なな一人じゃ危険じゃないか?相手の規模もそこそこっていうし、オレも手伝った方が・・・」

 

高順「問題ありませんよ。むしろ私は一人の方がやりやすいんです。陷陣営高順の本領、お見せしましょう」

 

 

 

そう告げた高順の瞳は、静かに燃えていた。

 

 

 

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【益州、とある村入り口】

 

 

 

村の入り口では、黄巾をかぶった二人の男が大きなあくびをしながら、だらだらとだべっていた。

 

 

 

黄巾1「しかししょぼい村だな〜。何でこんなとこを拠点にすんだ〜?」

 

黄巾2「オレ達の勢力は、大陸の西はそれほど盛り上がってなかったからじゃね?」

 

 

 

二人ともボーっと雨の上がった曇り空を眺めながら愚痴り合っている。

 

 

 

黄巾1「しかし雨宿りくらいさせろってんだよ〜。何でおれたちがこんな目に合わなきゃいけねんだ〜?」

 

黄巾2「昨日のメシ当番さぼったからじゃね?」

 

 

 

そして、ずっと立ち続けていることで体が固まったのか、ストレッチをし始めた。

 

 

 

黄巾1「しかし肩凝るな〜、もういっそのこと首なんかをこう―――」

 

 

 

 

 

ゴキゴキッ!

 

 

 

 

 

黄巾2「おいおい、そりゃ鳴りすぎじゃね?」

 

 

 

黄巾2は、相変わらず気怠そうにあまりにも不自然な首の音に適当にツッコミを入れた。

 

 

 

高順「こんなものですよ。試してみますか?」

 

黄巾2「そんなの無理じゃね?っていうかお前いつもの逆説口調はどうし―――」

 

 

 

 

 

ゴキゴキッ!

 

 

 

 

 

村の入り口は何事もなかったかのように制圧された。

 

高順は村の入り口付近の木に登り、そこからまるで蜘蛛のように縄を使って黄巾男の背後に音もなく垂れ下がり、

 

関節技を決め、もう1人にも気づかれることなく同様に関節技を決めたのだった。

 

そして二人を素早く縄で縛ったかと思うと、いつの間にかその場から消えていた。

 

 

 

華佗「すごいな・・・」

 

北郷「あれがななの実力・・・」

 

 

 

北郷はふと、以前霞から言われた高順バーサーカーモード(北郷命名)のことを思い出し、

 

今目の前で起きたこと以上のことが起きるのかと思うと、ただただ、ななは絶対怒らせてはいけない、と改めて心に誓うのであった。

 

 

 

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【益州、とある村、黄巾賊本部】

 

 

 

小さな村にしては割と大きめの建物の中では、何人もの黄巾賊たちが集まっていた。

 

 

 

黄巾頭「まァずはァ、こォこを拠点としてェ、益州全土をォ勢力圏とォするっ!」

 

 

 

集団の前に立っている黄巾賊の頭は、一団の頭にしては、どちらかと言えば頭で勝負するのか、というようなひ弱そうな男であり、

 

落ち武者風の髪を靡かせながら大勢いる黄巾賊に向かって独特な話し方で語りかけている。

 

 

 

黄巾3「教祖代行!さっさと成都に攻め込みましょうぜ!」

 

 

 

黄巾3の発言に呼応するかのように、周りの黄巾賊もそうだそうだ!などと口々にまくしたてた。

 

しかし、それら血気盛んな黄巾賊たちを、落ち武者風黄巾頭が手を挙げて制した。

 

 

 

黄巾頭「落ォち着きなさいっ!さァすがにィ、200ちょォっっっとの人数でェ、攻ェめ込むほど馬鹿じゃないっ!そォれにィ、

 

焦るこォとはないっ!なァぜならァ・・・」

 

 

黄巾「蒼天すでに死す!黄天まさに立つべし!」

 

 

 

黄巾賊たちは一斉に声を合わせて決まり文句を叫んだ。

 

 

 

黄巾頭「そォの通りっ!焦らァずともォ、わァれらにィ、機は必ァず訪れるっ!でもォ、なァにもしなァいのもォ、間ァ違っているっ!

 

なァぜならァ、こォんな蒼天の世ォではァ、お先真ァっっっ暗―――」

 

 

 

 

 

―――しかし、極めて聞きとりづらい黄巾頭の演説は途中で途切れることになった。

 

 

 

 

 

バフン!という音と共に部屋全体を煙が覆ったのだ。

 

 

 

黄巾頭「ゲホゲホ、おェ・・おやァ・・・目ェの前が・・真ァっっっ白―――ぎゃァっ!」

 

 

 

白煙立ち込める中、ゴガンッ、ドサッと誰かが何かに叩かれて倒れたらしい音が聞こえてきた。

 

しかし煙が部屋一面に広がってしまっているため、何が起こっているのか全く見えない。

 

 

 

黄巾3「何がゲホゲホッ、起こって―――ぐはっ!」

 

黄巾4「おい、大丈夫―――ぐぎゃ!」

 

黄巾5「敵襲、ゲホ、だ!すぐに各隊に―――ぐわあ!」

 

黄巾6「とにかく窓を―――ぎぇあぁああッ!」

 

 

 

部屋の中は大混乱に陥っていた。

 

周りが何も見えない中、見えない敵によって次々と仲間の悲鳴だけが聞こえてくる。

 

一人、一人とやられていき、次は自分かもしれないという恐怖。

 

黄巾賊に抵抗するすべも気力も、もはや残されていなかった。

 

 

 

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黄巾副頭「馬鹿め!どうした!何の騒ぎだ!・・・こ、これは・・・!」

 

 

 

騒ぎに気づいて駆け付けた黄巾賊の副頭は、黄巾頭とは対照的に、

 

いかにも武闘派ですと言わんばかりの、隆々とした筋肉にクマ髭が特徴的なマッチョマンである。

 

副頭は、本部の窓を開け放ち、中の様子を見て驚愕した。

 

窓を開け放ったことで中の煙が外に出てゆき、次第に視界が晴れ渡った頃には、

 

中にいたはずの100人もの黄巾賊たちが一人残らず山積みにされており、

 

その頂点に、長い袖と袂を備えた黒い着物を身にまとい、ブロンドヘアーをポニーテイルに結った見慣れぬ小柄な少女が座っていたのだ。

 

その少女は、槍を分解したような三節棍の穂先部分をクナイのように持ち、退屈そうに柄の部分をくるくる回しながら副頭を静観していた。

 

 

 

高順「ようやく来ましたか。待ちくたびれましたよ」

 

黄巾副頭「誰だ貴様は!?」

 

 

 

副頭は同胞を襲撃したなぞの女に対して怒りをあらわにするが、対して高順はつまらなさそうに静かに答えた。

 

 

 

高順「あなた方のような人間に、名乗るような名はありません。あなた方を役人に引き渡すもの、それだけ分かれば十分でしょう」

 

黄巾副頭「馬鹿め!堂々と出てきやがって!コソコソ隠れていればよかったものを!こっちはまだ100人以上もいるぞ!」

 

 

 

そう副頭が宣言すると、後ろからわらわらと黄巾賊が歩いてきた。

 

 

 

高順「それよりも良いのですか?あなた方のお偉いさんは、この下でのびていますよ?」

 

 

 

しかし、副頭は高順の言葉を受けて、馬鹿笑いをして一蹴し、窓から部屋に飛び込み、得意げに宣言した。

 

 

 

黄巾副頭「がはははは!馬鹿め!お前が殺ったのはただのお飾りだ!実質この軍団を率いているのはこのオ―――」

 

 

 

 

 

続く言葉が発せられることはなかった。

 

 

 

 

 

高順「馬鹿はあなたです。自ら指揮官であることを名乗り出るとは。まあこちらも探す手間が省けましたが」

 

 

 

高順の袖からあらわになった仕込み弩によって放たれた矢が、黄巾副頭の胸と四肢をとらえていた。

 

神経毒が塗ってあったその毒矢を受けた副頭は、なす術もなくその場に崩れ落ちる。

 

 

 

黄巾7「よ、よくも!」

 

黄巾8「かまわねぇ!やっちまおうぜ!」

 

黄巾9「相手はたった一人、しかも女のガキだ!」

 

 

 

頭を失った黄巾賊たちは、逆上して一気に部屋になだれ込んできた。

 

 

 

高順「まったく、どうしてあなた方黄巾賊は、昔からこのような馬鹿な真似ばかりするのですか」

 

 

 

気づけば山積みにされた黄巾賊の周りを、つまりは高順の周りを40人ほどの黄巾賊が囲んでいた。

 

 

 

高順「あなた方のやっていることが、人々を苦しめていると、なぜ分からないのですか」

 

黄巾10「うるせえ!黄天に仇なすゴミめ!死ねぇ!」

 

 

 

黄巾賊たちは、矢を射かけ、また持っていた槍を投げつけ、襲撃者を撃破しようとした。

 

四方から繰り出されたそれらの攻撃は、普通ならなす術もなくその餌食となり、奇妙な現代アートの完成となっているところである。

 

しかし、そのような状況にもかかわらず、高順はため息をついた。

 

 

 

高順「はぁ、まったく、馬鹿は痛い目を見ないと直りませんか」

 

そうつぶやいた高順は、一瞬鋭い表情に変わったかと思うと、再びつまらなさそうな顔に戻った。

 

 

 

 

 

高順「ところで、寡兵で大軍団に当たるときの鉄則をご存知ですか?」

 

 

 

 

 

そう言って、高順が立ち上がったかと思うと、黄巾ピラミットからいなくなっていた。

 

 

 

 

 

そして次の瞬間、激しい轟音と共に建物が崩壊した。

 

 

 

 

 

黄巾「ぎゃあああ!」

 

 

 

黄巾賊たちは何が起こっているのか理解できないまま、

 

また、大勢部屋に入っていたせいで逃げ出すこともままならず、敢え無く建物に押しつぶされた。

 

 

 

 

 

高順「まず第一に、敵の頭を潰し、混乱を招く、です。まあ、今回の場合は、もともと優秀な頭ではなかったようなので、

 

あまり意味はなかったようですが」

 

 

 

 

 

高順は長い袖とブロンドの髪をたなびかせながら、崩壊したがれきの上に降り立ち、

 

部屋に入りきらなかったことで被害を免れた黄巾賊に向かって語った。

 

 

 

 

 

高順「そして第二に、敵を罠にはめて一網打尽、ですね」

 

 

 

 

 

残っている黄巾賊は、70強といったところであった。しかし全員ほぼ戦意を喪失しており、呆然と高順を眺めている。

 

そんな様子をつまらなさそうに見据えた後、高順は三節棍を袂にしまうと、仕込み弩を装着していない方の袖をたくし上げた。

 

姿を現したのは、同じく仕込み弩。

 

そして、高順は両腕に仕込んだ弩の調子を確かめるように撫でながら無感情に告げた。

 

 

 

 

 

高順「そして、最後に数が減ったところで、囲まれる前に実力行使で各個撃破、です」

 

 

 

 

 

次の瞬間、高順は黄巾賊の軍団のもとを走り抜け、そして抜けきったところでたくし上げていた袖を元に戻した。

 

すると、はらはらと両袖が落ちていくのに呼応するかのように、次々に黄巾賊が倒れていき、気づけば10人ほどになっていた。

 

高順は目にもとまらぬ速さで黄巾賊60人ほどを、すり抜けざまに両腕に装着した仕込み弩で射抜いたのである。

 

 

 

高順「まったく、病み上がりなのですから、そろそろ観念してほしいものですね」

 

 

 

そう言いながら高順は残っている黄巾賊を睨みつけた。

 

その瞳に宿っていたのは、今までは見せていなかった完全なる殺気。

 

確かに、今倒された黄巾賊は、副頭同様神経毒によって倒れただけで、みなうめき声を上げており死んではいなかった。

 

つまり、この睨みが意味するのは、次は命を奪うという絶対的な意思表示。

 

結果、黄巾賊は数ではまだ勝っていたが、この女には勝てないと観念し、大人しくお縄に付いた。

 

ここに黄巾賊の制圧が完了したのであった。

 

 

 

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制圧が完了した後で、北郷が全速力で高順のもとに走ってきた。

 

 

 

北郷「なな!大丈夫か!?どこも怪我してないか!?」

 

 

 

北郷は高順の両肩に手を置き、怪我がないかを確認している。

 

どうやら、北郷は敵の規模を数十人程度と思っていたらしく、華佗から100人を超える規模であると聞いて、飛んできたのだ。

 

そんな北郷の勢いに高順は少々どぎまぎしている。

 

 

 

高順「は、はい、問題ありません」

 

北郷「そ、そっかぁ、よかったぁ」

 

 

 

北郷は心底安心したというような表情を浮かべている。

 

 

 

高順「すいません、ご心配をおかけしたようで・・・」

 

北郷「い、いや、心配なんかしてなかったよ!なんたってななはかの有名な陷陣営様だからな!」

 

 

 

何の意地なのか、北郷は明らかに心配していたのに見え見えの嘘をつき、ニッっと笑いながら高順の頭を優しく撫でた。

 

すると高順の顔色がみるみる赤くなっていったが、北郷は気づいていないようである。

 

 

 

高順(これが、例の北郷様の右手・・・。大きな手ですね・・・。このように撫でられて、なぜ恋様たちは北郷様に引かれるのかと

 

不思議でしたが・・・。なるほど、確かに、実際撫でられて、悪い気はしませんね・・・。恋様とはまた別の温かさ・・・。胸の中が

 

満たされるような不思議な感覚・・・)

 

 

 

しばしの間、高順は北郷の温もりを堪能するのであった。

 

そしてその温もりは、先ほどまで見え隠れしていた高順の負の感情を溶かしていった。

 

 

 

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用も済み、北郷たちが村を去ろうとすると、村人からのお礼としてなんか地元の名物とかいう、

 

たくさんの山菜やら保存性の効く干し肉やらをもらうことになった。

 

北郷と華佗は普通に礼を述べたのだが、高順は村人が「それにしても、黄巾賊とはひどいもんです。特にあの建物など見てくだされ。

 

村の象徴でしたのに原型すら留めておりません。まったく、ひどいことをするもんです」と言っているのを聞いて、

 

「ははは、そうですね・・・」と苦笑いを浮かべるしかなく、犯人は自分であると名乗り出れない自身の臆病さを悔いているのか、

 

ぶつぶつ何かを呟いていた。

 

 

 

 

 

そうして村を去ったのち、華佗とも別れることになった。

 

 

 

華佗「いやぁ、本当に助かった!感謝する!」

 

高順「では、この方たちのことは頼みました」

 

 

 

華佗の後ろには、縄で縛られた二百数十人ほどの黄巾賊がいる。

 

 

 

華佗「任せてくれ!だが本当に報奨金はいらないのか?」

 

 

 

人によって金額は異なるが、これだけの規模の賊を捕まえたとなると、それなりの額になるはずである。

 

 

 

高順「ええ、助けてもらったお礼です。それに私たちは先を急いでいるので」

 

華佗「そうか・・・ありがとう!実は最近少し入用で、困ってたんだ!」

 

北郷「医者はお金のかかる仕事だからな」

 

高順「それに、大陸中を歩いていると言いますしね」

 

華佗「ところで、これからどこに行くんだ?」

 

北郷「巴城にいる厳顔っていう武将のところだよ」

 

華佗「そうか。巴城ならここからそう遠くないな。2,3日もあれば着くはずだ」

 

北郷「わかった。ありがとう!」

 

 

 

北郷は華佗と握手を交わした。

 

 

 

高順「また、どこかでお会いしましょう」

 

 

 

高順もまた、華佗と握手を交わす。

 

 

 

華佗「また機会があれば是非漢中に来てくれ!旅に出ていなければ俺はそこにいる!」

 

 

 

そうして北郷と高順は華佗と別れた。

 

 

 

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【益州、とある森】

 

 

 

北郷「それじゃあまず恋たちと合流しないとな」

 

高順「一応先に行ってくださいと言っておいたので、巴城に向かえば会えるとは思うのですが」

 

北郷「ひとまず上の道に戻ってからだな」

 

 

 

そうして二人は上へあがる道を行く。

 

その時、今まで特に意識はしていなかったが、今更ながらなぜか高順は北郷と二人きりであることを意識してしまった。

 

 

 

そして頭をよぎったのは、崖から落ちそうになったところを助けてくれたこと。

 

毒蛇の毒に侵された時に、自身の危険を顧みず毒を吸い出してくれたこと。

 

華佗が近づいてきたとき守ろうとしてくれたこと。

 

そして黄巾と戦った後、とても心配してくれたこと。

 

頭をなでてくれたこと。

 

 

 

特に毒にやられていた時はそれどころではなく反応できなかったが、

 

今思い返してみると、みるみる顔がほてっていくのを高順は感じていた。

 

トクントクンと胸の鼓動が止まらない。

 

 

 

高順「(大切なものを奪う・・・ですか・・・)」

 

北郷「ん?何か言った?」

 

 

 

高順はいつの間にか思っていたことを口に出していたようであった。

 

 

 

高順「・・・!いえいえ!何も――きゃ」

 

 

 

不意を突かれたせいか、高順は木の枝につまずいて転んでしまった。

 

 

 

北郷「大丈夫か?やっぱりまだ足が・・・」

 

 

 

北郷が心配そうな顔を向けている。再び高順の胸が高鳴る。

 

 

 

高順「いえいえ、今のは私の不注意で・・・」

 

 

 

そこまで言いかけて、高順は黙ってしまった。

 

 

 

北郷「なな・・・?」

 

高順「いえ!あ、あの、ですね。そういえば確かに足が少しうずく気がします・・・」

 

 

 

高順は嘘をついた。

 

 

 

北郷「本当か!?じゃあ今すぐ華佗のところに戻って―――」

 

高順「いえ!その必要はありません!・・・急いでますし・・・」

 

 

 

高順は今まで感じたことのないような胸の苦しみを感じていた。まるで心臓を有刺鉄線で縛られたような、チクチクとした痛み。

 

 

 

高順(まったく、私はいったい何を期待しているのでしょうね・・・)

 

 

 

そのように高順は自己嫌悪に陥りそうになっていた。

 

 

 

 

 

―――しかし・・・

 

 

 

 

 

北郷「なら、オレの出番だな」

 

高順「ぇ・・・?」

 

 

 

北郷は高順の目の前にしゃがみ込んだ。高順の胸が再び早い鼓動を刻む。

 

 

 

北郷「ほら、オレがおぶっていけば問題ないだろ?」

 

 

 

胸の高鳴りが、さっきまで自身の心臓を戒めていた有刺鉄線を払いのける。

 

 

 

高順「そ、そんな!ほ、北郷様におぶっていただくなど・・・」

 

 

 

しかし、最後の一歩で素直になれない。

 

 

 

高順(ちがうでしょう那々那!ここは素直に・・・!)

 

 

 

しかし踏ん切りのつかない高順に救いの手が差し伸べられる。

 

 

 

北郷「遠慮するなって!」

 

高順「きゃっ」

 

 

 

北郷は強引に高順を背負った。

 

 

 

北郷「オレにも手助けをさせろよな」

 

 

 

そう言って北郷はニッと高順に微笑みかけた。高順の顔が完全に真っ赤になる。

 

 

 

高順(本当に・・・この方は・・・)

 

 

 

高順は北郷の背中に自身の頬を当てる。

 

 

 

高順(大きな背中ですね・・・それに、温かい・・・)

 

 

 

高順の胸の高鳴りは際限なくなり続ける。

 

もしかしたら、この胸の高鳴りが、北郷にも聞こえるのではないか、そんな気さえするほどに。

 

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道すがらの会話は他愛のない世間話。

 

その中には天の国についても少し教えてもらい、高順にとってはどれもとても興味深いものだった。

 

しかし、話の内容以上に、高順にとって、北郷と二人きりで会話を楽しんでいるこの状況がとてもうれしかった。

 

穏やかな時間が過ぎていくと共に、自然と二人の頬もほころんでいる。

 

 

 

高順(「大切なもの・・・私も奪われてしまったかもしれませんね・・・」)

 

北郷「ん?何か言った?」

 

 

 

また高順は思ったことを口に出してしゃべってしまっていたようである。しかし今度はうろたえることはない。

 

 

 

高順「いえ・・・一ついいですか?」

 

北郷「何だい?」

 

高順「・・・一刀様、とお呼びしてもいいですか?」

 

北郷「・・・いいよ、なな」

 

高順「・・・ありがとうございます、一刀様」

 

 

 

高順は幸せな気持ちで満たされ、北郷の背中に頬ずりをした。

 

 

 

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北郷に背負われていたのが心地よく、また幸せで心が満たされていたこともあり、高順はいつの間にか眠ってしまっていた。

 

北郷は高順を背負いながら上の道に戻り、取り敢えず巴郡に向かって歩いていると、呂布たちが後ろから走ってきた。

 

聞いた話によると、北郷たちを探して下に降り、探していたところ、

 

村で北郷と高順らしき人物が黄巾賊を倒してくれたという情報を得て、追いついたとか。

 

背負われた高順を見て皆は心配したが、足を怪我しただけで疲れて寝てしまった、と北郷が事情を説明すると、一変、空気が変わった。

 

 

 

陳宮「むむむ〜何てうらや―――げふんげふん、幸せそうな寝顔をしやがってです〜」

 

呂布「・・・仲良し」

 

張遼「こりゃ、またじょしかいっちゅーもんを開かなアカンみたいやな」

 

北郷「??」

 

 

 

第四回呂布軍女子会の開催が決定した瞬間である。

 

 

 

【第十三回 在野フェイズ:高順@・怪我と華佗と黄巾賊と(後編) 終】

 

 

 

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あとがき

 

 

第十三回無事終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

これまでのstsの話しづくりの流れからある程度予想通りだったとは思いますが、

 

結局ななも当然のごとく一刀君に落とされてしまいましたね 笑

 

今までまともに活躍する場がなかったななですが、ようやく陷陣営としての本領が発揮されました。

 

俗にいう陷陣営モード(バーサーカーモード?とは全く別の本気モード)ですが、

 

この時ななはいつもより少し冷たい感じになります。

 

さらに、前編冒頭でもありましたように、過去に親を黄巾賊に殺されているため、今回は一層冷たい感じに。

 

本人もその自覚はあり、あまり見られたくないと感じてたりしてます。

 

あと黄巾頭が相当気持ち悪いことになってしまいましたが、二度と出てくることはないので気にしないでください。

 

 

今回でようやく在野フェイズが終了しました!

 

予定通り一刀君と呂布陣営の恋姫たちとの距離も縮めることもできたので、これで安心して第二章へと進めることができます。

 

では、ここで宣言通りお知らせをはさみます、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

「みんな、死なないで下さいね・・・」

 

 

 

描き切れなかった過去が、今、明かされる

 

 

 

「ボクたちがこの乱世を終わらせる・・・こんなとこで死ぬわけにはいかないんだから・・・!」

 

 

 

これは、まだ天の御遣いがこの世界に舞い降りていなかったときのお話

 

 

 

「・・・我が使命は羽虫の鏖殺・・・遠慮はいらない・・・かかってこい」

 

 

 

これは、まだ天の御遣いの奇跡が起こりえなかったときのお話

 

 

 

「愚か者め!呂布殿は蒼天を駆ける龍ですぞ!」

 

 

 

呂布軍にとって、忘れられない最大の悲劇

 

 

 

「なっ・・・!ありえません!誰がどこから侵入したのですか!?」

 

 

 

最愛の主君を失った戦い

 

 

 

「貴様は董卓様の何を知っているというのだ!!!!」

 

 

 

一時代の分岐点

 

 

 

「孫堅!!アンタ卑怯やで!後ろからやなんて・・・!」

 

 

 

董卓軍vs反董卓連合軍

 

 

 

「呂布さん。悪いけどここは通させてもらいます!」

 

 

 

「魏武の大剣、その身に受けてみよ!」

 

 

 

「なんじゃ、主をブタ呼ばわりされたのが許せぬのか?」

 

 

 

真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 番外編 虎牢関の戦い

 

 

 

「逆賊董卓を討ち取ったぞ!!!!」

 

 

 

次回投稿開始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、次回から第二章「益州騒乱編(仮)」に入る前に、番外編「虎牢関の戦い」を投稿していきます。

 

全部で四回(第十四回〜第十七回)の予定です(普通に一章分くらいあります 汗)

 

どんだけひっぱるんだよ!どうせろくな話じゃないんだろ!さっさと話し進めろ!など非難囂々なのは

 

重々承知しておりますが、所詮このマイペースこそがstsの実力とため息交じりに諦観していただき、

 

どうか寄り道にお付き合いいただければと思います。

 

なぜこうなったかはまた次回以降のあとがきにて 汗

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

ななのおまけはまたいずれ、、、汗

 

説明
どうもみなさんお久しぶりです!または初めまして!

今回はななの在野後編、黄巾賊退治です。ようやくななの本領が発揮されます。

そして今回でようやく在野フェイズは全て終了です。長々となってしまい申し訳ありませんでした。

あと、今回あとがきでお知らせがあります。そちらも是非読んでいただければ幸いです。


それでは我が拙稿の極み、とくと御覧あれ・・・



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コメント
>…女子会に期待…  次の女子会は、虎牢関の次にでも投稿しようかなって考えてますのでしばしお待ちを!!(sts)
>右手で三国統一できるんじゃないか?  仮に実現したらまさに天の御使い伝説ですよね 笑 (sts)
>いやいや気になってた処ですよ…  やっぱり気になりますよね^^; 期待に応えねば、、、!!(sts)
他勢力のキャラは気になってたので全然オッケーっす。これからシリアス展開になると思うので、ほんわか好きな私としては女子会に期待( ´ω`*)シリアスも大好き?(くつろぎすと)
どんな戦いをしたか知りたかったから大丈夫ですよ。ゴットハンドでなな落としたな。右手で三国統一できるんじゃないか ?(兎)
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