真・恋姫無双〜乱世に吹く疾風 平和への切り札〜 0話 Sの予感/衝撃の依頼
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〜聖フランチェスカ学園2F、2年A組のクラスルーム〜

 

 

 

時刻は4時30分。既に今日の授業はすべて終了し、学生たちは勉学という束縛から解放される。

ある者は一目散に家へ帰る。ある者は部活へ向かう。ある者は己の教室や友達の教室で他愛無い話に花を咲かせる。学生たちにとっても、それはいつもの事。

普段は30数名が机に向かって学問にはげむこの2−Aの教室も、今はたったの2人だけ。

 

「…………」

 

内、一人は自分の机で黙々と本を読み進めている。

 

「なぁなぁかずピー、いつまでその本読んでんねん。っていうかその本読むの何度目やねん」

 

前の席に座っているもう一人の男子―乃川―が、読書中の少年にごねるような口調で声を掛ける。

友人の読書タイムを邪魔するような趣味は持ち合わせていないが、乃川もかれこれ20分近くは彼の読書に付き合っているため、いい加減痺れを切らしたようだ。

 

「…乃川、ちょっと静かにしてろ。今めちゃくちゃいい所なんだから」

「だーもー!そんなん家に帰ってじっくり読めばええやん!別に学校で読む必要あるか?答えはNO!ここは探偵学校やない、聖フランチェスカ学園!OK?というわけでかずピー、いい加減に帰ろうや〜」

 

帰ろう帰ろうとせがんでくる。その姿はまるでお菓子屋の前で駄々をこねる幼児。これで高校2年生です。

 

 

さすがにそんな友人のどうしようもない態度にイラついたのか、少年は小さく溜め息を吐くと目線を本から外し、鬱陶しそうに口を開く。

 

「あー、やかましい。お前は人間拡声器(スピーカー)かっての。っていうかそんなに帰りたいなら一人で帰ればいいだろ。別に今日はどっかに寄る約束も無いし」

 

 

北郷一刀。

 

 

 

出身も生まれも東京都という根っからの都会っ子。

両親は一刀がまだ幼い頃、交通事故で既にこの世を去った。

亡くなった両親と共に暮らしていた祖父(父方の親)が彼の養育を引き継ぎ、今日まで穏やかで不自由の少ない日々を過ごしてきた。

そして、そんな一刀が憧れている人物は………

 

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「……ったく、ホームズの名台詞を見てる途中だったってのに…」

 

稀代の名探偵、シャーロック・ホームズ。

そう、北郷一刀は探偵が好きなのだ。

無論、初めから探偵に興味を持っていたわけではない。これは根っこを辿れば祖父の影響なのだ。

 

子供の頃の休日、何か面白いものは無いかと祖父の部屋を物色していた時、一刀は一冊の本を見つけた。

それは、祖父が愛読書として読んでいるシャーロック・ホームズの小説だった。

そして、その本を一刀が持っているところを目撃した祖父はというと……

 

『はっはっは!そうかそうか、一刀もその年で探偵の魅力を感じることが出来るとはのぉ!よし、ではワシが探偵の素晴らしさを教えてやるぞい!』

 

と言って、小学校低学年の一刀に探偵の生き様やシャーロックやフィリップ・マーロウの素晴らしさを悠々と語りだした。

これほど活き活きした表情で語る祖父の姿が珍しかった当時の一刀は、未熟な頭で一生懸命祖父の話を聞いていた。

情熱とはかくも人に影響を与えるのか、小学校5年生になってから一刀はすっかり探偵好きになっていた。祖父歓喜。

 

話題が大分逸れたので脱線修正する。

つまるところ、一刀は授業が終わった途端に自分の愛読書であるシャーロックの小説を読み出し、そのまま数十分間は乃川を無視して読書に集中していたのだ。

 

一方、乃川の方はようやく一刀がまともに話をしてくれて嬉しかったのか、嬉々とした表情で口を開く。

 

「アっホやなあ、かずピーは。こんな時間に一人で寮に帰ったって何もおもろくないやろ。帰り道に俺と綾ちゃんのラブラブストーリーを話す相手が欲しいやん」

「綾……あぁ、書道部のあの子か。結局あの後上手くいったんだな」

 

綾、という名を脳内から探り出した一刀は、乃川に『大人しめで守ってあげたくなるような、清純大和撫子を紹介してくれ!』と土下座で頼まれた時の事を思い出す。

 

ちなみに頼まれた理由は、一刀がどうでもよいと判断した内容だったため割愛。

依頼を受けた一刀は、探偵に興味を持ち始めた頃から常に心掛けている『広い交友関係』を活用し、乃川の要望に沿った女子に相談し、そして紹介した。

 

女子も満更でもなさそうだったため、一刀は紹介するだけすると、その後は二人に任せていた。

 

「それにしてもかずピーの交友関係はおっそろしいわ〜。学園内で知らん奴なんていないんちゃう?」

「んなわけあるか。綾ちゃんの時も偶然知ってただけだし、口を聞いたことない奴なんて沢山いるぞ。それに……」

「ん?」

「女の子の交友関係の広さに関しては、流石にお前に負けるし」

 

その言葉を聞いた乃川は、ケタケタと陽気に笑いだす。

 

「ははは!これは俺も一本取られたわ!せやな、俺みたいなモテモテマンは色んな女の子と面識あるし、こればっかりはかずピーには譲れんで!」

「競う気は無い。まったく、このエロモンキーは……」

 

やらしい笑みを浮かべる親友を見て、呆れの感情を込めた視線を送りつつ溜め息をつく一刀。

しかし、こんな色欲強い悪友にもいいところがある……はず。

 

 

 

談話もキリの良い所まで進んだところで、二人は教室を出て岐路へ着いた。

 

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その夜、一刀は夢を見た。

 

 

 

眼を開いてみれば、そこは現実では目に着くことのない奇妙な光景だった。

完全な白。前後左右、床や天井―そも、床と天井と言う概念すらあるのかすら分からない―さえも真っ白な、異質な空間。

 

 

 

――ああ…これは夢か。

 

 

 

眼を開いたら自分の部屋でなく、みょうちきりんな空間。どう考えても、自分は夢を見ている。

この奇妙な世界の真相を気聡く察知することができた一刀は、周囲を一瞥し始める。

普段からビルや車などを目にしている一刀がこの風景を見て思ったことは…

 

 

 

――何も無いなぁ

 

 

 

しかし、そんな景色を寂しいと思うことは無かった。

一刀はただ、自分の目の前に広がる無垢な景色に心を奪われていた。

建物、車、家具などはもちろん、ゴミやチリ一つ見当たらない、この綺麗な純白の世界に。

 

景色に見惚れていた一刀の心に、安らぎと安心感が芽生え始める。

 

 

 

 

 

……が、その情感は一瞬にして崩れ去った。

 

 

 

「ごぉぉ主人さまああぁぁぁぁんん!!」

 

 

 

一刀の前方から飛び込んでくる、褐色の巨体と奇声によって。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!?」

 

身の危険を感じ取った一刀は、全身に瞬く間に鳥肌が立つことを実感しつつも、決死の思いで目の前の巨漢を蹴り飛ばす。

 

「ぶっふん!?……あぁんご主人様ったら、ワタシに会えたのが嬉しいからってこんなアプローチを仕掛けなくても……照れ屋さんねぇん?」

「う、うえぇ……」

 

一刀の蹴りによって動きが止まったことにより、目の前の巨漢の容姿が嫌でも目に付いてしまう。

筋骨隆々の肉体をこれでもかと言うくらい露出させ、申し訳程度の衣類として女物のビキニパンツのみを着用しているが、変態度が5割増ししているだけだ。

両の耳の近くにおさげを作り、顎には髭を蓄えているが、それ以外は毛根がお引越ししている。

 

インパクトの強すぎるその男の容姿を直で見てしまった一刀は、苦しそうに吐くモーションをとる。

しかも向こうはクネクネと体を動かしているから、余計に気持ち悪い。

 

「あらぁん、ご主人様ってば出会い頭にそんな反応しなくたって…!!もしかしてご主人様、ワタシの…いや、ワタシとご主人様のベイビーを――」

「悪阻(つわり)じゃねぇよ気持ち悪い!って言うかお前誰だ!」

 

趣味の悪いジョークを切り捨て、一刀は苦々しそうに目の前にいる巨漢を睨みつける。

しかし巨漢はそんな一刀の睨みに怯えるそぶりを見せぬまま、口を開く。

 

「んもうぅ、ご主人様ってばせっかちねぇ……まぁいいわ。ワタシは貂蝉。絶世の美女にして、三国一の踊り子よぉん?」

「…は?」

 

その男―貂蝉―の名前を聞いた一刀の頭が一瞬だけ真っ白になる。

 

――こいつ、いま何て言った?貂蝉?あの三国志とかの貂蝉?

 

別段三国志マニアと言うわけではない一刀でも、その名前には聞き覚えがあった。

確か洛陽で踊り子をやっていて、呂布に董卓を殺させた絶世の美女……

 

「美女?」

「あら、ワタシより美女なんて滅多にいないわよぉ?」

「…………」

 

反論しても無意味だと思った一刀は、別の質問を貂蝉へ投げ掛ける。

 

「なら別の質問だ。……ここはどこだ?」

「ここはワタシが生み出した精神空間よん。現実のご主人様はぐっすり眠ってるし、別に何か危害を加えるわけじゃないから安心して頂戴♪」

 

パチリ、と滑らかなウインクをし、ハートマークを一刀に向かって飛ばす貂蝉。

無論、一刀は迫りくるハートマークを大袈裟に避ける。

 

「ひどいわご主人様ったら!ワタシの猛烈な愛を受け止めることもしないなんて…!」

「やまかしい!っていうかさっきから何なんだご主人様って!俺はお前みたいな奴と知り合いになった覚えは無い!」

「……そうねぇん。少し長くなるけど、その辺りの事について話さなければならないわねぇ」

「……?」

 

先ほどまでの妙に昂ぶった声色が偽りだったかの様。

貂蝉は落ち着いた口調で語り始める。

 

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『正史』と『外史』の存在があること。

自身が、『外史』が創られていく事を管理する『管理者』であること。

その中で、三国時代に飛ばされた北郷一刀という存在に出会ったこと。

その北郷一刀は、今自分と話している北郷一刀とは厳密には異なる存在だということ。

 

 

 

「…………」

 

貂蝉の口から語られた突拍子もない話を聞き終えた一刀は、眼を閉じ、口を閉ざして黙りこくる。

その様子を対面してみていた貂蝉は、そんな一刀に声を掛ける。

 

「…ごめんなさいねぇご主人様。こんな現実離れした話、いきなり信じろなんて言わないけれど――」

「『人生というのは、人間が頭の中で考えるどんなことよりも、はるかに不思議なものだね』」

「?」

 

先ほどまで口を閉ざしていた一刀が放った言葉は、どこか芝居染みたものだった。

まるで、自分の言葉でなく、誰かの言葉を借りたかのように。

首を傾げる貂蝉に構わず、一刀は更に言葉を繋げる。

 

「ホームズの有名な台詞だよ。確かに、お前の話はどれもこれも現実離れしたものばかりだった。『正史』や『外史』っていう世界が存在してる事。しかもそこには俺そっくりの存在がいるってこと。正直、ぶっ飛んだ内容だった」

「…そうねぇん」

 

「けど、俺だって人生の全てを知ったわけじゃない。ホームズが人生を不思議なものだと感じたように、人生ってのは予測できない事が色々あるんだって、俺は思う」

「……ワタシの言葉、信じてくれるのん?」

「わざわざこんな場所に呼び出して、でっちあげた話を吹き込むような奴じゃなさそうだしな。探偵たる者、あらゆることに想定し、考えて行動しろ……ってな」

 

きりっと目元を鋭くし、カッコよさ気に台詞を口にする一刀。

正直な話、一刀の頭はたくさんの情報が一度に入り込んだために整理しきれていない。

しかし、一刀は目の前にいる貂蝉に話を信じることが出来た。

 

 

目だ。

 

 

貂蝉が異世界の北郷一刀の事を話している時、彼の目は何処か楽しそうで、懐かしいものを見ているかのようだった。

彼の目線、動きに注目(他の場所を見たらまた吐きそうになるから)していた一刀は、彼の目が嘘を吐くようなものではないと感じた。

だからこそ、一刀は信じられたのかもしれない。

 

そして貂蝉にとっても、それは嬉しいことだった。

 

「でゅふふふ…流石はワタシの愛しのご主人様♪信じてくれなかったらどうしようかと、不安でお股がジュンジュンしちゃったわぁ〜」

「前言撤回。やっぱお前は信じられん」

「あぁんひどぅうい!ご主人様ったらワタシの心を弄んでそんなに楽しいのかしらん!でもこんな愛の形も悪くは……」

「おいバカ止めろ!近づくな身体寄せんな唇近づけんなぁぁぁぁ!!」

 

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そんな戯れも一通り行われた後、ようやく落ち着いた貂蝉は一刀を此処へ呼び出した理由を話すことに。

 

「さて、そろそろワタシがご主人様を此処へ連れて来た理由を離さないといけないわねぇん」

「そうしてくれ…もう身が持たん」

「ねぇご主人様、『ガイアメモリ』って知ってるかしらん?」

「ガイア……メモリ…?」

 

聞き馴染みの無いワードを聞いた一刀は、記憶の中からそれを探り出す。

どこかで、ほんの少しだけ聞いたことがある。

だが、どうにも思い出せない。

 

「あらぁん、探偵好きなご主人様なら分かるはずなんだけれどねぇん。ホームズとはちょっと離れた探偵ものだ・け・ど」

「………あっ」

 

その言葉を聞いて漸く思い出すことが出来た。

 

 

 

2か月前くらいの帰り道、公園を通りかかった際に聞いた言葉だ。

確か、数人の子供たちが遊んでいて……

 

『やぁー!仮面ライダーW(ダブル)さんじょー!ドーパントめぇ、覚悟しろー!』

『ふん、このボクのナスカメモリでかえりうちにしてやるぞー!』

『あれ〜?ゆうすけくんってそのガイアメモリ持ってたっけー?』

 

紙で出来た仮面(恐らく月刊誌の付録だろう)を付けた子供と木の棒を持った子供が、役者が言うようなセリフを言いつつ対峙していた。

その二人の近くで様子を見ていた女の子が木の棒を持っていた少年に問いかけていた。

 

あの時だ。

 

表に出てごっこ遊びをしている子供を見るのも物珍しかったためか、彼らのやり取りがなんとなく印象に残っていた一刀。

後に乃川へその話題を出してみたら、彼は意外そうに一刀の話を聞いていた。

 

『うっそ、かずピーって探偵オタクのくせに仮面ライダーW知らへんの?あれ、主人公が探偵やってるんやで』

 

探偵ものと聞いてそれを無視する一刀ではない。

 

仮面ライダーは今まで見たことなかったが、乃川から先ほどの話を聞いた一刀はW(ダブル)にのみ興味を持ち、DVDでも借りてみてみようかと思った。

が、近くのDVDショップでは既に貸出されており、期末テストが近付いていて時期も悪かった。

仕方なく、一刀はやるべきことを落ち着かせてからゆっくり観ることにした……が結局、今日に至るまで見ることが出来なかった。

いつまでも借りている奴を恨めしく思ったのは内緒。

 

話を戻すが、貂蝉がヒントに出した『探偵』

子供たちが直接言っていた『ガイアメモリ』

その二つから、貂蝉の言いたい事は『仮面ライダーW』に関連のあるものだと推理できた。

 

「ガイアメモリ……仮面ライダー……なんでまたここでそんな話題を?」

「そうねぇん……ちょっと前置きを話すことになるけれど…ご主人様、さっき外史についての説明はしたわよねぇ?」

「あぁ、正史に住む人の願いや想いで生まれる世界で、お前がその世界の管理してる…だったっけ」

「そう。私たち管理者の役目は、正史から生まれた外史を維持する…もしくは崩すこと。願いや想い、正史に住む人たちの思想的介入を失った、はたまた薄れた世界を壊す。あるいは正史と何かしらの結びつきを作り、固定概念を確立させて維持したり……まぁそんな難しい話は省きましょっ」

「まぁその方が助かる」

 

正直、現状で頭がいっぱいいっぱいだった一刀にとって、これ以上ややこしい話は御免こうむりたいところだった。

その点を踏まえてくれたのか、貂蝉は難しい点を省略し、次の話を進める。

 

「実はその管理者の間でちょっとトラブルが発生しちゃってねぇ……ある管理者が、とある外史に住む人間を殺しちゃって、その殺した人の名を奪っちゃったのよぅ!」

「それって…かなりマズイことなのか?」

「マズイマズイ、マゾスティックよん!管理者である存在がその外史の人間を殺すようなこと、あっちゃいけないのよぉん!しかもご丁寧に自分以外の管理者の介入にロックを掛けちゃってね…お陰でワタシも向こうで下手な動きが出来なくなっちゃったのよ…むきぃ〜!」

「地団駄を止めんかい気持ち悪い!」

「まぁひどい。で、その外史の人間を殺した管理者…【管理放棄者(イレギュラー)】とでも名付けましょう。そいつが籠った外史って言うのが…先に言っていたガイアメモリが存在してる、三国志の世界なのよん」

「……少し整理させてくれ」

 

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先ず一つ目。貂蝉と同じ管理者が、外史に住む人を殺し、その人の名を奪うというタブーを犯す。

次に二つ目。その【管理放棄者(イレギュラー)】はそのままとある外史に閉じ籠り、内側からロックをかけ、他の管理者の介入を妨げた。

三つ目。管理者はそのロックを掻い潜ることが出来ても、派手な行動起こすことは出来ない。

四つ目。【管理放棄者(イレギュラー)】が逃げ込んだ世界は、仮面ライダーWで登場するガイアメモリが存在している三国志。

 

 

 

「…こんな所か?」

「素晴らしい状況整理力ねぇ♪ご主人様が頼もしすぎて、ドキがムネムネしちゃうわぁん?」

「…もうツッコまんぞ。で、俺をここに呼んだ理由っていうのが…」

「えぇ。ご主人様にその世界へ行ってもらい、【管理放棄者(イレギュラー)】の目的を阻止してもらいたい……これをお願いする為に、ワタシは貴方をここへ呼んだってわ・け」

 

そこまで聞いた一刀は、深く溜め息。

無理も無い。

自分は今まで普通に過ごして来た一般人なのに、こんな訳の分からない頼みを持ってこられたからだ。

 

「……なんで俺なんだ?」

 

まず疑問に思ったのはそれ。

自分は何かしら特殊能力を持っているわけでもないし、身体能力が秀でているわけでもない。

最も、そんな超人のような人を一刀は見たことも無いのだが。

 

質問を受けた貂蝉は、先程から浮かべている笑みを崩さぬまま、語り始める。

 

「もちろん、ご主人様の世界には超人的な能力を持った人間なんていないわぁ。けど【管理放棄者(イレギュラー)】が閉じ籠った世界は、仮面ライダーWのガイアメモリが存在している三国志の世界。郷に入っては郷に従えとも言うように、向こうのルールで対抗すればいいのよん」

「向こうのルールで対抗する?」

「そう……これを使って、ね」

 

そう言って貂蝉は自分の下半身…つまりビキニの中をごそごそとまさぐり始めると、中から一つのベルトを取り出してきた。

 

全体的に機械色が強く、腰巻部分は銀色。

黒いホルスターのようなオプションが左サイドに取り付けられている。

そしてそのホルスターと同じ大きさの物を入れられそうな場所が二つある、留め具部分に相当する赤い部分。

 

「これがWドライバー。向こうの世界で戦える手段に――」

「おい待て!今どっからそれ出した!どう考えてもオカシイだろ!」

「細かい所は気にしちゃダメよん。それとも、ご主人様はこの中がどうなってるのか知りたいのか・し・ら?」

「腐った粗挽きウインナーしか入ってないんだろ」

「まぁ失礼ねぇ!なんならその眼で真実をば…」

「止めろ馬鹿おい止めろ!股間をこっちに近づけんなぁぁぁ!」

 

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「…とまぁ愛情表現はこの辺りにしておくとして、このWドライバーを使えばガイアメモリで変身した人間はもちろん、【管理放棄者(イレギュラー)】とも戦うことが出来るわ。そしてご主人様は、このWドライバーを使用するにあたって最も相性が良い…つまり適合者ってこと?」

「ぜぇ…ぜぇ…ちくしょう、何事も無かったかのように話を進めやがって……」

「もちろん、お願いする以上はご主人様の日常生活に支障を起こすようなことはしないわ。ご主人様が【管理放棄者(イレギュラー)】のいる世界にいる間、こちらの世界では時間が進んでいない様に設定しておくからねん」

「そんなことできるのか?」

「大丈夫よん。ご主人様がこちらの世界に帰ってきた時は翌朝に目覚めるようにするくらいなら、ワタシでも問題なく行えるわ」

 

異世界へ行く際の憂いの一つとして、時間の都合がある。

もちろん、明日は空手の稽古があるから…などという類の都合ではない。

異世界へ行くとなると、目的を達成するまで何日何月何年と掛かることになる。

その間一刀の住む世界もそれに応じて時間が進んでいれば、下手をすると失踪届を出されることも在りうる。

そうなってしまえば、もう一刀は元の世界に帰っても普通に生活することは出来なくなるだろう。

 

その辺りを考慮してくれた貂蝉は、なんと一刀が異世界へ行っている間は一刀の住む世界の時間の流れを調整してくれるのだと言う。

厳密には時間軸をずらし、一刀が帰った時には翌日の朝になっているようにしてくれるのだとか。

 

「まぁつまり、俺が別の世界に行っても行方不明者扱いになることはない、と」

「ええ安心して頂戴。あなたがワタシたちに協力してくれるというのなら、私たちはしっかりバックアップさせてもらうわよぉ。ただし………」

 

そう言うと、貂蝉の顔つきが変わった。先ほどの薄ら笑いを失くし、次に現したのは神妙な表情だった。

そして、貂蝉は口にする。

 

 

 

 

 

「もし貴方が向こうで死んじゃったら……生きて戻れるようなことは無くなるの」

 

 

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「……え?」

 

それを聞いた一刀の顔が生気の抜けたように青白くなる。

そんな一刀に構わず、貂蝉は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「言葉通りの意味よん。これはゲームでもなんでもないわぁん。残機も無ければコンティニューも無い……まさに命を懸けるものとなるの」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんなのって…!」

「そう、だからワタシはこうしてご主人様に選択権を与えたのよん。確かにあの世界にはワタシの大切なお友達……厳密には別人みたいなものなのだけれど、あの子たちが暮らしているしねぇ。出来る事ならご主人様に行ってもらいたい……けど、強制的に向かわせたってご主人様が辛いだけだものぉ」

 

「………」

 

 

一刀は非現実的な現状から冷たい事実を突きつけられ、何も言えなくなってしまった。

死ねば終わる?

死ねば、先に死んでいった両親のように、誰とも話すことが出来なくなる?

爺ちゃんとも、乃川とも、クラスメートとも、近所に住む人たちとも。

 

 

――怖い

 

 

様々な不安が頭をよぎる中、確かに感じた感情。

貂蝉の言う世界はガイアメモリと言う存在によって大きく荒れるのだろう。

決して平和的な解決は出来そうにない。

だからこそ、貂蝉は戦うための手段を一刀へ見せたのだ。

戦う覚悟を、そして生死を賭ける覚悟も。

 

「………」

「…また明日此処へ呼びだすわねん。考える時間位は必要でしょうし。けどあまり悠長にしていられないという事も、忘れないで頂戴。…それじゃあねん、ご主人様」

 

そこまで貂蝉が言うと、一刀の意識が徐々に薄れていった。

 

 

 

 

 

そして一刀は、夢から覚めた。

 

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【あとがき】

 

どうも皆さんこんにちは、これがここのサイトでの初投稿となります、Kishiriです。

まだまだ未熟な腕前ですが、精一杯書かせていただきます。よろしくお願いします!

 

それにしても……

いやぁ……やってしまいました。勢いのままに書いてしまいました。

どうも私は他人の作品を見ていると感化される傾向があるようで…執筆の理由が大体

『書いてみたくなったから』

ですからね。

最後まで書けるよう、頑張っていくと思います。

 

 

 

では、今後私が書かせていただきます作品の紹介をしようかと。

 

【真・恋姫無双〜乱世に吹く疾風、平和の切り札〜】

探偵好きで、時々名探偵たちの名台詞をキメたがる今作の主人公、北郷一刀。

ある日、夢の中で貂蝉と名乗る男に出会い、ある事を頼まれる。

それは管理者としてのタブーを犯した【管理放棄者(イレギュラー)】の野望を阻止する事。

ガイアメモリが存在する三国志に降りた北郷は、相棒とともに大陸に風を巻き起こす…

 

以上。というかあまり書きすぎるとネタバレとか起こしそうなので…軽く紹介する程度で。

 

 

 

ホントは早速恋姫世界に向かわせようとしたのですが、不自然な部分を失くそうと自分なりに手を加えて言った結果、今回のような形で終わってしまいました。

え?『おい、三国世界行けよ』ですか?

うん、次回向かわせるつもりなんだ、済まない。

 

とまぁ戯れはさておき…

ワクワク展開大好き、童心残りまくりという子供っぽい私、きしりですが、次回もよろしくお願いします!

 

 

追記:誤字修正させていただきました。ご指摘ありがとうございます!

説明
真・恋姫無双と仮面ライダーWのクロス作品です。

なるべく童心を揺さぶるようなワクワク展開を書いていきたいと
思いますので、どうぞよろしくお願いします!
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コメント
咲実さんへ  お待たせいたしました!(kishiri)
お待ちしてました(咲実)
バズズさんへ  誤字指摘、ありがとうございます!一話目でこんなに誤字る私って…orz  あの子のファングジョーカーとか逆に見てみたい気もしますがww次回も是非よろしくお願いします!(kishiri)
7ページ、下の方の「貂蝉」がどこかの半島の名前になってますよ。 蜀ルートで戦闘力の低い子・・・ まさか璃r ゲフンゲフン 続き楽しみにしてます。(バズズ)
hoiさんへ  蜀ルートを進む予定です。個人的に好きな子がいるので! ↓のヒントと合わせて、誰が相棒なのか絞り込まれたかなぁ……(kishiri)
渡辺一刀さんへ   ネタバレになるのではっきりと言えないのですが……原作では戦闘能力の低い子がヒントです。(kishiri)
何処ルートですか?(hoi)
相棒は誰の予定ですか?(渡部一刀)
あと、ここの北郷は真・恋姫の北郷一刀とはまた別の存在です。性格そのものは大体同じですが……これ以上は若干ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんがこのあたりで。(kishiri)
すいません…完璧に誤字でした…一作目から何やってんだろ、私…。ご指摘ありがとうございます!急いで修正させていただきます!(kishiri)
確認するけど、「本郷一刀」は「北郷一刀」と別人?(根黒宅)
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真・恋姫無双 仮面ライダー 仮面ライダーW 北郷一刀 ハードボイルド 貂蝉 

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