偽りの世界に何を願う プロローグ
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…「はぁはぁはぁ……」

 

一人の少年が、木々が生い茂る森の中を呼吸を乱しながら走っていく。

途中木の根に足を取られ転びそうになるが、それでも必死に駆けていく。

夜と言うだけあって、辺りは暗くほとんど見えない状態だった。

 

…「くっ、まだ来てるのか?」

 

少年は、後ろを振り返り呟く。

どうやら誰かに追われているようだ。

 

追っ手A「いたぞ〜!」

 

少年の後ろの方から叫び声がする。

後ろを再び見ると、微かに照らすライトが徐々にはっきり見えてくる。

 

追っ手B「周りこめ! 挟み打ちだ」

 

追っ手A「了解!」

 

…「くっ……」

 

少年は、それでも尚走り続ける。

が、しかし。

 

…「なっ……、行き止まり」

 

そこは、崖だった。

闇雲に走り続けただけで、どこに向かっているのかは分からなかったが、不幸なことに進む道がなくなってしまった。

そんな絶望している中、ついに……。

 

追っ手A「はっ、ようやく追いついたか」

 

…「くっ!」

 

追っ手B「観念して、施設に戻るんだな」

 

…「嫌だ、あんな所に戻りたくない」

 

少年は叫んだ、息を切らせていたにも関わらず、その声は大きかった。

その大きな声に多少2人の男は驚いたが、ふん、と肩を寄らして少年に近寄る。

 

追っ手B「さあ、こっちへ来い!」

 

威圧を込めてもう一度言う。

しかし、少年は首を横にしか振らなかった。

 

追っ手A「仕方ない、もう強行手段しかないのか」

 

と、1人の男が胸元から鈍く黒く光るものを取り出した。

それはまぎれもなく──、拳銃だった。

それを、構え少年に向ける。

 

追っ手A「さあ、来ないなら撃つぞ? 撃たれたくないなら……さっさと来い!」

 

…「……(やるしかない……)」

 

少年は、心にそう思い構えた。

それに、驚いた銃を持たない方の男が言う。

 

追っ手B「拳銃を持ってる相手に、素手で対抗か? それに餓鬼に何ができる。はははは!」

 

蔑む様に少年を笑う。

 

…「どうでもいいさ……」

 

追っ手A「あん?」

 

少年は息を大きく吸い、声に出す。

 

…「あんなところで死んだように生きる生活を送るなら、ここで死んだ方がマシだ!」

 

と言うと、崖の方へ飛んだ。

 

追っ手B「なっ!」

 

男が駆け付けるが、少年は既に暗闇に紛れて見えなくなっていた。

 

追っ手A「この高さからだと……助からないだろう。ちっ、ボスになんて言えばいいんだよ……」

 

追っ手B「仕方ないさ、とりあえず戻るぞ」

 

2人は体を翻し、その場を後にした。

 

…………

 

……

 

…「…………うっ」

 

崖から飛んだ少年は、途中の木々などがクッションの役割を果たしていたのか、かろうじて生きていた。

しかし、全く動くことが出来なかった。

やがて、意識を失ってしまった。

 

…「……ん?」

 

近くを通りかかった長身の男が、横たわっている少年に気がついた。

 

…「ひどい怪我だな……、まだ生きてるようだな」

 

と、その男はひょいとその少年を担ぎ、その場を離れた。

 

…………

 

……

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それから、5年が過ぎた9月。

 

─ジリジリジリ

 

…「ううん、えっと……あった」

 

俺は煩くなく主を手探りで探し、静かに止めた。

まだ寝ていたい気持ちでいっぱいだが、眠気を殺して布団から出る。

9月に入ったばっかりだが、まだ夏の暑さが抜けていないので、少々だるい。

その為、暑さで夜に何度か目覚めてしまったのだ。

さて、ここで自己紹介だ。俺の名前は坂城 殉朔(さかき じゅんさく)。と言っても、これが本名か分からない。

小さい頃から、施設で育てられていた。両親のことは良く分からないし、施設も13歳の頃に逃げ出した……と言われている。

俺には、13歳以前の記憶が全くなく、何があったのかも分からない。

面倒を見てくれた、俺の父親代わりの人がそう言っていた。

その、父親代わりの人は、今はここにはいない。

そもそも、ここは俺が学校に通いやすいように、その人が俺のために借りた部屋だからだ。

 

殉朔「はあぁ、今日から学校か……だるいぜ」

 

長い夏休みも終わり、今日から学校に登校しなければならない。

学校に行けば、友達に会えるんだから退屈はしないだろ? そんなことを俺に言っても意味がない。

俺には、ほとんど友達がいないからだ。

それは、後で話そう。

 

殉朔「えっと、これとこれを持って……うわ、物理2時間かよ……」

 

俺の学校は、理系クラスと文系クラスに分けられている。

その為、理系クラスの俺は、理系科目が多く組み込まれているので、こんなこともしばしばある。

準備を終え、朝食を取る。

 

殉朔「さて、人が少ないうちに行くか」

 

戸締りを確認し、学校に向かう。

それでも、部活だろうか……何人かちらほら登校していた。

そのうちの何人かは、俺の方へ視線を向けていたが、俺と目が合うとすぐに逸らしてしまう。

いつものことだけど、ちょっと辛い。

 

俺の住む部屋、もといマンションから学校まではそうは遠くはない。

と言っても、歩いて10分は掛る。しかし、ほかの所から通う人や、電車で来る人はそれ以上は掛っている。

ちなみに学校は、町から少し離れた所にある。そのため、学校周辺にはコンビニがない。

と言うことは、学校の購買や食堂はすごく混んでいる。だから、前もってコンビニに寄ったりしてる人は少なくない。

俺もその1人だからだ。

いつも通り学校に行く途中にあるコンビニに立ち寄り、弁当などを買っていく。

 

…「相変わらず、コンビニ弁当なのか?」

 

と、コンビニを出る所で声をかけられた。

眼鏡をかけた姿が、とても似合う、俺の唯一の親友とも呼べる存在。

 

殉朔「秋村(あきむら)か」

 

秋村「まったく、何度言えばいいんだ? 俺の名は、空き村ではなく! 秋村だ。発音がなっていない」

 

殉朔「どうでもいいよ。……一緒に行くか?」

 

秋村「そうだな」

 

俺は、秋村の隣を歩き学校に向かう。

ちなみに、秋村のフルネームは秋村 卓(あきむら すぐる)だが、本人は、卓とは読んでほしくはない、とのことで秋村と呼んでいるが……このざまだ。

たまに、こうやってコンビニから出るときなどで会うことがあるから、一緒に登校している。

勘違いしてほしくないのは、俺がコンビニで時間を潰して秋村を待っているなど考えて欲しくない。俺は、そんな趣味など持ってないからな。

 

殉朔「でさ、宿題はやったのか?」

 

夏休みが終われば、ほとんどの人が友達に聞いたりする、と思う。

こいつの場合は返答は決まっている。既に、夏休み前に終わってるとか・・・…。

 

秋村「愚問だな、殉朔。この俺様が、宿題を忘れることはないだろう。否、ありえん! 既に、夏休みを迎える前に終えたさ」

 

言いきったよ。まあ、分かっていたけどさ。

 

秋村「ところで、お前はどうなんだ?」

 

殉朔「2週間ぐらいで終わらせたよ。バイトもあるから大変なんだぞ?」

 

そう俺は、バイトをしている。もちろん、父親代わりの人から生活費を貰っているが、娯楽費用とかは自分で稼がないといけないのでやっている。

 

秋村「そうか、まあせいぜい頑張れよ」

 

いつの間にか、学校に到着していた。こいつと話してると時間の流れが短く感じるんだよな……。

学校は、ごく一般の学校よりは大きめで校舎もそれなりにある。1年生の時は迷ったりして授業に遅れて来る生徒もいるぐらいだしな。

俺の教室は、やや校門より遠めの位置で3階にある。だから、最低でも5分前には校門を通ってないと遅刻する羽目になる。

教室に着くと、秋村と別れ自分の席に座る。後ろで窓側だからベストな場所だ。しかし、居眠りなどはしていないぞ。これだけは言っておく。

 

殉朔「今日から学校か……また面倒なことになりそうだな」

 

俺は、そう思いながら外をぼんやり眺めていた。

生徒がちらほら見え始めてきた。気付いたらもうホームルームが始まる20分前。部活をしてない奴らがそろそろ来る頃になる。

俺には関係のないことなんだけどね。

何故クラスや学校の人が俺を避けているのか? それについてそろそろ話さなければならないだろう。

 

今この世界は「平和」だ。

 

それが? と思うだろうが、実際は「偽りの平和」が正しいと俺は思う。「平和」と言えば、戦争がないとか、犯罪がないとかを思い浮かべると思う。しかし、それだけではない。暴力やいじめなどもない、それこそが「平和」なんだと思う。みんな、この「(偽りの)平和」が好きだと言っているので、俺は嫌いと言っているし、そんな考えを持っている。実際に、見えないところではいじめや暴力があったりするが、見えないふりをしているだけである。だから奴らは「平和」と思っている。しかし、戦争や犯罪はない世界になっているから、そこを考えれば「平和」なのかもしれない。

この考えのせいで、学校の奴らには避けられているのである。

まあ、俺の考えを持った人は外に出ればいるにはいる。

 

…………

 

……

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狩谷「では、ホームルームを始める」

 

先生が教室に入り、教卓に向かいながら喋り出す。

 

狩谷「今日から新学期だ。夏休み気分でいつまでいると、後が辛くなるぞ? 今のうちに、取り戻すように」

 

先生が手短に話を終えると、テレビをつけ始め、校内放映にチャンネルを合わせる。

この学校は生徒が多いので、こうやって始業式などはテレビを通して行われる。

だから、始業式で体調を崩す人は皆無となっている。

しかし、まじめに見てる人、聞いている人は全く持っていないのが現実である。

もちろん、俺はそのうちの1人だが、秋村は真面目に聞いているようだった。

それは少し尊敬出来るかもしれない。

 

秋村「…………はっ!?」

 

と机から肘がずれ落ちて体勢を崩した。

どうやら寝ていたようだった。少しでも尊敬した俺がバカみたいだった。

そんな、始業式だった。

 

…………

 

……

 

狩谷「……なので、エントロピーの変化は……」

 

ようやく今日の授業も最後となった。

もうだるくて眠くなってきてる状態だ。もう既に、寝ている人もいたりする。

しかし、寝てしまえばあとあと面倒なことになるのは間違いないので我慢する。

 

狩谷「であり……と、もうこんな時間か。今日の授業はここまで」

 

殉朔「ふぅ〜、終わった……」

 

大きく背を伸ばし、帰りの支度をする。

今日の帰りはどうするか、どこで遊ぶか、などの会話がクラスのあちらこちらから聞こえてくる。もちろん、俺には関係ない。

 

狩谷「連絡事項はなし、帰っていいぞ」

 

先生が言うと同時に俺は足早に教室を後にする。

校門に向かうと、1人の男と女がいた。

俺の姿を見ると、男は手を振り声をかけてきた。

 

…「殉ちゃん、こっちこっち!」

 

ったく、こんなとこまで来なくてもいいのに……。

俺は、その男のもとへ向かう。

 

殉朔「何の用ですか?」

 

…「もう、殉ちゃん他人みたいに扱わないでよ」

 

殉朔「そんな、変な喋り方の知り合いはいません」

 

…「……けち」

 

殉朔「ケチで結構!」

 

…「久しぶりだな、殉朔」

 

殉朔「はい、御堂先輩」

 

御堂「相変わらず、孤立して過ごしてるのか?」

 

殉朔「ええ、まあ」

 

スーツ姿にサングラスと一見怪しいこの人は、御堂先輩である。

もちろん、学校の先輩ではない。

では、何故先輩か? それは、俺がいる組織について言わなければならない。

俺はこの先輩に拾われ、MC(メシア・カンパニー)で育てられた。

MCは、貿易や娯楽施設など色々なジャンルで活躍している会社である。

しかし、それは表の姿。裏では、銃の扱い方から護衛術まで色々なことを集めた人に叩き込んでいる。

何故か? それは、見えない犯罪が多く起きているこの世の中では、警察は証拠がないと動かないし、役に立たない。だから、そう言う人たちを助けるために、この様な組織が組まれたのである。俺も先輩もその中の一員である。このことを知っているからこそ、俺はこの世の中は「偽わりの平和」だと言っている。

 

御堂「それはそうと、紹介するよ。この人は、宮川 小夜(みやがわ さよ)さん。あるシステムの開発に携わっていて、その開発に俺たちの組織も関わっているんだよ」

 

宮川 小夜と言われた女の人は、お辞儀をし挨拶をする。

 

小夜「はじめまして、殉朔くん」

 

殉朔「は、はじめまして」

 

御堂「さて、挨拶も終わったようだし、俺たちは帰るぜ」

 

殉朔「何しに来たんですか?」

 

御堂「愛する殉ちゃんの為に……」

 

殉朔「死ね!」

 

俺は、かばんをおもいっきりぶつける。

 

御堂「はりゃほれうま!?」

 

殉朔「たく、悪ふざけはよしてくださいよ」

 

いつものことだが、どうもいつもつっこみを入れたくなってしまう。

 

御堂「ただ、殉朔には知ってもらいたかったんだよ……」

 

殉朔「それは、わざわざありがとうございます」

 

御堂「とりあえず、家に送るよ」

 

殉朔「いえ、有難いんですが寄りたいことがあるので」

 

御堂「そうか、じゃあな」

 

先輩と小夜さんは、別れを言うと車に乗りいなくなってしまった。

ふと、周りを見てみるとヒソヒソ話が、あちらこちらで聞こえていた。

 

殉朔「はぁ〜、面倒だな……」

 

空を仰ぎ、俺は呟いた。

 

 

 

 

説明
何もかも平和になった日本。犯罪が激減しほぼなくなり、一般市民にとっては理想な世界へと変貌した。
しかし、それをつまらないと感じたのは、主人公【坂城 殉朔(さかき じゅんさく)】だった。
それが原因で、ほとんど友達が出来ず、孤独に近い学園生活を送っていた。
だが、ある事件をきっかけにそれが覆される。

次の章です→http://www.tinami.com/view/60087

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コメント
偽りの平和、今の日本もそれに近いのかもなって思いました。それにしても殉朔君の過去とか気になります。どんな物語が始まるのか楽しみです。(華詩)
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