寂しかった猫
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「今日の昴さんって何だか猫みたいですね」

「……そう?」            

  

だって今日はこの子にいっぱい甘えたい気分なんだ。

彼の膝に頭を乗せゴロゴロしている僕は自分でもまるで猫のようだと思った。

大河の膝の上は温かく、頭を撫でてくれる手は優しくてとても気持ちが良い。

気を抜くとこのまま寝てしまいそう。  

  

「もし、昴さんが本物の猫だったら、きっとすごく綺麗な猫になるんでしょうね」

「……綺麗な猫なんてヤダ」

「へ?どうしてですか?」

「だって……」

 

だって綺麗な猫だと この子に選んでもらえない。

日頃の大河を見ていると、彼自身は何となく犬っぽいイメージがあるけれど、本人は大の猫好きで紐育の街中でも、よく野良猫をナンパしている。

しかも彼の好きな猫タイプは変わっていて、個性的というか一般的には可愛い部類には入らない……はっきり言ってしまえば不細工な猫ばかりをナンパしているんだ。            

  

今日だってハーレムの路地裏に彷徨いていた二匹の野良猫。

一匹は野良猫の割りには毛並みが美しく整った顔をした綺麗な猫。

もう一匹は目付きが悪くて薄汚れている全然可愛いくないみすぼらしい猫。    

  

大河が抱き上げるのはどちらの猫だろう?と観察していると

案の定この子が手を差し伸べその腕の中に抱き上げたのは みすぼらしい方の猫だった。

「可愛い可愛い」と、猫の体を優しく撫で、おまけにキスまでして…

 

だから、もし僕が猫になったとしても綺麗な猫じゃダメ。

みすぼらしく可愛いくない猫の姿になって誰からも見向きされなくても、この子だけは猫になった僕に手を差し伸べ温かい胸の中に抱きしめてくれる。

そうしたら、大河の家族にしてもらってこの子とずっと一緒

こんなふうに温かい膝の上でゴロゴロ甘えて暮らしたい。            

 

                      

「うーん……でも綺麗じゃない昴さん猫なんて想像出来ないなぁ」

「じゃあもし君が捨て猫を拾うとして、綺麗な猫とみすぼらしい猫。君が家に連れて帰るのはどっち?」

「……あ…」

「ほらみろ!君ってば普段から可愛いげのなさそうな猫ばかりをナンパしてるんだから。趣味が悪いよね」

「ナンパってそんな…人聞きの悪い。それにあの子達って見た目はあんなんだけど、本当はとっても甘えん坊な可愛い子達なんですよ?」

「……フン」

もし僕が猫になれたとしたら目付きが悪く愛想のない、さぞや可愛いげのない猫になるだろう。

人間には関わらず他の猫達とも群れず、一匹で孤独に生きていくのかもしれない。

大河と出逢う前の……昔の僕のように。                      

 

でも僕は人に抱きしめられる温かさを知ってしまった。

こうして君の膝の上で甘える心地好さを知ってしまった。

孤高に生きてきた僕に手を差し伸べてくれたのは君。

もう、この温もりがないと寂しくて一人では生きていけない。          

  

今まで僕は寂しかったのだと……

君に抱きしめられた時に初めて自分の中の孤独に気がついたんだ。

だから……             

 

                     

「あ、でも昴さんはやっぱり人間のままがいいなぁ」

「どうして?君は猫が大好きじゃないか」

「だって……」

頭を撫でていた手が頬にまわされたかと思ったら、そっと上を向かされ唇を塞がれる。

その優しく甘い口付けに僕は静かに瞳を閉じ、頬にある彼の温かい手に自分の手を重ね合わせた。             

  

「ね?もし昴さんが猫なら、こんな事出来ないし」

「ませたこと言うな。子供のくせに」

「ぼくもう子供じゃないですよ」

「っ…んっ…」

今度は深く口付けられ、気持ちの良い舌の感触に大河の首に手をまわし、キスの続きをねだった。

「昴さん。いいですか?」

「……うん」             

  

大河の膝から柔らかいベッドの上へと体を抱き上げられ、体重を掛けないようにそっと体を重ねる優しい彼に堪らない愛しさが込み上げてくる。           

 

……バカ大河、そんなに気を遣わなくてもいいのに。

君の体の重みはとても心地好くて 

僕は大好きなんだよ。 

 

                        

孤独に生きてきた寂しい猫に手を差し伸べ抱き上げてくれたのは君。

だから、責任取って僕をずっと君だけの猫にしてほしい。            

 

他の誰にも甘えたりなんかしない。

こんなふうに僕が体を擦り寄せ、安心して甘えることの出来る人間は

………君だけだから。 

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そしてこれは次の日の話。         

 

彼の背中にうっかり付けてしまった赤い爪痕。

無意識でやってしまった事で、決してワザとじゃなかったんだけど……    

    

「気にしないで下さい」と優しく笑う恋人に、ちょっと申し訳なさを感じながら、早く治りますように…と、背中をひと撫でした後、猫の引っ掻き傷みたいな爪痕に 僕は愛しい気持ちを込めてそっと口付けた。

 

 

END

説明
サクラ大戦V二次創作
孤独に生きてきた猫は、自分を抱きしめてくれる人間と出逢って初めて自分の中の寂しい気持ちに気付きました。
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