そらのおとしもの 新ショートストーリー 中学生はBBA 2nd story
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そらのおとしもの 新ショートストーリー 中学生はBBA 2nd story

 

 

『好きだよ……ニンフ。俺と結婚してくれ』

『ふっ、不束者ですが……よろしくお願いします』

 

『フッ。幼女との結婚。私とアインツベルンの雇われ魔術師は敵同士の間柄だが、これだけは祝わずにはいられまい。ランドセルがよく似合う幼女妻と幸せに暮らすがいい。さらばだ』

 

 

 

 ペドに目覚めた智樹に突然プロポーズされて私はそれを受け入れた。

 私たちはすぐに結婚し、それから1ヶ月ほどが過ぎた。

 私こと桜井ニンフの新婚生活は……

「中学校って本当に女はBBAしかいねえんだなっ! ここは養老院かっての!」

「なんですって! このゴキブリ桜井〜〜っ!」

 何ていうか……微妙だった。

 

 

 智樹は優しくしてくれるし、夫婦仲に特に問題はない。

 お嫁さんになってからは私も家事をするようになった。まだまだ下手なことばかりだけど曲がりなりにもお嫁さんはちゃんとやれていると思う。

 問題は家の外、特に学校だった。

 今の智樹には女子中学生が私を除いて全員BBAに見えてしまうらしい。

 智樹はその苛立ちを八つ当たりするかのようにして女子生徒たちにぶつける。我が夫ながら恥ずかしいほど大人げない。

 それで智樹は女子からますます嫌われるポジションになってしまった。それが妻である私の悩みの種となっていることは言うまでもない。

 

「ちょっと、あなた」

 女子生徒たちと口論中の智樹を呼び止める。

 結婚してから人前では、特に学校内では智樹の呼び方を変えるようにしている。結婚前との変化を分かり易く示すためと、もう1つは私と智樹の結婚を快く思わない勢力を牽制するため。特に後者の意味合いが強かったりする。

「何だよ?」

 智樹が不服そうな表情で私を見る。

「どうしてそんなに喧嘩腰なのよ? もっと大人しくしてなさいよ」

「だって中学生はBBAなんだぜっ! ここにいる幼女はニンフ、お前しかいないんだ。こんな苦痛にどう耐えろってんだよ」

「私はあなたのお嫁さん。幼女じゃないっての!」

 智樹は自分のお嫁さんを何だと思っているのだろう?

 でも、このバカ夫の意識を急に変えるのは難しそうなのは悲しいほど確か。むしろ女子生徒たちに大目に見てもらう方向でお願いすることにする。

「あ〜あ。今は私も苗字が桜井だし……ゴキブリ桜井って言われると傷付いちゃうなあ」

 いじけて地面を蹴るフリをする仕草を見せる。

「「「あっ」」」

 女子生徒たちが気まずそうな表情を見せる。

 “桜井”に対する非難を止めさせる。それにより間接的に智樹に対する攻撃を封じる。智樹はゴキブリであるが故に人権が適用されないので私が盾になるしかない。

「……桜井妻は淫乱浮気者」

 教室の隅から私を誹謗中傷する小さな声が聞こえてきた。

「……桜井妻は年がら年中エロいことばかり考えている女。このクラスの男子全員食べてしまったに違いない」

「男子全員におむすびをもらって食べたことがあるだなんて羨ましいです」

 言うまでもなくアルファとデルタだった。

「ちょっと、アルファっ!」

「ぶべらっ!?」

 デルタをぶん殴って窓の外へとぶっ飛ばし、地面に頭から突き刺しながらアルファの元へと向かう。

 

「随分と陰湿な真似をしてくれるじゃないの。根も葉もないこと言ってくれちゃって」

「……マスターを害虫から引き離すために必要な措置」

 姑を気取るアルファは私のことを智樹の嫁と認めようとしない。

「アルファが何と言おうと私は智樹のお嫁さんなんだからっ!」

「……家事も満足にできない泥棒猫がよく吠える」

「グッ!」

 アルファは私が掃除した箇所に指をツツッとなぞらせては拭き残しを示してみせる意地悪っぷりを示す。マジ鬼姑。

「……マスターにはもっと家事が上手くてスタイルのいい女が嫁として相応しい。こんなチンチクリンで貧乳でご飯もろくに作れない小娘ではなくて」

「うっさいわね。私だってすぐにお料理上手になってみせるんだから」

 私の家事の腕前はまだアルファに遠く及ばない。今の私では強く出られない。でも、幸いなこととしては──

「ニンフ。イカロスにはちゃんと敬老、じゃなくてもっと敬意を示さないとダメだぞ。姑、BBAじゃなくて、先輩なんだから」

 智樹はアルファのことを1人の女の子としては見ていない。BBA扱いしている。

 私を幼女扱いする困った性癖のおかげでアルファが1人の女の子として映らない。ちょっと複雑だけどおかげで助かっている。

 

「それから、これから2人きりで出掛けるぞ」

「……2人、きり」

 『2人きりで』という部分に反応してアルファがムッとする。そんな彼女の様子にちょっと溜飲を下げながら尋ねる。

「どこへ? 何も聞いてないけど?」

「この世の真理に目覚めた紳士たちの社交場にだ」

 満面の笑みを浮かべる智樹。

「…………あっ、そう」

 その言葉を聞いた瞬間、とても嫌な予感がした。

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「ここは、どこ?」

「紳士たちの社交場、マグロナルド幡ヶ谷店だ」

 智樹に誘導されて飛んでくること数千キロ。私たちは東京のとあるファーストフード店の前に来ていた。

「今日の集会では本物の紳士と幼…淑女が何人も来ているからな。ニンフもすぐに仲良くなれるさ」

「不安しか感じないんだけど?」

 結婚前だったら帰っている所だ。

「まあ、ニンフは俺の自慢の嫁さんだからな。堂々と紹介するさ」

「…………分かったわよ」

 智樹のちょっとズルいフォロー。こう言われると妻として夫に恥をかかせるわけにはいかない。私は夫に従って店内へと入っていく。

 

「いらっしゃいませ〜」

 店内に入るとロリ巨乳なアルバイト店員が可愛らしい声で笑顔を振りまいてきた。

「あの子の名前は佐々木千穂ちゃん」

「何で名前まで知ってるのよ?」

 智樹がスラスラと女の子の名前を挙げたことにちょっとムッとする。

「見ての通りのロリ顔で、顔はとってもグーなんだが……胸が大き過ぎるのが減点だ」

 智樹の言った通りに千穂という娘の胸は低めの背丈とは不釣合いなほどに大きかった。その大きさはなんとそはらクラス。世の中間違っている。

「ロリっ子は体型もつるぺたであるべきなんだ!」

 智樹は持論を訴えながら私の胸に手を当てて触る。硬い石にでも触るかのようなペタペタという音が鳴った。

「やっぱりロリっ子の胸を触った音はこうじゃなくっちゃな。ニンフは模範的だなあ」

「今すぐその手を放さないと……本気でぶっ飛ばすわよ」

 グー拳を握り締めて智樹を脅す。まだお日様の高い内から、しかも公衆の面前でとんでもない男だ。そういうことは夜私たちの部屋でしなさいってのに。昨夜みたいに。

 

「とりあえず注文するぞ」

「うん」

 2人でレジへと向かう。巨乳アルバイト店員が段々大きく見えてくる。

「……それにしてもあの千穂って店員、大きいわね。何を食べたらあんなに大きくなるのかしら?」

 羨望と絶望の瞳で推定Fカップ、またはそれ以上の双峰を見つめる。そんな私のまっ平らな胸を見ながら智樹は注文した。

「ニンフの胸と同じく、一番小さなマグロバーガーセットを2つお願いするぜ」

「アンタ、他に言い方ってもんがないの?」

 智樹をぶっ飛ばしてやろうか本気で悩んだ。

 

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 智樹が注文した2セットをトレイに載せて手に持ちながら店内を歩き始める。

「それで、集会相手はもう来ているの?」

「ああ。もう来ているみたいだな。ほら、あそこだ」

 智樹が顔を向けた先のテーブルには、青いカソックを着た金髪男が見えた。

「って、ペドネスじゃないのよっ!」

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 アルファにも匹敵する戦闘力を持つ天才魔術師。

 そして女子中学生をBBAと呼んではばからない生粋のペド。

「今日は紳士淑女の集まりだからな。幼女をこよなく愛するペドネスがいるのはごく自然なことだろ」

「智樹の言う紳士って一体何なのよ……」

 頭が痛くなってきた。

 更にテーブルに近付くと、ペドネスの他に2組のカップルが座っているのが見えた。

 いや、カップルと呼んでいいのか分からない。何しろ女の方が2人とも若すぎる。男が高校生ぐらいなのに対して女の方はどう見ても小学生だった。犯罪の臭いがプンプンする。

 この予感が外れてくれることはないだろうと直感した。

 

「それでは幼女愛という真実の愛に目覚めた紳士たちとそんな紳士を愛して止まない神聖なる幼女たちによる会合を始めることにする」

 幹事役らしいペドネスが式の開会を宣言する。

私は早くも帰りたい気持ちでいっぱいになっている。

「今回が初参加のメンバーもいることだし、まずは自己紹介からいってみるか」

 割と無難な進行をするペドネス。まるで本業が教師であるかのような滑らかな話しぶり。いや、こんな変態が人様に何かを教えるなんてあってはならないのだけど。

「ではまずは私からだ」

 ペドネスが立ち上がってみんなに対して恭しく一礼してみせた。こういう様だけは英国紳士を気取っている。

「私は魔術の名門アーチボルト家の頭首、そして幼女たちの守護者であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。気軽にペドネスと呼んでくれたまえ。但し、幼女に限るっ!」

 ケイネスは相変わらずペドネスなことをのたまった。この男には揺らぐということがないのだろうか?

 

「じゃあ、次は俺だな」

 次に立ち上がったのはバスケでもしていそうな爽やか好青年風の男だった。でも、見た目に騙されてはいけない。彼の隣にそっと寄り添って座っている制服姿のピンク髪の少女はどう見ても小学生なのだから。

「俺の名は長谷川昴。高校1年生の爽やかバスケマンさ」

 昴と名乗った男は爽やかなスポーツマンオーラ全開で白い歯を零してみせた。

 もしかして、この人はペドと違うのだろうか?

「好きなものはバスケと幼女、いや、智花さ♪ 座右の銘は『まったく、小学生は最高だぜ!!』人は俺を変態ロリコン王子と呼び、将来の夢はBBAを1匹残らず駆逐することさ」

 昴はピンク色のショートカットの少女を見ながら更に爽やかに微笑んだ。

 ああっ。やっぱりコイツもペドネスの同類か。この会合の参加者なのだから当然なのだけど。

「昴さん……ポっ♪」

 昴に紹介されて頬を赤らめている智花という少女。私としては悪い男に騙されている純情幼女の構図にしか見えない。こんなにも犯罪チックな組み合わせも珍しい。

「こっちの智花は俺の嫁さ。ほらっ、智花。みんなにご挨拶しなさい」

「はっ、はひっ」

 智花は緊張して舌を噛んでしまった。純情なドジっ子らしい可愛い仕草。

ピンク髪少女は舌を抑えて痛がり、頬を染めて恥ずかしがりつつ立ち上がった。

 

「す、昴さんとお付き合いさせて頂いている彗心学園初等部6年湊智花です。趣味はバスケです。よ、よろしくお願いします」

 智花はあわあわしながら頭を下げた。

 こんな席でなければもっと可愛らしく感じたのに。けれど今の私は昴を警察に引き渡すべきか真剣に悩んでいる。こんな子と……だなんて。

「なっ。この愛らしい仕草。小学生、じゃなくて智花は最高だろ?」

 昴はデレデレしながら嫁自慢を始める。

「俺も智花と出会う前は葵っていうお色気たっぷりの同い年の幼なじみと何となく結婚する未来を思い描いていたんだが、そんなことはなかった。ランドセルが似合う小学生少女な智花こそが最高の嫁だったんだ!」

 そんなワケあるかっ!

 そう大声で呼びたかった。

 でも、できなかった。

 だって、昴と智花と葵って娘の関係には思い当たることが多すぎたから。

 私と智樹とそはらの関係に似ている部分が多すぎる。

 今日そはらは学校を休んだ。より正確には今日も休んだ。

 休ませたのは私と智樹。

 そはらの欠席の原因を作った私に昴を非難することはできなかった。

 

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「じゃあ、続いては白もやしの番だな」

 昴は爽やかな笑顔を浮かべながら手前に座る白髪でアルビノな白い肌を持つ目つきの悪い少年へと声を掛ける。

「誰がァ白もやしだァッ?」

 スイカが絡んだ際のアルファみたいなヤバい表情をしながら男が返す。

「それはもちろんあなたのことよ。って、ミサカはミサカは的を射た指摘に大笑いしてみたり」

 白もやしの隣に座る水玉ワンピースの活発な幼女が手足をバタバタさせて喜んでいる。 

 何て言うか、この白もやしは正真正銘の本物ね。

 イカれた雰囲気と幼女が組み合わさって最強のヤバさを醸し出している。

 その危険な白もやしは私の嫌な予感通りの自己紹介をしてくれた。

「俺はなァ、学園都市最強のロリコン、一方通行ことアクセラロリータだァッ!!」

 一方通行は逝ってしまった瞳で自らを最強のロリコンと名乗った。疑いの余地のない犯罪者だ。

「俺はなァこのクソガキとの生活をぶっ潰そうとする奴はァ誰であろうと容赦しねえッ! 全員ブッ殺してやるッ!」

 過去に1万人ぐらい殺したことがありそうな危険な瞳で一方通行は自らを語っている。

「今日初めて会う奴もいるから語っておくぞッ! いいかァ・・・・・・中学生ってのはなァ、BBAなんだよッ!!」

 そして白もやしは智樹と同じ血迷った台詞を吐いてみせたのだった。

 

「まったくその通りだよな! 小学生だけが最高だぜッ!」

 素直に呼応する昴。その顔はとても嬉しそう。

「えっ?」

 一方でドキッとした表情を見せたのが智花。瞳が若干曇っている。

 それはそうだろう。

 智花は小学6年生と名乗っていた。つまり、小学生でいられるのは後半年しかない。

 卒業してしまったら昴との仲がどうなってしまうのか不安に思うのも当然の話だ。特に昴は小学生という部分にやたら重点を置いて喋っているし。昴は小さな恋人の不安を分かっているのだろうか?

「まったく、あなたは小学生にしか興奮できない困った性癖で将来が心配なの。って、ミサカはミサカはこの人を調教して矯正する計画を頭の中で立てながら大きくため息を吐いてみたり」

 一方で白もやしの恋人らしい最年少幼女は余裕があるっぽい。こちらは一方通行のペド性癖を矯正する気らしい。逞しい幼女だ。

 そんな幼女たちの微妙な心の交錯を無視したまま一方通行の話は続く。

 

「最強の力を手にした俺だったが満たされることはなかった。馬鹿どもはいつも突っかかってきた。だから俺は最強のその先を目指した。誰も刃向かう気にならない別次元をな」

 一方通行の話はどこかアルファとカオスを連想させた。

「誰も俺に抵抗する気がなくなれば戻れるはずだったンだ。あの幼き日のみんなで遊んだ公園にな。俺も仲間に加われるあの場所にな……」

 口を噤んだ一方通行からとても強い孤独を感じた。強さを極めた故に誰からも疎まれたアルファとカオスにそっくりだった。それはとても悲しいことに違いなかった。

 そして一方通行は己の哀愁を爆発させるようにして叫んだ。

「幼女たちで溢れていたあの公園になァッ!!」

「えっ?」

 話の方向が一気に変わった。

「このクソガキに出会って俺はようやく気が付いたンだ。俺があの公園を欲したのは幼女たちがいたからだってな」

 一方通行の瞳は完全に逝ってしまっている。

 感動を返せ。そう声を大にして叫びたい。

「レベル6を目指している最中、俺は一度も楽しいと思うことがなかった。当然だ。俺の周囲には1人の幼女もいなかったンだからな。俺は死んでいたも同然だった」

 変態白もやしは舌打ちしながら頭を掻いた。

「だが今の俺は違う。このクソガキと一緒に暮らすようになってから……俺の本当の人生はようやく始まったんだ」

 一方通行は天井を見上げて短く息を吐き出した。本人的にはいい話のつもりらしい。人生に潤いができたのはいいことだと思う。完璧なペドだからロリペド撲滅法に絶対に引っ掛かるだろうけど。

 

「それじゃあ次はミサカの番なの。って、ミサカはミサカは自己紹介の順番が回ってきたことにちょっと興奮してみたり」

 独特の喋り方をする水玉ワンピース幼女が立ち上がる。

「ミサカはミサカって言うんだよ。この人と一緒に住んでいるの。って、ミサカはミサカはこれ以上の情報は色々あって開示できなかったりぃ」

 ミサカと名乗る幼女は首を横に振った。

 名字しか名乗らなかったり、この変態白もやしと一緒に暮らしていたりと結構複雑な家の子供なのかも知れない。

 その辺の事情はあまり深入りしない方がいいかもしれない。

「どうして白もやしは幼女と一緒に住んでるんだよ! 俺だって智花とはまだ同棲できていないのに」

「しゅっ、しゅばる、さん……」

 空気が読めないことを訊いてしまう昴。真っ赤になる智花。

「コイツは俺の命なンだよ。俺はコイツがいねえと死ンじまうンだよ」

「ミサカがこの人の目となり耳となり口となり鼻となる。私がいないとこの人は何にもできないから。だから、ミサカはずっとずっとこの人と一緒にいるの。って、ミサカはミサカは恥ずかしいことを口にしてみたり」

 ミサカは顔を赤くして恥ずかしがっている。

 だけど、私には今の2人の説明をどう受け取るべきなのか分からない。

 一方通行とミサカが相思相愛だという意味なのか。それとも、一方通行はあの子の介護サポートがないと死んでしまう重病人だったりするのか。

 よく分からない不思議な関係を2人を結んでいるらしい。一方通行がペドなのは間違いないのだけど。

 

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「では、最後はお前たちだな。アインツベルンの雇われ魔術師とその幼女妻よ」

 ペドネスの顔が私たちへと向く。

「じゃ、まずは俺だな」

 智樹は私の手をテーブルの下でそっと握りながら立ち上がった。ちょっと嬉しい。

「俺の名は桜井智樹。平和と全裸と幼女を愛するどこにでもいるごく平凡な中学2年生の男子だ。好きな歌は俺が作詞作曲した「チクチクBチク」だ。よろしくな」

 智樹は昴並みに爽やかに微笑んで見せた。

 ……どうして私はこの人と結婚してしまったのだろうと疑問を覚えざるを得ない。手を繋がれて嬉しいとか私は麻痺しているのだろうか。

「それで、こっちが俺の嫁さんで」

 智樹が顔を覗き込んできた。

「うん」

 私は立ち上がって自己紹介を述べる。

「智樹の妻の桜井ニンフです。夫共々よろしくお願いします」

 4人に向かって頭を下げる。夫が変人だからといって私が無礼を働いていい理由にはならない。夫が変態だからこそ、妻である私がしっかりしないと。

「名字が同じな理由は?」

 やや驚き顔で昴が尋ねてきた。

「俺とニンフは正式な夫婦だからな。同じ名字になるのは普通だろう」

 智樹はあっさりと答えて返した。

「ちょっとマテ。智樹もそうだがァ智樹の嫁も一体何歳なンだよ? 計算おかしくねえか?」

 一方通行も首を捻っている。

「俺は14歳だぞ」

「私は……智樹の同級生よ」

 断言は避ける。私はエンジェロイドなので年齢とか訊かれても困るのが本当の所。自分でも何歳なのかよく分からない。

「それじゃあニンフちゃんは智花より背が小さいぐらいなのに中学生?」

「BBAじゃねえか」

 蔑んだ声と瞳が私に突き刺さってくる。思わずキレそうになるのをグッと堪える。

「チッチッチッ。何も分かってないな、お前たちは」

 助け舟を出してくれたのは智樹だった。

「いいか。俺の嫁のニンフたんはなあ、永遠に年を取らないんだ」

 智樹はドヤ顔をしてみせた。

「何だってぇッ!?」

「なンだとぉおおおおおおォッ!?」

 ペド2人が驚愕の表情を見せる。今日一番の驚きを見せている。

「ニンフたんが中学生なのは俺と同級生でいることを優先した結果に過ぎない。その気になれば永遠の小学生だって可能なのだよ」

「それじゃあ、君の奥さんは永遠に幼女のままだということか!? 人類の夢そのものじゃないかっ!!」

「智樹ッ! テメェは神の座に上り詰めたってことかよッ! テメェが幼女神かァッ!!」

 ペド2人は羨望の眼差しで私たちを見ている。

「オイオイオイ。俺は嫁さんが永遠の美幼女だってだけのごく平凡な中学生だぜ。神だなんて照れちまうぜ」

 夫は鼻高々にふんぞり返っている。

 一方で私は相変わらず幼女扱いされてかなり複雑な想いに包まれている。BBAよりはマシかもしれないけれど。

「ちなみに、私たちが正式な夫婦になれたのは空美町の役所のコンピューターにハッキングしてちょこちょこっとデータを改ざんさせてもらった結果だから。コンピューターのデータいじって書類を提出するだけで正式な夫婦になれるんだから人間って単純よね」

「あの、それって違法な行為なんじゃ……?」

「なるほど、その手があったかって。ミサカはミサカはこの人との結婚に活路を見いだして喜んでみたり」

 今度は幼女たちが騒いでみせる番だった。

「俺の嫁さんは今聞いたように優秀だからな。俺が路頭に迷っても食べさせてくれる凄い能力の持ち主でもある」

「幼女な奥さんのヒモになるって、智樹は一体どこまで人間を超越すれば気が済むんだい!? 神でさえ通過点でしかないのか!?」

「チッ。レベル6なんてつまンねえもン追ってねぇで、ガキの成長を止める薬の開発に力を注いでおくべきだったな。まさか、こんな究極神が実在してたなンてよ」

「……私は、お金持ちじゃなくていいから智樹に養ってもらいたいんだけど。『お帰りなさいあなた』ってやりたいんだけど」

 盛り上がっているペドたちには、子どもたちと一緒に智樹パパの帰りを待つという私のささやかな夢を聞いてもらえない。

「さすがは超天才魔術師であるこの私の終生のライバル、アインツベルンの雇われ魔術師だな」

 ペドネスもコクコクと頷いている。ペドの賞賛の基準って私にはよく分からない。

「さて、これで自己紹介も済んだようだし、いよいよ今日の会合のメインディッシュに進むとするか」

 ペドネスはこれからが会合の本番であることを告げる。

 けれど私はもう精神的には疲労困憊状態だった。

「これから……どうなっちゃうんだろう?」

 先行き不安になって窓ガラス越しに空を見上げる。

 

 さっき私がぶん殴って頭から地面に突き刺さったデルタが幡ヶ谷の空から私たちを優しく見守ってくれていた。

 

 続く

 

 

 

 

 

 

説明
書く事がないから何となく続いた前回の続き。そらのおとしものにも続々と新キャラが追加。
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そらのおとしもの ケイネス先生 ニンフ 

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