超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編
[全1ページ]

ーーーあなたは、記憶喪失ではないのですよ

 

そう、闇を形容させた様な男性『ニャル男』は冷たい笑みの表情でそう言った。

頭に響く、その言葉を理解するまで暫く俺は唖然としていた。

一年前、俺は名もないダンジョンで倒れていた。それは俺を保護していてベールが言っていたので間違いことだ。

目覚めた俺には、生活に必要な知識以外、頭の中は空っぽだった。どこで生まれて、どこで育ったのか、全てが暗黒に染まって、自分と言う個の名前は思い出せても、自分が分からなかった。

この世界ーーーゲイムギョウ界のことを学んでいる間、俺が味わったのは無知なものばかり、決して既知感ではないことに、自分には果たして家族がいたのか、恋人がいたのか、大切な人がいたのか良く考えたことがある。

それは、俺にとって明日の希望だった。自分を知っている人に、失礼かもしれない、悲しませてしまうかもしれない、けど俺は自分を知りたかった。

 

 

そんな、いままでの想いは、あっさりと目の前の俺を知っている者に否定された。

 

 

「あなたは、産まれたばかりの雛のように他人のいうことを素直に受け止め、それが事実と疑わずただただ鵜呑みする赤ん坊。無垢な始まりは、周りの影響に良くも悪くも影響されやすいのですよ?」

 

豪華な部屋。裕福な親と子供が住んでいそうな一室の中で、俺とニャル男さんは向かい合っていた。

窓からは、キラキラとした陽光が差し込んでおり、この部屋自体も塵ひとつも見えない程清潔が保たれ、微かに花の匂いが鼻孔を擽っているが、今の俺にはそれらは虚無しか感じない。頭を抱えて、俺は机に膝を置いた。

意味が分からない。嘘だと頭の中で幾度もなく訴えられる。それを信じたい、だがニャル男さんは更に口を動かす。

 

「見た目は10代後半から20までの若い青年。服装は町中を歩く様なものではなく、むしろ暗闇に身を染めるような漆黒のコート。そして、記憶がない。その条件であれば、考えれるのは記憶喪失だけでしょう。((普通なら|・・・・))」

 

他にも他国のスパイと疑われたことがあった。しかし、それはベールが守ってくれた。彼女にとって暇つぶしで俺の話をよく聞いてくれた彼女は、俺のことを案じて自分の立場を危ぶんでまで、俺を助けてくれた。

今でも、覚えている。自分のことが何一つ分からなくて、不安を隠せない出された食事にも喉が通らない時に、大丈夫だとまるで路頭に迷った子供を光りあるところに導く様な聖母のような温かさで頭を撫でてくれたベールを忘れることは無い。

拳は、まだ握れる。大丈夫だと自分に言い聞かせる。下を向かず深呼吸の後、まっすぐニャル男さんを見る。

 

「……ほぅ」

 

まるで予想外な反応を見せた様にニャル男さんは、息を漏らした。

 

「教えてください。俺は((誰|・))なのか」

 

「えぇ、あなたのその真っ直ぐな瞳に免じて答えましょう。あなたは処理装置です」

 

ーーー処理装置。一体何のと疑問が直ぐに浮かんび質問を言おうとしたが、それより先にニャル男さんが口を開いた。

 

「零崎 紅夜……彼とは杯を交える仲でした。彼は、邪悪の存在すら恐れ、頭を垂れることしかできない最恐の魔刃を持つ者、生死を超越した世界の円環を外れた未知なる魔人。現実を知りながら絶望せず夢幻を見続ける狂気者。私の最高傑作品である。罪の権化、混沌の残物、その名を((罪遺物|・・・))」

 

罪遺物。そのキーワードには聞き覚えが合った。空が安堵の思いでつぶやいていた言葉だ。

 

「私は、王の復活を望んでいる。その為には様々な世界に散らばる『旧神の鍵』、無限宇宙の中心に王を封印した忌々しき魔を封じる創壊の魔導書を破壊する為に対抗策として、終極の魔導書を造り出した。それが、あなたの中にある『死界魔境法ネクロノミコン・ディザスター』です」

 

ニャル男さんは目を細めて俺の胸を指さした。空曰く『ありとあらゆる邪神召喚する媒体にして生贄にできる』と後は芽生えればゲイムギョウ界が余裕で滅びるとか『アザトースの種子』を核にしているとか。

とにかく、危険という認識はしているが、今一実感が沸かない。

 

「しかし製造したまでは良かった。邪悪で禍々しく冒涜的な呪法で埋め尽くし、世界を壊すことなど容易なその魔極の魔導書の唯一の弱点が浮かんでしまった。それを、取り扱う者への負担」

 

「……あんたが、使ったのなら。あんたが十全に使えるんじゃないのか?」

 

「えぇ、私が使っても十分な力を出せます。しかしそれは理論上での限界値までです。知っていますか?無価値に生まれ、無意味に育ち、無駄に死んでいく人間とは決定的に私たちは違う。これは邪神であろうが、旧神であろうが、『神』である以前に、私たちは生まれたその時から((在り方が定められている|・・・・・・・・・・・))」

 

在り方。自分の存在理由。確かに産まれたばかりでは、当然何もわからない。

ただ、生命の始まりを詠う赤ん坊だ。それを取り巻く家族や環境などによって自分の道を決めていくのが人間だ。

それに比べて、女神は、俺の知る神は、ニャル男さんが言った様に既に女神としての在り方の骨格が出来上がっていた。

誰にも頼まれているからではない。自主的にそれが自分の宿命と言わんばかりに。

 

「さて、話を戻します。貴方の肉体『罪遺物』は、十六の因果を喰らい尽くし無限の魂魄を喰らい尽くした生命の塊であり、一寸の光明すら届かぬ暁闇の深淵から昇華した邪神に近く、同時に人間の特性を持った混沌なのです。正直な所、あれが((生まれた|・・・・))のは、私の想像を超えました。ある程度の性質さえあれば『((死界魔境法|ネクロノミコン・ディザスター))』は使えます。私は、人間の未知なる可能性を餌に使い潰しを行っていき目的を果たそうとしてきたました。まさか、完全掌握をした上、取り込み進化する者が出てくるとは……」

 

「それが……零崎 紅夜…」

 

「えぇ、それが罪遺物の誕生です。あの究極の魔を制した者を私は手に入れようとしましたが、採取を優先したのが原因であっさり負けました」

 

よほど、その時を悔しかったのか、ニャル男さんは子供っぽく頬を膨らませて腕を組んで、小さな怒りを表現している。

 

「あんな屈辱は、ロリ魔導書と宇宙の中心で愛を叫んだロリコンコンビが自身の無限の可能性を全てを召喚し、異空間を木端微塵に粉砕するほどの無限光を喰らった以来です……!」

 

ニャル男さんのプライドが、その珍妙コンビにやられたのかよっぽど悔しかったのか顔を歪めるが、直ぐにいつも表情に戻した。小さく「まぁ、あれは私であって私じゃないですけど」と意味不明に呟いた。

 

「……話が高跳びましたね。それでは、全ての始まりはあの破壊神『有機体イムナール』が零崎 紅夜の精神を破壊した所から始まります」

 

目を瞑り、愉しそうに声を高くしてニャル男さんは語り始めた。

ーーー旧神の隷属である『夜天 空』と邪神が生み出した円環から外れた魔人『零崎 紅夜』は、親友以上の仲だった。

しかし、とある事件の後から二人の間には亀裂が走り始め破局、零崎 紅夜は邪神の元へ向かおうとした。

旧神と邪神。この世の善悪の関係であり、旧神達は夜天 空を使って零崎 紅夜の絶滅命令を下したそうだ。

零崎 紅夜は破壊不可であるほどの存在であったが、親愛だった関係故に精神的に隙が生じた所に夜天 空の一撃が加わり、零崎 紅夜の精神は破壊された。

だが、零崎 紅夜は一撃を食らう前に次元に穴を空け、どこかへ消えていった。

 

「簡単に纏めると、こんなものでしょう」

 

「……あいつが、……そんなことを」

 

どことなく俺に執着してきた空にそんな過去が……、なんだか納得できた気分になった。

アイツが本当に心配しているのは、俺ではなく俺の中身なんだ。

胸が引き裂かれているような激痛が走る。理由もなく悲しみが溢れてきた。同時に脱力感が、虚無感が襲ってきた。処理装置、ニャル男さんは言ったその言葉の意味が分かったからだ。俺はーーー………

 

 

「………俺は……零崎 紅夜の……破壊された精神を…修復するための……((疑似人格|・・・・))…なんですか…」

 

「パーフェクト。素晴らしいですよ((ニヒル|・・・))」

 

ニヒルーーーどこかの国の言葉ではゼロという意味。

つまり、デペアは初めから((答え|・・))を言っていたのだ。

 

 

 

お前には、何もない。

 

 

お前には、感情はない。

 

 

お前には、意思がない。

 

 

お前のやること全て、((お前は決めたことじゃない|・・・・・・・・・・・・))。と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界は歪んでいる。

耳に届く音は、葉っぱに水滴程度の大きさが当たる音、ゴロゴロと雷鳴が響く。

見上げる空は灰色で、体に叩きつける大雨の所為なのか、はたまた歩くことも嫌になったのか、千鳥足で俺は森の中を歩いていた。

 

「……いつから、だっけ…」

 

誰かを守りたいとか、誰かを救いたいとか夢物語を抱き始めたのは。

教会で日々送られるモンスターを討伐したほしいの内容が書かれた悲痛の文章を見てからだっけ…。

理屈もなく、ただ誘われるように剣を握りしめてモンスターを切り裂いて、みんなに褒められて、それがとても嬉しくて……色んな依頼を受けて、頑張ってだけど、結局救えなかった命には自分を責めながら、誤って……次は、もっと誰かの役に立つ為に寝る間を惜しんでモンスターについて勉強して、鍛練を積んで。

自分でも、なんでそうしたいのか。よくよく考えれば分からなかった。

ただ押されるままに、俺は悩みを胸に押し込みながら剣を振るっていたんだ。

 

「…俺には……零崎、紅夜には……」

 

元から、そんなものはなかった。

古臭い劇場の中で糸に吊るされた木偶人形は、一人踊っていたに過ぎなかった。

全ての事柄は、零崎 紅夜の修復されつつある精神が俺を動かしていたんだ。

存在を証明する名前なんて、俺にはなかった。あるとすれば、命令されたことに疑問を浮かべることもしない忠実な処理装置。

ベールと一緒にゲームをやった思い出も、ケイブ先輩と共に警備隊の元で働いたことも、チカに誘われるままに買い物をした思い出も。

ネプテューヌと笑いあった思い出も、アイエフと共に事件の解決に意見を交わしたことも、少しドジなコンパを心配する思いも……全て、零崎 紅夜はしたことだ。((俺じゃない|・・・・・))。

操作でも、洗脳でも、無かった。そうすることを定められていた空っぽの俺は、意思を反映するための装置だったんだ。

 

「……笑える。……笑えるよ。」

 

ニャル男さんは、あれから俺をゲイムギョウ界に送ってくれた。

なぜ、あれほど弾丸を喰らって死ななかったのかは、罪遺物のオプション的機能でとにかく分子レベルまで粉砕されようと余裕で回復できるとのことだ。俺が直ぐに目覚めなかったのは罪遺物の封印が強いから……だとか。

ドンっ、ドンっ、それほど激しい雨でないはずだが、目の前が歪んで歪んで木に幾度もなく体をぶつけた。

態勢を崩して、倒れる。顔から泥に突っ込んでしまって、更に視界を汚した。

口から泥を吐き出しながら、また千鳥足で俺は歩き始める。目的は俺の家だ。

意思がない俺でも、掃除洗濯家事全ては零崎 紅夜がしたことかもしれない。

けど、それでも、例え俺じゃなくても、あそこでみんなで喜んだ俺は、俺のはずだ。あそこだけは((俺の世界|・・・・))のはずだ!

 

「…ハァ、ハァ、ハァ…!」

 

笑う足を抑えながら、必死に体を動かす。

帰ったら、シャワーでも浴びて寝よう。

デペアにと話せないのが、微かに不安感を抱くが、あんな奴は居てもいなくても同じことだ。あいつはずっと俺を人形として見て来たのだから……。

俺の意思はどこにある。俺の感情はどこにある。俺の信念はどこにある。グルグルグルそれが回って、回って思わずその場で吐いてしまう。気持ち悪い、気持ち悪い。

 

「!−−−ぐ、ぅっ!」

 

足を踏み間違って坂道を転げ落ちる。防水機能があるはずだが、羽織っている漆黒のコートがいつもの5倍以上に感じれた。

足に力を込めて、風でも吹けば倒れそうになる体制でも立ち上がった。

これで森を抜けた。もうすぐだ。−−−もうすぐで俺の家が……

 

 

「うわぁ、酷い放火魔がいたものだな」

 

「雨が降ったおかけで、隣までは移らなかったが……全焼だな」

 

「ここの家って、確かあのバケモノと呼ばれている黒閃の家じゃねぇ?」

 

「あぁ、全てを漆黒の一撃のもと葬る一閃。噂では仲間ですら容赦なく切り捨てるとか、恐い怖い」

 

「これってあれじゃない?親族の逆襲って奴?俺の知り合い親族に黒閃を呼んでおいても、モンスターの被害があって数人怪我したらしいよ?」

 

「マジかよ。恐いなぁ……まっ、怨みを買う様なことをしたんだ。一種の天罰だろ。アハハハハハ」

 

 

真っ黒だった。何もかもそこにはなかった。

思い出は塵芥に、耳を澄ませば聞こえそうな陽気な笑い声なく品のない笑い声が耳に届く。

真っ黒、真っ黒、真っ黒。

なにもかも、真っ黒で輪郭はほとんどない。精々柱が数本残っているだけ。

 

 

 

「……………嫌だ」

 

嫌だ。嫌だ。嫌だ。

嘘だ。嘘だ。嘘だ。

見たくない。見たくない。見たくない。

 

なんで、これが現実なんだ。

なんで、これが夢じゃないんだ。

 

地面に膝が付く。

全身から力が抜ける。

………もういいや。寝よう。願うなら永遠に目覚めることがないように。

 

 

 

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超次元ゲイムネプテューヌ 主人公が絶望して、今日は飯がうまい 

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