覇王と御使いで七日間の駆け落ち 四日目(後)
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華琳SIDE

 

「お見苦しい所を見せちゃってすみませーん」

 

子供遊びに付き合っていた私たちの前にあらわれてはあっという間に自滅した華蝶仮面二号…もといここの院長は子供たちの看護を受けながら私たちに言った。

 

「ソウソウさん、紹介します。ヘレナさんです。」

「ヘレナ・スミスと言いますー、この孤児院の院長をやらせて頂いていますー」

 

のほほんとしている彼女は私たちにゆったりとした敬礼をしてみせた。

 

「先生、絆創膏つけるからこっち向いて」

「あぁ、ありがとうねー」

 

彼女の鼻に絆創膏をつけようとする孤児院の女の子が一人。

そして擦り剥いた膝に薬を塗っている女の子が一人。

転んだ際に向こうに跳んでいった靴を探して帰ってくる男の子が一人。

それ以外にも色んな子たちがその院長のフォローに回っていた。

 

出来た子たちと褒めるべきなのだろうか、それともただ転んだだけでも子供たちがこんなに人が群がらせる院長の人徳を称えるべきなのか。

 

「ヘレナさんは子供たちに良く慕われる良い先生なんですけど、自分の持ち場から離れて何歩歩いただけでも転んでしまう所が玉に瑕です」

「駄目じゃない」

「あぁ、大丈夫ですー。最近は皆の助けがなくても孤児院の玄関で転ばす靴を履けるぐらいにまでなりましたー」

「あなた今まで良く生きてこれたわね」

 

桂花が何歩歩いては転ぶと思ったら可哀想になってきた。

……逆にそそるものがあるかもしれない。

 

「ヘレナさん、こちらはソウソウさんって言います」

「あらー、チョイちゃんってばいつの間にこんな綺麗な彼女が出来たの?」

「ふえっ!?」

「チョイちゃんの彼女さん?」

「よかったねー」

「チョイって彼女もちっちゃいな」

 

院長のヘレナと子供たちがそんなことをいうとチョイは慌てながら否定した。

 

「ち、ちがいますよ。ボクとソウソウさんはそういう仲ではありません」

「もう照れちゃってー」

「照れてる」

「…悪いけれど、本当にそういう仲ではないわ」

「なーんだ、つまんない」

 

私は助け舟を出すと子供たちは食いつくのをやめた。

 

「あらー、そうなんですかー」

「はぁ…ソウソウさんがボクの恋人なわけないじゃないですか」

「…ちょっと、それはどういう意味なのかしら」

 

私がギロリとチョイを睨むとチョイはまた慌てながら私を見て手を振った。

 

「い、いえ、ソウソウさんが魅力的ではないとかそういう話ではなくてですね…」

「では、一体どういう意味なのかしら」

「え、えっと……その…」

「それでーソウソウさんはどのような用件でこちらに来られたのでしょうかー」

 

私はチョイをからかっていたら院長のヘレナが私に尋ねた。

 

「ああ、そういえばそうだったわね。特に用件というわけではないけれど…チョイ?」

「え、あぁ、はい、ソウソウさんはその……」

 

私の紹介しようとしたチョイは言葉が詰まった。

それもそのはずだった。

この世界で一刀はまだ妻が亡くなって間もなき所。

そんな所で突然私をなんと紹介すればいいのか困るのも当たり前だった。

 

だけどチョイの時にもそうだったように私は一刀と人前で隠すような関係であるつもりはなかった。

 

「その、ソウソウさんは社長のお友達です」

「友達?社長さんがですか?」

「正確には友達以上の関係になる予定だけどね」

「ちょ、ちょっと、ソウソウさん」

「人の前で隠すような付き合いをしているつもりはないわ」

「……へー、社長さんの愛人さんですか……」

 

のほほんとしていたヘレナの声が少し固くなった。

 

「それで、こちらにはどのような用件でしょうかー」

「彼の…一刀について知りたくて来たのよ」

「と、言いますとー?」

「彼がここの院生だった頃の話や、その後の話…レベッカのことも含めて」

「……」

 

ヘレナは私をじっくり見てからチョイに視線を移した。

 

「社長さんはー、この人がここに居ることについてご存知でしょうかー」

「社長は知りません。今は理事会に出席しているでしょうから」

「……」

「お願い、ヘレナ」

 

ヘレナは最初の時とは違いすごい剣幕を出していた。

私は私が少し自分の立場を誤ったと思い覇気を抑えて出来るだけ優しい声で言った。

 

「あなたに彼の話を聞くのは私個人の利益のためだとか、ただの好奇心ってわけじゃないわ。私は彼についてもっと知りたいのよ。あなたに全部話すことは出来ないけど、私は彼があなた達の前から姿を消してる間に彼の色んな姿を見ることが出来た。でもこれ以上彼に近づくためには彼の暗い所も知っておくべきだと思ったの」

「…あなたがレベッカちゃんの代わりにでもなるおつもりでー?」

「……」

 

自分を誰かの代わり…にするつもりはない。

 

「それ以上になろうと思ってるわ」

「……」

 

ヘレナは私をまっすぐ見た。

私の前に居るこの二人は、私が知っている限りこの世界にて一刀のことを一番心配している友達だった。

この人たちに認めてもらえない限り、彼の心をこの世界から完全に私の所に持ってくることは出来ない。

 

「…私はー…社長せんとレベッカちゃんが初めてこの孤児院に居た頃からここに居ましたー」

「…それじゃ…」

「はいー、私もここの院生でー社長さんの反乱をこの目で見ましたー」

 

彼女からだと、一刀から聞けなかった彼の過去の話も聞けるかもしれない。

 

「話してもらえないかしら。一刀や…レベッカについても…」

「チョイちゃんが連れてきた人ならー…でもー、聞いた後のことは自己責任ですからねー」

「ええ、もちろんよ」

 

ここではなんですからー、とヘレナは私たちを院長室に案内した。そこでやっと、ヘレナから一刀の過去について詳しい話を聞くことが出来た。

 

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社長さんはですねー

初めて来た頃からすごく無口な人だったんですよ。

あの頃も私は孤児たちの中からは年を取った方だったので他の子たちの面倒を良く見たんですけど―社長さんはほんとに食べて寝ること以外に何もしない子でした。

自閉症って言うんでしたっけー?周りの環境から自分の心を閉じちゃうんですー

そんな風に数年を一言も喋らずに過ごしていましたー

 

それから数年後にレベッカちゃんが来ましたね。

綺麗な娘でしたねーどうしてそんな可愛い娘が孤児になったのか判らないぐらい可愛い娘でしたー

絵を描くのが好きだったんですよねー。

なんか描く対象を見つけると、食べることも忘れていつまでも自分が気に入るまで鉛筆を握っているんですー

 

ある日レベッカちゃんが社長さんのことを描こうとしたんですよねー

でも社長さん壁の方を見ていて一向にレベッカちゃんの方を向かなかったんです。

わたしがレベッカちゃんに諦めるようにいったんですけどー、レベッカちゃんも自分が描くと決めた対象は必ず描く娘だったんですよねー。

それで無理やり社長さんの腕を掴んで自分の方を向かせようとしたんですよねー。

そしたら社長さんが腕を大きく振り払ってレベッカちゃんが倒れちゃったんですー。

そしたらレベッカちゃんが泣きながら行っちゃうかと思いきや、涙を滲ませながらもスケッチブックと鉛筆を握って後ろを向いてる社長さんを描き始めたんですー。

それで何時間ぐらい経って絵が出来上がるとそれを取ってその場に置いてどっか行っちゃったんですー。

社長さんはレベッカちゃんが絵を描いてる間にも何もせず壁を向いていたので私が行ってどんな風に描いたのかなと見てみたら、絵の中の社長さんはそれまでわたしも見たことのない顔で笑っていましたー。

社長さんって笑うどころか他の表情も全く見せない子だったのに、何故かその絵の中の社長さんはとても本物の社長さんに似てるって思ったんですー。

私はびっくりしてその絵を社長さんに見せてあげたんですよねー。

そしたら社長さん私からその絵を奪い取って壁の代わりに何日もその絵を見続けていましたねー。

 

それから何日が経って、ある事件がおきましたー。

当時この孤児院の院長は政府からの補助金や寄付金を自分の勝手に使いダメ人間だったのですけど、精神疾患のある孤児たちに手を出す人間でもあったんですー。

その日はレベッカちゃんに目を付けた院長がレベッカちゃんを連れて身分の部屋に行きましたー。

私は下手をしたら自分たちの居場所がなくなるかもしれないという思いに何も出来ず居ましたー臆病だったんですー。

でもそれまで黙っていた社長さんは突然立ち上がって院長室に入りましたー

そして間もなく院長が奇声をあげながら部屋を出て行き孤児院から逃げ出しましたー。

私が院長室に駆けつけた時には社長さんの手には血のついたカッターナイフが握られてましたー。

 

レベッカちゃんはその時でも笑顔で居ましたねー。まるで自分が何をされそうになってたのか判らなかったみたいです。

血塗りの刃物を持って震えている社長さんを見ながらレベッカちゃんはいつもと代わりのない笑顔でこう言いました。

 

「Hi」

 

それからは社長さんがどうやって孤児院を立て直したか私はあまり賢くないので判りません。

でも社長さんのおかげ孤児院が良くなって、治療が必要だった子たちは別に施設に行けるようになって、他の子たちもなにかしら技術を身につけたりしてここを去りました。私だけがここの院長を任されて次々と来る新しい子たちを診るようになりましたー。

 

レベッカちゃんはあまり喋らない子でしたー。多分、あの時が初めてだったと思います。

後で知ったことですけど、レベッカちゃんは脳の言語領に少し問題があって、自分の考えを言語化することができない娘でした。でもその後からは一、二単語ぐらいは話せるようになりました。

 

でも喋れない代わりにレベッカちゃんは絵がすごく上手でしたー。

ジェニーちゃんが持ってる華蝶仮面の絵もレベッカちゃんが描いてくれたんですよー。

ただ上手ってわけじゃなくてレベッカちゃんには不思議な力がありましたー。

これも後で知ったことなんですけどーレベッカちゃんはそれからも人の顔を描く時にその人がしてる顔表情とは違う絵を描いたりしましたー。

それは多分レベッカちゃんにはその人の顔がそんな風に見えたのか、それともその人がそんな表情をしていて欲しいという気持ちが篭っていたのだと思いますー。

だから社長さんの絵を描いた時にも笑顔の絵を描いたのだと思いますー。

ある時は、孤児院に来たある保険会社職員を化物のように描いた時もありましたー。

恐らく社長さんは今でもその絵をどこかに隠し持っているでしょう。

 

社長さんはレベッカちゃんのことをとても大事にしましたー

活発になった社長さんでしたけど感情の表現には疎かったですけどーそれでもレベッカを大事にする気持ちだけはしっかり伝わりました―

レベッカが夜遅くまで孤児院に居る日はいつも社長さんが迎えに来ていましたー

 

レベッカちゃんが事故に会った日を今も覚えていますー

チョイさんから連絡を聞いて病院に行った時は社長さんが丁度病室を出てきていましたー

私とチョイさんがレベッカちゃんの様子を聞く前に醫者と看護師たちが部屋に入って大騒ぎが起こりましたー

社長さんは何も言わずに私たちに帰れって言いましたー

そう言う社長さんの顔がまだ頭に残っていますー

社長さんはまるでレベッカちゃんを助けたあの日以前のような顔に戻っていましたー

 

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ヘレナが言っている言葉は、一部彼女の視線が含まれていたけど、だいたいの所が一刀が言った言葉通りだった。

 

「レベッカは…車事故だったって聞いたけど、どんな状態だったの?」

「…酷い怪我だったそうで…保護者が誰かもしれない状態で急いで手術を行ったそうですー。でも結局は…」

「彼が会いに行った直後死んだの?」

「多分そうでしょうねー。社長さんの目の前で息を止めたの思いますー」

 

自分が愛する人を目の前で失う悲しみ。

私はそれがどんなものか…知っていた。

 

「その後彼はどうなったの?」

「それが私たちが社長さんを見た最後ですねー」

「社長はその後直ぐに姿を消しました」

「葬儀も行わずに?」

「葬式は残った私たちで行いましたね―……思いどころはありましけど…勝手ながらレベッカちゃんの墓場はこの孤児院の裏の庭園におかせてもらいました」

「ここに?」

「はい、レベッカちゃんは家以外ではここで一番長く過ごしてましたからー。子供たちがすごく泣きましたけどー今は皆なんとか笑顔を取り戻しました―」

「一刀はその事を…」

「知りません。知りたくもないだろうと思いました」

 

私はチョイの方を振り向いた。

 

「彼に墓参りもさせないつもり?」

「社長は終わりが嫌いな人でした。彼の母親が亡くなる時にだって臨終の時にも葬式にも姿を表せませんでした。墓参りも一度もしたことがありません」

「……」

「それに、言ってはいませんが多分社長だって感づいていると思います」

「彼ならありえない話ではないわね」

 

でも、だとすると彼はどうするつもりだったかしら。

このまま墓参りもせず私と一緒に帰る?

少なくとも私は彼がやり残した気持ちで去ることはさせたくなかった。

でも私が無理やりやらせた所で意味はない。

結局、そこだけは私がなんとか出来るところじゃなかった。

彼が私の代わりに秋蘭のことを悩んでもらえないのと同じく……。

 

「彼女はどんな娘だったのかしら」

「綺麗な娘でしたねー。さっき言った通りに言葉が上手く使えない娘でしたー。孤児院に居た頃、社長さんに助けてもらう前には彼女も一言も喋ったことがありませんでしたからー」

「喋ったことがない……」

 

少なくとも一刀は彼女に惹かれた。

長い絶望の底から這い上がってきたくなるぐらい…。

彼自身、何故自分がそんなことが出来たのか判らないと言った。

だけど、彼にとって彼女が生きる唯一の理由になっていたことだけは違いない。

それだけ彼女は価値ある人物だったというわけだ。

 

「写真を見ますか―?」

「しゃしん?」

 

ヘレナはそう言って車椅子を動かして本棚に向かった。

 

「チョイ、写真って?」

「え、あぁ…見たら判ります。奥さんのそっくりの絵のようなものです」

「あー、ありましたー」

 

そう言って戻ってきたヘレナはある写真を見せてくれた。

 

「社長さんもレベッカちゃんも写真を取ることが嫌いだったんですよね。多分、これが唯一の写真だと思いますー。孤児院が改築される直前にわたしが無理やり言って取った写真ですー。この日に結婚書類も入れたのでその記念に撮ったものですよー…」

「式も挙げてませんでしたけどね」

 

そこには固くなっている一刀の隣に穏やかな表情で微笑んでいる女の人が居た。笑顔はとても儚くて、まるでこの世の人ではないような笑みだった。

真紅のような赤い髪を長く下ろして、また真紅色の瞳に肌は江東の孫家の人たちのように焼けていた。

白くて長いドレスを羽織っている姿が、まるで天女のようだった。

 

……そういえば、彼女、誰かに似ているわね。

…誰だったかしら。

 

「…彼は彼女と夫婦ではなく義妹だと言っていたわ。どうしても皆二人のことを夫婦というの?」

「それは社長は自分にそう言い聞かせているだけです。籍に入れてるだけですけど、実際に二人は夫婦と言っても誰も否定できないぐらい仲が良かったんですからね」

「…判ったわ。聞きたかった話は十分に聞いた。話してくれてありがおう、ヘレナ」

「お礼は結構ですけど、これだけは約束してくださいー」

 

ヘレナさんは笑顔を保ちながらこう言った。

 

「社長さんは私にとってはこの孤児院の皆を守ってくれた命の恩人ですー。私に出来ればそんな人の傷ついた心を癒してあげたいですけどー、昔も今も私にはそれが出来ませーん。」

「……」

「社長さんは人並み以上に脆い人ですー。社長さんの強い所ばかりに捕らわれてそれを忘れちゃうとーまた社長さんを傷つけてしまいますー。そんなことになったらー、わたしはソウソウさんを絶対ゆるさないですからねー」

「…肝に銘じておくわ」

 

彼はレベッカが死んだ悲しみを耐えれず逃げてきた。

私の世界に割り込んできてやった全てのことが彼にとってはただ彼女を忘れるための行動でしかなかった。それだけ彼女は彼にとって大事な存在だった。

そのためなら例えかつての帝国の首都を火の地獄に変えることさえも容易かった。

 

彼女の死が彼を奇人に変えてしまったのか。

それとも元々奇人だった彼が彼女という歯止めを失って元のp姿に戻ったのかは判断がつかない。

だけど彼女は確かに一刀にとってとても大きな存在であった。

私は彼の生き方や考えを尊重する。

だから彼の過去も全て受け入れるつもりよ。

 

私は彼にとって彼女の代わりになってあげようというわけではない。

私や彼は過去を振り向いては生きていけない人たち。

私たちが共に歩むべき世界は今までとはまるで違うものでなければならなかった。

でもそのためには先ず、彼の過去を清算することも確かに必要だった。

 

「レベッカの墓場を見ても良いかしら」

 

 

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『R.I.P(ここに安らかに眠る) Rebecca Hongo』

 

ヘレナは私を孤児院の裏口に案内した。

少し歩くと巨木のしたに墓石がひとつあった。

 

「それじゃあ、私はちょっと失礼しますねー。そろそろ皆のお昼寝する時間なのでー」

「ありがとう」

 

ヘレナが去るとチョイと私だけが墓の前に残った。

 

「ボクも葬式以来に来るのは初めてですね。社長が居なくなった後色々忙しくて…」

 

墓場の前には今さっき置いたような花束が置いてあった。

多分ヘレナや他の孤児院の子供たちが置いていったものだろうと思う。

 

私が知っている一刀は一人になることを好んでいた。

いつも興味という自分以外の何かを望む中で、彼は人が必要以上に自分に近づくことを拒んだ。

人の前で彼はいつも冷たく、無愛想で、自分しか知らない人だった。

そんな彼が愛したたった一人の少女。

 

良くも悪くも、彼女が居たから、今の一刀が居る。

 

「ありがとう、そしてごめんなさい」

 

あなたのおかげで私は今の彼に会うことが出来た、ありがとう。

そして私はこれからまた彼を傷つけるかもしれない、ごめんなさい。

 

だけど、彼は私に約束してくれた。

私の行く道を彼は共に歩んでくれる。

私は一時は彼を失って混沌した渦の中で彷徨った。

もう二度と失うつもりなんてない。

 

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一刀SIDE

 

――あなたが居ない一ヶ月の間株価がどれだけ落ちたか判っているのか?

――この落とし前をどうつけてくれるつもりかね

 

「社長職を辞退する。後は理事会で内定している者が居るだろうから任せよう」

 

――あいも変わらず忌々しいほど生意気な小僧だ。

 

「お前らがその年になって塵に変えようとしていた会社を盤石の上に建て直したのは俺だ。株価が半分になろうが3分の1になろうが俺が来る前よりは良い」

 

――この…

 

「言っておくが例の太陽熱電池の特許は会社ではなく俺個人にある。そこは譲るつもりはないからロイヤルティーはしっかり払わせてもらうぞ」

 

――この件について貴様を職務放棄で訴えることも出来る。

 

「その時はお前たち一人一人が行った汚い蛮行の数々も世にばら撒かれるだろうから共倒れだな。俺に喧嘩を売る勇気があるやつはいつでも受け付けている」

 

――たかが女一人失っただけで職務を投げつけた奴が偉そうに…

 

「…喧嘩を売るのならいつでも受けて立とう。だけど覚えておけ。お前と俺とは同等な立場で始まらない。お前が持っている金、家族、名誉、この世にお前が存在する意味の最後の一塵までなくなるまでお前を許さない事もできる…そして」

 

――…っ!

 

「…How dare you insult my lady(良くも俺の女を侮辱したな)」

 

・・・

 

・・

 

 

家に帰ってくると華琳の姿が居なかった。

チョイに任せていたが、はて……。

 

「……あそこに行ったな」

 

連れに行くか?

いや、そしたら逃れも出来ずあの前に立たなければならない。

 

レベッカ。

一時はお前のおかげでこの世に興味を持てた。

お前の存在がこの世の価値そのものだった時もあった。

 

だけど、結局お前と俺の仲はそういうものではなかった。

人たちが言うようなそんな…愛…のような…高次元の精神的な作用は俺たちの仲にはなかった。

 

ガチャ

どれだけの時間が過ぎただろう。

玄関が開く音がした。

華琳が帰ってきた時、俺はリビングのソファで横になっていた。

 

「…帰ってきてたのね」

 

彼女はそう言ったが俺は答えず寝たフリをした。

 

「…寝ているのかしら」

 

予定より遅くなってしまった。

何人か息の根を止めなければならない奴らが居てな。

 

「今日は二人でどこかに行けそうにないわね。代わりにチョイとデートして来たわよ?」

 

冗談交じりに話している辺り流石と言うべきだろうか。

 

理解できない。

あの場所に行ってきて正気で居られる自身が俺にはないというのに…。

 

「あなたは同情が嫌いって判ってるわ。だから私は何も言わない。だけどね。だからと言ってあなたが辛い時私に頼ってはならないと思わないで頂戴」

 

ソファが凹むのを感じた

華琳が私の寝ているソファに座っていた。

 

「私が陳留刺史になって間もなくして母さまが亡くなったわ。私の所に来る途中に山賊に合って…宝を奪われ死体は河に流されて結局見つけることが出来なかった」

 

………。

 

「あの時、私は母さまの仇をとるために山賊があった山に火をつけたわ。そのおかげでその山で山菜を採っていた無実な人も数名死んだ。だけど私は謝らなかった。後であの場に母さまの遺体もなき墓を作ったのに……その墓に行くと私が怒りにあまりに殺してしまったその無実な人たちが思い立って…それからは墓参りすらしなくなったわ」

 

……。

 

「でもね、私、帰って大体のことが片付いたらまず母さまの墓に行こうと思うわ。行って…そして私が死なせてしまった人たちの遺族にも謝らないとね。私たちは過去を振り向いては行けない人たちよ。でもいつまでも後ろめたくて、振り向きたくてしょうがないようにしてるぐらいなら一度振り向いてよ。あなたには時を操る機械まであるじゃない。誰もあなたにそれが時間の無駄だなんて言わないわ」

 

……。

 

「…疲れたわ…おやすみ」

 

華琳はそう自分が言いたいことだけ言っては、二階に上がるのかと思いきや俺が寝ているソファで横になった。

奥が深いソファは小さな少女もう一人が横になれるぐらいのスペースは十分にあった。

 

「……おやすみ」

 

説明
後編。
明かされてない事実は一刀から聞き出すしかない。
レベッカに対して一刀が抱えている本当の気持ち。
そして真実は…?
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コメント
恋、かな?(伯楽)
赤い瞳に赤い髪、焼けた肌に儚い笑顔・・・一人しかいないな、しかも一刀の身の回りにいた子(デーモン赤ペン)
社長…結構周りから愛されているじゃない…(アーバックス)
一刀とレベッカの過去が明らかになりましたか・・・この後、彼はどうするのでしょうかね?(本郷 刃)
赤い髪、黒い肌、単語 思い浮かぶのはあの娘だけど。。。 二人の関係が気になるところですな。後、一刀がどれくらい壊れているのかも(wasiken)
果たして二人はどんな関係だったのか、そして誰に似てたのだろうか……(山県阿波守景勝)
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真・恋姫†無双 恋姫 一刀 華琳 韓国人 

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